説明

可変容量コンデンサ

【課題】電界印加における誘電率の変化率が大きく、マイクロ波・ミリ波帯域における誘電損失が低い可変容量コンデンサを提供する。
【解決手段】可変容量コンデンサは、一般式(A1Sr1−x)(B1Ti1−x)Oの組成を有する固溶体(ここに、A1はCa、Sr、BiおよびPbよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、B1はTi、Fe、Zrよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。)であり、一方の端組成物質が、ペロブスカイト構造をもつ量子常誘電体であるSrTiOであり、他方の端組成物質が、前記一方の端組成物質であるSrTiOと全率固溶し、キュリー温度Tcが室温よりも高いペロブスカイト構造を有する複合酸化物であり、組成比xが前記固溶体のキュリー温度Tcが室温以下になるように選択された強誘電体材料によって形成された強誘電体層3を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加電圧に応じて、静電容量が変化する可変容量コンデンサに関するものであり、さらに詳細には、誘電率の高い変化率を有するとともに、高周波においても、誘電損失が小さい誘電体膜を備えた可変容量コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
印加電圧に応じて、静電容量が変化する可変容量コンデンサ(バリアブルリアクタ)は、容量Cの変化によるLC共振器の共振周波数の変化を利用した発振周波数を制御可能な電圧制御発振器などの発振器やLCフィルタや、アンテナ、あるいは、マイクロ波・ミリ波帯で使用される移相器としての応用が検討されている。
【0003】
とくに、近年では、5GHz無線LAN、2GHz携帯電話機、地上波ディジタル放送など、移動体通信機器に搭載される無線システムが増加し、各無線システムにおける実装面積が拡大しているため、マルチ無線化の要求に対応する周波数帯域を可変にするためのチューナブルバンドパスフィルタやチューナブルアンテナの開発が進められている。
【0004】
さらに、最近では、無線通信におけるデータ転送速度の高速化、大容量化に対する要求が高まっており、データ転送速度が高いマイクロ波・ミリ波帯の直進性を利用して、アンテナアレイ素子への給電信号の位相を可変容量コンデンサによって制御して、アンテナ放射ビームの形状を伝播環境に対して、所望のように変化させ、通信効率を向上させる技術が注目されている。
【0005】
可変容量素子としては、半導体ダイオードのPN接合での逆バイアス電圧に応じて変化する空乏層の厚み変化を利用した可変容量ダイオードや、MEMS(Micro−Electro Mechanical System)技術を用いて、対向電極間のギャップを静電気力あるいは圧電により機械的に変化させ、容量を制御する電圧制御型RF−MEMS可変容量コンデンサ、直流(DC)バイアス電圧印加により、強誘電体のソフトモードをハード化させて、誘電率を制御する電圧制御型強誘電体可変容量コンデンサなどが知られている。
【0006】
これらの可変容量素子のうち、可変容量ダイオードとしては、半導体としてGaAsをベースとしたものが高周波で使用されているが、誘電損失が高く、価格も高いという問題がある。
【0007】
一方、電圧制御型RF−MEMS可変容量コンデンサは誘電損失が低いという利点を有しているが、製造コストが高く、また、機械的稼動部分があるため、信頼性を確保するためには、ハーメチックパッケージに収容することが必要であり、他の素子との集積化が困難であるという問題がある。
【0008】
また、静電気力を利用したRF−MEMS可変容量コンデンサは制御電圧が数十ボルトと高く、集積小型化が困難であるという問題がある。
【0009】
このため、最近では、これらの可変容量素子に代わる素子として、(Ba,Sr)TiO(BST)などからなる強誘電体層を用いた可変容量コンデンサが提案されている(たとえば、特開平11−3839号公報:特許文献1)。
【0010】
このような強誘電体を電極間の誘電体絶縁層として用いた可変容量コンデンサは、電極間に印加されるDC電圧に応じて、強誘電体層自体の誘電率が大きく変化し、高周波での誘電損失が比較的小さく、簡易なプロセスで作製できるという利点がある。また、素子を集積化することも、パッケージングすることも容易であるだけでなく、強誘電体絶縁層として、膜厚が1μm以下の薄膜を用いることによって、数ボルトという低い制御電圧での動作で、大きな容量変化幅が得られるという利点もある。
【0011】
かかる可変容量コンデンサにおいては、強誘電体層として、たとえば、(Ba,Sr)TiO(BST)が用いられる。(Ba,Sr)TiO(BST)はキュリー温度Tcで相転移し、キュリー温度Tcよりも低温側では、自発分極を持つ正方晶の強誘電相となり、キュリー温度Tcよりも高温側では、自発分極を持たない高対称相である立方晶の常誘電相となる。キュリー温度Tc近傍では、交流電界に応答する光学モードの格子振動(フォノン)の中でも誘電率発現の主体となる最低振動数を有するモードがソフト化し、誘電率が極大を示す。強誘電相では、このソフトフォノンモードが凍結し、自発分極が現われるが、この自発分極は電界によって反転可能であり、誘電率増大に寄与する。
【0012】
しかしながら、自発分極反転の高周波電界に対する追従は、フォノンがテラヘルツ(THz)帯まで追従するのに対し、数GHzの周波数帯までが限界のため、強誘電相における高い誘電率はマイクロ波領域で緩和し、大きな誘電損失を示す。したがって、誘電損失の低減が必要とされるマイクロ波・ミリ波帯における可変容量コンデンサとしては、使用対象となる温度域で常誘電相となるように、組成が調製され、しかも、電界印加時の誘電率の変化率はゼロバイアス電界のときの誘電率増加に伴って、大きくなるため、誘電率が最大となるキュリー温度Tcがこの温度領域近傍になるように設計される。(Ba,Sr)TiO(BST)は、ペロブスカイト構造を有するSrTiOとBaTiOの全率固溶体であり、(BaSr1−x)TiOと表わした場合、そのキュリー温度Tcは、BaとSrとの組成比xにより、SrTiO(x=0)の0K(正確には、0Kでも強誘電体相転移を示さない量子常誘電体)からBaTiO(x=1)の400Kまで、ほぼ線形に変化するため、BaとSrとの比率を変化させることによって、そのキュリー温度Tcを制御することができる。室温近傍の温度での誘電率の変化率は、組成比xが0から増大するにつれ、誘電率とともに大きくなるが、組成比xが強誘電相に入らなくても、誘電損失が急激に大きくなることが知られている。
【0013】
これは、BaTiOの周波数に対する電気感受率の実数成分χ’や虚数成分χ’’を示す図1に示されるように、固溶体の組成比xの値が1に等しい端組成物質であるBaTiOのソフトフォノンモードが、マルチフォノン間の非線形的な強いカップリングにより、電界の振動数がTHz帯のソフトフォノン振動数よりもかなり低いマイクロ波・ミリ波帯で大きな減衰(過減衰)を示すためである。
【0014】
ここに、電気感受率χ’、χ’’は比誘電率εr-1の複素数の実数および虚数であり、εr≒χ’、誘電損失成分(tanδ)は、(χ’’+1)/( χ’+1)の絶対値として表現される。
【0015】
一方、SrTiOの周波数に対する電気感受率の実数成分χ’や虚数成分χ’’を示す図2に示されるように、組成比xの値がゼロに等しいもう一つの端組成物質であるSrTiOのソフトフォノンモードは、テラヘルツ(THz)帯での交流電界に対し、明瞭な共鳴応答をすることが認められ、GHz帯域で誘電損失が少なくなる。
【0016】
したがって、誘電率の変化率と誘電損失とはトレードオフの関係にあるが、デバイスの小型化のためには、0.3<x<0.5の領域において、誘電率の変化率が大きいことが好ましいが、0.3<x<0.5の領域では、BaTiO材料に特有の損失成分が現れ、誘電損失が大きくなってしまい、実用上問題であった。
【0017】
そこで、高周波領域での誘電損失を低減するため、特開2002−329640号公報(特許文献2)は、(BaSr1−x)TiOにおいて、Tiと(Ba,Sr)の比を0.7ないし0.9とし、スパッタ膜粒径を0.5μm以下にして、格子欠陥の少ない可変容量コンデンサの材料を作製することによって、100MHzのような高周波帯域での誘電損失の低減を図ることを提案している。
【0018】
さらに、特開2008−85081号公報(特許文献3)は、(BaSr1−x)TiOにおいて、0≦x<0.7、好ましくは、0.2≦x<0.5に設定した電歪材料と0.5≦x<1、好ましくは、0.7≦x<0.9に設定した圧電材料を組合せて、可変容量コンデンサの材料を作製することによって、誘電損失が低く、かつ、電圧印加に対して、容量の可変性が高い可変容量コンデンサを提案している。
【0019】
特開2008−85081号公報(特許文献3)によれば、圧電材料の組成を有する誘電体層の部分に電圧を印加して、電歪材料の組成を有する誘電体層の部分に加わる応力を変調させることによって、誘電損失が低く、かつ、電圧印加に対して、容量の可変性が低いSrリッチな(BaSr1−x)TiO組成で高い可変性を発現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平11−3839号公報
【特許文献2】特開2002−329640号公報
【特許文献3】特開2008−85081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、特開2002−329640号公報(特許文献2)においては、若干の誘電損失の低減は実現できるが、(BaSr1−x)TiOに本質的な高誘電損失の問題は解決されていない。
【0022】
一方、特開2008−85081号公報(特許文献3)は、高周波領域の誘電特性に言及しておらず、高周波領域における誘電損失が低減された可変容量コンデンサを開示してはおらず、特許文献2と同様に、(BaSr1−x)TiOに本質的な高損失の問題は解決されていない。
【0023】
したがって、本発明は、誘電率の変化率が大きく、マイクロ波・ミリ波帯域における誘電損失が低い可変容量コンデンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、本発明のかかる目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、強誘電体層を備えた可変容量コンデンサにおいて、一般式(A1A21−x )(B1B21−x)Oの組成を有し(ここに、A1およびA2はCa、Sr、BiおよびPbよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、B1およびB2はTi、Fe、Zrよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。)、一方の端組成物質が、全率固溶型のペロブスカイト構造を有し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数近傍の電界に対して共鳴応答し、他方の端組成物質が、全率固溶型のペロブスカイト構造を有し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数付近の電界に対し共鳴応答し、キュリー温度Tcが室温よりも高い固溶体よりなり、組成比xの値が固溶体のキュリー温度Tcが室温以下になるように選択された強誘電体材料によって、可変容量コンデンサの強誘電体層を形成した場合には、電界印加による誘電率の変化率が大きく、マイクロ波・ミリ波帯域における誘電損失の低い可変容量コンデンサを作製することが可能になることを見い出した。
【0025】
図2は、SrTiOの周波数に対する電気感受率の実数成分(χ’)と虚数成分(χ’’)を示すグラフである。
【0026】
SrTiOは、ペロブスカイト構造を有し、キュリー温度Tcが室温よりもはるかに低く、かつ、図2に示されるように、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数近傍の電界に対して共鳴応答する性質を有している。
【0027】
そこで、本発明者は、一般式(A1Sr1−x)(B1Ti1−x)O、すなわち、x(A1B1O)−(1−x)SrTiOの組成を有し、組成比x=0である一方の端組成物質SrTiOが、全率固溶型のペロブスカイト構造を有し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数近傍の電界に対して共鳴応答し、組成比x=1である他方の端組成物質A1B1Oが、全率固溶型のペロブスカイト構造を有し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数付近の電界に対し共鳴応答し、キュリー温度Tcが室温よりも高い固溶体よりなり、固溶体のキュリー温度Tcが室温以下になるように、組成比xの値が選択された強誘電体材料によって、強誘電体層を形成したところ、得られた可変容量コンデンサは、電界印加による誘電率の変化率が大きく、マイクロ波・ミリ波帯域における誘電損失の低い可変容量コンデンサを作製することが可能になることを見い出したものである。
【0028】
本発明はかかる知見に基づくものであり、本発明によれば、本発明の前記目的は、一般式(A1Sr1−x)(B1Ti1−x)O、すなわち、x(A1B1O)−(1−x)SrTiOの組成を有し、一方の端組成物質が、全率固溶型のペロブスカイト構造を有し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数近傍の電界に対して共鳴応答し、他方の端組成物質が、全率固溶型のペロブスカイト構造を有し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数付近の電界に対し共鳴応答し、キュリー温度Tcが室温よりも高い固溶体よりなり、組成比xが前記固溶体のキュリー温度Tcが室温以下になるように選択された強誘電体材料によって、強誘電体層が形成されていることを特徴とする可変容量コンデンサによって達成される。
【0029】
また、(A1Sr1−x)(B1Ti1−x)Oは、x(A1B1O)−(1−x)SrTiOと書き換えることができるが、以下においては、簡易化のために、(ASr1−x)(BTi1−x)Oと記載することがある。
【0030】
本発明において、強誘電体層を形成するために、好ましく用いられる強誘電体材料としては、たとえば、(PbSr1−x)TiO(ここに0<x<0.4である)、(BiSr1−x)(FeTi1−x)O(ここに0<x<0.6である)などが挙げられる。
【0031】
本発明において、強誘電体層を形成するために用いられる強誘電体材料として、より好ましくは、(PbSr1−x)TiO(ここに0<x<0.3である)または(BiSr1−x)(FeTi1−x)O(ここに0<x<0.4である)の組成を有する強誘電体材料が用いられる。
【0032】
(PbSr1−x)TiO(ここに0<x<0.4、好ましくは、0<x<0.3である)系の強誘電材料および(BiSr1−x)(FeTi1−x)O(ここに0<x<0.6、好ましくは、0<x<0.4である)系の強誘電体材料は、結晶化温度が低く、成膜温度を低下させることができるから、熱応力を低減させることができるだけでなく、製造プロセスを簡易化することができ、他の素子との集積化も容易になるという利点を有している。
【0033】
本発明において、支持基板の材料や材質、成膜条件や成膜方法の変化および強誘電体層に加わる二次元応力の変化によって、キュリー温度Tcが変化するため、強誘電材料の組成比xは、そのキュリー温度Tcが室温よりも低く、室温で強誘電材料が常誘電材料として挙動するように決定されればよく、(PbSr1−x)TiOの組成比を示すxの上限値が0.4、好ましくは、0.3に必ずしも限定されるものではなく、(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oの組成比を示すxの上限値も0.6、好ましくは、0.4に必ずしも限定されるものではない。
【0034】
本発明において、可変容量コンデンサのリーク電流の低減および長期信頼性確保のために、微量のMg、Al、Si、V、Mn、Fe、Co、Ni、Y、Nb、Mo、W、Gd、Dy、HoおよびYbよりなる群から選ばれる一種類または二種類以上の元素を強電体材料に添加することが好ましい。
【0035】
本発明において、好ましくは、下部電極層、強誘電体層および上部電極層が支持基板上に積層されている。
【0036】
支持基板を形成するために用いられる材料は、高周波での誘電損失が小さい材料であれば、とくに限定されるものではなく、支持基板として、たとえば、アルミナなどのセラミック基板、ガラス基板、樹脂基板などの絶縁性基板、シリコン、ゲルマニウムなどの半導体基板およびGaAs、InGaAsなどの化合物半導体基板などを用いることができる。
【0037】
本発明において、支持基板の表面には、表面に形成されるSiN、SiOなどの絶縁膜、所望の回路を構成する素子やこれらを被覆する層間絶縁膜、電極層などとの密着性を向上させるための接着剤、たとえば、タンタル、チタン、窒化チタンなどの接着剤の層が形成されていてもよい。
【0038】
本発明において、下部電極層および上部電極層を形成するために用いられる材料は、成膜工程での加熱およびその後の熱処理に耐えることができる電極材料であれば、とくに限定されるものではなく、下部電極層および上部電極層を形成するために用いられる材料としては、たとえば、金、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、銅、ニッケルなどの金属;これらの金属の合金;酸化ルテニウム、酸化イリジウムなどの導電性金属化合物;LaNiOなどのペロブスカイト構造を有する導電性セラミックが挙げられる。さらに、下部電極層および上部電極層を形成するために用いられる材料としては、CaVO、CaCrO、CaFeO、CaRuO、SrVO,SrCrO、SrFeO、SrRuO,LaTiO、LaCoO、LaCuO、LaNiO、La1−xSrVO、La1−xSrMnO、La1−xSrCoO、BaPbO、SrRuO、SrIrO、SrRuO、SrIrOおよび(La1−xSrCuOなどの高温超伝導材料も挙げられる。これらの中でも、高周波領域で使用可能な容量可変素子を形成する場合には、比較的導体損失が少なく、高い仕事関数を有し、高融点の耐酸化性に優れた白金が最も好ましい。
【0039】
本発明において、下部電極層を形成する材料と上部電極層を形成する材料とが同じ材料であることは必要がない。
【0040】
本発明において、強誘電体層は、上述の強誘電体材料によって、下部電極層上に薄膜状に形成される。強誘電体層は、スパッタリング法、パルスレーザ堆積法、印刷法、蒸着法、ゾルゲル法、MOCVD法、MOD法、エアロゾル堆積法、ナノシート堆積法など、公知の方法によって形成することができる。
【0041】
本発明において、強誘電体層は、一層の強誘電体薄膜により構成されていても、二層以上の強誘電体薄膜により構成されていてもよい。強誘電体層を二層以上の強誘電体薄膜によって構成する場合には、各強誘電体薄膜の組成は同一でも、段階的または連続的に組成を変化させてもよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明にしたがって、可変容量コンデンサの強誘電体層を形成することによって、電界印加による誘電率の変化率が大きく、マイクロ波・ミリ波帯域における誘電損失の低い可変容量コンデンサを作製することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、BaTiOの周波数に対する実数成分及び虚数成分の電気感受率を示すグラフである。
【図2】図2は、SrTiOの周波数に対する実数成分及び虚数成分の電気感受率を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施態様にかかる可変容量コンデンサの略断面図である。
【図4】図4は、組成比xを変化させたときの(PbSr1−x)TiO(ここに0<x<0.5である)のキュリー温度Tcの変化を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1、2および比較例1で測定をした0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率と、測定周波数10GHzでの比誘電率との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例1、2および比較例1で測定をした0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率と、測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例3、4および比較例2で測定をした0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率と、測定周波数10GHzでの比誘電率との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例3、4および比較例2で測定をした0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率と、測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、比較例3ないし8で測定をした0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率と、測定周波数10GHzでの比誘電率との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、比較例3ないし8で測定をした0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率と、測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図3は、本発明の好ましい実施態様にかかる可変容量コンデンサの略断面図である。
【0045】
図3に示されるように、本発明の好ましい実施態様にかかる可変容量コンデンサは基板1と、基板1上に積層された下部電極層2、強誘電体層3および上部電極層4を備えている。
【0046】
基板1は、たとえば、アルミナによって形成され、アルミナ製の基板1の表面には、スパッタリング法によって、白金膜が形成され、白金膜が所望の形状に加工されて、下部電極層2が形成されている。
【0047】
図3に示されるように、下部電極層2の表面には、スパッタリング法によって、強誘電体層よりなる強誘電体層3が形成されている。
【0048】
本実施態様においては、強誘電体層3は、(PbSr1−x)TiO(ここに0<x<0.5である)によって形成されており、本発明者の研究によれば、強誘電体層3が(PbSr1−x)TiO(ここに0<x<0.5である)によって形成された可変容量コンデンサは、誘電率の変化率が大きく、マイクロ波・ミリ波帯域における誘電損失が低いという好ましい特性を有していることが判明している。
【0049】
図4は、組成比xを変化させたときの(PbSr1−x)TiOのキュリー温度Tcの変化を示すグラフである。
【0050】
図4に示されるように、(PbSr1−x)TiOのキュリー温度Tcは、組成比xに対して線形に変化し、x=0.35であるときの(PbSr1−x)TiOのキュリー温度Tcは約25℃であるから、組成比xを、0<x<0.4であるように決定すれば、(PbSr1−x)TiOのキュリー温度Tcを室温以下にすることができる。
【0051】
このように、固溶体(PbSr1−x)TiOの組成比xが、0<x<0.4であるときに、強誘電体層3を形成する(PbSr1−x)TiOのキュリー温度Tcが、室温以下になり、かかる固溶体によって強誘電体層3が形成された可変容量コンデンサは、誘電率の変化率が大きく、マイクロ波・ミリ波帯域における誘電損失が低いという特性を有していることが、本発明者によって実験的に確認されている。
【0052】
図3に示されるように、強誘電体層3の表面には、スパッタリング法によって、白金膜が形成され、白金膜が所望の形状に加工されて、上部電極層4が構成されている。
【0053】
上述のように、本実施態様にかかる可変容量コンデンサは、誘電率の変化率が大きく、マイクロ波・ミリ波帯域における誘電損失が低いという所望の特性を有している。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の効果をより一層明瞭なものにするため、実施例および比較例を掲げる。
【0055】
実施例1
まず、厚さ400μmのアルミナ製の基板を用意した。
【0056】
次いで、アルミナ製の基板の表面上に、スパッタリング法によって、100nmの厚さを有する白金膜を形成し、エッチング法によって、白金膜を所定の形状に加工して、下部電極層を形成した。
【0057】
さらに、パルスレーザ堆積法の(PbSr1−x)TiOターゲットとして、目的の組成比xに対して、Pb組成比が1.2倍のターゲットを作製した。ここに、Pbリッチにしたのは、誘電体薄膜の成膜時に、Pbの蒸発が起こるためであった。
【0058】
こうして作製したターゲットを用いて、酸素雰囲気圧を100mtorrに設定し、成膜温度を580℃に設定して、320mJ、6Hzの条件で、ArFエキシマレーザをターゲットに照射し、(PbSr1−x)TiOの組成を有する薄膜を堆積させた。ここに、堆積させた薄膜の組成比xを、強誘電体相転移温度であるキュリー温度Tcが室温以下になる0.1とし、膜厚を100nmとした。
【0059】
こうして得られた薄膜をエッチングによって、所定の形状に加工して、誘電体薄膜を形成した。
【0060】
次いで、誘電体薄膜の表面上に、スパッタリング法によって、100nmの厚さを有する白金膜を形成し、エッチング法によって、白金膜を所定の形状に加工して、上部電極層を形成した。
【0061】
このようにして得られたMetal−Insulator−Metal(MIM)構造を有する積層体を、温度が600℃に設定された酸素雰囲気中で、30分にわたって熱処理して、可変容量素子サンプル#1を作製した。
【0062】
さらに、こうして作製された可変容量素子サンプル#1の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0063】
測定結果は図5に示されている。
【0064】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0065】
測定結果は図6に示されている。
【0066】
実施例2
誘電体薄膜の組成比xを0.2とし、膜厚を120nmした点を除き、実施例1と同様にして、可変容量素子サンプル#2を作製した。
【0067】
さらに、こうして作製された可変容量素子サンプル#2の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0068】
測定結果は図5に示されている。
【0069】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0070】
測定結果は図6に示されている。
【0071】
比較例1
(PbSr1−x)TiOターゲットにおいて、組成比xを0.0として、SrTiOの組成を有する薄膜を堆積させた点を除き、実施例1と同様にして、可変容量素子比較サンプル#1を作製した。
【0072】
さらに、こうして作製された可変容量素子比較サンプル#1の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0073】
測定結果は図5に示されている。
【0074】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0075】
測定結果は図6に示されている。
【0076】
図5に示されるように、ターゲットの組成(PbSr1−x)TiOにおいて、組成比xを変化させたときの比誘電率εと0.5MV/cmの電界を印加時の容量変化率とはほぼ比例関係にあることが判明した。
【0077】
図6から、たとえば、キュリー温度Tcが室温よりも十分に低い組成比xが0.2の組成においても、0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率が72.6%で、測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)が2.03%であり、実施例1で作製した可変容量素子サンプル#1および実施例2で作製した可変容量素子サンプル#2が高い容量変化率を有し、かつ、誘電損失が低いことが判明した。
【0078】
実施例3
パルスレーザ堆積法のターゲットとして、(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oターゲットを用い、組成比xを0.15とした点を除き、実施例1と同様にして、可変容量素子サンプル#3を作製した。誘電体薄膜の成膜時の成膜温度は580℃に設定し、得られた誘電体薄膜の膜厚は135nmであった。
【0079】
こうして作製された可変容量素子サンプル#3の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0080】
測定結果は、図7に示されている。
【0081】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0082】
測定結果は、図8に示されている。
【0083】
実施例4
パルスレーザ堆積法のターゲットとして、(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oターゲットを用い、組成比xを0.25とした点を除き、実施例1と同様にして、可変容量素子サンプル#4を作製した。誘電体薄膜の成膜時の成膜温度は580℃に設定し、得られた誘電体薄膜の膜厚は150nmであった。
【0084】
こうして作製された可変容量素子サンプル#4の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0085】
測定結果は、図7に示されている。
【0086】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0087】
測定結果は、図8に示されている。
【0088】
比較例2
パルスレーザ堆積法のターゲットとして、組成(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oを用い、組成比xを0とした点を除き、実施例1と同様にして、可変容量素子比較サンプル#2を作製した。誘電体薄膜の成膜時の成膜温度は580℃に設定し、得られた誘電体薄膜の膜厚は120nmであった。
【0089】
こうして作製された可変容量素子比較サンプル#2の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0090】
測定結果は、図7に示されている。
【0091】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0092】
測定結果は、図8に示されている。
【0093】
図7に示されるように、(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oにおいて、組成比xを変化させたときの誘電率と0.5MV/cmの電界を印加時の容量変化率とはほぼ比例関係にあることが判明した。
【0094】
一方、図8から、たとえば、キュリー温度Tcが室温よりも十分に低い組成比xが0.25の組成においても、0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率が47.5%で、測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)が0.93%であり、実施例3で作製した可変容量素子サンプル#3および実施例4で作製した可変容量素子サンプル#4が高い容量変化率を有し、かつ、誘電損失が低いことが判明した。
【0095】
比較例3
パルスレーザ堆積法ターゲット(BaSr1−x)TiOの組成比xを0.0としたパルスレーザ堆積法のターゲットを作製した。
【0096】
酸素雰囲気圧を100mtorrに設定し、成膜温度を750℃に設定して、280mJ、6Hzの条件で、ArFエキシマレーザを、これらのターゲットに、それぞれ、照射し、(BaSr1−x)TiOの組成を有する誘電体薄膜を120nmの膜厚を有するように形成した点を除き、実施例1と同様にして、可変容量素子比較サンプル#3を作製した。
【0097】
こうして作製された可変容量素子比較サンプル#3の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0098】
測定結果は、図9に示されている。
【0099】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0100】
測定結果は、図10に示されている。
【0101】
比較例4
パルスレーザ堆積法ターゲット(BaSr1−x)TiOの組成比xを0.2としたパルスレーザ堆積法のターゲットを作製した点を除き、比較例3と同様にして、可変容量素子比較サンプル#4を作製した。
【0102】
こうして作製された可変容量素子比較サンプル#4の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0103】
測定結果は、図9に示されている。
【0104】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0105】
測定結果は、図10に示されている。
【0106】
比較例5
パルスレーザ堆積法ターゲット(BaSr1−x)TiOの組成比xを0.4としたパルスレーザ堆積法のターゲットを作製した点を除き、比較例3と同様にして、可変容量素子比較サンプル#5を作製した。
【0107】
こうして作製された可変容量素子比較サンプル#5の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0108】
測定結果は、図9に示されている。
【0109】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0110】
測定結果は、図10に示されている。
【0111】
比較例6
パルスレーザ堆積法ターゲット(BaSr1−x)TiOの組成比xを0.6としたパルスレーザ堆積法のターゲットを作製した点を除き、比較例3と同様にして、可変容量素子比較サンプル#6を作製した。
【0112】
こうして作製された可変容量素子比較サンプル#6の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0113】
測定結果は、図9に示されている。
【0114】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0115】
測定結果は、図10に示されている。
【0116】
比較例7
パルスレーザ堆積法ターゲット(BaSr1−x)TiOの組成比xを0.8としたパルスレーザ堆積法のターゲットを作製した点を除き、比較例3と同様にして、可変容量素子比較サンプル#7を作製した。
【0117】
こうして作製された可変容量素子比較サンプル#7の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0118】
測定結果は、図9に示されている。
【0119】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0120】
測定結果は、図10に示されている。
【0121】
比較例8
パルスレーザ堆積法ターゲット(BaSr1−x)TiOの組成比xを1.0としたパルスレーザ堆積法のターゲットを作製した点を除き、比較例3と同様にして、可変容量素子比較サンプル#8を作製した。
【0122】
こうして作製された可変容量素子比較サンプル#8の上部電極層と下部電極層との間にバイアス電界を印加し、室温で、測定周波数10GHzでの誘電率および0.5MV/cmの電界印加時の容量変化率、すなわち、[0Vでの容量−0.5MV/cmの電界印加時の容量]/(0Vでの容量)×100(%)を測定した。
【0123】
測定結果は、図9に示されている。
【0124】
さらに、容量変化率と室温における測定周波数10GHzでの誘電損失(tanδ)との関係を測定した。
【0125】
測定結果は、図10に示されている。
【0126】
パルスレーザ堆積法のターゲットとして、(PbSr1−x)TiOの組成のターゲットを用いた実施例1および2の場合には、図5に示されるように、比誘電率が500を越えても、比誘電率が高くなるにしたがって、容量変化率がほぼ線形に増大し、また、パルスレーザ堆積法のターゲットとして、(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oの組成のターゲットを用いた実施例3および4の場合には、図7に示されるように、比誘電率が500を越えても、比誘電率が高くなるにしたがって、容量変化率がほぼ線形に増大することが認められている。これに対して、比較例3ないし8から、パルスレーザ堆積法のターゲットの組成(BaSr1−x)TiOの組成比xを0から1.0まで変化させたときには、図9に示されるように、組成比xが0.6以下では、組成比xが大きくなるにしたがって、容量変化率は高くなる一方で、組成比xが0.8以上になると、すなわち、比誘電率が500を越えると、容量変化率が飽和することが判明した。
【0127】
また(Pb、Sr)TiO系の誘電体および(Bi,Sr)(Fe,Ti)O系の誘電体は、いずれも(Ba,Sr)系の誘電体に比して、結晶化温度が低く、成膜温度を低下させることができるので、熱応力を低減できるとともに、プロセス負荷が小さく、他素子との集積化も行いやすく、とくに、好ましいことがわかった。
【0128】
図6、図8および図10に示されるように、パルスレーザ堆積法のターゲットとして、(PbSr1−x)TiOの組成のターゲットを用いた場合の容量変化率および(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oの組成のターゲットを用いた場合の容量変化率と、(BaSr1−x)TiOの組成のターゲット用いた場合の容量変化率がほぼ同じであるときは、(PbSr1−x)TiOの組成のターゲットを用いた場合の誘電損失および(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oの組成のターゲットを用いた場合の誘電損失の方が、(BaSr1−x)TiOの組成のターゲットを用いた場合の誘電損失よりも低いことが判明した。
【0129】
本発明は、以上の実施態様および実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0130】
たとえば、前記実施態様および前記実施例においては、可変容量コンデンサは、アルミナ製の基板上に、白金の下部電極層、強誘電体層および白金の上部電極層がこの順に積層されて形成されているが、本発明の可変容量コンデンサは、このような構成を有するものに限られるのではなく、絶縁された基板上に、強誘電体層および一対の櫛型電極がこの順に積層された可変容量コンデンサにも本発明は適用可能である。この場合には、容量は一対の櫛型電極間の直流印加電圧に応じて変化する。
【0131】
また、前記実施態様および前記実施例においては、強誘電体層3が(PbSr1−x)TiOの組成を有する強誘電体材料によって形成されているが、強誘電体層3を(PbSr1−x)TiOの組成を有する強誘電体材料によって形成することは必ずしも必要でなく、強誘電体層3を(BiSr1−x)(FeTi1−x)Oの組成を有する強誘電体材料によって形成することもできるし、さらには、全率固溶型のペロブスカイト構造を有し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数近傍の電界に対して共鳴応答し、(A1Sr1−x)(B1Ti1−x)O、すなわち、x(A1B1O)−(1−x)SrTiOの組成を有する一方の端組成物質と、全率固溶型のペロブスカイト構造を有し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数付近の電界に対し共鳴応答し、キュリー温度Tcが室温よりも高い他方の端組成物質との固溶体よりなり、組成比xが前記固溶体のキュリー温度Tcが室温以下になるように選択された強誘電体材料によって、強誘電体層3を形成することもできる。
【符号の説明】
【0132】
1 基板
2 下部電極層
3 強誘電体層
4 上部電極層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(A1Sr1−x)(B1Ti1−x)Oの組成を有する固溶体(ここに、A1はCa、Sr、BiおよびPbよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、B1はTi、Fe、Zrよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。)であり、一方の端組成物質が、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数近傍の電界に対して共鳴応答し、ペロブスカイト構造をもつ量子常誘電体であるSrTiOであり、他方の端組成物質が、前記一方の端組成物質であるSrTiOと全率固溶し、最低振動数の光学フォノンモードがフォノン振動数付近の電界に対し共鳴応答し、キュリー温度Tcが室温よりも高いペロブスカイト構造を有する複合酸化物であり、組成比xが前記固溶体のキュリー温度Tcが室温以下になるように選択された強誘電体材料によって、強誘電体層が形成されていることを特徴とする可変容量コンデンサ。
【請求項2】
前記他方の端組成物質が室温よりも高いキュリー温度Tcを有していることを特徴とする請求項1に記載の可変容量コンデンサ。
【請求項3】
前記強誘電体材料の組成が、(PbSr1−x)TiO(ここに0<x<0.4である)ことを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量コンデンサ。
【請求項4】
前記強誘電体材料の組成が、(PbSr1−x)TiO(ここに0<x<0.3である)ことを特徴とする請求項3に記載の可変容量コンデンサ。
【請求項5】
前記強誘電体材料の組成が、(BiSr1−x)(FeTi1−x)O(ここに0<x<0.6である)ことを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量コンデンサ。
【請求項6】
前記強誘電体材料の組成が、(BiSr1−x)(FeTi1−x)O(ここに0<x<0.4である)ことを特徴とする請求項5に記載の可変容量コンデンサ。
【請求項7】
基板と、前記基板上に積層された下部電極層、前記強誘電体層および上部電極層を備えていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の可変容量コンデンサ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−156386(P2012−156386A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15490(P2011−15490)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)