説明

可変容量流体継手

【課題】伝達可能なトルク容量を大幅に調整・変更することができ、且つ構造が簡潔な可変容量流体継手を提供する。
【解決手段】トルクコンバータ1のクラッチ2を構成するクラッチピストン29にポンプインペラ8を取付けると共に、トルクコンバータ1のタービン羽根車22のタービンハブ27にタービンライナ9を取付けて、フルードカップリング3を構成し、クラッチ2を締結したときにはフルードカップリング3によるトルク増幅作用をトルクコンバータ1自体のトルク増幅作用に重畳してトルク容量を大幅に調整・変更できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータ等の流体継手の容量を可変とする可変容量流体継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような可変容量流体継手としては、例えばトルクコンバータ等の流体継手を構成するタービン羽根車を、内輪に相当する内側ポンプ半体と外輪に相当する外側ポンプ半体とに分割し、その内側ポンプ半体と外側ポンプ半体との間に、両者を連結可能な遠心クラッチを介装することにより、ロックアップクラッチを開放して入出力間に流体継手を介在させるときには、内側及び外側ポンプ半体の一方を休止させてポンプ羽根車のポンプ機能を半減し、ロックアップクラッチを締結して入出力間を直結するときには、内側及び外側ポンプ半体を連結してポンプ羽根車のポンプ機能をフルに発揮するようにして、トルク容量を可変とするものがある(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−150597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の可変容量流体継手では、ポンプ羽根車を外側ポンプ半体と外側ポンプ半体とに分割し、更に両者の間に遠心クラッチを介装する構成となっていたため、構造が複雑であるという問題がある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、構造が簡潔で、且つ伝達可能なトルク容量を大幅に変更可能な可変容量流体継手を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に係る可変容量流体継手は、ポンプ羽根車とタービン羽根車とを対向して、それらの間に作動油の循環回路を形成し、前記ポンプ羽根車に前記タービン羽根車を覆うカバーを連設し、タービン羽根車のハブから主軸に回転を伝達する流体継手において、前記カバーと前記タービン羽根車の間にクラッチピストンを設け、前記クラッチピストンと前記カバーとでクラッチを構成し、前記クラッチピストンと前記タービン羽根車との間で動力を伝達する第2の流体継手を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
而して、本発明のうち請求項1に係る可変容量流体継手によれば、カバーとタービン羽根車の間にクラッチピストンを設け、クラッチピストンとカバーとでクラッチを構成し、クラッチピストンとタービン羽根車との間で動力を伝達する第2の流体継手を備えたことにより、クラッチピストンによってカバーとタービン羽根車とを直結状態にする際には、流体継手本来の伝達トルク容量に、第2の流体継手の伝達トルク容量が付加されることになり、これによりトルク容量を大幅に変更することができると共に、第2の流体継手を設けるだけであるために構造が簡潔になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の可変容量流体継手の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の可変容量流体継手をクラッチ2付きのトルクコンバータ1に適用したものである。図1中の符号21は、トルクコンバータ1を構成するポンプ羽根車、図中の符号22は、同じくトルクコンバータ1を構成するタービン羽根車、図中の符号23は、同じくトルクコンバータ1を構成するステータである。ポンプ羽根車21は、トルクコンバータカバー24を介してエンジンに接続され、タービン羽根車22は、図示されていない変速機のインプットシャフト(主軸)に接続されている。また、ステータ23は、ワンウエイクラッチ25を介して固定壁に接続されている。勿論、トルクコンバータカバー24の内部には作動油が封入されており、対向配置されたポンプ羽根車21とタービン羽根車22と(ステータ23と)の間には、図示しない作動油の循環回路が形成されている。従って、このトルクコンバータでは、エンジンからの回転トルクが、図示されていないドライブプレートからトルクコンバータカバー24に伝達され、ポンプ羽根車21から作動油を介してステータ23、タービン羽根車22に伝達される。このとき、ポンプ羽根車21とタービン羽根車22との差動によって増大された回転トルクがタービン羽根車22に伝達され、タービン羽根車ハブ27を介して図示しない変速機インプットシャフトに伝達される。なお、図中の符号20は、図示されていないドライブプレートをトルクコンバータカバー24に取付けるためのドライブプレート止めネジである。
【0007】
一方、クラッチ2は、タービン羽根車ハブ27から径方向に延設されたピストンプレート(クラッチピストン)29と、その径方向外側に取付けられたフェーシング30と、前記トルクコンバータカバー24とで構成される。従って、タービン羽根車22とピストンプレート29との間の差動油圧を大きくすると、フェーシング30がトルクコンバータカバー24に強く押し付けられ、ピストンプレート29とトルクコンバータカバー24とが直結状態となる。その結果、エンジントルクは、トルクコンバータカバー24からフルードカップリング3に伝達され、このフルードカップリング3からタービン羽根車ハブ27、インプットシャフトの順に伝達される。
【0008】
フルードカップリング3は、ピストンプレート29に取付けられたポンプインペラ8と、これに対向するように配設され且つタービン羽根車ハブ27に取付けられたタービンライナ9とで構成される。このうち、ポンプインペラ8は、半割の浮き輪状のシェルインペラ4と、その内部に多数配設されたブレードインペラ6とで構成され、タービンライナ9は、前記シェルインペラ4に対向配置された半割の浮き輪状のシェルタービン5と、その内部に多数配設されたブレードタービン7とで構成される。従って、前記ポンプインペラ8とタービンライナ9との間には、作動油の循環回路が形成される。このフルードカップリング3は、前記トルクコンバータ1のような大幅なトルク増幅作用はないが、入出力間、つまりポンプインペラ8とタービンライナ9との間に回転速度差があるときには、その速度比に応じたトルク増幅作用がある。
【0009】
従って、クラッチ2が非締結の状態では、前述したトルクコンバータ1本来の差動によって、図2に示すような入出力間の速度比に対する入力トルク容量係数KTCが発現する。これに対し、クラッチ2が締結されると、図2に示す前記フルードカップリング3の入出力間の速度に対する入力トルク容量係数KFCが、前記トルクコンバータ1本来の入出力間の速度比に対する入力トルク容量係数KTCに加わり、両者が合成された最大入力トルク容量係数KTOTAL を得ることが可能となる。つまり、クラッチ2への作動油圧を適当に制御することにより、フルードカップリング3を含む本実施形態のトルクコンバータでは、例えば図2のトルクコンバータの入力トルク容量係数KTCから最大入力トルク容量係数KTOTAL まで自在に且つ大幅にトルク容量を変更・調整することが可能となる。勿論、構成としては、トルクコンバータ1のような流体継手に、第2の流体継手としてフルードカップリング3を付加しただけであるから、簡潔な構造とすることができる(以上、請求項1に係る発明の効果)。
【0010】
また、ピストンプレート(クラッチピストン)29にポンプインペラ8を接続し、タービン羽根車ハブ(タービン羽根車)27にタービンライナ9を接続し、それらによって第2の流体継手であるフルードカップリング3を構成したので、構造が極めて簡潔であり、動力の伝達も容易になる(請求項2に係る発明の効果)。
【0011】
図3には、本発明の可変容量流体継手の第2実施形態を示す。本実施形態の基本的な構成は、前記第1実施形態のトルクコンバータ1と同じであり、同様にクラッチ2及びフルードカップリング3を備えるが、前記第1実施形態と異なり、フルードカップリング3を構成するポンプインペラ8及びタービンライナ9が、トルクコンバータ1を構成するタービン羽根車22の外径部に配設されている。これにより、フルードカップリング3を大径化してトルク容量を増大することができるので、全体としてのトルク容量の変更・調整量を増大することができると共に、一般に、トルクコンバータ1を構成するタービン羽根車22の外径部はすぼんでいるので、この部分にフルードカップリング3を配設することにより、スペース効率を向上して、例えば軸線方向の寸法を短縮することなどが可能となる(以上、請求項3に係る発明の効果)。
【0012】
図4には、本発明の可変容量流体継手の第3実施形態を示す。本実施形態の基本的な構成は、前記第1及び第2実施形態のトルクコンバータ1と同じであり、同様にクラッチ2やフルードカップリング3を備える。本実施形態は、第1実施形態と第2実施形態との組合せのようなものであり、前記第1実施形態のポンプインペラ8とタービンライナ9との組合せである内径側のフルードカップリング3の外側に、第2実施形態のポンプインペラ8とタービンライナ9との組合せである外径側のフルードカップリング10を直列に接続している。外径側のフルードカップリング10は、内径側のフルードカップリング3と、シェルインペラ4やシェルタービン5を共用し、その内側に、独自のブレードインペラ6及びブレードタービン7を備える。この実施形態では、内径側のフルードカップリング3で構成される第2の流体継手と直列に、外径側のフルードカップリング10で構成される第3の流体継手を配設したことにより、全体としてのトルク容量の変更・調整量を増大することができる(請求項4に係る発明の効果)。
【0013】
なお、前記各実施形態では、本発明の可変容量流体継手をクラッチ付きトルクコンバータに適用した場合についてのみ詳述したが、本発明の可変容量流体継手は、クラッチが設けられた流体継手であれば、如何様なものにも適用可能であり、例えばクラッチ付きフルードカップリングにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の可変容量流体継手の第1実施形態を示すクラッチ付きトルクコンバータの断面図である。
【図2】図1のクラッチ付きトルクコンバータによるトルク容量の説明図である。
【図3】本発明の可変容量流体継手の第2実施形態を示すクラッチ付きトルクコンバータの断面図である。
【図4】本発明の可変容量流体継手の第2実施形態を示すクラッチ付きトルクコンバータの断面図である。
【符号の説明】
【0015】
1はトルクコンバータ
2はクラッチ
3、10はフルードカップリング
4はシェルインペラ
5はシェルタービン
6はブレードインペラ
7はブレードタービン
8はポンプインペラ
9はタービンライナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ羽根車とタービン羽根車とを対向して、それらの間に作動油の循環回路を形成し、前記ポンプ羽根車に前記タービン羽根車を覆うカバーを連設し、タービン羽根車のハブから主軸に回転を伝達する流体継手において、前記カバーと前記タービン羽根車の間にクラッチピストンを設け、前記クラッチピストンと前記カバーとでクラッチを構成し、前記クラッチピストンと前記タービン羽根車との間で動力を伝達する第2の流体継手を備えたことを特徴とする可変容量流体継手。
【請求項2】
前記第2の流体継手は、前記クラッチピストンに接続されるポンプインペラと、前記タービン羽根車に接続されるタービンライナとで構成されることを特徴とする請求項1に記載の可変容量流体継手。
【請求項3】
前記第2の流体継手を、前記タービン羽根車の外径部に配設したことを特徴とする請求項1又は2に記載の可変容量流体継手。
【請求項4】
前記第2の流体継手に、直列に、第3の流体継手を設けたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の可変容量流体継手。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−138385(P2006−138385A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328092(P2004−328092)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)