説明

可変遅延装置

【課題】組み立て後の調整が不要な可変遅延装置を提供すること。
【解決手段】円周方向に伝送線路パターンが形成された2枚のプリント基板を互いの伝送線路パターンが接触するように重ね合わせ、一方のプリント基板を回転させて伝送線路長を調整するように構成された可変遅延装置において、前記重ね合わせた2枚のプリント基板を押圧するバネを設けたことを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可変遅延装置に関し、詳しくは、マイクロ波領域で用いられる回転型の可変遅延装置の改善に関するものである。
【0002】
従来から、マイクロ波領域で用いられる可変遅延装置として、図3に示すように、円周方向に伝送線路パターンが形成された低誘電率を有する2枚のプリント基板を互いの伝送線路パターンが接触するように重ね合わせ、一方のプリント基板を回転させて伝送線路長を調整するように構成されたものがある。
【0003】
図3において、第1のプリント基板10は円形に形成されていて、コネクタ部となる突出部11と12が形成されるとともに、一端が突出部11と12に位置するようにして円弧状の伝送線路パターン13と14が形成されている。
【0004】
第2のプリント基板20も円形に形成されていて、一方の面には全面にアースパターンが形成されている。他方の面には、その面を第1のプリント基板10の伝送線路パターン13,14が形成された面と重ね合わせたときにそれらの伝送線路パターン13,14と重なり合うように、円弧状の伝送線路パターン22,23が形成されている。これら伝送線路パターン22,23の一端は開放され、他端はパターン22,23が連続するように連結パターン24で接続されている。
【0005】
これら第1のプリント基板10と第2のプリント基板20を、図3に示すようにそれぞれの伝送線路パターン13,14と22,23が対向するように重ね合わせて、第2のプリント基板20を第1のプリント基板10に対して時計方向または反時計方向に回転させることにより、伝送線路パターン13,14と伝送線路パターン22,23は電気的に接続されるとともに連結パターン24の位置が変化し、突出部11と12の間の伝送線路長は長くなったり短くなって、所望の遅延時間を設定できる。
【0006】
特許文献1には、図3のような可変遅延装置の構成例が記載されている。
【0007】
【特許文献1】実開平2−103905号公報
【0008】
ところで、このような従来の可変遅延装置では、第1のプリント基板10と第2のプリント基板20を重ね合わせて一体化するのにあたり、伝送線路パターン13,14と伝送線路パターン22,23が安定した状態で電気的に接続されるとともに、第2のプリント基板20を第1のプリント基板10に対して時計方向または反時計方向に回転できるようにするために、複数枚のスペーサを挟み込むことが行われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらスペーサと第1のプリント基板10と第2のプリント基板20を重ね合わせて、伝送線路パターン13,14と伝送線路パターン22,23が安定した状態で電気的に接続されるとともに、第2のプリント基板20を第1のプリント基板10に対して時計方向または反時計方向に回転できるように一体化するためには、組み立て後の微妙な調整が必要であった。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するものであり、組み立て後の調整が不要な可変遅延装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
円周方向に伝送線路パターンが形成された2枚のプリント基板を互いの伝送線路パターンが接触するように重ね合わせ、一方のプリント基板を回転させて伝送線路長を調整するように構成された可変遅延装置において、
前記重ね合わせた2枚のプリント基板を押圧するバネを設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の可変遅延装置において、
前記バネは、円周方向に沿って等しい角度間隔で設けられた複数のコイルバネであることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、
円弧状の伝送線路パターンが形成された円形の主平面を有する固定プリント基板と円弧状の伝送線路パターンが形成された円形の主平面を有する回転プリント基板が互いの伝送線路パターンが接触するように重ね合わせて下部ケースに収納され、
これら重ね合わせた2枚のプリント基板を押圧するバネがスペーサを介して前記下部ケースに収納され、
前記下部ケースに上部ケースが重ね合わせて締結固定されたことを特徴とする可変遅延装置である。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の可変遅延装置において、
前記下部ケースには前記重ね合わせた2枚のプリント基板を収納するほぼ円形の収納部が形成され、この収納部の内周の一部は、前記回転プリント基板の回転範囲を規制するストッパを構成するように段付の大径部として形成され、
前記回転プリント基板の円形の主平面の一部には、前記下部ケースの段付大径部に嵌め合って前記回転プリント基板の回転範囲を規制するストッパを構成するように突出部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、あらかじめバネとして所定の弾性力を有するものを選定しておくことにより、組み立て後の調整は不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示す組立説明図である。本発明に係る可変遅延装置は、下部ケース30と、固定プリント基板40と、回転プリント基板50と、スペーサ60と、バネ70と、上部ケース80と、ネジ90とで構成されている。
【0017】
下部ケース30は、金属ブロックが切削加工されたものであって、固定プリント基板40の主平面41が嵌め合わされるほぼ円形に切削された収納部31、固定プリント基板40の入出力用突出辺42,43が嵌め合わされる収納部31に連通するように切削された切欠部32,33、回転プリント基板50に設けられた回転軸52の端部を支持する軸穴34、固定ネジ91〜94が螺合されるネジ穴35〜38が設けられている。また、収納部31の内周の一部は、回転プリント基板50の回転範囲を規制するストッパを構成するように、段付の大径部39として形成されている。
【0018】
固定プリント基板40は、フッ素樹脂基板のような低誘電率を有するものであり、下部ケース30の収納部31に嵌め合うように形成された円形の主平面41と、主平面41から直径方向に突出するとともに互いに直交するように形成された矩形の入出力用突出辺42,43とで構成されている。
【0019】
主平面41の一方の面の外周にはリング状のグラウンドパターン44が形成されるとともに、このグラウンドパターン44の一部は入出力用突出辺42,43にも延長するように形成されている。これら主平面41および入出力用突出辺42,43に形成されているグラウンドパターン44は、他方の面の全面に形成されている図示しないグラウンドパターンと図示しない多数のスルーホールを介して電気的に接続されている。
【0020】
また、主平面41の一方の面には、一端が入出力用突出辺42,43に位置するようにして円弧状の伝送線路パターン45,46が形成されている。入出力用突出辺42,43には、図示しないケーブルを接続するためのコネクタ47,48が設けられている。そして主平面41の中央部分には下部ケース30の軸穴34と一致するように回転プリント基板50に設けられた回転軸51の端部を支持する軸穴49が設けられている。
【0021】
回転プリント基板50も、フッ素樹脂基板のような低誘電率を有するものであり、下部ケース30の収納部31に回転可能に嵌め合うように形成された円形の主平面51と、主平面51の中央部分に挿入固着された回転軸52とで構成されている。
【0022】
主平面51の固定プリント基板40と対向する面の外周には固定プリント基板40のリング状のグラウンドパターン44と重なり合うようにリング状のグラウンドパターン53が形成されている。
【0023】
また、主平面51の固定プリント基板40と対向する面には、固定プリント基板40の円弧状の伝送線路パターン45,46と重なり合うように、円弧状の伝送線路パターン54,55が形成されている。これら伝送線路パターン54,55の一端は開放され、他端はパターン54,55が連続するように連結パターン56で接続されている。
【0024】
そして、主平面51の一部には、下部ケース30の段付大径部39に嵌め合って回転プリント基板50の回転範囲を規制するストッパを構成するように、突出部57が形成されている。
【0025】
主平面51の他方の面には全面グラウンドパターンが形成され、このグラウンドパターンと一方の面のリング状のグラウンドパターン53は、図示しない多数のスルーホールを介して電気的に接続されている。
【0026】
スペーサ60も、下部ケース30の収納部31に嵌め合うように金属ブロックが円形に切削加工されたものである。スペーサ60の回転プリント基板50と対向する底面は回転プリント基板50が円滑に回転できるように平滑な平坦面として形成され、上面には円周方向に沿って等しい角度間隔(本実施例では60度)でコイルバネ71〜76が嵌装される取付穴61〜66が設けられている。そしてスペーサ60の中央部分には回転プリント基板50に設けられた回転軸51の操作端部が貫通するように挿入される軸穴67が設けられている。
【0027】
バネ70は、下部ケース30に固定プリント基板40と回転プリント基板50とスペーサ60とバネ70を収納して、下部ケース30に上部ケース80をネジ90で固定した状態で、互いのリング状のグラウンドパターン44と53および円弧状の伝送線路パターン45,46と54,55が接触するように重ね合わせて下部ケース30の収納部31に収納される固定プリント基板40と回転プリント基板50を、回転プリント基板50が回転可能な半固定状態で押圧するものである。本実施例では、バネ70としてコイルバネ71〜76を用いる例を示している。
【0028】
上部ケース80も、金属ブロックが切削加工されたものであって、固定プリント基板40と回転プリント基板50とスペーサ60とバネ70が収納された下部ケース30に、ネジ90で固定される。上部ケース80の4隅には下部ケース30に上部ケース80をネジ90で固定するためのネジ穴81〜84が設けられ、中央部分には回転プリント基板50に設けられた回転軸51の操作端部が貫通するように挿入される軸穴85が設けられている。そして、スペーサ60との対向面には、コイルバネ71〜76の他端が嵌装される取付穴や固定プリント基板40に設けられたコネクタ47,48が嵌め合う切欠部(たとえば86)が形成されている。
【0029】
ネジ90は、固定プリント基板40と回転プリント基板50とスペーサ60とバネ70が収納された下部ケース30に上部ケース80を重ね合わせてネジ止めするものであり、上部ケース80の4隅に設けられたネジ穴81〜84にネジ91〜94をそれぞれ螺合して締結固定する。
【0030】
このような構成によれば、固定プリント基板40と回転プリント基板50とスペーサ60とコイルバネ71〜76が収納された下部ケース30に上部ケース80を重ね合わせてネジ91〜94をあらかじめ設定した所定のトルクで締結固定したときに所望の押圧力が得られるように、コイルバネ71〜76の弾性力をコイルバネ71〜76の材質や機械的な寸法などであらかじめ選定しておくことができ、組み立て後の調整を不要にできる。
【0031】
図2は、図1のように構成される可変遅延装置に組み込まれている回転プリント基板50の回転範囲を所定の角度範囲に規制するストッパの構成説明図であり、上部ケースを外して透視した状態を示している。
【0032】
図2において、下部ケース30の収納部31の大径部39は、回転プリント基板50の回転角度範囲を100度に規制するように、中心に対して100度の角度範囲で形成されている。この大径部39には、回転プリント基板50の主平面51の一部に形成された突出部57が嵌め合わされていて、実線は回転プリント基板50を反時計方向に回しきった状態を示し、破線は回転プリント基板50を時計方向に回しきった状態を示している。
【0033】
コネクタ47,48間に形成された伝送線路パターン45,46および54〜56の伝送線路長に着目すると、実線で示す反時計方向に回しきった状態が最短になって破線で示反時計方向に回しきった状態が最長になり、これら最短と最長の間で伝送線路長に応じた所望の遅延時間を設定することができる。
【0034】
なお、上記実施例では、下部ケース40、スペーサ70および上部ケース90を、金属ブロックを切削加工して製作する例について説明したが、これに限るものではなく、鋳造などで成型加工することもできる。
【0035】
また、上記実施例では、バネ70として6個のコイルバネ71〜76を用いる例を説明したが、これに限るものではなく、たとえば板バネであってもよい。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、組み立て後の調整が不要な可変遅延装置を実現でき、マイクロ波領域の可変遅延装置として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例を示す組立説明図である。
【図2】図1の回転プリント基板50の回転範囲を所定の角度範囲に規制するストッパの構成説明図である。
【図3】従来の可変遅延装置の一例を示す構成説明図である。
【符号の説明】
【0038】
30 下部ケース
31 収納部
39 大径部
40 固定プリント基板
50 回転プリント基板
51 主平面
57 突出部
60 スペーサ
70 バネ
71〜76 コイルバネ
80 上部ケース
90 ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に円弧状の伝送線路パターンが形成された2枚のプリント基板を互いの伝送線路パターンが接触するように重ね合わせ、一方のプリント基板を回転させて伝送線路長を調整するように構成された可変遅延装置において、
前記重ね合わせた2枚のプリント基板を押圧するバネを設けたことを特徴とする可変遅延装置。
【請求項2】
前記バネは、円周方向に沿って等しい角度間隔で設けられた複数のコイルバネであることを特徴とする請求項1記載の可変遅延装置。
【請求項3】
円弧状の伝送線路パターンが形成された円形の主平面を有する固定プリント基板と円弧状の伝送線路パターンが形成された円形の主平面を有する回転プリント基板が互いの伝送線路パターンが接触するように重ね合わせて下部ケースに収納され、
これら重ね合わせた2枚のプリント基板を押圧するバネがスペーサを介して前記下部ケースに収納され、
前記下部ケースに上部ケースが重ね合わせて締結固定されたことを特徴とする可変遅延装置。
【請求項4】
前記下部ケースには前記重ね合わせた2枚のプリント基板を収納するほぼ円形の収納部が形成され、この収納部の内周の一部は、前記回転プリント基板の回転範囲を規制するストッパを構成するように段付の大径部として形成され、
前記回転プリント基板の円形の主平面の一部には、前記下部ケースの段付大径部に嵌め合って前記回転プリント基板の回転範囲を規制するストッパを構成するように突出部が形成されていることを特徴とする請求項3記載の可変遅延装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−296396(P2009−296396A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148722(P2008−148722)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】