説明

可搬型医療装置

【課題】 装置内部の温度上昇を抑制するときの強制排気を不要とすることで、検査室や病室内の空気中に浮遊する菌やほこりの拡散を防止できる可搬型医療装置を提供する。
【解決手段】 基底部10Bに吸入口13、14を有し、動作に伴い熱を発する回路基板部106を格納するラック10と、排気口11Bを有しラック10の上方に設けられた排気ダクト部11と、ラック10内の空気を排気ダクト部11に送り排気口11Bに収集する排気ファン12と、排気口11Bに収集された空気を冷却するとともに吸入口13近傍の開口部10Dまで案内してラック10内に放出する放熱管16とを備えることにより、空気を装置内にて循環させて、装置外部への強制排気を不要とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査室や病室など、様々な場所に移動させて使用することが可能な可搬型医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病院内等では、可搬型の医療装置が広く使用されている。可搬型医療装置は、キャスタ等により病院内等を移動可能とされた医療装置であり、検査室や病室など必要な場所に移動され、そこで使用される。可搬型医療装置によれば、当該医療装置を各部屋毎に設置しなくても、目的の検査や治療等を行うことができるというメリットがある。
【0003】
そのような可搬型医療装置としては、例えば下記の特許文献1に記載のような超音波診断装置がある。超音波診断装置は、被検体の超音波断層像を取得するための装置であり、現在では様々な医療分野で活用されている。図8〜図10は、可搬型超音波診断装置の構成の一例を表している。図8に示す可搬型超音波診断装置1′は、超音波のスキャン形態や周波数等の異なる複数個の超音波プローブ2と、各超音波プローブ2に対する電気信号の送受信を行う送受信部3と、検者が各種の操作を行うためのコントロールパネル4と、超音波断層像を表示するモニタ5と、移動用のキャスタ6とを含んで構成されている。
【0004】
図9に表すように、可搬型超音波診断装置1′の外部筐体1′Aの内部にはラック100が設けられている。このラック100は、図10に示す回路基板部106等を格納する格納部100Aと、その下部の基底部100Bとの上下2段に構成されている。格納部100Aと基底部100Bとの境界に形成された段差部100Cには、防塵フィルタ105が挿脱可能に設けられている。なお、回路基板部106には、格納部100A内に垂直配置される複数の回路基板106aや、回路基板106a上に設けられた電源機器等の各種の機器106bなどが支持体106cに支持されて設けられている。ラック100は、この回路基板106aや機器106bから発生される電磁波を装置外部に放出させないため、あるいは、外部からの電磁波の影響を受けないようにするためのEMC(Electro−Magnetic Compatibility)シールド機能を備えている。
【0005】
また、可搬型超音波診断装置1′は、回路基板106aや機器106bの動作時に発せられる熱によるラック100内の温度上昇を抑制するために、ラック100の上方に配置された排気ダクト部101と、基底部100Bの側面に開口された吸入口103、104とを備えている。排気ダクト部101の側面には排気口101Aが形成されている。また、排気ダクト部101内には、格納部100A内の空気を排気ダクト部101に吸い上げて排気口101Aから強制排気させる複数のファン102が設けられている。それにより、吸入口103、104を介して装置外部から基底部100Bに吸気Finが吸入され、防塵フィルタ105により濾過されて格納部100Aに流入する。そして、この空気流は、格納部A内の回路基板部106からの発熱を受けるとともに、ファン102を介して排気ダクト部101に移動され、排気口101Aから装置外部に排出される。
【0006】
ところで、病院内の空気中には、患者体内から放出された菌やほこりなどが浮遊していることも多い。そのような環境下において可搬型超音波診断装置1′などの従来の可搬型医療装置を用いると、空気中に浮遊する菌やほこりが排気口101Aから強制排気された排気Foutに吹き飛ばされ拡散されることとなる。これは、日和見感染などを引き起こすおそれの拡大につながり、院内衛生上好ましいことではなかった。
【0007】
また、可搬型医療装置は、その可搬型という特性により、防塵フィルタ105に詰まった菌を排気Foutとともに複数の検査室や病室にばらまいてしまうおそれもあった。
【0008】
可搬型医療装置には、光源、ポンプ、モータなど、その動作に伴って熱を発生する各種の機器からなる動作部を内蔵したものがある。例えば、特許文献2に記載の可搬型透析装置や特許文献3に記載の脳蘇生装置はポンプを備えている。また、特許文献4に記載の可搬型X線CT装置はX線発生器(X線光源)を備えている。また、当該可搬型X線CT装置の回転体駆動モータを所定の筐体内に内蔵してもよい。更に、特許文献5に記載の眼科装置は、可搬性の向上を目的としたもので、YAGレーザ光源やエイミング用光源を内蔵している。そのような機器からの発熱を空冷するための構成についても、従来は、上述の可搬型超音波診断装置1′のように強制排気を用いているのが一般的であったため、衛生面において同様の問題があった。
【0009】
なお、以上で指摘したような衛生上の問題点は、据置型の医療装置ではさほど考慮する必要はない。すなわち、そのような医療装置は、常に特定の検査室で使用されるため、当該検査室に空気浄化機器を設けることもできるし、当該医療装置からの排気管を病院外部等に導くように構成することもできるからである。
【0010】
【特許文献1】特開平10−5221号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平5−176991号公報(請求項2)
【特許文献3】特表2002−506693号公報(請求項13〜15)
【特許文献4】特開平9−304303号公報(請求項4)
【特許文献5】特開2000−279382(明細書段落[0004]、[001 1]、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、装置内部の温度上昇を抑制するための強制排気を不要とすることにより、空気中に浮遊する菌やほこりの拡散を防止し、検査室や病室内の衛生状態の悪化を抑制することが可能な可搬型医療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、所定の動作に伴い熱を発生する動作部と、当該動作部を格納し、装置外部から空気を吸入するための吸入口と、前記吸入口とは異なる位置に形成された排気口とを有する格納手段と、を有する可搬型医療装置であって、前記格納手段は、前記吸入口側に形成された開口部を備え、前記吸入口から前記格納手段内に吸入された前記空気を前記排気口に収集する排気機構部と、中空部を有し、当該中空部の一端が前記排気口に継合され、他端が前記開口部に継合された排気案内手段を含み、前記排気収集機構部により前記排気口に収集された前記空気を前記排気案内手段の前記中空部において冷却し、前記開口部を介して前記格納手段内に放出する排気循環部を備えていることを特徴としている。
【0013】
また、上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の可搬型医療装置であって、前記格納手段は、前記動作部が格納される格納部と、前記排気口が形成され前記格納部に連通された排気ダクト部とを含み、前記排気機構部は、前記格納部の前記空気を収集して前記排気ダクト部に送る排気ファンを含んでいることを特徴としている。
【0014】
また、上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の可搬型医療装置であって、前記排気循環部の前記排気案内手段は、前記格納手段の前記排気口と前記開口部との間の距離を超える長さを有し、凹凸状の壁面を有し、前記中空部を通過する前記空気を放射冷却によって冷却する放熱管であることを特徴としている。
【0015】
また、上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の可搬型医療装置であって、前記吸入口及び前記開口部から前記格納手段に流入する前記空気に含まれる塵埃を濾過して前記動作部側へ送る防塵フィルタを前記格納手段内に備え、前記放熱管は、一部区間が前記格納手段内に設けられ前記防塵フィルタを通過するように配置されていることを特徴としている。
【0016】
また、上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の可搬型医療装置であって、前記排気循環部は、一部が前記排気案内手段の前記中空部に配置され、他の一部が前記排気案内手段の外部に配置され、前記中空部を通過する前記空気を放射冷却によって冷却する放熱器を備えていることを特徴としている。
【0017】
また、上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の可搬型医療装置であって、中空部を有し、当該中空部の一端が前記格納手段の前記吸入口に継合された吸入管と、当該吸入管の他端から装置外部の空気を当該中空部に吸入して前記吸入口に導く吸入ファンとを含む吸入機構部を更に備え、前記放熱器の前記他の一部は、前記吸入管の前記中空部に配置されていることを特徴としている。
【0018】
また、上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の可搬型医療装置であって、前記排気循環部の前記排気案内手段の前記中空部を前記排気口から前記開口部に案内される前記空気の流れを付勢する補助ファンを更に備えていることを特徴としている。
【0019】
また、上記目的を達成するために、請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の可搬型医療装置であって、前記動作部は、回路基板、光源、ポンプ又はモータであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る可搬型医療装置は、排気循環部が排気口に収集された空気を冷却するとともに、吸入口側の開口部から格納手段内に放出することにより空気を装置内にて循環させるように構成されている。それにより、装置外部へ強制排気を行わなくとも格納手段内の温度上昇を抑制できるので、空気中に浮遊する菌やほこりの拡散を効果的に防止することが可能となり、検査室や病室内の衛生状態の悪化が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る可搬型医療装置の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、可搬型医療装置の一例である超音波診断装置について特に説明する。以下、図1〜図3は、本発明に係る第1の実施の形態の超音波診断装置1−1の構成を表し、図4及び図5は、第2の実施の形態の超音波診断装置1−2の構成を表し、図6及び図7は、第3の実施の形態の超音波診断装置1−3の構成を表す。これらの超音波診断装置1−1、1−2、1−3(まとめて超音波診断装置1と称する)は、従来の超音波診断装置1′と同様の外観構成を備えている(図8参照)。また、超音波診断装置1は、従来と同様の回路基板部(図10参照)を格納している。
【0022】
[第1の実施の形態]
〔構成〕
図1は、第1の実施形態の超音波診断装置1−1の内部構成を表す斜視透視図である。この超音波診断装置1−1は、従来の超音波診断装置と同様の外観構成を有する。すなわち、図8を参照して前述したように、超音波診断装置1−1は、超音波のスキャン形態や周波数等の異なる複数個の超音波プローブ2と、各超音波プローブ2に対する電気信号の送受信を行う送受信部3と、装置の電源オン/オフ、超音波スキャンの設定、断層像の表示などの各種操作を行うためのコントロールパネル4と、超音波断層像を表示するモニタ5と、移動用のキャスタ6とを備えている。
【0023】
超音波診断装置1−1は、従来と同様の画像作成処理を実行する。つまり、超音波プローブ2は、被検体に接触された状態で送受信部3からの信号に基づき超音波を送信するとともに、その反射波を受信してエコー信号に変換し送受信部3に送る。超音波診断装置1−1は、このエコー信号を解析することにより被検体の超音波断層像を作成してモニタ5に表示させる。
【0024】
超音波診断装置1−1の外部筐体1A(図8参照)の内部には、図1に示すラック10が設けられている。このラック10は、従来と同様に、EMCシールド機能を有し、互いに連通された格納部10A及び基底部10Bを備えている。格納部10Aには、図10に示す回路基板106aや機器106bを有する回路基板部106等が格納されている(図示は省略する)。この回路基板部106の回路基板106a及び機器106bは、その動作に伴って熱を発生するもので、本発明の動作部を構成している。また、格納部10Aと基底部10Bとの境界に形成された段差部10Cには、従来と同様の防塵フィルタ15が挿脱可能に設けられている。
【0025】
超音波診断装置1−1は、回路基板部106の回路基板106a等の動作時に発せられる熱に起因するラック10内の温度上昇を抑制するための構成として、従来のように、ラック10の上方に形成された排気ダクト部11と、基底部10Bの装置背面(図1における左手前側)に開口された吸入口13と、装置前面(同、右奥側)に開口された吸入口14とを備えている。ラック10と排気ダクト部11とは互いに連通されている。
【0026】
排気ダクト部11の背面側には、ラック10の背面よりも突出された突出部11Aが形成されており、この突出部11Aの側面には排気口11Bが形成されている。また、排気ダクト部11内には、格納部10A内の空気を収集して排気ダクト部11に送ることにより当該空気を排気口11Bに収集する複数の排気ファン12が設けられている。なお、ラック10及び排気ダクト部11は、本発明にいう格納手段を構成し、排気ファン12は、本発明の排気機構部を構成している。
【0027】
更に、超音波診断装置1−1の背面側には、排気ダクト部11と基底部10Bとを連通させるように放熱管16が設けられている。この放熱管16は、本発明の排気案内手段及び排気循環部を構成するもので、上端16Aと下端16Bを有する蛇行形状の管部材である。上端16Aは、排気ダクト部11の突出部11Aの排気口11Bに嵌入された状態で継合されており、下端16Bは、基底部10B背面に形成された開口部10Dに接合された状態で継合されている。開口部10Dには、放熱管16内を開口部10D方向に案内される空気の流れを付勢する補助ファン17が嵌装されている。
【0028】
なお、ラック10の開口部10Dは、本発明の開口部を構成し、回路基板部106に対して吸入口13側に設けられる。すなわち、開口部10Dは、排気ファン12によって吸入口13、14から回路基板部106を介して排気口11Bに向かって移動する空気流における上流側、つまり吸入口13、14側に形成される。本実施形態では、排気口11B及び吸入口13、14は、それぞれ回路基板部106の上方及び下方に設けられており、開口部10Dは、吸入口13の近傍に設けられている。
【0029】
一般に、放熱管16は、図2に示すように、一端が排気ダクト部11の突出部11Aに設けられ、他端が基底部10Bに設けられた補助ファン17の直前に設けられるように配置されていればよい。例えば、補助ファン17を基底部10Bの内部に設置するとともに、放熱管16の下端16Bを開口部10Dに嵌入させ補助ファン17の直前に配置させるように構成してもよい。
【0030】
放熱管16は、図1、2に示すように、排気ダクト部11の排気口11Bと基底部10Bの開口部10Dとの間の距離よりも長く形成されていることが好ましい。これは、放熱管16の全長を長くすることにより、中空部16bを通過する空気の経路が長くなるため、その放射冷却作用が向上するからである。
【0031】
更に、図2に示すように、放熱管16の壁面16aは、放射冷却作用を高めるために、空気の移動方向に沿う断面が波型に形成され、当該空気及び放熱管16外部の空気に対する接触面積が増大されている。このとき、放熱管16の中空部16bを流れる空気には管路抵抗が負荷されることとなるが、補助ファン17が空気の流れを付勢するので、空気はスムーズに移動される。なお、放熱管16の壁面16aの形状は、図2に示す波型には限定されず、その表面積を増大させる凹凸が形成されていればよい。放熱管16は、搭載される回路基板部106の発熱量などを考慮して、好適な放熱特性を有する長さや壁面形状に形成される。
【0032】
放熱管の配置形態としては、例えば図3に示すものを適用することもできる。同図に示す放熱管16′は、上端が排気ダクト部11の突出部11Aに設けられた第1の放熱管16′Aと、下端が基底部10Bの補助ファン17の直前に設けられた第2の放熱管16′Bとから構成される。第1の放熱管16′Aは、格納部10A背面の図示しない開口部から格納部10A内に案内され、その下端が防塵フィルタ15の上面に接触配置されている。また、第2の放熱管16′Bの上端は、防塵フィルタ15の下面に接触配置されている。ここで、第1の放熱管16′Aの下端と第2の放熱管16′Bの上端は、ゴム部材等により被覆されており、防塵フィルタを介して密着され、放熱管16′を案内される空気が、第1の放熱管16′Aと第2の放熱管16′Bとの継ぎ目からラック10内に漏れないようになっている。このように、図3に示す放熱管16′は、防塵フィルタ15をあたかも通過しているように設けられている。なお、ラック10内部に配置されている放熱管16′の一部は、本発明にいう一部区間に相当する。
【0033】
〔動作及び作用効果〕
以上のように構成された超音波診断装置1−1の動作及び作用効果について説明する。
【0034】
検者等がコントロールパネル4の電源スイッチをオンすると、回路基板部106の制御により排気ファン12及び補助ファン17の動作が開始される。排気ファン12によりラック10の格納部10A内の空気を排気ダクト部11内に吸い上げられると、それに伴って基底部10B内の空気が防塵フィルタ15を介して排気ダクト部11内に流入してくる。すると、装置外部の空気が吸入口13、14から基底部10Bに吸入される。
【0035】
排気ファン12により排気ダクト部11内に吸い上げられた空気は、排気口11B方向に導かれ、放熱管16の上端16Aから中空部16bに流入し、補助ファン17により付勢されて下端16Bまで導かれ、ラック10の基底部10B内に流入される。装置内の空気は、このような要領で循環される。
【0036】
ところで、格納部10A内の回路基板部106は、その動作に伴って熱を発生する。回路基板106a等は、高温になると正常に動作しないことがあるため、この熱を処理してラック100内の温度上昇を抑制する必要がある。本実施形態の超音波診断装置1−1は、次のようにして回路基板部16からの発熱を処理する。
【0037】
基底部10B内の空気は、防塵フィルタ15により塵埃が濾過されて格納部10Aに流入する。回路基板部106の回路基板106aは、図9に示すように垂直配置されているので、この空気は、回路基板106aやその上の機器106bの表面上を円滑に上方に移動する。このとき、当該空気は、回路基板106a等の熱を奪っていく。それにより温度が上昇した空気は、排気ファン12によって排気ダクト部11に移動される。
【0038】
排気ダクト部11内に流入した空気は、放熱管16の上端16Aからその中空部16bに流れ込み、放熱管16により熱を奪われながら下端16Bまで案内される。それにより、下端16Bから基底部10Bに流入する空気は、放熱管16を通過する前よりも温度が低下される。このように、放熱管16により空気を冷却させながら装置内を循環させることにより、基底部10Bから格納部10Aに流入する空気は、回路基板部106の熱を奪うのに好適な温度まで常に冷却されるため、ラック100内の温度上昇を抑制することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態の超音波診断装置1−1は、回路基板部106からの発熱を奪った空気を冷却し、ラック10内に再び流入させることで、ラック10内の温度上昇を抑制するようになっている。したがって、従来のように排気が装置外部に勢いよく排出されることがないため、検査室や病室の空気中に浮遊する菌やほこりを拡散することがない。なお、装置内で余剰となった空気は、吸入口13、14やラック10の継ぎ目の隙間などから自然に排出されるが、勢いよく噴出されることはないので、空気中の菌などを従来のように拡散してしまう事態を防止することができる。
【0040】
また、放熱管16は、排気口11Bと開口部10Dの距離よりも長い蛇行形状に形成され、かつ、表面積を増大させるために凹凸状の壁面16aを有しているので、放熱管16内を流れる空気を効果的に冷却することができる。
【0041】
また、図3に示したように、防塵フィルタ15を通過するように設けられた放熱管16′を適用する場合には、空気に含まれる塵埃をより効果的に除去できるので、回路基板部106に対する塵埃の悪影響を更に低減させることができる。なお、この構成を適用する場合、放熱管16内を流れる空気は防塵フィルタ15によって抵抗を受けるので、補助ファン17による空気流の付勢力をより大きくすることが好ましい。
【0042】
[第2の実施の形態]
〔構成〕
図4は、本発明に係る可搬型医療装置の第2の実施形態である超音波診断装置1−2の内部構成を表している。なお、同図において、第1の実施形態の超音波診断装置1−1と同様の部分は、同一の符号で示されている。
【0043】
超音波診断装置1−2の外部筐体1A(図8参照)の内部には、図4に示すラック10が設けられている。ラック10は、EMCシールド機能を有するもので、格納部10A及び基底部10Bを備えている。格納部10Aには、図10に示す回路基板106aや機器106bを有する回路基板部106等が格納されている(図示省略)。また、格納部10Aと基底部10Bとの境界に形成された段差部10Cには防塵フィルタ15が挿脱可能に設けられている。
【0044】
超音波診断装置1−2は、ラック10の上方に形成された排気ダクト部11と、基底部10Bの装置背面(図4における左手前側)と装置前面(同、右奥側)に吸入口13、14を備えている。排気ダクト部11の背面側には、ラック10の背面よりも突出された突出部11Aが形成されており、この突出部11Aの下面中央には排気口11Bが形成されている。また、排気ダクト部11内には、格納部10A内の空気を排気ダクト部11に吸い上げて排気口11Bに導く複数の排気ファン12が設けられている。
【0045】
更に、超音波診断装置1−2の背面側には、排気ダクト部11と基底部10Bとを連通させるように排気管20が配設されている。この排気管20は、中空状かつ直方体形状の放熱部20Aと、この放熱部20Aの下端から基底部10B背面の開口部10Dまで延びる排気案内部20Bとを有する管部材である。
【0046】
排気管20の放熱部20Aは、排気ダクト部11の突出部11Aの排気口11Bに継合されている。放熱部20Aの背面には、放熱部20Aの上面図である図5に示すように開口部20Dが形成されており、この開口部20Dを介して放熱器21の一部が放熱部20A内に配設されている。また、放熱器21の他の部分は、放熱部21の外部に配置されている。
【0047】
より具体的に説明すると、放熱器21は、図5に示すように、金属板からなる中心板部21Aと、この中心板部21Aの両面から櫛状に突出するように配置された複数の金属板からなる放熱板21B、21Cとから構成される。ここで、放熱器21は、比熱の値が小さな金属等から形成されていることが好ましい。この放熱器21は、中央板部21Aが開口部20Dに隙間なく嵌合されており、放熱板21Bが放熱部20A内に、放熱板21Cが放熱部20A外にそれぞれ配置されている。
【0048】
放熱器21は、次のような放射冷却作用によって排気管20内を流れる空気を冷却する。まず、放熱板21Bが、排気管20の放熱部20A内を流れる空気の熱を奪う。すると、その熱は、放熱器21の温度分布にしたがって放熱板21Bから中央板部21Aを通じて放熱板21Cに伝達される。伝達された熱は、放熱板21Cの表面から外部に放射される。ここで、放熱板21B、21Cは、それぞれ複数の板部材から構成され、その表面積が増大されている。したがって、放熱板21Bは、放熱部21B内を流れる空気に対する接触面積が大きいため、当該空気の熱を効果的に奪うことができる。また、放熱板21Cは、排気管20外部の空気に対する接触面積が大きいため、伝達された熱を効果的に放射することができる。
【0049】
排気管20の排気案内部20Bは、上部が漏斗状に形成され、その上端が放熱部20Aの下端に接続されている。また、排気案内部20Bの下端20Cは、基底部10B背面の開口部10Dに接続されている。開口部10Dには、排気管20内の空気を開口部10D方向に付勢する補助ファン17が嵌装されている。ここで、排気管20は、本発明の排気案内手段を構成し、排気管20と放熱器21は、本発明にいう排気循環部を構成するものである。
【0050】
〔動作及び作用効果〕
以上のように構成された超音波診断装置1−2の動作及び作用効果について説明する。
【0051】
検者等がコントロールパネル4の電源スイッチをオンすると、回路基板部106の制御により排気ファン12及び補助ファン17の動作が開始され、第1の実施形態と同様にラック10等の内部を空気が循環される。すなわち、基底部10B内の空気は、防塵フィルタ15により塵埃が濾過されて格納部10Aに流入し、回路基板106aや機器106bの表面上を上方に移動して熱を奪って排気ダクト部11に移動される。排気ダクト部11内に流入した空気は、排気口11Bから排気管20の放熱部20A内に流れ込み、放熱器21の放熱板21Bにより熱を奪われたのち、排気案内部20Bにより基底部10Bの開口部10Dまで案内される。このとき、排気管20内を流れる空気は、補助ファン17によって付勢される。基底部10Bに戻された空気は、排気管20を通過する前よりも温度が低下している。このように、放熱器21により空気を冷却しながら装置内を循環させることにより、基底部10Bから格納部10Aに流入する空気は、回路基板部106の熱を奪うのに好適な温度まで冷却されるため、ラック100内の温度上昇を抑制することができる。
【0052】
以上のように、本実施形態の超音波診断装置1−2は、回路基板部106からの発熱を奪った空気を冷却し、ラック10内に再び流入させることで、ラック10内の温度上昇を抑制するようになっている。したがって、従来のように排気が装置外部に勢いよく排出されることがないため、検査室や病室の空気中に浮遊する菌やほこりが拡散される事態を防止することができる。なお、装置内で余剰となった空気は、第1の実施形態と同様に吸入口13、14やラック10の継ぎ目の隙間などから自然に排出される。
【0053】
[第3の実施の形態]
〔構成〕
図6は、本発明に係る可搬型医療装置の第3の実施形態である超音波診断装置1−3の内部構成を表している。本実施形態の超音波診断装置1−3は、第2の実施形態の超音波診断装置1−2の一変形例である。図6中において、第2の実施形態と同様の部分は、同一の符号で示してある。
【0054】
超音波診断装置1−3は、第2の実施形態の超音波診断装置1−2に、排気管20の背面に密着して設けられた中空形状の吸入管22と、この吸入管22の上端に設けられた吸入ファン23とを追加して構成されている。吸入管22及び吸入ファン23は、本発明の吸入機構部を構成している。
【0055】
吸入管22は、その中空部の下端が基底部10B背面の吸入口13に継合されており、直方体形状の放熱部22Aと、この放熱部22Aの下端から吸入口13まで延びる吸気案内部22Bとを有する管部材である。図7に示すように、排気管20の放熱部20Aの開口部20Dと接する放熱部22Aの側壁には、開口部20Dと同サイズの開口部22Cが形成されている。放熱器21は、中央板部21Aが開口部20D、22Cに隙間なく嵌合されて固定されており、放熱板21Bは排気管20の放熱部20A内に、放熱板21Cは吸入管22の放熱部22A内にそれぞれ配置されている。吸入ファン23は、装置外部の空気を吸入管22の中空部に吸入して吸入口13に導くファンである。
【0056】
〔動作及び作用効果〕
以上のように構成された超音波診断装置1−3の動作及び作用効果について説明する。
【0057】
検者等がコントロールパネル4の電源スイッチをオンすると、回路基板部106の制御により排気ファン12、補助ファン17及び吸入ファン23の動作が開始される。吸入ファン23は、装置外部の空気を吸入管22内に吸入して吸入口13に導く。また、排気ファン12及び補助ファン17は第2の実施形態と同様に動作する。それにより、空気は、ラック10等の内部を図7に示す要領で循環される。
【0058】
すなわち、基底部10B内には、吸入管22の中空部を通じて装置外部の空気が流入し、排気管20を介して排気が流入し、更に、吸入口14を介して装置外部の空気が流入する。このとき、ラック10等の内部で余剰となった空気は、排気口14やラック10の継ぎ目の隙間などから自然に排出される。基底部10Bに流入した空気は、排気ファン12によって防塵フィルタ15を介して格納部10Aに流入し、回路基板106aや機器106bの表面上を上方に移動して熱を奪って排気ダクト部11に移動する。そして、排気ダクト部11内に流入した空気は、補助ファン17に付勢されつつ排気口11Bから排気管20の放熱部20A内に流れ込み、放熱器21の放熱板21Bにより熱を奪われたのち、排気案内部20Bにより基底部10Bの開口部10Dまで案内される。このとき、放熱板21Bにより奪われた熱は、中央板部21Aを介して吸入管22内の放熱板21Cに伝達される。吸入管22内の空気は、吸入ファン23により吸入口13の方向に勢いよく流れているので、放熱板20Cに伝達された熱は、この空気流によって効果的に奪われる。したがって、排気管20を流れる空気の熱をより効果的に冷却することができる。
【0059】
[変形例]
以上に詳述した構成は、本発明に係る可搬型医療装置の一例に過ぎないものであり、本発明の要旨の範囲内における各種の変形を施すことが可能である。
【0060】
例えば、各実施形態は可搬型の超音波診断装置についてのものであるが、本発明の構成は、ポンプを備えた上記特許文献2に記載の可搬型透析装置や特許文献3に記載の脳蘇生装置、X線光源やモータを備えた特許文献4に記載の可搬型X線CT装置、YAGレーザ光源等の光源を備えた特許文献5に記載の眼科装置など、その動作に伴って熱を発生する動作部を筐体内に備えるあらゆる可搬型医療装置に容易に適用可能である。
【0061】
また、本発明における「冷却」とは、対象(つまり空気)の温度を自然放出させる上記の放射冷却だけでなく、対象の温度を積極的に低下させる場合も表している。したがって、本発明の排気循環部にクーラー機構等の積極的冷却手段を設けることにより、排気案内部内を流れる空気を冷却するようにしてもよい。
【0062】
また、排気循環部による放熱作用を向上させるために、第1の実施形態の超音波診断装置1−1に対して放熱器を別途設けてもよいし、第2、3の実施形態の超音波診断装置1−2、1−3の排気管20や吸入管22の壁面を凹凸状に形成したり、管路を延長するなどして放熱管としての作用を追加してもよい。
【0063】
更に、排気ファン12は1つあるいは複数の任意の個数を設けることができる。また、排気ファン12、補助ファン17、吸入ファン23の回転速度を変更可能とすることにより、動作部の使用状態等に基づく発熱量の増減に応じて、装置内を循環する空気流の勢いを調整できるようにしてもよい。また、排気口13、14の位置、サイズ、形状は適宜設定することができる。また、排気案内手段内を流れる空気の勢いを排気ファン12によって十分に賄える場合などには、補助ファン17を備えなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る可搬型医療装置の第1の実施の形態である超音波診断装置の内部構成の一例の概略を表す斜視透視図である。
【図2】本発明に係る可搬型医療装置の第1の実施の形態である超音波診断装置が備える放熱管の配置の一態様を表す概略図である。
【図3】本発明に係る可搬型医療装置の第1の実施の形態である超音波診断装置が備える放熱管の配置の一態様を表す概略図である。
【図4】本発明に係る可搬型医療装置の第2の実施の形態である超音波診断装置の内部構成の一例の概略を表す斜視透視図である。
【図5】本発明に係る可搬型医療装置の第2の実施の形態である超音波診断装置が備える放熱器の形状及び配置の一態様を表す概略図である。
【図6】本発明に係る可搬型医療装置の第3の実施の形態である超音波診断装置の内部構成の一例の概略を表す斜視透視図である。
【図7】本発明に係る可搬型医療装置の第3の実施の形態である超音波診断装置が備える放熱器の形状及び配置、更には当該装置による空気循環の一態様を表す断面図である。
【図8】可搬型医療装置の一例である可搬型の超音波診断装置の外観構成の一例を表す斜視図である。
【図9】従来の可搬型の超音波診断装置の内部構成の一例の概略を表す斜視透視図である。
【図10】可搬型の超音波診断装置のラック内に格納される回路基板部の構成の一例を表す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
1−1、1−2、1−3 超音波診断装置(可搬型医療装置)
2 超音波プローブ
3 送受信部
4 コントロールパネル
5 モニタ
6 キャスタ
10 ラック
10A 格納部
10B 基底部
10C 段差部
10D 開口部
11 排気ダクト部
11A 突出部
11B 排気口
12 排気ファン
13、14 吸入口
15 防塵フィルタ
16 放熱管
16A 上端
16B 下端
16a 壁面
16b 中空部
16′ 放熱管
16′A 第1の放熱管
16′B 第2の放熱管
17 補助ファン
20 排気管
20A 放熱部
20B 排気案内部
20C 下端
20D 開口部
21 放熱器
21A 中央板部
21B、21C 放熱板
22 吸入管
22A 放熱部
22B 吸気案内部
22C 開口部
23 吸入ファン
106 回路基板部
106a 回路基板
106b 各種機器
106c 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の動作に伴い熱を発生する動作部と、
当該動作部を格納し、装置外部から空気を吸入するための吸入口と、前記吸入口とは異なる位置に形成された排気口とを有する格納手段と、
を有する可搬型医療装置であって、
前記格納手段は、前記吸入口側に形成された開口部を備え、
前記吸入口から前記格納手段内に吸入された前記空気を前記排気口に収集する排気機構部と、
中空部を有し、当該中空部の一端が前記排気口に継合され、他端が前記開口部に継合された排気案内手段を含み、前記排気収集機構部により前記排気口に収集された前記空気を前記排気案内手段の前記中空部において冷却し、前記開口部を介して前記格納手段内に放出する排気循環部を備えていることを特徴とする可搬型医療装置。
【請求項2】
前記格納手段は、前記動作部が格納される格納部と、前記排気口が形成され前記格納部に連通された排気ダクト部とを含み、
前記排気機構部は、前記格納部の前記空気を収集して前記排気ダクト部に送る排気ファンを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の可搬型医療装置。
【請求項3】
前記排気循環部の前記排気案内手段は、前記格納手段の前記排気口と前記開口部との間の距離を超える長さを有し、凹凸状の壁面を有し、前記中空部を通過する前記空気を放射冷却によって冷却する放熱管であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可搬型医療装置。
【請求項4】
前記吸入口及び前記開口部から前記格納手段に流入する前記空気に含まれる塵埃を濾過して前記動作部側へ送る防塵フィルタを前記格納手段内に備え、
前記放熱管は、一部区間が前記格納手段内に設けられ前記防塵フィルタを通過するように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の可搬型医療装置。
【請求項5】
前記排気循環部は、一部が前記排気案内手段の前記中空部に配置され、他の一部が前記排気案内手段の外部に配置され、前記中空部を通過する前記空気を放射冷却によって冷却する放熱器を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可搬型医療装置。
【請求項6】
中空部を有し、当該中空部の一端が前記格納手段の前記吸入口に継合された吸入管と、当該吸入管の他端から装置外部の空気を当該中空部に吸入して前記吸入口に導く吸入ファンとを含む吸入機構部を更に備え、
前記放熱器の前記他の一部は、前記吸入管の前記中空部に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の可搬型医療装置。
【請求項7】
前記排気循環部の前記排気案内手段の前記中空部を前記排気口から前記開口部に案内される前記空気の流れを付勢する補助ファンを更に備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の可搬型医療装置。
【請求項8】
前記動作部は、回路基板、光源、ポンプ又はモータであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の可搬型医療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−20755(P2006−20755A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200400(P2004−200400)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】