説明

可撓性容器用保持装置および可撓性容器用保持装置を備えた血液浄化装置

【課題】可撓性容器の破損を防止することが可能な可撓性容器用保持装置を提供する。
【解決手段】可撓性容器用保持装置10は、回転軸を介して見開き可能に一端が係合された剛性部材からなる一対の収納板12a,12bを有し、一対の収納板12a,12bのそれぞれ内面20には、後述する可撓性容器に設けられた流体導入口と係合可能な導入口側溝部14a,14bと、可撓性容器に設けられた流体導出口と係合可能な導出口側溝部16a,16bと、可撓性容器を固定可能な固定部と、可撓性容器の内圧を測定する圧力センサと、が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、可撓性容器用保持装置および可撓性容器用保持装置を備えた血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炎症性腸疾患(IBD)や関節リウマチ(RA)の治療手段としてアフェレシス治療が普及している。アフェレシス治療は血液を体外に抜き出し、血中から病気の原因となる液性因子(蛋白質、免疫関連物質など)や細胞(リンパ球、顆粒球、ウイルスなど)等の病因物質を除去し、病態の改善を図る治療方法である。
【0003】
アフェレシス治療の代表的な方法として、血漿交換法と吸着法がある。血漿交換法には、血液を血液分離膜に流して、血液から病因物質を含む血漿を分離させてこれを廃棄し、新鮮な血漿や補充液と置換する方法(単純血漿交換法)などがある。吸着法は、血液や血漿を吸着体に接触させ、吸着により病因物質を除去する方法であり、特に、血液を直接吸着体に接触させる方法(直接血液潅流法)は、設備の簡便さなどから広く普及している。
【0004】
前述の血漿交換法及び吸着法には、血液浄化器と呼ばれる医療器具が使用される。これらの血液浄化器のうち、吸着法に使用される血液浄化器は、吸着体が充填された収容容器を備えている。吸着体は活性炭、イオン交換樹脂、親水性または疎水性高分子樹脂、もしくはこれらの樹脂に特定のリガンドを配したもの等、吸着対象物質に応じて適宜選択して使用される。また、収容容器として、従来からポリカーボネートやポリスチレン等の硬質材料の筒体からなるカラムが使用されている。また、カラムの両端には血液導入口と血液導出口が設けられている。
【0005】
血液浄化器を使用する際には、その前処理としてプライミングと呼ばれる処理が行われる。プライミングは、血液浄化器を含む血液循環回路内の気体除去や、カラム内の洗浄を行うための処理である。プライミングでは、血液導入口が床側(下側)、血液導出口が天井側(上側)となるようにカラムを配置し、その後、血液導入口からカラム内に生理食塩水を供給してカラム内を生理食塩水で満たし、血液導出口からカラム内の空気を追い出す。このプライミング時に、カラムの内壁等に気泡が付着する場合がある。この場合、カラムを振ったり、外側から叩いたりして衝撃を与えることにより気泡を内壁から剥離させ、カラムの外部に追い出している。
【0006】
カラムを強く叩きすぎると破損につながることから、カラムに加えることのできる衝撃は限られている。加えることのできる衝撃が限られている分、気泡の除去は困難となる。そこで、吸着体の収容容器を、硬質のカラムに代えて可撓性のシート部材で形成した軟質のソフトバッグに変更することが考えられる。バッグを手で押すことにより、内部の液体に気泡を押し出させることができることから、気泡除去の際に破損の心配はない。このようなソフトバッグ式の血液浄化器は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−15806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ソフトバッグ製の血液浄化器は、可撓性のシート部材を用いた可撓性容器に、血液中の物質を吸着する吸着体が充填されている。ここで、ソフトバッグ製の血液浄化器は、可撓性のシート部材を用いていることから、上述したように、プライミング時の気泡抜きが容易であり、血液浄化器のサイズの変更も自由に行え、従来のカラム構造に比べ、コスト削減も可能であり、廃棄物量も低減することができる。
【0009】
しかし、治療中に、患者の血液が血液浄化器内で凝固した場合、ソフトバッグ製の血液浄化器の内圧が上昇する可能性があり、その場合、ソフトバッグが破損するおそれがある。また、ソフトバッグの破損が生じないまでも、若干の内圧上昇に伴い、ソフトバッグであるがゆえに、ソフトバッグ製の血液浄化器の形状が膨らみ、ソフトバッグ中の血液と吸着担体の体積比が変わることで吸着効率が低下したり、偏流が発生し易くなり血栓形成のリスクが高まったり、変形することによって治療を施行する医療スタッフや患者に無用の懸念を生じさせる可能性がある。
【0010】
カラム型の血液浄化器では、血液浄化器の血液の入口と出口において圧力を測定することによってのみ、血液浄化器の内圧を測定しており、直接、血液浄化器の内圧を測定することが不可能であった。
【0011】
また、これまでのカラム型の血液浄化器では、治療中に、血液浄化器自体を加温することは、通常行われていない。従って、血液の体外循環を行う際に、患者に戻す血液温度が低下し、悪寒等の症状が生じる場合がある。かかる場合、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL又は生活の質)を損ねるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す本発明を完成するに至った。本願発明は、以下の特徴を有する。
【0013】
(1)回転軸を介して見開き可能に一端が係合された剛性部材からなる一対の収納板を有し、前記一対の収納板の内面には、可撓性容器に設けられた流体導入口および流体導出口と係合可能な溝部と、前記可撓性容器を固定可能な固定部と、前記可撓性容器の内圧を測定する圧力センサと、が設けられている可撓性容器用保持装置である。
【0014】
(2)前記一対の収納板の内面には、前記可撓性容器を加温もしくは冷却する温度調節装置が設けられている上記(1)に記載の可撓性容器用保持装置である。
【0015】
(3)前記一対の収納板には、液漏れセンサが設けられている上記(1)または(2)に記載の可撓性容器用保持装置である。
【0016】
(4)前記一対の収納板には、紫外線および赤外線の少なくとも一方を照射可能な光源が設けられている上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の可撓性容器用保持装置である。
【0017】
(5)前記一対の収納板には、振動装置が設けられている上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の可撓性容器用保持装置である。
【0018】
(6)前記一対の収納板の少なくとも一部は、光透過性を有する材料で形成されている上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の可撓性容器用保持装置である。
【0019】
(7)流体は、血液もしくは血液成分であり、前記可撓性容器は、ソフトバッグ型血液浄化器である上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の可撓性容器用保持装置である。
【0020】
(8)上記(7)に記載の可撓性容器用保持装置と、血液を体外循環させるためのポンプと、少なくとも圧力センサと加温装置からの信号に応じて前記加温装置とポンプの動作を制御する制御装置と、を備えた血液浄化装置である。
【発明の効果】
【0021】
本願発明により、可撓性容器(ソフトバッグ型血液浄化器を含む)を、例えば、アフェレシス治療における血球吸着治療(Cytapheresis)やLDL吸着治療(LDL−apheresis)に用いた場合、血液凝固等の原因により可撓性容器内の圧力が上昇したとしても、可撓性容器が可撓性容器用保持装置に覆われ固定されているので、可撓性容器の形状変化が抑制され、また、可撓性容器内の圧力をモニタリングするので、可撓性容器の破損が防げる。これにより、患者ならびに医療スタッフにおける、可撓性容器の形状変化や破損に対する不安が、払拭される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る可撓性容器用保持装置の構成を例示する図である。
【図2】本実施形態に用いる可撓性容器を例示する図である。
【図3】本実施形態に係る可撓性容器用保持装置内に可撓性容器を装着した状態の一例を説明する図である。
【図4】本実施の形態に係る可撓性容器用保持装置に可撓性容器を収納後の状態の一例を説明する図である。
【図5】本実施の形態に係る可撓性容器用保持装置の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に、本実施形態に係る可撓性容器用保持装置10の構成を例示する。可撓性容器用保持装置10(以下「保持装置10」という)は、回転軸(図示せず)を介して見開き可能に一端が係合された剛性部材からなる一対の収納板12a,12bを有し、一対の収納板12a,12bのそれぞれの内面20には、後述する可撓性容器に設けられた流体導入口と係合可能な導入口側溝部14a,14bと、可撓性容器に設けられた流体導出口と係合可能な導出口側溝部16a,16bと、可撓性容器を固定可能な固定部と、可撓性容器の内圧を測定する圧力センサと、が設けられている。
【0024】
収納板12a,12bの素材は、金属または樹脂であり、収納される可撓性容器の膨張によって変形しない程度の剛性を有する。また、これらの収納板12a,12bは、後述する血液浄化器30の形状に倣って、全体を覆うことが可能な形状にされている。
【0025】
また、患者または医療スタッフに対する治療状況の確認の便宜のために、収納板12a,12bの少なくとも一方には、可撓性容器を視認可能な窓(図示せず)が設けられていてもよい。もしくは、収納板12a,12bが光透過性を持つ材質からなっていてもよい。
【0026】
また、本実施の形態では、図1に示すように、可撓性容器を固定可能な固定部は、固定ピン18であり、後述する可撓性容器に設けられた固定孔と嵌合することにより、可撓性容器を保持装置10に固定することができる。
【0027】
一方、可撓性容器の一例を図2に示す。図2に示す可撓性容器は、ソフトバッグ製の血液浄化器30の一例であり、ソフトバッグ製の血液浄化器30は、可撓性のシート部材32と、流体導入口である血液導入口34を備えた導入側ヘッダー35と、流体導出口である血液導出口36を備えた導出側ヘッダー33とを備え、血液浄化器30内には、吸着体が充填されている。また、血液浄化器30の四隅には、保持装置10の固定ピン18(図1に示す)と嵌合する固定孔38が設けられている。
【0028】
ここで、シート部材32の曲げ弾性率は、米国材料試験協会(ASTM)規格のD790に基づいて、500MPa〜3000MPaであることが好適である。シート部材32の具体的な材料としては、塩化ビニル、ポリエチレン、ナイロンおよびこれらの積層(ラミネート)材から適宜選択されると好適である。また、シート部材32の厚さは、0.1mm〜1.0mmであることが好適である。
【0029】
また、導入側ヘッダー35及び導出側ヘッダー33の内表面には、フィルタが固定されている。このフィルタによって、吸着体が外部に流出することが防止されている。
【0030】
図3には、本実施形態に係る保持装置10内に、ソフトバッグ製の血液浄化器30を装着した状態の一例が示されている。図3に示すように、保持装置10の収納板12b側の内面20に、血液浄化器30の一方側面を接触させて、保持装置10の導入口側溝部14bと導出口側溝部16bに、それぞれ、血液浄化器30の血液導入口34と血液導出口36を係合させる。更に、保持装置10の収納板12b側の固定ピン18と、血液浄化器30の固定孔38とを嵌合させる。
【0031】
更に、収納板12aを収納板12bに対峙するように閉じることにより、保持装置10の収納板12a側の内面20に、血液浄化器30の他方側面が接触し、保持装置10の導入口側溝部14aと導出口側溝部16aが、それぞれ、血液浄化器30の血液導入口34と血液導出口36と係合する。更に、保持装置10の収納板12a側の固定ピン18と、血液浄化器30の固定孔38とを嵌合し、血液浄化器30の四隅の固定孔38を介して、収納板12a側の固定ピン18の先端と収納板12b側の固定ピン18の先端とが当接することにより、図4に示すように、血液浄化器30は、保持装置10内に固定される。
【0032】
更に、図1に示す保持装置10は、圧力センサの他に、血液浄化器を用いた体外循環に使用可能なセンサおよび/または装置が搭載されていてもよい。図5には、血液浄化器30を用いた体外循環に使用可能な少なくとも1つ以上のセンサ等が内蔵された、可撓性容器用保持装置10を有する血液浄化装置100の構成の一例が示されている。
【0033】
図1に示す保持装置10は、収納板12a,12b内の少なくとも一方に、ソフトバッグ製の血液浄化器30(図2に示す)のシート部材32に接触し治療中の血液浄化器30の内部圧力をモニタする圧力センサ40と、治療中の血液浄化器30の温度を測定する温度センサ42と、温度センサ42の出力に応じて血液浄化器30を加温するヒータ44と、血液浄化器30からの液漏れを感知する液漏れセンサ48と、血液浄化器30に接触し血液浄化器30を振動させる振動装置52と、光治療(photoapheresis)に使用する光源54とが内蔵され、一方、図5に示す血液浄化装置100は、血液を体外循環させるためのポンプ50と、タイマー46と、保持装置10に内蔵された圧力センサ40、温度センサ42、ヒータ44、液漏れセンサ48、振動装置52および光源54を制御する制御装置60とを有する。
【0034】
ここで、血液の加温のみならず、冷却アフェレシス(cryopheresis)に対応させるために、ヒータ44の他に、冷却器(図示せず)を内蔵してもよい。
【0035】
また、光源54として、紫外線灯、赤外線灯、紫外線LED(light emitting diode)、赤外線LEDまたはその他の波長のLEDなどが用いられる。
【0036】
制御装置60は、例えば、小型のCPU(central processing unit)が用いられる。
【0037】
次に、図5に示す血液浄化装置100の動作について説明する。制御装置60は、圧力センサ40の出力に応じて、ポンプ50による血液循環時の血流量を制御する。これにより、ソフトバッグ製の血液浄化器30の圧力上昇に伴う破損が防止される。また、制御装置60は、温度センサ42の出力に応じて、ヒータ44の温度を調整する。これにより、体外循環される血液が加温され、治療中の患者のQOLが向上するとともに、血液の加温治療を行うこともできる。また、制御装置60は、液漏れセンサ48の出力に応じて、液漏れを感知してポンプ50を停止させる。また、制御装置60は、タイマー46に設定された時間に応じて、振動装置52を一定時間振動させ、血液浄化器30のプライミング時のエア抜きを行う。また、制御装置60は、タイマー46に設定された時間に応じて、光源54から一定時間、所定の波長の光を血液浄化器30に照射する。これにより、特定の光を用いた光治療を自動的に行うことができる。
【0038】
血液浄化装置100は、保持装置10を収納してもよいし、または、保持装置10が血液浄化装置100に外付けされ、無線にて血液浄化装置100により制御されてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 可撓性容器用保持装置、12a,12b 収納板、14a,14b 導入口側溝部、16a,16b 導出口側溝部、18 固定ピン、20 内面、30 血液浄化器、32 シート部材、33 導出側ヘッダー、34 血液導入口、35 導入側ヘッダー、36 血液導出口、38 固定孔、40 圧力センサ、42 温度センサ、44 ヒータ、46 タイマー、48 液漏れセンサ、50 ポンプ、52 振動装置、54 光源、60 制御装置、100 血液浄化装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を介して見開き可能に一端が係合された剛性部材からなる一対の収納板を有し、
前記一対の収納板の内面には、
可撓性容器に設けられた流体導入口および流体導出口と係合可能な溝部と、
前記可撓性容器を固定可能な固定部と、
前記可撓性容器の内圧を測定する圧力センサと、
が設けられていることを特徴とする可撓性容器用保持装置。
【請求項2】
前記一対の収納板の内面には、前記可撓性容器を加温もしくは冷却する温度調節装置が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の可撓性容器用保持装置。
【請求項3】
前記一対の収納板には、液漏れセンサが設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可撓性容器用保持装置。
【請求項4】
前記一対の収納板には、紫外線および赤外線の少なくとも一方を照射可能な光源が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の可撓性容器用保持装置。
【請求項5】
前記一対の収納板には、振動装置が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の可撓性容器用保持装置。
【請求項6】
前記一対の収納板の少なくとも一部は、光透過性を有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の可撓性容器用保持装置。
【請求項7】
流体は、血液もしくは血液成分であり、
前記可撓性容器は、ソフトバッグ型血液浄化器であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の可撓性容器用保持装置。
【請求項8】
請求項7に記載の可撓性容器用保持装置と、
血液を体外循環させるためのポンプと、
少なくとも圧力センサと加温装置からの信号に応じて前記加温装置とポンプの動作を制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする血液浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−239625(P2012−239625A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112218(P2011−112218)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】