説明

可撓性重量コンクリート及び可撓性コンクリート構造物

【課題】コンクリート製地中構造物に好適に用いることのできる、可撓性を有し、かつ高強度の重量コンクリート及び当該重量コンクリートを用いて製造されるコンクリート構造物を提供する。
【解決手段】本発明の可撓性重量コンクリートは、少なくともセメント、水、細骨材及び粗骨材を含む可撓性重量コンクリートであって、粗骨材が重晶石であり、水セメント比が40%以下であることを特徴とするものである。これにより、重量コンクリートの圧縮強度を高く維持しつつ、静弾性係数を低くすることができるため、可撓性が付与された重量コンクリートを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性重量コンクリート及び可撓性コンクリート構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートを用いて製造される構造物であって、地中に埋設されて用いられる構造物(地中構造物)が種々知られている。このような地中構造物としては、例えば、円弧状のコンクリートブロックにより形成され、シールドトンネルの内壁に取り付けられることで、トンネルの壁体を構成するトンネル用セグメントや、地中に埋設するケーブル等の保護用又は排水用コンクリート管等が挙げられる。
【0003】
一般にコンクリートは、圧縮力には強いが引張力(たわみ)には弱いため、地震等によって地盤が変位すると、トンネル用セグメントやコンクリート管等の地中構造物に引張応力が作用し、当該地中構造物にひび割れ等が生じてしまうおそれがある。
【0004】
そのため、従来、可撓性を有する継手等によりトンネル用セグメント同士やコンクリート管同士を連結し、当該継手が地盤の変位等に追随して引張応力を吸収することで、トンネル用セグメントやコンクリート管にひび割れ等が生じるのを抑制している(特許文献1,2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−336392号公報
【特許文献2】特開平9−242959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、可撓性を有する継手等によりトンネル用セグメントやコンクリート管等の地中構造物を連結し、当該地中構造物を構成するコンクリートに作用する引張応力を吸収しようとしても、継手にて吸収し得る引張応力の大きさには限界があり、継手にて吸収しきれない引張応力が作用したときにはコンクリート製の地中構造物にひび割れ等が生じてしまうという問題があった。
【0007】
そのため、継手にて吸収しきれないような大きな引張応力が作用したときであってもコンクリート製地中構造物にひび割れ等が生じるのを抑制可能な、優れた可撓性を有するコンクリートが望まれていた。
【0008】
上記問題に鑑みて、本発明は、コンクリート製の地中構造物に好適に用いることのできる、可撓性を有し、かつ高強度の重量コンクリート及び当該重量コンクリートを用いて製造されるコンクリート構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は第一に、少なくともセメント、水、細骨材及び粗骨材を含む可撓性重量コンクリートであって、前記粗骨材が重晶石であり、水セメント比が40%以下であることを特徴とする可撓性重量コンクリートを提供する(請求項1)。
【0010】
上記発明(請求項1)によれば、粗骨材として重晶石を用いるとともに、水セメント比を40%以下にすることで、重量コンクリートの圧縮強度を高く維持しつつ、静弾性係数を低くすることができるため、可撓性が付与された重量コンクリートを提供することができる。
【0011】
上記発明(請求項1)においては、前記細骨材が重晶石であるのが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、細骨材として重晶石を用いることで、圧縮強度を低下させることなくより静弾性係数を低くすることができ、より可撓性に優れた重量コンクリートとすることができる。
【0012】
上記発明(請求項1,2)においては、前記可撓重量コンクリートの圧縮強度を、50N/mm以上とすることができ(請求項3)、上記発明(請求項1〜3)においては、前記可撓重量コンクリートの静弾性係数を、20〜35kN/mmとすることができる(請求項4)。
【0013】
また、本発明は第二に、上記発明(請求項1〜4)に係る可撓性重量コンクリートを用いて製造されてなる可撓性コンクリート構造物を提供する(請求項5)。かかる発明(請求項5)によれば、可撓性に優れたコンクリート構造物を提供することができ、トンネル用セグメントやコンクリート管等の地中構造物として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンクリート製の地中構造物に好適に用いることのできる、可撓性を有し、かつ高強度の重量コンクリート及び当該重量コンクリートを用いて製造されるコンクリート構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例及び比較例の重量コンクリートにおける水セメント比と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図2】実施例及び比較例の重量コンクリートにおける圧縮強度と静弾性係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートは、少なくともセメント、水、細骨材及び粗骨材を含み、粗骨材が重晶石であって、水セメント比が40%以下である。
【0017】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートに含まれるセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント;高炉セメント、フライアッシュセメント等の各種混合セメント;都市ゴミ焼却灰及び/又は下水汚泥焼却灰を原料として製造した焼成物の粉砕物と石膏とからなるセメント(エコセメント)等を用いることができる。
【0018】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートに含まれる粗骨材は、重晶石である。重晶石は、密度が4.0g/cm程度であって、重量骨材として十分な密度を有するものであり、また、粗骨材として重晶石を用いることで、重量コンクリートの圧縮強度を高く維持したとしても、静弾性係数を低い水準とすることができ、重量コンクリートに優れた可撓性を付与することができる。
【0019】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートに含まれる細骨材としては、特に限定されるものではく、例えば、重晶石、磁鉄鉱、赤鉄鉱、褐鉄鉱、砂鉄、かんらん岩、及びスケールや粒鉄等の鉄鋼副産物等の各種重量細骨材;川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂等の砂系細骨材;各種スラグ骨材;再生細骨材又はこれらの混合物等を用いることができるが、これらのうち重晶石を用いるのが好ましい。細骨材として重晶石を用いることで、静弾性係数をより低くすることができるとともに、より密度の高い可撓性重量コンクリートとすることができる。
【0020】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートは、所望により各種混和剤(例えば、減水剤、消泡剤等)を含むものであってもよい。本実施形態に係る可撓性重量コンクリートは、後述するように水セメント比を40%以下に調整する必要があり、また高密度を確保するためにも単位水量を低くする必要があるため、特に減水剤を含むのが好ましい。
【0021】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートに含まれ得る減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、可撓性重量コンクリートの高密度を確保するために、特に空気の巻込みを抑制する必要がある場合には、消泡剤を添加するのが好ましい。
【0022】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートは、水セメント比が40%以下になるように水とセメントとが配合されたものであり、水セメント比が25〜40%、特に30〜40%になるように水とセメントとが配合されたものであるのが好ましい。水セメント比が40%を超えると圧縮強度が低下してしまうため、好ましくない。また、水セメント比を25%未満とすると、コンクリートの流動性が低下し、作業性(ワーカビリティー)が悪化するおそれがある。
【0023】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートにおける粗骨材及び細骨材の配合は、特に限定されるものではなく、所定のフレッシュ性状を得られるように細骨材率を適宜決定し、当該細骨材率に基づいて粗骨材及び細骨材の配合を適宜決定すればよい。
【0024】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートの流動性(スランプ、スランプフロー)は、所定の作業性(ワーカビリティー)を確保し得る限り特に限定されるものではなく、通常スランプ8cm以上、好ましくはスランプ15cm〜スランプフロー60cm程度である。なお、スランプはJIS−A1101、スランプフローはJIS−A1150に準拠して測定された値である。
【0025】
このような構成を有する本実施形態に係る可撓性重量コンクリートは、静弾性係数が20〜35kN/mmであるのが好ましく、特に23〜32kN/mmであるのが好ましい。かかる静弾性係数を有することで、可撓性に優れた重量コンクリートとすることができる。なお、可撓性重量コンクリートの静弾性係数は、JIS−A1149に準拠して測定された値である。
【0026】
また、本実施形態に係る可撓性重量コンクリートは、材齢28日における圧縮強度が50N/mm以上のものであるのが好ましく、特に50〜80N/mmのものであるのが好ましい。可撓性重量コンクリートを高密度にするためには、水セメント比を低く設定する必要があり、水セメント比を低くすることでコンクリートの圧縮強度は高くなるが、圧縮強度が高くなると、静弾性係数も高くなってしまう。しかしながら、本実施形態に係る可撓性重量コンクリートは、骨材として、特に粗骨材として重晶石を用いることで、コンクリートの圧縮強度を高く(50N/mm以上)維持しながらも、静弾性係数を低くすることができる。なお、圧縮強度は、JIS−A1108に準拠して測定された値である。
【0027】
さらに、本実施形態に係る可撓性重量コンクリートの単位容積質量は、2.5〜3.6kg/Lであるのが好ましく、特に2.8〜3.6kg/Lであるのが好ましい。このような単位容積質量を有することで、当該可撓性重量コンクリートを地中構造物として利用した際に、地下水等による当該地中構造物の浮き上がりを抑制することができる。
【0028】
本実施形態に係る可撓性重量コンクリートは、粗骨材としての重晶石、細骨材及びセメントを混合し、水を加え、さらに所望により各種混和剤を添加して、常法により混練することで製造することができる。
【0029】
そして、得られた可撓性重量コンクリートは、例えば、型枠に打設したり、遠心成形をしたりした後に、養生を施すことで硬化させ、可撓性重量コンクリート構造物を製造することができる。可撓性重量コンクリートの養生方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、蒸気養生、水中養生、気中養生、オートクレーブ養生等の各種養生方法を適用することができる。
【0030】
このようにして得られる可撓性重量コンクリート構造物は、地中に埋設して用いられる地中構造物であるのが好ましく、具体的には、シールドトンネルの内壁に取り付けられることで、トンネルの壁体を構成するトンネル用セグメントや、地中に埋設するケーブル等の保護用又は排水用コンクリート管等を例示することができる。
【0031】
以上説明した本実施形態に係る可撓性重量コンクリートによれば、優れた可撓性を有しつつ、高い圧縮強度を発現することができる。そのため、かかる可撓性重量コンクリートを用いて得られる地中構造物によれば、地盤の変位等によってかかる引張応力に起因するひび割れ等が生じるのを抑制することができる。
【0032】
しかも、本実施形態に係る可撓性重量コンクリートが、高密度の重晶石を粗骨材として用いるものであり、非常に密度の高いコンクリートとすることができるため、地中構造物として利用した際に、地下水等により当該地中構造物が浮き上がってしまうのを、地中構造物(可撓性重量コンクリート)の自重により抑制することができる。
【0033】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1〜4、比較例1〜12〕
下記表1に示すセメント、細骨材、粗骨材及び混和剤、並びに水をコンクリート材料として用い、下記表2に示す配合により混練して可撓性重量コンクリート(実施例1〜4、比較例1〜12)を作製した。なお、空気量(Air)及び単位容積質量は、JIS−A1128に準拠して測定した値である。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
〔圧縮強度測定試験〕
上述のようにして得られた可撓性重量コンクリート(実施例1〜4、比較例1〜12)について、JIS−A1108に準拠して圧縮強度を測定した。結果を表3に示す。また、実施例1〜4及び比較例1〜12の可撓性重量コンクリートにおける水セメント比と圧縮強度との関係を表すグラフを図1に示す。
【0039】
〔静弾性係数測定試験〕
上述のようにして得られた可撓性重量コンクリート(実施例1〜4、比較例1〜12)について、JIS−A1149に準拠して静弾性係数を測定した。結果を表3にあわせて示す。また、実施例1〜4及び比較例1〜12の可撓性重量コンクリートにおける圧縮強度と静弾性係数との関係を表すグラフを図2に示す。さらに、土木学会コンクリート標準示方書[構造性能照査編]に示された圧縮強度と静弾性係数との関係、並びに日本建築学会JASS 5に示された関係式におけるコンクリートの単位容積質量γ=2.4及び3.3とした場合の圧縮強度と静弾性係数との関係を表すグラフもあわせて示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3及び図1に示すように、粗骨材として重晶石を用いて得られた比較例5、6、9及び10(水セメント比=45%、50%)の重量コンクリートは、粗骨材として重晶石を用いていない比較例7、8、11及び12の重量コンクリートに比して圧縮強度が劣る結果となり、その圧縮強度が50N/mm未満であって、十分な圧縮強度を発現することができなかった。
【0042】
一方、実施例1〜4の重量コンクリートは、50N/mm以上の圧縮強度を発現することができた。特に実施例1の重量コンクリートは、比較例2の重量コンクリートと略同等の圧縮強度を発現することが確認された。このことから、水セメント比を40%以下、特に35%にすることで、優れた圧縮強度を発現し得る重量コンクリートを製造可能であることが判明した。
【0043】
また、表3及び図2に示すように、比較例5、6、9及び10の各重量コンクリートは、比較例7、8、11及び12の各重量コンクリートよりも静弾性係数が低く、さらに圧縮強度も低くなっていた。しかしながら、実施例1〜4の各重量コンクリートは、比較例1〜4の各重量コンクリートよりも静弾性係数が低いにもかかわらず、圧縮強度は同等であった。
【0044】
さらに、図2に示すように、粗骨材として重晶石を用いた実施例1〜4、並びに比較例5、6、9及び10の各重量コンクリートは、土木学会及び建築学会によって示された圧縮強度と静弾性係数との関係式よりも下回っていることが確認された。
【0045】
この結果から、少なくとも粗骨材として、好ましくは粗骨材及び細骨材として重晶石を用い、かつ水セメント比を40%以下にすることで、同一水セメント比における重量コンクリート(比較例1〜4)と同等の強度発現が可能であり、かつ静弾性係数の低い重量コンクリートとすることができ、可撓性に優れた重量コンクリートとすることができることが判明した。
【0046】
また、上記結果から、少なくとも粗骨材として、好ましくは粗骨材及び細骨材として重晶石を用いることで、水セメント比を25%以上35%未満とさらに低下させたとしても、同一水セメント比における重量コンクリート(粗骨材として重晶石を用いない重量コンクリート、又は粗骨材及び細骨材として重晶石を用いない重量コンクリート)と略同等の圧縮強度を発現することができ、かつ当該重量コンクリートに比して静弾性係数が低く可撓性に優れた重量コンクリートとすることができるものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の可撓性重量コンクリートは、地中に埋設して用いられる地中構造物用の重量コンクリートとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセメント、水、細骨材及び粗骨材を含む可撓性重量コンクリートであって、
前記粗骨材が重晶石であり、水セメント比が40%以下であることを特徴とする可撓性重量コンクリート。
【請求項2】
前記細骨材が重晶石であることを特徴とする請求項1に記載の可撓性重量コンクリート。
【請求項3】
前記可撓重量コンクリートの圧縮強度が、50N/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の可撓性重量コンクリート。
【請求項4】
前記可撓重量コンクリートの静弾性係数が、20〜35kN/mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の可撓性重量コンクリート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の可撓性重量コンクリートを用いて製造されてなる可撓性コンクリート構造物。

【図1】
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【図2】
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