説明

台車走行試験装置

【課題】鉄道用台車車輪が軌条輪の速度に追従できなくなり、軌条輪上を滑り、固着状態に至るときを検知して、鉄道用台車車輪及び軌条輪の磨耗を防止すること。
【解決手段】鉄道用台車5における鉄道用台車車輪車輪5aの回転数を演算により算出し、鉄道用台車車輪5aの回転が軌条輪2の回転による制御から不能に陥る固着状態か否かを、鉄道用台車車輪5aの回転数から判定する固着判定手段14と、軌条輪2の回転数を算出して減速度を計算する減速度計測手段11とを備え、試験用速度パターンに沿って軌条輪2の速度を制御する走行試験中は、軌条輪2の減速度を監視しながら、鉄道用台車車輪5aが固着状態にあるか否かを検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両本体が載置される鉄道用台車の台車走行試験装置に関し、更に詳しくは、台車走行試験中に発生する台車の車輪等の磨耗を防止する台車走行試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の高速化、ダイヤの過密化が著しい現在、鉄道車両の性能向上・運行の安全は、最も重要な課題となっている。それに伴い、鉄道用台車においても高速化への対応や安全性の確認等が必要となる。これらの課題を解明し、改善を図る一つの手段として、鉄道車両のレール走行を再現可能な台車走行試験装置が使用されている。
【0003】
今後、台車走行試験装置は、高速走行中における鉄道用台車の挙動をより深く理解する上において重要な役割を果すと予想される。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の台車走行試験装置は、小曲率半径軌道上の高速化と大曲率半径軌道上の高速化とに対応するため、任意の曲率の軌道を模擬的に生成し、鉄道車両のレールを模した軌条輪と、軌条輪を走行する台車とから構成されている。
【0005】
また、特許文献2では、鉄道用台車だけでなく鉄道車両を搭載し、精度よく車両全体の走行試験を行う車両走行試験装置も提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−356165号公報
【特許文献2】特許第03428208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術において、台車走行試験装置で試験用速度パターンに沿って軌条輪速度を制御し走行試験を行う場合に、減速時には急激な減速とならないように、即ち、過大な減速度が発生しないように十分考慮されるべきであるが、速度パターンが適切でない場合や、従来よりも高い速度からの減速、または、何らかの故障等で軌条輪に急激な減速が起こった場合は、鉄道用台車車輪は軌条輪の速度に追従できず滑り始め、軌条輪の回転から制御不能に陥り、固着による滑走状態となってしまう。一旦、固着状態となると、軌条輪に鉄道用台車車輪が削られ、鉄道用台車車輪踏面はフラット(磨耗)が発生し、軌条輪踏面も磨耗やキズが発生してしまう。その場合は、鉄道用台車の走行試験が行えないばかりか、鉄道用台車車輪や軌条輪の磨耗部分を研削する必要がある。そのためには、鉄道用車輪は鉄道用台車から、軌条輪は装置より取り外す必要があり、時間とコストがかかる。
上記問題点に鑑み、本発明は、鉄道用台車車輪が軌条輪の速度に追従できなくなり、軌条輪上を滑り、固着状態に至るときを検知して、鉄道用台車車輪及び軌条輪の磨耗を防止する台車走行試験装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記の目的を達成するため、まず、鉄道車両が走行するレールを模した軌条輪を有し、前記鉄道車両における鉄道用台車の車輪を試験用速度パターンに沿って前記軌条輪上を走行させながら当該台車の速度を制御し、走行試験を行う台車走行試験装置において、前記鉄道用台車の車輪の回転数を演算により算出し、前記車輪の回転が、前記軌条輪の回転による制御から不能に陥る固着状態か否かを当該車輪の回転数から判定する固着判定手段と、前記軌条輪の回転数を算出して減速度を計算する減速度計測手段とを備え、前記試験用速度パターンに沿って軌条輪の速度を制御する走行試験中は、前記軌条輪の減速度を監視しながら、前記鉄道用台車の車輪が固着状態にあるか否かを検知する台車走行試験装置が提供される。
【0009】
また、本発明では、前記鉄道用台車の車輪が固着状態にあるときを検知したときは、前記軌条輪をフリーランとする台車走行試験装置が提供される。
【0010】
また、本発明では、前記固着判定手段は、前記軌条輪が減速状態のときに、前記鉄道用台車の車輪の任意時間間隔における回転数に変化がない場合に固着状態にあると判断する台車走行試験装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄道用台車の走行試験を行う台車走行試験装置において、鉄道用台車車輪及び軌条輪の磨耗を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態になる台車走行試験装置を示す図である。図1において、台車走行試験装置1は、鉄道用台車5を1台搭載可能であり、鉄道用台車車輪(5a)1軸毎にそれぞれ鉄道車両のレールを模した軌条輪2を有する。軌条輪2は軌条輪ベース3上に配置されている。鉄道用台車5は、鉄道車両の本体部を載置するものであり、一車両につき2台の鉄道用台車5が用いられる。さらに、鉄道用台車5は、1台につき鉄道用台車車輪(5a)を2軸備えている。この軌条輪2上に鉄道用台車5の鉄道用台車車輪5aが設置される。また、鉄道用台車5は、固定装置4により装置建屋6に固定され、鉄道車両と同等の負荷がかかった状態が実現されている。軌条輪2には、それぞれ回転駆動用の軌条輪電動機7が設置されている。この軌条輪電動機7の回転駆動による軌条輪2の回転により、鉄道用台車5の鉄道用台車車輪5aは軌条輪2の回転方向とは反対方向に連れ回る。
【0014】
軌条輪電動機7への回転指令は、図1で実線の矢印で表しているが中央演算装置8(以下、「CPU」と略す)より軌条輪電動機用コントローラ9に対して出力される。回転指令は、試験の対象となる鉄道用台車5毎に作成される速度パターンに基づいて行われる。この回転指令の元となる速度パターンは図示していないメモリまたは外部記憶媒体に保存されており、実施したい試験の条件に合わせて任意の速度パターンを選択可能となっている。具体的には、軌条輪電動機用コントローラ9は、CPU8より、出力された速度指令により軌条輪電動機7の回転数を制御する。また、軌条輪電動機7の回転方向は一方向としてもよいし、逆回転可能としてもよい。
【0015】
図2は、台車走行試験装置に用いる速度パターンを示す図である。図2は、横軸が時間(s)、縦軸が速度(km/h)の時間基準のパターンである。図2では、時間軸(s)は、加速領域、一定速領域及び減速領域からなる。加速領域は、速度がゼロの状態から一定の割合で加速を増加させていく領域であり、一定速領域は、加速を増加させた後、加速をゼロにして最高速度を保持した領域であり、減速領域は、最高速度を保持した状態から一定の割合で減速し速度がゼロになるまでの領域である。
【0016】
軌条輪電動機7より回転駆動される軌条輪2の回転数は、軌条輪2の回転をパルスに変換して発生させるパルス発生器10により発生したパルスをCPU8に入力し、入力されたパルスに基づいて演算により求められる。さらに、CPU8により算出された回転数は、減速度計測手段11に送られる。そして、減速度計測手段11は、軌条輪2の所定時間の回転数に基づいて演算により減速度を求める。
【0017】
一方、鉄道用台車車輪5aの回転数は、車輪の回転数を電力に変換する台車速度発電機12により検出する。台車速度発電機12は、例えば、永久磁石からなる凸極回転子と、電気子巻線を有する固定子とを組み合わせて、回転子に与えられた回転速度に比例した電圧を、固定子側から検出する発電機である。台車速度発電機12の出力電圧は、回転数演算手段13に送られ、鉄道用台車車輪5aの回転数が演算により求められる。回転数演算手段13では、台車速度発電機12の出力電圧が鉄道用台車車輪5aの回転数と比例関係にあることにより、演算で鉄道用台車車輪5aの回転数を求める。
【0018】
求めた車輪回転数は、固着判定手段14に送られ、鉄道用台車車輪5aが固着状態か否か判定される。
【0019】
図2に示す速度パターンを用いた台車走行試験装置1における走行試験の一例について説明する。図2は、横軸が時間(s)、縦軸が速度(km/h)の時間基準のパターンであるが、横軸が距離(km)、縦軸が速度(km/h)の距離基準の速度パターンでも良い。試験手順を次に示す。
【0020】
まず、図2に示す加速領域では、前述の通り、図1においてCPU8より速度指令が軌条輪電動機用コントローラ9に対して出力される。これにより、軌条輪電動機7の回転数が制御され、軌条輪2が速度パターンに示す最高速度まで加速される。鉄道用台車5の鉄道用台車車輪5aは軌条輪2により連れ回るので同様に速度パターンに示す最高速度まで加速される。
【0021】
次に、一定速領域では同様に、軌条輪電動機7の回転数が一定速になるように軌条輪電動機用コントローラ9に指令が送られ、結果として軌条輪2の回転数が一定速になるように制御され、鉄道用台車車輪5aも一定速となる。
【0022】
次に、減速領域では、同じく軌条輪2が速度パターンに沿って減速するようにCPU8から軌条輪電動機用コントローラ9に指令が送られて制御され、軌条輪2の速度の減速が開始される。鉄道用台車車輪5aは、軌条輪2につれ回り、同じく減速する。軌条輪2の速度がゼロとなり試験終了となる。試験中は、図示していないセンサを用いて走行時の鉄道用台車5の振動等が計測される。
【0023】
上記試験において、減速時には急激な減速とならないように、即ち、減速時に過大な減速度が発生しないように十分考慮されるべきであるが、速度パターンが試験をする鉄道用台車5にとって適切でない場合や、従来よりも高い速度からの減速、または、何らかの故障等で軌条輪2に急激な減速が起こった場合は、鉄道用台車車輪5aは、軌条輪2の速度に追従できず滑り始める。結果として現車における固着による滑走状態、即ち、固着状態となる。
【0024】
ここで、固着状態とは、軌条輪が減速状態にもかかわらず、所定の時間間隔における鉄道用台車車輪5aの回転数に変化がない場合をいう。所定の時間間隔は、例えば、2〜3秒間である。この固着状態では、鉄道用台車車輪5aは、減速中の軌条輪2によりその接触面が削られることによる磨耗が生じる。
【0025】
次に、本発明の台車走行試験装置1において、鉄道用台車車輪5aが固着状態に至る瞬間を検知して、鉄道用台車車輪5a及び軌条輪2の磨耗を防止する動作について図3により詳細に説明する。
【0026】
図3は、磨耗防止の動作を説明するフローチャートである。まず、図2に示す速度パターンに基づいて、CPU8により、速度指令が軌条輪電動機用コントローラ9に対して出力される。軌条輪電動機用コントローラ9は、CPU8より出力された速度指令により、軌条輪電動機7の回転数を制御し、一定の加速度で速度を最高速度まで上昇させる。次に、軌条輪電動機用コントローラ9は、軌条輪電動機7の加速を停止して、最高速度の一定速で軌条輪2を回転させる。
【0027】
次に、軌条輪2は、図2に示す速度パターンのように、減速される(3−1)。次に、減速中の軌条輪2の減速度が計算される(3−2)。減速度の計算は、軌条輪2の回転数をCPU8により計算した後、回転数を減速度計測手段11に入力する。減速度計測手段11では、入力された回転数を速度に変換し、所定時間の速度の変化を計測することにより減速度を算出する。この減速度をCPU8に入力することにより、CPU8は、実際に減速状態にあることを確認し、軌条輪2の速度がゼロになるまで減速するように軌条輪電動機用コントローラ9に速度指令を出力する。
【0028】
次に、鉄道用台車車輪5aの回転数が計算される。鉄道用台車車輪5aの回転数は、上述したように、車輪の回転数を電力に変換する台車速度発電機12の出力電圧を回転数演算手段13に送ることにより、鉄道用台車車輪5aの回転数が演算により求められる(3−3)。
【0029】
次に、鉄道用台車車輪5aの車輪回転数から固着判定手段14は、鉄道用台車車輪5aが固着状態にあるか否かを判定する。軌条輪2が減速状態にもかかわらず、鉄道用台車車輪5aの任意時間間隔での回転数に変化がない(回転数が下がっていない)場合に固着状態と判断する。固着状態が発生していない場合は、試験続行となる(3−8)。
【0030】
固着状態にあった場合は、固着判定手段14がCPU8に対して、鉄道用台車車輪5aが固着状態にあることを通知する(3−5)。CPU8は、固着判定手段14から鉄道用台車車輪5aの固着状態発生通知を受けて、軌条輪電動機用コントローラ9に対してフリーラン指示を出す(3−6)。フリーランとは、軌条輪電動機用コントローラ9から軌条輪電動機7への速度制御が解除され、軌条輪2は軌条輪電動機7から駆動力を伝達されることなく、慣性のみで自在に回転する状態をいう。
【0031】
このように、軌条輪2はフリーランとなることにより、例えば、不適切な速度パターンによる急激な減速から開放され、鉄道用台車車輪5aに対して強制力を与えることがなくなる。
【0032】
CPU8によるフリーラン指令は、図1では、一点鎖線の矢印で示している。フリーラン指示を受けた軌条輪電動機用コントローラ9により、軌条輪電動機7はフリーランとなるため軌条輪2もフリーランとなる。そして、再度、固着判定手段14は、鉄道用台車車輪5aの回転数により鉄道用台車車輪5aが固着状態にあるかを判定する。ここで、再度、固着状態にあるか否かを判定するのは、減速度によっては、フリーラン状態にあっても、鉄道用台車車輪5aが固着状態から直ちに開放されるとは限らないからである。そこで、依然固着状態である場合は、固着状態が開放されるまで、固着判定手段による監視を続行する(3−7)。次に、任意時間間隔において、鉄道用台車車輪5aの回転数が変化した場合(回転数が下がった場合)、即ち、固着状態を脱した場合は、更に、速度パターンに基づく鉄道用台車5の走行試験が続行される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態になる台車走行試験装置を示す図である。
【図2】上記の台車走行試験装置で用いられる速度パターンの一例を示す図である。
【図3】上記の台車走行試験装置における磨耗防止の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
1…台車走行試験装置、2…軌条輪、3…軌条輪ベース、4…固定装置、5…鉄道用台車、5a…鉄道用台車車輪、6…装置建屋、7…軌条輪電動機、8…CPU、9…軌条輪電動機用コントローラ、10…パルス発生器、11…減速度計測手段、12…台車速度発電機、13…回転数演算手段、14…固着判定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両が走行するレールを模した軌条輪を有し、前記鉄道車両における鉄道用台車の車輪を試験用速度パターンに沿って前記軌条輪上を走行させながら当該鉄道用台車の速度を制御し、走行試験を行う台車走行試験装置において、
前記鉄道用台車の車輪の回転数を演算により算出し、前記車輪の回転が前記軌条輪の回転による制御から不能に陥る固着状態か否かを、当該車輪の回転数から判定する固着判定手段と、前記軌条輪の回転数を算出して減速度を計算する減速度計測手段とを備え、
前記試験用速度パターンに沿って軌条輪の速度を制御する走行試験中は、前記軌条輪の減速度を監視しながら、前記鉄道用台車の車輪が固着状態にあるか否かを検知する
ことを特徴とする台車走行試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の台車走行試験装置において、
前記鉄道用台車の車輪が固着状態にあるときを検知したときは、前記軌条輪をフリーランとする
ことを特徴とする台車走行試験装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の台車走行試験装置において、
前記固着判定手段は、前記軌条輪が減速状態のときに、前記鉄道用台車の車輪の任意時間間隔における回転数に変化がない場合に固着状態にあると判断する
ことを特徴とする台車走行試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−186363(P2009−186363A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27692(P2008−27692)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)