説明

合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ジメチルエーテルの生産方法に関し、詳述すれば、本発明は合成ガスから3相反応装置を用いてジメチルエーテルから直接生産する方法に関する。
【0002】合成ガスのジメチルエーテルへの転換には3工程が必要とされる。従来、合成ガスは、炭化水素の改質又は石炭やコークスなどの炭素源のガス化によって生産されている。後者により得られる合成ガスは、通常ジメチルエーテルの合成のためにはCO濃度が高過ぎるので、従来のジメチルエーテル製造においては中間工程が必要であった。即ち、ジメチルエーテル合成の第1工程は、合成ガスの組成を次式による水・ガスのシフト反応により調整する。


水素と炭素酸化物との比を調整した後、ガスを次式の反応を行なわせてメタノール(MeOH)を生成させる。


次に、メタノールを脱水してジメチルエーテル(DME)を生成させる。


反応(1)、(2)及び(3)は、平衡に限界があり、しかも発熱を伴う。その上、メタノール合成と脱水反応の双方の触媒は、過熱したときに活性を失ってしまう。従って、熱力学的限界と触媒の過度の失活を防ぐために、従来のガス反応器においては、1回バス当りの添加率を低くして操業し、適切な反応温度を維持する必要があった。そしてその結果、一酸化炭素のジメチルエーテルへの転化には限界があった。
【0003】各反応に別々の反応器を用いる多工程操作では、前記3反応の潜在相乗作用を活用できない。これらの3反応が同時に行われる場合メタノール合成は、前方シフト反応を活発化させ、またジメチルエーテル反応は、前記メタノールとシフト反応の双方を活発化させる。その結果、1工程操作は、多工程操作に比較して、さらに順応性があって、さらに広範な範囲の条件下で操作が可能である。そのうえ、多工程操作は、別々の反応器、熱交換器および関連装置がおのおの反応に必要である。
【0004】単一工程気相法は、一般に多工程気相法より少い装置しか必要としない。しかし、そのような単一工程気相法でも、反応の正味熱が高いため、反応器に大量の発熱が伴う欠点がある。その故に、低い1回当り転化率が、反応器温度を維持して、これらの反応に関連して起こる大量の熱上昇による触媒の短い寿命を防ぐことが必要となる。気相反応器は恒熱的でないので、1回当り反応体の転化率にしばしば酷しい平衡限度がある。
【0005】ジメチルエーテル合成の先行技術の多くは、改質触媒を用いてシフト合成ガス(HのCOに対する比が1以上)を流す方法に集中している。たとえば、米国特許第4,417,000号、4,423,155号、4,520,216号、4,590,176号および4,521,450号がそれである。これらの方法はすべて、気相に取り組み、それらがすべて供給材料を前記反応(1)を経てシフトさせる必要がある点で多工程方法と考えても差支えない。
【0006】単一工程気相方法は、モービル社(Mobile Corp.)とハルドー・トプソー社(Haldor・Topsoe)が開示している。たとえば、米国特許第4,011,275号は、H不足合成ガス供給材料を用いるメタノールとジメチルエーテルの共生産の気相方法を開示する。この特許には実施例を示していないが、本方法は、合成ガスの転化率改質には有用であることが事実である。米国特許第4,341,069号は、一貫式ガス化混合サイクル発電装置と併用されるジメチルエーテル生産の気相法を開示する。本特許に示された実施例は、触媒の頻繁な再生が必要で、1日1回という場合もある。また別の気相法を、米国特許第4,481,305号に記述しているが、この方法は、供給ガスにおける狭い範囲のCOのCOに対する比率内の操作に限られている。注目すべきは反応温度を維持するだけの十分な熱排除がこれらの特許では概して述べられていない。フジモト(Fuzimoto)ほかが、1984年版「Chem.Letters」第2051頁で、気相1工程操作の化学現象を論じている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】液相での混合メタノール・ジメチルエーテル合成が、多数の研究者により報告されている。シャーウィン(Sherwin)とブルム(Blum)は、「エレクトリック.パワー.リサーチ.インスチチュート向けに作成した「リキッドフェーズ.メタノール.インタラムリポート、1978年5月版」と題するその論文で、酸触媒成分を装置に加えて、ジメチルエーテルを共生産する液相メタノール法の修正を試みた。前記両研究者は、微少量のジメチルエーテルを観察して、その試みが不成功であったことを結論づけた。ダロダ(Daroda)ほかは、1980年版「J.C.S.Chem.Comm.」第1101頁で、合成ガスの2−メトキシエタノール中におけるFeとの反応生成物の広幅スレートについて報告している。しかし、この装置における溶剤は、反応体として作用するようで、触媒は多数の副産物を生成する。その結果、どちらの早期液相法も経済的でなかった。
【0008】しかし、上記したような従来技術による液相反応での合成ガスからのジメチルエーテルの合成は未だ十分効率的なものとはいえなかった。本発明の目的は、液相反応器を使用して合成ガスからジメチルエーテルを効率的に生産する方法を提供することにある。
【0009】1990年版「ケミカルエンジニアリングサイエンス」第45巻8号の第2735乃至2741頁の「シングルステップ.シンセシス、オブ、ジメチルエーテル、イン.ア.スラリーリアクター(Single−Step Synthesis of Dimethyl Ether in a Slurry Reactor)」と題するJ.J.リューナード(Lewnard)ほかの論文では容量比で20乃至60%の一酸化炭素を含む合成ガス供給材料を用いる、液相反応器におけるジメチルエーテルとメタノールの合成を開示している。重量比で36乃至54%のメタノール合成触媒と、残量がメタノール脱水触媒を含む混合触媒も開示されている。この合成は、1990年8月19日乃至22日にサンディエゴで行われた、AIChE1990年のナショナルミーティングで提出された「シンセシス.オブ.ジメチルエーテル.フロム.シンガス.イン.ア.スラリーリアクター(Synthesis of Dimethyl Etherfrom Syngas in a Slurry Reactor」と題するT.H.フシアング(Hsiung)ほかによる論文に記述されている。
【0010】本発明の目的は合成ガスからジメチルエーテルを効率的に生産する方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するための本発明は、水素、一酸化炭素及び二酸化炭素を含む合成ガスを液相反応器内で不活性液体中にスラリー化させた粉末触媒と接触させてジメチルエーテルとメタノールとを同時に生成させるようにした合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法において、前記粉末触媒には重量比で約70乃至95%の銅含有メタノール合成触媒と残部がアルミナ、シリカーアルミナ、ゼオライト、固体酸、固体酸イオン交換樹脂及びこれらの混合物からなる群から選ばれたメタノール脱水触媒からなる粉末触媒を使用し、前記液相反応器において触媒粉末に接触させる合成ガスの1時間当りの空間速度を、3,000乃至15,000リットル/kg触媒・時間になるようにしたことを特徴とする合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法である。
【0012】
【作用】本発明は、水素、一酸化炭素および二酸化炭素を含む合成ガスから、液相反応器に入っている不活性液体中でスラリー化した粉末状触媒に前記合成ガスを接触させることと、それからジメチルエーテルとメタノールを含む生成物を回収することからなるジメチルエーテル生産の方法である。ジメチルエーテルとメタノールの選択性は、反応条件と触媒組成物またはそのいずれかを変えて、以下この明細書に記述されるように最適化して特定最終用途に適合させることができる。ジメチルエーテルとメタノールの混合物は、その燃料価値または特有の化学的または物理的特性に基く他の用途に利用できる。ジメチルエーテルは周知の方法で前記混合生成物から分離して、広範な用途で有用な単一生成物として回収できる。
【0013】本方法は、単一触媒混合物または、作業の方式によって、付形ペレットの形または微粉末の形にした触媒の物理的混合物を用いる。文献では、本方法の各個々の反応に多種類の触媒のあることが周知であり、これらは反応器中で種々の割合で混合できる。単一触媒混合物または複数の触媒の物理的混合物には、メタノール合成とメタノール脱水の双方を促進をする触媒材料が含まれる必要がある。本反応器装置は、単一3相反応器もしくは1連の段階式3相反応器のいずれかで差支えない。本発明の方法が、1連の段階式3相反応器で実行できるとはいえ、前記ジメチルエーテル合成は、単一工程で行われる。すなわち、合成手順におけるすべての3反応とも同時に進められることである。
【0014】本発明の方法は、約1/8″乃至1/4″(約3.2乃至6.3mm)の典型的ペレット直径の粒状(付形ペレット)を用いる懸濁気泡塔方式もしくは、粒度が200ミクロン以下の粉末触媒を用いるスラリー方式で操作できる。液状媒体中の触媒の濃度は重量比で約5%乃至60%の範囲内である。さきに述べたように、単一触媒混合物または複数触媒の物理的混合物には、メタノール合成とメタノール脱水双方を促進する触媒材料が含まれる必要がある。前記メタノール合成触媒材料は、たとえば、典型的な銅含有メタノール合成触媒からなっても差支えない。脱水触媒材料を、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト(たとえばZSM−5)、固体酸(たとえばホウ酸)、固体酸イオン交換樹脂(たとえば、ペルフッ素化スルホン酸)およびそれの混合物からなる群より選ぶことができる。
【0015】本発明方法による液相反応器の好ましい操作条件としては、圧力が200乃至2,000psig、さらに好ましくは400psig乃至1,500psigの範囲で、温度が200乃至300℃の範囲であり、合成ガスの空間速度は、1時間当り、触媒1kg当りの合成ガス量が標準状態で3,000乃至15,000l、さらに好ましくは5,000乃至10,000lの範囲とするのがよい。又、本発明の方法は、前記合成ガス中の一酸化炭素の濃度が容量比で50%以上を占めるような、高CO含有合成ガスの場合に特に有効である。
【0016】本方法においては、水を蒸気又は液体として合成ガス供給材料とともに液相反応器に送ることができる。水の添加は、合成ガス中の水素濃度が、容量比で10%以下の場合に特に有効である。液体溶媒中の触媒の濃度は、きわめて稀薄の濃度の重量比5%からきわめて濃厚な濃度の60%以上まで変えることができる。又触媒は、不活性油、例えばパラフィン系炭化水素又は炭化水素混合物などの中に含ませ得る。他の種類の液体、例えばアルコール、エーテル及びポリエーテルのような酸素化物の液体も周知のように液相法には有効である。これらの酸素化液体は、不活性であること、かつ単一成分での沸点もしくは混合物での沸点が150乃至450℃の範囲であることが望ましい。
【0017】本発明の方法において、合成ガスは反応器に導入され、液状媒体に含まれる触媒に接触する。合成ガスは、典型的例として、H、CO、CO、そしてしばしば不活性種たとえばNおよびCHからなる。前記ガスの組成物は、実施例に示されているように多岐に亘ることができる。H、COおよびCOの供給濃度によって、HOを液体もしくは蒸気として、前記ガス組成物を前記シフト反応を経て調整するため、作業に補給することが有利である。そのうえ、ジメチルエーテル生成物の選択性に作用させるため、COを供給ガスから除去することも有利である。COの除去は、普通の機構、たとえば、CO選択性溶剤たとえば、アミンを用いる圧力変動吸着もしくは吸収により達成できる。供給ガスは、貫流方式で全部が未使用供給材料からなるが、未使用材料と再循環ガスとの混合物からなっても差支えない。
【0018】操作条件は、作業条件と反応器の種類によっり多岐に亘る。昇圧は合成を典型的に増進させるので、圧力は雰囲気圧から高圧の範囲内で変化する。好ましい圧力範囲は200乃至2000psigさらに好ましくは約400乃至1500psigである。温度範囲は約200°C乃至約350°C、好ましくは225°C乃至300°Cである。
【0019】作業条件と収量は、次掲の実施例に示されており、それには、様々の触媒混合物と同様単一触媒と、HOの補給を用いることが記述されている。すべての実験は300ccまたは1lのステンレス鋼オートクレーブのいずれかで行い、供給ガスおよび生成ガスの分析をガスクロマトグラフで行った。全実施例(実施例4を除く)では、メタノール合成触媒を、メタノール脱水触媒と不活性液体と共に反応器に装入し、前記メタノール合成触媒を現場で還元した。その後、実験を所定の触媒装入量に対し種々の作業条件で実施した。全実施例において、空間速度と生産性は、低下に先立って本装置に装入された混合触媒の全重量を基準にしている。
【0020】
【実施例】次掲の実施例は、単一3相反応器で実施されたが、本発明の方法は一連の段階式3相反応器で行うことができる。種々の反応器の作業条件を変えることができるが、反応器1つ1つでは変えられないで、合成過程における単一反応を単離達成する。本発明の方法は、ジメチルエーテル合成過程の3反応を同時に実施することで達成される。
実施例1最初の一連の実験は、複合合成ガス供給材料(55%H、19%CO、5%CO、21%N)を250°Cの温度、800psigの圧力で用いて実施された。20gの粉末状BASF S3−85メタノール合成触媒(平均粒度が50ミクロン以下の特殊担体上に重量比で約40%のCuO)と、20gの200メッシュ高純度δアルミナ[表面積が250M/g、細孔容積(0〜100オングストローム)が0.45cc/g、商品名Catapal(R) SBで市販のベーマイトから調製]からなる重量比25%スラリーを脱ガスしたWitco70オイル中で調製した。このオイルは、100%パラフィン系炭化水素で、沸点範囲が310乃至419°C、比重が0.845、表面張力が29.6ダイン/cmと、粘度が19.5CPですべてが温度25°Cにおける数値であるが、粘度4.7CPは温度75°Cにおける数値である。結果は表1に示されるが、メタノールとジメチルエーテルが唯一の検出生成物であった。メタノールだけとジメチルエーテルのCO転化率の比較は、単一工程ジメチルエーテル法が全CO転化率においてメタノールだけの生産よりもさらに効率的である。実際問題として、実験1と2は、メタノールだけの熱力学的最大転化率より大きいCO転化率を示す。
【0021】COには、ジメチルエーテル生成に大きい影響力を与えることがわかった。実験5では入口COがないが、実験3よりも実質的に高いジメチルエーテル生産性と選択性を示した。この比較は供給ガスからのCO除去のポテンシャルを示す。
【0022】
【表1】




実施例2異なる組成の触媒混合物と、異なるガス供給材料の使用を示すために第2の一連の実験を20gのBASF・S−85メタノール触媒(実施例1で記述したもの)と、重量比で86%のシリカと13%のアルミナからなり、475M/gの表面積を有し、20gの脱ガスWitcoオイル(実施例1で記述したもの)中でスラリー化したダビソン(Davison)シリカ/アルミナMS13/110として市販されてるシリカ/アルミナの40gとを用いて行なった。6〜15の10個の実験条件について高CO及び平衡ガスを用い、250℃及び265℃の温度と800psigの圧力で実験を行なった。その結果を表2に示す。平衡ガスの組成は実施例1と同様の組成であり、高COガスの組成は、35%H、51%CO、13%CO、及び1%Nである。
【0023】
【表2】
――――――――――――――――――――――――――――――――実験 供給 温度 ガス時間当り 生 産 性 DME/MeOH 材料 °C 空間速度 (gモル/kg 選択性 (標準l/Kg- 触媒・時間) (モル%/ 触媒・時間) DME MeOH モル%) ―――――――――――――――――――――――――――――――― 6 Bal 250 1870 2.46 0.96 72/28 7 Bal 250 3130 2.57 1.66 61/39 8 Bal 250 1120 1.92 0.57 77/23 9 Bal 263 1870 2.57 0.92 74/26 10 Bal 264 3730 3.09 1.45 68/32 11 Bal 265 1350 2.12 0.54 80/20 12 CO-rich 250 1870 1.41 0.42 77/23 13 CO-rich 250 1870 1.36 0.46 75/25 14 CO-rich 250 3130 1.18 0.59 66/34 15 CO-rich 250 1120 1.16 0.26 82/18 ――――――――――――――――――――――――――――――――実施例3第3の一連の実験は、HO補給を用いる作業と、同時シフトメタノールとジメチルエーテル反応を示す。25gの粉末BASF K3−110市販低温シフト触媒(これは重量比で40%がCuO、40%がZnO、残量がAlであり、100M/gの表面積をもつ)と、25gのBASFS3−85(実施例1に記述)、および25gの高純度アルミナ(実施例1に記述)からなる重量比で15%のスラリーを425gの脱ガスWitco70オイル(実施例1に記述)中でスラリー化した。圧力は800psigであった。供給ガスは、0.8%がH、57.7%がCO、15.5%がCO、残量がNであった。蒸気を前記ガスで補給して、COと生成物Hをシフトした。結果は表3に要約されている。
【0024】
【表3】
――――――――――――――――――――――――――――――――実験 供給 温度 ガス時間当り 生 産 性 DME/MeOH 材料 °C 空間速度 (gモル/kg 選択性 比 (標準l/Kg- 触媒・時間) (モル%/ 触媒・時間) DME MeOH モル%) ――――――――――――――――――――――――――――――――16 0.50 249 2000 0.40 2.19 16/8417 0.33 247 1860 2.64 2.11 56/44――――――――――――――――――――――――――――――――次の一連の実験は、本方法に単一触媒種の使用を示している。アルミナ触媒上に銅を、100mlの脱イオン水中に64.03gのCu(NO・2.5HOを溶解することで調製した。前記溶液を用いて、78.14gのAlを数部分において含浸させ、その含浸間をNパージングした。触媒を液通し110°Cの温度で乾燥させ、N中で2%のHを用いて還元した。還元につづいて、25gの触媒(酸化物の40.6gに当る)を100gの脱ガスWitco70オイル中でスラリー化した。装置を800psigの圧力で操作し、その結果は表4に示される。
【0025】
【表4】
――――――――――――――――――――――――――――――――実験 供給 温度 ガス時間当り 生 産 性 DME/MeOH 材料 °C 空間速度 (gモル/kg 選択性 (標準l/Kg- 触媒・時間) (モル%/ 触媒・時間) DME MeOH モル%) ――――――――――――――――――――――――――――――――18 Bal 249 3000 0.58 0.45 56/4419 Bal 265 3000 0.82 0.41 67/3320 Bal 296 3000 1.07 0.28 79/21――――――――――――――――――――――――――――――――実施例5もう1つ別の一連の実験は、異なるメタノール触媒成分との触媒混合物の使用示す。2つの別の試みでは、平均粒子の直径が50ミクロン以下、アルミナ上のCuO・ZnOである粉末BASF S3−86触媒15gと、Davisonシリカアルミナ(実施例2に詳述)15gを、100gのPenreco Drakeol10(以前にはSontex100として周知)の鉱油でスラリー化した。この鉱油は、沸点範囲が283°C(初期沸点)乃至419°C(ASTMD1160により90%蒸留)、比重が0.849、表面張力が30ダイン/cmおよび粘度が31.2CP、これらすべては温度25°Cにおいてでありそして引火点が185°Cである65%パラフィン系35%ナフテン系炭化水素である。オートクレーブは高COガスで750psigに加圧された。結果を表5に要約する。
【0026】
【表5】
―――――――――――――――――――――――――――――実験 温度 ガス時間当り 生 産 性 DME/MeOH °C 空間速度 (gモル/kg 選択性 (標準l/Kg- 触媒・時間) (モル%/ 触媒・時間) DME MeOH モル%) ――――――――――――――――――――――――――――― 21 250 1500 2.80 2.33 55/4522 250 733 1.50 0.62 71/2923 250 1500 2.73 1.32 67/3324 250 1425 2.28 0.34 87/1325 250 2163 1.61 1.81 47/5326 260 1925 1.71 1.16 60/4027 260 1500 2.42 0.89 73/2328 260 733 0.56 0.21 73/2329 260 1620 0.65 0.48 58/4230 250 860 0.92 0.50 65/35――――――――――――――――――――――――――――― BASF S3−86触媒を用いて第2の一連の実験を実施し、その結果は表6に示されている。効果的メタノール速度を、実験34と35のスラリーにNaClとして4gの塩化物の注入により慎重に減少させた。これは有効メタノール速度を限界値以下に減少させ、結果としてジメチルエーテルの速度を零に減少させる。
【0027】
【表6】


実施例6一連の実験を先の実施例の実験手順を用いて実施し、触媒組成物中のメタノール合成触媒のメタノール脱水触媒に対する比率が生成物組成に与える影響を研究した。全実験は250℃の温度と750psigの圧力で行ない全触媒スラリー濃度は重量比で20%であった。合成ガス供給材料の組成は容量比でCOが51%、Hが35%、COが13%、Nが1%であった。これらの実験には、実施例5と同一のメタノール脱水触媒を用いた。即ち、ベーマイト(アルミナ1水和物、Al・HO)粉末を、1時間当り約100℃の割合で約500℃の温度に加熱昇温させ、該アルミナの温度を500℃で約3時間維持する熱処理を施した後、該粉末を室温まで冷却してメタノール脱水触媒とした。又、ガス空間速度(GSHV)を1,500乃至9,000標準l/(kg触媒・時間)の範囲で変化させ、又全触媒中のメタノール合成触媒の重量比を50%乃至100%の範囲で変化させた。これらの実験結果として、メタノール合成触媒の重量比とジメチルエーテル生産性の関係を図3R>3に、又メタノール合成触媒の重量比とメタノールの生産性を図4に示す。図3の結果から、ガス空間速度が3,000標準l/(kg触媒・時間)に達したとき、ジメチルエーテルの生産性は、触媒組成物中のメタノール合成触媒の組成比が約70重量%付近から急激に向上し、約81重量%においてピークに達し、それ以上の組成比になると再び急激に減少して95重量%以上になるとその向上効果は全く失われてしまうこと、そして、この生産性向上の度合はガス空間速度が6,000標準l/(kg触媒・時間)付近になるとき一段と大きくなり急峻なピークを形成することなどが分かった。これは全く新しい発見であり、先に引用した先行技術からは予想し得ないものである。なお、上記のガス空間速度によるジメチルエーテル生産性向上の効果は、空間速度が6,000標準l/(kg触媒・時間)を超えた場合、例えば9,000標準l/(kg触媒・時間)に増加させても、3,000標準l/(kg触媒・時間)から6,000標準l/(kg触媒・時間)に増加させた場合に比べて生産性向上効果の増大率はそれほど大きくはならない。
【0028】先述の実施例は、合成ガスからメタノールおよびジメチルエーテルの共生産の有用な単一工程法が2つの本質的特性を必要とすることを明らかにしている。第1には、メタノール合成の有効速度が、最小限界値を上回る必要があることである。第2には、メタノール合成とメタノール脱水反応の双方を促進する個々の触媒材料を含む触媒または触媒混合物を用いることである。実施例6に示されるように、ジメチルエーテル生産性に鋭角的な最大値が、メタノール合成と、脱水触媒の相対量が変化させられるに従って発生することが発見された。このようにして、生成物の特性を、液相反応器中の相対触媒組成物を制御することで制御、最適条件にすることが可能となる。
【0029】本方法においては、メタノールが重要な中間反応体であるので、その生産速度が全方法動作に重要な影響をもたらす。この点は、有効メタノール速度またはメタノール合成の有効速度γ*MeOH を次式と定義する。すなわち:

[式中、γMeOHとγDMEは、本方法中の触媒の全量に関して測定したメタノールとジメチルエーテル質それぞれの速度である]。
【0030】本発明は、有意の量のジメチルエーテル生産に必要なγ*MeOHの一定の最小値のあることを明白に実証している。この限界値以下では、せいぜい、極微量のジメチルエーテルが形成されるだけである。本発明(実施例1乃至5)とシャーウィン(Sherwinほか)のデータから計算されたγDME対γ*MeOHをプロットする図1は、最小有効メタノール速度(γ*MeOH)は約1.0gモル/(kg触媒・時間)である。従って、図1は、シャーウィンほかの結果が閉三角形として示され、またその場合ジメチルエーテル生産の試みを不成功に終らせた理由を明白に説明している。これらの実験はすべて、有効メタノール速度の限界値以下で操作され、この故に、わずか極微量のジメチルエーテルを産出した。開円として示される本発明の結果は、生産されたジメチルエーテルの数量が、これらの低有効メタノール速度では本質的に零である。しかし、ジメチルエーテル速度はいったん最小限界速度が達成されると急速に増加する。データは、数種の異なる触媒装置を用い、広範な組成物をもつ数種の合成ガスを供給し、そして広範囲の温度と圧力で操作する本方法のこの結論を確かなものにする。この故に、ジメチルエチルを合成ガスから生産する有用な商業方法では、前記限界速度以上で操作する必要がある。
【0031】本発明の本質的態様は、触媒もしくは触媒混合物にメタノール合成とメタノール脱水の両反応を促進する個々の触媒材料を含む必要のあることである。合成ガスからメタノールを生産するすべての方法は、極微量のジメチルエーテルしか産出しない。しかし、これらの極微量は、少量に過ぎて、ジメチルエーテルの商業的に能力のある生産方法としての性質をもたない。ジメチルエーテルは、メタノール合成とメタノール脱水触媒の両成分が存在する時に限り、有意の量で生産される。図2R>2はこの観察を、両触媒成分が存在し(開円として示される)、メタノール合成触媒のみが存在する(開三角形として示される)液相メタノール法と同様の、液相ジメチルエーテル法の作業条件で得られる結果と比較することで確かめることができる。生産されたジメチルエーテルのモルを、生産されたメタノールのモルで割ったものと定義されるジメチルエーテルの選択性は、有効メタノール速度の関数として示される。上記で詳細に論じたように、生産されたジメチルエーテルの量は、この限界速度を大きく下回る。この速度を上回る本発明の方法においては、有効メタノール速度が前記限界値を遥かに上回るのでジメチルエタノールの生産量は有意である。しかし、液相メタノール法においては、ジメチルエーテルの生産量は、脱水触媒成分が存在していないので、作業の全範囲に亘って生産量は微々たるものである。
【0032】最小限のメタノール速度の達成には、温度圧力、触媒の種類およびオイルの種類の伝統的作業パラメーターを操作できる。触媒粒度も、本発明の方法で生産されるジメチルエーテルの量に有意の影響をもたらす。シャーウィンほかによる初期の研究は、若干の無規定粒度の触媒と、直径が0.85乃至1.20mmの粒度の触媒を列挙している。本発明の研究では、粒子の径が200ミクロン以下、好ましくは10ミクロン以下の触媒を利用する。本発明の方法では有意の量のジメチルエーテルを生産した。一方、シャーウィンほかの教示する方法では、極微量のジメチルエーテルしかできなかった。
【0033】本発明は、合成ガスからメタノール脱水を経て、方法の2つの重要な特性を活かして、ジメチルエーテル生産のさきに説明の諸問題を解決する。最初に、前記液状媒体は冷却用放熱器として作用し、その結果、反応器の恒温操作ができるようになる。この要因は、前方シフト、メタノール合成およびジメチルエーテル合成反応がすべて発熱性であるので、重要である。普通の気相方法を用いると、反応中の放熱は、温度を昇温させ、熱力学的限度のため反応を妨害し、また触媒奪活の原因となる。液相の高熱容量は高転化率を可能にする一方、安定温度を維持する。このすぐれた温度制御の所為で、頻繁に触媒の再生を必要とする気相作業に対し、本方法では触媒寿命が増大している。第2に、本発明は、全3反応の化学的性質の相乗作用を、前記3反応の単一工程化により活用する。前記3反応を同時作業に纒めることにより、個々の反応のおのおのは、それの抑制生成物を次の反応の反応体として除去することで熱力学的に強行させられる。たとえば、第1の一連の実験は、DME法のCO転化率が、メタノール合成だけの熱力学的最高値を超えることを示した。このような相乗作用はおのおの反応が、せいぜい、別々の反応器におけるその個々の熱力学的限度に進行する多工程法では達成できない。また、本発明の方法における全反応は同時に進行するので、生成物分布を変化させる数種の選択を、各反応の度合操作により可能にする。さきに詳しく論じたように、DME・MeOHの選択性は、液相反応器における触媒成分の相対量もしくは活性度を変化させることで制御できる。生成物分布もまた反応条件たとえば、空間速度、温度、圧力もしくは供給材料の組成を変化させることで変化できる。
【0034】先行技術の数方法は、前記(1)から(3)の反応の組み合わせを必要とするが、前記3反応は、先に詳しく論ぜられたように、気相で処理された。前記シフトならびにメタノール合成反応が、高温により熱力学的に制限され、また全3反応が発熱性であるので、反応器からの熱除去は、その設計において重大な因子また多分制限因子である。液相により付与される熱制御の有意性は、気相と液相法の比較で最もよく示される。たとえば、実験1の条件と同一転化を付与する気相法の断熱温度上昇は350°Cであるのに対し、液相法は、液相の存在のため実際の温度上昇は10°C以下である。現在市販の触媒はどれも、600°Cの気相断熱温度では、熱除去装置、もしくは製品ガス再循環なしに経済的に機能しない。両選択は一般に非常に高価につく。たとえば、製品ガス再循環を用いる温度上昇の制御は、10乃至20の範囲の再循環比を必要とする。このような高再循環比は、圧縮機および反応器に対し高資本投下はもちろん、高経常費を必要とする。比較では、液相装置がほとんど、もしくは全く供給材料の再循環を必要としないし、反応器もずっと小型ですむ。この故に、液相合成は、高転化率で経済的作業を可能にする。
【0035】本発明の別の顕著な特徴は、同時シフト、メタノール合成、およびDME合成反応が、広範囲の組成物の合成ガス供給材料を本方法で利用できるようになることである。以前に開示された諸方法は、H対COもしくはCO対COの比率の制限範囲内で作業できるだけであった。この発明は、どの先行方法よりも高COの供給材料を用いる作業を実証する。たとえば、実施例3における実験16と17は、58%の供給CO濃度と、H対CO比が0.02以下の高生産性を示す。このような条件は、先行技術方法で主張され、あるいは教示された諸条件を十分上回るものである。
【0036】メタノール・ジメチルエーエル共生産物の組成及びこれによる特性は、本発明においては、液相反応器中の2種類の触媒、即ちメタノール合成触媒とメタノール脱水触媒の相対量を適宜選択することにより制御することができる。実施例6の実験結果で示されているように、ジメチルエーテルの生産性は、操業条件が同じ場合には、触媒組成物中のメタノール触媒が重量比で約81%であるときに最高となる。この最高値の実際の値は、使用する特定触媒及び液相反応器における操業条件によって左右され、殊に液相反応器中で触媒粉末スラリーと接触反応させる合成ガスの空間速度の影響が大きい。実施例6で示された図3の実験結果によれば、合成ガスの空間速度が3,000標準l/(kg触媒・時間)を超えるときに、反応器中の全触媒におけるメタノール合成触媒が重量比で70〜95%の間、好ましくは75〜90%の間で生産性の向上が得られることが分かる。先に述べたように触媒組成物の残量は、メタノール脱水触媒である。このジメチルエーテルの生産性が最高であることは、又生産物の含有エネルギーが最高であることを意味し、従って合成ガス供給材料の保有するエネルギーを最大限回収することに相当する。ジメチルエーテルはメタノールの2倍の燃焼熱を有するからその通りであると云うことができる。従って、最終製品としてジメチルエーテルを生産するか、又は合成ガス供給材料の保有するエネルギーに対する製品の保有するエネルギーを最大化することが望ましい場合には、液相反応器は、重量比で75乃至95%のメタノール合成触媒を含有し、残部がメタノール脱水触媒からなる触媒組成物を用い、これと接触反応させる合成ガスの空間速度を、3,000標準l/(kg触媒・時間)以上の空間速度で操業する必要がある。なお、合成ガス空間速度は、15,000標準l/(kg触媒・時間)以上になると設備的な問題を生ずるのでこれ以下に留めることが望ましい。従って、好ましい合成ガス空間速度は、3,000乃至15,000標準l/(kg触媒・時間)であり、さらに好ましくは5,000乃至10,000標準l/(kg触媒・時間)である。
【0037】
【発明の効果】本発明はこのように、メタノールとジメチルエーテルの共生産に広範な合成ガス供給材料組成物を単一液相反応器で用いて効率的にできる。反応器内のメタノール合成とメタノール脱水触媒の相対量の制御により規定反応器作業条件で種々の製品組成が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ジメチルエーテル形成の速度対有効メタノール速度のプロット図である。
【図2】ジメチルエーテル選択性対有効メタノール速度のプロット図である。
【図3】ジメチルエーテル反応器生産性対全触媒の占めるメタノール合成触媒の重量比のプロット図である。
【図4】メタノール反応器生産性対全触媒に占めるメタノール合成触媒の重量比のプロット図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水素、一酸化炭素及び二酸化炭素を含む合成ガスを液相反応器内で不活性液体中にスラリー化させた粉末触媒と接触させてジメチルエーテルとメタノーとを同時に生成させるようにした合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法において、前記粉末触媒には重量比で約70乃至95%の銅含有メタノール合成触媒と残部がアルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、固体酸、固体酸イオン交換樹脂及びこれらの混合物からなる群から選ばれたメタノール脱水触媒からなる組成比の粉末触媒を使用し、前記液相反応器において触媒粉末に接触させる合成ガスの1時間当りの空間速度を3,000乃至15,000標準1/(Kg触媒・時間)になるようにしたことを特徴とする合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項2】 前記粉末触媒の組成比が重量比で75乃至90%が銅含有メタノール合成触媒であり、残部がアルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、固体酸、固体酸イオン交換樹脂及びこれらの混合物から選ばれた脱水触媒であることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項3】 前記合成ガスの空間速度は5,000乃至10,000標準l/(kg触媒・時間)であることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項4】 前記液相反応器に前記合成ガスとともに水を導入することを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項5】 前記粉末触媒の平均粒径が200ミクロン以下であることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項6】 前記不活性液体中の前記触媒粉末の濃度が重量比で5〜60%であることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項7】 前記液相反応器の操作圧力を200乃至2,000psigとすることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項8】 前記液相反応器の操作圧力を400乃至1,500psigとすることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの製造方法。
【請求項9】 前記液相反応器の操作温度を200乃至350℃とすることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項10】 前記合成ガス中に含まれる一酸化炭素は50モル%以上であることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。
【請求項11】 前記メタノール脱水触媒はアルミナであり、かつ前記アルミナは、ベーマイト(アルミナ1水和物、Al・HO)粉末を100℃/hrの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で3時間保持した後常温まで冷却することによって得ることを特徴とする請求項1記載の合成ガスからのジメチルエーテルの生産方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公告番号】特公平7−57739
【公告日】平成7年(1995)6月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−302520
【出願日】平成3年(1991)10月22日
【公開番号】特開平4−264046
【公開日】平成4年(1992)9月18日
【出願人】(591035368)エアー.プロダクツ.アンド.ケミカルス.インコーポレーテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【参考文献】
【文献】特開昭57−156041(JP,A)
【文献】特開昭49−94616(JP,A)
【文献】特開昭57−188536(JP,A)