説明

合成フィラメント系からなる熱収縮した未塗布織物、その製造方法、エアバック及びエアバック装置

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 本発明は、合成フィラメント糸からなる熱収縮した未塗布織物、その製造方法、エアバック及びエアバック装置に関する。
従来の技術 エアバッグに対しては従来主として塗布織物が使用されてきた。この織物はエアバッグの製造に際して決定的な欠点を有することが判明している。塗布織物は、塗布処理を実施するために未塗布織物に比べてより多くの製造コストを必要とする他に、少なくとも10%大きい折り畳み容量を示す。従って例えばハンドル内にエアバッグを収納するために必要とされる空間は、塗布織物の場合未塗布織物におけるよりも大きい。更に塗布織物からなるエアバッグは未塗布織物からなるエアバッグに比べてハンドルに一層大きな不安定性をもたらす。他の特異な欠点は、エアバッグが折り畳まれている場合に互いに接触し合う塗膜が粘着するのを阻止するために、塗膜に滑石粉末を振り付ける必要があることである。すなわちエアバッグを作用下に投下した場合、エアバッグから生じる滑石粉末がドライバーに著しい負担を掛けることになる。
従って塗膜の上記欠点を有さないエアバッグ製造用の未塗布織物を開発することが望まれている。
この種の織物は欧州特許出願公開第314867号明細書に記載されている。この場合繊度470dtexの糸を非対称織物組織で織物に使用することが提案されている。この場合織物に要求される低通気性はカレンダ掛けと組み合わされた熱固定処理によって調整される。ここに記載されている非対称織物組織を有する織物の大きな欠点は特に、双方の糸方向で同じ強度が得られないことである。更に470dtexの繊度は折り畳み可能性に関して不利であることが指摘されている。
米国特許第3842583号明細書には繊度範囲110〜900dtexの非対称織物が記載されている。しかしここで使用されている糸は強度が小さ過ぎまた伸び率が大きい。この種の糸では今日欧州の自動車製造業者により要求される仕様内容を満足することはできない。更にこの非対称織物もたて糸及びよこ糸で強度が異なるという欠点を有する。
特開平1-104848号明細書には繊度235dtex(210den)並びに470dtex(420den)の糸から製造されたエアバッグ用織物が記載されている(実施例参照)。235dtexの繊度では要求された強度を達成することができず、また470dtexの繊度では折り畳み容量が大き過ぎるという先に記載した欠点を生じる。
発明が解決しようとする課題 従って更に好ましい価格で製造することのできる一層良好に適合された未塗布エアバッグ織物を開発するという課題が生じた。
課題を解決するための手段 ところで驚異的にも、前記課題は、エアバックを製造するための合成フィラメント糸からなる、試験圧ΔP=500Paで10l/dm2・分以下の通気性を有する熱収縮した未塗布織物において、この織物が経糸及び緯糸に23〜28/cmの糸数を有する少なくとも実質的に対称の織物組織を有し、糸が300〜400dtexの繊度を有する合成フィラメント糸からなる熱収縮可能の未塗布織物を熱収縮させることにより製造されていることにより解決されることが判明した。
2つの糸方向で同じ繊度及び同じ工業技術的特性(例えば強度等)を有する糸が使用された、たて糸とよこ糸に同じか又はほとんど同じ糸数を有する、少なくとも実質的に対称の織物組織で、有利に両者の糸方向で同じ強度を有する織物を得ることができる。この織物の特性は、半径方向対称構造物であるエアバックは優先的負荷方向を有しないために、大きな利点を有する。
2つの糸方向に同じ強度を生ぜしめる他の考慮し得る手段は、他の織物特性例えば通気性及び折り畳み可能性に極めて不利な影響を及ぼすことから、ほとんど不適当である。
僅少な織物厚さ、小さい折り畳み容量、従ってハンドル内にエアバッグを収納するのに必要な僅かな空間並びに良好な折り畳み可能性等のような他の利点は、糸の繊度が300〜400dtexであることによって、良好な強度と共に特に簡単な方法で達成することができる。
従来使用されてきた470dtexの糸繊度は強度要件を満足するが、これに起因する高い織物厚さ及びその結果生じる高い折り畳み容量によって極めて好ましくない。エアバッグ用として同時に提案された235dtexの繊維では、より僅かな織物厚さが得られるとはいえ、一般に強度要件は必要な持続性及び確実性をもっては満たされない。
これに対して本発明によれば、従来エアバッグ製造用としては知られていなかった繊度範囲300〜400dtexの糸を使用することによって、所望の高い強度を出来る限り僅かな単位面積当たりの重量で達成することができる。次表は繊度470dtex、350dtex及び235dtexでの比較を示すものである。


先の表から繊度235dtexでは、僅かな織物厚さを得ることができるが、自動車製造業者によって要求される強度を達成し得ないことは明らかである。繊度470dtexでは所望の強度は上回るとはいえ、この場合織物の厚さは高すぎる。これに対し本発明による繊度350dtexの場合、必要とされる強度>2400Nを有する好ましい織物厚さが得られる。
特に好ましい糸は350dtexの繊度で、強度少なくとも60cN/tex、伸び率15〜30%並びに熱風収縮率少なくとも6%(190℃で測定)を有する。これにより特に有利な方法で自動車製造業者により求められる仕様内容は未塗布織物によって初めて完全に満たされる。
エアバッグの機能にとって重要な通気性は十分である。新たな仕様書によれば自動車製造業者は試験圧Δp=500Paで≦10・l/dmm2・分の値を要求する。この値は従来公知のエアバッグ織物では付加的に塗布するか又はカレンダ掛け処理することによってのみ達成することができる。
本発明による織物の通気性試験をDIN 53 887に基いて行った。しかし本発明により製造した織物に対して一層明確な試験数値を得るために、このDIN−規格から逸脱して、試験差圧を500Paに高めた。
自動車製造業者により要求された概算値を得るには、特に少なくとも実質的に対称の織物組織が有利である。
本発明において、少なくとも実質的に対称の織物組織とは、たて糸及びよこ糸における糸数が同じであり、従って対称である組織、並びに糸数がほぼ同じである組織を意味する。実験結果は、例えばたて糸及びよこ糸間の糸数差が約10%の場合には、なお対称織物の有利な特性及び作用効果を得ることができることを示す。
織物組織は、出来る限り緊密な織物が得られるように選択する必要がある。本発明による糸繊度に対する適当な糸数は、たて糸及びよこ糸において23〜28/cmである。この織物を製造するには、機織工場で常用のすべての織機が適している。
所望の特性を得るにはフィラメント糸内のフィラメント数が極めて重要である、糸繊度300〜400dtexの場合、72本のフィラメントで加工するのが特に有利である。糸470 f72又は235 f36に比べて一層小さい繊度によって、織物の剛性は特に有利に好ましい影響を受ける。すなわち剛性は減少し、折り畳み可能性は改良される。更に繊度が一層小さいことにより、織物の通気性は一層僅かになる。
エアバッグ−織物は、上記の強度、伸び率及び収縮値を有する各合成フィラメント糸で製造することができる。しかしポリアミド6.6からなる糸が特に好ましい。ポリマーの製造に際して熱安定剤を使用したポリアミド6.6が特に有利である。これらの糸は紡糸と延伸との間に巻上げ工程を有する常用の製造法でもまた連続する紡糸−延伸−法によっても製造することができる。これらの糸は撚糸又は非撚糸状態で使用可能である。
少なくとも実質的に対称の織物組織で製造された織物を糊抜き及び/又は洗浄処理した場合、この湿式処理で収縮を生ぜしめることができる。引続き熱固定装置で更に収縮させることが可能である。通気性の減少はサンフォライズ加工又はカレンダ掛けにより達成することができる。
こうして処理した織物は要求された低い通気性を有する。
本発明による織物の利点は安全でかつ自動車製造業者の仕様書に応じた、従って販売可能のエアバック装置で良好な効果を生じる。エアバッグ装置とは、エアバッグそれ自体、又は自動車へのエアバッグの取り付け体又はエアバッグ機能を発生させる制御装置を意味する。
実施例 繊度350 f72のポリアミド6.6−糸をバスケット織で織物に加工した。たて糸の糸数は27/cmであり、よこ糸では26/cmであった。この、織物をジッガーで洗浄処理し、引続き190℃で張り枠で熱固定処理した。次いでサンフォライズ装置で処理した。こうして製造したエアバッグ織物は0.31mmの厚さで、単位面積当たりの重量200g/m2を示した。強度は2つの糸方向で所望範囲内の2900Nであり、通気性に関しては要求範囲の値3.4l/dm2・分が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】エアバックを製造するための合成フィラメント糸からなる、試験圧ΔP=500Paで10l/dm2・分以下の通気性を有する熱収縮した未塗布織物において、この織物が経糸及び緯糸に23〜28/cmの糸数を有する少なくとも実質的に対称の織物組織を有し、糸が300〜400dtexの繊度を有する合成フィラメント糸からなる熱収縮可能の未塗布織物を熱収縮させることにより製造されていることを特徴とする、合成フィラメント糸からなる熱収縮した未塗布織物。
【請求項2】合成フィラメント糸からなる熱収縮可能の未塗布織物における糸が4.1〜5.6dtexのモノフィラメント繊度を有する、請求項1記載の熱収縮した未塗布織物。
【請求項3】合成フィラメント糸からなる熱収縮可能の未塗布織物が少なくとも60cN/texの強度、15〜30%の伸び率及び少なくとも6%の熱風収縮率(190℃で測定)を有する、請求項1又は2記載の熱収縮した未塗布織物。
【請求項4】合成フィラメント糸からなる熱収縮可能の未塗布織物における糸が320〜380dtexの繊度を有する、請求項1記載の熱収縮した未塗布織物。
【請求項5】合成フィラメント糸からなる熱収縮可能の未塗布織物における糸が340〜360dtexの繊度を有する、請求項1記載の熱収縮した未塗布織物。
【請求項6】合成フィラメント糸からなる熱収縮可能の未塗布織物における糸が350dtexの繊度を有する、請求項1記載の熱収縮した未塗布織物。
【請求項7】熱収縮した未塗布織物が少なくとも2400Nの強度を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の熱収縮した未塗布織物。
【請求項8】経糸及び緯糸に23〜28/cmの糸数を有する少なくとも実質的に対称の織物組織を有し、糸が300〜400dtexの繊度を有する、熱収縮可能の未塗布織物を熱収縮させることにより、試験圧ΔP=500Paで10l/dm2・分以下の通気性を有する、合成フィラメント糸からなる熱収縮した未塗布織物の製造方法。
【請求項9】請求項1から7までのいずれか1項記載の熱収縮した未塗布織物から製造されたエアバック。
【請求項10】請求項9記載のエアバックを備えたエアバック装置。

【特許番号】第2950954号
【登録日】平成11年(1999)7月9日
【発行日】平成11年(1999)9月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−235945
【出願日】平成2年(1990)9月7日
【公開番号】特開平3−137245
【公開日】平成3年(1991)6月11日
【審査請求日】平成5年(1993)8月20日
【審判番号】平8−10763
【審判請求日】平成8年(1996)7月8日
【出願人】(999999999)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 平1−104848(JP,A)
【文献】特開 平1−122752(JP,A)