説明

合成繊維、およびそれからなる繊維構造体

【課題】 本発明は、脂肪族ポリエステルとポリアミドとが均一かつ微細に分散ブレンドされた海島構造をしており、かつその海島の界面の接着性を高め、耐摩耗性に優れ、高品位の繊維構造体を与え得る繊維を提供するものである。
【解決手段】 脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)を含有してなるポリマーアロイで構成される合成繊維であって、成分Aが島成分を形成し、成分Bが海成分を形成した海島構造をしており、島成分のドメインサイズが0.001〜3μmであることを特徴とする繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂とが均一にブレンドされ、かつその界面接着性が極めて良好な合成繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、自然環境の中で分解する繊維素材の開発が切望されている。例えば、従来の汎用プラスチックは石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
【0003】
このため近年では脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。その中でも微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。
【0004】
また、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。そのため、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス利用のプラスチックに注目が集まっている。
【0005】
これまで、バイオマス利用の生分解性プラスチックは、力学特性や耐熱性が低いとともに、製造コストが高いといった課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかった。一方、近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0006】
ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。そのため、繊維としての商品開発も活発化してきている。
【0007】
ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル繊維の開発は、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途、産業資材用途への応用も期待されている。しかしながら、衣料用途や産業資材用途に適応する場合には、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸の耐摩耗性の低さが大きな問題となる。例えば、ポリ乳酸繊維を衣料用途に用いた場合には、擦過等により容易に色移りが生じたり、酷い場合には繊維がフィブリル化して白ぼけし、皮膚に過度の刺激を与える等、実用上の耐久性に乏しいことがわかってきている。また、自動車内装用、特に強い擦過を受けるカーペット等に用いた場合には、ポリ乳酸の毛倒れが容易に生じるとともに、削れが起こり、酷い場合には穴が開くこともある。また、脂肪族ポリエステル(特にポリ乳酸)は加水分解が生じやすいこともあり、上記の様なフィブリル化や削れは経時的に酷くなる傾向にあり、製品寿命が短いといったことがわかってきている。
【0008】
ポリ乳酸の耐摩耗性を改善する方法としては、例えば加水分解を抑制する方法が開示されている(特許文献1および特許文献2)。特許文献1は、ポリ乳酸の水分率をできるだけ抑制することで、繊維の製造工程での加水分解を抑制するものであり、特許文献2は、モノカルボジイミド化合物を添加して耐加水分解性を向上させた繊維が開示されている。しかしながら、いずれの繊維も経時的なポリ乳酸の脆化を抑制するという点では耐摩耗性の低下は抑えられているものの、いずれもポリ乳酸の「フィブリル化しやすい」という特性を変えるものではなく、初期の耐摩耗性は従来品となんら変わらないものであることが判明した。
【0009】
また、耐摩耗性を大幅に改善する方法として、脂肪酸ビスアミド等の滑剤を添加して繊維表面の摩擦係数を低下せしめることで、摩耗を抑制したポリ乳酸繊維が開示されている(特許文献3〜6参照)。しかしながら、これらの繊維は与えられる力が小さい場合には有効であるが、例えば、カーペットの様に強い踏込力がかかる場合には、繊維間凝着を十分に抑制することができないため、ポリ乳酸の破壊が生じてしまい、用途が限定されるものであった。
【0010】
また、ポリアミドと脂肪族ポリエステルとのブレンドにより、樹脂組成物の力学特性を向上させる技術が開示されている(特許文献7)。特許文献7の方法によれば、ポリアミドの補強効果により強度等の力学特性や耐熱性、耐摩耗性が向上するとあるが、該方法ではポリアミドのブレンド比が5〜40%と少量成分であるために、脂肪族ポリエステルが海成分を形成し、さらに脂肪族ポリエステルとポリアミドが非相溶であるため、これらの相の界面の接着性が劣るため、外力により容易に界面で剥離し、フィブリル化して白ぼけし、摩耗速度も速いという問題があることが判明した。
【特許文献1】特開2000−136435号公報(第4頁)
【特許文献2】特開2001−261797号公報(第3頁)
【特許文献3】特開2004−91968号公報(第4〜5頁)
【特許文献4】特開2004−204406号公報(第4〜5頁)
【特許文献5】特開2004−204407号公報(第4〜5頁)
【特許文献6】特開2004−277931号公報(第5〜6頁)
【特許文献7】特開2003−238775号公報(第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決し、耐摩耗性に優れ、高品位の繊維構造体を与え得る合成繊維および繊維構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)を含有してなるポリマーアロイで構成される合成繊維であって、脂肪族ポリエステル樹脂(A)が島成分を形成し、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が海成分を形成した海島構造をしており、島成分のドメインサイズが0.001〜3μmであることを特徴とする合成繊維および該繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする繊維構造体によって達成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により耐摩耗性が格段に向上し、高品位の繊維構造体を与え得る、一般衣料用途や産業資材用途に最適な合成繊維および繊維構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明でいう脂肪族ポリエステル樹脂(A)(以下「成分A」と記す場合もある)とは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結されたポリマーのことをいう。本発明で用いる脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては結晶性であることが好ましく、融点が150〜230℃であることがより好ましい。また、本発明で用いる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の種類としては、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。このうち、ポリ乳酸が最も好ましい。
【0015】
上記ポリ乳酸は、−(O-CHCH-CO)n−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、それらが低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。融点は繊維の耐熱性を維持するために150℃以上であることが好ましいため、光学純度は90%以上であることが好ましい。
【0016】
ただし、上記のように2種類の光学異性体のポリマーが単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体のポリマーをブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を220〜230℃まで高めることができ、好ましい。この場合、「成分A」は、ポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)の混合物を指し、そのブレンド比は40/60〜60/40であると、ステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができ、最良である。
【0017】
また、ポリ乳酸中には低分子量残留物として残存ラクチドが存在するが、これら低分子量残留物は、延伸や仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、繊維や繊維成型品の加水分解を促進し、耐久性を低下させる。そのため、ポリ乳酸中の残存ラクチド量は好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.03重量%以下である。
【0018】
また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、及びヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。この中でも、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)(以下「成分B」と記す場合もある)との相溶性がよいポリアルキレンエーテルグリコールが好ましい。このような共重合成分の共重合割合は融点降下による耐熱性低下を損なわない範囲で、ポリ乳酸に対して0.1〜10モル%であることが好ましい。また、ポリ乳酸重合体の分子量は、耐摩耗性を高めるためには高い方が好ましいが、分子量が高すぎると、溶融紡糸での成形性や延伸性が低下する傾向にある。重量平均分子量は耐摩耗性を保持するために8万以上であることが好ましく、10万以上がより好ましい。さらに好ましくは12万以上である。また、分子量が35万を越えると、前記したように延伸性が低下するため、結果として分子配向性が悪くなり繊維強度が低下する。そのため、重量平均分子量は35万以下が好ましく、30万以下がより好ましい。さらに好ましくは25万以下である。上記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0019】
本発明の「成分A」に好ましく用いられるポリ乳酸の製造方法は、特に限定されない。具体的には、特開平6−65360号公報に開示されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法である。また、特開平7−173266号公報に開示されている少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法である。さらには、米国特許第2,703,316号明細書に開示されている方法がある。すなわち、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法である。
【0020】
本発明で用いる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)とは、アミド結合を有するポリマーのことをいうが、本発明で用いる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の種類としては、例えばポリカプラミド(ナイロン6)やポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)等を挙げることができる。この中でも、成分Aとの相溶性を高くするために、ポリアミドのメチレン鎖長は長い方がよく、その点でナイロン11やナイロン12、ナイロン610が好ましい。また、ポリアミドはホモポリマーであっても共重合ポリマーであってもよい。
【0021】
また、一般に脂肪族ポリエステルは、融点を有する場合、その融点は通常200℃以下であるなど、耐熱性が高いとはいえず、溶融貯留時250℃を越えると急激に物性が悪化する傾向にあるため、ブレンドする熱可塑性ポリアミド樹脂(B)は、融点が150〜250℃であることが好ましい。熱可塑性ポリアミド樹脂の融点の上限は225℃以下であることが好ましい。一方、繊維の耐熱性を考慮すると、ポリアミドの融点の下限は150℃以上であることが好ましい。該熱可塑性ポリアミド樹脂は前記したように、共重合ポリマーであってもよいが、結晶性が低下すると耐摩耗性も低下する傾向にあるため、結晶性であることが好ましい。
【0022】
なお、本発明において結晶性の有無は、示差走査熱量計(DSC)測定において融解ピークを観測できれば、そのポリマーが結晶性であると判断できる。
【0023】
本発明の成分Aと成分Bとのブレンド比率は特に限定されないが、成分Aを島成分、成分Bを海成分とする海島構造とするポリマーアロイにするためには、成分A/成分Bのブレンド比率(重量%)を5/95〜55/45の範囲とすることが好ましい。また、成分Aの比率を高める場合には成分Aの溶融粘度ηaを高くすればよく、成分Bの比率を高くする場合には成分Bの溶融粘度ηbを高くすればよい。本発明においては、成分Aを島成分、成分Bを海成分にすることが必要である。そのため、成分Aと成分Bのブレンド比率は成分Bの比率を高めるほど容易になることから、より好ましくは7/93〜45/55、さらに好ましくは10/90〜40/60、最も好ましくは15/85〜30/70である。また、溶融粘度の比(ηb/ηa)は0.1〜2.0の範囲にすることが好ましい。より好ましくは0.15〜1.5、さらに好ましくは0.2〜1.0である。なお、溶融粘度ηの測定方法は詳細後述するが、測定温度240℃、剪断速度1216sec−1で測定したときの溶融粘度である。
【0024】
本発明において、成分Aと成分Bが均一にブレンドされていることが重要であるが、ここで、均一にブレンドされているとは以下の状態をいうものである。すなわち、該合成繊維の横断面スライスを透過型電子顕微鏡(TEM)(4万倍)により観察すると、いわゆる海島構造を採っており、しかも島成分を構成する成分Aのドメインサイズが直径換算(ドメインを円と仮定し、ドメインの面積から換算される直径)で0.001〜3μmまで小さくなっている状態をいうものである。島成分のドメインサイズを前記範囲とすることで、繊維の耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。なお、海成分を構成する成分Bとの接着性は、ドメインサイズが小さいほど界面での応力集中が分散されるため向上するが、一方、ドメインサイズがある一定以下のサイズになると初期摩耗性が低下する傾向にある。そのため、島ドメインのサイズは0.005〜1.5μmが好ましく、0.01〜1.0μmがより好ましい。さらに好ましくは0.02〜0.5μmである。なお、本発明での上記ドメインサイズとは、実施例項のG項にて後述するように合成繊維(ポリマーアロイ繊維)1試料あたり100個のドメインについて計測したときのドメインの分布範囲が上記の範囲にあることをいう。
【0025】
また、本発明の合成繊維を構成する素材はポリマーアロイであるため、1分子鎖中に脂肪族ポリエステルブロックとポリアミドブロックが交互に存在するブロック共重合体とは異なり、脂肪族ポリエステル分子鎖(成分A)と、ポリアミド分子鎖(成分B)は実質的に独立に存在していることが重要である。この状態の違いは、配合前後の熱可塑性ポリアミド樹脂の融点降下、すなわちポリマーアロイ中の熱可塑性ポリアミド樹脂由来の融点が配合前の熱可塑性ポリアミド樹脂の融点からどの程度降下したかを観測することにより見積もることができる。熱可塑性ポリアミド樹脂の融点降下が3℃以下であれば、脂肪族ポリエステルとポリアミドはほとんど共重合されておらず(エステル−アミド交換がほとんど起こっておらず)、実質的に脂肪族ポリエステル分子鎖とポリアミド分子鎖は独立に存在するポリマーアロイの状態である。また、繊維表層は実質的に海成分である熱可塑性ポリアミド樹脂であるため、前記の熱可塑性ポリアミド樹脂が本来有する特性が反映され、耐摩耗性が飛躍的に向上するのである。したがって、本発明では配合されたポリアミドの融点降下は2℃以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の合成繊維は、前記したように脂肪族ポリエステル樹脂と、熱可塑性ポリアミド樹脂を含むポリマーアロイで構成される合成繊維であり、脂肪族ポリエステル樹脂が島成分を、熱可塑性ポリアミド樹脂が海成分を形成した海島構造を形成している。また、島成分のドメインサイズを制御することで、耐摩耗性を飛躍的に向上させるものである。ここで、前述した様に脂肪族ポリエステルとポリアミドは通常ほとんど反応しない(エステル−アミド交換がほとんど起こらない)ため、前記2者のポリマーの界面接着性はそのままではそれほど高くはない。そこで、本発明の合成繊維はさらに相溶化剤(C)(以下「成分C」と記す場合もある)を添加して界面接着性を飛躍的に向上させることで、耐摩耗性を向上させるものである。成分Cは、成分Aと成分Bとの界面接着性を向上させるものであれば特に限定されるものではないが、一分子中に2個以上の活性水素反応性基を有する化合物であると、界面接着性を飛躍的に向上でき、好ましい。一分子中に2個以上の活性水素反応性基を有する化合物を成分A及び/又は成分Bに添加して溶融ブレンドして紡糸を行うことで、該化合物が成分Aと成分Bのいずれの成分とも反応して架橋構造をとるため、界面剥離を抑制できるのである。
【0027】
ここで、活性水素反応性基とは、ポリ乳酸樹脂や熱可塑性ポリアミド樹脂の末端に存在するCOOH末端基やOH末端基、NH末端基との反応性を有するもので、例えばグリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基、無水マレイン酸基などが好ましく用いられる。また、本発明の合成繊維の製法である溶融紡糸では250℃以下と比較的低温で成形を行うため、低温反応性に優れたものが選択される。上記反応性基の中でもグリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、酸無水物基(無水マレイン酸から生成する基(無水マレイン酸基と記す場合もある)等)が好ましく用いられ、特にグリシジル基やカルボジイミド基が好ましく用いられる。上記反応性基は2個以上であれば相溶化剤としての役割を満たすことができる。一方、一分子中に20個を越えて反応性基を有すると、紡糸時に過度に増粘して曳糸性が低下する傾向にあるので、一分子中の活性水素反応性基の数は2個以上、20個以下が好ましい。より好ましくは10個以下、さらに好ましくは3個以下である。また、一分子中の反応性基の種類は複数のものを含んでいても構わない。また、上記した活性水素反応性基を2個以上有する化合物は、重量平均分子量で250〜30,000の分子量を持つものであると、溶融成形時の耐熱性、分散性に優れるため好ましい。より好ましくは250〜20,000である。
【0028】
また、これらの反応性基を有する化合物として、重合体の主鎖に反応性基を有する側鎖をグラフト共重合した共重合体であると、1分子の中に多数の官能基を導入することが可能となる事に加え、一般に融点等の熱的性質も安定となるため好ましい。この反応性基がグラフトされる主鎖となる重合体は任意に選択することが可能であるが、合成のし易さからポリエステル系重合体、ポリアクリレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリ(アルキル)メタアクリレートなどのアクリレート系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリオレフィン系重合体などの群から適宜選択することができる。
【0029】
本発明に用いることのできる成分Cのうち、グリシジル基を有する化合物としては、例えばグリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体に対してグリシジル基がグラフト共重合されている化合物、更にはポリエーテルユニットの末端にグリシジル基を有するものが挙げられる。上述したグリシジル基を持つモノマー単位としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートなどが挙げられる。また、これらモノマー単位の他に、長鎖アルキルアクリレートなどを共重合して、グリシジル基の反応性を制御することもできる。また、グリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体の平均分子量は250〜30,000の範囲であると高濃度添加を行った際の溶融粘度の上昇を抑制することができ好ましい。重量平均分子量は250〜20,000の範囲であるとより好ましい。また、この他、トリアジン環にグリシジルユニットを2個以上有する化合物も耐熱性が高いため好ましい。例えば、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート(MADGIC)等が好ましく用いられる。
【0030】
また、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基、無水マレイン酸基についても同様である。上記の中でも、カルボジイミド基を有するものが極めて低温反応性に優れており、より好ましい。例えば、カルボジイミド化合物の例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノ又はジカルボジイミド化合物、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドの重合体が好ましい。
【0031】
また、2個以上の活性水素反応性基は同じ反応性基であっても、異なるものであってもよいが、反応性を制御するためには同じ反応性基であることが好ましい。
【0032】
また、成分Cとして用いる化合物には、上記の活性水素反応性基を有するものの他に、ポリアルキレンエーテルグリコールが特異的に耐摩耗性を向上させるので好ましい。該化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられるが、中でも耐熱性、分散性、価格の点で分子量400〜20,000のポリエチレングリコールが好ましい。より好ましくは分子量600〜6,000のポリエチレングリコールである。また、該化合物の両末端をグリシジル基に変性したものであれば、より好ましい。また、前記の活性水素反応性基を2個以上有する化合物と併用することも好ましい。
【0033】
また、成分Cとして用いる化合物は、本発明の合成繊維を製造する上で200〜250℃にて繊維に溶融成形されるのが通常であるため、それに耐え得る高い耐熱性が要求される。そのため、熱重量(TG)測定による200℃到達点の熱減量率が3%以下であることが好ましい。熱減量率が3%を越えると、紡糸時に熱分解物がブリードアウトして紡糸口金や紡糸装置を汚すために紡糸性が低下するとともに、熱分解ガスの発煙により、作業環境を悪化させる傾向にある点が問題となる。より好ましくは熱減量率2%以下、さらに好ましくは1%以下である。なお、200℃熱減量率は熱重量(TG)測定にて窒素雰囲気下、常温(10〜30℃)から10℃/分の速度で300℃まで昇温し、200℃時点での減量率を求めたものである。
【0034】
成分Cの添加量は、使用する化合物の反応性基の単位重量当たりの当量、溶融時の分散性や反応性、島成分のドメインの大きさ、成分Aと成分Bのブレンド比により適宜決めることができる。界面剥離抑制の点では成分A、成分Bおよび成分Cの合計量(100重量%)に対し、0.005重量%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.02重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上である。成分Cの添加量が少なすぎると、2成分間の界面への拡散、反応量が少なく、界面接着性の向上効果が限定的となる。一方、成分Cが繊維の基材となる成分Aおよび成分Bの特性や、製糸性を阻害することなく性能を発揮させるためには、成分Cの添加量は5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。さらに好ましくは1重量%以下である。
【0035】
上記のごとく、成分Cを添加することで、脂肪族ポリエステルの末端カルボキシル基を封鎖でき、脂肪族ポリエステルの耐加水分解性を高めることができる。自己触媒作用を有する末端カルボキシル基の濃度は低い方がよく、脂肪族ポリエステル中のトータルカルボキシル末端基濃度は、好ましくは15当量/ton以下であり、より好ましくは10当量/ton以下、さらに好ましくは0〜7当量/tonである。
【0036】
さらに、上記反応性基を有する化合物の反応を促進する目的で、カルボン酸の金属塩、特に金属をアルカリ金属、アルカリ土類金属とした触媒を添加すると、反応効率を高めることができ好ましい。その中でも、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウムなどの乳酸をベースとした触媒を用いることが好ましい。その他、触媒添加による樹脂の耐熱性低下を防止する目的で、ステアリン酸金属塩などの比較的分子量の大きな触媒を単独または併用することもできる。なお、該触媒の添加量は、分散性、反応性を制御する上で、合成繊維に対して5〜2000ppm添加することが好ましい。より好ましくは10〜1000ppm、さらに好ましくは20〜500ppmである。
【0037】
本発明の合成繊維は、工程通過性や製品の力学的強度を高く保つために強度は1.0cN/dtex以上であることが好ましく、2.0cN/dtex以上がより好ましい。さらに好ましくは3.0cN/dtex以上である。このような強度を有する合成繊維は後述する溶融紡糸法および延伸法により製造することが可能である。
また、伸度は15〜70%であると、繊維製品にする際の工程通過性が良好であり好ましい。このような伸度を有する合成繊維は後述する溶融紡糸法および延伸法法により製造することが可能である。
【0038】
また、繊維の沸騰水収縮率は0〜20%であれば繊維および繊維製品の寸法安定性が良好であり好ましい。また、従来の脂肪族ポリエステルとポリアミドとのポリマーアロイ繊維(合成繊維)は、溶融紡糸での細化変形過程で太細が出やすく、糸斑等の品質に問題があったが、本発明の繊維は2成分が均一に分散され、繊維形成性に優れているために糸斑も小さい。本発明の繊維は工程通過性や染色後の染め斑を抑制するために糸斑(ウスター)(U%)(Normal)は2.0%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。さらに好ましくは0.5%以下である。
【0039】
本発明の繊維の断面形状は丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面等の多葉断面、扁平断面、W断面、X断面その他の異形断面についても自由に選択することが可能である。また、繊維の形態は、長繊維、短繊維等特に制限は無く、長繊維の場合はマルチフィラメントであってもモノフィラメントでもよい。
【0040】
また、本発明の繊維の繊維を繊維構造体として用いる場合には、織物、編物、不織布、パイル、綿等に適用でき、他の繊維を含んでいてもよい。例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維との引き揃え、撚糸、混繊であってもよい。他の繊維としては、木綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアクリロニトルおよびポリ塩化ビニルなどの合成繊維などが適用できる。
【0041】
また、本発明の繊維を用いた繊維構造体の用途としては、耐摩耗性が要求される衣料、例えばアウトドアウェアやゴルフウェア、アスレチックウェア、スキーウェア、スノーボードウェア及びそれらのパンツ等のスポーツウェア、ブルゾン等のカジュアルウェア、コート、防寒服およびレインウェア等の婦人・紳士用アウターがある。また、長時間使用による耐久性や湿老化特性に優れたものが要求される用途として、ユニフォーム、掛布団や敷布団、肌掛け布団、こたつ布団、座布団、ベビー布団、毛布等の布団類や枕、クッション等の側地やカバー、マットレスやベッドパッド、病院用、医療用、ホテル用およびベビー用のシーツ等、さらには寝袋、揺りかごおよびベビーカー等のカバー等の寝装資材用途があり、これらにも好ましく用いることができる。また、自動車用の内装資材にも好適に用いることができ、その中でも、高い耐摩耗性と湿老化特性が要求される自動車用カーペットに用いることが最適である。なお、これら用途に限定されるものではなく、例えば農業用の防草シートや建築資材用の防水シート等に用いてもよい。
【0042】
本発明の繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下の様な方法を採用することができる。
【0043】
すなわち、ポリL乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂(成分A)とナイロン6などの熱可塑性ポリアミド樹脂(成分B)およびポリカルボジイミドなどの相溶化剤(成分C)を別々に計量しながら230〜240℃で2軸押出混練機を用いて混練し、ポリマーアロイを製造する(なお、本発明で用いるポリマーアロイにはさらに改質剤として粒子、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物や特許文献3に記載の滑剤等を含有せしめてもよく、その配合方法にも特に制限はなく、成分A〜Cを予備混合して、もしくはしないで上記2軸押出混練機に供給して溶融混練してもよいし、成分A、または成分Bあるいは成分A、Bそれぞれに予め配合しておいてもよい。)。このとき、島ドメインサイズを制御する方法としては前記2成分(脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂)の溶融粘度の比とブレンド比、選定する相溶化剤と添加量を前記した範囲で調整し、剪断速度200〜20,000sec-1、滞留時間0.5〜30分の範囲で混練することで制御できる。島ドメインサイズを小さくする方法としては、上記範囲で混練温度が低い方がよく、剪断速度が高い方がよく、滞留時間が短い方がよい。この得られたポリマーブレンド樹脂を、さらに溶融紡糸法により繊維化するが、この場合も島ドメイン(成分A)の再凝集を抑制するために、ハイメッシュの濾層(#100〜#200)やポーラスメタル、濾過径の小さい不織布フィルター(濾過径5〜30μm)、パック内ブレンドミキサー(スタティックミキサーやハイミキサー)を組み込む等の工夫が必要である。
【0044】
さらに脂肪族ポリエステルとポリアミドとのポリマーブレンド物は非相溶系であり、溶融体は弾性項の強い挙動を示すため、紡出後にバラスと呼ばれる膨らみが発生し、細化・変形を不安定にさせる傾向がある。これを抑制する方法としては、紡糸温度を高くして伸長粘度を下げたり、紡糸口金の吐出孔径を大きくし、吐出線速度(吐出孔の最終絞り部のポリマー流速)を低下せしめたり、吐出孔長と孔径の比であるL/Dを長くする方法、吐出糸条を急冷する方法等が有効である。紡糸温度は成分B(ポリアミド)の融点により決めることができ、最適な範囲は成分Bの融点Tmb+10℃〜Tmb+40℃(例えば、成分Bの融点Tmbが200℃の場合は210〜240℃)である。また、前記吐出糸条のバラスによる膨らみを抑制し、細化・変形を安定させるための吐出線速度は好ましくは1〜20m/分であり、より好ましくは2〜15m/分、さらに好ましくは3〜12m/分である。また、L/Dは好ましくは0.6〜10であり、より好ましくは0.8〜7であり、さらに好ましくは1〜5である。また、冷却開始位置は口金面からの距離が0.01〜0.2mであることが好ましく、0.015〜0.15mがより好ましい。さらに好ましくは0.02〜0.1mである。また、紡糸速度の最適値は成分Aと成分Bとの溶融粘度の比、およびブレンド比により異なるが、大凡500〜5,000m/分とすることが好ましい。また、本発明の繊維は未延伸繊維の状態で放置すると配向緩和が生じやすく、未延伸パッケージ間で延伸するまでの時間差があると、容易に繊維の強伸度特性や熱収縮特性がばらつく。そのため、1工程で紡糸と延伸を行う直接紡糸延伸法を採用することが好ましい。延伸温度や熱セット温度は成分A及び成分Bのガラス転移点や融点により決めることができ、延伸温度は20〜80℃、熱セット温度はTmb−20℃〜Tmb−150℃で実施することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0046】
A.脂肪族ポリエステルの重量平均分子量
試料(脂肪族ポリエステルポリマー)のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0047】
B.ポリ乳酸の残存ラクチド量
試料(ポリ乳酸ポリマー)1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加した。さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求めた。
【0048】
C.カルボキシル基末端濃度
精秤した試料(下記方法で抽出した脂肪族ポリエステルポリマー)をo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端およびモノマー由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。なお、ポリマーアロイ繊維(合成繊維)から脂肪族ポリエステルを抽出する方法は特に限定されないが、本発明においてはクロロホルムやジクロロメタンを用いて脂肪族ポリエステルを溶解、濾過してポリアミドを取り除き、濾過液を乾化させて抽出している。
【0049】
D.熱可塑性ポリアミドの相対粘度および固有粘度
ナイロン6の相対粘度は、0.01g/mLの98%硫酸溶液を調製し25℃で測定した。
ナイロン11の固有粘度は0.5重量%のメタクレゾール溶液を調整し20℃で測定した。
【0050】
E.ポリマーの融点
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料20mgを昇温速度16℃/分にて測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。
【0051】
F.溶融粘度η
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、チッソ雰囲気下において温度240℃、剪断速度1216sec−1で脂肪族ポリエステル樹脂および熱可塑性ポリアミド樹脂それぞれの溶融粘度の測定をした。測定は3回行い平均値を溶融粘度とした。
【0052】
G.合成繊維中の島ドメインのサイズ
ポリマーアロイ繊維(合成繊維)の繊維軸と垂直の方向に超薄切片を切り出し、該切片のポリアミド成分をリンタングステン酸にて金属染色し、4万倍の透過型電子顕微鏡(TEM)にてブレンド状態を観察・撮影した。この撮影画像を三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF」を用い、島ドメイン(非染色部)のサイズとしてドメインを円と仮定し、ドメインの面積から換算される直径(直径換算)(2r)をドメインサイズとした。なお、測定するドメイン数は1試料あたり100個とし、その分布を島成分のドメインサイズ(島ドメインサイズ)とした。
TEM装置:日立社製H−7100FA型
条 件 :加速電圧 100kV
【0053】
H.成分Cの熱減量率
SII社製EXSTAR6000シリーズのTG/DTA6200を用い、試料(成分C)約10mgを秤量し、昇温速度10℃/分にて測定した熱減量曲線の200±0.5℃点の減量率を求めた。
【0054】
I.強度および伸度
試料(ポリマーアロイ繊維(合成繊維))をオリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT-100でJIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、1998年)に示される定速伸長条件で測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0055】
J.沸騰水収縮率(沸収)
試料(ポリマーアロイ繊維(合成繊維))を沸騰水に15分間浸積し、浸積前後の寸法変化から次式により求めた。
沸騰水収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]×100
L0:試料をかせ取りし、初荷重0.088cN/dtex下で測定したかせ長。
L1:L0を測定したかせを荷重フリーの状態で沸騰水処理し、風乾後、初荷重0.088cN/dtex下で測定されるかせ長。
【0056】
K.糸斑U%
合成繊維(ポリマーアロイ繊維)を試料とし、Zellweger uster社製UT4−CX/Mを用い、糸速度:200m/分、測定時間:1分間でU%(Normal)を測定した。
【0057】
L.断面異形度
合成繊維(ポリマーアロイ繊維)の糸の断面を切り出し、単繊維横断面の外接円の直径Dと、単糸横断面の内接円の直径dから次式により求めた。
異形度=D/d
【0058】
M.耐摩耗性評価
安藤鉄工所製のトワイン摩耗試験機を用い、P600番サンドペーパーをローラーに巻き付け、以下の条件にてローラーを回転させて糸切断までのローラー回転数を測定した。
回転体直径 : 40mm
糸の接触長 :110mm
ローラー回転数:200rpm
測定荷重 :0.4cN/dtex
【0059】
N.アイロン耐熱性
試料からなる布帛を、三洋電機(株)社製のスチームアイロンA−1Fを用い、アイロン表面温度が170℃の温度に達したら布帛にアイロン自重(面圧約8g/cm)で10秒間プレスし、プレス後の外観変化を評価した。
【0060】
「変化なし」が「◎」、「若干のアタリ有」が「○」、「明確なアタリ有」が「△」、「繊維間で部分的に融着が発生」が「×」、「溶融による穴あき」が「××」とした。
【0061】
[製造例1](ポリ乳酸の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で220分間重合を行いポリ乳酸P1を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は21.2万であった。また、残留しているラクチド量は0.12重量%であった。
【0062】
[製造例2](MADGICを10重量%含有したポリ乳酸の製造)
P1と四国化成(株)製モノアリルジグリシジルイソシアヌル酸(以下、MADGICと称する)を乾燥した後、P1:MADGIC=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練してMADGICを10重量%含有したポリ乳酸P2を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.15重量%であった。
【0063】
[製造例3](ポリカルボジイミドを10重量%含有したポリ乳酸の製造)
P1と日清紡(株)製ポリカルボジイミド“LA−1”を乾燥した後、P1:LA−1=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練してLA−1を10重量%含有したポリ乳酸P3を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.15重量%であった。
【0064】
[製造例4](PEG1000を10重量%含有したポリ乳酸の製造)
P1と三洋化成(株)PEG1000を乾燥した後、P1:PEG=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練してPEG1000を10重量%含有したポリ乳酸P4を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.15重量%であった。
【0065】
[製造例5](ポリ乳酸の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で150分間重合を行いポリ乳酸P5を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は15万であった。また、残留しているラクチド量は0.10重量%であった。
【0066】
実施例1
ポリ乳酸P1(融点172℃)、成分Bとして硫酸相対粘度2.15のナイロン6(融点225℃)を、さらにP3(MADGIC:10重量%)をそれぞれ乾燥して水分率を50〜100ppmに調整し、ブレンド比P1/成分B/P2=27/70/3(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:0.3重量%、成分A/成分B(ブレンド比率)=29.8/70.2、(ブレンド比率は繊維を構成する樹脂組成物中の成分Aと成分Bとの比である。すなわち成分AにはP1およびP3中のポリ乳酸成分を含む。以下の実施例も同じ)でチップブレンドし、図1に示す2軸混練機を備えた紡糸装置の紡糸ホッパー1に仕込み、2軸押出混練機2に導き、紡糸ブロック3にて溶融ポリマーを計量・排出し、内蔵された紡糸パック4に溶融ポリマーを導き、紡糸口金5から紡出した。このとき、口金下10cmの位置にモノマー吸引装置6を設置し、昇華するモノマー及びオリゴマーを取り除きつつ、ユニフロー冷却装置7で糸条8を冷却固化し、給油装置9により給油した。さらに第1引取ロール10で引き取った後、第2引取ロール11を介して巻取機12で巻き取り168デシテックス、12フィラメントの未延伸糸(巻取糸(チーズパッケージ)13)を得た。なお、成分Aの溶融粘度は203Pa・s、成分Bの溶融粘度は58Pa・sであり、溶融粘度の比ηb/ηaは約0.29であった。また、用いた成分Cの200℃熱減量率は0.8%であった。溶融紡糸条件は以下のとおりである。なお、下記条件における口金孔内の吐出線速度は10.9m/分であり、丸孔換算でのL/Dは1.2、冷却開始位置は口金面下0.1mである。
・混練機温度:230℃
・紡糸温度 :240℃
・濾層 :30#モランダムサンド充填
・フィルター:20μm不織布フィルター
・口金 :スリット幅0.2mm、スリット長0.3mm、孔深度0.6mmのY型孔
・吐出量 :33.6g/分(1パック1糸条、12フィラメント)
・冷却 :冷却長1mのユニフロー使用。冷却風温度20℃、風速0.5m/秒
・油剤 :脂肪酸エステル10%濃度エマルジョン油剤を糸に対して10%付着
・紡糸速度 :2000m/分
【0067】
さらにこの未延伸糸を図2に示す延伸装置を用い、得られた巻取糸(チーズパッケージ)14から供給ロール15を介して、第1ホットロール16で予熱した後、延伸速度900m/分、延伸温度80℃、延伸倍率2.0倍にて延伸し、第2ホットロール17で、熱セット温度130℃で熱セットを行い、コールドロール18を介して巻き取り、リングレール19を通して84デシテックス、12フィラメントの延伸糸(巻取糸(パーン)19)を得た。を得た。紡糸は約100kgサンプリングしたが糸切れ、単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。同様に未延伸糸全量を延伸したが、糸切れは発生しなかった。
【0068】
得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.03〜0.3μmであった。また、該糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去して観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、得られた繊維の異形度は1.6であり、強度3.5cN/dtex、伸度41%、沸騰水収縮率10%、糸斑U%0.6%と良好な繊維物性を示した。また、DSCでの融点は170℃近傍(ポリ乳酸)及び225℃近傍(ナイロン6)と、各成分起因の融解ピークが観測された。また、該繊維から抽出されたポリ乳酸のカルボキシル基末端濃度は5当量/tonであった。さらに摩耗試験による糸切断回転数は202回であり、試験時のフィブリル化もなく、良好な耐摩耗性を示した。
【0069】
また、該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、ソフトでシルキーな光沢を有する高品位な布帛であった。また、170℃のアイロン耐熱性試験においても、光沢斑やアイロン痕が付くこともなく、触感の変化もなかった。
【0070】
実施例2
P1/成分B/P2(MADGIC:10重量%)のブレンド比を5/92/3(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:0.3重量%)とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例2は紡糸性、延伸性ともに実施例1と同様、極めて安定していた。得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.01〜0.15μmと実施例1よりも島成分が分散径が小さかった。また、該糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、得られた繊維の異形度は1.4であり、繊維物性も良好であった。また、DSCでの融点は170℃近傍(ポリ乳酸)及び225℃近傍(ナイロン6)と、各成分起因の融解ピークが観測された。得られたマルチフィラメントの摩耗試験による糸切断回転数は405回であり、実施例1よりも優れていた。
【0071】
さらに該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、ソフト感のある布帛が得られたが、光沢感は実施例1よりもやや鈍いものであった。また、170℃のアイロン耐熱性試験は実施例1と同様、優れた特性を示した。
【0072】
実施例3
P1ポリマーを窒素雰囲気下100℃で2時間処理して結晶化させた後、更に真空下で130℃にて48時間処理して残留ラクチド量を0.03重量としたポリ乳酸P6を作成した。次にP6/成分B/P2(MADGIC:10重量%)のブレンド比を37/60/3(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:0.3重量%)とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例2は紡糸性、延伸性ともに実施例1と同様、安定しており、特に紡糸時の口金直下での発煙(ラクチド起因の発煙)がかなり抑制され、紡糸環境面において極めて良好であった。得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、比較的均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.03〜0.8μmと、実施例1よりは大きい島分散径であった。また、該糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。得られたマルチフィラメントの摩耗試験による糸切断回転数は127回であり、実施例1よりもやや劣るものの、実用上問題のないレベルであった。
【0073】
さらに該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、実施例1と同様、ソフト感でシルキーな光沢感のある布帛が得られた。また、170℃のアイロン耐熱性試験では、若干のアイロンアタリがみられた。
【0074】
実施例4
P1/成分B/P2(MADGIC:10重量%)のブレンド比を47/50/3(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:0.3重量%)とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例4は、100kgの未延伸糸をサンプリングする間、2回の糸切れが発生した。そこで、紡出部の様子を観察すると、バラスと呼ばれる糸条の膨らみが実施例1対比、約2倍の直径を有しており、さらに細化変形位置が上下に変動していることが観察された。また、延伸においても5回の糸切れが発生した。得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.05〜1.5μmとやや不均一で、部分的に島が結合した共連続構造が観察された。また、該糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。得られたマルチフィラメントの摩耗試験による糸切断回転数は105回であり、実施例1よりもかなり劣るものの、用途限定することで使用できるレベルであった。
【0075】
さらに該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、実施例1と同様、ソフト感でシルキーな光沢感のある布帛が得られた。また、170℃のアイロン耐熱性試験では、明確なアイロンアタリがみられ、低温アイロンに限定されるものであった。
【0076】
実施例5
ポリ乳酸P5(融点170℃)、成分Bとして固有粘度1.45のナイロン11(融点186℃)を用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例5は紡糸性、延伸性ともに実施例1と同様、安定していた。得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、比較的均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.05〜0.5μmと、実施例1よりは大きい島分散径であった。また、該糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。得られたマルチフィラメントの摩耗試験による糸切断回転数は155回であり、実施例1よりもやや劣るものの、実用上問題のないレベルであった。
【0077】
さらに該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、実施例1と同様、ソフト感でシルキーな光沢感のある布帛が得られた。また、170℃のアイロン耐熱性試験では、明確なアイロンアタリがみられ、低温アイロンに限定されるものであった。
【0078】
比較例1
P5/成分Bのブレンド比を65/35(成分Cは未添加)とした以外は実施例5と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例1は紡糸性、延伸性ともに実施例1と同様、安定していた。得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、比較的均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.05〜0.5μmであったが、該糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、ほとんどの海成分が欠落しており、ポリ乳酸が海成分を形成していることが確認された。また、得られたマルチフィラメントの摩耗試験による糸切断回転数は41回であり、後述するポリ乳酸単独糸(比較例2)と比較すれば優れるものの、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0079】
さらに該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、シルキーな光沢感はあるものの、実施例1と比較してやや粗硬感のある触感であった。また、170℃のアイロン耐熱性試験では、繊維間で部分的に融着が発生して粗硬感がさらに増してしまった。
【0080】
比較例2
成分A(ポリ乳酸P1)のみとした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例2は紡糸性、延伸性ともに実施例1と同様、安定していた。得られたマルチフィラメントは摩耗試験による糸切断回転数が15回であり、耐摩耗性が極めて劣っていた。また、該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、シルキーな光沢感はあるものの、粗硬感のある触感であるとともに、170℃のアイロン耐熱性試験では、アイロンが当たった部分が溶融し、穴があいてしまった。
【0081】
比較例3
P5/成分B/P2(MADGIC:10重量%)のブレンド比を47/50/3(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:0.3重量%)とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例3は、成分Aとしてポリ乳酸P5(融点170℃)を、成分Bとして硫酸相対粘度2.85のナイロン6(融点225℃)を用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。なお、成分Aの溶融粘度は116Pa・s、成分Bの溶融粘度は238Pa・sであり、溶融粘度の比ηb/ηaは約2.05であった。比較例3は溶融紡糸の際に糸の細化が極めて不安定であり、細化変形点が上下に激しく移動して太細が形成され、糸切れが頻発した。同様に、延伸においても糸切れが頻発した。糸横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが大きく、直径換算で3μmを越えるものであった。また、糸斑U%が6.3%と大きく、繊維物性も実施例1と比較して酷く劣るものであった。また、得られたマルチフィラメントの摩耗試験による糸切断回転数は36回であり、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0082】
実施例6
成分Cとして、ポリ乳酸P2の代わりにP3(ポリカルボジイミド“LA−1”:10重量%)を用い、ブレンド比をP1/成分B/P3=20/70/10(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:1.0重量%)とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例6は実施例1と同様、紡糸、延伸性ともに良好であり、延伸糸100kgのサンプリングを糸切れなく行うことができた。また、得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.03〜0.3μmと実施例1と同様、島成分の分散径が小さかった。また、該糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、得られた繊維の異形度は1.7であり、繊維物性も良好であった。得られたマルチフィラメントの摩耗試験による糸切断回転数は228回であり、実施例1よりも優れていた。
【0083】
さらに該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、ソフト感、光沢感ともに実施例1と同等レベルであったが、色調がやや黄味を帯びていた。また、170℃のアイロン耐熱性試験は実施例1と同様、優れた特性を示した。
【0084】
実施例7
成分Cとして、ポリ乳酸P2の代わりにP4(PEG1000:10重量%)を用い、ブレンド比をP1/成分B/P4=20/70/10(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:1.0重量%)とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例7は実施例1と同様、紡糸、延伸性ともに良好であり、延伸糸100kgのサンプリングを糸切れなく行うことができた。また、得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.02〜0.25μmと実施例1と同様、島成分の分散径が小さかった。また、該糸断面の切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、得られた繊維の異形度は1.6であり、繊維物性も良好であった。得られたマルチフィラメントの摩耗試験による糸切断回転数は193回であり、実施例1と同等レベルの耐摩耗性を示した。
【0085】
さらに該マルチフィラメントを用いてタフタを作成して評価したところ、ソフト感、光沢感ともに実施例1と同等レベルであった。また、170℃のアイロン耐熱性試験も実施例1と同様、優れた特性を示した。
【0086】
実施例8
P1/成分B/P3(ポリカルボジイミド“LA−1”:10重量%)のブレンド比を29.5/70/0.5(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:0.05重量%)とした以外は実施例6と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例8は実施例6と同様、紡糸、延伸性ともに良好であり、延伸糸100kgのサンプリングを糸切れなく行うことができた。また、その他の特性についても実施例6とほぼ同等であった。さらに摩耗試験による糸切断回転数は170回であり、実用上問題のないレベルであった。
【0087】
実施例9
P1/成分B/P3のブレンド比を0/70/30(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:3.1重量%)とした以外は実施例6と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例9は紡糸の際に糸の細化がやや不安定であり、細化変形点が上下に移動する傾向がみられた。また、100kgのサンプリングにおいて3回の糸切れが発生した。得られた延伸糸も、糸斑U%が1.9%とやや悪いものであったが、用途を限定すれば使用可能なレベルであった。その他の糸物性も実施例1や実施例6対比、やや劣るものであったが、摩耗試験による糸切断回転数は211回であり、実施例1同様、高い耐摩耗性を示した。
【0088】
実施例10
P1/成分B/P3のブレンド比を0/50/50(成分Aと成分Bの合計量に対する成分Cの濃度:5.3重量%)とした以外は実施例6と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例10は紡糸の際、実施例9よりもさらに糸の細化が不安定となり、細化変形点が上下に大きく移動する傾向がみられた。また、100kgのサンプリングにおいて30回の糸切れが発生した。得られた延伸糸も、糸斑U%が4.8%と悪く、繊維物性も実施例9よりも劣るものであった。また、摩耗試験による糸切断回転数は48回であり、ポリ乳酸単独糸(比較例2)と比較すれば優れるものの、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の繊維を製造するために好ましい紡糸装置の概略図である。
【図2】本発明の繊維を製造するために好ましい延伸装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0092】
1:紡糸ホッパー
2:2軸押出混練機
3:紡糸ブロック
4:紡糸パック
5:紡糸口金
6:モノマー吸引装置
7:ユニフロー冷却装置
8:糸条
9:給油装置
10:第1引取ロール
11:第2引取ロール
12:巻取機
13:巻取糸(チーズパッケージ)
14:巻取糸(チーズパッケージ)
15:供給ロール
16:第1ホットロール
17:第2ホットロール
18:コールドロール
19:リングレール
20:巻取糸(パーン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)を含有してなるポリマーアロイで構成される合成繊維であって、脂肪族ポリエステル樹脂(A)が島成分を形成し、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が海成分を形成した海島構造をしており、島成分のドメインサイズが0.001〜3μmであることを特徴とする合成繊維。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)が結晶性の樹脂であり、融点が150〜230℃であることを特徴とする請求項1記載の合成繊維。
【請求項3】
熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が結晶性の樹脂であり、融点が150〜250℃であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の合成繊維。
【請求項4】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)のブレンド比率(重量比)が5/95〜55/45であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の合成繊維。
【請求項5】
相溶化剤(C)が、一分子中に2個以上の活性水素反応性基を含有する化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の合成繊維。
【請求項6】
活性水素反応性基が、グリシジル基及び/又はオキサゾリン基及び/又はカルボジイミド基及び/又は酸無水物のいずれかおよび複数の反応基であることを特徴とする請求項5項記載の合成繊維。
【請求項7】
相溶化剤(C)が、分子量400〜20,000のポリアルキレンエーテルグリコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の合成繊維。
【請求項8】
熱重量測定において、常温から昇温速度10℃/分にて250℃まで昇温させたときの相溶化剤(C)の200℃到達点の熱減量率が3%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の合成繊維。
【請求項9】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)の合計量に対する相溶化剤(C)の含有量が0.005〜5重量%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の合成繊維。
【請求項10】
請求項1〜9のうち、いずれか1項記載の合成繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする繊維構造体。
【請求項11】
繊維構造体が自動車内装用のカーペットであることを特徴とする請求項10記載の繊維構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−233375(P2006−233375A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50892(P2005−50892)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】