説明

合金設計支援システム、合金設計支援用プログラム、および合金設計支援方法

【課題】ユーザが所望の金属特性を発揮する新規の合金を可及的に容易に行うために、当該ユーザの合金設計を支援する。
【解決手段】合金設計支援システムであって、複数の既存合金のそれぞれについて、該既存合金の製造条件に関する所定製造情報と、該既存合金の特性に関する所定特性情報とを記憶する記憶部21と、記憶部に含まれる複数の既存合金の全部又は一部である対象既存合金に対して、二つの既存合金のそれぞれの所定製造情報の差分に関する差分情報を取得する差分情報取得部32と、対象既存合金を、所定特性情報に従って決定される評価特性を評価軸とするマップ上に設定し、且つ該マップに対して差分情報取得部によって取得された差分情報に対応する所定製造情報の変動情報を付与することで合金設計マップを作成するマップ作成部33と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザが非常に複雑な合金の設計を行う際、その設計支援を行う合金設計支援システム、合金設計支援用プログラム、および合金設計支援方法に関する。そして、特にアルミニウム合金の設計支援に適している。
【背景技術】
【0002】
現在、地球的規模の環境保全のあり方について、日本国内のみならず世界中で議論が重ねられている。ここで、環境保全のためいわゆる循環型社会の形成が提唱されており、その一環として新規の合金設計は注目を集めている。アルミニウム合金は、「熱伝導性が高い、加工しやすい、耐食性がよい、磁気を帯びにくい」等の様々な特性を有し我々の日常生活に不可欠な素材であるとともに、「軽い、リサイクルしやすい、再生しやすい」素材として環境保全に果たす作用は極めて大きいからである。このように循環型社会を実現するために、アルミニウム合金には、環境にやさしい素材としてその利用率の増加および応用範囲の拡大が期待されている。
【0003】
ここで、複雑な合金設計を支援するための技術が複数提案されている。第一の技術は非特許文献1に開示の技術であり、新たな合金設計をするための基礎として、従来までに開発された合金を区分けするための、いわゆるクラスタリングに関する技術である。当該技術では、クラスタリングによって形成されるクラスタ間での所定の変数の変動の一致度に基づいて最適なクラスタリングを行おうとするものである。
【0004】
また、第二の技術は非特許文献2に開示の技術であり、上記と同様にクラスタリングの技術である。当該技術は遺伝的アルゴリズムを利用したものであるが、当該クラスタリングの柔軟性が比較的低いため、ユーザへの設計支援が十分ではない。
【非特許文献1】青山和浩、西山明、古賀毅、茂手木智一:合金設計を支援するための実験データマニングと知識マネジメント・システム、日本機械学会第14回設計工学・システム部門講演会講演論文集、2004年
【非特許文献2】吉田一寛:データ集合からの設計マップの創成方法の考察、東京大学工学部システム創世学科卒業論文、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
合金の利用率を高め、その応用範囲を拡大するためには、高性能、高品質、低コストの新規合金設計・開発が不可欠である。しかし、合金の設計は非常に複雑な設計である。即ち、合金設計は、その目的に応じて求められる金属特性(耐力、抗張力等)を満たすための添加元素(組成物)の割合と加工条件からなる製造条件を決定する一連の工程であるが、一般的にこの製造条件と金属特性の間には線形性を有する関係はなく、従って合金特性から容易に製造条件を決定することはできない。
【0006】
従来では、ユーザ個々のスキルによって、例えば熟練者といわれる方々の個々の経験や勘に従って、この製造条件を決定することが行われてきた。しかし、これらのスキルの伝承には多くの時間を要し、また熟練者であっても試行錯誤の連続である合金設計においては、新規合金の設計・開発には多くの時間とコストが必要とされる。
【0007】
本発明では、上記した問題に鑑み、ユーザが所望の金属特性を発揮する新規の合金を可及的に容易に行うために、当該ユーザの合金設計を支援する合金設計支援システム、合金
設計支援用プログラム、および合金設計支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、いわゆるデータマイニングの視点からユーザの合金設計を支援する。データマイニングは、統計学、パターン認識、人工知能等のデータ解析の手法を、大量の情報に適用することで、より客観性の担保されたデータ解析を行うものである。このデータマイニングを利用することで、大量の情報の裏に隠れたユーザが今まで気付かなかった規則性を導出することが可能となり、以てユーザの新規合金の設計を効率的に支援することが可能となる。
【0009】
詳細には、本発明は、ユーザの新規合金の設計を支援する合金設計支援システムであって、 複数の既存合金のそれぞれについて、該既存合金の製造条件に関する所定製造情報と、該既存合金の特性に関する所定特性情報とを記憶する記憶部と、前記記憶部に含まれる複数の既存合金の全部又は一部である対象既存合金に対して、二つの既存合金のそれぞれの前記所定製造情報の差分に関する差分情報を取得する差分情報取得部と、前記対象既存合金を、前記所定特性情報に従って決定される評価特性を評価軸とするマップ上に設定し、且つ該マップに対して前記差分情報取得部によって取得された差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報を付与することで合金設計マップを作成するマップ作成部と、を備える。
【0010】
本発明に係る合金設計支援システムでは、記憶部に記憶されている所定の情報、即ち既存合金に関する上記所定製造情報と所定特性情報に基づいた、合金設計の支援が行われる。即ち、従来までに知られることとなっている既存合金のその金属特性と、当該既存合金とが製造された際の製造条件を踏まえた設計支援が合金設計支援システムによって行われる。ここで、一般に既存合金の製造条件とその金属特性との間には、線形性等のユーザが直ちに認知することが可能な関係性を見いだすことは難しい。そこで、本発明に係る合金設計支援システムでは、これらの既存合金に関する情報(場合によっては、その情報量は極めて多大である)からユーザが新規の合金設計を為すに当たり、有用な規則性をデータマイニングの観点から導出するとともに、それをユーザに提示する。
【0011】
上記所定製造情報は、既存合金の製造の際に設定された製造のためのパラメータに関する情報であり、例えば既存合金の組成物の組成量や、製造のための加工工程の温度や時間等の情報である。この所定製造情報を構成する各パラメータの種類は、必要に応じてユーザが適宜選択し、記憶部へ記憶させればよい。また、上記所定特性情報は、既存合金の金属特性を示す情報であり、例えば、耐力、抗張力等が挙げられる。また、この所定特性情報は、本発明に係る合金設計支援システムの設計支援をする際に、ユーザが所望する新規合金を特定するためのパラメータでもある。即ち、ユーザは、所望の金属特性を有する新規合金の設計を行う際に、本発明に係る合金設計支援システムによる支援を受けることが可能である。
【0012】
そこで、本発明に係る合金設計支援システムでは、上記記憶部が記憶する既存合金に関する所定製造情報に対して差分情報取得部が差分情報の取得を行う。尚、この差分情報の取得は、記憶部に記憶される全ての既存合金の所定製造情報に対して行う必要はなく、必要に応じた所定製造情報の選択が行われてもよい。尚、本発明においては、この差分情報取得の対象とされた既存合金を、対象既存合金と称する。この差分情報は、対象既存合金間の製造条件の異なる量、即ち金属特性と何らかのつながりを有する製造条件の変動量に関する情報である。
【0013】
そして、この差分情報を踏まえて、マップ作成部による合金設計マップの作成が行われることになる。この合金設計マップが、ユーザが新規合金を設計しようとする際にその支
援をするものである。合金設計マップは、対象既存合金の所定特性情報に従って決定される評価特性を評価軸として形成されるマップであり、そこには対象既存合金と、該対象既存合金に関連し上記差分情報から導かれる変動情報(場合によっては、該変動情報は該差分情報そのものであってもよい)とが同時に示されている。これにより、ユーザは、上記評価軸上で、対象既存合金同士の相関関係を、変動情報を介して知ることができる。その結果、合金設計マップに設定された対象既存合金の間にわたる製造条件の変動の流れと、それと関連する評価軸による評価特性とを容易に関連付けることができ、以てユーザが所望する金属特性を有する新規合金へ至るであろう製造条件の指針を立てやすくなる。
【0014】
以上より、本発明に係る合金設計支援システムによれば、ユーザに対して、既存合金の製造条件と金属特性に関する情報から有用な情報を提供することができ、その結果ユーザは新規合金の設計が容易に行う可能性が高くなる。
【0015】
ここで、上記の合金設計支援システムにおいて、前記マップ作成部は、前記変動情報を、ユーザに対して視覚的に認識可能な所定記号で表示するようにしてもよい。上記所定記号の一例として、矢印記号等が挙げられる。このようにすることで、ユーザが視覚的に容易に新規合金の設計のための製造条件を認知することが可能となる。
【0016】
また上述までの合金設計支援システムにおいて、前記差分情報における二つの前記対象既存合金の前記所定製造情報の差分の傾向に基づいて、前記合金設計マップ上で該対象既存合金を複数の所定クラスタに区分けするとともに、該複数の所定クラスタにおける二つの該所定クラスタの間の前記所定製造情報の差分に関する情報をクラスタ差分情報として取得するクラスタリング処理部を、更に備えるようにし、そして、前記マップ作成部は、前記クラスタリング処理部によって生成された前記所定クラスタを有する前記合金設計マップに対して、前記クラスタ差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報を付与するようにしてもよい。
【0017】
上記のようにマップ作成部によって作成される合金設計マップは、ユーザの新規合金設計には非常に有用である。しかし、合金設計マップに設定される対象既存合金の数が多くなればなるほど、ユーザにより多くの情報を与えるためより正確な設計支援を行える可能性もあるが、一方でマップ上に付与される変動情報も多くなるためユーザが合金設計マップから得られる新規合金のための製造条件に関する情報が埋没してしまう虞もある。通常、マップ上で異なる対象合金であっても、その金属特性が隣接する場合もあるため、このような場合はユーザに提供される情報を集約してもよい。
【0018】
そこで、その情報の集約として上記クラスタリング処理部によるクラスタリングが行われる。このクラスタリングによって生成される所定クラスタは、合金設計マップに設定される全ての対象既存合金のうち、一又は複数の対象既存合金を含むものであり、これにより情報の集約が果たされる。尚、この所定クラスタの生成は、二つの前記対象既存合金の前記所定製造情報の差分の傾向に基づいて行われるものであり、これにより一の所定クラスタに属する一又は複数の対象既存合金と、他の所定クラスタに属する一又は複数の対象既存合金とは、互いの間に存在する所定製造情報の差分が大体一致することになる。そこで、マップ作成部は、個別の対象既存合金間の変動情報に代えて、所定クラスタ間の変動情報を付与することで、ユーザが所望する金属特性を有する新規合金の製造条件を認識しやすくなる。このクラスタリング処理部によるクラスタリングは、対象既存合金数が多くなるほど有用であろう。
【0019】
ここで、上記合金設計支援システムにおいて、前記クラスタリング処理部は、前記マップ作成部によって前記対象既存合金が設定されたマップにおいて、それぞれの対象既存合金が母点として属する所定ボロノイ領域を形成するボロノイ処理部と、前記ボロノイ処理
部によって形成された所定ボロノイ領域のうち、隣接する所定ボロノイ領域に属する対象既存合金を結んで、所定ドロネー辺による合金ネットワークを形成する合金ネットワーク形成部と、前記合金ネットワーク形成部によって形成された前記合金ネットワークに基づいて、関連付けされている前記所定ボロノイ領域同士を集約、展開することで、前記所定クラスタに区分けする区分け処理部と、を有するようにし、そして、前記マップ作成部は、前記区分け処理部によって区分けされた前記所定クラスタを有する前記合金設計マップに対して、前記変動情報を付与するようにしてもよい。
【0020】
上記合金設計マップ上でクラスタリング処理部によるクラスタリングを行う際、大きな問題が生じる場合がある。所定クラスタを生成するためには、対象既存合金同士の製造条件の変動量と金属特性との相関関係に基づく必要があるため、該所定クラスタ生成に要する処理量が極めて大きくなる場合がある。また、合金設計マップ上で一の所定クラスタと他の所定クラスタとが重なってしまうと、新規合金の設計のための製造条件をユーザに認識させることが難しくなる場合がある。
【0021】
そこで、上記ボロノイ処理部と合金ネットワーク部による処理が行われる。ボロノイ処理部は、合金設計マップ上に対象既存合金それぞれが母点として属することになる所定ボロノイ領域を形成する。この所定ボロノイ領域は、数学的手法であるボロノイ図の形成手法に従って合金設計マップ上で形成されるため、一の所定ボロノイ領域の任意点と他の所定ボロノイ領域の任意点は、それぞれの母点より相手側の母点との方が点間距離が長くなり、且つ互いの領域が重なることはない。そして、合金ネットワーク形成部によって、隣接する所定ボロノイ領域間に所定ドロネー辺による合金ネットワークが形成される。このドロネー辺も、数学的手法によるものである。
【0022】
このように形成される所定ボロノイ領域は、重複することがないため所定クラスタの単位として利用できる。また、このようにして形成される合金ネットワークは、重ならない所定ボロノイ領域同士を集約・展開するための道筋(ネットワーク)を示すものとなるから、区分け処理部がこのネットワークに従って所定ボロノイ領域を集約・展開することで、所定クラスタの単位となるボロノイ領域生成のための処理量がいたずらに大きくなることを抑制できる。そこで、マップ作成部は、区分け処理部によって区分けされた所定クラスタに対して上記変動情報を付与することで、効率的な新規合金の設計支援が可能となる。
【0023】
ここで、上記合金設計支援システムにおいて、前記クラスタリング処理部によって生成される前記所定クラスタの数に関して、ユーザからの要求を受け付けるクラスタ数要求受付部を、更に備えるようにし、前記クラスタリング処理部は、前記合金設計マップ上の前記対象既存合金を、前記クラスタ数要求受付部によって受け付けられた前記所定クラスタ数に区分けするようにしてもよい。即ち、ユーザの要求に応じて、合金設計支援マップでのクラスタリングの程度を調整することが可能となる。
【0024】
クラスタリングによる所定クラスタの数が少ないときは、合金設計マップでの製造条件に関する変動情報と、金属特性との相関を巨視的に捉えることになるため、ユーザは大まかな設計の指針を認識することができる。一方で、その所定クラスタ数を増やすと、いわば細かな所定クラスタが生成されるため、設計指針を認識しにくくなるものの、製造条件に関する変動情報と、金属特性との相関を細かく認識することが可能となる。そこで、ユーザの要求に応じて所定クラスタ数を変更することが可能となることで、ユーザは所望する新規合金設計のための製造条件を正確に把握することが可能となる。
【0025】
ここで、上述までの合金設計支援システムにおいて、ユーザの合金設計の前提となる前提製造情報に類似する情報を前記所定製造情報の一部として含む既存合金を、前記記憶装
置が記憶する前記複数の既存合金の中から前記対象既存合金として抽出する既存合金抽出部を、更に備えるようにし、前記差分情報取得部は、既存合金抽出部によって抽出された前記対象既存合金に対して、前記差分情報を取得するようにしてもよい。
【0026】
記憶部が記憶する既存合金に関する情報は、多種多様な情報であり、場合によっては新規合金の設計のために必ずしもその全てが必要となるとは限らない。特に、一般的な合金設計においては、製造条件のうちいくつかの条件を前提条件として固定した上で、その他の条件を調整していくという手法が採られる。すると、ユーザの設計支援の観点から、この前提条件と同一か又は近い条件を有する既存合金情報が、ユーザの新規合金の設計に有用である場合がある。そこで、本発明に係る合金設計支援システムでは、ユーザが設計しようとする新規金属合金の前提製造情報との類似性という観点から、既存合金抽出部によって、記憶部に記憶されている既存合金に関する情報にふるいをかけるものとする。これにより、合金設計の支援において、ユーザに対してより適切な情報提供を行うことができる。ここで、上記前提製造情報とは、新規の合金を設計しようとするとき、予め決定される製造条件の一部に関する情報である。
【0027】
そして、上記合金設計支援システムにおいて、前記既存合金抽出部は、仮に抽出された対象既存合金中の適性を、該仮に抽出された対象既存合金の前記所定製造情報と前記所定特性情報との相関関係に基づいて判断するようにしてもよい。即ち、既存合金抽出部は、対象既存合金を抽出したとしても、その適性をその都度判断することで、ユーザの設計支援に適した対象既存合金を最終的に抽出することが可能である。ここで、その適性の判断の基準は、仮に抽出された対象既存合金の所定製造情報と所定特性情報との相関関係である。この相関関係に何らかの矛盾点が見出せる場合は、その対象既存合金の適性は否定される。
【0028】
ここで、上述までの合金設計支援システムにおいて、前記所定製造情報は、合金製造条件に関する複数の所定製造項目に対応する情報を有するものであって、その場合は、前記差分情報取得部は、前記所定製造情報が有するそれぞれの前記所定製造項目に対応させて前記差分情報を取得し、前記マップ作成部は、前記所定製造情報が有するそれぞれの前記所定製造項目に対応させて、前記合金設計マップを作成するようにしてもよい。所定製造項目ごとに合金設計マップが作成されることで、所定製造項目の変動と合金の金属特性との関係をユーザが把握することができ、以てより効率的な合金設計支援が提供できる。
【0029】
そして、前記所定製造情報の前記所定製造項目は、前記既存合金を組成する組成金属の組成量、および該既存合金を製造するための製造行程を少なくとも含むものであってよい。即ち、現実の合金設計において、組成物の組成量と製造工程とを決定することは不可欠であるから、それぞれの項目について合金設計マップが作成されるのが好ましい。
【0030】
また、本発明に係る合金設計支援システムは、展伸材に関する合金の設計支援に特に有用である。即ち、前記既存合金は展伸材に関する合金であることを意味する。これは、展伸材は、合金の組成物とその製造工程の両者を考慮しなければならない合金であることに拠る。もちろん、展伸材以外の合金、例えば製造工程が比較的単純な鋳造材に関する合金に対しても、本発明にかかる合金設計支援システムは有用であることは言うまでもない。
【0031】
次に、上記課題を解決すべく、本発明を、コンピュータを作動させるプログラムの側面から捉えてもよい。詳細には、本発明は、ユーザの合金設計を支援するためのコンピュータ用プログラムであって、複数の既存合金のそれぞれについて、該既存合金の製造条件に関する所定製造情報と、該既存合金の特性に関する所定特性情報とを記憶する記憶装置を有するコンピュータに、前記記憶装置に含まれる複数の既存合金の全部又は一部である対象既存合金に対して、二つの既存合金のそれぞれの前記所定製造情報の差分に関する差分
情報を取得する差分情報取得ステップと、前記対象既存合金を、前記所定特性情報に従って決定される評価特性を評価軸とするマップ上に設定し、且つ該マップに対して前記差分情報取得部によって取得された差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報を付与することで合金設計マップを作成するマップ作成ステップと、を実行させる合金設計支援用プログラムである。これにより、ユーザは上記プログラムが実行されるコンピュータを介して、上述した効率的な合金設計のための支援を受けることができる。その他、上記までに開示された合金設計支援システムに関する発明特定事項に含まれる技術的思想を、本発明に係る合金設計支援用プログラムに対しても適用することが可能である。
【0032】
更に、上記課題を解決すべく、本発明を、新規の合金を設計する際にその設計を支援するための方法の側面から捉えてもよい。詳細には、本発明は、 ユーザの合金設計を支援するための合金設計支援方法であって、複数の既存合金のそれぞれについて、該既存合金の製造条件に関する所定製造情報と、該既存合金の特性に関する所定特性情報とを記憶する記憶装置に含まれる、複数の既存合金の全部又は一部である対象既存合金に対して、二つの既存合金のそれぞれの前記所定製造情報の差分に関する差分情報を取得する差分情報取得ステップと、前記対象既存合金を、前記所定特性情報に従って決定される評価特性を評価軸とするマップ上に設定し、且つ該マップに対して前記差分情報取得部によって取得された差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報を付与することで合金設計マップを作成するマップ作成ステップと、を含む合金設計支援方法である。これにより、ユーザは上記合金設計支援方法を介して、上述した効率的な合金設計のための支援を受けることができる。その他、上記までに開示された合金設計支援システムに関する発明特定事項に含まれる技術的思想を、本発明に係る合金設計支援方法に対しても適用することが可能である。
【発明の効果】
【0033】
ユーザが所望の金属特性を発揮する新規の合金を可及的に容易に行うために、当該ユーザの合金設計を支援することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
ここで、本発明に係る合金設計支援システムについて、明細書添付の図面に基づいて説明する。尚、当該実施例は本発明に係る合金設計支援システムの一例を示すものであり、本発明の権利範囲を限定するものではない。また、当該合金設計支援システムは、コンピュータに所定のプログラムを実行させることでその機能が発揮させられ、その結果、ユーザの新規合金の設計を効率的に支援することが可能となるものである。ここで、図1は、本発明に係る合金設計支援システム1の概略構成をおよび、各構成要素が果たす機能をイメージ化して機能ブロックで示した図である。尚、この機能ブロックは、コンピュータ本体3において実行されるプログラムによって実現されているが、それに代えて専用のプロセッサ等によって実現されるようにしてもよい。
【0035】
本発明に係る合金設計支援システム1の概略構成について以下に説明する。合金設計支援システム1は、ハードディスクドライブ等で構成される記憶装置2と、CPU等の演算処理装置を有し様々な演算処理が可能なコンピュータ本体3と、コンピュータ本体3にユーザの指示や要求等を入力するための、キーボード等の入力装置4と、コンピュータ本体3による演算結果等を表示するためのディスプレイ5とで構成されている。そして、記憶装置2においては、ユーザの新規合金の設計支援を行うために蓄積された、従来までの既存合金に関する情報が、合金情報記憶部21によって格納されている。当該既存合金の情報については後述する。また、入力装置4においては、後述するユーザからのクラスタリングに関する要求を入力するためのクラスタリング入力部41が設けられている。そして、ディスプレイ5には、コンピュータ本体3による演算結果を表示するための表示部51が設けられている。
【0036】
ここで、コンピュータ本体3においては、合金情報記憶部31によって記憶されている既存合金に関する情報のうち、ユーザの新規合金設計の支援に必要な既存合金を対象既存合金として抽出する対象既存合金抽出部31が設けられている。そして、この対象既存合金抽出部31によって抽出された対象既存合金について、それらが有する製造情報や特性情報に関する差分情報が、差分情報取得部32によって取得される。その後、取得された差分情報に従って、マップ作成部33によって合金設計マップの作成が行われ、当該合金設計マップが上記表示部51によってディスプレイ5の画面に表示される。また、マップ作成部33には、クラスタリング処理部35が設けられ、該クラスタリング処理部35は、ボロノイ処理部36、合金ネットワーク形成部37、区分け処理部38を有している。これらの詳細な説明は後述する。
【0037】
ここで、コンピュータ本体2による新規合金の設計支援のための処理について、図2に基づいて説明する。この処理は、入力装置4を介してユーザから設計支援の要求が出されたとき実行される処理である。ここで、図2に示す合金設計支援処理を説明する前に、記憶装置2に記憶されている既存合金に関する情報(以下、「既存合金情報」と言う。)について、図3に基づいて説明する。図3に示すように、既存合金情報は、既存合金毎に、該既存合金の製造条件に関する情報と該既存合金の金属特性に関する情報とで構成されており、更に製造条件に関する情報は、該既存合金を構成する組成物の組成量に関する情報と、該既存合金を製造するにあたり設定された製造工程に関する情報とで構成され、各情報には対応する数値が格納されている。このように、既存合金情報は、その既存合金の製造条件と金属特性とを関連付けて格納した情報である。
【0038】
本発明に係る合金設計システム1は、この既存合金情報を利用して、ユーザが要求する特性を有する新規合金の設計を支援するものである。従って、ユーザが要求可能な金属特性は、この既存合金情報に蓄積された情報の金属特性と同一か、又はそれから導出される特性となる。尚、図3に示す既存合金情報は一例であり、情報構造はこの例に限られない。そして、以下の説明においては、説明を簡便に且つ理解しやすいように既存合金情報の構造を適宜調整している。
【0039】
ここで、図2に話を戻すと、合金設計支援処理においては、先ずS101で、上記対象既存合金抽出部31によって、対象既存合金の情報の抽出処理が行われる。本発明においては、当該処理を「グルーピング」と称する。このグルーピング処理は、合金情報記憶部21によって記憶されている既存合金情報のうち、ユーザの合金設計支援に有用なものを抽出するための処理である。合金情報記憶部21は、大量の既存合金に関する情報を格納しているため、その全てがユーザが所望する新規合金の設計支援のために必要とは限らない。特に、後述する「差分情報」を取得するためには、ユーザにとって有用な差分情報を取得しなければならないため、S101によるグルーピング処理は有用な処理である。尚、その詳細については後述する。S101の処理が終了すると、S102へ進む。
【0040】
S102では、S101で抽出された対象既存合金の情報から、それらの差分情報の取得が行われる。この差分情報の取得処理は、上記差分情報取得部32によって行われる。本発明に係る差分情報とは、特性が異なる一の既存合金と他の既存合金との間で、その特性の相違を導き出す要因となっていると考えられる、両既存合金間の製造条件に関する情報の「差分」を表すものである。言い換えると、この「差分」の存在が、合金の金属特性を決定付ける大きな要因であるから、ユーザに対して「差分」に関する差分情報を提示することで、ユーザが所望する新規合金の設計支援を行うことができるのである。
【0041】
差分情報の取得の一例を、図4(a)および(b)に基づいて説明する。図4(a)は、図3に示す既存合金情報のうち合金番号が6番の既存合金と8番の既存合金との間での
差分情報を示す図である。6番の既存合金と8番の既存合金との間では、製造条件に関する情報のうち、製造工程の情報は両者とも同一であるが、組成物の情報には相違があり、そして両者の金属特性にも相違がある。そこで、6番の既存合金から8番の既存合金方向への両者の差分を見てみると、「組成物1が増え組成物4が減少することで、特性1および特性2が増加する」という差分情報が見出せる。
【0042】
同様に、図4(b)についても、図3に示す既存合金情報のうち合金番号が9番の既存合金と11番の既存合金との間での差分情報を示す図である。9番の既存合金と11番の既存合金との間では、製造条件に関する情報のうち、製造工程の情報は両者とも同一であるが、組成物の情報には相違があり、そして両者の金属特性にも相違がある。そこで、9番の既存合金から11番の既存合金方向への両者の差分を見てみると、「組成物1が増え組成物4が減少することで、特性1および特性2が増加する」という、図4(a)と同様の差分情報が見出せる。
【0043】
また、図4に示す差分情報は、製造条件の情報のうち組成物に関する情報の差分と金属特性との相関を示すものであるが、同様に製造条件の情報のうち製造工程に関する情報の差分と金属特性との相関を示す差分情報も、差分情報取得部32によって取得される。この差分情報をまとめてユーザに提示することで、ユーザは新規合金の設計を容易に且つ確実に行うことが可能となる。そこで、次にユーザへの差分情報の提示に関して、S103の処理を説明する。
【0044】
S103では、S102で取得された差分情報に基づいて、合金設計マップが作成される。この合金設計マップの作成処理は、上記マップ作成部33によって実行される。ここで、差分情報と合金設計マップの相関について、図5に基づいて説明する。図5に示す差分情報は、説明を簡便にするため、図3に示す既存合金情報ではなく、新たに設定された対象既存合金A、B、Cに関する差分情報である。そして、この差分情報は、製造条件に関する情報として、組成物1、組成物2および工程1に関する情報の差分を示す。例えば、合金Aから合金Bを見たときの差分情報は、組成物1の数値は増えるが、組成物2および工程1の数値は減るという情報である。このように、三種の対象既存合金の間での全ての差分情報(6通り)が、マトリックス状に図5に示されている。
【0045】
ここで、本発明に係る合金設計マップは、図5に示すように、抗張力と耐力の二つの金属特性による評価軸で形成されたマップを、差分情報に関連する製造条件の項目(以下、「製造項目」と言う。本実施例では、組成物1、組成物2、工程1が製造項目に相当する)毎に用意し、各マップ上に三種の既存合金A〜Cをプロットする。そして、各マップにおいて、各既存合金間の各製造項目に関する差分情報を、既存合金間を結ぶ「矢印」として示す。この矢印の向きは、各製造項目の値が減少する方向に向くように設定される。例えば、図5に示す例では、製造項目「組成物1」については、既存合金Bから組成物1を減らすと既存合金AおよびCに近づき、更に既存合金Cから組成物を減らすと既存合金Aに近づくという三者の相関が示されている。製造項目「組成物2」および製造項目「工程1」につても、同様に三者の相関が示される。尚、この三者の結果は、S104の処理により、上記表示部51を介してディスプレイ5の画面上に表示されることになる。
【0046】
以上より、本合金設計支援処理によると、ユーザは自己が所望する合金の製造条件を、既存合金の製造条件と金属特性との関係から推し量ることができるようになり、以て合金設計支援システム1の設計支援の効果を享受することができる。
【0047】
ここで、上記対象既存合金抽出部31による抽出処理(グルーピング処理)について、図6〜8に基づいて詳細に説明する。図6は、当該グルーピング処理のフローチャートであり、図7は、グルーピング処理による抽出された対象既存合金のグループの変化につい
て示した図であり、図8は、グルーピング処理においてグループ分けされたグループが適正か否かを判別するための手順を示す図である。
【0048】
対象既存合金抽出部31によるグルーピング処理は、実際に行われる合金設計での便宜を考慮して行われる。実際に合金設計を行う際には、ユーザは、製造条件のうち、組成物と製造工程を別々に考えるケースが多い。それは、組成物の調整と製造工程条件の変更との間に時間的な前後順序が存在するため、即ち組成物量を決定した後に工程条件を決定する等といった前後順序が存在するため、一方を固定した前提の下で、他方を決定するのが効率的であるからである。一例としては、組成物を決めるにあたって、ユーザは、工程条件を事前に設定しておき、その同じ工程条件の下、組成物の調整を繰り返すことで新規合金を設計する。またそれと同様に、組成物を事前に設定し、同じ組成物の下、工程条件の調整を繰り返すことでも、新規合金を設計する。本発明においては、これら事前に決定される条件を「前提条件」と言う。
【0049】
以上を考慮すると、実際の新規合金の設計では、製造条件のうち、組成物と工程条件のどちらかを固定した上で、もう一方を決定するという処理が行われる。すると、本発明に係る合金設計支援システム1においてもこの処理の流れに沿うことが好ましいと考えられる。即ち、合金設計支援システム1が合金設計マップでユーザを支援するためには、組成物と工程条件のどちらかの一方を固定して前提条件とした上で、他方の変動と合金の金属特性との相関を合金設計マップ上で示す必要がある。換言すると、合金設計マップで表示されるべき差分情報は、工程条件が同じ場合の既存合金間の組成物の差分情報、又は、組成物が同じ場合の既存合金間の工程条件の差分情報であることが好ましい。
【0050】
ここで、合金情報記憶部21によって記憶される既存合金情報は、様々な且つ大量の情報であるが、前提条件としての組成物の条件又は工程条件に関する情報が完全に一致する情報数は、比較的少ないと思われる。そのため、その完全一致した既存合金情報のみを使っては、ユーザに対して信頼性の高い設計支援を行うことが困難となる虞がある。そこで、情報拡充のために数多くの合金実験を行い記憶される既存合金情報の数を増やすことも考えられるが、そのためには多大な時間とコストを要するため好ましくない。
【0051】
以上を踏まえて、対象既存合金抽出部31によるグルーピング処理は行われるのであり、具体的には、既存合金情報において、前提条件としての組成物の条件または工程条件が完全に同一ではなくても、「類似」すれば同一である場合と同様に差分情報を取得する処理を行っても良いと考える。そして、グルーピング処理では、組成物または工程条件が類似する既存合金を一つのグループに集め、同じグループにある既存合金が、組成物または工程条件が同じであると見なすことで、差分情報の取得、ユーザへの提示等が行われる。
【0052】
そこで、本実施例では、類似性を判断し当該グルーピング処理を行うために、データマイニングの手法として広く使われている、ニューラルネットワーク手法によるクラスタリングの一つであるSOM(自己組織マップ)の手法を利用する。SOMとは、人間の大脳皮質の神経機能をモデル化したニューラルネットワークである。ニューラルネットワークとは、人間の脳の仕組みを模倣した情報処理機構であり、そのニューロンの基本的なモデルは次式で表される。
mi(t+1) = mi(t) + hci(t)[x(t)-mi(t)]
これは多数の入力xiの線形加重和Σxiwiがある閾値より大きい場合に1を、そうでない場合には0を出力するものである。
【0053】
このSOMは、階層型ニューラルネットワークの一種であり、層数は二層である。第一層はn次元の入力層x(t)であり、第二層は競合層と呼ばれ出力を視覚的に見るため一般的に二次元配列となっている。競合層のベクトルは、参照ベクトルmi(t)で表現され、入力
層と同様にn次元の要素を持つ。このSOMの学習は「教師なし競合学習」である。SOMでは学習にユークリッド距離が用いられる。以下に、SOMの学習の手順を示す。
1)すべての参照ベクトルmiの要素をランダムに決定する。
2)入力ベクトルx(t)を与える。このとき、x(t)とのユークリッド距離|x-mi|を最小にするようなニューロンiを探し、そのニューロンをcとすると、次式が成立する。
|x-mc| = min|x-mi|
3)参照ベクトルmcを持つニューロンを勝者ユニットとする。
4)勝者ユニットおよびその周辺の近傍Nc内のユニットは次式に従って入力ベクトルを学習する。
mi(t+1) = mi(t) + hci(t)[x(t)-mi(t)]
ただし、hci は近傍関数とし、i ∈ Ncであれば、hci = a(t)とし、それ以外ではhci =
0と定義される。尚、a(t)は学習率係数である。
5) 2)〜4)をT回繰り返すことで、学習を行う。近傍サイズはNc = Nc(t)という時間の
関数で表され、学習とともにそのサイズを小さくしていく。
6)すべての入力ベクトルに対して、2)〜5)を繰り返し行うことにより、各入力ベクトルに類似したユニットが集まるようになる。
【0054】
本実施例では、合金情報記憶部21が記憶する全ての既存合金情報に対して、このSOMによるグルーピング処理を施すことで、多量な既存合金情報をその類似性の観点から、複数のグループにグルーピングすることができる。換言すると、このグルーピング処理は、対象既存合金の情報として、差分情報の取得や合金設計マップの作成への処理の前段階として、ユーザの設計支援を行うために適切な既存合金情報を抽出する処理である。そこで、既存合金情報の「類似性」を判断基準とした当該グルーピング処理によるグループ数の変化の様子を、模式的に図7に示した。類似性を判断するための前提条件によって、全ての既存合金A〜Eをどのようにグルーピングするかが決定される。図7は、そのグルーピングの程度による、既存合金のグループ数の変化の一例を示している。
【0055】
このようにSOMにより「類似性」を判断基準としたグルーピング処理が行われるが、類似性故に同じグループに属する既存合金の情報であっても、その前提条件が完全に一致しているとは限らず、類似していると判断されるもののそこに存在する僅かな違いが、金属特性に影響して来る可能性も捨てきれない。即ち、前提条件を同一と見なし、その他の製造条件と金属特性との差分情報を正確に導くには、類似性の広がりが適正でなければならない。ここで、SOMによるグルーピング処理では、生成されるグループ数が多くなると、そこに属する既存合金の数は減ってくるため、類似性の広がりは狭くなり、極めて類似した既存合金が集まってくると考えられるが、差分情報を取得する際の対象既存合金数が減ることになり、ユーザへの適切な設計支援が行いにくくなる。
【0056】
そこで、上記問題が考慮された本実施例に係るグルーピング処理について、図6に基づいて説明する。尚、本実施例では、前提条件を合金の組成物の組成量として、ユーザは工程条件に関して合金設計支援システムによる設計支援を受けるものとする。従って、この場合は、組成物条件の類似性について、グルーピング処理を行う。先ず、S201では、暫定グループ数を決める。差分情報に基づく設計支援の精度を上げるために、グループ数は少ない方がよい。そこで、グループ数の初期値は2として、以下の処理を行う。S201の処理が終了すると、S202へ進む。
【0057】
S202では、上述したSOMによってグルーピング処理を行う。このとき、生成されるグループ数は、先のステップで決定されたグループ数である。その後、S203では、S202でグルーピングされたグループのうち、予め設定された前提条件と一番類似するグループが、候補グループとして選択される。S203の処理が終了すると、S204へ進む。
【0058】
ここで、S204では、S203で選択された候補グループをSOMによって二つのグループに分割(グルーピング)する。尚、このS204におけるグルーピングは、新規合金の設計支援のための差分情報を取得するために直接的に必要とされるグルーピングではなく、S203で選択された候補グループが、差分情報を取得するために適切なグループであるか否かを判断するためのグルーピングである。このS204〜S206の処理は、この候補グループの適性判断のための処理であり、その様子を図8にも基づいて説明する。ここで、S204の処理によるグルーピングは、図8に示す上段左側の候補グループを、同図上段右側に示すようにPとQの二つのグループに分割する処理である。
【0059】
次に、S205では、S204で分割されたグループそれぞれに対して、暫定的な合金設計マップを作成する。この合金設計マップは、上述したように候補グループの適正を判断するために作成されるマップであるが、その作成については、上述したマップ作成部33によるものと同じである。上記PとQに分割されたグループ毎に作成された暫定合金設計マップが、図8の下段に示されている。S205の処理が終了すると、S206へ進む。
【0060】
S206では、S205で作成された二つの暫定合金設計マップにおいて、矛盾する規則性が存在しているか否かを判断する。本実施例では、当該暫定合金設計マップでは、組成物Xの変動と特性A、Bとの相関が示されている。ここで、グループPにおいては、組成物Xが減少するに従って、特性Bが低下するという規則性が見出せる一方で、グループQでは組成物Xが減少するに従って、特性Bが増加するという規則性が見出せ、両規則性は矛盾したものとなっている。従って、S203で選択された候補グループは、比較的広い広がりを持つ類似性によって集められた既存合金が属していると考えられ、以て差分情報取得部32による差分情報の取得を行うには、適切ではないグループと考えられる。そこで、このような場合は、S206の判断は否定判断となり、S208へ進む。S208では、暫定グループの数を現在の数から一つインクリメントして、S202以降の処理を行う。
【0061】
また、S206の判断が肯定判断であった場合には、S203で選択された候補グループは適切なものであると考えられ、その場合はS207へ進み、上記候補グループを上記対象グループとして抽出し、グルーピング処理である対象既存合金抽出処理を終了する。この処理で抽出された対象グループに属する既存合金の情報は、対象既存合金の情報として図2に示すS102の処理へと渡されることになる。これにより、適切な類似性を有する既存合金情報に基づいて、ユーザに合金設計支援が行われることになる。
【0062】
ここで、合金設計マップにおいては、差分情報に基づいた製造条件の変動と金属特性との相関がユーザに提示されることは、上述したとおりである。例えば、対象既存合金が五個の場合には、図9(a)に示すように合金設計マップにおいては、対象既存合金に対応する5つの点と、その点と点との間を結び両点間での製造条件(図9(a)においては所定の組成物)の変動を示す矢印付直線が示されている。これにより、ユーザは所定の組成物をどのように変動させたら、所望の特性A、Bを有する新規合金を設計できるかを推し量ることができる。
【0063】
この合金設計マップによる設計支援は、当然にマップ上に表示される対象既存合金の数が増えれば増えるほど、ユーザに対してより多くの情報を与えるため、ユーザの設計支援には有用と考えられるが、一方で数の増加により上記矢印付直線が入り乱れるため、ユーザが合金設計マップから一定の規則性を読み取りにくくなる可能性が高くなる。
【0064】
そこで、本実施例に係る合金設計支援システム1で作成される合金設計マップには、ク
ラスタという概念を導入した。クラスタは、他のクラスタに属する既存合金との差分情報が類似する既存合金の集まりと定義される。そのため、合金設計マップおいては、同じクラスタに属する合金は、他のクラスタに属する合金への差分情報に基づく矢印の方向が一致する傾向が強い。そして、異なるクラスタに属する既存合金間での矢印の方向が一致すれば一致するほど、そこから見出される規則の信頼性は高いとい得る。
【0065】
そこで、本実施例では図10に示すように、既存合金間での極力一致した差分情報に基づく矢印の方向をクラスタ間の矢印の方向に変換し、既存合金間の製造条件の変化を昇華させて、クラスタ間の製造条件の変化として表す(図10の右側に示す状態)。その結果、合金設計マップに示される矢印の数が少なくなるので、合金設計マップは見やすくなり、またクラスタ間における製造条件の差分情報を、変動情報であるクラスタ間に渡る矢印で示しているので、既存合金間の矢印で示される場合よりも、そこから見出される規則の信頼性は向上すると考えられ、ユーザの新規合金の設計支援に資する。
【0066】
クラスタの概念が導入された合金設計マップでは、クラスタ間での製造条件と金属特性との相関をユーザが一望できるため、ユーザの新規合金の設計が容易となる。そこで、図11に基づいて、クラスタの概念が導入された合金設計マップによる、新規合金の設計支援の一例を示す。
【0067】
図11に示す例では、ユーザは、特性Aと特性Bが共に優れる新規合金を設計することを目標とする。ここで、当該新規合金に添加される組成物は組成物Xと組成物Yである。そこで、特性Aと特性Bを評価軸とする合金設計マップを、組成物Xと組成物Yのそれぞれに対して作成する。合金設計マップでは、設計しようとする目標合金と、その設計支援のための対象既存合金が11点示されている。そこで、クラスタ間における組成物Xの変動情報と、組成物Yの変動情報を、本発明に係る合金設計支援システム1によって表示させると、図11(b)と図11(c)のようになる。そこで、ユーザは、これらの合金設計マップに基づいて、目標の新規合金を得るには、製造条件として条件としてベース合金の組成物Xを下げるとともに組成物Yを上げればよいと、容易に推し量ることができる。
【0068】
そこで、このようなユーザの設計支援を可能とするクラスタの概念が導入された合金設計マップの作成を行うための処理について、図12〜図16に基づいて説明する。当該合金設計マップの作成処理は、上記マップ作成部33とクラスタリング処理部35によって実行される。図12は、合金設計マップ上に当該クラスタを作成するためのフローチャートである。
【0069】
先ず、S301では、合金設計マップ上に、図2に示すS102で差分情報の取得の対象となった、対象既存合金のプロットが行われる。尚、本実施例においては、合金設計マップは図13、14に示すように特性Xと特性Yを評価軸として有する二次元のマップである。そして、そこにプロットされた対象既存合金は、合金A〜Fの六個である。S301の処理後、S302へ進む。
【0070】
S302では、S301でプロットされた合金設計マップ上で、所定ボロノイ領域を作成する。この処理は、図1に示すボロノイ処理部36によって実行される。ここで、所定ボロノイ領域は、合金設計マップにおいて、S301でプロットされた対象既存合金をそれぞれ母点としたとき、該合金設計マップ上の点がどの母点に近いかによって区分けされた領域であり、このボロノイ領域の算出にはよく知られている数学的手法が用いられる。尚、本実施例の合金設計マップのように二次元のユークリッド平面の場合には、ボロノイ領域の境界線は、各々の母点の間の直線の二等分線の一部となる。そこで、S302の処理により導出された所定ボロノイ領域は、図13に示すようになり、各所定ボロノイ領域に一つの対象既存合金が属する状態となる。S302の処理が終了すると、S303へ進
む。
【0071】
S303では、S302で作成された所定ボロノイ領域に従い、隣接する所定ボロノイ領域の母点をつなぐドロネー辺により、合金ネットワークを形成する。この処理は、図1に示す合金ネットワーク形成部37によって実行される。このドロネー辺を介した合金ネットワークによる、対象既存合金の隣接関係を図14に示す。
【0072】
ここで、S302で作成された所定ボロノイ領域は、その数学的意義からも本実施例においてはクラスタリング処理部35によって作成されるクラスタの単位(以下、「単位クラスタ」と言う。)となる。そして、この所定ボロノイ領域は、他の所定ボロノイ領域とは重なることは無いため、単位クラスタとしても非常に有用である。また、S303で形成された合金ネットワークは、ボロノイ領域の母点を結ぶことから、この単位クラスタの集約、展開の道筋となるものである。ここで、単位クラスタの集約とは、単位クラスタ同士が結合して一つの大きなクラスタになることであり、単位クラスタの展開とはその逆の動きである。但し、この単位クラスタの集約については合金ネットワークに従って行われるのだが、複数の合金ネットワークが存在する場合は(所定ボロノイ領域が三つ以上ある場合は、必ず合金ネットワークは複数存在する)、合金ネットワークのいずれのドロネー辺に従うかはS304の処理による。
【0073】
S304では、合金ネットワークを構成するそれぞれのドロネー辺に従った単位クラスタの集約について、変位マトリックス法を利用して、その集約の優先順位の算出が行われる。本発明に係る合金設計支援システム1で作成される合金設計マップは、クラスタ間の製造条件の変化の傾向を示すことで、ユーザの設計支援を行うものである。そこで、上記集約の優先順位においても、このクラスタ間の製造条件の変化の傾向の強さ、いわばそれぞれのクラスタに属する対象既存合金同士の、製造条件の変化一致度を基準に、当該集約の優先順位が算出されるのが好ましい。その基準に従った評価式による評価が変位マトリックス法である。
【0074】
ここで、変位マトリックス法による、二つのクラスタに属する対象既存合金間の「製造条件の変化一致度」の算出を行うための手順について、図15に基づいて説明する。その二つのクラスタをクラスタAとBとし、またそれぞれのクラスタに属する対象既存合金をai (i=1、2)、bj (j=3、4、5)とする。また、各対象既存合金が組成物または工程条件による製造条件を持つとする。ここで、ある製造条件に関して、二つのクラスタのそれぞれに属する対象既存合金間で差分情報を取得したとき、その差分が増加、減少、同値のいずれであるかカウントする。従って、カウント総数(増加の場合の数(以下、pとする)と減少の場合の数(以下、qとする)と同値の場合の数(以下、rとする)を足し合わせた総数)は、各クラスタに属する対象既存合金の数を掛け合わせた数となる(本実施例の場合は、i×jである)。図15に示す状態は、p=5、q=1、r=0である。
【0075】
そして、これらp、q、rの数に応じて、両クラスタ間の「製造条件の変化一致度」を算出すればよい。その算出式の一例として、増加の場合の数pと減少の場合の数の差の絶対値を基準として、当該一致度を判断してもよい。即ち、一致度が高いほど、pもしくはqの値が何れかが偏って高くなると考えられるからである。図15に示す例では、四つあるクラスタのうち二つのクラスタを集約しようとする場合、その組合せは図15に示すように6通りある。そこで、この6通りにおいて、上記p、q、rの数に応じて上記一致度を算出し、その中で最も一度が高い組合せの二つのクラスタを優先的に集約する。尚、評価式については、その他の様々な評価式を利用することが可能である。
【0076】
また、この「製造条件の変化一致度」の計算は、上記合金ネットワークによる道筋に従う。そこで、図14に示す例においては、先ず合金Aと合金Bを集約したと仮定したとき
、その集約後のクラスタと、他の各単位クラスタとの変化一致度を算出し、同様に、合金Bと合金Cを集約したと仮定したとき、合金Aと合金Eを集約したと仮定したとき、合金Cと合金Dを集約したと仮定したとき、・・・・・・という具合に各単位クラスタの組み合わせにおいて「製造条件の変化一致度」が算出される。そして、その中で最も一致度が高い二つのクラスタに対して、高い集約の優先順位が付与される。尚、二つのクラスタが集約して一つのクラスタになったとき、該一つのクラスタは、元の二つのクラスタが有していた他のクラスタとの合金ネットワークによる隣接関係を継承するものとする。
【0077】
このように、各クラスタの集約の優先度が算出されると、S305の処理によって図16に示すデンドログラム情報が作成される。デンドログラムとは、各終端ノードが各対象(対象既存合金を含む単位クラスタ)を表し、集約されてできたクラスタを非終端ノードで表した二分木情報である。このデンドログラム情報は、単位クラスタが集約される過程が明確に記述されるので、このデンドログラム情報に従えば、「製造条件の変化一致度」を反映した適切なクラスタの形成が可能となる。
【0078】
S305の処理が終了すると、合金設計マップ作成処理によって作成されたデンドログラム情報を含む様々な情報は、図2に示すS104の処理に引き渡される。ここで、S104の処理である合金設計マップの表示処理の詳細について、図17に基づいて説明する。先ず、S401では、ユーザによって要求されたクラスタ数が受け付けられる。この処理は、入力装置4のクラスタリング入力部41を介して入力されたユーザの要求が、クラスタリング受付部34によって受け付けられることで実行される。S401の処理の終了後、S402へ進む。
【0079】
S402では、S401で受け付けられた要求クラスタ数に従って、どの所定クラスタを形成するかを画定させる。この処理は、合金設計マップ作成処理によって作成されたデンドログラム情報に基づいて、区分け処理部38が行うことで、「製造条件の変化一致度」を反映した適切なクラスタが画定される。例えば、図18に示す例では、合金設計マップにプロットされる対象既存合金数が六個のとき、ユーザから要求されたクラスタ数が六個であれば、図18の左側に示すようにクラスタが画定され、要求されたクラスタ数が四個であれば、図18の右側のようにクラスタが画定される。このクラスタの集約(合金Bと合金Cの所定ボロノイ領域の集約等)は、先に算出されたデンドログラム情報による。S402の処理が終了すると、S403へ進む。
【0080】
S403では、S402で画定されたクラスタ間に、そのクラスタ間での製造条件の変化を示す変動情報が、矢印等の形で付与される。本実施例においては、製造条件の変化の程度に応じて、付与される矢印の形状や、その有無、又は両クラスタを結ぶ直線の種類等が変更される。これにより、ユーザは、合金設計マップにおいて、クラスタ間での製造条件の変化を視覚的に認知しやすくなり、ユーザの合金設計の支援がより効率的に行われる。上記矢印の形状等の選択の一例を表1に示す。表1で示すp、q、rは、先に示した差分情報における増加、減少、同値を表すパラメータと同義である。
【表1】

【0081】
S403の処理が終了すると、S404に進む。S404では、S402で画定された合金設計マップでのクラスタおよびS403で付与された変動情報等が、表示部51に渡されて、ディスプレイ5の画面に表示されることになる。ユーザはその表示結果を考慮して、上述してきたように効率的な合金設計を行うことが可能となる。
【0082】
ここで、本発明に係る合金設計システム1では、合金設計マップに示されるクラスタの数を可能な範囲で任意に調整することができる。これは、合金設計マップ作成処理によって、デンドログラム情報が作成されるからである。その結果、ユーザが対象既存合金の製造条件の変化と金属特性との相関を巨視的に把握したいときは、クラスタ数を少なくすればよく、その巨視的な相関を把握した上でより詳細な相関を把握したいときは、クラスタ数を増やしていけばよい。これにより、ユーザは的確な新規合金の設計指針を立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施例に係る合金設計支援システムの概略構成を表す図である。
【図2】図1に示す合金設計支援システムにおいて、ユーザの合金設計を支援するための処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例に係る合金設計支援システムにおいて記憶装置に格納されている既存合金情報の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る合金設計支援システムにおいて、既存合金情報の差分情報の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る合金設計支援システムにおいて、ユーザに対して提示される合金設計マップの一例を示す図である。
【図6】図2に示す処理において、差分情報を取得する対象となる既存合金を抽出するための処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図6に示す処理で行われるグルーピングの様子を示す図である。
【図8】図6に示す処理で行われるグルーピングによって得られるグループの適正を判断するための手法を概念的に示す図である。
【図9】本発明の実施例に係る合金設計支援システムにおいて、ユーザに対して提示される合金設計マップの一例を示す図である。
【図10】本発明の実施例に係る合金設計支援システムで作成される合金設計マップにクラスタの概念が導入された場合の第一の図である。
【図11】本発明の実施例に係る合金設計支援システムで作成される合金設計マップにクラスタの概念が導入された場合の第二の図である。
【図12】図2に示す処理において、合金設計マップを作成するための処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】図12に示す処理において、ボロノイ領域を用いて作成したクラスタが導入された合金設計マップの図である。
【図14】図13で作成されたボロノイ領域を利用して形成された合金ネットワークを示す図である。
【図15】本発明の実施例に係る合金設計支援システムのクラスタが導入された合金設計マップにおいて、製造条件の変化の一致度に基づいたクラスタ同士の集約について説明する図である。
【図16】本発明の実施例に係る合金設計支援システムのクラスタが導入された合金設計マップにおいて、クラスタ同士の集約の過程を示すデンドログラム情報を示す図である。
【図17】図2に示す処理において、合金設計マップを表示するための処理の流れを示すフローチャートである。
【図18】本発明の実施例に係る合金設計支援システムにおいて、ユーザの要求により合金設計支援マップ上でのクラスタ数を変更した場合の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1・・・・合金設計支援システム
2・・・・記憶装置
3・・・・コンピュータ本体
4・・・・入力装置
5・・・・ディスプレイ
21・・・・合金情報記憶部
31・・・・対象既存合金抽出部
32・・・・差分情報取得部
33・・・・マップ作成部
34・・・・クラスタリング受付部
35・・・・クラスタリング処理部
36・・・・ボロノイ処理部
37・・・・合金ネットワーク形成部
38・・・・区分け処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の既存合金のそれぞれについて、該既存合金の製造条件に関する所定製造情報と、該既存合金の特性に関する所定特性情報とを記憶する記憶部と、
前記記憶部に含まれる複数の既存合金の全部又は一部である対象既存合金に対して、二つの既存合金のそれぞれの前記所定製造情報の差分に関する差分情報を取得する差分情報取得部と、
前記対象既存合金を、前記所定特性情報に従って決定される評価特性を評価軸とするマップ上に設定し、且つ該マップに対して前記差分情報取得部によって取得された差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報を付与することで合金設計マップを作成するマップ作成部と、
を備えることを特徴とする合金設計支援システム。
【請求項2】
前記マップ作成部は、前記変動情報を、ユーザに対して視覚的に認識可能な所定記号で表示することを特徴とする請求項1に記載の合金設計支援システム。
【請求項3】
前記差分情報における二つの前記対象既存合金の前記所定製造情報の差分の傾向に基づいて、前記合金設計マップ上で該対象既存合金を複数の所定クラスタに区分けするとともに、該複数の所定クラスタにおける二つの該所定クラスタの間の前記所定製造情報の差分に関する情報をクラスタ差分情報として取得するクラスタリング処理部を、更に備え、
前記マップ作成部は、前記クラスタリング処理部によって生成された前記所定クラスタを有する前記合金設計マップに対して、前記クラスタ差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報を付与する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の合金設計支援システム。
【請求項4】
前記クラスタリング処理部は、
前記マップ作成部によって前記対象既存合金が設定されたマップにおいて、それぞれの対象既存合金が母点として属する所定ボロノイ領域を形成するボロノイ処理部と、
前記ボロノイ処理部によって形成された所定ボロノイ領域のうち、隣接する所定ボロノイ領域に属する対象既存合金を結んで、所定ドロネー辺による合金ネットワークを形成する合金ネットワーク形成部と、
前記合金ネットワーク形成部によって形成された前記合金ネットワークに基づいて、関連付けされている前記所定ボロノイ領域同士を集約、展開することで、前記所定クラスタに区分けする区分け処理部と、
を有し、
前記マップ作成部は、前記区分け処理部によって区分けされた前記所定クラスタを有する前記合金設計マップに対して、前記変動情報を付与する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の合金設計支援システム。
【請求項5】
前記クラスタリング処理部によって生成される前記所定クラスタの数に関して、ユーザからの要求を受け付けるクラスタ数要求受付部を、更に備え、
前記クラスタリング処理部は、前記合金設計マップ上の前記対象既存合金を、前記クラスタ数要求受付部によって受け付けられた前記所定クラスタ数に区分けする、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の合金設計支援システム。
【請求項6】
ユーザの合金設計の前提となる前提製造情報に類似する情報を前記所定製造情報の一部として含む既存合金を、前記記憶装置が記憶する前記複数の既存合金の中から前記対象既存合金として抽出する既存合金抽出部を、更に備え、
前記差分情報取得部は、既存合金抽出部によって抽出された前記対象既存合金に対して、前記差分情報を取得する、
ことを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の合金設計支援システム。
【請求項7】
前記既存合金抽出部は、仮に抽出された対象既存合金中の適性を、該仮に抽出された対象既存合金の前記所定製造情報と前記所定特性情報との相関関係に基づいて判断する、
ことを特徴とする請求項6に記載の合金設計支援システム。
【請求項8】
前記所定製造情報は、合金製造条件に関する複数の所定製造項目に対応する情報を有し、
前記差分情報取得部は、前記所定製造情報が有するそれぞれの前記所定製造項目に対応させて前記差分情報を取得し、
前記マップ作成部は、前記所定製造情報が有するそれぞれの前記所定製造項目に対応させて、前記合金設計マップを作成する
ことを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載の合金設計支援システム。
【請求項9】
前記所定製造情報の前記所定製造項目は、前記既存合金を組成する組成金属の組成量、および該既存合金を製造するための製造行程を少なくとも含む、
ことを特徴とする請求項8に記載の合金設計支援システム。
【請求項10】
前記既存合金は展伸材に関する合金である、
ことを特徴とする請求項1から請求項9の何れかに記載の合金設計支援システム。
【請求項11】
ユーザの合金設計を支援するためのコンピュータ用プログラムであって、複数の既存合金のそれぞれについて、該既存合金の製造条件に関する所定製造情報と、該既存合金の特性に関する所定特性情報とを記憶する記憶装置を有するコンピュータに、
前記記憶装置に含まれる複数の既存合金の全部又は一部である対象既存合金に対して、二つの既存合金のそれぞれの前記所定製造情報の差分に関する差分情報を取得する差分情報取得ステップと、
前記対象既存合金を、前記所定特性情報に従って決定される評価特性を評価軸とするマップ上に設定し、且つ該マップに対して前記差分情報取得部によって取得された差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報を付与することで合金設計マップを作成するマップ作成ステップと、
を実行させることを特徴とする、合金設計支援用プログラム。
【請求項12】
前記コンピュータに、
前記差分情報における二つの前記対象既存合金の前記所定製造情報の差分の傾向に基づいて、前記合金設計マップ上で該対象既存合金を複数の所定クラスタに区分けするとともに、該複数の所定クラスタにおける二つの該所定クラスタの間の前記所定製造情報の差分に関する情報をクラスタ差分情報として取得するクラスタリング処理ステップを、更に実行させる合金設計支援用プログラムであって、
前記マップ作成ステップでは、前記クラスタリング処理ステップにおいて生成された前記所定クラスタを有する前記合金設計マップに対して、前記クラスタ差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報が付与される、
ことを特徴とする請求項11に記載の合金設計支援用プログラム。
【請求項13】
前記クラスタリング処理ステップでは、前記コンピュータに、
前記マップ作成ステップにおいて前記対象既存合金が設定されたマップにおいて、それぞれの対象既存合金が母点として属する所定ボロノイ領域を形成するボロノイ処理ステップと、
前記ボロノイ処理ステップにおいて形成された所定ボロノイ領域のうち、隣接する所定ボロノイ領域に属する対象既存合金を結んで、所定ドロネー辺による合金ネットワークを
形成する合金ネットワーク形成ステップと、
前記合金ネットワーク形成ステップにおいて形成された前記合金ネットワークに基づいて、関連付けされている前記所定ボロノイ領域同士を集約、展開することで、前記所定クラスタに区分けする区分け処理ステップと、を実行させる合金設計支援用プログラムであって、
前記マップ作成ステップでは、前記区分け処理ステップにおいて区分けされた前記所定クラスタを有する前記合金設計マップに対して、前記変動情報が付与される、
ことを特徴とする請求項12に記載の合金設計支援用プログラム。
【請求項14】
前記コンピュータに、
ユーザの合金設計の前提となる前提製造情報に類似する情報を前記所定製造情報の一部として含む既存合金を、前記記憶装置が記憶する前記複数の既存合金の中から前記対象既存合金として抽出する既存合金抽出ステップを、更に実行させる合金設計支援用プログラムであって、
前記差分情報取得ステップでは、既存合金抽出ステップにおいて抽出された前記対象既存合金に対して、前記差分情報が取得される、
請求項11から請求項13の何れかに記載の合金設計支援用プログラム。
【請求項15】
ユーザの合金設計を支援するための合金設計支援方法であって、
複数の既存合金のそれぞれについて、該既存合金の製造条件に関する所定製造情報と、該既存合金の特性に関する所定特性情報とを記憶する記憶装置に含まれる、複数の既存合金の全部又は一部である対象既存合金に対して、二つの既存合金のそれぞれの前記所定製造情報の差分に関する差分情報を取得する差分情報取得ステップと、
前記対象既存合金を、前記所定特性情報に従って決定される評価特性を評価軸とするマップ上に設定し、且つ該マップに対して前記差分情報取得部によって取得された差分情報に対応する前記所定製造情報の変動情報を付与することで合金設計マップを作成するマップ作成ステップと、
を含むことを特徴とする、合金設計支援方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2009−116404(P2009−116404A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285409(P2007−285409)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】