説明

吊り車の制動装置

【課題】 開口部の上部に設けられたレールに沿って長手方向に走行する吊り戸を支持する吊り車をレールの任意位置で制動することができる吊り車の制動装置を提供する。
【解決手段】 開口部の上部に設けられたレール11に沿って長手方向に走行する吊り車12に連結される上部開口箱状のベース21と、ベース内に配置されるブレーキ部材22と、を含み、ベースの底面21aが、一端付近において長手方向に関して一側に向かって上向きに傾斜して形成され、ブレーキ部材がベース底面と前記レール天面との間で長手方向に移動可能に配置され、吊り車の長手方向他側への移動の際に、吊り車に作用する加速度によって、ブレーキ部材22が相対的に一側に向かって移動することで、ベースの傾斜した底面21aに沿って上昇し、ベースの底面とレール天面との間に押し込まれて、ブレーキ部材のレール天面に対する摩擦力により、ベース及び吊り車がレールに対して制動されるように、吊り車の制動装置20を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部に開閉可能に吊り車により支持される吊り戸の開閉速度を抑制するための吊り車の制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば家具やクローゼット等の箱物収納体、あるいは住宅の窓や各室間の出入り口等の開口部を開閉するために、折り戸,引き戸等の吊り戸が使用されることがある。
このような吊り戸は、開口部の上部に設けられたレールに沿って走行する吊り車に対して支持装置により支持される。
吊り戸は、レールに沿って吊り車が走行して開口部の一側または両側に向かって移動し、同時に折り畳まれてあるいは重ね合わされることにより、開口部を開放し、または展開されて開口部を閉鎖する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような吊り戸においては、開閉時の安全性を確保するために、例えば特許文献1、2に開示されているような、閉鎖位置付近で吊り車の走行速度を抑制する制動装置が知られている。
このような制動装置は、吊り戸の閉鎖時に、吊り戸が閉鎖位置に達する直前に吊り車を制動して、吊り戸が閉鎖位置で開口部の枠体に勢い良く当接することを阻止する。これにより、例えば吊り戸と開口部枠体との間に使用者等の手指が挟まれるようなことがない。
【0004】
しかしながら、吊り戸の閉鎖位置付近を除く可動範囲においては、吊り戸あるいは吊り車の走行速度を抑制する制動装置はない。従って、例えば吊り戸を勢い良く閉鎖しようとすると、閉鎖位置付近を除く範囲において吊り車の走行速度が高くなってしまう。
【0005】
一方、特許文献3に開示されているように、下端に設けられた車輪が床面に設けられたレール上を走行することにより開閉可能な門扉等において、車輪に遠心クラッチを組み込むことにより、門扉の走行速度を抑制するようにした門扉の制動装置は知られている。
【0006】
しかしながら、吊り車により支持される吊り戸の速度を任意の位置で抑制するような制動装置は未だ知られていない。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、簡単な構成により、開口部の上部に設けられたレールに沿って長手方向に走行する引き戸,折り戸等の吊り戸を支持する吊り車をレールの任意位置で制動することができる吊り車の制動装置を提供することを目的としている。
【特許文献1】特開2010-90550号公報
【特許文献2】特開2005-126933号公報
【特許文献3】特開2005-299120号公報
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、本発明の構成によれば、開口部の上部に設けられたレールに沿って長手方向に走行する吊り戸支持用の吊り車に連結される上部開口箱状のベースと、ベース内に配置されるブレーキ部材と、を含み、ベースの底面が一端付近において長手方向に関して一側に向かって上向きに傾斜して形成され、ブレーキ部材がベース底面とレール天面との間で長手方向に移動可能に配置され、吊り車の長手方向他側への移動の際に、吊り車に作用する加速度によって、ブレーキ部材が相対的に一側に向かって移動することで、ベースの傾斜した底面に沿って上昇し、ベースの底面とレール天面との間に押し込まれて、ブレーキ部材のレール天面に対する摩擦力により、ベース及び吊り車がレールに対して制動されることを特徴とする、吊り車の制動装置により、達成される。
【0009】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ブレーキ部材が長手方向に転動可能なローラである。
【0010】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ローラは、剛性素材からなる軸部と、弾性素材からなり軸部の周囲に設けられるリング部とを有する。
【0011】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ベースが、ブレーキ部材の一側方向への移動を規制するための第一の規制部材を備えている。
【0012】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、第一の規制部材は調整ねじにより移動可能であり、これにより規制位置が調整可能である。
【0013】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ローラは軸方向両端部にリング部を備え、軸方向中央部で軸部が露出し、第一の規制部材は軸部に当接するようにレールの幅方向中央に配置されている。
【0014】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ベースが、ブレーキ部材の他側方向への移動を規制するための第二の規制部材を備えている。
【0015】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、第二の規制部材は調整ねじにより移動可能であり、これにより規制位置が調整可能である。
【0016】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ローラは軸方向両端部にリング部を備え、軸方向中央部で軸部が露出し、第二の規制部材は軸部に当接するようにレールの幅方向中央に配置されている。
【0017】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ベースが、吊り車とは反対側の端部付近に、レールの下面及び天面の間に転動可能に係合するガイド車輪を有する。
【0018】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ベースが、両側面に、その傾斜した底面と平行に延びるスロットを備えており、ブレーキ部材が、両端にスロットに係合するダボを有する。
【0019】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、スロットは、ベースの一側に向かって上向きに傾斜すると共に幅広に形成されている。
【0020】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、第一の規制部材及び/または第二の規制部材が、下方に延びて、ベース底面を貫通してベース下方から露出する突出片を有する。
【0021】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ベースの底面が、(※他端付近において)他側に向かって上向きに傾斜して、全体として偏平なV字状に形成されている。
【0022】
本発明による吊り車の制動装置は、好ましくは、ベースの一端側に配置される第一のブレーキ部材と、ベースの他端側に配置される第二のブレーキ部材とを有し、これらの間に、第一のブレーキ部材の他側方向への移動及び第二のブレーキ部材の一側方向への移動を規制する第三の規制部材を備えている。
【発明の効果】
【0023】
上記構成によれば、吊り車の停止時には、ブレーキ部材はベース底面の最下位置即ち他端付近に位置している。この状態から、吊り車が支持する吊り戸が長手方向他側に移動されると、これに伴って吊り車がレールに沿って他側に走行し、吊り車に連動して、ベースも他側に移動する。このとき、吊り車及びベースには、吊り戸の移動により加速度が作用し、この加速度によって、ベースの底面上でブレーキ部材には相対的に一側に向かう慣性力が作用する。
この慣性力が、ベース底面の傾斜角度及び上記加速度により決まる値より大きくなると、即ち上記加速度が一定値以上になると、ブレーキ部材は、ベース底面に沿って一側に向かって上昇し、ベース底面とレール天面との間に押し込まれる。これにより、ブレーキ部材とレール天面との間に摩擦力が発生し、この摩擦力によって、ベースそして吊り車がレールに対して制動される。
このとき、制動作用の開始までの時間は、ベース底面に沿うブレーキ部材の移動速度、即ちベース底面の長手方向の長さ及び傾斜角度によって決まる。
【0024】
このようにして、吊り戸の他側への移動により、その加速度が一定値以上の値になったとき、吊り車がレール上の何れの位置に在っても、ベース及び吊り車そして吊り戸がレールに対して制動されることになる。
尚、上述したブレーキ部材による制動状態において、上記摩擦力に抗して、吊り戸がさらに他側に移動されると、ブレーキ部材による制動が継続したまま、吊り戸は一側に移動する。従って、ブレーキ部材による制動により、吊り戸の移動速度が抑制されることになる。
【0025】
ブレーキ部材が長手方向に転動可能なローラである場合には、ブレーキ部材がベース底面を転動するので、ブレーキ部材とベース底面との間に発生する摩擦は転がり摩擦である。従って、ブレーキ部材がベース底面に沿って円滑に移動すると共に、ベース底面を転動しながらベース底面とレール天面との間に円滑に押し込まれるので、吊り戸に作用する加速度によって、より高精度の制動が可能になる。
【0026】
ローラが、剛性素材からなる軸部と、弾性素材からなり軸部の周囲に設けられるリング部とを有する場合には、ブレーキ部材がベース底面とレール天面との間に押し込まれたとき、リング部が弾性変形することにより、制動力が発生する。
【0027】
ベースがブレーキ部材の一側方向への移動を規制するための第一の規制部材を備えている場合には、吊り戸に作用する加速度により、ブレーキ部材がベース底面とレール天面との間に押し込まれるとき、ブレーキ部材が第一の規制部材に当接することによって、ブレーキ部材の上限位置が規制されると共に、リング部の弾性変形が制限される。これにより、ブレーキ部材のレール天面に対する摩擦力即ち制動力が限定されるので、ブレーキ部材により制動された状態であっても、この摩擦力を越えるような力が吊り戸に加えられることによって、吊り戸は移動可能である。
【0028】
第一の規制部材が調整ねじにより移動可能であり、これにより規制位置が調整可能である場合には、第一の規制部材の規制位置即ち上限位置が調整されることによって、ブレーキ部材のレール天面に対する摩擦力が調整され得る。
【0029】
ベースがブレーキ部材の他側方向への移動を規制するための第二の規制部材を備えている場合には、非制動時に、ブレーキ部材がベース底面の他側付近で、第二の規制部材により他側方向への移動を規制される。
【0030】
第二の規制部材が調整ねじにより移動可能であり、これにより規制位置が調整可能である場合には、第二の規制部材の規制位置が調整されることによって、ブレーキ部材のベース底面における長手方向の移動距離が調整され、吊り戸の移動の際の制動開始時までの時間が調整される。
【0031】
ローラが軸方向両端部にリング部を備え、軸方向中央部で軸部が露出し、第一の規制部材または第二の規制部材が軸部に当接するようにレールの幅方向中央に配置されている場合には、両側の一対のリング部により、ブレーキ部材のレール天面に対する摩擦力が発生するので、ローラが左右安定した状態でベース長手方向に移動し得ると共に、第一の規制部材または第二の規制部材がローラの軸部に当接して規制することにより、リング部による制動動作に影響を与えることがない。
【0032】
ベースが、吊り車とは反対側の端部付近に、レールの下面及び天面の間に転動可能に係合するガイド車輪を有する場合には、ベース全体のたわみが抑制され、ベースがレールに対して上下方向に安定した状態で保持されることになる。従って、ブレーキ部材によるレール天面に対する当接及び摩擦が安定し、ベース及び吊り車の制動が正確に行なわれ得る。
【0033】
ベースが、両側面に、その傾斜した底面と平行に延びるスロットを備えており、ブレーキ部材が、両端にスロットに係合するダボを有する場合には、ブレーキ部材のダボがベースのスロットに係合することによって、吊り車に組み込んだ状態及び吊り車に組み込む前の状態で、ブレーキ部材がベースから脱落してしまうようなことがない。
【0034】
スロットがベースの一側に向かって上向きに傾斜すると共に幅広に形成されている場合には、ブレーキ部材が他側においてレールに当接し逆ブレーキをかけてしまうことを防ぐことができる。また、スロットが幅広に形成されていることにより、ブレーキ部材がベース底面とレール天面との間に押し込まれ、ブレーキ部材の弾性変形により、ベース底面に平行な位置から上下方向にずれたとしても、スロットの幅広部分による許容範囲内におさまることにより、ブレーキ部材のずれがスロットにより妨げられるようなことはない。
【0035】
第一の規制部材及び/または第二の規制部材が、下方に延びて、ベース底面を貫通してベース下方から露出する突出片を有する場合には、第一の規制部材及び/または第二の規制部材の水平方向移動を規制すると共に、ベースがレールに装着された状態においても、ベース下面から露出する突出片を視認することによって、第一の規制部材及び/または第二の規制部材の調整位置を容易に確認することができる。
【0036】
ベースの底面が、他端付近において他側に向かって上向きに傾斜して、全体として偏平なV字状に形成され、ベースの一端側に配置される第一のブレーキ部材と、ベースの他端側に配置される第二のブレーキ部材とを有し、これらの間に、第一のブレーキ部材の他側方向への移動及び第二のブレーキ部材の一側方向への移動を規制する第三の規制部材を備えている場合には、レールの長手方向両方向に関して、第一のブレーキ部材または第二のブレーキ部材によって、吊り車の制動が行なわれ得る。
【0037】
このようにして、本発明によれば、簡単な構成により、開口部の上部に設けられたレールに沿って長手方向に吊り戸を支持する吊り車をレールの任意位置で制動することができる吊り車の制動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による吊り車の制動装置の一実施形態の構成を示す概略斜視図である。
【図2】図1の吊り車の制動装置を示す概略側面図である。
【図3】図2のC−C線に沿った断面図である。
【図4】図1の吊り車の制動装置を示す長手方向に沿った拡大断面図である。
【図5】図1の吊り車の制動装置を示す分解斜視図である。
【図6】図1の吊り車の制動装置の待機状態を示す長手方向に沿った断面図であって、(A)はイニシャルアジャスタが上方に移動した状態、(B)はイニシャルアジャスタが最下位置にの状態を示す。
【図7】図1の吊り車の制動装置の左方への加速時を示す長手方向に沿った断面図であって、(A)は左方加速中の状態、(B)は左方加速によりローラがレール天面に接触した状態、(C)はレール天面接触後におけるローラの最大圧縮の状態を示す。
【図8】図1の吊り車の制動装置の右方への加速時を示す長手方向に沿った断面図であって、(A)は右方加速中の状態、(B)は右方加速によりローラがレール天面に接触した状態、(C)はレール天面接触後におけるローラのリミットアジャスタ接触状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1から図4は、本発明による吊り車の制動装置の一実施形態を吊り戸の支持装置に組み込んだ状態を示している。この例において、上記吊り戸13は、引き戸として構成されている。
図1から図4に示すように、吊り戸の支持装置10は、建物等に設けられた開口部の上部に設けられたレール11に沿って吊り戸を移動可能に支持するように構成されており、レール11に沿って走行する吊り車12と、吊り戸(図2参照)13の上部に取り付けられ、吊り車12から下方に垂下する吊り軸14に連結される保持部15と、から構成されている。そして、吊り車12に対して、本発明による吊り車の制動装置20が組付けられている。
【0040】
ここで、吊り車12は、公知の構成であって、図1及び図4に示すように、本体12aと、本体12aに横向きに配置された車軸12bに取り付けられた一対または複数対の車輪12cを有している。
尚、本体12aは、図4に詳細に示すように、一側(図4において右側)に向かって延びる延長部12dを備えている。
車輪12cは、本体12aの下面より下方に突出しており、レール11内を転動する。
【0041】
吊り軸14は、その上端が本体12aに固定されると共に、下端には保持部15が取り付けられる。
保持部15は、例えば樹脂材料から構成されており、吊り戸13の上面に埋め込まれネジ等により固定されることにより、吊り戸13を保持する。
【0042】
これに対して、吊り車の制動装置20は、図1から図4に示すように、ベース21と、ベース21内に配置されるローラ22と、から構成されている。
【0043】
ベース21は、例えば樹脂材料から構成されており、図示の場合、上方が開放した中空の直方体状に形成されている。
ベース21は、その内側の底面が、一端(図示の場合、右端)において、長手方向(図示の場合、X方向)に関して一側(図4において右方)に向かって上向きに傾斜した第一の斜面21aとして形成されていると共に、他端において、長手方向他側(図4において左方)に向かって同様に上向きに傾斜した第二の斜面21bとして形成されている。これにより、ベース21の底面は、全体として長手方向に関して偏平なV字形状を有している。
【0044】
ここで、ベース21は、その他端(図示の場合、左端)において、図4に示すように、吊り戸の支持装置10における吊り車12の延長部12dに対して、取付ネジ12eにより連結されている。これにより、ベース21は、吊り車12のレール11に沿った長手方向の移動に伴って、一体的に長手方向に移動すると共に、上下方向に関して移動しないように支持される。
また、ベース21は、その一側の端部に、横向きの水平軸の周りに回転可能なガイド車輪21cを備えている。このガイド車輪21cは、吊り戸の支持装置10における吊り車12の車輪12cと同様に、その周面がレール11の下面及び天面の間に転動可能に係合している。これにより、ベース21は、その一側の端部がレール11内で上下方向に規制され、高さ方向に位置決めされる。
【0045】
ローラ22は、ベース21の各斜面21a及び21bに対して、それぞれ一つづつ設けられている。
ローラ22は、図5に示すように、軸部22aと、軸部22aの両端に装着されたリング部22bと、から構成されている。
軸部22aは、鉄等の剛性素材から構成されており、ベース21内において横向きに配置される。
リング部22bは、ウレタン等の弾性素材から円環状に形成されており、軸部22aの両端に例えば圧入により固定される。
【0046】
これら二つのローラ22は、それぞれベース21内において、斜面21a及び21b上を転動するように配置される。
ここで、ローラ22の斜面21a,21bにおける転動範囲を規制するために、ベース21内には、第一の規制部材としてのリミットアジャスタ23,24と、第二の規制部材としてのイニシャルアジャスタ25が設けられている。
【0047】
リミットアジャスタ23,24は、それぞれローラ22の斜面21a,21b上の転動範囲の上限位置を規制するように、斜面21a,21bの上端付近に配置される。
リミットアジャスタ23,24は、それぞれベース21内において幅方向中央部に位置しており、ローラ22の斜面21a,21b上を転動するローラ22の軸部22aが当接する規制面23a,24aを有している。これらの規制面23a,24aは、対応する斜面21a,21bと同じ方向に傾斜し且つ傾斜角度が大きく選定されている。
【0048】
リミットアジャスタ23,24は、ベース21内で上下動可能に取り付けられていて、ベース21の下面から挿通される調整ネジ23b,24bにより上下方向に調整される。
図4において、左側のリミットアジャスタ24は、最上位置に位置調整された状態を示している。
従って、調整ネジ23b,24bを調整して、リミットアジャスタ23,24を上下方向に移動調整することにより、傾斜した規制面23a,24aがローラ22の軸部22aに当接する位置(上限位置)が長手方向にずれて調整されることになる。
尚、リミットアジャスタ23,24は、その下端が下方に延びた突出片23c,24cを有しており、これらの突出片23c,24cがベース21の下方に露出することにより、水平方向位置が規制されると共に、外部から容易にリミットアジャスタ23,24の位置を視認することができる。
【0049】
イニシャルアジャスタ25は、ローラ22の斜面21a,21b上の転動範囲の下限位置を規制するように、ベース21の斜面21a,21bの間に配置されている。
イニシャルアジャスタ25は、リミットアジャスタ23及び24と同様に、ベース21内において幅方向中央部に位置しており、ローラ22の斜面21a,21b上を転動するローラ22の軸部22aが当接する規制面25a,25bを有している。これらの規制面25,25bは、対応する斜面21a,21bと逆方向に傾斜し且つ傾斜角度が大きく選定されている。
【0050】
イニシャルアジャスタ25は、ベース21内で上下動可能に取り付けられていて、ベース21の下面から挿通される調整ネジ25cにより上下方向に調整される。
ここで、図6(A)において、イニシャルアジャスタ25は、上方に持ち上げられた待機位置に設定され、また図6(B)において、イニシャルアジャスタ25は、最下位置に設定されている。
従って、調整ネジ25cを調整して、イニシャルアジャスタ25を上下方向に移動調整することにより、傾斜した規制面25a,25bがローラ22の軸部22aに当接する位置(下限位置)が長手方向にずれて調整されることになる。
【0051】
ローラ22の軸部22aは、その両端からさらに突出するダボ22cを有している。尚、このダボ22cは、軸部22aと一体に構成されていてもよい。
これに対して、ベース21の両側壁には、上述したダボ22cを受容するためのスロット21d及び21eが形成されている。
スロット21d及び21eは、それぞれベース21の斜面21a,21bと略平行に延びていると共に、それぞれローラ22の上限位置側に向かって徐々に広がるようにテーパ状に形成されている。
従って、ローラ22の両側のダボ22cがそれぞれ対応するスロット21d及び21eに係合することにより、ローラ22は、ベース21に組み込まれた状態で搬送される場合等において、ベース21から脱落しない。さらに、ローラ22がイニシャルアジャスタ25の傾斜した規制面25a,25bを登ってしまうことにより意図しないブレーキとして作用してしまうことを防ぐ。また、テーパ状に形成されていることにより、ローラ22の変形を妨げない。
【0052】
ベース21は、両側面の長手方向に分散配置された複数箇所(図示の場合、三箇所)から下方に突出した複数対の凸部21fを備えている。これらの凸部21fは、レール11の下面に対して僅かな間隙を画成するように形成されている。従って、ベース21が変形した場合には、これらの凸部21fがレール11の下面に当接することにより、ベース21が下方に大きくずれてしまうことがない。
【0053】
本発明による吊り車の制動装置20は、以上のように構成されており、以下のように動作する。
まず、吊り戸13及び吊り車12が静止している場合には、吊り車12にはレール11の長手方向に関して加速度が作用していない。従って、図6に示すように、各ローラ22は、いずれも斜面21a,21bの最下位置、即ちイニシャルアジャスタ25により規制される下限位置に位置している。従って、ローラ22のリング部22bがレール11の天面には接触しないので、ベース21及び吊り車12は制動されることなく、自由にレール11に沿って移動可能である。
【0054】
このような静止状態から、吊り戸13がレール11の長手方向に沿って、図2において矢印Aで示すように、左方に移動されると、この左方移動により吊り戸13そして吊り車12に加速度が作用する。
この加速度が所定値以下の場合には、慣性によりローラ22に相対的に右方向に作用する加速度の斜面21aに平行な成分が、重力の斜面21aに平行な成分より小さいため、右側のローラ22は斜面21aの下限位置に位置し続ける。
【0055】
これに対して、上記加速度が所定値を超えると、慣性によりローラ22に相対的に右方向に作用する加速度の斜面21aに平行な成分が、重力の斜面21aに平行な成分より大きくなるので、右側のローラ22は、図7(A)に示すように、下限位置から斜面21aに沿って上昇する。
このとき、左側のローラ22にも同様に加速度が作用しているが、イニシャルアジャスタ25の規制面25bの傾斜角度が大きく選定されていると共にダボ22c及びスロット21eにより移動を規制されているので、左側のローラ22がイニシャルアジャスタ25の規制面25bに沿って上昇することはない。
【0056】
そして、所定値を越えた加速度が続く間、ローラ22は斜面21aを昇り続けることにより、図7(B)に示すように、ローラ22のリング部22bがレール11の天面に接触し、さらに、ローラ22がベース21の斜面21aを転動しながらベース21の斜面21aとレール11の天面との間に押し込まれる。これにより、図7(C)に示すように、ローラ22のリング部22bが弾性変形して、ローラ22のリング部22bとレール11の天面との間の摩擦力及びリング部22bの弾性変形による復元力に基づいて、ベース21,吊り車12そして吊り戸13が制動される。
【0057】
ここで、ローラ22により作用する制動力を上回る力により、前記所定値を超える加速度で、さらに吊り戸13が移動される場合には、前述した制動力が保持されたままで、即ち吊り戸13が制動された状態で、吊り戸13は移動可能である。
【0058】
尚、ローラ22による制動が行なわれているとき、あるいはローラ22による制動が開始される前に、吊り戸13に作用する加速度が所定値以下になった場合には、ローラ22は、斜面21aに沿う加速度成分が重力成分を下回ることになるので、ローラ22は、斜面21aに沿って下限位置まで戻り、制動が作用しない。
従って、吊り戸13が勢い良く移動されるときのみ、レール11上の任意の位置で、吊り戸13が制動されることになり、吊り戸13の開閉時の安全性が確保される。
【0059】
次に、吊り戸13がレール11の長手方向に沿って、図2において矢印Aと反対方向に移動されると、この右方移動により吊り戸13そして吊り車12に加速度が作用する。
これにより、前述した左方移動の場合と同様に、加速度が所定値以下の場合には、左側のローラ22は、斜面21bの下限位置に位置し続ける。
【0060】
これに対して、上記加速度が所定値を超えると、慣性により左側のローラ22に相対的に右方向に作用する加速度の斜面21bに平行な成分が、重力の斜面21bに平行な成分より大きくなるので、ローラ22は、図8(A)に示すように、下限位置から斜面21bに沿って上昇する。
このとき、右側のローラ22にも同様に加速度が作用しているが、イニシャルアジャスタ25の規制面25aの傾斜角度が大きく選定されていると共にダボ22c及びスロット21eにより移動を規制されているので、右側のローラ22がイニシャルアジャスタ25の規制面25aに沿って上昇することはない。
【0061】
そして、所定値を越えた加速度が続く間、ローラ22は斜面21bを昇り続けることにより、図8(B)に示すように、ローラ22のリング部22bがレール11の天面に接触し、さらに、ローラ22がベース21の斜面21bとレール11の天面との間に押し込まれ、図8(C)に示すように、ローラ22の軸部22aがリミットアジャスタ24の規制面24aに当接することにより、上限位置で停止する。このとき、ローラ22のリング部22bが対応して弾性変形し、ローラ22のリング部22bとレール11の天面との間の摩擦力及びリング部22bの弾性変形による復元力に基づいて、ベース21,吊り車12そして吊り戸13が制動される。
【0062】
ここで、ローラ22の下限位置及び上限位置における規制は、リミットアジャスタ23,24及びイニシャルアジャスタ25によりローラ22の軸部22aに対して行なわれるので、制動作用を発生するリング部22bには直接に接触しないので、制動作用が影響を受けることはない。
【0063】
このようにして、吊り戸13の左方移動の場合には、右方のローラ22が図7(C)に示すリング部22bの最大圧縮位置で停止し、最大の制動力が得られると共に、吊り戸13が右方移動する場合には、左方のローラ22がリミットアジャスタ24による上限位置で停止し、このときのリング部22bの圧縮状態に対応した制動力が得られる。従って、リミットアジャスタ23または24の調整により、ローラ22の上限位置が適宜に調整されると共に、上限位置による制動力が調整される。その際、制動作用が開始されるまでの時間は、斜面21a,21bの傾斜角度及び長さ(ローラ22の可動距離)とローラ22の移動速度によって決まる。
【0064】
このように、本実施形態の吊り車の制動装置20によれば、簡単な構成により、開口部の上部に設けられたレールに沿って長手方向に走行する引き戸,折り戸等の吊り戸を支持する吊り車をレールの任意位置で制動することができる。
【0065】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。
例えば、上述した実施形態においては、ブレーキ部材としてローラ22が使用されているが、これに限らず、ベース21の斜面21a,21b上を褶動するブロック体であってもよい。この場合、ブロック体の斜面21a,21bに対する摩擦を低減することが望ましい。
【0066】
上述した実施形態においては、ベース21は、長手方向に関して一側及び他側への加速度に対応して制動を行なうように、二組の斜面21a,21b及びローラ22,リミットアジャスタ23,24を備えているが、これに限らず、一側または他側の加速度に対応する一組の斜面,ローラ及びリミットアジャスタ、例えば斜面21a,ローラ22及びリミットアジャスタ24のみが設けられていてもよい。
これにより、例えばより安全性が求められる吊り戸13の閉鎖方向のみが制動されるようにすることができる。
【0067】
上述した実施形態においては、ベース21内には、二つのローラ22が設けられているが、これに限らず、ただ一つのローラ22がベース21内に設けられると共に、イニシャルアジャスタ25が省略され、斜面21a及び21bが連続して形成されていてもよい。
【0068】
上述した実施形態においては、リミットアジャスタ23,24は、調整ネジ23b,24bにより上下方向に位置調整可能であるが、さらに、リミットアジャスタ23,24は、バネ等により上方に向かって付勢されていてもよい。これにより、吊り戸13が上述した移動方向と逆方向に移動される際に、リミットアジャスタ23または24がバネ等の張力に抗して下方にずれることによって、ローラ22が円滑に解除され、吊り戸13が容易に逆方向に移動され得る。
【0069】
上述した実施形態においては、制動時にベース21の斜面21aまたは21bとレール11の天面との間に圧縮されて押し込まれたローラ22は、吊り戸13が逆方向に移動されることにより、レール11の天面から外れて、制動が解除されるように構成されているが、これに限らず、例えばローラ22を下限位置方向に押し出して制動を解除するように設けられた弾性部材を有する解除機構が備えられていてもよい。
【0070】
また、上述した実施形態においては、例えば引き戸のような吊り戸の支持装置10として構成されているが、引き戸に限らず、開口部の上部に設けられたレールに沿って移動可能に吊り下げられた折り戸等の種々の吊り戸を支持するための吊り戸用の吊り車の制動装置として構成することも可能である。
【0071】
以上述べたように、本発明によれば、簡単な構成により、開口部の上部に設けられたレールに沿って長手方向に走行する引き戸,折り戸等の吊り戸を支持する吊り車をレールの任意位置で制動することができる、極めて優れた吊り車の制動装置が提供される。
【符号の説明】
【0072】
10 吊り戸の支持装置
11 レール
12 吊り車
13 吊り戸
14 吊り軸
15 保持部
20 吊り車の制動装置
21 ベース
21a,21b 斜面(底面)
21c ガイド車輪
21d,21e スロット
21f 凸部
22 ローラ(ブレーキ部材)
22a 軸部
22b リング部
22c ダボ
23,24 リミットアジャスタ
23a,24a 規制面
23b,24b 調整ネジ
23c,24c 突出片
25 イニシャルアジャスタ
25a,25b 規制面
25c 調整ネジ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部の上部に設けられたレールに沿って長手方向に走行する吊り戸支持用の吊り車に連結される上部開口箱状のベースと、前記ベース内に配置されるブレーキ部材と、を含み、
前記ベースの底面が、一端付近において長手方向に関して一側に向かって上向きに傾斜して形成され、前記ブレーキ部材が前記ベース底面と前記レール天面との間で長手方向に移動可能に配置され、
前記吊り車の長手方向他側への移動の際に、吊り車に作用する加速度によって、前記ブレーキ部材が相対的に一側に向かって移動することで、前記ベースの傾斜した底面に沿って上昇し、前記ベースの底面と前記レール天面との間に押し込まれて、前記ブレーキ部材の前記レール天面に対する摩擦力により、前記ベース及び前記吊り車が前記レールに対して制動される
ことを特徴とする、吊り車の制動装置。
【請求項2】
前記ブレーキ部材が前記長手方向に転動可能なローラである、請求項1に記載の吊り車の制動装置。
【請求項3】
前記ローラは、剛性素材からなる軸部と、弾性素材からなり前記軸部の周囲に設けられるリング部とを有する、請求項2に記載の吊り車の制動装置。
【請求項4】
前記ベースが、前記ブレーキ部材の一側方向への移動を規制するための第一の規制部材を備えた、請求項1から3の何れかに記載の吊り車の制動装置。
【請求項5】
前記第一の規制部材は調整ねじにより移動可能であり、これにより規制位置が調整可能である、請求項4に記載の吊り車の制動装置。
【請求項6】
前記ローラは軸方向両端部に前記リング部を備え、軸方向中央部で前記軸部が露出し、前記第一の規制部材は前記軸部に当接するように前記レールの幅方向中央に配置された、請求項4または5に記載の吊り車の制動装置。
【請求項7】
前記ベースが、前記ブレーキ部材の他側方向への移動を規制するための第二の規制部材を備えた、請求項1から6の何れかに記載の吊り車の制動装置。
【請求項8】
前記第二の規制部材は調整ねじにより移動可能であり、これにより規制位置が調整可能である、請求項7に記載の吊り車の制動装置。
【請求項9】
前記ローラは軸方向両端部に前記リング部を備え、軸方向中央部で前記軸部が露出し、前記第二の規制部材は前記軸部に当接するように前記レールの幅方向中央に配置された、請求項7または8に記載の吊り車の制動装置。
【請求項10】
前記ベースが、前記吊り車とは反対側の端部付近に、前記レールの下面及び天面の間に転動可能に係合するガイド車輪を有する、請求項1から9の何れかに記載の吊り車の制動装置。
【請求項11】
前記ベースが、両側面に、その傾斜した底面と平行に延びるスロットを備えており、前記ブレーキ部材が、両端に、前記スロットに係合するダボを有する、請求項1から10の何れかに記載の吊り車の制動装置。
【請求項12】
前記スロットは、前記ベースの一側に向かって上向きに傾斜すると共に幅広に形成された、請求項11に記載の吊り車の制動装置。
【請求項13】
前記第一の規制部材及び/または第二の規制部材が、下方に延びて、前記ベース底面を貫通してベース下方から露出する突出片を有する、請求項4から12の何れかに記載の吊り車の制動装置。
【請求項14】
前記ベースの底面が、他端付近において他側に向かって上向きに傾斜して、全体として偏平なV字状に形成されている、請求項1から13の何れかに記載の吊り車の制動装置。
【請求項15】
前記ベースの一端側に配置される第一のブレーキ部材と、前記ベースの他端側に配置される第二のブレーキ部材とを有し、これらの間に、前記第一のブレーキ部材の他側方向への移動及び前記第二のブレーキ部材の一側方向への移動を規制する第三の規制部材を備えた、請求項14に記載の吊り車の制動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−44192(P2013−44192A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183506(P2011−183506)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000119449)磯川産業株式会社 (41)
【出願人】(000169329)アトムリビンテック株式会社 (81)