説明

吊り階段の設置方法

【課題】 工事現場に構築される立坑に吊り階段を設置する場合において、重機などの使用を極力控えて狭い作業スペースでも好適かつ低廉に設置可能とする吊り階段の設置方法を提供する。
【解決手段】 立坑Aの上部に支持部材3を架設し、この支持部材3に吊り階段1の階段ユニット2を係止して立坑Aに沿って吊り下げる一方、立坑Aの掘り下げに伴って吊り階段1を下方へ継ぎ足すときには、継ぎ足し分の一対の階段枠7を立坑A底部の地表面に立つ作業員が順次手に持って各階段枠7上端部の管体連結具12を最下層の階段ユニット2の下端連結部に下から突き上げるようにして嵌入させ、管体連結具12にてそれぞれ連結して最下層の階段ユニット2の下位に一対の階段枠7を対向させて吊り下げると共に、これら吊り下げた一対の階段枠7間に補強材8と階段9を掛け渡して継ぎ足し分の階段ユニット2を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築工事などで上部から吊り下げるようにして設置する吊り階段の設置方法に関し、特に現場に構築される立坑に沿って吊り下げるようにして設置する吊り階段の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木・建築工事などにて構築される構築体に沿って構築体上部から吊り下げるようにして設置される吊り階段がある。前記吊り階段としては、例えば特許文献1、2に示されるように、略門型をした一対の階段枠を所定間隔を設けて対向させ、対向する階段枠間に補強材と階段を掛け渡して階段ユニットを形成すると共に、複数の前記階段ユニットを管体連結具にて上下に連結し、構築体上部に備える支持部材に係止させて構築体に沿わせて上から吊り下げるようにして設置するものなどがある。
【0003】
上記吊り階段では、工事の進捗に伴って吊り階段を継ぎ足す必要が生じた場合には、継ぎ足し分の階段ユニットを地上にて組み立て、それをクレーンなどの重機にて吊り上げて吊り階段最上層の階段ユニット上位に積み重ねて連結管で連結した後、連結して一体となった吊り階段を丸ごと重機にて吊り上げて階段ユニットを積み重ねた分だけ降下させるようにしており、作業効率に優れたユニット単位での階段の継ぎ足しを可能としている。
【0004】
ところで、トンネル工事や地下鉄工事、また上下水道などの各種管路の工事現場などでは換気、搬入、点検用として立坑が構築される場合があるが、この立坑を所望の深さまで掘り下げていく際に立坑内に設置する作業階段として、例えば、前記構成の吊り階段を採用すれば、立坑の掘り下げ分に応じて適宜ユニット単位で階段を継ぎ足していくことが可能となり、効率の良い作業が期待できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−217230号公報
【特許文献2】特開平8−199799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、地上に設けられる構築体などと違い、地中深く掘削して構築される立坑においては、その立坑内部や周囲に十分な作業スペースを確保できないことも予想され、上記従来例のような、クレーンなどの重機を用いたユニット単位での階段の設置作業では不適な場合もあり得る。また、工事規模によってはコスト的に重機などの使用を極力控えたい場合も考えられる。
【0007】
本発明は上記の点に鑑み、工事現場に構築される立坑に吊り階段を設置する場合において、重機などの使用を極力控えて狭い作業スペースでも好適かつ低廉に設置可能とする吊り階段の設置方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る請求項1記載の吊り階段の設置方法では、門型をした一対の階段枠を所定間隔を設けて対向させ、これら対向する階段枠間に補強材と階段を掛け渡して階段ユニットを形成すると共に、複数の前記階段ユニットを管体連結具にて上下に連結し、支持部材に吊り下げるようにして設置する吊り階段の設置方法であって、土木・建築現場などで構築される立坑の上部に支持部材を架設し、該支持部材に前記階段ユニットを係止して立坑に沿って吊り下げる一方、立坑の掘り下げに伴って吊り階段を下方へ継ぎ足すときには、継ぎ足し分の一対の階段枠の上端部にそれぞれ管体連結具を装着し、この一対の階段枠を立坑底部の地表面に立つ作業員が順次手に持って各階段枠上端部の管体連結具を最下層の階段ユニットの下端連結部に下から突き上げるようにして嵌入させ、管体連結具にてそれぞれ連結して最下層の階段ユニットの下位に一対の階段枠を対向させて吊り下げると共に、これら吊り下げた一対の階段枠間に補強材と階段を掛け渡して継ぎ足し分の階段ユニットを形成させるようにしたことを特徴としている。
【0009】
また、請求項2記載の吊り階段の設置方法では、前記管体連結具には自動ロック機構を具備し、階段枠の上端部に装着した管体連結具を最下層の階段ユニットの下端連結部に嵌入させるとそれに応じて自動ロック機構が働いて連結されるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る請求項1記載の吊り階段の設置方法によれば、土木・建築現場などで構築される立坑の上部に支持部材を架設し、該支持部材に前記階段ユニットを係止して立坑に沿って吊り下げる一方、立坑の掘り下げに伴って吊り階段を下方へ継ぎ足すときには、継ぎ足し分の一対の階段枠の上端部にそれぞれ管体連結具を装着し、この一対の階段枠を立坑底部の地表面に立つ作業員が順次手に持って各階段枠上端部の管体連結具を最下層の階段ユニットの下端連結部に下から突き上げるようにして嵌入させ、管体連結具にてそれぞれ連結して最下層の階段ユニットの下位に一対の階段枠を対向させて吊り下げると共に、これら吊り下げた一対の階段枠間に補強材と階段を掛け渡して継ぎ足し分の階段ユニットを形成させるようにしたので、十分な作業スペースの確保が難しい立坑内へ吊り階段を設置する場合においても、重機の使用を極力控えながら作業員の手作業によって好適かつ低廉に設置できる。
【0011】
また、請求項2記載の吊り階段の設置方法によれば、前記管体連結具には自動ロック機構を具備し、階段枠の上端部に装着した管体連結具を最下層の階段ユニットの下端連結部に嵌入させるとそれに応じて自動ロック機構が働いて連結されるようにしたので、作業員が手にする継ぎ足し分の階段枠を上方に吊り下がる吊り階段に対して容易に連結させることが可能となり、作業効率の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る吊り階段を立坑に設置した状態を示す斜視図である。
【図2】図1の階段ユニット部分の斜視図である。
【図3】図2の分解図である。
【図4】(a)連結前の管体連結具の一部切り欠き拡大図である。(b)連結後の管体連結具の拡大図である。
【図5】吊り階段の設置手順を示す説明図1である。
【図6】吊り階段の設置手順を示す説明図2である。
【図7】吊り階段の設置手順を示す説明図3である。
【図8】吊り階段の設置手順を示す説明図4である。
【図9】吊り階段の設置手順を示す説明図5である。
【図10】吊り階段の設置手順を示す説明図6である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る吊り階段の設置方法によれば、略門型の一対の階段枠を所定間隔で対向させ、これら対向する階段枠間に補強材と階段をそれぞれ掛け渡して階段ユニットを形成すると共に、複数の前記階段ユニットを自動ロック機構を具備する管体連結具にて上下に連結可能に構成する。
【0014】
そして、土木・建築現場などで構築される立坑内に吊り階段を設置するときには、先ず、立坑の上部に支持部材を架設する一方、地上で組み立てた1〜2層分程度の階段ユニットをクレーンなどの重機にて吊り上げて前記支持部材に係止させ、立坑に沿って吊り下げるようにして設置する。そして、立坑の掘り下げに伴って階段を下方へ継ぎ足す必要が生じたときには、継ぎ足し分の一対の階段枠の上端部にそれぞれ管体連結具を装着し、この一対の階段枠を立坑底部の地表面に降り立った作業員が順次手に持って各階段枠上端部の管体連結具を最下層の階段ユニットの下端連結部に臨ませ、下から突き上げるようにして嵌入させる。このとき、管体連結具に具備した自動ロック機構が働いて自動的に固定され容易に連結することができ、その後、ボルト・ナットなどにて順次締結して強固に固定させる。こうして、最下層の階段ユニットの下位には一対の階段枠が対向した状態で吊り下げられ、これら吊り下がった一対の階段枠間に補強材と階段を順次掛け渡して階段ユニットを形成させて吊り階段の継ぎ足し作業を終える。
【0015】
このように、上記吊り階段の設置方法によれば、十分な作業スペースの確保が困難な立坑内へ吊り階段を設置する場合においても、クレーンなどの重機の使用を極力控えながら作業員の手作業にて設置でき、広い作業スペースを要することなく簡単に行え、また作業コストも低廉に抑えることができて好都合である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0017】
図中の1は、土木・建築現場などに構築される立坑などに設置する吊り階段であって、組み立て式の階段ユニット2を上下に複数基連結して所定高さ(深さ)の階段を形成する一方、立坑Aの上部開口部に鋼材などの支持部材3を水平に架設し、該支持部材3に係止部材4によって前記吊り階段1を係止させ、立坑Aに沿って吊り下げて設置するようにしたものである。
【0018】
吊り階段1を形成する前記階段ユニット2は、図2〜図3に示すように、一対のベース材5を所定間隔を設けて平行に配し、該ベース材5の両端、及び中間部にはそれぞれ短管状の連結管6を立設している一方、略門型をした一対の階段枠7をそれぞれ天地を逆にして、かつベース材5と直行方向に平行に配し、それぞれの建地を前記ベース材5の一端、及び中間部の連結管6に嵌入・連結して立設していると共に、これら対向・立設した各階段枠7の建地同士に補強材8を、段差を有する横地同士に昇降用の階段9をそれぞれ掛け渡している。また、前記ベース材5他端側の上部には足場板10を掛け渡して階段の踊り場を形成していると共に、ベース材5他端の連結管6には手摺り枠11を連結して立設し、一層分の階段ユニット2を形成している。
【0019】
そして、この階段ユニット2を、図1に示すように上下に配置すると共に、その際、上下位置の各階段ユニット2を構成する各階段枠7の天地がそれぞれ逆になるように配置し、上位側の階段ユニット2のベース材5に立設した連結管6の下端連結部と、下位側の階段ユニット2の階段枠7の上端部とを、管体連結具12にて連結して各階段ユニット2を一体化させており、立坑Aの深さに応じて適宜数の階段ユニット2を連結して所望高さ(深さ)の吊り階段1を形成するようにしている。
【0020】
前記管体連結具12は、図4に示すように、その中央部に連結管6や階段枠7の外径と略同径のカラー体13を備え、該カラー体13の上下端側にはそれぞれ連結管6や階段枠7内に嵌入可能なように若干小径の嵌入部14a、14bを備えていると共に、該嵌入部14a、14bには嵌入させた連結管6や階段枠7を締結固定させるボルト・ナット15を締緩自在に備えている一方、カラー体13には仮止め用の自動ロック機構16を備えている。前記自動ロック機構16は、カラー体13に穿設した透孔17に略J字形状の係止片18を遊嵌していると共に、該係止片18はカラー体13内部に備えたバネなどの付勢手段19にて図4(a)の矢印B方向へ付勢させており、上端側の嵌入部14aを連結管6内に嵌入させると、係止片18先端の係止部20が連結管6に穿設した透孔21に係止されて自動的に仮止めされる構成としている。
【0021】
そして、上位側の連結管6と下位側の階段枠7とを管体連結具12にて連結するときには、図4(a)、(b)に示すように、階段枠7の上端部に管体連結具12下端側の嵌入部14bを嵌入させ、階段枠7に穿設した透孔22を貫通させたボルト・ナット15にて締結・固定して装着させる一方、この階段枠7に装着した管体連結具12上端側の嵌入部14aを連結管6の下端部に嵌入させ、自動ロック機構16である係止片18の係止部20を連結管6の透孔21に係止させて仮止めさせると共に、この状態で前記透孔21の上位に穿設した透孔23を貫通させたボルト・ナット15にて締結することにより強固に固定させるようにしている。
【0022】
そうして、土木・建築現場などに構築される立坑A内に上記構成の吊り階段1を設置するときには、図5〜図10に示すように、先ず、立坑Aの上部開口部に支持部材3を水平に架設する一方、立坑Aの深さに応じて予め適宜数(例えば1〜2層分)の階段ユニット2を地上にて組み立てておき、それをクレーンなどの重機にて吊り上げて前記支持部材3に係止部材4にて係止させ、立坑Aに沿って吊り下げるようにして設置する(図5)。
【0023】
そして、立坑Aの掘り下げに伴って吊り階段1を下方へ継ぎ足す必要が生じたときには、継ぎ足し分の一対の階段枠7の上端部にそれぞれ管体連結具12を装着してボルト・ナット15にて固定すると共に、この一対の階段枠7を立坑A底部の地表面に降り立つ作業員が順次手に持ち、各階段枠7上端に装着した管体連結具12の嵌入部14aを、上から吊り下がる吊り階段1の最下層の階段ユニット2を構成するベース材5の連結管6下端連結部に臨ませ、下方から突き上げるようにして嵌入させる(図6)。このとき、管体連結具12に具備した自動ロック機構16によって連結管6に自動的に仮止めされ、この状態であらためてボルト・ナット15にて強固に固定させる(図7)。
【0024】
こうして、最下層の階段ユニット2の下位には一対の階段枠7が対向した状態で吊り下げられ、これら吊り下がった一対の階段枠7間にベース材5を連結した後(図8)、補強材8と階段9を順次掛け渡し(図9)、更に踊り場となる足場板10とその側方に手摺り枠11を備え付けて継ぎ足し用の階段ユニット2を形成させ(図10)、吊り階段1の継ぎ足し作業を完了する。そして、更に立坑Aの掘り下げに伴って吊り階段1を継ぎ足す必要が生じれば、適宜上記作業を繰り返して継ぎ足し作業を行う。
【0025】
このように、本発明の吊り階段の設置方法によれば、立坑に吊り階段を設置するとき、クレーンなどの重機の使用を極力控えて作業員の手作業を主体として行え、例え作業スペースが制約される狭い立坑内でも円滑にかつ簡単に設置作業を行えると共に、作業コストも比較的低廉に抑えることができる。
【0026】
なお、階段枠の高さサイズを小さめにしておけば、立坑底部に降り立つ作業員にとって頭上の吊り階段への階段枠の連結作業が容易なものとなる。例えば、一般的な階段枠の高さサイズは1800mm程度であるが、本発明者らはこれを1350mm程度に低く抑えたものを採用することで、作業員の手が上部連結部まで余裕を持って届くようにして作業性の向上を図っている。また、このように階段枠の高さサイズを抑えることにより、十分な作業スペースが確保しにくい立坑内でも取り扱いやすいものとなり、かつ階段枠自体の軽量化も図れて、立坑などでの作業に特に好都合なものとなる。
【0027】
また、本実施例では、予め地上で1〜2層分程度の階段ユニットを組み立てておき、それを重機にて吊り上げて立坑上部の支持部材に係止させる一方、それより下方に階段ユニットを継ぎ足す場合に立坑底部に降り立った作業員の手作業にて一つずつ組み立てていくようにしているが、例えば、最初の一層目の階段ユニットから立坑内の作業員の手作業にて一つずつ組み立てていくようにしても勿論良く、その場合には重機が一切不要となり、作業コストをより低廉に抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1…吊り階段 2…階段ユニット
3…支持部材 4…係止部材
5…ベース材 6…連結管
7…階段枠 8…補強材
9…階段 10…足場板
11…手摺り枠 12…管体連結具
15…ボルト・ナット 16…自動ロック機構
A…立坑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
門型をした一対の階段枠を所定間隔を設けて対向させ、これら対向する階段枠間に補強材と階段を掛け渡して階段ユニットを形成すると共に、複数の前記階段ユニットを管体連結具にて上下に連結し、支持部材に吊り下げるようにして設置する吊り階段の設置方法であって、土木・建築現場などで構築される立坑の上部に支持部材を架設し、該支持部材に前記階段ユニットを係止して立坑に沿って吊り下げる一方、立坑の掘り下げに伴って吊り階段を下方へ継ぎ足すときには、継ぎ足し分の一対の階段枠の上端部にそれぞれ管体連結具を装着し、この一対の階段枠を立坑底部の地表面に立つ作業員が順次手に持って各階段枠上端部の管体連結具を最下層の階段ユニットの下端連結部に下から突き上げるようにして嵌入させ、管体連結具にてそれぞれ連結して最下層の階段ユニットの下位に一対の階段枠を対向させて吊り下げると共に、これら吊り下げた一対の階段枠間に補強材と階段を掛け渡して継ぎ足し分の階段ユニットを形成させるようにしたことを特徴とする吊り階段の設置方法。
【請求項2】
請求項1記載の吊り階段の設置方法において、前記管体連結具には自動ロック機構を具備し、階段枠の上端部に装着した管体連結具を最下層の階段ユニットの下端連結部に嵌入させるとそれに応じて自動ロック機構が働いて連結されるようにしたことを特徴とする吊り階段の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−80276(P2011−80276A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233949(P2009−233949)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000226482)日工株式会社 (177)
【出願人】(598104436)日工セック株式会社 (18)