説明

吊構造の施工方法

【課題】仮設支柱や特殊な重機を要することなく施工可能であり、吊部材にかかる荷重負担を低減可能な吊構造の施工方法を提供する。
【解決手段】外部柱30の間に上層階の梁よりも断面積の大きな支持梁21を架設する工程と、支持梁21よりも上層階にそれぞれ直線状となるように内部柱40を配設し、最上方に配設した内部柱40と外部柱30との間を吊部材10によって連結する工程と、支持梁21よりも上層階において内部柱40を分断し、分断位置よりも上方に配設された上部内部柱41に吊部材10による引張力を作用させる一方、分断位置よりも下方に配設された下部内部柱42に支持梁21からの圧縮力を作用させる工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル等の建物に適用される吊構造を施工する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の吊構造としては、例えば特許文献1に記載されたものが提供されている。この吊構造では、各階に設けた内部柱が上下方向に沿って直線状に配設され、その最上端部が吊部材を介して外部柱に連結されている。こうした吊構造を適用した建物によれば、内部柱及び吊部材を介して荷重を外部柱に支持させることができるため、下層階に内部柱の無い広い空間を有した広領域階を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−107461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した吊構造の施工方法としては、広領域階の梁と床との間に仮設支柱を設置し、仮設支柱によって梁にかかる荷重を支持しながら、上層階に向けて順次階を構築し、最上階の内部柱と外部柱との間に吊部材を設置した後、仮設支柱を撤去する方法が一般的である。しかしながら、建物の高層階に広領域階を設ける場合には、仮設支柱を設けることが困難となる。
【0005】
仮設支柱を設置しない工法としては、外部柱の最上端部に先に吊部材を構築し、吊部材によって荷重を支持させながら広領域階に向けて順次下層階を構築していく方法がある。しかしながら、下層階を構築する以前に吊部材を最上階に構築するには、特殊な重機や設備が必要となり、建設コストが増大する。更に、上述した方法では、広領域階の梁を設置するまでの間、各階の荷重を吊部材のみが支持しなければならないため、吊部材として大きな剛性を有した構造体が必要になる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、仮設支柱や特殊な重機を要することなく施工可能であり、吊部材にかかる荷重負担を低減可能な吊構造の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る吊構造の施工方法は、外部柱の間に上層階の梁よりも断面積の大きな支持梁を架設する工程と、前記支持梁よりも上層階にそれぞれ直線状となるように内部柱を配設し、最上方に配設した内部柱と外部柱との間を吊部材によって連結する工程と、前記支持梁よりも上層階において内部柱を分断し、分断位置よりも上方に配設された上部内部柱に吊部材による引張力を作用させる一方、分断位置よりも下方に配設された下部内部柱に前記支持梁からの圧縮力を作用させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る構造物の施工方法は、上述した請求項1において、最上方に配設した内部柱と外部柱との間を吊部材によって連結する工程において、前記支持梁よりも上層階に内部柱を配設する際に、支持梁の上階に梁と外部柱を連結し、当該梁を支持する仮設部材を設置することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る構造物の施工方法は、上述した請求項2において、分断位置よりも上方に配設された上部内部柱に吊部材による引張力を作用させる一方、分断位置よりも下方に配設された下部内部柱に前記支持梁からの圧縮力を作用させる工程において、前記支持梁よりも上層階において内部柱を分断した後、前記仮設部材を撤去することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る構造物の施工方法は、上述した請求項1〜3において、内部柱の長さを調整する態様で前記上部内部柱と前記下部内部柱とを連結する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外部柱の間に上層階の梁よりも断面積の大きな支持梁を架設するものであるため、吊部材が構築されるまでの間、支持梁によって上層階の荷重を支持することができる。そのため、広領域階に仮設支柱を設ける必要がない。更に、支持梁よりも上層階にそれぞれ直線状となるように内部柱を配設し、最上方に配設した内部柱と外部柱との間を吊部材によって連結するものであるため、下層階を構築した後に吊部材を構築することができる。そのため、特殊な重機を要することなく施工することができ、建設コストが増大しない。更に、支持梁よりも上層階において内部柱を分断し、分断位置よりも上方に配設された上部内部柱に吊部材による引張力を作用させる一方、分断位置よりも下方に配設された下部内部柱に支持梁からの圧縮力を作用させるものであるため、吊部材にかかる荷重負担を低減でき、大きな剛性を有した構造体を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る吊構造を用いた構造物を概念的に示した斜視図である。
【図2A】図2Aは、図1に示した構造物の施工方法における吊部材を設置した状態を示す概念図である。
【図2B】図2Bは、図1に示した構造物の施工方法における内部柱を分断した状態を示す概念図である。
【図2C】図2Cは、図1に示した構造物の施工方法における仮設部材を撤去した状態を示す概念図である。
【図2D】図2Dは、図1に示した構造物の施工方法における内部柱を連結した状態を示す概念図である。
【図3】図3は、図1に示した構造物における力の作用状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る吊構造の施工方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る吊構造を用いた構造物を概念的に示したものである。ここで例示する構造物1は、高層の建物を構成するものであり、地上から最上階に向けて延在している外部柱30に、複数の梁20,21,200が架設された架構を有している。構造物1は、中間層階に内部に柱の無い広い空間を有する広領域階100を有し、最上階110には、吊部材10が設置されている。最上階110と広領域階100との間の層階、及び広領域階100よりも下方の層階には内部柱40,400が夫々配設してある。構造物1において、広領域階100から吊部材10が配設される最上階110までが吊構造となっている。
【0015】
吊部材10は、内部柱40を上方から支持するものである。吊部材10は、外部柱30に支持された構成となっており、吊部材10及び内部柱40を介して各階の荷重を外部柱30に支持させている。本実施の形態において、吊部材10は、最上方の内部柱40の上端部から外部柱30の上端部に亘って延在するブレース材からなる。吊部材10は、広領域階100よりも上方の層階の荷重の略半分を支持可能な剛性を有している。
【0016】
広領域階100の上部には、上層階の梁20より断面積の大きな梁である支持梁21が架設してある。支持梁21は、広領域階の外部柱に架設される梁であり、上方階の梁20より断面積が大きく、剛性の高い部材によって形成している。本実施の形態では、広領域階100よりも上方の層階の荷重の略半分を支持可能な剛性となる断面積を有しており、支持梁21の剛性を他階の梁20の剛性より高めた架構形式としている。
【0017】
内部柱40,400は、各階の梁20の両端を支持する一対の外部柱30の間に複数配設してある。本実施の形態において、広領域階100よりも上層階の内部柱40は、吊部材10と支持梁21とを一直線状に連結する態様で配設されている。吊構造において、最上方の梁20を除く各階における梁20及び支持梁21は、吊部材10に連結された内部柱40によって吊られた架構となっている。尚、広領域階100よりも下層階では、各階における梁200が、各階の内部柱400によって支持された架構となっている。
【0018】
以下、図2A〜図2Dを参照しながら、構造物1の施工方法について説明する。尚、ここでは、構造物1において吊構造となる広領域階100から最上階110までの上層階構造部分についてのみ説明する。広領域階100よりも下方に位置する下層階構造部分については、既知の工法によって構築されたものとし、ここではその説明を省略する。
【0019】
まず、図2Aに示すように、広領域階100において、外部柱30の間に上層階の梁20よりも断面積の大きな支持梁21を架設し、広領域階100の構築を行う。
【0020】
次に、支持梁21の上階120において、内部柱40と、仮設部材50とを配設し、外部柱30の間に梁20を架設する。
【0021】
仮設部材50は、施工時に仮設される補強材であり、上層階の梁20と外部柱を連結し、当該梁を支持するものである。仮設部材50は、広領域階100よりも上層階であって、内部柱40が配設される階に設置される。本実施の形態では、仮設部材50を広領域階100の上階120に設置している。また、仮設部材50として、広領域階100の上階120において、内部柱40の上端部から外部柱30の下端部に亘って延在するブレース材を設置している。仮設部材50は、広領域階100よりも上方の層階の荷重の略半分を支持可能なものとしている。
【0022】
その後、各階における内部柱40や梁20の構築を繰返すことにより、建方を構造物1の上方に向かって最上階110まで行う。内部柱40は、広領域階100の上階から最上階110の下階130までの間の複数層階に亘って上下方向に一直線状となる態様で配設される。最上階110には、最上方に配設した内部柱40と外部柱30とを連結する吊部材10が設置される。図2Aに示すように、複数層階に亘って一直線状に形成された内部柱40の上端部に吊部材10に一方の端部を連結して、内部柱40を吊部材10によって吊る構成としている。
【0023】
次に、図2Bに示すように、広領域階100の上階120から最上階110の下階130まで間の所定の階140において、内部柱40を分断する。その後、図2Cに示すように、仮設部材50を撤去する。これにより、分断位置より上方に配設された上部内部柱41に吊部材10による引張力を作用させる。一方、分断位置よりも下方に配設された下部内部柱42には、支持梁21からの圧縮力を作用させる。本実施の形態では、内部柱40を配設した層階の中央階140で、内部柱40を分断している。
【0024】
次に、図2Dに示すように、上部内部柱41と下部内部柱42との間に連結部材43を設置して、上部内部柱41と下部内部柱42とを繋ぐ。
【0025】
連結部材43は、上部内部柱41に吊部材10による引張力を作用させ、下部内部柱42に支持梁21からの圧縮力を作用させた後に、内部柱40の部材長さを調整するものである。これにより、広領域階100よりも上層階における内部柱40を完成させる。
【0026】
上述した施工方法による吊構造において、内部柱40に作用する軸力の作用状態を図3に示す。支持梁21と吊部材10とを一直線状に繋いでいる内部柱40には、上方部分(上部内部柱41)に引張軸力が作用し、下方部分(下部内部柱42)に圧縮軸力が作用している。吊構造10の施工において、内部柱40を分断した階140では、内部柱40にかかる軸力がほぼゼロになる。尚、軸力がほぼゼロとなる階140において、内部柱40を撤去し、内部柱40のない空間を形成することも可能である。
【0027】
上述した吊構造の施工方法によれば、外部柱30の間に上層階の梁20よりも断面積の大きな支持梁21を架設するものであるため、吊部材10が構築されるまでの間、支持梁21によって上層階の荷重を支持することができる。そのため、広領域階100に仮設支柱を設ける必要がない。更に、支持梁21よりも上層階にそれぞれ直線状となるように内部柱40を配設し、最上方に配設した内部柱40と外部柱30との間を吊部材10によって連結するものであるため、下層階を構築した後に吊部材10を構築することができる。そのため、特殊な重機を要することなく施工することができ、建設コストが増大しない。更に、支持梁21よりも上層階において内部柱40を分断し、分断位置よりも上方に配設された上部内部柱41に吊部材による引張力を作用させる一方、分断位置よりも下方に配設された下部内部柱42に支持梁からの圧縮力を作用させるものであるため、吊部材10にかかる荷重負担を低減でき、大きな剛性を有した構造体を不要とすることができる。
【0028】
建物の高層階にのみ吊構造を採用する場合や、免震建物に吊構造を採用する場合には、広領域階に仮設支柱を設けることが困難であり、仮設支柱を設置しようとすると多大な費用が発生することになる。しかしながら、本発明では、広領域階100に仮設支柱を設けることなく施工可能であるため、仮設費用を大幅に抑えることができる。尚、本発明における吊構造の施工方法は、建物の地上階を内部柱の無い広領域階とする場合であっても利用可能である。地上階を広領域階とする場合、建物の施工する際に、地上階を広い施工スペースとして利用できるため、資材の移動・ストックが行い易く、広領域階に仮設支柱を設ける工法と比して施工工期を短縮することができる。
【0029】
更に、吊部材10が構築されるまでの間、広領域階よりも上層の階の荷重を支持梁21と仮設部材50とによって支持することにより、支持梁21の荷重負担を低減して支持梁21の断面積を小さくすることができる。つまり、仮設部材50が負担していた荷重を吊部材10によって支持させ、吊部材10の構造による剛性と、支持梁21の断面積による剛性とのバランスによって荷重を支持する構成としており、これにより、吊部材10にかかる荷重負担と、支持梁21にかかる荷重負担とを抑えた構成とすることができる。尚、仮設部材50に替えて、支持梁にかかる荷重を支持する仮設ブレース材や仮設支柱を広領域階に設置することも可能である。
【0030】
更に、本発明の吊構造の施工方法は、軸力・変形制御が極めて明確、かつ簡単であるため、高度な施工技術を必要とせず、設計応力を容易に再現することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 構造物
10 吊部材
20 梁
21 支持梁
30 外部柱
40 内部柱
41 上部内部柱
42 下部内部柱
50 仮設部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部柱の間に上層階の梁よりも断面積の大きな支持梁を架設する工程と、
前記支持梁よりも上層階にそれぞれ直線状となるように内部柱を配設し、最上方に配設した内部柱と外部柱との間を吊部材によって連結する工程と、
前記支持梁よりも上層階において内部柱を分断し、分断位置よりも上方に配設された上部内部柱に吊部材による引張力を作用させる一方、分断位置よりも下方に配設された下部内部柱に前記支持梁からの圧縮力を作用させる工程と
を含むことを特徴とする吊構造の施工方法。
【請求項2】
最上方に配設した内部柱と外部柱との間を吊部材によって連結する工程において、前記支持梁よりも上層階に内部柱を配設する際に、支持梁の上階に梁と外部柱を連結し、当該梁を支持する仮設部材を設置することを特徴とする請求項1に記載の吊構造の施工方法。
【請求項3】
分断位置よりも上方に配設された上部内部柱に吊部材による引張力を作用させる一方、分断位置よりも下方に配設された下部内部柱に前記支持梁からの圧縮力を作用させる工程において、前記支持梁よりも上層階において内部柱を分断した後、前記仮設部材を撤去することを特徴とする請求項2に記載の吊構造の施工方法。
【請求項4】
内部柱の長さを調整する態様で前記上部内部柱と前記下部内部柱とを連結する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の吊構造の施工方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−2116(P2013−2116A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133571(P2011−133571)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)