説明

同軸ケーブル及びその製造方法

【課題】屈曲寿命が長い高信頼の細径同軸ケーブルを安価に提供する。
【解決手段】中心導体2、その中心導体2の外周に形成されたフッ素樹脂からなる内部絶縁体3、その内部絶縁体3の周囲に形成された外部導体4、および外部導体4の周囲に形成された外部絶縁体5を有する同軸ケーブル1において、外部導体4が、平均粒径100nm以下のAgナノ粒子、Cuナノ粒子などの金属ナノ粒子が互いに融着して形成された金属ナノ粒子層4nを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号の伝送路に使用される同軸ケーブル及びその製造方法に係り、特に、携帯電話などの電子機器、超音波検査装置などの医療機器など、省スペース化が重要視される用途での同軸ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な図4に示す同軸ケーブル41は、内部導体42、内部絶縁体43、外部導体44および外部絶縁体45から構成される。内部導体42は、Cuを主体とする金属の単線または単線を撚り合わせた撚り線が使用される。内部絶縁体43は、高周波信号の伝送における損失を低くする目的から、比誘電率が低いフッ素樹脂が一般的に使用される。外部導体44は、複数の単線を内部絶縁体43の周囲に横巻した構造が広く使用されている。外部絶縁体45は、用途に応じて様々な材料が使用されるが、絶縁性および耐熱性に優れたフッ素系樹脂が多く使われている。
【0003】
近年、電子機器や医療機器の小型化、軽量化および高機能化が進み、それらに使用される同軸ケーブルの細径化が強く要求されるようになった。そのため、同軸ケーブルの各構成要素について、細径化のための技術開発が進められてきた。例えば、外部導体44については、横巻に使用する単線として直径が約13μmと細い銅線が量産されている。
【0004】
一方、高周波信号の伝送の面では、外部導体の厚さを数μmまで薄くすることが可能である。そのため、外部導体を薄い金属層で構成する技術が検討され、既に公開されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、内部絶縁体の周囲にスパッタ法により金属薄膜を形成し、その上に電気めっき法により金属層を形成する技術が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、内部絶縁体の表面を金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液などで粗面化処理した後、めっき触媒を付与させ、無電解めっき法と電解めっき法により、金属層を形成する技術が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献3では、粗面化処理した内部絶縁体表面に、金属ナノ粒子と金属粉末を含むペーストを付着させ、温度170〜230℃で焼成することにより外部導体を形成する技術が提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平5−342930号公報
【特許文献2】特開平6−187547号公報
【特許文献3】特開2006−294528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、電子機器や医療機器に使われる同軸ケーブルには、細径化の他に、屈曲寿命が長いことが要求される。
【0010】
例えば、携帯電話においては、表示部と操作部を分離させた折りたたみ式が既に主流になっており、最近では表示部が回転可能なものも普及してきている。特に、後者の表示部と操作部の信号伝送路には、細径の同軸ケーブルが多用されている。また、医療用の超音波検査装置においては、センサ部と本体間をつなぐプローブケーブルに同軸ケーブルが使われていて、実際の検査時には、プローブケーブルの屈曲動作が頻繁に繰り返される。
【0011】
したがって、携帯電話や超音波検査装置に使用される同軸ケーブルには、屈曲寿命が長いこともきわめて重要である。さらに、各機器の普及に伴い、同軸ケーブルの低価格化も強く要求されている。
【0012】
外部導体の形成方法としてスパッタ法などの乾式成膜法を用いる場合は、大型の真空装置が必要となるため製造装置の価格が高くなること、および細径のケーブル表面に金属層を形成する際の原料の利用効率が極めて低いことなどにより、同軸ケーブルの製造コストが極めて高くなるという問題があった。
【0013】
従来の無電解めっき法と電気めっき法の組み合わせにより外部導体を形成する技術、および金属ナノ粒子と金属粉末を含むペーストを用いて外部導体を形成する技術においては、作製した同軸ケーブルの屈曲寿命が図4の横巻外部導体タイプの同軸ケーブル41と比べて極めて短いという問題があった。
【0014】
ここで述べる屈曲寿命とは、中心導体や絶縁体が破断するまでの寿命ではなく、外部導体に亀裂、破断などが生じるまでの寿命である。
【0015】
屈曲寿命が短いことの要因としては、外部導体と内部絶縁体との密着強度が低いことが第1に挙げられる。外部導体と内部絶縁体との密着強度が低い同軸ケーブルにおいては、屈曲動作が繰り返されると、外部導体が部分的に内部絶縁体から剥離する。その状態でさらに屈曲動作が繰り返されると、剥離した外部導体に亀裂や破断が発生する。外部導体に亀裂や破断が発生した同軸ケーブルは、高周波信号の伝送損失が大幅に増加する。
【0016】
このような従来技術の問題により、外部導体を金属層で構成した同軸ケーブルを屈曲寿命が要求される用途に応用することが困難であった。
【0017】
そこで、本発明の目的は、屈曲寿命が長い高信頼の細径同軸ケーブルを安価に提供することにある。
【0018】
また、本発明の他の目的は、外部導体が金属層で構成される同軸ケーブルを携帯電話などの電子機器や、超音波検査装置などの医療機器に応用することを可能にし、機器の小型化、軽量化および高機能化に貢献することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は前記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、中心導体、その中心導体の外周に形成されたフッ素樹脂からなる内部絶縁体、その内部絶縁体の周囲に形成された外部導体、および外部導体の周囲に形成された外部絶縁体を有する同軸ケーブルにおいて、
前記外部導体が、平均粒径100nm以下のAgナノ粒子、Cuナノ粒子などの金属ナノ粒子が互いに融着して形成された金属ナノ粒子層を含む同軸ケーブルである。
【0020】
請求項2の発明は、前記金属ナノ粒子が、Agナノ粒子とCuナノ粒子からなり、前記金属ナノ粒子層のCuの重量比が0.1〜10wt%の範囲、またはAgの重量比が0.1〜10wt%の範囲である請求項1記載の同軸ケーブルである。
【0021】
請求項3の発明は、前記金属ナノ粒子層は、厚さが0.1〜10μmである請求項1または2記載の同軸ケーブルである。
【0022】
請求項4の発明は、前記外部導体は、前記金属ナノ粒子層の周囲に電気めっき法により形成された電気めっきCu層を含む請求項1〜3いずれかに記載の同軸ケーブルである。
【0023】
請求項5の発明は、中心導体、その中心導体の外周に形成されたフッ素樹脂からなる内部絶縁体、その内部絶縁体の周囲に形成された外部導体、および外部導体の周囲に形成された外部絶縁体を有する同軸ケーブルにおいて、
前記外部導体が、平均粒径100nm以下の金属ナノ粒子が互いに融着して形成された金属ナノ粒子層と、その周囲に無電解めっき法により形成された無電解めっきCu層と、その周囲に電気めっき法により形成された電気めっきCu層とを備え、前記金属ナノ粒子は、Agナノ粒子とPdナノ粒子からなり、前記金属ナノ粒子層におけるPdの重量比が0.01〜2wt%の範囲である同軸ケーブルである。
【0024】
請求項6の発明は、前記金属ナノ粒子層は、厚さが0.01〜0.1μmである請求項5記載の同軸ケーブルである。
【0025】
請求項7の発明は、中心導体、その中心導体の外周に形成されたフッ素樹脂からなる内部絶縁体、その内部絶縁体の周囲に形成された外部導体、および外部導体の周囲に形成された外部絶縁体を有する同軸ケーブルの製造方法において、
外部導体を形成するための工程が、平均粒径100nm以下の金属ナノ粒子を有機溶媒などの分散液中に分散させた液状物質を内部絶縁体に被着させる工程と、その後に行う加熱工程とを含む同軸ケーブルの製造方法である。
【0026】
請求項8の発明は、前記加熱工程は、被着した液状物質を加熱して金属ナノ粒子層を形成する第1加熱工程と、高周波電力を利用した誘導加熱で前記外部導体を加熱する第2加熱工程とを含む請求項7記載の同軸ケーブルの製造方法である。
【0027】
請求項9の発明は、内部絶縁体の材質がPFAであり、前記第2加熱工程における加熱温度が295℃以上である請求項8記載の同軸ケーブルの製造方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、外部導体の金属層の構造、およびその形成方法を適正化することにより、同軸ケーブルの細径化と屈曲寿命の大幅な向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明者は、主に電子機器や医療機器に使用される同軸ケーブルにおいて、特に、外部導体が金属層で構成される場合に、細径化と屈曲寿命の長寿命化を両立させるため、外部導体の金属層の構造、およびその形成方法を検討し、鋭意研究の結果、これらを適正化することにより、同軸ケーブルの屈曲寿命を向上した本発明を完成した。
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0031】
図1は、本発明の好適な第1の実施形態を示す同軸ケーブルの構造の概要を示す横断面図である。
【0032】
図1に示すように、第1の実施形態に係る同軸ケーブル1は、中心導体2と、その中心導体2の外周に形成されたフッ素樹脂からなる内部絶縁体3と、その内部絶縁体3の周囲に形成された外部導体4と、その外部導体4の周囲に形成された外部絶縁体5とで構成される。
【0033】
中心導体2は、単線を複数本撚り合わせた構造である。第1の実施形態では、CuとAgの合金からなる単線を用い、撚り線の単線数は7とした。
【0034】
内部絶縁体3の材質としては、押し出し法で形成する際の被覆厚さの均一性の観点から、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重体)が適しているが、これに限定されるものではなく、PTFA(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重体)などのフッ素系樹脂も適用することができる。
【0035】
さて、外部導体4は、内側の金属ナノ粒子層4nと、その外側に電気めっき法により形成された電気めっき金属層4pとからなる。金属ナノ粒子層4nは、平均粒径100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは10nm以下のAgナノ粒子、Cuナノ粒子などの金属ナノ粒子が互いに融着して形成されてなる。第1の実施形態では、金属ナノ粒子層4nとして、Agナノ粒子とCuナノ粒子からなるものを用いた。
【0036】
金属ナノ粒子の平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度測定装置により計測した値である。粒度測定装置としては、例えば、日機装株式会社製の9340UPAが市販されていて、3nm程度からμmオーダーの平均粒径の計測が可能である。
【0037】
金属ナノ粒子層4nの抵抗率は、平均粒径100nm以下であればバルク金属の2倍程度と極めて低く抑えられる。しかし、平均粒径が100nmを超えると、金属ナノ粒子同士の融着の進行が阻害され、抵抗率が急激に上昇する。
【0038】
金属ナノ粒子層4nのCuの重量比は0.1〜10wt%の範囲、またはAgの重量比は0.1〜10wt%の範囲である。これらの合金組成の範囲では、Ag−Cu合金の抵抗率として純Cuの85%以上の値が得られ、低抵抗でかつ耐屈曲性に優れた外部導体4の形成が可能になるからである。前記の組成以外では、抵抗率が急激に高くなる。
【0039】
金属ナノ粒子層4nは、厚さ(膜厚)が0.1〜10μm、好ましくは0.1〜7μm、さらに好ましくは0.1〜1μmの範囲が適切である。厚さが0.1μmよりも薄い場合は、電気抵抗の上昇により、電気めっき金属層4pの形成が困難になる。また、厚さが10μmを超えると、前述した従来の同軸ケーブルに比べれば屈曲寿命が大幅に向上するが、金属ナノ粒子層のみで外部導体を構成した場合と同等の屈曲寿命となる。
【0040】
電気めっき金属層4pは、主に、外部導体4を半田付けする際の、耐半田性を向上させる目的のものである。電気めっき金属層4pには、CuやAgと密着性が高い金属を用いるとよい。さらに、耐食性が高く、延性が大きい金属であることが望ましい。
【0041】
電気めっき金属層4pの材料としてはNiが望ましいが、この材料に限定されるものではなく、例えば、Sn、Sn−Zn合金およびSn−Bi合金も適用可能である。電気めっき金属層4pの平均的な厚さは、0.1〜0.3μmの範囲とすることが望ましい。厚さが0.1μmよりも薄い場合は、外部導体4の半田耐性が低下する。一方、厚さが0.3μmを超えると、高周波信号の伝送特性が低下する。
【0042】
第1の実施形態では、電気めっき金属層4pの材料としてNiを用いた。外部絶縁体5には、内部絶縁体3の材質と同じものを用いる。
【0043】
なお、携帯電話などの電子機器、超音波検査装置などの医療機器などの用途を考慮すると、同軸ケーブル1の外径はφ0.6mm以下が望ましい。
【0044】
次に、同軸ケーブル1の製造方法を説明する。中心導体2に内部絶縁体3を被覆するまでの製造方法は、従来と同様なので省略する。
【0045】
内部絶縁体3の材質であるフッ素系樹脂は、化学的に極めて安定であり、フッ素系樹脂上に金属層を形成した場合、フッ素樹脂と金属層の界面における化学的な結合は期待できない。そのため、フッ素系樹脂と金属層の密着強度を高めるべく、予めフッ素系樹脂の表面を粗面化処理するのが一般的である。一般的な粗面化の手段としては、金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液を用いた湿式処理法や、Arの逆スパッタなどの乾式処理法がある。しかし、それらの方法で形成される凹凸構造は、フッ素系樹脂の表面から見て概略逆ピラミッド状となるケースがほとんどであり、金属層との充分な密着強度を得ることは難しかった。
【0046】
同軸ケーブル1の外部導体4には金属ナノ粒子を用いているため、本発明者は、金属ナノ粒子層4nの形成条件、特に加熱条件を仔細に検討することにより、フッ素系樹脂と金属ナノ粒子層4nの密着強度の向上を図った本実施形態に係る製造方法を完成した。
【0047】
まず、金属ナノ粒子の周囲に、金属ナノ粒子を保護して融着を抑制するオクチルアミンなどの有機保護剤を被着させ、これを有機溶媒(例えば、デカノールなど)などの分散液中に分散させ、液状物質を作製する。
【0048】
有機保護剤としては、アミノ基を有する炭素数8の有機物であるオクチルアミンに限らず、他の有機保護剤も適用可能である。例えば、アミノ基の代わりに、アルコール基、カルボキシル基、カルボニル基、アルデヒド基、スルファニル基を含む有機物も有機保護剤として用いることが可能である。それらの有機保護剤を用いることにより、液状物質から金属ナノ粒子層4nを得る際の熱処理工程において、金属ナノ粒子表面の酸化を効果的に抑制することが可能となる。
【0049】
有機保護剤の炭素数は8〜20の範囲が望ましい。炭素数が7以下の場合は、常温においても液状物質中の金属ナノ粒子間の融着が見られる。一方、炭素数が20を超えると、熱処理工程が終了した後にも、有機物成分が金属ナノ粒子層4nに残存し、抵抗率の低い金属ナノ粒子層4nの形成が困難になる。
【0050】
内部絶縁体3を形成したケーブル(第1プレケーブル)の周囲に液状物質を被着させる(被着工程)。そのケーブルを加熱する(加熱工程)ことにより、内部絶縁体3の周囲に導電性を有する金属ナノ粒子層4nを形成する。
【0051】
より詳細には、加熱工程は、被着した液状物質を加熱して金属ナノ粒子層4nを形成する第1加熱工程(第1熱処理工程)と、高周波電力を利用した誘導加熱で外部導体4を加熱する第2加熱工程(第2熱処理工程)とを含む。
【0052】
第1加熱工程の際、加熱条件を適宜制御することにより、金属ナノ粒子層4nの表面に平均粗さ(Ra)が1μm以下の微細な凹凸構造を形成する。凹凸構造中には、単純な逆ピラミッド形状のみではなく、表面から内部に向かって開口面積が増加する多数の坪型の形状も形成される。そのような凹凸構造は、金属ナノ粒子層4nの内部絶縁体3側の表面にも形成される。
【0053】
ここで、平均粗さ(Ra)とは、触針式の表面粗さ測定装置で計測した算術平均粗さである。ケーブル表面は曲面であり平均粗さの測定は難しいため、内部絶縁体と同じ材料を用いて成形した板状基板の表面に金属ナノ粒子層を形成し、平均粗さを計測する。本発明者は、さらに、走査型電子顕微鏡を用いて表面および断面の形状を計測することにより、ケーブルと板状基板の表面にほぼ同等の微細凹凸構造を有する金属ナノ粒子層が形成されていることを確認した。
【0054】
金属ナノ粒子を含む液状物質から金属ナノ粒子層4nを形成する際のケーブルの加熱温度の上限は、内部絶縁体3を構成するフッ素系樹脂の融点よりも5℃程度低くすることが望ましい。その温度よりもケーブルの加熱温度を高くすると、内部絶縁体3に変形が発生し、同軸ケーブル製造歩留りが低下する。一方、下限温度は、200℃以上にすることが望ましい。その温度よりも低い場合は、金属ナノ粒子層4nの電気抵抗率が大幅に高くなる。
【0055】
第1加熱工程に続く第2加熱工程では、高周波電力を利用した誘導加熱法により、金属ナノ粒子を優先的に加熱する。その際の加熱温度は、フッ素系樹脂の融点付近とすることが望ましい。金属ナノ粒子層4nの温度がフッ素系樹脂の融点付近まで上昇すると、内部絶縁体3の表面部のみが軟化し、軟化した樹脂が金属ナノ粒子の表面凹凸構造の凹部に入り込む。特に、坪型の凹部に樹脂が入り込み固化することにより、アンカー効果が得られ、内部絶縁体3と金属ナノ粒子層4nの密着強度が大幅に向上する。
【0056】
例えば、内部絶縁体3にPFA(公称の融点302〜310℃)を用いた場合、誘導加熱法による金属ナノ粒子層4nの加熱温度を295〜330℃の範囲とすることにより、良好な密着強度が得られる。加熱温度が295℃よりも低い場合は、密着強度が低下し、同軸ケーブルの屈曲寿命が著しく低下する。一方、加熱温度が330℃よりも高くなると、内部絶縁体3に変形が発生し、同軸ケーブルの製造歩留りが著しく低下する。
【0057】
内部絶縁体3にPTFE(公称の融点327℃)を用いる場合は、誘導加熱法による金属ナノ粒子層4nの加熱温度を320〜349℃の範囲とすることにより、良好な密着強度が得られる。同様に、ETFE(公称の融点270℃)を用いた場合は、261〜297℃の範囲で良好な密着強度が得られる。
【0058】
金属ナノ粒子層4nを形成した後、その周囲に電気めっき法により電気めっき金属層4pを形成し、その周囲に内部絶縁体3と同様にして外部絶縁体5を形成すると、図1に示した同軸ケーブル1が得られる。
【0059】
第1の実施形態の作用を説明する。
【0060】
同軸ケーブル1は、外部導体4が平均粒径100nm以下のAgナノ粒子、Cuナノ粒子などの金属ナノ粒子が互いに融着して形成された金属ナノ粒子層4nを含む。
【0061】
金属粒子は、粒径がナノオーダーまで小さくなると、融点が低下し、低温で融着が起こることが知られている。その融着は、常温でも進行する。そのため、金属ナノ粒子を扱う際は、金属ナノ粒子の周囲を有機物で保護し、それを有機溶媒中に分散させ、液状にしたものを扱うのが便利である。金属ナノ粒子を分散させた液状物質を加熱すると、有機溶媒および保護用有機物が蒸発、分解する。同時に、金属ナノ粒子が融着し、金属ナノ粒子層4nが得られる。この金属ナノ粒子層4n中には、平均粒径が100nmを超える金属粒子は含まれない。
【0062】
同軸ケーブル1では、金属ナノ粒子の平均粒径を100nm以下とすることにより、金属ナノ粒子間の融着を充分に進行させることができ、外部導体4として低電気抵抗の金属ナノ粒子層4nを形成することが可能になる。
【0063】
特に、同軸ケーブル1では、金属ナノ粒子材料として、Agナノ粒子とCuナノ粒子を混合させた材料を用いることにより、AgとCuの合金からなる金属ナノ粒子層4nを得ることができる。Ag−Cu合金を外部導体4に応用した同軸ケーブル1においては、Agナノ粒子層単独(Ag単一材料)またはCuナノ粒子層単独(Cu単一材料)で外部導体を構成した場合に比べて、屈曲寿命の改善が大幅に向上する。これは、金属ナノ粒子層4nを構成するAg−Cu合金により、AgやCuに比べて引張り強度などの機械的特性が向上するためである。
【0064】
さらに、同軸ケーブル1は、外部導体4が金属ナノ粒子からなる金属ナノ粒子層4nを含むため、従来の乾式成膜法や無電解めっき法と電気めっき法の組み合わせで外部導体を形成する場合に比べ、製造が簡単であり、製造コストも低い。しかも、従来の金属ナノ粒子と金属粉末を含むペーストにより外部導体を形成する場合に比べ、金属ナノ粒子層4nが緻密な構造なので、ケーブルを細径化してもケーブルの屈曲寿命を大幅に向上できる。
【0065】
したがって、同軸ケーブル1によれば、外部導体4の金属層の構造、およびその形成方法を適正化することにより、ケーブルの細径化と屈曲寿命の大幅な向上を図ることができ、同軸ケーブルを安価に提供できる。
【0066】
また、同軸ケーブル1によれば、外部導体が金属層で構成される同軸ケーブルを携帯電話などの電子機器や、超音波検査装置などの医療機器に応用することが可能であり、機器の小型化、軽量化および高機能化を図ることも可能である。
【0067】
同軸ケーブル1は、金属ナノ粒子層4nに加え、さらに電気めっき金属層4pを用いて外部導体4を構成している。このため、同軸ケーブル1では、金属ナノ粒子層4nのみで外部導体を構成する場合と比べれば、ケーブルの屈曲寿命をより向上できる。これは、金属ナノ粒子層4nに比べて、電気めっき金属層4pの方が緻密な構造であるため、屈曲寿命が改善したと考えられる。
【0068】
また、同軸ケーブル1は、金属ナノ粒子層4nの周囲に電気めっき金属層4pを形成しているため、金属ナノ粒子層4nと電気めっき金属層4pの密着強度も高い。
【0069】
同軸ケーブル1は、金属ナノ粒子層4nのCuの重量比が0.1〜10wt%の範囲、またはAgの重量比が0.1〜10wt%の範囲であるため、Ag−Cu合金からなる金属ナノ粒子層4nの電気抵抗率を低くすることができ、電気抵抗が低く、かつ屈曲寿命の長い外部導体4の形成が可能になる。
【0070】
また、本実施形態に係る同軸ケーブル1の製造方法は、平均粒径100nm以下の金属ナノ粒子を有機溶媒などの分散液中に分散させた液状物質を内部絶縁体に被着させる工程と、その後に行う加熱工程とを含む。このため、本実施形態に係る製造方法によれば、フッ素樹脂からなる内部絶縁体3と金属ナノ粒子層4nの密着強度を大幅に向上でき、外部導体4の屈曲寿命を大幅に向上した高信頼の同軸ケーブル1を簡単に製造できる。
【0071】
第2の実施形態を説明する。
【0072】
図2に示すように、第2の実施形態に係る同軸ケーブル21は、外部導体24を、最内層である金属ナノ粒子層24nと、その周囲に電気めっき法により形成された電気めっきCu層24pと、最外層である電気めっき法により形成された電気めっき金属層4pとからなる3層構造としたものである。
【0073】
第2の実施形態では、図1の金属ナノ粒子層4nの外側の一部を、金属ナノ粒子層24nよりも厚い電気めっきCu層24pとした。金属ナノ粒子層4nの厚さと、金属ナノ粒子層24nと電気めっき金属層4pの合計厚さは同じである。同軸ケーブル21のその他の構成は、図1の同軸ケーブルと同じである。
【0074】
同軸ケーブル21では、外部導体24の主要部分を金属ナノ粒子層24nと電気めっきCu層24pとで構成することにより、電気めっき金属層4pよりも軟らかい電気めっきCu層24pがケーブルの屈曲性を向上させるため、同軸ケーブル1に比べれば屈曲寿命がより向上する。
【0075】
第3の実施形態を説明する。
【0076】
図3に示すように、第3の実施形態に係る同軸ケーブル31は、外部導体34を、最内層である金属ナノ粒子層34nと、その周囲に無電解めっき法により形成された無電解めっきCu層34Lと、その周囲に電気めっき法により形成された電気めっきCu層24pと、最外層である電気めっき法により形成された電気めっき金属層4pとからなる4層構造としたものである。
【0077】
金属ナノ粒子層34nは、上述した各金属ナノ粒子層と同様にして形成されるが、Agナノ粒子とPdナノ粒子からなり、金属ナノ粒子層34nにおけるPdの重量比(Ag−Pd合金のPdの重量比)が0.01〜2wt%の範囲である。
【0078】
この組成範囲では、Agナノ粒子層のみで金属ナノ粒子層を構成する場合と比べて、無電解めっき法による無電解めっきCu層34Lの形成速度が1.5〜2倍に向上するからである。0.01wt%より低い組成では、電気めっきCu層24pの形成速度がAgナノ粒子層のみで金属ナノ粒子層を構成する場合と同等になる。また、2wt%よりも高い組成では、同軸ケーブルの屈曲寿命が著しく低下する。
【0079】
金属ナノ粒子層34nの平均的な厚さとしては、0.01〜0.1μmの範囲が適切である。厚さが0.01μmよりも薄い場合は、無電解めっき法による無電解めっきCu層34Lの形成速度が著しく低下する。また、厚さが0.1μmを超えると、同軸ケーブルの屈曲寿命が、金属ナノ粒子層および電解めっきCu層により外部導体を構成した場合と同等になる。
【0080】
同軸ケーブル31では、外部導体34の主要部分を金属ナノ粒子層34nと、無電解めっきCu層34Lと、電気めっきCu層24pとで構成することにより、金属ナノ粒子層34nや電気めっきCu層24pと密着性がよい無電解めっきCu層34Lがいわばバッファ層となってケーブルの屈曲性を向上させる。このため、同軸ケーブル31では、外部導体24の主要部分を金属ナノ粒子層24nと電気めっきCu層24pとで構成する図2の同軸ケーブル21に比べれば、屈曲寿命がより向上する。
【0081】
上記実施形態では、電気めっきCu層を含む外部導体の例で説明したが、金属ナノ粒子層のみからなる外部導体を用いる場合にも、同軸ケーブルの屈曲寿命を従来に比べて大幅に向上できる。
【0082】
また、外部導体を構成するための各金属ナノ粒子層の材質としては、上述したAg、Cu、Pdの他にAu、Pt、Niなどでもよいが、抵抗率などの電気的特性、および材料価格を考慮すると、Agのみ、Cuのみ、あるいは上述したようにそれらの合金が最も望ましい。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
内部絶縁体3は、CuとAgの合金からなる外径が13μmの単線を撚り合わせた構造のものを用いた。撚り線の単線数は7とし、撚り線の外径は約40μmとした。内部絶縁体3は、材質としてPFAを用い、平均的な厚さを約25μmとした。外部導体4は、金属ナノ粒子層4nと電気めっき金属層4pより構成した。金属ナノ粒子層4nは、平均粒径が約8nmのAgナノ粒子を融着させて形成したもので、平均的な厚さを約6μmにした。電気めっき金属層4pは、材質をNiとし、平均的な厚さを約0.2μmにした。外部絶縁体5は、材質としてPFAを用い、平均的な厚さを約20μmとした。
【0084】
同軸ケーブル1の製造方法は、まず、中心導体2を構成する撚り線の周囲に、内部絶縁体3としてPFAを押し出し法により形成した後、Agナノ粒子を分散させた液状物質を内部絶縁体3の周囲に被着させた。
【0085】
液状物質を平均粒径が約8nmのAgナノ粒子、Agナノ粒子の周囲に被着させた有機保護剤、溶媒により構成した。有機保護剤にはオクチルアミン、溶媒にはデカノールをそれぞれ用いた。液状物質中のAgナノ粒子の重量比は約80%とした。ここで、液状物質中のAgナノ粒子の重量比とは、Agナノ粒子の重量と、Agナノ粒子を含む液状物質の重量の比を百分率で表したものである。液状物質を被着させたケーブルを管状ヒータの内部を通過させることにより、第1の熱処理工程を実施した。
【0086】
管状ヒータは、管状の耐熱部材に抵抗発熱体を埋め込んだ構造であり、管状ヒータへの投入電力、管状ヒータの長さ、およびケーブルの通過速度を適正化することにより、ケーブルの加熱温度(最高到達温度)を制御した。第1の熱処理工程を大気中で実施し、加熱温度を約280℃とした。
【0087】
第1の熱処理工程を経ることにより、内部絶縁体3の周囲に、導電性を有する金属ナノ粒子層4nを形成した。第1の熱処理工程が終了した後、ケーブルを誘導コイルの内部を通過させることにより、第2の熱処理工程を実施した。
【0088】
第2の熱処理工程においては、主に、誘導コイルに投入する電力および周波数を適正化することにより、金属ナノ粒子層4nの加熱温度(最高到達温度)を制御した。第2の熱処理工程は大気中で実施し、加熱温度を約320℃、高周波電力の周波数を約350kHzとした。
【0089】
第2の熱処理工程が終了した後、金属ナノ粒子層4nの周囲に、電気めっき金属層4pとして、電気めっき法によりNi層を約0.2μmの厚さで形成した。電気めっき金属層4pの形成が終了した後、外部絶縁体5として、PFAを押し出し法により形成した。
【0090】
以上の工程を経て、外部導体4の主要部分が金属ナノ粒子層4nで構成され、外径が約143μmと細径の図1に示した同軸ケーブル1を作製した。
【0091】
実施例1の同軸ケーブル1について、高周波信号の伝送特性を図4に示した従来の同軸ケーブル41と比較した。その結果、周波数10MHzにおける特性インピーダンスおよび信号減衰量について、同等の特性が得られた。ここで、従来の同軸ケーブル41は、外部導体44の構成が実施例1とは異なり、外径が約16μmのCu線を横巻して外部導体44を構成したものである。
【0092】
実施例1の同軸ケーブル1に対して、さらに、左右屈曲試験を実施した。試験条件は、屈曲角度が左右±90°、屈曲速度が毎分30回、曲げ歪が約3%であり、荷重は、同軸ケーブルの平均的な破断荷重の約20%とした。
【0093】
比較のため、図1に示した実施例1の同軸ケーブル1における金属ナノ粒子層4nの代わりに無電解めっき法と電気めっき法により形成したAg層を用いた同軸ケーブル、および金属ナノ粒子層4nの代わりに無電解めっき法と電気めっき法により形成したCu層を用いた同軸ケーブルについても左右屈曲試験を実施した。比較用に作製した同軸ケーブルは、内部絶縁体を形成した後、その表面を金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液などで粗面化処理した後、めっき触媒を付与させ、無電解めっき法と電気めっき法により金属層を形成したものである。めっき金属層の合計の厚さは、金属ナノ粒子層4nとほぼ同じになるようにした。
【0094】
左右屈曲試験を実施した結果、金属ナノ粒子層の代わりにめっき金属層を用いた比較用の同軸ケーブルにおいては、金属層の材質がAg、Cuのいずれの場合も屈曲回数が50回以下で外部導体に破断が生じた。一方、実施例1の同軸ケーブル1では、屈曲回数が500回まで外部導体の破断は発生しなかった。
【0095】
左右屈曲試験の結果から、実施例1の同軸ケーブル1においては、屈曲寿命が大幅に向上することがわかった。
【0096】
実施例1に記した同軸ケーブルの製造方法において、液状物質中の金属ナノ粒子の重量比は50〜90%の範囲とすることが望ましい。金属ナノ粒子層4nは、前述したように、金属ナノ粒子を含む液状物質を内部絶縁体3の周囲に被着させ、さらに熱処理工程を経て形成する。その際、金属ナノ粒子層4nの厚さは、液状物質中の金属ナノ粒子の重量比と、液状物質を構成する溶媒の粘度により制御が可能であるが、特に、金属ナノ粒子の重量比が重要である。
【0097】
実施例1において、金属ナノ粒子層4nは、外部導体4の主要部分を構成し、外部導体としての機能面から、金属ナノ粒子層4nの厚さは、通常2〜10μmの厚さの範囲に設計される。また、液状物質中の金属ナノ粒子の重量比が50%以下では、2μm以上の厚さを有する金属ナノ粒子層4nの形成が困難であった。また、金属ナノ粒子の重量比が90%を超えると、液状物質の流動性が著しく低下し、均一な厚さを有する金属ナノ粒子層4nの形成が困難であった。
【0098】
(実施例2)
実施例2の同軸ケーブル1は、実施例1と金属ナノ粒子層4nの材質のみが異なっており、それ以外は同じ構造である。実施例2においては、金属ナノ粒子層4nの材質として、Cuの重量比が約2wt%のAg−Cu合金を用いた。金属ナノ粒子層4nを形成するための液状物質を作製する際に、Agナノ粒子とCuナノ粒子を前記の重量比で混合させることにより、Ag−Cu合金からなる金属ナノ粒子層4nを形成した。Cuナノ粒子の平均粒径は約30nmであり、有機保護剤はAgナノ粒子と同じものを用いた。実施例2の同軸ケーブル1の製造方法も実施例1と同じである。
【0099】
実施例2の同軸ケーブル1について、周波数10MHzの高周波信号の伝送特性を評価した結果、屈曲回数900回まで外部導体4に破断は見られなかった。したがって、金属ナノ粒子層4nをAg−Cu合金(Cuの重量比2wt%)で構成することによりさらに屈曲寿命が向上した。
【0100】
(実施例2の変形例1)
実施例2では、金属ナノ粒子層4nをAgの重量比が高いAg−Cu合金で構成したが、Cuの重量比が高いAg−Cu合金で構成することも可能である。例えば、金属ナノ粒子層4nをAgの重量比が2wt%のAg−Cu合金で構成した場合も、伝送特性および屈曲寿命において、実施例2と同等の良好な効果が得られた。
【0101】
その場合の製造方法においては、第2の熱処理工程を還元ガス雰囲気中で実施した。還元ガスとして、窒素と水素の混合ガスを用い、混合ガスにおける水素ガスの体積比を2vol%とした。
【0102】
(実施例2の変形例2)
本変形例と実施例2との違いは、金属ナノ粒子層4nを形成するための金属ナノ粒子の平均粒径が約80nmのAgナノ粒子と、平均粒径が約90nmのCuナノ粒子を用いた点である。本変形例による同軸ケーブル1の伝送特性および屈曲寿命を評価した結果、実施例2と同等の良好な効果が得られた。
【0103】
本変形例による同軸ケーブル1の試作においては、金属ナノ粒子の平均粒径をさらに大きくした場合の伝送特性および屈曲寿命への影響を調べるため、平均粒径がいずれも約120nmのAgナノ粒子およびCuナノ粒子を用いて金属ナノ粒子層を構成した比較試験用の同軸ケーブルにおいては、所望の伝送特性が得られないという問題が生じた他、屈曲寿命が50回以下と著しく低下した。比較試験用の同軸ケーブルの特性が低下した要因としては、金属ナノ粒子の平均粒径を約120nmまで大きくしたことにより、金属ナノ粒子が充分融着しなかったことが挙げられる。
【0104】
(実施例3)
実施例3は、図2に示した同軸ケーブル21であり、外部導体24を、金属ナノ粒子層24n、電気めっきCu層24p、および電気めっき金属層4pからなる3層構造としたものである。以下、実施例2との相違点を中心に説明する。
【0105】
金属ナノ粒子層24nの材質としては、Cuの重量比が約2wt%のAg−Cu合金を用い、平均的な厚さを約0.3μmとした。電気めっきCu層24pは、金属ナノ粒子層24nの周囲に電気めっき法により形成したCu層であり、平均的な厚さを約6μmとした。
【0106】
製造方法においては、金属ナノ粒子層24nを形成するための液状物質中の金属ナノ粒子重量比は、約30%とした。
【0107】
実施例3の同軸ケーブル21について、周波数10MHzの高周波信号の伝送特性を評価した結果、実施例1とほぼ同じ伝送特性が得られた。また、左右屈曲試験を実施したところ、屈曲回数1200回まで外部導体に破断は見られなかった。外部導体24の主要部分を金属ナノ粒子層24nと電気めっきCu層4pで構成することにより、実施例2の同軸ケーブル1と比べて、屈曲寿命にさらなる改善が見られた。
【0108】
実施例3において、金属ナノ粒子層24pは、外部導体24の主要部分を構成すると共に、電気めっきCu層24pを形成するためのめっきシード層、および内部絶縁体3と外部導体24の密着強度を向上させるための密着層としても機能する。
【0109】
前述したように、金属ナノ粒子層4nの平均的な厚さとして、0.1〜1μmの範囲が適切である。厚さが0.1μmよりも薄い場合は、電気抵抗の上昇により、電気めっきCu層24pの困難であった。また、膜厚が1μmを超えると、金属ナノ粒子層4nのみで外部導体4の主要部分を構成した実施例2と同等の屈曲寿命になった。
【0110】
金属ナノ粒子層24nの厚さの制御においては、金属ナノ粒子を含む液状物質中の金属ナノ粒子の重量比が重要であるが、実施例3の製造方法においては、液状物質中の金属ナノ粒子の重量比を10〜50wt%の範囲とすることが望ましい。その範囲の重量比の金属ナノ粒子を含む液状物質を用いることにより、金属ナノ粒子層24nの厚さを0.1〜1μmの範囲で制御することが可能になった。
【0111】
(実施例4)
実施例4は、図3に示した同軸ケーブル31であり、外部導体34を、金属ナノ粒子層34n、無電解めっきCu層34L、電気めっきCu層24p、および電気めっき金属層4pからなる4層構造としたものである。以下、実施例3との相違点を中心に説明する。
【0112】
金属ナノ粒子層34nの材質としては、Pdの重量比が0.2wt%のAg−Pd合金を用い、平均的な厚さを約0.05μmとした。無電解めっきCu層34Lは、金属ナノ粒子層34nの周囲に無電解めっき法により形成したCu層であり、平均的な厚さを約0.3μmとした。
【0113】
製造方法においては、金属ナノ粒子層34nを形成するための液状物質中の金属ナノ粒子重量比は約3%とした。
【0114】
実施例4の同軸ケーブル31について、周波数10MHzの高周波信号の伝送特性を評価した結果、実施例1とほぼ同じ伝送特性が得られた。また、左右屈曲試験を実施したところ、屈曲回数1600回まで外部導体に破断は見られなかった。外部導体34の主要部分を金属ナノ粒子層34n、無電解めっきCu層34L、および電気めっきCu層24pで構成することにより、実施例3の同軸ケーブル21と比べて、屈曲寿命をさらに向上させることができた。
【0115】
実施例4において、金属ナノ粒子層34nは、主に、無電解めっきCu層34Lを形成するためのめっき触媒層、および内部絶縁体3と外部導体34の密着強度を向上させるための密着層としても機能する。また、無電解めっきCu層34Lは、外部導体34の主要部分を構成すると共に、電気めっきCu層24pを形成するためのめっきシード層としても機能する。
【0116】
電気めっきCu層24pを形成する代わりに、無電解めっきCu層34Lを6μm程度の厚さに形成しても、前記と同等の伝送特性および屈曲寿命を得ることが可能であるが、無電解めっき法は、電気めっき法と比べて、Cuの形成速度が遅いため、電気めっき法を併用した方が、同軸ケーブルの製造コストを低減できる。
【0117】
前述したように、金属ナノ粒子層34nを構成するAgとPd合金のPdの重量比は、0.01〜2wt%の範囲が適している。この組成範囲では、例えば、金属ナノ粒子層34nをAgナノ粒子で構成した場合と比べて無電解めっき法によるCu層の形成速度が、1.5〜2倍に向上した。0.01wt%より低い組成では、無電解めっき法による無電解めっきCu層34Lの形成速度がAgナノ粒子層の場合と同等になった。また、2wt%よりも高い組成では、同軸ケーブルの屈曲寿命が著しく低下した。
【0118】
やはり前述したように、金属ナノ粒子層34nの平均的な厚さとしては、0.01〜0.1μmの範囲が適切である。厚さが0.01μmより薄い場合は、無電解めっき法による無電解めっきCu層34Lの形成速度が著しく低下した。また、膜厚が0.1μmを超えると、金属ナノ粒子層34nおよび電気めっきCu層24pにより外部導体の主要部分を構成した実施例3と屈曲寿命が同等になった。
【0119】
金属ナノ粒子層34nの厚さ制御においては、金属ナノ粒子を含む液状物質中の金属ナノ粒子の重量比が重要であるが、実施例4の製造方法においては、液状物質中の金属ナノ粒子の重量比は、0.1〜10wt%の範囲とすることが望ましい。その範囲の重量比の金属ナノ粒子を含む液状物質を用いることにより、金属ナノ粒子層34nの厚さを0.01〜0.1μmの範囲で制御することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の好適な第1の実施形態である同軸ケーブルの構造の概要を示す横断面図である。
【図2】本発明の好適な第2の実施形態である同軸ケーブルの構造の概要を示す横断面図である。
【図3】本発明の好適な第3の実施形態である同軸ケーブルの構造の概要を示す横断面図である。
【図4】従来の同軸ケーブルの横断面図である。
【符号の説明】
【0121】
1 同軸ケーブル
2 中心導体
3 内部絶縁体
4 外部導体
4n 金属ナノ粒子層
5 外部絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体、その中心導体の外周に形成されたフッ素樹脂からなる内部絶縁体、その内部絶縁体の周囲に形成された外部導体、および外部導体の周囲に形成された外部絶縁体を有する同軸ケーブルにおいて、
前記外部導体が、平均粒径100nm以下のAgナノ粒子、Cuナノ粒子などの金属ナノ粒子が互いに融着して形成された金属ナノ粒子層を含むことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、Agナノ粒子とCuナノ粒子からなり、前記金属ナノ粒子層のCuの重量比が0.1〜10wt%の範囲、またはAgの重量比が0.1〜10wt%の範囲である請求項1記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子層は、厚さが0.1〜10μmである請求項1または2記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
前記外部導体は、前記金属ナノ粒子層の周囲に電気めっき法により形成された電気めっきCu層を含む請求項1〜3いずれかに記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
中心導体、その中心導体の外周に形成されたフッ素樹脂からなる内部絶縁体、その内部絶縁体の周囲に形成された外部導体、および外部導体の周囲に形成された外部絶縁体を有する同軸ケーブルにおいて、
前記外部導体が、平均粒径100nm以下の金属ナノ粒子が互いに融着して形成された金属ナノ粒子層と、その周囲に無電解めっき法により形成された無電解めっきCu層と、その周囲に電気めっき法により形成された電気めっきCu層とを備え、前記金属ナノ粒子は、Agナノ粒子とPdナノ粒子からなり、前記金属ナノ粒子層におけるPdの重量比が0.01〜2wt%の範囲であることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子層は、厚さが0.01〜0.1μmである請求項5記載の同軸ケーブル。
【請求項7】
中心導体、その中心導体の外周に形成されたフッ素樹脂からなる内部絶縁体、その内部絶縁体の周囲に形成された外部導体、および外部導体の周囲に形成された外部絶縁体を有する同軸ケーブルの製造方法において、
外部導体を形成するための工程が、平均粒径100nm以下の金属ナノ粒子を有機溶媒などの分散液中に分散させた液状物質を内部絶縁体に被着させる工程と、その後に行う加熱工程とを含むことを特徴とする同軸ケーブルの製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程は、被着した液状物質を加熱して金属ナノ粒子層を形成する第1加熱工程と、高周波電力を利用した誘導加熱で前記外部導体を加熱する第2加熱工程とを含む請求項7記載の同軸ケーブルの製造方法。
【請求項9】
内部絶縁体の材質がPFAであり、前記第2加熱工程における加熱温度が295℃以上である請求項8記載の同軸ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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