説明

同軸ケーブル接続構造

【課題】屈曲性に関わる機械的信頼性と、インピーダンスマッチング及びEMI特性の電気的特性との両方を両立する。
【解決手段】2枚の基板21,22は矢印M方向にスライドする。そして基板間配線23は、これらの基板21,22を相互に電気的に接続し、基板21,22のスライド動作に追従してその信頼性を確保する。この基板間配線23は、複数本の同軸ケーブルで構成され、これらの同軸ケーブルは、その両端部で束ねられ、中間部の束ねられていない領域が余長として基板21,22間に収納されている。この場合、中間部の同軸ケーブルは束ねられていないので、個々の同軸ケーブルが自由に屈曲することができ、基板間配線23の機械的信頼性を確保できる。また同軸ケーブルを使用することにより、インピーダンスマッチングやEMI特性の電気的特性を満足させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに相対移動できるように連結された二つの基板を有し、同軸ケーブルを用いてこれら基板を電気的に接続するようにした同軸ケーブル接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば携帯電話において、装置の小型化・軽量化に加えて、データの高速伝送、高密度化が求められている。そしてこのような要求に応えるために、携帯電話を互いにスライド可能に連結された二つの筐体で構成し、携帯電話の使用状況に応じてこれら二つの筐体をスライドさせて伸張させたり、二つに筐体をコンパクトに重ねた形態とすることを可能としている。
【0003】
上記の二つの筐体には、それぞれの機能を実現するための各種回路や素子を配設する基板が設けられ、さらにこれら基板間を電気的に接続するための配線構造が設けられる。二つの筐体に配設された各基板は、各筐体の動作に従って互いにスライドして変位するため、これら基板間を電気接続する配線構造には、屈曲可能なフレキシブル基板(FPC)が一般に用いられている。
【0004】
FPCを用いた配線構造において、低抵抗のグランド導体の確保とEMI対策を考慮して、FPCの一方の面側のほぼ全面をグランド導体層とするベタグランド構造のものが知られている。しかしながら、このようなベタグランドの配線構造は、基板の相対変位に応じた屈曲性を確保することができず、屈曲部分で割れが生じて断線するおそれがある。
【0005】
上記のようなベタグランドのFPCの屈曲性に関する問題を解決するために、例えば特許文献1では、屈曲部のグランド導体部分にスリットを入れて、グランド部を部分的に削除したり、あるいは信号導体とグランド導体とを千鳥状に交互に配列し、グランド導体面積を削減して屈曲性を改善するようにした構成が開示されている。
【0006】
しかしながら、屈曲性を改善するためにベタグランド導体を削減すると、グランド導体の抵抗値が増加してグランド電位が上がり、また、信号のインピーダンス不整合やEMI特性等の電気的特性が悪化する等の問題が生じる。
すなわち上記のように、FPCを用いた配線方式では、屈曲性に関わる機械的信頼性と、インピーダンスマッチング及びEMI特性に関わる電気的特性との両立を可能とする有効な解決手段が得られていないのが実情である。
【0007】
一方特許文献2には、極細同軸ケーブルを用いた多心ケーブルが開示されている。この多心ケーブルは、複数の同軸ケーブルユニットを撚って構成したもので、各同軸ケーブルユニットは、複数本の極細同軸ケーブルを束ねて構成されている。そして各同軸ケーブルにおいて複数本の極細同軸ケーブルを束ねて、その長手方向に平行固着部と非固着部とを所定ピッチで交互に形成することで、多心ケーブルを構成する各極細同軸ケーブルの識別が容易となっている。
【特許文献1】特開2004―88020号公報
【特許文献2】特開2003−229030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、FPCを用いた配線構造においては、ベタグランドによる機械的信頼性の問題があり、またベタグランドを排除した場合には、インピーダンスマッチングやEMI特性が悪化するという問題があった。
また上記特許文献2のような多心ケーブルは、複数本の極細同軸ケーブルを束ねた同軸ケーブルユニットを複数用い、これら複数の同軸ケーブルを撚って、その周囲にシールド及びシースを被覆したものである。従ってこの多心ケーブルでは、インピーダンスマッチングやEMI特性に関わる電気的特性については十分な性能が得られるが、上記の屈曲性に関しては、満足できる性能が得られない。
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、互いに相対移動できるように連結された二つの基板間を電気的に接続する接続構造において、フレキシブルプリント基板を用いることなく極細同軸ケーブルを使用することで、屈曲性に関わる機械的信頼性と、インピーダンスマッチング及びEMI特性に関わる電気的特性との両方を両立できるようにした同軸ケーブルの接続構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による同軸ケーブル接続構造は、互いにスライドする2枚の基板間を、信号伝送用に各心がシールドされた同軸ケーブルを複数本使用して接続してなる同軸ケーブル接続構造であって、複数本の同軸ケーブルを両端部で各ケーブルが平面上に配置されるように束ね、同軸ケーブルの中間部の束ねられていない領域を余長として保持させる。
【0011】
また本発明よる同軸ケーブル接続構造は、上記の同軸ケーブルの全長が、2枚の基板が対向する対向面の間で収納される。さらに余長として保持された同軸ケーブルは、円状に保持される。円状の形状は、例えば、α形状、もしくはΩ形状により実現される。
【0012】
また本発明による同軸ケーブル接続構造は、同軸ケーブルの終端が、コネクタまたはFPCを介して基板に接続され、または基板に対して直付けで接続されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、互いに相対移動できるように連結された二つの基板間を電気的に接続する接続構造において、複数本の同軸ケーブルを両端部で束ね、同軸ケーブルの中間部の束ねられていない領域を余長として保持させることにより、屈曲性に関わる機械的信頼性と、インピーダンスマッチング及びEMI特性に関わる電気的特性との両方を両立できるようにした同軸ケーブルの接続構造が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明を適用可能なスライド式携帯電話の外観を示す斜視概略図で、図1(A)はスライド式携帯電話機の各筐体を伸張した状態を示す図で、図1(B)はスライド式携帯電話機の各筐体を重ね合わせた状態を示す図である。図中、10は携帯電話、11は第1の筐体、12は第2の筐体である。
【0015】
スライド式の携帯電話10は、第1の筐体11と第2の筐体12とが互いにスライド可能に連結されている。第1の筐体11には、各種情報を表示する液晶表示部やファンクションキー、通信相手からの送話を出力するスピーカなどが配置され、第2の筐体12にはテンキーなどの操作部や、話者の送話を入力するマイクなどが配置されている。これら第1の筐体11と第2の筐体12には、それぞれの機能を実現するための各種回路や素子を配設する基板が設けられる。そしてこれらの基板間には、基板同士を電気的に接続するための配線構造が設けられる。
【0016】
図2は、二つの基板とその基板間の配線構造とを模式的に示す図で、図2(A)は基板同士が重ね合わされたときの基板間配線の状態を説明する図、図2(B)は基板がスライドして伸張したときの基板間配線の状態を説明する図である。図2において、21,22は基板、23は基板間配線である。
【0017】
上記互いにスライドする二つの筐体にそれぞれ備えられた基板21,22は、筐体の動きに伴って矢印Mの方向にスライドする動作が行われる。そして基板間配線23は、これらの基板21,22を相互に電気的に接続し、基板21,22のスライド動作に屈曲しながら追従してその信頼性を確保する。ここでは、基板間配線23は、二つの基板21,22が対向する対向面の間で収納されている。
【0018】
図2の例では、基板間配線23がα型に配設される。この場合、基板21,22間で同軸ケーブルが1回または2回以上巻かれてループが形成されその部分が同軸ケーブルの余長部分となり、基板間のスライド動作に応じてその余長部分が伸張することにより、上記スライド動作に基板間配線23を追従させることができる。この構造であれば同軸ケーブルの余長部分が2−3mmという極狭い空間にも収容可能であり、かつその空間に収容された基板間配線が前記スライド動作に追従可能である。
【0019】
図3は、二つの基板とその基板間の配線構造の他の例を模式的に示す図で、図3(A)は基板同士が重ね合わされたときの基板間配線の状態を説明する図、図3(B)は基板がスライドして伸張したときの基板間配線の状態を説明する図である。
図3の例では、基板間配線23がΩ型に配設される。この場合、基板21,22間で同軸ケーブルがΩ字形状となり、その部分が余長部分となり、基板間のスライド動作に応じてその余長部分が伸張することにより、上記スライド動作に基板間配線23を追従させることができる。Ω字形状の余長部分を薄いフィルムで挟んで、各同軸ケーブルの配列の乱れを防止することができる。
【0020】
図4は、本発明に適用可能な極細同軸ケーブルの構成例を説明する図で、図4(A)は中心導体に単心線を用いる例を示し、図4(B)は中心導体に撚り線を用いる例を示してある。図中、30a,30bは同軸ケーブル、31a,31bは同軸ケーブル素線、32aは中心導体(単心線)、32bは中心導体(撚り線)、33は絶縁体、34aは外部導体(リボン導体)、34bは外部導体(丸線)、35は外被、である。
【0021】
図4(A)に示す同軸ケーブル30aは、単心線からなる中心導体32a、絶縁体33、外部導体34a、及び外皮35によって構成されている。この同軸ケーブル30aは、まず単心線からなる中心導体32aの外周を絶縁体33で覆い、その外側に外部導体34aを同軸状に配して同軸ケーブル素線31aを形成し、その同軸ケーブル素線31aの外部導体34aの外側を外被35で覆うことにより形成されたものである。この場合、外部導体34aとして偏平なリボン導体を用い、そのリボン導体を絶縁体33の外周に所定の螺旋ピッチで均一に巻きつけて構成している。
【0022】
また図4(B)に示す同軸ケーブル30bは、撚り線からなる中心導体32b,絶縁体33,外部導体34b,及び外皮35によって構成されている。この同軸ケーブル30bは、まず撚り線からなる中心導体32bの外周を絶縁体33で覆い、その外側に外部導体34bを同軸状に配して同軸ケーブル素線31bを形成し、その同軸ケーブル素線31bの外側を外被35で覆うことにより形成されたものである。この場合、外部導体34bとして丸線状の金属線を用い、その金属線を絶縁体33の外周に横巻または網組構造で配している。
【0023】
上記のような同軸ケーブルを用いて、上記図2ないし図3に示すようなスライド動作を行う二つの基板21,22間を電気的に接続する基板間配線23を構成する。なお本発明に用いる同軸ケーブルは上記構成に限定されるものではなく、各心がシールドされた構成であれば適宜最適な形態の同軸ケーブルを適用することができる。
【0024】
本発明に使用する基板間配線は、複数の同軸ケーブルが両端で各ケーブルが平面上に配置されるように束ねられ、同軸ケーブルの中間部には束ねられていない領域があり、その束ねられていない領域が基板間に余長として収納されるようになっている。また余長として保持された同軸ケーブルは基板間で円状に収納されている。
以下に同軸ケーブルを用いた基板間配線の構成例を説明する。
【0025】
図5は、同軸ケーブルを複数本用いて構成した基板間配線を説明するための要部概略図である。図中、30は同軸ケーブル、41は接続端末である。
図5に示す基板間配線23は、基板のコンタクトに対して電気接続しやすい形態となるように、接続端末41を用いて複数の同軸ケーブル30を所定ピッチで配列して固定してある。各同軸ケーブルは接続端末により平面上に配置されるように束ねられている。この接続端末41は同軸ケーブル30の両端に形成される。この場合、接続端末41間の同軸ケーブル30は束ねられていないので、個々の同軸ケーブル30が自由に屈曲することができ、基板間配線23の屈曲性を阻害することがない。
【0026】
図6は、同軸ケーブルを複数本用いて構成した基板間配線の他の例を説明するための要部概略図で、図中、42は電気コネクタである。図6に示す基板間配線23は、上記の接続端末41に代えて、同軸ケーブル30の先端に電気コネクタ42を接続して、電気コネクタ付きの多心同軸ケーブルとして構成されたものである。各同軸ケーブルは電気コネクタにより平面上に配置されるように束ねられている。この場合にも、電気コネクタ42間の同軸ケーブル30は束ねられていないので、個々の同軸ケーブル30が自由に屈曲することができ、基板間配線23の屈曲性を阻害することがない。
【0027】
また上記図5及び図6に示すような構成の他、同軸ケーブル30の終端にFPCを配置して、FPCと基板コンタクトとを接続する構成としてもよく、また複数の同軸ケーブルを固定する他の部材を用いてもよい。
【0028】
図7は、同軸ケーブルを複数本用いて構成した基板間配線の更に他の例を説明するための要部概略図で、図中、43は結束部材である。図7の例では上記接続端末41のさらに内側で、結束部材43を用いて複数の同軸ケーブル30を束ねるようにしている。この場合にも、結束部材43間の同軸ケーブルは自由に屈曲することができ、基板間配線23の屈曲性を阻害することがない。またこの場合、上記図6に示したような電気コネクタ42を配設した同軸ケーブルを結束して束ねるようにしてもよい。
【0029】
(実施例)
図4(B)に示すような同軸ケーブル30bの構成で、0.0025mmφの撚り線を7本用いて外形0.075mmφの中心導体32bを作成した。そしてこの中心導体32bの周囲に絶縁体33を被覆して、このときの外形を0.18mmφとした。そしてさらに絶縁体33の周囲に外部導体を横巻きしてその外径を0.24mmとした。さらにその外周に外被35を被覆して、外形を0.30mmφとした。
上記の同軸ケーブルを用いて、基板との接続部における同軸ケーブルの配線ピッチを0.3〜0.4mmとして基板間配線23を作成した。この基板間配線23を基板21,22間に配置し、図2のようにα状に1回ターンさせ、ターン(屈曲)部分の半径を1〜4mmとした。
上記の構成でスライド動作時の機械的信頼性を確認したところ、従来のFPCの数倍にあたる十数万回のスライド動作を行っても損傷がなく、高い信頼性が確保できた。また、インピーダンスマッチング及びEMI特性は同軸ケーブルならではの高い性能であり、高い屈曲性と高い電気特性を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用可能なスライド式携帯電話の外観を示す斜視概略図である。
【図2】二つの基板とその基板間の配線構造とを模式的に示す図である。
【図3】二つの基板とその基板間の配線構造の他の例を模式的に示す図である。
【図4】本発明に適用可能な極細同軸ケーブルの構成例を説明する図である。
【図5】同軸ケーブルを複数本用いて構成した基板間配線を説明するための要部概略図である。
【図6】同軸ケーブルを複数本用いて構成した基板間配線の他の例を説明するための要部概略図である。
【図7】同軸ケーブルを複数本用いて構成した基板間配線の更に他の例を説明するための要部概略図である。
【符号の説明】
【0031】
10…携帯電話、11…第1の筐体、12…第2の筐体、21,22…基板、23…基板間配線、30a,30b…同軸ケーブル、31a,31b…同軸ケーブル素線、32a…中心導体(単心線)、32b…中心導体(撚り線)、33…絶縁体、34a…外部導体(リボン導体)、34b…外部導体(丸線)、35…外被、41…接続端末、42…電気コネクタ、43…結束部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにスライドする2枚の基板間を、信号伝送用に各心がシールドされた同軸ケーブルを複数本使用して接続してなる同軸ケーブル接続構造であって、前記複数本の同軸ケーブルは両端部で各ケーブルが平面上に配置されるように束ねられ、前記同軸ケーブルの中間部の束ねられていない領域が余長として保持されていることを特徴とする同軸ケーブル接続構造。
【請求項2】
前記同軸ケーブルの全長が、前記2枚の基板が対向する対向面の間で収納されていることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル接続構造。
【請求項3】
前記余長として保持された同軸ケーブルは、円状に保持されていることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル接続構造。
【請求項4】
前記同軸ケーブルの終端は、コネクタまたはFPCを介して前記基板に接続され、または前記基板に対して直付けで接続されていることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル接続構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−36515(P2007−36515A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215295(P2005−215295)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】