説明

同軸ケーブル

【課題】温度サイクルによる保護被膜層の収縮を低減させることができると共に、可撓性を有し、且つ、更に高いシールド特性を備え、減衰量を低減させると共に、その変動が小さい同軸ケーブルを提供すること。
【解決手段】同軸ケーブル1は、中心導体11と、当該中心導体の外周に設けられた誘電体層12と、当該誘電体層の外周に横巻きして設けられた外部導体層13と、当該外部導体層に長手軸方向に対して所定の角度で巻回する巻回帯14aからなる巻回帯層14と、当該巻回帯層の外周に設けられた保護被膜層15とを備えている。そして、当該保護被膜層が、PFAでなる。これにより、少なくともFEPよりも粘着性の高いPFAを保護被膜層としているので、該保護被膜層が巻回帯層を強固に押え付けることができる。そのため、温度サイクルによる巻回帯の巻付け緩みを抑制することができ、保護被膜層の収縮を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルに関し、特に内部導体の外周に、誘電体層、外部導体層、巻回帯層及び保護被膜層を当該順に備えた横巻きの同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同軸ケーブルの中には、シールド効果を向上させ、減衰量の低減を図ることを目的として、外部導体を同軸ケーブルの長手軸方向に対してある一定の角度で誘電体層に巻回した横巻きの同軸ケーブルがある。そして、本出願人は、外部導体として、絶縁テープにアルミニウム、若しくは銅等の金属を蒸着、またはこれらの箔を張り合わせた金属テープを使用した同軸ケーブル(特許文献1)と、外部導体として、複数本の導電性の素線を使用した同軸ケーブル(特許文献2)とを提案している。
【0003】
特許文献1の同軸ケーブルは、外部導体となる金属テープを誘電体層の上から巻回しており、この金属テープを同軸ケーブルの長手軸方向に対して0度〜25度の角度で巻回している。そして、所定の範囲内の角度で金属テープを巻くことによって、特許文献1の同軸ケーブルでは、充分なシールド効果を得て、更に減衰量の低減を図っている。
特許文献2の同軸ケーブルは、外部導体となる複数本の導電性の素線を誘電体の上から螺旋状に巻回しており、この複数本の導電性の素線を同軸ケーブルの長手軸方向に対して8度〜19度の角度で巻回している。そして、所定の範囲内の角度で複数本の導電性の素線を巻くことによって、特許文献2の同軸ケーブルでは、シールド効果等の電気的特性の向上を図っている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−057863号公報
【特許文献2】特開2003−092031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した同軸ケーブルでは、外部導体となる金属テープ、若しくは複数本の導電性の素線を、所定の角度で誘電体層に巻回することによって充分なシールド特性を得ており、減衰量の低減を図っている。これに対し、機器の高性能化が進む電子機器業界等からは、可撓性を有し、且つ、更に高いシールド特性を備え、減衰量の低減を図ることが可能で、減衰量変動の小さい同軸ケーブルを使用したいとの要望が強くなされている。そこで、本出願人は、外部導体と保護被膜との間に同軸ケーブルの長手軸方向に対して25度〜50度の角度で巻回した巻回帯を更に設けた同軸ケーブルを提案している。
【0006】
この同軸ケーブルによれば、外部導体が巻回帯によって押え付けられることになるので、外部導体が締め付けられることになり、外部導体の密着度が向上してシールド特性が向上する。また、外部導体が締め付けられるので、同軸ケーブルを曲げた際に、外部導体に隙間が出来難くなり、シールド特性が向上した状態を安定的に維持することが可能となる。ところが、この同軸ケーブルの保護被膜としてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、単にFEPとする)を用いた場合、温度サイクルが掛かると保護被膜の収縮が発生するという問題がある。この同軸ケーブルは、例えばノート型パーソナルコンピュータに搭載されるブルートゥースのアンテナのリードに使用されるため、上記保護被膜が収縮して外部導体等が露出すると、例えば周囲の回路配線等と短絡を生ずるおそれもあり、アンテナ特性に悪影響を与えるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、温度サイクルによる保護被膜層の収縮を低減させることができると共に、可撓性を有し、且つ、更に高いシールド特性を備え、減衰量を低減させると共に、その変動が小さい同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的達成のため、本発明の同軸ケーブルでは、内部導体と、当該内部導体の外周に設けられた誘電体層と、当該誘電体層の外周に横巻きして設けられた外部導体層と、当該外部導体層に長手軸方向に対して所定の角度で巻回する巻回帯からなる巻回帯層と、当該巻回帯層の外周に設けられた保護被膜層とを備えた同軸ケーブルであって、当該保護被膜層が、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、単にPFAとする)でなることを特徴としている。
【0009】
これにより、本発明の同軸ケーブルでは、少なくともFEPよりも粘着性の高いPFAを保護被膜層としているので、該保護被膜層が巻回帯層を強固に押え付けることができる。そのため、温度サイクルによる巻回帯の巻付け緩みを抑制することができ、保護被膜層の収縮を低減させることができる。また、同軸ケーブルの外部導体層の上から、更に巻回帯を巻回することになる。このため、外部導体層が巻回帯によって押え付けられることになるので、外部導体層が締め付けられることになり、外部導体層の密着度が向上してシールド特性が向上する。また、外部導体が締め付けられるので、同軸ケーブルを曲げた際に、外部導体層に隙間が出来難くなり、シールド特性が向上した状態を安定的に維持することが可能となる。
【0010】
また、本発明の同軸ケーブルでは、前記巻回帯は金属化テープであることが好適である。これにより、巻回帯層がシールド層となるので、外部導体層と巻回帯層との2つのシールドを備えることになり、シールド特性を更に向上させることが可能となる。また、この同軸ケーブルでは、巻回帯層と外部導体層とを密着させてシールド特性が向上した状態を安定的に維持することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0012】
図1(a)、(b)は、本発明の同軸ケーブルの実施形態の斜視図及び断面図である。
この同軸ケーブル1は、中心導体11(内部導体)と、誘電体層12と、外部導体層13と、巻回帯層14と、本発明の特徴的な部分であるジャケット15(保護被膜層)とにより略構成されている。そして、この同軸ケーブル1は以下の手順により形成される。
【0013】
先ず、複数本の導体素線11aを撚り合わせて中心導体11を形成し、この中心導体11の外周に押出機(図示せず)を用いて誘電体12aを押出し被覆して誘電体層12を形成する。次に、この誘電体層12の外周に複数本の導体素線13aを長手軸方向に対して8度〜19度の角度で横巻きして外部導体層13を形成する。そして、この外部導体層13の外周に、例えば、導体素線13aの横巻き方向とは反対方向に、金属化テープである例えばポリエステルテープにアルミ箔を積層して形成したALPET14a(巻回帯)を螺旋状、即ち長手軸方向に対して25度〜50度の角度で巻回して巻回帯層14を形成する。最後に、この巻回帯層14の外周にジャケット15を押出し被覆して形成することにより、同軸ケーブル1が完成する。
【0014】
導体素線11aには例えば銀めっき軟銅線、誘電体12aには例えばFEP、PFAもしくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、導体素線13aには例えば錫めっき軟銅線が使用可能である。また、ALPET14aは、アルミ箔とポリエチレンテフタレート(以下、単にPETとする)とを、ポリ塩化ビニル(以下、単にPVCとする)を介して積層してテープ状に形成したものである。そして、このALPET14aは、アルミ箔が外部導体層13と接触する態様で、外部導体層13の上から巻回される。また、ジャケット15にはPFAのみが使用可能となっている。
【0015】
このように、少なくともFEPよりも粘着性の高いPFAをジャケット15とすることにより、該ジャケット15が巻回帯層14として巻回されたALPET14aを強固に押え付けることができる。そのため、温度サイクルによるALPET14aの巻付け緩みを抑制することができ、ジャケット15の収縮を低減させることができる。
【0016】
また、外部導体層13として導体素線13aを横巻きしており、この外部導体層13の上から巻回帯層14を形成するALPET14aを同軸ケーブル1の長手軸方向に対して25度〜50度の角度で螺旋状に巻回している。そのため、外部導体層13は、この巻回帯層14によって望ましい応力が加えられて締め付けられることになり、外部導体層13の導体素線13a同士の密着度が向上する。更に、複数本の導体素線13aが、巻回帯層14によって締め付けられていることから、この巻回帯層14によって、導体素線13aが密着した状態を維持されるようになっており、例え同軸ケーブル1が曲げられたとしても、その屈曲部分で導体素線13a同士が離間することを抑制することも可能となっている。
【0017】
以上のような構成の同軸ケーブル1によれば、温度サイクルによるALPET14aの巻付け緩みを抑制してジャケット15の収縮を低減させることが可能となる。また、ALPET14aもシールド作用を有することから、外部導体層13と巻回帯層14の2つのシールド効果を持つ層を備えることになり、更に、外部導体層13の導体素線13aが巻回帯層14によって締め付けられるので、導体素線13a同士の密着度を向上させ、更にその密着状態が維持されることになり、外部導体層13のシールド効果をより高めることが可能となる。尚、ALPET14aを巻回する方向は、外部導体層13として横巻きされた導体素線13aが締め付けられるならば、導体素線13aの横巻き方向と同方向であっても良い。
【0018】
次に、本実施形態のジャケット15がPFAの同軸ケーブル及び比較のためにジャケット15がFEPの同軸ケーブルを用いて温度サイクル試験を行ったので、この試験結果について図2を参照して説明する。
図2は、温度サイクル試験後の同軸ケーブルの両端のジャケットの収縮量を示す図である。温度サイクル試験の条件は、恒温恒湿槽内に同軸ケーブルを浸漬し、温度範囲−20°C〜+85°C、保持時間30分を1サイクルとして43サイクル行う。そして、この温度サイクル試験では、それぞれ5本のジャケット15がPFAの同軸ケーブルPFA1〜5及びジャケット15がFEPの同軸ケーブルFEP1〜5を用いた。
【0019】
同軸ケーブルPFA1〜5は、以下の構成となっている。外径0.079mmの銀めっき軟銅線を7本撚り合わせて中心導体11を形成し、この中心導体11の外周にFEPを被覆して外径0.69mmとなるように誘電体層12を形成する。そして、この誘電体層12の外周に導体素線13aにあたる外径0.102mmの錫めっき軟銅線を23本、長手軸方向に対して9.6度の角度を与えて横巻きして外部導体層13を形成する。そして、この外部導体層13の外周に、厚さ10μmのアルミ箔と厚さ12μmのPETとを厚さ2〜3μmのPVCを介して積層してなるALPET14aを長手軸方向に対して25度の角度を与えて螺旋状に巻回して巻回帯層14を形成する。そして、この巻回帯層14の外周に厚さ0.105mmのPFAからなるジャケット15を押出し被覆して形成し、最終的にケーブル外径を1.13mmとする。一方、同軸ケーブルFEP1〜5は、上記PFAの代わりにFEPからなるジャケット15を押出し被覆して形成する。
【0020】
図2から明らかなように、ジャケット15がPFAの同軸ケーブルPFA1〜5は、ジャケット15がFEPの同軸ケーブルFEP1〜5と比べて全体的に収縮量が低減されていることが判る。具体的には、同軸ケーブルPFA1は、一端が2mm、他端が2.5mmの収縮量、同軸ケーブルPFA2は、一端が1.5mm、他端が3mmの収縮量、同軸ケーブルPFA3は、一端が2.5mm、他端が4mmの収縮量、同軸ケーブルPFA4、5は、一端が2mm、他端が3mmの収縮量であった。一方、同軸ケーブルFEP1は、一端が7mm、他端が5.5mmの収縮量、同軸ケーブルFEP2〜5は、両端が7mmの収縮量であった。
【0021】
このように、ジャケット15がPFAの同軸ケーブルPFA1〜5は、最大収縮量が4mm、最小収縮量が1.5mmであったのに対し、ジャケット15がFEPの同軸ケーブルFEP1〜5は、最大収縮量が7mm、最小収縮量が5.5mmと大きく収縮しており、ジャケット15にPFAを使用することにより温度サイクルによるジャケット15の収縮を低減させることができる。
【0022】
以上のように、本実施形態の同軸ケーブル1によれば、少なくともFEPよりも粘着性の高いPFAをジャケット15としているので、ジャケット15が巻回帯層14を構成するALPET14aを強固に押え付けることができ、温度サイクルによるALPET14aの巻付け緩みを抑制して、ジャケット15の収縮を低減させることができる。また、外部導体層13が、導体素線13aにより横巻き形成されているので、可撓性に富むと共に、従来の同軸ケーブルと比べて高いシールド効果を備えており、また減衰量も低減する。
【0023】
尚、ALPET14aを巻回する角度を大きくすることにより、シールド効果をより向上させ、減衰量をより低減させることができる。これは、ALPET14aを巻回する角度を大きくするとその分ALPET14aによる外部導体層13を締め付ける力が強くなるため、外部導体層13の導体素線13a同士の密着度がその分向上するためである。そして、導体素線13a同士の密着度が向上すると、導体素線13a同士の間に隙間が出来難くなるため、導体素線13a同士の間に隙間が出来ることによるシールド効果の低減を防止することが可能となり、シールド効果が向上する。また、本実施形態の巻回帯層14は、金属化テープであるALPET14aによって形成されていたが、これに限定されるものではなく、外部導体層を締め付けることが可能であれば、どのようなものでも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の同軸ケーブルは、どのような機器でも適用可能である。例えば、コンピュータ、計算機、携帯電話等の電子機器でも適用可能であり、更に、自動車、飛行機等の制御機器を狭小部に搭載する必要のある機械の制御回路にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)、(b)は、本発明の同軸ケーブルの実施形態の斜視図及び断面図である。
【図2】温度サイクル試験後の同軸ケーブルの両端の保護被膜層の収縮量を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 同軸ケーブル、11 中心導体(内部導体)、11a 導体素線、12 誘電体層、
12a 誘電体、13 外部導体層、13a 導体素線、14 巻回帯層、
14a ALPET(巻回帯)、15 ジャケット(保護被膜層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体と、
当該内部導体の外周に設けられた誘電体層と、
当該誘電体層の外周に横巻きして設けられた外部導体層と、
当該外部導体層に長手軸方向に対して所定の角度で巻回する巻回帯からなる巻回帯層と、
当該巻回帯層の外周に設けられた保護被膜層とを備えた同軸ケーブルであって、
当該保護被膜層が、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体でなることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記巻回帯は金属化テープであることを特徴とする請求項1に記載の同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−110774(P2009−110774A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280881(P2007−280881)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】