説明

同軸ワイヤを用いた配線板の製造方法

【目的】ふっ素樹脂を絶縁層に用いた同軸ワイヤを使用する配線板において、ふっ素樹脂の界面密着性を向上させた同軸マルチワイヤ配線板の製造方法を提供する。
【構成】金属芯線5をふっ素樹脂6で被覆し、ふっ素樹脂6の表面を金属ナトリウム処理した後、シールド層7を形成した同軸ワイヤ4を感光性樹脂層3に固定し、導通孔8、9となる部分の感光性樹脂層3を露光・現像により除去する。その後、金属めっき層10を形成して同軸ワイヤのシールド層7とグランド層2とを接続した後、導通孔9となる部分の同軸ワイヤのシールド層7を除去し、露出したふっ素樹脂6の表面を再度、金属ナトリウム処理する。このようにして得られた基板と内層板12と銅箔を絶縁樹脂層11を介して積層し、導通孔9を設けて金属めっきを行い、表面の金属層をパターニングして配線板(d)を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、同軸ワイヤを用いた配線板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、電子機器の高機能化に伴い、プリント配線板にも配線密度の向上が強く要求されてきている。この要求を満足する配線板の一つに、必要な配線パターンを絶縁された銅ワイヤで形成するマルチワイヤ配線板がある。これは銅ワイヤが絶縁されているため、同一平面内での交差配線が可能となり配線密度の向上が容易となっている。
【0003】しかしながら、このようなマルチワイヤ配線板においても、電子機器の高速化に伴い、隣接するワイヤ間で発生するクロストークノイズの低減や信号伝搬速度の向上が強く求められている。これらの要求を満足するマルチワイヤ配線板として、信号伝送用の金属芯線をふっ素樹脂で被覆し、さらにふっ素樹脂の周囲に金属からなるシールド層を形成して得られた同軸ワイヤをグランド層を有する絶縁基板上に固定し、同軸ワイヤのシールド層とグランド層を接続して得られる配線板(以下、同軸マルチワイヤ配線板という)がある。
【0004】この同軸マルチワイヤ配線板においては、金属芯線がシールド層で覆われているため、隣接する金属芯線間で生じるクロストークノイズを低減でき、また金属芯線が低誘電率材料であるふっ素樹脂で被覆されているため、信号伝搬速度を向上させることが可能である。
【0005】以下、同軸マルチワイヤ配線板の従来の製造方法の一例を示す。まず、グランド層を有する絶縁基板上に感光性樹脂層を形成する。一方、金属芯線をふっ素樹脂で被覆し、そのふっ素樹脂の表面を金属ナトリウム処理した後、金属よりなるシールド層が形成された同軸ワイヤを上記感光性樹脂層上に固定する。そして同軸ワイヤのシールド層と絶縁基板上のグランド層とが同一場所で露出するように該感光性樹脂層を露光・現像することによって、導通孔が形成されるとともに、最終的に同軸ワイヤの金属芯線との接続を行うための導通孔が形成される場所に位置している同軸ワイヤのシールド層を露出させる。
【0006】その後、金属めっきを施して同軸ワイヤのシールド層と絶縁基板のグランド層とを接続する。そして、最終的に同軸ワイヤの金属芯線との接続を行うための導通孔が形成される場所に位置している同軸ワイヤのシールド層をエッチングにより除去し、該同軸ワイヤのふっ素樹脂を露出させる。その後、絶縁樹脂を介して最外層に銅箔を配置して積層接着し、導通孔を設けて同軸ワイヤの金属芯線を導通孔内に露出させ、金属めっきを施し同軸ワイヤの金属芯線と導通孔との接続を行なう。そして最後に最外層の銅箔をパターニングして、同軸マルチワイヤ配線板を得る。
【0007】上述したように同軸ワイヤにはふっ素樹脂が用いられており、このふっ素樹脂は化学的に非常に安定であるために他の材料との密着力が低く、これを改良するため、金属ナトリウム処理が開発された。この処理を施すことによりふっ素樹脂表面に水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等の極性基が形成され、他材料との接着が可能となり、ふっ素樹脂とその外周に形成されたシールド層との密着力は強固なものとなった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の如き従来の方法によると、同軸マルチワイヤ配線板の金属芯線と接続を行なうための導通孔が形成される場所においては、ふっ素樹脂の外周部に形成されていたシールド層を除去する際、ふっ素樹脂の表面に形成されていた極性基もシールド層とともに除去されていた。
【0009】このため、その後にふっ素樹脂表面に接着される絶縁樹脂層との密着力が極端に低下し、例えば、メカニカルドリルによる導通孔形成時の機械的外力によってふっ素樹脂と絶縁樹脂とが剥離するという課題が発生していた。
【0010】本発明は、界面密着性に優れた同軸マルチワイヤ配線板の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の同軸ワイヤを用いた配線板の製造方法は、グランド層を有する絶縁基板上に接着性絶縁層を形成する工程と、金属芯線をふっ素樹脂で被覆し、該ふっ素樹脂の表面を金属ナトリウム処理し、その後、さらにめっきを施し金属よりなる同軸ワイヤのシールド層を形成する工程と、上記工程で形成された同軸ワイヤを上記接着性絶縁層に固定し、該同軸ワイヤのシールド層と絶縁基板上のグランド層との接続及び同軸ワイヤのシールド層を除去する工程と、上記同軸ワイヤの金属芯線と絶縁基板に形成された導通孔との接続を行なう工程と、からなる同軸ワイヤ用いた配線板の製造方法において、上記同軸ワイヤのシールド層を除去した後に、露出した同軸ワイヤのふっ素樹脂表面を金属ナトリウム処理し、かつ、金属ナトリウム処理されたふっ素樹脂表面を絶縁樹脂で被覆することを特徴とする。
【0012】
【作用】この発明では、金属芯線をふっ素樹脂で被覆し、そのふっ素樹脂表面に金属ナトリウム処理を施し、さらにめっきして金属のシールド層を形成して得られた同軸ワイヤのシールド層を除去する。その後、再度そのシールド層が除去され露出されたふっ素樹脂表面に金属ナトリウム処理を施し極性基を形成させることにより、同軸ワイヤを絶縁樹脂で被覆する際に同軸ワイヤのふっ素樹脂と絶縁樹脂との密着力を高めることができる。
【0013】
【実施例】以下、この発明に係る実施例の製造工程を図1に基づき詳細に説明する。
【0014】図1はこの発明に係る同軸ワイヤを用いた配線板の製造工程断面図である。同図に示すように、まず、両面粗化銅箔張りガラス布/エポキシ樹脂積層板MCL-E-67(日立化成工業株式会社製、商品名)1の表面にエッチングレジスト層を形成し、不要部分の銅箔をエッチングした後、レジスト像を剥離してグランド層2を形成する。
【0015】その後、上記のようにして得られた基板表面に感光性樹脂層3として、厚さ90μmのフォテックSR-3000(日立化成工業株式会社製、商品名)を110℃、2.5kgf/cm2、送り速度0.5m/分の条件でロールラミネートとして形成する。
【0016】次に、直径50μmの銅線を金属芯線5とし、その表面をテトラフルオロエチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体からなるふっ素樹脂で被覆したものを金属ナトリウム処理する。この処理は金属ナトリウムをナフタリンのテトラヒドロフラン溶液に加えてできる錯化合物溶液であるテトラエッチ液(潤工社製、商品名)に室温で15秒間浸漬して行われる。その後、さらに、無電解銅めっきあるいは無電解銅めっきと電気めっきとの併用で周囲に厚さ25μmの銅によるシールド層7を形成して得られた同軸ワイヤ4を数値制御布線機によって、上記感光性樹脂層3の上に布線し固定して図1の基板(a)を得る。
【0017】そして、上記の如く得られた基板(a)の上面にフォトマスクを重ね合わせ、紫外線を300mJ/cm2照射した後、18℃のトリクロルエタンに浸漬して同軸ワイヤのシールド層7とグランド層2との接続を行うための導通孔8となる部分、および導通孔9となる部分の感光性樹脂層3を除去し、シールド層7を露出させその後、再び1.5J/cm2の条件で紫外線を照射する。さらに感光性樹脂層3の表面をO2ガス流量150ml/分、圧力0.8Torr、出力100Wの条件で25分間プラズマ照射し、粗面化させて基板(b)を得る。
【0018】次に塩化パラジウムを含む無電解めっき用触媒であるHS-202B(日立化成工業株式会社製、商品名)に常温で10分間浸漬し、水洗した後、無電解銅めっき液であるCUST-201(日立化成工業株式会社製、商品名)に常温で25分間浸漬し、水洗後、硫酸銅の電気めっきを行って基板(b)に布線されている同軸ワイヤのシールド層7の表面に厚さ20μmの銅めっき層10を形成するとともに、上記で得られた導通孔8にもめっきが施されシールド層8とグランド層2との接続が行われる。
【0019】そして、同軸ワイヤの金属芯線5と最終的に導通孔9との接続を行うため、上記で得られた銅めっき層10の表面にエッチングレジスト像を形成した後、塩化第二銅を含むエッチング液に浸漬して導通孔9となる部分の同軸ワイヤ4のシールド層7を除去し、ふっ素樹脂層6を露出させる。その後、エッチングレジスト像を剥離して基板(c)を得る。
【0020】次に、亜塩素酸ナトリウム;50g/l、NaOH;20g/l、リン酸3ナトリウム;10g/lの水溶液に上記で得られた基板(C)を浸漬し、水洗した後、80℃で20分間乾燥させ露出している銅表面に微細凹凸を形成する。その後、再度、金属処理を行うため、テトラエッチ液に室温で15秒間、浸漬し露出しているふっ素樹脂層6の表面に極性基を形成した後、80℃で20分間乾燥させる。
【0021】このようにして得られた基板とエッチドフォイル法で電源層13と信号層14を形成した内層板12と銅箔とをガラス布/エポキシ樹脂プリプレグGEA-163N(M) (日立化成工業株式会社製、商品名)からなる絶縁樹脂11を介して重ね合わせ、175℃、30kgf/cm2の条件下で90分間加熱加圧して積層一体化する。この時、同軸ワイヤ4のふっ素樹脂表面はエポキシ樹脂で被覆されることになる。そしてドリルで導通孔9を形成するとともに、同軸ワイヤ4の金属芯線5を導通孔9内に露出させる。さらに基板(c)を得る際に銅めっきを施したと同様にして導通孔9の内壁と基板表面に厚さ40μmの銅めっきを施すとともに、同軸ワイヤ4の金属芯線5と導通孔9との接続をする。
【0022】その後、基板表面の最終的に必要となる部分にエッチングレジスト像を形成し、塩化第二銅を含むエッチング液に浸漬して不要な部分の銅箔を除去した後、エッチングレジスト像を剥離して基板(d)を得る。
【0023】なお、この実施例では、グランド層2を有する絶縁基板に両面粗化銅箔張りガラス布/エポキシ樹脂積層板MCL-E-67(日立化成工業株式会社製、商品名)を用いたが、紙/フェノール樹脂銅張積層板、紙/エポキシ樹脂銅張積層板、ガラス布/ポリイミド樹脂銅張積層板、ガラス布/ビスマレイミドトリアジン樹脂銅張積層板、フレキシブル銅張積層板等を部分的にエッチングしたものを用いてもよく、また、これら材料よりなる積層板に導電ペーストでグランド層2を形成したものを用いたものでもよい。
【0024】上記グランド層2を有する絶縁基板の表面に形成される樹脂層としては、同軸ワイヤ4が接着可能であればこの実施例で用いたフォテックSR-3000(日立化成工業株式会社製、商品名)に限定することはなく同様に感光性樹脂3であるフォテックSR-2300、CONFORMASK200(ダイナケム社製、商品名)などや天然ゴム・合成ゴムとエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物や感光性ソルダーレジストインクのHR-6060(日立化成工業株式会社製、商品名)、PSR-5000(太陽インキ製造製、商品名)などを用いてもよい。
【0025】また、この実施例では同軸ワイヤ4の金属芯線5として直径50μmの銅の単線を用いたが、撚線でも良い。そして金属芯線5の材質としては直径が30〜80μm程度の銅、銅合金、アルミニウム合金やピアノ線に銅をクラッドしたものや、これらの線材表面に金めっきを施したものを用いることができる。
【0026】金属芯線5の被覆に適用できるふっ素樹脂としては、この実施例に用いたテトラフルオロエチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体のほかに、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド、クロロトリフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体などがある。
【0027】同軸ワイヤ4の製造時のふっ素樹脂の金属ナトリウム処理としては金属ナトリウムの液体アンモニア溶液を使用する方法もあるが、この実施例のようにテトラエッチを用いるのが望ましく、テトラエッチの処理条件としては、室温で浸漬時間が5〜120秒程度であれば良い。
【0028】同軸ワイヤ4のシールド層7はこの実施例では、メッキにより形成したが、ふっ素樹脂の上から直径10〜30μm程度の銅細線を網状や横巻状に被覆する方法、さらにこれらの方法により形成された銅表面上に硫酸銅めっきを施して1〜10μm程度の表面凹凸を形成しても良い。
【0029】また、接着性絶縁層に天然ゴム・合成ゴムとエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物が用いられた場合、同軸ワイヤ4のシールド層7と絶縁基板上のグランド層2を接続する方法には、同軸ワイヤ4を接着性絶縁樹脂層上に固定し、同軸ワイヤ4の配設面に絶縁層を設けた後、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、エキシマレーザあるいはCF4ガスによるプラズマを使用して同軸ワイヤ4のシールド層7と絶縁基板上のグランド層2が同一場所で露出するように導通孔8を形成するとともに、最終的に同軸ワイヤの金属芯線5と接続を行うための導通孔9が形成される場所に位置している同軸ワイヤ4のシールド層7を露出させた後、金属めっき、あるいは導電性ペーストで同軸ワイヤ4のシールド層7と絶縁基板上のグランド層2との接続を行う方法がある。
【0030】同軸ワイヤ4の金属芯線5と最終的に導通孔9との接続を行うためのエッチングには、接着性絶縁樹脂が感光性樹脂3である場合は、この実施例では塩化第二銅を含むものを用いたが塩化第二鉄、過硫酸アンンモニウムを含むエッチング液あるいはアンモニアアルカリエッチング液を用いることもできる。
【0031】また、グランド層2を有し、同軸ワイヤ4が固定された絶縁基板とプリプレグや銅箔とを積層一体化する場合、この実施例ではプリプレグにガラス布/エポキシ樹脂プリプレグを使用したが、ガラス布/ポリイミド樹脂プリプレグ、ガラス布/ビスマレイミドトリアジン樹脂プリプレグでもよく、このようにして積層一体化される基板にさらに、絶縁された銅ワイヤ等と有する基板、同軸ワイヤのシールド層とグランド層が接続されている基板等を構成材料として追加しても良い。
【0032】従って、この実施例によれば、金属芯線5をふっ素樹脂6で被覆し、そのふっ素樹脂表面に金属ナトリウム処理を施し、さらにめっきして金属のシールド層7を形成して得られた同軸ワイヤ4のシールド層7を除去する。その後、再度そのシールド層7が除去され露出されたふっ素樹脂表面に金属ナトリウム処理を施し極性基を形成させるようにしたので、ふっ素樹脂表面に接着される絶縁樹脂層との密着力が高まり界面密着力の高い配線板ができる。
【0033】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、同軸ワイヤのシールド層を除去した後、露出した同軸ワイヤの弗素樹脂表面に再び金属処理を施すので、同軸ワイヤとそれに接着される絶縁樹脂との界面密着力が高められ、配線板の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の一実施例の製造工程の一部を示す断面図である。
【符号の説明】
1.両面粗化銅箔張りガラス布/エポキシ樹脂積層板MCL-E-67
2.グランド層 3.感光性樹脂層
4.同軸ワイヤ 5.金属芯線
6.ふっ素樹脂 7.シールド層
8、9.導通孔 10.銅メッキ
11.絶縁樹脂 12.内層板
13.電源層 14.信号層

【特許請求の範囲】
【請求項1】グランド層を有する絶縁基板上に接着性絶縁層を形成する工程と、金属芯線をふっ素樹脂で被覆し、該ふっ素樹脂の表面を金属ナトリウム処理し、その後、さらにめっきを施し金属よりなる同軸ワイヤのシールド層を形成する工程と、上記工程で形成された同軸ワイヤを上記接着性絶縁層に固定し、該同軸ワイヤのシールド層と絶縁基板上のグランド層との接続及び同軸ワイヤのシールド層を除去する工程と、上記同軸ワイヤの金属芯線と絶縁基板に形成された導通孔との接続を行なう工程と、からなる同軸ワイヤ用いた配線板の製造方法において、上記同軸ワイヤのシールド層を除去した後に、露出した同軸ワイヤのふっ素樹脂表面を金属ナトリウム処理し、かつ、金属ナトリウム処理されたふっ素樹脂表面を絶縁樹脂で被覆することを特徴とする同軸ワイヤを用いた配線板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開平7−221455
【公開日】平成7年(1995)8月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−10173
【出願日】平成6年(1994)2月1日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)