説明

含フッ素アルカンの製造方法

【課題】塩素含有フルオロアルカン又は含フッ素アルケンを原料として用い、水素ガスと反応させて含フッ素アルカンを製造する方法において、高い生産効率で目的とする含フッ素アルカンを製造できる方法を提供する。
【解決手段】塩素含有フルオロアルカン及び含フッ素アルケンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素化合物を、触媒の存在下に水素ガスと反応させて含フッ素アルカンを製造する方法であって、触媒活性の異なる二種以上の触媒を用い、原料とする含フッ素化合物と水素ガスを、順次、触媒活性の低い触媒から触媒活性の高い触媒に接触させることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素アルカンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素アルカンは、反応中間体、発泡剤、冷却剤などの各種の用途の有用な化合物である。
【0003】
含フッ素アルカンの製造方法としては、パラジウム触媒を用いて、室温で含フッ素オレフィンを還元する方法が知られている(下記非特許文献1参照)。また、BaSO、活性炭等に担持されたパラジウム触媒を用いて、液相反応でCFCF=CFを水素により還元する方法も報告されている(下記特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、目的とする含フッ素アルカンの選択率を高くするためには、反応速度を遅くすることが必要であり、工業的規模で効率良く目的とする含フッ素オレフィンを製造することができない。
【0005】
下記特許文献2には、含フッ素オレフィンを出発原料として、触媒の存在下に、多段階の反応によって、水素等の還元剤と反応させてフッ素化プロパンを製造する方法が開示されている。この方法では、好ましい実施態様として、初期の反応段階では、触媒量を少量として反応を抑制し、触媒の使用量を順次増加させて反応を示しており、比較的高い処理速度で、高い変換率及び選択性が達成されるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されている方法では、反応による発生する発熱量が多く、除熱のために、ジャケット付きの反応器を用いて冷媒により熱を除去する方法や、反応混合物を冷却するためのその他の手段、例えば、内部冷却コイルの使用、反応混合物への追加の冷却用に希釈剤の導入などが必要となり、反応装置の構造が複雑となる。しかも、過度の温度上昇を避けるために、原料化合物の導入速度を制御することが必要となり、目的とする含フッ素アルカンの生産効率が低下するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−165256号公報
【特許文献2】特開2008−162999号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Izvest. Akad. NaukS.S.S.R., Otdel. Khim. Nauk. 19060, 1412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、塩素含有フルオロアルカン又は含フッ素アルケンを原料として用い、水素ガスと反応させて含フッ素アルカンを製造する方法において、高い生産効率で目的とする含フッ素アルカンを製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、塩素含有フルオロアルカン又は含フッ素アルケンと水素ガスとを反応させて、水素付加反応又は水素還元反応を行う際に、触媒活性の異なる複数の触媒を用い、反応の第一段階では最も活性の低い触媒の存在下に反応を行い、順次、触媒活性の高い触媒を用いて多段階の反応を行うことによって、転化率や選択率を低下させることなく、反応時の温度の上昇を抑制することが可能となり、その結果、原料の導入速度を大きくして、生産効率を大きく向上させることができることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の含フッ素アルカンの製造方法を提供するものである。
1. 塩素含有フルオロアルカン及び含フッ素アルケンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素化合物を、触媒の存在下に水素ガスと反応させて含フッ素アルカンを製造する方法であって、
触媒活性の異なる二種以上の触媒を用い、原料とする含フッ素化合物と水素ガスを、触媒活性の低い触媒から触媒活性の高い触媒に順次接触させることを特徴とする方法。
2. 触媒活性の異なる触媒を充填した二個以上の反応管を直列に接続した反応装置を用いる上記項1に記載の方法。
3. 触媒が、担体に貴金属成分が担持されたものである上記項1又は2に記載の方法。
4. 貴金属が、Pd、Pt、Ru及びRhからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、担体が、活性炭、多孔性アルミナシリケート、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化亜鉛、及びフッ化アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種である上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. 触媒活性の異なる触媒が、同一の担体に同一の貴金属成分が異なる担持量で担持されたものであって、原料とする含フッ素化合物と水素ガスを、貴金属成分の担持量が少ない触媒から貴金属成分の担持量が多い触媒に順次接触させる方法である、上記項3又は4に記載の方法。
6. 塩素含有フルオロアルカンが、
一般式(1):R1-CCl2-(n+m)Hn Fm-CCl2-(o+p)Ho Fp -CCl3-(q+r)Hq Fr
(式中、R1は、塩素原子を含むことがある炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子又はフッ素原子であり、n, m, o及びpは、それぞれ0〜2の整数、q 及びrは、それぞれ0〜3の整数であって、n+m≦2、o+p≦2、q+r≦3、及びn+m+o+p+q+r≦6である。但し、R1がフルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、m, p 及びrの合計は1以上である。)で表される化合物、及び
一般式(2):CCl3-(a+b)Ha Fb -CCl3-(c+d) Hc Fd
(式中、 a, b, c及びdは、それぞれ0〜3の整数であって、a+b≦3、c+d≦3、 b+d≧1及びa+b+c+d≦5である。)で表される化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であり、
含フッ素アルケンが、一般式(3):R3Y1C=CY2R4(式中、R3及びR4は、同一又は異なって、塩素原子を含むことのある炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、Y1 及びY2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。但し、R3及びR4が、フルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、Y1 及びY2の少なくとも一個はフッ素原子である。)で示される含フッ素アルケンである、上記項1〜5のいずれかに記載の方法。
7. 塩素含有フルオロアルカンが、一般式(1−1):R2-CCl2-(j+k)Hj Fk -CCl3-(l+t)HlFt (式中、R2は、炭素数1〜3のアルキル基、塩素原子を有することのある炭素数1〜3のフルオロアルキル基、水素原子又はフッ素原子であり、j及びkは、それぞれ0〜2の整数、l及び tはそれぞれ0〜3の整数であって、j+k≦2、l+t≦3、及びj+k+l+t≦4である。但し、R2がフルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、k及びtの合計は1以上である。)で表される化合物であり、含フッ素アルケンが、一般式(3−1):R5CY3=CY4Y5(式中、R5は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のフルオロアルキル基であり、Y3、Y4及びY5は、同一又は異なって、水素原子又はフッ素原子である。但し、R5が、フルオロアルキル基ではない場合には、Y3 及びY4の少なくとも一個はフッ素原子である。)で表される化合物である、上記項1〜6のいずれかに記載の方法。
【0012】
以下、本発明の製造方法について具体的に説明する。
【0013】
原料化合物
本発明では、原料としては、塩素含有フルオロアルカン及び含フッ素アルケンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素化合物を用いる。
【0014】
塩素含有フルオロアルカンとしては、特に限定的ではないが、
一般式(1):R1-CCl2-(n+m)Hn Fm-CCl2-(o+p)Ho Fp -CCl3-(q+r)Hq Fr
(式中、R1は、塩素原子を含むことがある炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子又はフッ素原子であり、n, m, o及びpは0〜2の整数、q 及びrは0〜3の整数であって、n+m≦2、o+p≦2、q+r≦3 及びn+m+o+p+q+r≦6である。但し、R1がフルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、m, p 及びrの合計は1以上である。)で表される化合物、
一般式(2):CCl3-(a+b)Ha Fb -CCl3-(c+d) Hc Fd
(式中、 a, b, c及びdは0〜3の整数であって、a+b≦3、c+d≦3、 b+d≧1及びa+b+c+d≦5である。)で表される化合物等を用いることができる。
【0015】
一般式(1)において、R1で表される基の内で、塩素原子を含むことがあるフルオロアルキル基は、例えば、塩素原子を8個まで含むことがある直鎖状又は分岐鎖状の炭素水1〜4程度のフルオロアルキル基である。該フルオロアルキル基としては、パーフルオロアルキル基、又はフッ素原子を1〜8個含むフルオロアルキル基を例示できる。また、R1で表される基の内で、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜4のアルキル基を例示できる。
【0016】
上記一般式で表される塩素含有フルオロアルカンの内で、好ましい化合物としては、
一般式(1−1):R2-CCl2-(j+k)Hj Fk -CCl3-(l+t)HlFt
(式中、R2は、炭素数1〜3のアルキル基、塩素原子を有することのある炭素数1〜3のフルオロアルキル基、水素原子又はフッ素原子であり、j及びkは、それぞれ0〜2の整数、l及び tはそれぞれ0〜3の整数であって、j+k≦2、l+t≦3 及びj+k+l+t≦4である。但し、R2がフルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、k及びtの合計は1以上である。)で表される化合物を例示することができる。
【0017】
一般式(1−1)において、R2で表される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを例示でき、塩素原子を有することのある炭素数1〜3のフルオロアルキル基としては、上記アルキル基に1〜7個のフッ素原子と0〜2個の塩素原子が置換した基を例示できる。
【0018】
一般式(1−1)で表される塩素含有フルオロアルカンの具体例としては、CH3CF2CH2Cl、 CH3CH2CF2CH2Cl、CF3CH2Cl、CF3CHClCH2F、 CF2ClCH2CFClCF3、CH3CFClCH3 、CF3CH2CHClCCl2F、CH3CHFCFHCl、CF3CHClCHFCF2Cl、CClHFCH2Fなどを例示できる。
【0019】
含フッ素アルケンとしては、例えば、
一般式(3):R3Y1C=CY2R4
(式中、R3及びR4は、同一又は異なって、塩素原子を含むことのある炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子、フッ素原子又は塩素原子でありY1 及びY2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。但し、R3及びR4が、フルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、、Y1 及びY2の少なくとも一個はフッ素原子である。)で示される含フッ素アルケンを用いることができる。
【0020】
上記一般式(3)において、R3及びR4で表されるフルオロアルキル基、及びアルキル基としては、上記したR1で表される基と同様の基を例示できる。一般式(3)で表される化合物の内で、好ましい化合物としては、
一般式(3−1):R5CY3=CY4Y5
(式中、R5は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のフルオロアルキル基であり、Y3、Y4及びY5は、同一又は異なって、水素原子又はフッ素原子である。但し、R5が、フルオロアルキル基ではない場合には、Y3 及びY4の少なくとも一個はフッ素原子である。)で表される化合物を例示できる。一般式(3−1)において、R5で表されるアルキル基、及びフルオロアルキル基としては、上記したR2で表される基と同様の基を例示できる。
【0021】
一般式(3−1)で表される含フッ素アルケンの具体例としては、CF3CF=CF2、CF3CH=CFH、CH3CF2CF=CH2等の化学式で表される化合物を挙げることができる。
【0022】
触媒
本発明では、触媒としては、水素ガスによるアルケン化合物への付加反応、又は水素ガスによる含塩素化合物の水素置換反応に対して活性を有する触媒であれば、特に限定なく使用できる。特に、担体上に貴金属成分が担持された触媒を用いることが好ましい。
【0023】
触媒成分として用いる貴金属としては、例えば、Pd、Pt、Ru、Rh等を例示できる。担体としては、例えば、活性炭、ゼオライトに代表される多孔性アルミナシリケート、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化亜鉛、フッ化アルミニウム、これらの担体成分の一種又は二種以上を混合したもの、これらの担体成分の一種又は二種以上を構造上複合化したもの等を用いることができる。
【0024】
貴金属の担持量については特に限定はないが、例えば、貴金属担持触媒全体を基準として、貴金属担持量が、0.001〜50重量%程度であることが好ましく、0.001〜20重量%程度であることがより好ましく、0.01〜10重量%程度であることが更に好ましい。
【0025】
触媒の調製方法については特に限定はないが、担体上に貴金属成分が担持された触媒を調製するには、例えば活性炭などの担体を金属塩を含む溶液に浸漬して、該溶液を担体に含浸させた後、必要に応じて、中和、焼成などの操作を行うことによって、貴金属成分が担持された触媒を得ることができる。貴金属の担持量については、含浸させる金属塩溶液の金属塩の濃度、含浸させる時間など含浸方法を適宜設定することによって、調整することが可能である。
【0026】
含フッ素アルカンの製造方法
本発明の方法は、上記した塩素含有フルオロアルカン及び含フッ素アルケンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素化合物を原料として、触媒の存在下に、水素ガスと反応させて、含フッ素アルカンを製造する方法である。
【0027】
塩素含有フルオロアルカンの内で、一般式(1):R1-CCl2-(n+m)Hn Fm-CCl2-(o+p)Ho Fp -CCl3-(q+r)Hq Fr(式中、R1, n, m, o, p, q及びrは上記に同じ)で表される塩素含有フルオロアルカンを原料とする場合には、塩素原子に対する水素置換反応によって、一般式:R1-CH2-mFm-CH2-pFp -CH3-rFr(式中、R1, m, p及びrは上記に同じ)で表される含フッ素アルカンを得ることができる。また、一般式(2):CCl3-(a+b) Ha Fb-CCl3-(c+d) HcFd (式中、 a, b, c及びdは上記に同じ)で表される塩素含有フルオロアルカンを原料とする場合には、同様に塩素原子に対する水素置換反応によって、一般式:CH3-bFb-CH3-dFd(式中、 b及びdは上記に同じ)で表される含フッ素アルカンを得ることができる。例えば、一般式(1−1):R2-CCl2-(j+k)Hj Fk -CCl3-(l+t)HlFt (式中、R2, j, k, l及び tは上記に同じ)で表される化合物を原料とする場合には、水素置換反応によって、一般式R2-CH2-kFk-CH3-tFt(式中、R2, k 及び tは上記に同じ)で表される含フッ素アルカンを得ることができる。
【0028】
また、含フッ素アルケンの内で、一般式(3):R3Y1C=CY2R4 (式中、R3、R4、Y1 及びY2は上記に同じ)で表される含フッ素アルケンを原料とする場合には、水素ガスの付加反応によって、一般式::R3Y1CH-CHY2R4 (式中、R3、R4、Y1及びY2は上記に同じ)で表される含フッ素アルカンを得ることができる。例えば、一般式(3−1):R5CY3=CY4Y5
(式中、R5、Y3、Y4及びY5は上記に同じ)で表される含フッ素アルケンを原料とする場合には、一般式:R5CHY3-CHY4Y5(式中、R5、Y3、Y4及びY5は上記に同じ)で表される含フッ素アルカンを得ることができる。
【0029】
本発明の含フッ素アルカンの製造方法では、触媒活性の異なる複数の触媒を用いることが必要である。この際、反応の第一段階において、塩素含有フルオロアルカン及び含フッ素アルケンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素化合物と水素ガスを、最も活性の低い触媒に接触させ、順次、触媒活性の高い触媒に接触させて、二段階以上の反応を行うことが必要である。この様に触媒活性の異なる複数の触媒を用いて、連続的に触媒活性の高い触媒と接触させていくという多段階の反応方法を採用することによって、転化率、選択率などを低下させることなく、反応時の発熱を抑制することができる。このため、原料の供給量を増加することが可能となり、目的とする含フッ素アルカンの生産効率を大きく向上させることができる。
【0030】
触媒の触媒活性については、使用する触媒金属と担体の種類と、触媒金属の担持量によって異なるが、一般に、同一の触媒金属と担体を用いる場合には、上限はあるが、触媒金属の担持量が増加すると触媒活性が高くなる傾向がある。このため、通常は、同一の担体に同一の貴金属成分が異なる担持量で担持された触媒を用いる場合には、原料とする含フッ素化合物と水素ガスを、貴金属成分の担持量が少ない触媒から貴金属成分の担持量が多い触媒に順次接触させればよい。
【0031】
また、触媒を不活性物質と混合して希釈することで、より活性の低い触媒とすることもできる。この場合、不活性物質としては例えば、活性炭などが挙げられるがこの限りではない。触媒金属及び/又は担体の種類が異なる触媒を用いる場合には、実際に使用する原料を用いて、予備的に実験を行うことによって触媒活性の高さを容易に判定することができる。
【0032】
触媒活性の異なる複数の触媒を使用する際に、各触媒の使用割合については特に限定的ではなく、原料とする含フッ素化合物と水素ガスを触媒活性の低い触媒から触媒活性の高い触媒に順次接触させるという条件の範囲内において、使用する触媒の活性の程度などに応じて、反応時の発熱を抑制して過度の温度上昇を防止でき、且つ原料の転化率と目的物の選択率を良好な範囲に維持できるように適宜決めればよい。例えば、触媒の使用割合の一例としては、最も活性が高い触媒100重量部に対して、その他の触媒の合計量を50〜400重量部程度とし、好ましくは70〜300重量部程度とすればよい。
【0033】
反応装置の構造については特に限定はなく、例えば、2個以上の気相反応装置を直列に連結し、第一段目の反応装置に最も触媒活性の低い触媒を充填し、第二段目以降の反応装置に、順次、触媒活性の高い触媒を充填した反応装置を用いることができる。また、複数の反応装置を用いることなく、単一の気相反応装置を用い、該反応装置の入口近傍に、最も触媒活性の低い触媒を充填し、該反応装置の出口近傍に最も触媒活性の高い触媒を充填する方法で、原料ガスの流通方向に向かって順次触媒活性の高い触媒を充填した気相反応装置を用いてもよい。
【0034】
上記した反応装置に用いる各反応器としては、例えば、管型の流通型反応器等を用いることができる。流通型反応器としては、例えば、断熱反応器、熱媒体を用いて除冷した多管型反応器等を用いることができる。反応器は、ステンレス(SUS)等の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましく、特に、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)等によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法によれば、反応時における発熱を抑制することが可能であることから、積極的な除熱を行うことなく、高い生産効率で目的とする含フッ素アルカンを得ることができる。例えば、反応混合物に冷却用の希釈剤を導入することなく、また、ジャケット付きの反応装置や内部冷却コイルを用いた反応装置などの複雑な反応装置を用いることなく、例えば、冷却用のフィンを有する程度の簡単の構造の反応装置を用いて、効率良く含フッ素アルカンを製造することが可能となる。
【0036】
反応温度については、特に限定的ではないが、水素の発火温度を下回る温度とすることが必要である。通常、50〜400℃程度、好ましくは50〜390℃程度、より好ましくは50〜380℃程度とすればよい。本発明の製造方法によれば、反応時の発熱を抑制できることから、従来の方法と比較して原料の導入量を増加させた場合であっても、反応温度を上記した範囲に制御でき、高い生産効率で目的とする含フッ素アルカンを製造することができる。
【0037】
反応時の圧力については、特に限定されるものではなく、減圧、常圧又は加圧下に反応を行うことができる。通常は、大気圧(0.1MPa) 近傍の圧力下で実施すればよい。
【0038】
水素ガスの使用量は、原料とする塩素含有フルオロアルカン及び含フッ素アルケンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素化合物1モルに対して、1〜10モル程度とすることが好ましく、1〜8モル程度とすることがより好ましく、1〜5モル程度とすることが更に好ましい。
【0039】
反応時間については、特に限定的ではないが、原料として塩素含有フルオロアルカンを用いる場合には、通常、全反応段階の触媒充填量の合計量W(g)と反応系に流す原料ガスの全流量(含フッ素化合物と水素ガスの合計量)Fo(0℃、1atmでの流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間を0.5〜60g・sec/cc程度とすることが好ましく、1〜50g・sec/cc程度とすることがより好ましく、1〜40g・sec/cc程度とすることが更に好ましい。また、原料として、含フッ素アルケンを用いる場合には、W/Foで表される接触時間を0.5〜30g・sec/cc程度とすることが好ましく、0.5〜20g・sec/cc程度とすることがより好ましく、0.5〜15g・sec/cc程度とすることが更に好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明の製造方法によれば、塩素含有フルオロアルカン又は含フッ素アルケンを原料として、水素ガスと反応させて含フッ素アルカンを製造する方法において、転化率や選択率を低下させることなく、反応時の温度の上昇を抑制することが可能となり、原料の導入速度を大きくして、生産効率を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0042】
実施例1
内径50mm、長さ128cmのSUS製反応管を用い、反応管の入口部分から約10 cmから約70 cmまでの範囲に活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量0.1重量%(担体及びPd量を100重量%として)(0.1wt% Pd/C 触媒)を530g入れ、約70 cmから約120 cmまでの範囲に活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量0.25重量%)(0.25wt% Pd/C 触媒)を530g入れた。触媒は150℃で乾燥し水素を200℃で流通させ還元したものを用いた。
【0043】
上記した反応管をヒーターで約260℃に加熱して、CF3CF2CH2Cl(HCHC-235cb)を945 ml/min(0℃、0.1MPaでの流量、以下同じ)と水素を1920 ml/minの流速で供給した。
【0044】
反応器からの流出ガスをガスクロマトグラフを使用して分析したところ、CF3CF2CH2Cl(HCFC-235cb)の転化率は94.5%、CF3CF2CH3(HFC-245cb)の選択率は96.9%であり、反応器内部の最大温度は336℃であった。
【0045】
この方法では、目的物であるCF3CF2CH3(HFC-245cb)を、865 ml/min (0.82 ml/min/g-cat)の割合で得ることができた。
【0046】
比較例1
内径50mm、長さ128 cmのSUS製反応管に、活性炭にPdを担持させた触媒(Pd量0.25重量%)(0.25wt% Pd/C 触媒)を1059g入れた。触媒は150℃で乾燥し水素を200℃で流通させ還元したものを用いた。
【0047】
上記した反応管をヒーターで約260℃に加熱して、CF3CF2CH2Cl(HCFC-235cb)を702 ml/minと水素を1991 ml/minの流速で供給した。
【0048】
反応器からの流出ガスをガスクロマトグラフを使用して分析したところ、CF3CF2CH2Cl(HCFC-235cb)の転化率は95.5%、CF3CF2CH3(HFC-245cb)の選択率は96.7%であり、反応器内部の最大温度は381℃であった。
【0049】
この方法では、目的物であるCF3CF2CH3(HFC-245cb)を、648 ml/min (0.61 ml/min/g-cat)の割合で得ることができた。
【0050】
以上の実施例1と比較例1では、触媒の使用量はほぼ同一であるが、実施例1は、触媒の半量が低活性の触媒である。実施例1と比較例1を比較すると、原料の転化率及び含フッ素アルカンの選択率はほぼ同一であるが、実施例1の方が反応器内の温度上昇が抑制されている。その結果、比較例1では、温度上昇のために原料の導入量を増加できないのに対して、実施例1では、原料の導入量を多くすることができ、目的物であるCF3CF2CH3(HFC-245eb)の単位時間当たりの生産量を増大することができた。
【0051】
実施例2
内径25mm、長さ140 cmのSUS製反応管を用い、反応管の入口部分から約10 cmから約50 cmまでの範囲に活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量0.2重量%)(0.2wt% Pd/C 触媒)を100g入れ、約50 cmから約90 cmの範囲に活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量0.3重量%)(0.3wt% Pd/C 触媒)を100g入れ、約90 cmから約130 cmの範囲に活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量0.6重量%)(0.6wt% Pd/C 触媒)を100g入れた。触媒は150℃で乾燥し水素を200℃で流通させ還元したものを用いた。
【0052】
上記した反応装置に対して、0.2wt% Pd/C 触媒を充填した反応管の入口側から、ヘキサフルオロプロペン(CF3CF=CF2)を1597 ml/min、水素を2256 ml/minの流速で流通させた。水素およびヘキサフルオロプロペン導入の際の反応管内部温度は25℃であった。
【0053】
反応器からの流出ガスをガスクロマトグラフを使用して分析したところ、ヘキサフルオロプロペンの転化率は98.9%、CF3CHFCHF2(HFC-236ea)の選択率は100%であり、反応器内部の最大温度は268℃であった。
【0054】
この方法では、目的物であるCF3CHFCHF2(HFC-236ea)を1578ml/min (5.26 ml/min/g-cat)の割合で得ることができた。
【0055】
比較例2
内径25mm、長さ120 cmのSUS製反応管に、活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量3重量%)(3wt% Pd/C 触媒)を270g入れ、氷水で冷却した。触媒は150℃で乾燥し水素を200℃で流通させ還元したものを用いた。
【0056】
上記の反応管に対して、ヘキサフルオロプロペンを769 ml/min、水素を1662 ml/minの流速で流通させた。水素およびヘキサフルオロプロペン導入の際の反応管内部温度は0℃であった。
【0057】
反応器からの流出ガスをガスクロマトグラフを使用して分析したところ、ヘキサフルオロプロペンの転化率は100%、CF3CHFCHF2(HFC-236ea)の選択率は99.6%であり、反応器内部の最大温度は293℃であった。
【0058】
この方法では、目的物であるCF3CHFCHF2(HFC-236ea)を764 ml/min (2.83 ml/min/g-cat)の割合で得ることができた。
【0059】
以上の実施例2と比較例2では、ほぼ同等の大きさの反応装置を用い、触媒の使用量も近似した量であるが、実施例2では活性の異なる三種類の触媒を用いているのに対して、比較例2では活性の高い触媒を一種類のみ用いた。
【0060】
実施例2と比較例2の結果を比較すると、転化率及び選択率はほぼ同程度であるが、比較例2では、氷冷した反応管を用いているにもかかわらず、反応時に温度大きく上昇し、原料の導入量を増加できなかった。これに対して、実施例2では、氷冷などの積極的な冷却を行っていないが、反応管内の温度上昇が抑制されており、原料の導入量を多くすることができ、目的物であるCF3CHFCHF2(HFC-236ea)の単位時間当たりの生産量を増大することができた。
【0061】
実施例3
内径25mm、長さ140 cmのSUS製反応管を用い、反応管の入口部分から約10 cmから約50 cm までの範囲に活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量0.2重量%)(0.2wt% Pd/C 触媒)を100g入れ、約50 cmから約90 cmの範囲に活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量0.3重量%)(0.3wt% Pd/C 触媒)を100g入れ、約90 cmから約130 cmの範囲に活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量0.6重量%)(0.6wt% Pd/C 触媒)を100g入れた。触媒は150℃で乾燥し水素を200℃で流通させ還元したものを用いた。
【0062】
上記した反応管をヒーターで150℃に加熱して、0.2wt% Pd/C 触媒を充填した反応管の入口側から、CF3CF=CHF(HFC-1225ye)を1032 ml/min、水素を2515 ml/minの流速で流通させた。水素およびペンタフルオロプロペン導入の際の反応管内部温度は150℃であった。
【0063】
反応器からの流出ガスをガスクロマトグラフを使用して分析したところ、CF3CF=CHF(HFC-1225ye)の転化率は98.0%、CF3CHFCH2F(HFC-245eb)の選択率は99.4%であり、反応器内部の最大温度は292℃であった。
【0064】
この方法では、目的物であるCF3CHFCH2F(HFC-245eb)を1005 ml/minの割合で得ることができた。
【0065】
比較例3
内径20mm、長さ68 cmのSUS製反応管に、活性炭にPdを担持させた触媒(Pd担持量3重量%)(3wt% Pd/C 触媒)を38g入れた。触媒は150℃で乾燥し水素を200℃で流通させ還元したものを用いた。
【0066】
上記の反応管に対して、CF3CF=CHF(HFC-1225ye)を267ml/min、水素を1065 ml/minの流速で流通させた。水素およびペンタフルオロプロペン導入の際の反応管内部温度は25℃であった。
【0067】
反応器からの流出ガスをガスクロマトグラフを使用して分析したところ、CF3CF=CHF(HFC-1225ye)の転化率は99.5%、CF3CHFCH2F(HFC-245eb)の選択率は98.9%であり、反応器内部の最大温度は245℃であった。
【0068】
この方法では、目的物であるCF3CHFCH2F(HFC-245eb)を262 ml/minの割合で得ることができた。
【0069】
以上の実施例3と比較例3では、大きさの異なる反応装置を用いているが、比較例3では、発熱量が多いために、これ以上大きい反応装置を用いることができなかった。また、触媒の使用量については、実施例3では活性の異なる三種類の触媒を用いているのに対して、比較例3では活性の高い触媒を一種類のみ用いているが、比較例3では、反応による発熱量が多いために、触媒の使用量が制限された。
【0070】
実施例3と比較例3の結果を比較すると、転化率及び選択率は近似した値であるが、比較例3では、発熱のために原料の導入量を増加できなかった。これに対して、実施例3では、反応管内の温度上昇が抑制されており、CF3CHFCHF2(236ea)の単位時間当たりの生産量を増大することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有フルオロアルカン及び含フッ素アルケンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含フッ素化合物を、触媒の存在下に水素ガスと反応させて含フッ素アルカンを製造する方法であって、
触媒活性の異なる二種以上の触媒を用い、原料とする含フッ素化合物と水素ガスを、触媒活性の低い触媒から触媒活性の高い触媒に順次接触させることを特徴とする方法。
【請求項2】
触媒活性の異なる触媒を充填した二個以上の反応管を直列に接続した反応装置を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒が、担体に貴金属成分が担持されたものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
貴金属が、Pd、Pt、Ru及びRhからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、担体が、活性炭、多孔性アルミナシリケート、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化亜鉛、及びフッ化アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
触媒活性の異なる触媒が、同一の担体に同一の貴金属成分が異なる担持量で担持されたものであって、原料とする含フッ素化合物と水素ガスを、貴金属成分の担持量が少ない触媒から貴金属成分の担持量が多い触媒に順次接触させる方法である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
塩素含有フルオロアルカンが、
一般式(1):R1-CCl2-(n+m)Hn Fm-CCl2-(o+p)Ho Fp -CCl3-(q+r)Hq Fr
(式中、R1は、塩素原子を含むことがある炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子又はフッ素原子であり、n, m, o及びpは、それぞれ0〜2の整数、q 及びrは、それぞれ0〜3の整数であって、n+m≦2、o+p≦2、q+r≦3 及びn+m+o+p+q+r≦6である。但し、R1がフルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、m, p 及びrの合計は1以上である。)で表される化合物、及び
一般式(2):CCl3-(a+b)Ha Fb -CCl3-(c+d) Hc Fd
(式中、 a, b, c及びdは、それぞれ0〜3の整数であって、a+b≦3、c+d≦3、 b+d≧1及びa+b+c+d≦5である。)で表される化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物であり、
含フッ素アルケンが、一般式(3):R3Y1C=CY2R4(式中、R3及びR4は、同一又は異なって、塩素原子を含むことのある炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、Y1 及びY2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。但し、R3及びR4が、フルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、Y1 及びY2の少なくとも一個はフッ素原子である。)で示される含フッ素アルケンである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
塩素含有フルオロアルカンが、一般式(1−1):R2-CCl2-(j+k)Hj Fk -CCl3-(l+t)HlFt (式中、R2は、炭素数1〜3のアルキル基、塩素原子を有することのある炭素数1〜3のフルオロアルキル基、水素原子又はフッ素原子であり、j及びkは、それぞれ0〜2の整数、l及び tはそれぞれ0〜3の整数であって、j+k≦2、l+t≦3 及びj+k+l+t≦4である。但し、R2がフルオロアルキル基及びフッ素原子のいずれでもない場合には、k及びtの合計は1以上である。)で表される化合物であり、含フッ素アルケンが、一般式(3−1):R5CY3=CY4Y5(式中、R5は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のフルオロアルキル基であり、Y3、Y4及びY5は、同一又は異なって、水素原子又はフッ素原子である。但し、R5が、フルオロアルキル基ではない場合には、Y3 及びY4の少なくとも一個はフッ素原子である。)で表される化合物である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−225523(P2011−225523A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29637(P2011−29637)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】