説明

含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体及びその製造方法

【課題】 特殊な重合設備を使用せずに簡便に製造することが可能で、撥水性、または撥油性、更にはこれらを両立した材料が望まれていた。
【解決手段】 撥水性、または撥油性、更にはこれらを両立した材料として、(メタ)アクリル系重合体に含フッ素エポキシ化合物を反応させて得られる含フッ素(メタ)アクリル酸系重合体を提供した。また、この製造方法を提供した。この重合体は、撥水性、撥油性に優れ、また特殊な重合設備を使用せずに簡便に製造することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工業材料に対し、撥水性、撥油性、又はその両方に優れる樹脂が必要とされることがある。そのような材料としてはフッ素原子がポリマー鎖中に導入された樹脂を用いることが一般的であり、これまで、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンやポリフッ化ビニリデン共重合体が使用されてきた(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、ポリテトラフルオロエチレンは溶融させるには高温を必要とし、更にその溶融時の粘度が非常に高いために、一般的な成形加工を適用することが難しいことや、モノマーが常温では気体であるため特殊な重合設備が必要であるといった問題があった。
【0004】
また、ポリフッ化ビニリデンは、ポリテトラフルオロエチレンに比べ、撥水性、撥油性が大幅に劣る点や、ポリテトラフルオロエチレンと同様にモノマーが常温では気体であるために特殊な重合設備が必要であるといった問題があった。
【特許文献1】特開平8−288099号公報
【特許文献2】特開平11−1527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、特殊な重合設備を使用せずに簡便に製造することが可能で、撥水性、または撥油性、更にはこれらを両立した材料を提供すること、またその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究の結果、(メタ)アクリル酸系重合体に含フッ素エポキシ化合物を反応させて得られる含フッ素(メタ)アクリル酸系重合体及びその製造方法を見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体に、下記一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物を反応させて得られる含フッ素(メタ)アクリル酸系重合体を提供した。
【0008】
【化1】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0009】
【化2】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【0010】
【化3】

(ここで、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基であり、nは0〜10の整数を表す。)
また、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(4)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体を提供した。
【0011】
【化4】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0012】
【化5】

(ここで、R6およびR7は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基、nは0〜10の整数を表す。)
また、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(5)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体を提供した。
【0013】
【化6】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0014】
【化7】

(ここで、R8およびR9は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基、nは0〜10の整数を表す。)
また、水の接触角が80度以上、及び/又はヘキサデカンの接触角が40度以上であることを特徴とする前記含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体を提供した。
【0015】
また、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体に、前記一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物を反応させることを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法を提供した。
【0016】
また、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を含有する共重合体を形成した後、t−ブチル基を脱離して前記一般式(1)で表される繰り返し単位と、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体を得ることを特徴とする前記含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法を提供した。
【0017】
【化8】

(ここで、R10およびR11は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
また、t−ブチル基の脱離と同時に、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体と前記一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物を反応させることを特徴とする、前記含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法を提供した。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、撥水性、または撥油性、更にはこれらを両立した材料を、特殊な重合設備を使用せずに簡便に提供することが可能となり、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の1つの態様は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体に、下記一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物を反応させて得られる含フッ素(メタ)アクリル酸系重合体である。
【0020】
【化9】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0021】
【化10】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【0022】
【化11】

(ここで、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基であり、nは0〜10の整数を表す。)
ここで原料として使用する(メタ)アクリル酸系重合体は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有するものである。
【0023】
【化12】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0024】
【化13】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
一般式(1)で表される繰り返し単位は、R1が水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R2が水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3が炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基であれば、どのような構造であっても良い。
【0025】
一般式(1)で表される繰り返し単位は、単一の種類でもよく、R1、R2、R3が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0026】
また、一般式(1)で表される繰り返し単位をモノマー単位から重合して与える場合、モノマー単位としては例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル等が使用できる。
【0027】
一般式(2)で表される繰り返し単位は、R4が水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R5が水素または炭素数1〜8のアルキル基であれば、どのような構造であっても良い。
【0028】
一般式(2)で表される繰り返し単位は、単一の種類でもよく、R4、R5が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0029】
また、一般式(2)で表される繰り返し単位をモノマー単位から重合して与える場合、モノマー単位としては例えばメタクリル酸、アクリル酸等が使用できる。
【0030】
一般式(2)で表される繰り返し単位は、(メタ)アクリル酸t−ブチルをモノマーとして重合したのちに(即ち、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を導入)、t−ブチル基を脱離することによっても得ることができる。
【化14】

【0031】
t−ブチル基を脱離する方法としては、加熱により脱離する方法や、各種触媒、特に酸触媒により脱離する方法等が挙げられる。
【0032】
加熱によりt−ブチル基を脱離する場合、加熱温度は80℃以上300℃以下の範囲が好ましい。80℃未満で加熱を行うと、t−ブチル基の脱離が十分に進行しない場合があり、300℃より高い温度で加熱を行うと、(メタ)アクリル酸系重合体が分解して分子量が低下する場合や、酸無水物基となり一般式(2)で表される繰り返し単位が得られにくくなる場合がある。
【0033】
酸触媒を使用する場合はp−トルエンスルホン酸、塩化水素、硫酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸を使用できるが、これらに限定されるものではない。また、触媒を複数種混合して使用することも可能である。
【0034】
酸触媒を用いることは、加熱温度を低くすることや反応時間を短くすることができる面から好ましい。
【0035】
以上の内容もふまえると、原料として使用する(メタ)アクリル酸系重合体は、一般式(1)で表される繰り返し単位を与えるモノマーと、一般式(2)で表される繰り返し単位を与えるモノマー及び/又は(メタ)アクリル酸t−ブチル、及び必要に応じて他のモノマーを共重合することにより好適に得ることができる。共重合の方法としては特に限定されず、公知の方法、すなわち、乳化重合、マイクロサスペンジョン重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等を利用できる。特に乳化重合、マイクロサスペンジョン重合、懸濁重合では水を媒体として使用するので、重合中の発熱の制御が容易であり、有機溶剤を使用する必要がない等の利点があり好ましい。
【0036】
水を媒体とした重合法を使用する場合、アクリル酸等の親水性モノマーを使用すると、モノマーの親水性が高いために、水を媒体とした系中で重合体粒子の凝集が起こり安定的に重合することが難しいことが多い。従って、重合体中に高い比率で一般式(2)で表される繰り返し単位を導入することは一般的に難しい。一般式(2)で表される繰り返し単位を高含有率で導入したい場合は、前記の様にt−ブチル基をいわば保護基とした(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを使用し、後にt−ブチル基を脱離させることが好ましい。
【0037】
また、本発明における(メタ)アクリル酸系重合体はリニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、またはこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても問題ない。コアシェルポリマーはただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても問題ない。
【0038】
次に、本発明で使用する下記一般式(3)について説明する(本発明では、この構造を含フッ素エポキシ化合物と言う)。ここでRfは1個以上のフッ素原子が含有される炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロエーテル基であれば特に制限はない。
【0039】
【化15】

(ここで、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基であり、nは0〜10の整数を表す。)
ここで言うフルオロアルキル基とは、例えばCF3(CF2b(bは0〜14の整数)やCF2H(CHF)c(CF2d(c,dはそれぞれ0以上の整数で、c+d=0〜14)で表される直鎖構造のものでも、(CF33Cのような分岐構造のものであってもよい。
【0040】
また、ここで言うフルオロアルキルエーテル基とは、例えばCF3O(CF2eO(CF2f(e+f=1〜14の整数で、eは1以上の整数)やCF2HO(CHF)gO(CF2h(g+h=1〜14の整数で、gは1以上の整数)のように表される直鎖構造のものでも、(CF33CO(CF2j(jは0〜10の整数)のように表される分岐構造のものであってもよい。
【0041】
また、一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物の繰返し単位数を表すnについては0〜10の整数であればよいが、撥水性と撥油性を両立させる面から、nは3以下であることが好ましい。
【0042】
含フッ素エポキシ化合物としては例えば、3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパン、3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン、3−パーフルオロオクチル−1,2−エポキシプロパン、3−パーフルオロデシル−1,2−エポキシプロパン、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−1,2−エポキシプロパン、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−1,2−エポキシプロパン、3−(2,2,3,3−テトラフウルオロプロポキシ)−1,2−エポキシプロパン、3−(1H、1H、5H−オクタフルオロペンチルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、3−(1H、1H、7H−ドデカフルオロヘプチルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、3−(1H、1H、9H−ヘキサデカフルオロノニルオキシ)−1,2−エポキシプロパン等を例示できるが、これらに限定されることはない。
【0043】
含フッ素エポキシ化合物の添加量は特に制限はないが、前記一般式(2)で表される繰り返し単位100モル%に対して、5モル%以上300モル%以下が好ましい。5モル%未満では十分な撥水性、撥油性を有する材料を得ることが難しく、300モル%を超えると生成した含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体中に含フッ素エポキシ化合物が残存する場合がある。
【0044】
本発明のもう1つの態様は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(4)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体である。
【0045】
【化16】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0046】
【化17】

(ここで、R6およびR7は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基、nは0〜10の整数を表す。)
また、本発明のもう1つの態様は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(5)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体である。
【0047】
【化18】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0048】
【化19】

(ここで、R8およびR9は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基、nは0〜10の整数を表す。)
これらの態様は、同時に他の繰り返し単位を含んでいてもよく、例えば、一般式(1)、一般式(4)、一般式(5)を含む構造や、これに加えて一般式(2)が混在する構造、また、一般式(1)と、一般式(4)または一般式(5)と、一般式(2)が混在する構造、更にはこれら以外の繰り返しを含んだ構造も可能である。この中でも、特に一般式(1)、一般式(4)、一般式(5)を含む構造が容易に得やすく好ましい。
【0049】
本発明における水の接触角とは、試料表面上に水滴を乗せた時に、水滴と試料表面が接している点における、液滴の接平面と試料表面の間の角度のことであり、その角度が大きい程、試料が撥水性に優れていることを示している。
【0050】
また、本発明におけるヘキサデカンの接触角とは、試料表面上にヘキサデカンの液滴を乗せた時に、液滴と試料表面が接している点における、液滴の接平面と試料表面の間の角度のことであり、その角度が大きい程、試料が撥油性に優れていることを示している。
【0051】
前記一般式(1)及び、前記一般式(2)(若しくは生成物中の前記一般式(4)と(5)の合計)の割合を調整することで、各種要求される物性に調整することが可能であるが、撥水性、撥油性が高い材料とする場合には、一般式(2)(若しくは生成物中の前記一般式(4)と(5)の合計)で表される繰り返し単位は(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる割合が10モル%以上90モル%以下であることが好ましい。より好ましくは、一般式(2)(若しくは生成物中の前記一般式(4)と(5)の合計)で表される繰り返し単位は20モル%以上80モル%以下である。一般式(2)(若しくは生成物中の前記一般式(4)と(5)の合計)で表される繰り返し単位がこの範囲より少なくなると水の接触角が80度未満又はヘキサデカンの接触角が40度未満になる場合があり、十分な撥水性及び撥油性を有する材料を得ることが難しくなる場合がある。また、一般式(2)(若しくは生成物中の前記一般式(4)と(5)の合計)で表される繰り返し単位がこの範囲を超えると成形性が低下する場合がある。
【0052】
本発明において、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体に、一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物を反応させる条件は特に限定がないが、カルボキシル基とエポキシ基の反応を促進させるために、加熱や触媒、またはこれらの両方を使用することが好適である。
【0053】
加熱により反応を促進させる場合は、加熱温度は30℃以上300℃以下が好ましい。30℃未満であると十分に反応が進行しない場合があり、300℃より高い温度で加熱を行うと、(メタ)アクリル酸系重合体が分解して分子量が低下する場合や含フッ素エポキシ化合物が分解してしまう場合がある。
【0054】
触媒により反応を促進させる場合は、カルボキシル基とエポキシ基の反応を促進させるものであればどのようなものでも使用することが可能であるが、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩や、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級アルキルアミン、p−トルエンスルホン酸、塩化水素、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸等を使用することが可能である。また、これらの触媒を複数種混合して使用することも可能である。
【0055】
また、(メタ)アクリル酸系重合体を、カルボキシル基とエポキシ基の反応に対して不活性な溶媒中に溶解させた後に、含フッ素エポキシ化合物と反応させることや、溶媒を使用せず、直接、(メタ)アクリル酸系重合体に、含フッ素エポキシ化合物を反応させることも可能である。
【0056】
使用可能な溶媒としては(メタ)アクリル酸系重合体を溶解させるものであることが好ましいが、更に反応生成物である含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体をも溶解できる溶媒が好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジグライム、メチルフェニルエーテル、ベンゾトリフルオライド、2−クロロ−ベンゾトリフルオライド等がコスト面からより好ましい。
【0057】
溶媒を使用せずに直接反応させる場合は、(メタ)アクリル酸系重合体と含フッ素エポキシ化合物を混練することが可能な装置であれば特に制限はない。例えば、押出機などを用いてもよくバッチ式反応槽(圧力容器)などを用いてもよい。
【0058】
また、溶媒を使用せず、直接反応させる場合においては、(メタ)アクリル酸系重合体中における一般式(2)で表される繰り返し単位の割合が高い場合、樹脂の溶融温度が非常に高くなる場合があるので、t−ブチル基を保護基とした(メタ)アクリル酸エステル系モノマーが共重合された(メタ)アクリル酸系重合体を使用して、加熱溶融させながら保護基を脱離し、含フッ素エポキシ化合物と反応させることが好ましい(反応装置内において、脱離と反応が間をおかずに起こる場合と、間をおいて反応する場合があるが、本願ではこの様なものを含めて同時ということとする。)。尚、この反応は、溶媒を使用する場合にも有効に使用することができる。
【0059】
本発明の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体を押出機にて製造する場合には、各種押出機が使用可能であるが、例えば単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機等が使用可能である。特に、メタクリル酸系重合体に対する含フッ素エポキシ化合物の混合を促進できる押出機として二軸押出機が好ましい。二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等があるが、二軸押出機の中では噛合い型同方向回転式が高速回転が可能であり、メタクリル酸系重合体に対する含フッ素エポキシ化合物の混合を促進できるので好ましい。これらの押出機は単独で用いても、直列につないでも構わない。
【0060】
また、押出機には未反応の含フッ素エポキシ化合物やt−ブチル基を保護基とした(メタ)アクリル酸系重合体を使用した場合に発生するイソブテンを除去するために、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。
【0061】
押出機の代わりに、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に使用できる。
【0062】
本発明の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法をバッチ式反応槽(圧力容器)で行う際には、(メタ)アクリル酸系重合体を加熱により溶融、攪拌でき、含フッ素エポキシ化合物を添加できる構造であれば特に制限ないが、反応の進行により溶融粘度が上昇することもあり、攪拌効率が良好なものがよい。例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンドなどを例示することができる。
【0063】
また、(メタ)アクリル酸系重合体と含フッ素エポキシ化合物を反応させる際に、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0064】
以上のように、本発明によれば撥水性、撥油性、更にはこれらを両立した含フッ素(メタ)アクリル酸系重合体を簡便に製造することが可能であり、耐熱性、耐候(光)性、耐薬品性、非粘着性及び離型性、低屈折率、低誘電率、低摩擦率、高気体透過性、低表面張力性等を生かす分野においても有利に利用することが出来る。例えば、撥水撥油防汚加工用途、樹脂表面改質剤、ポジ型フォトレジスト、光ファイバーのクラッド材、反射防止膜、水なし平版印刷版、コンタクト/光学レンズ、塗料及びインキ用途、医用高分子材料、離型性用途、磁気テープ/磁気ディスクのコーティング及び摺動性用途、化粧用材料、紙加工剤等の分野に利用でき、繊維物質、不織布、紙、皮革、ゴム、木材、金属、アスファルト、コンクリート、石こう、ALC板、窯業系サイデイング材、ガラス、ガラス繊維及びプラスチックス等の表面に塗布して乾燥することに依り、表面コーティング、接着、風合い改良などの性能向上の効果を得ることが可能である。
【実施例】
【0065】
本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法は次の通りである。
【0066】
(1)反応率の測定
(メタ)アクリル酸系重合体としてメタクリル酸モノマー単位を含有するメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体を使用した場合は、反応前後のポリマー中のカルボキシル基量を滴定法により測定し、算出した。
【0067】
具体的には、アセトン37.5mlに生成物0.3gを溶解させ、メタノール37.5mlを添加した。この溶液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加し、更に0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加し、1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Aml)を測定した。
【0068】
次に、アセトン37.5mlとメタノール37.5mlの混合液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加した。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加し、1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Bml)を測定した。
【0069】
生成物中のカルボキシル基量をCF(mmol/g)とし、測定結果から次式で算出した。
F=0.1×(5−A−B)/0.3
同様の方法により原料樹脂であるメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体のカルボキシル基量CR(mmol/g)を測定/算出し、反応率は次式で算出した。
反応率=(CR−CF)×100/CR
原料樹脂としてメタクリル酸t−ブチルモノマー単位を35モル%含有するメタクリル酸t−ブチル/メタクリル酸メチル共重合体を使用した場合は、フッ素含有率の測定結果のみ測定し、反応の進行有無を確認した。
【0070】
(2)フッ素含有率の測定
反応生成物中のフッ素含有量は、酸素フラスコ燃焼法により反応生成物を分解した後、イオンクロマトグラフ(ダイオネクス製DX−500)、カラムとしてIonPac AG12AとAS12A(4mmφ×250mm)、溶離液として0.3mMのNaHCO3+2.7mMのNa2CO3、溶離液流量を1.2mL/minとし、電気伝導度検出器にて検出し、フッ素イオン標準液(関東化学製)により作成した検量線から計算した。
【0071】
(3)撥水性・撥油性の評価
反応生成物をアセトンに溶解させ(樹脂濃度15wt%)、PETフィルム上に塗布し、60℃にて乾燥してフィルムを作成した。このフィルムを使用し、接触角測定機(協和界面科学株式会社製CA−S150型)を用い、注射器にて直径2mm大の純水又はヘキサデカンを滴下した時の接触角を測定することにより、それぞれ撥水性及び撥油性を評価した。
【0072】
(実施例1)
ジムロート冷却管を備えた3つ口の50mLのナスフラスコに、メタクリル酸モノマー単位を35モル%含有するメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体1.00g、含フッ素エポキシ化合物である3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンを1.02g、非反応性溶剤としてジグライムを25mL、触媒としてテトラブチルアンモニウムクロライドを0.05g入れ、反応温度100℃、反応時間5時間にて反応させた。放冷後、溶液をメタノールに再沈澱させ、濾過/乾燥して生成物を回収した。得られた含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の反応率は60%であった。またフッ素含有率は23%であった。また、水の接触角は98度、ヘキサデカンの接触角は58度であった。評価結果を表1にまとめた。
【0073】
(実施例2)
実施例1において3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンの代わりに3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパンを用いた以外は、全て実施例1と同様の操作を行った。反応率は54%であり、他の評価結果を表1にまとめた。
【0074】
(実施例3)
実施例1において3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンの代わりに3−パーフルオロオクチル−1,2−エポキシプロパンを用いた以外は、全て実施例1と同様の操作を行った。反応率は50%であり、他の評価結果を表1にまとめた。
【0075】
(実施例4)
原料の樹脂としてメタクリル酸t−ブチルモノマー単位を35モル%含有するメタクリル酸t−ブチル/メタクリル酸メチル共重合体100重量部を、含フッ素エポキシ化合物として3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンを100重量部用いて、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体を製造した。
【0076】
使用した押出機はL/D=90、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。押出機の反応ゾーン(含フッ素エポキシ化合物添加口からベント口の間)の設定温度を270℃、スクリュー回転数は300rpmとした。ホッパーから110℃で8時間乾燥させた原料樹脂を1kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから原料樹脂に対して100重量部の3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンを注入した。反応ゾーンの末端(ベント口の手前)にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物であるイソブテンおよび過剰の3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。得られたペレットをアセトンに溶解させ、メタノールに再沈澱させ、濾過/乾燥して生成物を得た。フッ素含有率は15wt%であり、他の評価結果を表1にまとめた。
【0077】
(比較例1)
実施例1において使用した原料樹脂であるメタクリル酸モノマー単位を35モル%含有するメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体の評価結果を表1にまとめた。
【0078】
(比較例2)
市販フッ素樹脂であるポリフッ化ビニリデン(呉羽化学工業製、KFポリマー)の評価結果を表1にまとめた。
【0079】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体に、下記一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物を反応させて得られることを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体。
【化1】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化2】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【化3】

(ここで、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基であり、nは0〜10の整数を表す。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(4)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体。
【化4】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化5】

(ここで、R6およびR7は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基、nは0〜10の整数を表す。)
【請求項3】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(5)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体。
【化6】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化7】

(ここで、R8およびR9は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基、nは0〜10の整数を表す。)
【請求項4】
水の接触角が80度以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体。
【請求項5】
ヘキサデカンの接触角が40度以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体。
【請求項6】
水の接触角が80度以上、かつ、ヘキサデカンの接触角が40度以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体。
【請求項7】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体に、下記一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物を反応させることを特徴とする含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法。
【化8】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化9】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【化10】

(ここで、Rfは少なくとも1個以上のフッ素原子を含有する炭素数1〜15のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基であり、nは0〜10の整数を表す。)
【請求項8】
水の接触角が80度以上であることを特徴とする請求項7記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法。
【請求項9】
ヘキサデカンの接触角が40度以上であることを特徴とする請求項7記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法。
【請求項10】
水の接触角が80度以上、かつ、ヘキサデカンの接触角が40度以上であることを特徴とする請求項7記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を含有する共重合体を形成した後、t−ブチル基を脱離して前記一般式(1)で表される繰り返し単位と、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体を得ることを特徴とする請求項7〜10に記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法。
【化11】

(ここで、R10およびR11は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【請求項12】
t−ブチル基の脱離と同時に、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と前記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する(メタ)アクリル酸系重合体と前記一般式(3)で表される含フッ素エポキシ化合物を反応させることを特徴とする、請求項11に記載の含フッ素(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2007−169400(P2007−169400A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367252(P2005−367252)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】