説明

含泡食品用粉体組成物

【課題】本発明の目的は米粉を用いた含泡食品用粉体組成物及びそれらから得られる含泡食品の製造を可能にすることである。
【解決手段】うるち米から製粉された米粉100重量部、ベーキングパウダー3〜12重量部及び水溶性食物繊維粉末0.5〜2.5重量部を含んでなり、小麦粉グルテン及び絹フィブロインのいずれも含まない、スポンジ状含泡食品用粉体組成物であって、前記粉体組成物100重量部に水分135重量部を添加して生地としたときの粘度(常温)がせん断速度0.01(/s)で1×102〜4×104(Pa・s)の範囲であるスポンジ状含泡食品用粉体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含泡食品用粉体組成物に関し、更に詳しくは、ホットケーキ、蒸しパンなどの含泡食品の製造に有用な含泡食品用粉体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧風化と多様化に伴い、米飯に代わってパンやスポンジケーキ、マフィン、ラスクなどの小麦粉を原料とした食品の需要が拡大し、米の消費量が減少する傾向にある。このように我国の主要農産物である米の消費量が減少し、小麦の輸入が増大する状況は、食の自給率確保から大いに問題がある。このため、米を原料とする多様な加工食品の開発が強く要請されている。
【0003】
小麦粉は歴史的に非常に古くからパンなどの含泡食品に使用されてきた。小麦粉が原料として使用されてきた理由は水を含み混合した後のグルテンの粘弾性に起因することが知られている。このグルテンの粘弾性的性質はグリアジンとグルテニンという2つのタンパク質が加水した状態で、機械的混合中にぶつかり合うことにより、S−S結合などの新しい架橋ネットワーク構造体が形成されることによる。イースト等で気泡を生成した際、小麦粉グルテン以外の成分は粘度が低いため、気泡の成長変形過程を促進する。そして、気泡が大きく成長した際、壁の肉厚がうすくなるにも関わらず、グルテン成分があることにより大きな気泡の骨格や特有のテクスチャーを形成しこの構造がつぶれることなく保つことができる。ところが一方、うるち米、大麦、ライ麦、マイロ、とうもろこし等、小麦以外の穀物粉にはこのグルテン成分が含まれていない。このため、パンに代表される含泡食品は、小麦粉を使わず、100%米のみの主原料からつくるのはできないものとされてきた。このため米粉は、古来より、団子、白玉、柏餅、草餅などの気泡構造を有しない、柔弾性緻密構造加工食品に利用されるのが一般的で、パンなどの含泡食品に加工されることはほとんどなかった。
【0004】
近年、米を原料とする多様な加工食品の開発要請から米粉を用いたパン類の製造をしようとする研究が各方面でなされ、例えば特許文献1(パン生地用米粉)、特許文献2(米粉を用いたパンの製造方法)、特許文献3(米粉及びそれを用いた加工食品の製造方法)、特許文献4(新規なパン及び新規なパンの製造方法)、特許文献5(パンの製造方法及び冷凍パン並びに冷凍パン生地)、特許文献6(パン及びその製造方法)などが提案されている。これらの提案は、いずれも小麦粉を部分的に米粉に置き換えたもの、或いは小麦粉のグルテンと米粉を組み合わせ、気泡が生成成長するプロセスにおいて、小麦粉由来のグルテン構造の助けを借りて、気泡を成長させようとする発想であった。これらも米粉を利用した含泡食品ではあるが、小麦粉のグルテン以外のでんぷん成分を、米粉のでんぷん成分で置き換えただけの処理であり、米粉を原料とした画期的な食品とはいいがたい。
【0005】
また、古くから玄米パンがあるが、これも上述のものと同様の発想であり、例えば特許文献7(イースト発酵食品組成物)、特許文献8(パンの製造法)、特許文献9(低蛋白パン用澱粉組成物及び低蛋白パンの製造法)などが提案されている。これらの提案は、小麦粉の一部を馬鈴薯澱粉などのでんぷんに置き換えた技術に関するものであるが、これらも、上記と同様、主原料は小麦粉であり、米粉を使用した画期的な食品とはいいがたいものである。
【0006】
一方、近年米粉を主原料にして小麦粉を使わない含泡米粉食品の開発も、その数は非常に少ないが、いくつかの例がある。例えば特許文献10(米粉パンの製造方法)は、米粉パンの海綿構造形成に必要な被膜性物として、餅米をアルファー化した糊状物に、水飴やマルトトリオース、イサゴール、キタサン、グアー、納豆菌粘質物などのような高分子粘性食品を混和して発酵させた複合体を用いる方法を提案している。これも高分子粘性食品が不足している粘弾性を補充して複合体に構成したものである。確かに小麦粉のグルテンは、混入されていないが、それに代わる性質を有する高分子粘性食品を加えるもので、発想としては前記のものと共通である。
【0007】
特許文献11(複合化含泡米粉材料とこれを用いた含泡米粉食品)の提案では、米粉を主原料とし、これに精製絹フィブロインをグルテンに代えて加えることにより含泡米粉食品を調製している。これも泡の安定化促進のため精製絹フィブロインを補充添加しているもので、添加物質に工夫はあるが、前記発想は前記のものと共通している。尚、この実施例からは、ベーキングパウダーを用いない場合のケーキ起泡には精製絹フィブロインは有効であるが、パンのように発酵によって泡の生成と成長をともなう発泡プロセスをともなうとき、泡の安定性にどう寄与するかに関しては全く示されていない。
【0008】
従来、米粉には、小麦粉のようにグルテンが殆ど無く、他に粘弾性物質が含まれていないので、架橋ネットワーク構造体は形成されないとされていたが、本発明者らは、鋭意研究開発の結果、米粉を主原料とするだけでスポンジ状の架橋ネットワーク構造体を形成できる方法と技術的知見を見出し、先に提案した(特願2001−393219号出願参照)。この提案は米粉に酵母と水を加えた主原料と必要に応じて品質改善材や風味改善材を副原料として加えただけの材料を用いた生地で架橋ネットワーク構造体を形成するもので、この生地の粘度を従来にない柔らかさに調整した含泡食品用生地と、その生地をつくるための含泡食品用の調製米粉原料と、それらを用いた米粉を主原料とする含泡食品と、その代表例である米粉を主原料とするパンとその製造方法とを具現化したものである。
【0009】
【特許文献1】特開平5−68468号公報
【特許文献2】特開平6−7071号公報
【特許文献3】特開平11−32706号公報
【特許文献4】特開平7−8158号公報
【特許文献5】特開平9−51754号公報
【特許文献6】特開平11−225661号公報
【特許文献7】特開2000−023614号公報
【特許文献8】特開平5−049386号公報
【特許文献9】特開平5−007448号公報
【特許文献10】特開平5−130827号公報
【特許文献11】特開2001−69925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、小麦のグルテンや絹フィブロインなどの架橋ネットワーク構造体形成のための添加剤を用いることなく、米粉を用いた含泡食品用粉体組成物及びそれから得られる含泡食品の製造を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に従えば、うるち米から製粉された米粉100重量部、ベーキングパウダー3〜12重量部及び水溶性食物繊維粉末を0.5〜2.5重量部含んでなり、小麦粉グルテン及び絹フィブロインのいずれも含まない、スポンジ状含泡食品用粉体組成物であって当該粉体組成物100重量部に水分135重量部を添加して生地としたときの粘度(常温)がせん断速度0.01(/s)で1×102〜4×104(Pa・s)であるスポンジ状含泡食品用粉体組成物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従えば、小麦のグルテンや絹フィブロインなどの架橋ネットワーク構造体形成のための添加剤を用いることなく、特定量比の、うるち米から製粉された米粉、ベーキングパウダー及び水溶性食物繊維粉末を必須成分として含み、さらに必要に応じて副材料を添加した粉体組成物が、良好な発泡が可能になり、焼成したり、蒸したり、電子レンジで加熱したりすることにより、スポンジ状の架橋ネットワーク構造体が形成され、固定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に従った含泡食品用粉体組成物は、小麦のグルテンや絹フィブロインなどの架橋ネットワーク構造体形成のための添加剤を用いることなく、うるち米から製粉された米粉、ベーキングパウダー及び水溶性食物繊維粉末を必須成分として含み、さらに必要に応じて副材料を含む。この粉体組成物は、粉体組成物100重量部に対して水分135重量部を添加して生地にした場合に、せん断速度0.01(/s)での粘度が常温で1×102〜4×104(Pa・s)となり、これを使用すると、良好な発泡が可能になり、しかもかかる粘度領域にある生地にした場合には、焼成したり、蒸したり、電子レンジで加熱したりすることにより、スポンジ状の架橋ネットワーク構造体が形成され、それが固定されるので好ましい。
【0014】
本発明者は、このようにして見出された新しい技術知見を利用して、米粉独特の風味を生かしたホットケーキ、蒸しパン等の新しい含泡食品を容易に製造することに成功した。このように、本発明は、小麦粉とは異なる独特の風味と味を持ったうるち米から製粉された米粉を主原料として用いた含泡食品用粉体組成物及びそれを用いた含泡食品に関するものである。
【0015】
うるち米から製粉された米粉とは、市販されている上新粉や上粉をいう。また、この米粉は、清酒における精米時にも大量に生成される米粉も含む。たとえば、清酒醸造元の極上粉や上粉などである。尚、上新粉は、瞬時に粉砕されていて熱がかかっていないものであり、これに対し上粉は、長時間熱がかかっているため、澱粉が糊化していて粘り気を有しているというようにその物性は大きく異なっている。従ってこれら上新粉と上粉を混合することにより粘性を調整できるだけでなく、加熱することにより更に粘性が強化するなどその物性が複雑化しており、酵母の作用で発酵させた際の発泡膨張性に大きな影響を与えるものである。また、一般の粉砕機械でも容易に米を粉砕することができ、これらの米粉も含む。これらは、粉砕の粒の大きさや、粉砕プロセスの条件で、米粉は水を含ませたときの粘度が著しく異なる。このため、米粉と水分の比を調節することで、いろいろな米粉を単独又は組み合わせて使用することができる。例えば、うるち米からなる米粉が、上新粉と上粉を混合したものである場合には、粘度が高くなるので、含泡食品製造時に発泡し得る粘弾性を保持させるのが容易になるので含泡食品用により向いている原料となる。
【0016】
本発明を使った含泡食品用粉体組成物は、前記必須成分に加えて、風味改善材として、大豆粉末、玄米粉末、馬鈴薯粉末、そば粉末、大麦粉末、青葉粉末、抹茶粉末、野菜粉末、海草粉末などを含むことができる。
【0017】
ここでいう大豆粉末とは、粉末状分離大豆蛋白質粉末、構造性繊維状大豆蛋白、粒状大豆蛋白、粉末状濃縮大豆蛋白などをいう。大豆蛋白質はイソフラボンの供給源として知られており、大腸ガン、前立腺ガンなどの発生率を低下させることがしられている。また、最近のアメリカ食品医薬局(FDA)によると心臓病の予防食品として効果があることが知られている。粉末状分離大豆蛋白質粉末は水に良好に膨潤分散し、水と粉末状分離大豆蛋白質粉末の重量比又はその粉末状分離大豆蛋白質粉末のグレードにより、粘度が調節可能である。また、馬鈴薯澱粉とは、市販の片栗粉として売られているもので、粒の大きさや水の量で粘度調節が可能である。そのほか、既存の食味改良材料とは、従来の小麦粉のパンに少量添加し利用されてきた、きな粉、ライ麦、大麦等も含む。
【0018】
本発明に従えば、うるち米から製粉された米粉、特に上新粉と上粉とを混合した含泡食品用の調製米粉原料に、従来から知られている一般的なベーキングパウダー及び水溶性食物繊維粉末を必須成分として、さらに前記風味改善材、食塩、粉末状糖類、粉末状乳製品などを任意成分として加えて得られる粉状体原料のみを組み合わせ調合した含泡食品用の粉末状基礎調製原料である。これらは混合してもそれだけでは反応したり、物性が変化したりすることがない。従って、このような粉末状基礎調製原料の形として商品化し、流通させ、保存しておき、含泡食品を製造しようとする際に、水、又は水及び卵、を加えて混合し、通常の方法で蒸すか、又は電子レンジなどで加熱する(例えば500〜700Wで30秒〜3分間)のみで簡便に目的の含泡食品を製造することが出来る。
【0019】
本発明に従った含泡食品用粉体組成物は、うるち米から製粉された米粉に、ベーキングパウダー及び水溶性食物繊維粉末、必要に応じて糖類、油脂類、乳製品、卵、その他の品質改善材又は風味改善材といった副原料を加え、これに水を加えて、混合・混捏することにより当該混合原料が均一に分散・混合させて、得られた粉末100重量部に対して水分135重量部添加して生地としたときのせん断速度0.01(/s)での粘度が常温で1×102〜4×104(Pa・s)となるような含泡食品用生地となし得るものが好ましい。本発明の含泡食品用粉体組成物は、前期粉体組成物に水、又は水及び卵、を加え、蒸すか又は電子レンジで加熱するなどの手段で加熱処理をし、架橋ネットワーク構造体を形成させて米粉を主原料とする含泡食品を製造できる。
【0020】
本発明に従った含泡食品用粉体組成物は、特にその配合比に限定はないが、例えば、米粉100重量部当り、ベーキングパウダーを、好ましくは3〜12重量部、更に好ましくは5〜10重量部、水溶性食物繊維を、好ましくは0.5〜2.5重量部、更に好ましくは1.0〜1.5重量部を配合する。
【実施例】
【0021】
以下実施例に従って、本発明の内容を更に詳しく説明するが、本発明をこれらの実施例に限定をするものでないことはいうまでもない。
実施例1〜3及び比較例1
表Iに示す配合(重量部)の配合成分のうち、水、又は水及び卵を除く粉体成分を常温で混合攪拌した。得られた混合粉末100重量部に対して水135重量部を添加した生地としたとき、せん断速度0.01(/s)での粘度は1×102〜4×104(Pa・s)の範囲内であった。
【0022】
【表1】

【0023】
表I脚注
上新粉:株式会社波里製上新粉
上粉:東光株式会社製上粉
玄米粉:東京ビブレ製ぬかっぷ
強力粉:日清製粉製カメリヤ
脱脂粉乳:よつ葉乳業株式会社製スキムミルク
増粘剤:大日本製薬製グリロイド3S
上白糖:新三井製糖株式会社製スプーン印 上白糖
粉体油脂:ミヨシ油脂製マジカルソフト
ベーキングパウダー:愛国産業株式会社製アイコク赤缶
塩:マルニ株式会社製エンリッチ
卵:山田鶏卵(米沢市)製卵
【0024】
上で得た粉末混合物の生地をカップに100ml入れ、これに表Iに示す量の水、又は水及び卵、を加えて、混合し、電子レンジ(500W〜700W)で1分間加熱した。得られた含泡食品は、実施例1〜3のものはカップ毎スプーンで食することができる、おいしいものが得られたに対して、比較例1では小麦粉中のグルテンが表面に架橋構造体の膜を形成し、カップのままではスプーンで食することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に従えば、うるち米のみから製粉された米粉を主原料とする含泡食品用粉体組成物を用いて、ホットケーキ、蒸しパンなどの含泡食品を簡単に製造できる方法が提供される。しかも、この粉体組成物はグルテンを含まないので、カップなどの容器に入れた場合に、生地にグルテンを含む粉体のような強固な架橋膜が生成しないため、そのままカップ毎スプーンなどを用いて食することが可能で、これは従来の小麦粉では得られない特徴である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
うるち米から製粉された米粉100重量部、ベーキングパウダー3〜12重量部及び水溶性食物繊維粉末0.5〜2.5重量部を含んでなり、小麦粉グルテン及び絹フィブロインのいずれも含まない、スポンジ状含泡食品用粉体組成物であって、前記粉体組成物100重量部に水分135重量部を添加して生地としたときの粘度(常温)がせん断速度0.01(/s)で1×102〜4×104(Pa・s)の範囲であるスポンジ状含泡食品用粉体組成物。
【請求項2】
前記米粉が上新粉又は上粉である請求項1に記載のスポンジ状含泡食品用粉体組成物。

【公開番号】特開2006−271398(P2006−271398A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188277(P2006−188277)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【分割の表示】特願2005−227271(P2005−227271)の分割
【原出願日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【出願人】(302042298)パウダーテクノコーポレーション有限会社 (5)
【Fターム(参考)】