説明

含硫α−アミノ酸化合物の製造法

【課題】メチオニン等の含硫α-アミノ酸化合物の新たな製造法等を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式中、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)で示される含硫アミノアルコール化合物を対応する含硫α−アミノ酸化合物に変換する能力を有する微生物を、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養することにより、前記微生物の菌体を得る第一工程、及び、第一工程により得られた微生物の菌体又はその菌体処理物を、前記含硫アミノアルコール化合物に作用させる第二工程を有する、一般式R−S−CH−CH−CH(NH)−COOHで示される含硫α-アミノ酸化合物の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫α−アミノ酸化合物の製造法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、含硫α-アミノ酸化合物の一つであるメチオニンは、動物用飼料添加物として利用されている。当該化合物を製造するには、アクロレインとメチルメルカプタンとを反応させて3−メチルチオプロピオンアルデヒドにし、これをさらに青酸、アンモニア及び二酸化炭素と反応させて5−(2−メチル−メルカプトエチル)−ヒダントイン(メチオニンヒダントイン)にする。最終的にこれをアルカリにより加水分解してアルカリ金属メチオニン酸塩にし、次いで酸、例えば硫酸又は炭酸を用いて中和することによってメチオニンを遊離させる(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55−102557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記製造法は、青酸及びアクロレインをC1−又はC3−構成要素として使用するが、これらの原料化合物の取り扱いには充分な管理やそれに適合する設備等が必要である。
そこで、例えば、メチオニン等の含硫α-アミノ酸化合物の新たな製造法が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、このような状況下鋭意検討を行った結果、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1. 一般式(1)
【0006】
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)
で示される含硫アミノアルコール化合物を対応する含硫α−アミノ酸化合物に変換する能力を有する微生物(以下、本微生物と記すこともある。)を、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養することにより、前記微生物の菌体(以下、本触媒微生物と記すこともある。)を得る第一工程、及び、
第一工程により得られた微生物の菌体又はその菌体処理物を、前記含硫アミノアルコール化合物に作用させる第二工程
を有することを特徴とする、一般式(2)
【0007】
【化2】

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される含硫α-アミノ酸化合物の製造法(以下、本発明製造法と記すこともある。);
2. 前記微生物が、含硫アミノアルコール化合物が有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力を有する微生物であることを特徴とする前項1記載の製造法;
3. 前記微生物が、アルカリジェネス(Alcaligenes)属に属する微生物、バシラス(Bacillus)属に属する微生物、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物及びロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物からなる群より選ばれる1以上の微生物であることを特徴とする前項1記載の製造法。
4. 前記微生物が、下記の微生物群から選ばれる1以上の微生物であることを特徴とする前項1記載の製造法;
<微生物群>
アルカリジェネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)、アルカリジェネス・エウトロパス(Alcaligenes eutrophus)、アルカリジェネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)、アルカリジェネス・エスピー(Alcaligenes sp.)、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxydans)、バシラス・アルベイ(Bacillus alvei)、バシラス・バディウス(Bacillus badius)、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バシラス・ファーマス(Bacillus firmus)、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・モリタイ(Bacillus moritai)、バシラス・プミルス(Bacillus pumilus)、バシラス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)、バシラス・バリダス(Bacillus validus)、シュードモナス・デニトリカンス(Pseudomonas denitrificans)、シュードモナス・フィクセレクタ(Pseudomonas ficuserectae)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)、シュードモナス・メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)、シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis)、シュードモナス・シュードアルカリジェネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・プトレファシエンス(Pseudomonas putrefaciens)、シュードモナス・リボフラビナ(Pseudomonas riboflavina)、シュードモナス・ストラミネア(Pseudomonas straminea)、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)、シュードモナス・タバシ(Pseudomonas tabaci)、シュードモナス・タエトロレンス(Pseudomonas taetrolens)、シュードモナス・ベシキュラリス(Pseudomonas vesicularis)、ロドバクター・スファエロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus groberulus)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)及びロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)
5. 含硫アミノアルコール化合物及び含硫α-アミノ酸化合物におけるRが、炭素数1〜8のアルキル基である前項1乃至4のいずれかの前項記載の製造法;
6. 含硫アミノアルコール化合物及び含硫α-アミノ酸化合物におけるRが、メチル基である前項1乃至4のいずれかの前項記載の製造法;
7. 低級脂肪族アルコールが、炭素数1〜5の鎖状若しくは分岐の脂肪族アルコールである前項1乃至6のいずれかの前項記載の製造法;
8. 低級脂肪族アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール及び1,3−ブタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコールである前項1乃至6のいずれかの前項記載の製造法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、メチオニン等の含硫α-アミノ酸化合物の新たな製造法等を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載される発明は記載されている特定の方法論、プロトコ−ル、及び、試薬に限定されず、可変であると考えられる。また、本明細書で用いる用語は単に特定の実施形態を記載するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではないと考えられる。
特に断りの無い限り、本明細書で用いる全ての技術用語、及び、化学用語は、本発明が属する技術分野の熟練者に共通に理解されているものと同じ意味を持つ。本発明を実施又は試験する上で、本明細書に記載されているものと同様又は同等の方法、及び、材料のいずれを用いてもよいが、以下、好ましい方法、装置、及び、材料を記載する。
【0010】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
本発明製造法は、一般式(1)
【0011】
【化3】

(式中、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)
で示される含硫アミノアルコール化合物(以下、化合物(1)と記すこともある。)を対応する含硫α−アミノ酸化合物
(即ち、一般式(2)
【0012】
【化4】

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)(以下、化合物(2)と記すこともある。)
で示される含硫α-アミノ酸化合物)
に変換する能力を有する微生物を、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養することにより、前記微生物の菌体を得る第一工程、及び、
第一工程により得られた微生物の菌体又はその菌体処理物を、前記含硫アミノアルコール化合物に作用させる第二工程を含む。
【0013】
ここで、化合物(1)及び化合物(2)において、Rで示される「炭素数1〜8のアルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基を挙げることができる。また、Rで示される「炭素数6〜20のアリール基」としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
好ましいRとしては、例えば、炭素数1〜8のアルキル基等が挙げられる。より好ましいRとしては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0014】
本発明製造法の第一工程において用いられる培地に含まれる「低級脂肪族アルコール」としては、例えば、炭素数1〜5の鎖状若しくは分岐の脂肪族アルコール等を挙げることができる。具体的には例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等を挙げることができる。好ましくは、1-プロパノール、1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等が挙げられる。
尚、このような各種の低級脂肪族アルコール類を適当な比率に混合して用いてもよい。
【0015】
尚、本発明製造法の第一工程において、本微生物の菌体を、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養する方法については後述する。
【0016】
本発明製造法において用いられる触媒としての、(前記含硫アミノアルコール化合物が有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力を有する)微生物の菌体又はその菌体処理物は、化合物(1)を化合物(2)に変換する能力を有し、且つ、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養することにより、ヒドロキシル基を優先的に酸化する活性が向上する能力を有する。
ここで「優先的に酸化する」とは、含硫アミノアルコール化合物のスルフィド酸化よりもヒドロキシル基の酸化が優先的に進行するという意味である。
【0017】
このような能力を有する微生物(即ち、本微生物)としては、アルカリジェネス(Alcaligenes)属に属する微生物、バシラス(Bacillus)属に属する微生物、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物及びロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物からなる群より選ばれる1以上の微生物を挙げることができる。
また、このような能力を有する微生物(即ち、本微生物)としては、下記の微生物群から選ばれる1以上の微生物を挙げることができる。
<微生物群>
アルカリジェネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)、アルカリジェネス・エウトロパス(Alcaligenes eutrophus)、アルカリジェネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)、アルカリジェネス・エスピー(Alcaligenes sp.)、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxydans)、バシラス・アルベイ(Bacillus alvei)、バシラス・バディウス(Bacillus badius)、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バシラス・ファーマス(Bacillus firmus)、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・モリタイ(Bacillus moritai)、バシラス・プミルス(Bacillus pumilus)、バシラス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)、バシラス・バリダス(Bacillus validus)、シュードモナス・デニトリカンス(Pseudomonas denitrificans)、シュードモナス・フィクセレクタ(Pseudomonas ficuserectae)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)、シュードモナス・メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)、シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis)、シュードモナス・シュードアルカリジェネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・プトレファシエンス(Pseudomonas putrefaciens)、シュードモナス・リボフラビナ(Pseudomonas riboflavina)、シュードモナス・ストラミネア(Pseudomonas straminea)、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)、シュードモナス・タバシ(Pseudomonas tabaci)、シュードモナス・タエトロレンス(Pseudomonas taetrolens)、シュードモナス・ベシキュラリス(Pseudomonas vesicularis)、ロドバクター・スファエロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus groberulus)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)及びロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)
【0018】
更に、このような能力を有する好ましい微生物としては、例えば、下記の微生物群から選ばれる1以上の微生物を挙げることができる。
<好ましい微生物群>
アルカリジェネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)JCM5490、アルカリジェネス・エウトロパス(Alcaligenes eutrophus)ATCC43123、アルカリジェネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)IFO12669、アルカリジェネス・エスピー(Alcaligenes sp.)IFO14130、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxydans)IFO15125t、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxydans)IFO15126t、バシラス・アルベイ(Bacillus alvei)IFO3343t、バシラス・バディウス(Bacillus badius)ATCC14574t、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)JCM2503t、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)JCM2152t、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)JCM2257t、バシラス・ファーマス(Bacillus firmus)JCM2512t、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)ATCC27811、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)IFO12197、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)IFO12200t、バシラス・モリタイ(Bacillus moritai)ATCC21282、バシラス・プミルス(Bacillus pumilus)IFO12092t、バシラス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)IFO3341、バシラス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)IFO3526、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)ATCC14593、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)ATCC15841、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3108、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3132、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3026、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3037、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3108、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)IFO3134、バシラス・バリダス(Bacillus validus)IFO13635、シュードモナス・デニトリカンス(Pseudomonas denitrificans)IAM1426、シュードモナス・デニトリカンス(Pseudomonas denitrificans)IAM1923、シュードモナス・フィクセレクタ(Pseudomonas ficuserectae)JCM2400t、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)IAM12402、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)IFO3458t、シュードモナス・メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)IFO14162、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)IFO13583t、シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis)IFO12688、シュードモナス・シュードアルカリジェネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)JCM5968t、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO12996、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO14164t、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO3738、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)IFO12653、シュードモナス・プトレファシエンス(Pseudomonas putrefaciens)IFO3910、シュードモナス・リボフラビナ(Pseudomonas riboflavina)IFO13584t、シュードモナス・ストラミネア(Pseudomonas straminea)JCM2783t、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)IFO14055、シュードモナス・タバシ(Pseudomonas tabaci)IFO3508、シュードモナス・タエトロレンス(Pseudomonas taetrolens)IFO3460、シュードモナス・ベシキュラリス(Pseudomonas vesicularis)JCM1477t、ロドバクター・スファエロイデス(Rhodobacter sphaeroides)ATCC17023、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO12320、ロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus groberulus)ATCC15076、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15076、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15610、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19067、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19149、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19150、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC21197、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC21199、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)JCM3202t、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19070、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19071及びロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148
【0019】
更に、このような能力を有するより好ましい微生物としては、例えば、下記の微生物群から選ばれる1以上の微生物を挙げることができる。
<より好ましい微生物群>
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)IFO12320、ロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus groberulus)ATCC15076、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15076、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC15610、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19067、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19149、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19150、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC21197、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC21199、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)JCM3202t、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19070、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19071及びロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148
【0020】
これら菌株は天然から分離してもよいし、各菌株保存機関より購入することにより容易に入手することができる。
このような菌株を購入できる各菌株保存機関として、例えば、下記の菌株保存機関を挙げることができる。
【0021】
1.IFO(Institute of Fermentation Osaka:財団法人 醗酵研究所)
現在は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 生物遺伝資源部門(NBRC)で取り扱い可能であり、入手に際しては http://www.nbrc.nite.go.jp/NBRC2/NBRCDispSearchServlet?lang=jp にアクセスすればよい。
2.ATCC(American Type Culture Collection)
住商ファーマインターナショナル株式会社 ATCC事業グループで取り扱い可能であり、入手に際しては http://www.summitpharma.co.jp/japanese/service/s_ATCC.html にアクセスすればよい。
3.JCM(理化学研究所微生物系統保存施設 (Japan Collection of Microorganisms, JCM)
現在は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター (RIKEN BRC) 微生物材料開発室に移管されている。入手に際しては http://www.jcm.riken.go.jp/JCM/aboutJCM_J.shtml にアクセスすればよい。
4.IAMカルチャーコレクション
現在は、IAMカルチャーコレクション保存菌株のうち、細菌、酵母、糸状菌の場合には独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)に、また微細藻類の場合には独立行政法人 国立環境研究所微生物系統保存施設(NIES)に移管されている。入手に際しては http://www.jcm.riken.go.jp/JCM/aboutJCM_J.shtml、http://mcc.nies.go.jp/aboutOnlineOrder.do にアクセスすればよい。
【0022】
また、本発明製造法において用いられる触媒としての、(前記含硫アミノアルコール化合物が有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力を有する)微生物の菌体又はその菌体処理物は、化合物(1)を化合物(2)に変換する能力を有し、且つ、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養することにより、ヒドロキシル基を優先的に酸化する活性が向上する能力を有する微生物を探索することにより入手・調製することもできる。
【0023】
<化合物(1)を化合物(2)に変換する能力>
具体的には例えば、試験管に滅菌済み培地5mlを入れ、これに各菌株保存機関より購入することにより入手された菌体又は土壌中から純粋分離することにより調製された菌体を植菌する。これを30℃で好気条件下、振盪培養する。培養終了後、遠心分離により菌体を回収することにより、生菌体を得る。ねじ口試験管に0.1M、Tris-グリシンバッファー(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁する。当該懸濁液に、メチオニノールを2mg添加した後、得られた混合物を30℃で3〜7日間振盪させる。
反応終了後、反応液を1mlサンプリングする。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析する。
このようにして、当該能力を有する微生物を選抜する。
【0024】
<低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養することにより、ヒドロキシル基を優先的に酸化する活性が向上する能力>
具体的には例えば、試験管に滅菌済みの低級脂肪族アルコールの入った培地(1Lの水に、低級脂肪族アルコール5g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これに各菌株保存機関より購入することにより入手された菌体又は土壌中から純粋分離することにより調製された菌体を植菌する。これを30℃で好気条件下、振盪培養する。培養終了後、遠心分離により菌体を回収することにより、生菌体を得る。ねじ口試験管に0.1M、Tris-グリシンバッファー(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁する。当該懸濁液に、メチオニノールを2mg添加した後、得られた混合物を30℃で3〜7日間振盪させる。
反応終了後、反応液を1mlサンプリングする。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析する。
一方、低級脂肪族アルコールを含まない培地で予め培養されていないこと以外は同様な方法で実施された系でのメチオニンの生成量を分析し、得られた分析値を前記「生成したメチオニンの量」と比較することにより、ヒドロキシル基を優先的に酸化する活性が向上する能力を有する微生物を選抜する。
【0025】
次に、本微生物の調製方法について説明する。
本微生物は、炭素源、窒素源、有機塩、無機塩等を適宜含有する各種の微生物を培養するための培地を用いて培養すればよい。
【0026】
炭素源としては、例えば、グルコ−ス、デキストリン、シュ−クロ−ス等の糖類、グリセロ−ル等の糖アルコ−ル、フマル酸、クエン酸、ピルビン酸等の有機酸、動物油、植物油及び糖蜜が挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1%(w/v)〜30%(w/v)程度である。
【0027】
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コ−ン・スティ−プ・リカ−(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のアンモニウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1%(w/v)〜30%(w/v)程度である。
【0028】
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001%(w/v)〜5%(w/v)程度である。
【0029】
培養方法としては、例えば、固体培養、液体培養(試験管培養、フラスコ培養、ジャーファーメンター培養等)が挙げられる。
培養温度及び培養液のpHは、本微生物が生育する範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、培養温度は約15℃〜約45℃の範囲、培養液のpHは約4〜約8の範囲を挙げることができる。培養時間は、培養条件により適宜選択することができるが、通常、約1日間〜約7日間である。
【0030】
このようにして得られた本微生物の菌体を、本発明製造法の第一工程において、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養することにより、前記微生物(即ち、本触媒微生物)の菌体を得ればよい。第一工程により得られた微生物(即ち、本触媒微生物)の菌体又はその菌体処理物は、本発明製造法の第二工程において「本発明製造法の触媒」として用いられる。
【0031】
次に、本発明製造法の第一工程において、本微生物の菌体を、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養する方法について説明する。
本微生物は、炭素源、窒素源、有機塩、無機塩等を適宜含有する各種の微生物を培養するための培地を用いて培養すればよい。ここで用いられる培地に含まれる炭素源としては、低級脂肪族アルコールのみを用いてもよく、また、糖質、炭化水素、有機酸、糖アルコール等との混合系で用いてもよい。
【0032】
本発明製造法の第一工程において用いられる培地に含まれる「低級脂肪族アルコール」としては、前述の如く、例えば、炭素数1〜5の鎖状若しくは分岐の脂肪族アルコール等を挙げることができる。具体的には例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等を挙げることができる。好ましくは、1-プロパノール、1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等が挙げられる。
尚、このような各種の低級脂肪族アルコール類を適当な比率に混合して用いてもよい。
【0033】
炭素源としては、上述の如く、例えば、低級脂肪族アルコールが挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1%(w/v)〜30%(w/v)程度である。
【0034】
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コ−ン・スティ−プ・リカ−(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のアンモニウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1%(w/v)〜30%(w/v)程度である。
【0035】
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001%(w/v)〜5%(w/v)程度である。
【0036】
培養方法としては、例えば、固体培養、液体培養(試験管培養、フラスコ培養、ジャーファーメンター培養等)が挙げられる。
培養温度及び培養液のpHは、本微生物が生育する範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、培養温度は約15℃〜約45℃の範囲、培養液のpHは約4〜約8の範囲を挙げることができる。培養時間は、培養条件により適宜選択することができるが、通常、約1日間〜約7日間である。
【0037】
本触媒微生物の菌体は、そのまま本発明製造法の触媒として用いることができる。本触媒微生物の菌体を用いる方法のうち、本触媒微生物の菌体をそのまま用いる方法としては、例えば、(1)培養液をそのまま用いる方法、(2)培養液を遠心分離等することにより回収された菌体(必要に応じて、緩衝液又は水で洗浄した後の湿菌体)を用いる方法等を挙げることができる。
【0038】
また本発明製造法の触媒として、本触媒微生物の菌体の処理物を用いることもできる。当該処理物としては、例えば、培養して得られた菌体を有機溶媒(アセトン、エタノール等)処理したもの、凍結乾燥処理したもの若しくはアルカリ処理したもの、又は、菌体を物理的若しくは酵素的に破砕したもの、又は、これらのものから分離・抽出された粗酵素等を挙げることができる。さらに、前記処理物には、前記処理を施した後、公知の方法により固定化処理したものも含まれる。
【0039】
具体的な形態としては、例えば、本触媒微生物の菌体、かかる菌体の処理物(例えば、無細胞抽出液、粗精製タンパク質、精製タンパク質及びこれらの固定化物等)を挙げることができる。ここで、菌体の処理物としては、例えば、凍結乾燥微生物、有機溶媒処理微生物、乾燥微生物、微生物摩砕物、微生物の自己消化物、微生物の超音波処理物、微生物抽出物、微生物のアルカリ処理物を挙げることができる。また、固定化物を得る方法としては、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロ−ス、イオン交換樹脂等に本酵素等を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギ−ナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に本酵素等を閉じ込める方法)を挙げることができる。
【0040】
尚、本触媒微生物を用いた工業的な生産を考慮すれば、未処理状態の微生物を用いる方法よりも当該微生物を死滅化させた処理物を用いる方法のほうが製造設備の制限等の点から好ましい場合がある。そのための死菌化処理方法としては、例えば、物理的殺菌法(加熱、乾燥、冷凍、光線、超音波、濾過、通電)や、化学薬品を用いる殺菌法(アルカリ、酸、ハロゲン、酸化剤、硫黄、ホウ素、砒素、金属、アルコ−ル、フェノ−ル、アミン、サルファイド、エ−テル、アルデヒド、ケトン、シアン、抗生物質)を挙げることができる。一般的には、これらの殺菌法のうちできるだけ本酵素の前記「含硫アミノアルコール化合物が有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力」を失活させず、且つ、反応系への残留、汚染等の影響が少ない処理方法を選択することが望ましい。
【0041】
本発明製造法の第二工程は、通常、水の存在下で行われる。この場合の水は、緩衝液の形態であってもよい。当該緩衝液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸のアルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸のアルカリ金属塩や、アルカリ性の緩衝液としてTris−塩酸緩衝液、Tris−クエン酸、Tris−グリシン緩衝液等が挙げられる。
また本発明製造法は、更に疎水性有機溶媒を用いて、水と疎水性有機溶媒との存在下で行うこともできる。この場合に用いられる疎水性有機溶媒としては、例えば、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、n−オクチルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類及びこれらの混合物を挙げることができる。
また本発明製造法の第二工程は、更に親水性有機溶媒を用いて、水と水性媒体との存在下で行うこともできる。この場合に用いられる親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0042】
本発明製造法の第二工程は、通常、水層のpHが3〜11の範囲内で行われるが、反応が進行する範囲内で適宜変化させてもよい。好ましくはアルカリ側で行われることがよく、より好ましくは水層のpHが8〜10の範囲内で行われることがよい。
【0043】
本発明製造法の第二工程は、通常、約0℃〜約60℃の範囲内で行われるが、反応が進行する範囲内で適宜変化させてもよい。
【0044】
本発明製造法の第二工程は、通常、約0.5時間〜約10日間の範囲内で行われる。反応の終点は、原料化合物である一般式(1)で示される含硫アミノアルコール化合物(即ち、化合物(1))の添加終了後、例えば、反応液中の当該一般式(1)で示される含硫アミノアルコール化合物の量を、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等により測定することにより確認することができる。
【0045】
本発明製造法の第二工程における原料化合物である一般式(1)で示される含硫アミノアルコール化合物(即ち、化合物(1))の濃度は、通常、50%(w/v)以下であり、反応系中の当該一般式(1)で示される含硫アミノアルコール化合物の濃度を略一定に保つために、当該一般式(1)で示される含硫アミノアルコール化合物(即ち、化合物(1))を反応系に連続又は逐次加えてもよい。
【0046】
本発明製造法の第二工程では、必要に応じて反応系に、例えば、グルコース、シュークロース、フルクトース等の糖類、又は、TritonX−100若しくはTween60等の界面活性剤等を加えることもできる。
【0047】
反応液からの一般式(2)で表わされる含硫α-アミノ酸化合物の回収は、一般に知られている任意の方法で行えばよい。
例えば、反応液の有機溶媒抽出操作、濃縮操作、イオン交換法、結晶化法等の後処理を、必要によりカラムクロマトグラフィ−、蒸留等を組み合わせて、行うことにより精製する方法を挙げることができる。
【0048】
尚、本発明製造法の第二工程により得られた一般式(2)で示される含硫アミノ酸化合物は、塩の形であってもよい。
【実施例】
【0049】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0050】
実施例1 (本発明製造法による、含硫アミノアルコール化合物からの含硫α-アミノ酸化合物の製造例)
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、表2〜5で示された各種の低級脂肪族アルコール類5g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これにロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19149(表1)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC19150(表2)、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19070(表3)、または、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)ATCC19148(表4)の各種の菌体を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離により菌体を分離することにより、生菌体を得た。ねじ口試験管に0.1M、Tris−グリシンバッファー(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁した。当該懸濁液に、原料(メチオニノール)を2mg添加した後、得られた混合物を30℃で7〜10日間振盪させた。
反応終了後、反応液を0.5mlサンプリングした。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析した。得られた結果を表1〜4に示す。
(含量分析条件)
カラム:Cadenza CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 100:0
10 100:0
20 50:50
25 50:50
25.1 100:0
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
実施例2 (本発明製造法による、含硫アミノアルコール化合物からの含硫α-アミノ酸化合物の製造例)
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、表5で示された各種の低級脂肪族アルコール類5g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これにロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus groberulus)ATCC15076株を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離により菌体を分離することにより、生菌体を得た。ねじ口試験管に0.1M、Tris−グリシン緩衝液(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁した。当該懸濁液に、原料(メチオニノール)を2mg添加した後、得られた混合物を30℃で4日間振盪させた。
反応終了後、反応液を0.5mlサンプリングした。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析した。得られた結果を表5に示す。
(含量分析条件)
カラム:Cadenza CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 100:0
10 100:0
20 50:50
25 50:50
25.1 100:0
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【0056】
【表5】

【0057】
参考例1 (本微生物による、含硫アミノアルコール化合物からの含硫α−アミノ酸化合物の製造例)
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これに表6で示された各種の菌体を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離により菌体を回収することにより、生菌体を得た。ねじ口試験管に0.1M、Tris-グリシンバッファー(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁した。当該懸濁液に、メチオニノールを2mg添加した後、得られた混合物を30℃で3〜7日間振盪させた。
反応終了後、反応液を1mlサンプリングした。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析した。得られた結果を表6に示す。
(含量分析条件)
カラム:Cadenza CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 100:0
10 100:0
20 50:50
25 50:50
25.1 100:0
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【0058】
【表6】

【0059】
参考例2 (含硫アミノアルコール化合物を対応する含硫α−アミノ酸化合物に変換する能力を有する微生物の探索)
試験管に滅菌済み培地(1Lの水に、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)5mlを入れ、これに、各菌株保存機関より購入することにより入手された菌体又は土壌中から純粋分離することにより調製された菌体を植菌する。これを30℃で好気条件下、振盪培養する。培養終了後、遠心分離により菌体を回収することにより、生菌体を得る。ねじ口試験管に0.1M、Tris-グリシンバッファー(pH10)を2ml入れ、これに上記の生菌体を加えた後、懸濁する。当該懸濁液に、メチオニノールを2mg添加した後、得られた混合物を30℃で3〜7日間振盪させる。
反応終了後、反応液を1mlサンプリングする。当該サンプリング液から菌体を除去した後、生成したメチオニンの量を液体クロマトグラフィーにより分析する。
このようにして、含硫アミノアルコール化合物を対応する含硫α−アミノ酸化合物に変換する能力を有する微生物を選抜する。
(含量分析条件)
カラム:Cadenza CD−C18(4.6mmφ×15cm、3μm)(Imtakt社製)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 メタノール
時間(分) A液(%):B液(%)
0 100:0
10 100:0
20 50:50
25 50:50
25.1 100:0
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:220nm
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、メチオニン等の含硫α-アミノ酸化合物の新たな製造法等を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)
で示される含硫アミノアルコール化合物を対応する含硫α−アミノ酸化合物に変換する能力を有する微生物を、低級脂肪族アルコールを含む培地で予め培養することにより、前記微生物の菌体を得る第一工程、及び、
第一工程により得られた微生物の菌体又はその菌体処理物を、前記含硫アミノアルコール化合物に作用させる第二工程
を有することを特徴とする、一般式(2)
【化2】

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される含硫α-アミノ酸化合物の製造法。
【請求項2】
前記微生物が、含硫アミノアルコール化合物が有するヒドロキシル基を優先的に酸化する能力を有する微生物であることを特徴とする請求項1記載の製造法。
【請求項3】
前記微生物が、アルカリジェネス(Alcaligenes)属に属する微生物、バシラス(Bacillus)属に属する微生物、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物、ロドバクター(Rhodobacter)属に属する微生物及びロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物からなる群より選ばれる1以上の微生物であることを特徴とする請求項1記載の製造法。
【請求項4】
前記微生物が、下記の微生物群から選ばれる1以上の微生物であることを特徴とする請求項1記載の製造法。
<微生物群>
アルカリジェネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)、アルカリジェネス・エウトロパス(Alcaligenes eutrophus)、アルカリジェネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)、アルカリジェネス・エスピー(Alcaligenes sp.)、アルカリジェネス・キシロソキシダンス(Alcaligenes xylosoxydans)、バシラス・アルベイ(Bacillus alvei)、バシラス・バディウス(Bacillus badius)、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バシラス・ファーマス(Bacillus firmus)、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・モリタイ(Bacillus moritai)、バシラス・プミルス(Bacillus pumilus)、バシラス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)、バシラス・サチルス(Bacillus subtilis)、バシラス・バリダス(Bacillus validus)、シュードモナス・デニトリカンス(Pseudomonas denitrificans)、シュードモナス・フィクセレクタ(Pseudomonas ficuserectae)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)、シュードモナス・メンドーシナ(Pseudomonas mendocina)、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)、シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis)、シュードモナス・シュードアルカリジェネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・プトレファシエンス(Pseudomonas putrefaciens)、シュードモナス・リボフラビナ(Pseudomonas riboflavina)、シュードモナス・ストラミネア(Pseudomonas straminea)、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)、シュードモナス・タバシ(Pseudomonas tabaci)、シュードモナス・タエトロレンス(Pseudomonas taetrolens)、シュードモナス・ベシキュラリス(Pseudomonas vesicularis)、ロドバクター・スファエロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus groberulus)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)及びロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)
【請求項5】
含硫アミノアルコール化合物及び含硫α-アミノ酸化合物におけるRが、炭素数1〜8のアルキル基である請求項1乃至4のいずれかの請求項記載の製造法。
【請求項6】
含硫アミノアルコール化合物及び含硫α-アミノ酸化合物におけるRが、メチル基である請求項1乃至4のいずれかの請求項記載の製造法。
【請求項7】
低級脂肪族アルコールが、炭素数1〜5の鎖状若しくは分岐の脂肪族アルコールである請求項1乃至6のいずれかの請求項記載の製造法。
【請求項8】
低級脂肪族アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1,2−ブタンジオール及び1,3−ブタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコールである請求項1乃至6のいずれかの請求項記載の製造法。

【公開番号】特開2012−10635(P2012−10635A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149338(P2010−149338)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】