説明

含硫黄ポルフィリン金属錯体

【課題】SOD活性等が高く、より使用しやすい新規なポルフィリン金属錯体を提供すること。
【解決手段】 次の式(I)
【化1】


(式中、Rは、ジアルキルスルホニオフェニル基を示し、Mは、鉄、マンガン、コバルト、クロム、イリジウムから選ばれる金属原子を示す)
で表される含硫黄ポルフィリン金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含硫黄ポルフィリン金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多くのポルフィリン金属錯体が知られており、これらは高いSOD活性を有することから、抗酸化剤や、抗癌剤としての利用が検討されている。また、ポルフィリン金属錯体を電着させた電極を用いた活性酸素種用センサーも本発明者らにより報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】WO 03/054536 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、よりSOD活性等が高く、より使用しやすいポルフィリン金属錯体に対する要求は依然として高く、本発明はこのような要求に応えうる新規なポルフィリン金属錯体を見出すことをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、新しいポルフィリン金属錯体を合成すべく鋭意検討を行った。そして、その過程で、カチオン性の高いポルフィリン金属錯体は、ス−パーオキシドアニオンラジカルのようなアニオン性の活性酸素種と反応性が高いと予想し、カチオン性の高い基をポルフィリン骨格中に導入すべく研究を重ねた。そしてその結果、アルキルチオフェニル基をポルフィリン骨格中に導入することは可能であり、更にこのアルキルチオフェニル部分をカチオン化することにより、従来のポルフィリン金属錯体よりもカチオン性の高いポルフィリン金属錯体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明は、次の式(I)
【化3】

(式中、Rは、ジアルキルスルホニオフェニル基を示し、Mは、鉄、マンガン、コバルト、クロムおよびイリジウムから選ばれる金属原子を示す)
で表される含硫黄ポルフィリン金属錯体である。
【0006】
また本発明は、次の式(II)
【化4】

(式中、R'は、アルキルチオフェニル基またはジアルキルスルホニオフェニル基を示す)
で表される含硫黄ポルフィリン化合物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の含硫黄ポルフィリン金属錯体(I)は、カチオン基であるジアルキルスルホニオ基を有するので、アニオン性であるス−パーオキシドアニオンラジカルのようなアニオン性の活性酸素種と反応性が高く、これを消去する作用を有するので、抗酸化剤や抗癌剤として利用しうるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明化合物において、RおよびR'のジアルキルスルホニオフェニル基は、フェニル基に、カチオン化したイオウ原子を含むジアルキルスルホニオ基が置換したものであり、その具体例としては、2−ジメチルスルホニオフェニル基、4−ジメチルスルホニオフェニル基、2,4−ビス(ジメチルスルホニオ)フェニル基、2,4,6−トリス(ジメチルスルホニオ)フェニル基等が挙げられる。また、R'のアルキルチオフェニル基の具体例としては、2−メチルチオフェニル基、4−メチルチオフェニル基、2,4−ビス(メチルチオ)フェニル基、2,4,6−トリス(メチルチオ)フェニル基等が挙げられる。
【0009】
なお、RおよびR'は、その全てがジアルキルスルホニオフェニル基ないしアルキルチオフェニル基であってもよいが、大部分が上記基でありその一部が他の基であっても良い。この場合の他の基の例としては、炭素数1ないし6のアルキル基、フェニル基、チオフリル基等のアリル基および水素原子が挙げられる。
【0010】
また、Mの金属としては、鉄、マンガン、コバルト、クロムおよびイリジウムから選ばれるものであり、このうち、鉄およびマンガンが好ましい。
【0011】
本発明の含硫黄ポルフィリン金属錯体(I)は、式(III)
【化5】

で表されるピロールと、式(IV)
【化6】

(式中、R'は、アルキルチオフェニル基を示す)
で表されるアルキルチオベンズアルデヒドを反応させて、式(IIa)
【化7】

(式中、R'は、前記と同じ意味を有する)
で表される含硫黄ポルフィリン化合物とし、次いで、これにアルキル化剤(V)
【化8】

(式中、Rは、低級アルキル基を示し、Xは遊離アニオン基を示す)
を反応させて、式(IIb)
【化9】

(式中、R'は、ジアルキルスルホニオフェニル基を示す)
で表されるカチオン化含硫黄ポルフィリン化合物とした後、これを金属と錯体化させることにより製造される。
【0012】
ピロール(III)と、アルキルチオベンズアルデヒド(IV)の反応は、これらをモル比で、1:1ないし1:1.5程度使用し、プロピオン酸等の適当な溶媒中、80ないし90℃の温度で、0.5ないし3時間撹拌することにより行われる。
【0013】
上記反応で得られた含硫黄ポルフィリン化合物(IIa)のアルキル化は、含硫黄ポルフィリン化合物(IIa)中のアルキルチオフェニル基の数に応じたモル数のアルキル化剤(V)を使用して行われる。すなわち、含硫黄ポルフィリン化合物(IIa)中のアルキルチオフェニル基の数が、4である場合は、含硫黄ポルフィリン化合物(IIa)1モルに対し、4モルないしそれ以上のアルキル化剤を使用すれば良く、同様に、アルキルチオフェニル基の数が、8である場合は、含硫黄ポルフィリン化合物(IIa)1モルに対し、アルキル化剤を8モルないしそれ以上使用すればよい。
【0014】
また使用されるアルキル化剤としては、公知のアルキル化剤が使用され、その例としては、トリフルオロメタンスルホン酸メチル(FMS−metyl)、臭化メチル、臭化エチル等が利用できる。更に、その反応条件も、メチル化剤(V)に応じた、一般的な条件で良い。
【0015】
上記反応で、含硫黄ポルフィリン化合物(IIa)がアルキル化された結果、カチオン化含硫黄ポルフィリン化合物(IIb)が得られるが、この化合物と金属を反応させて錯体化するには、カチオン化含硫黄ポルフィリン化合物(IIb)と錯体化させる金属の塩とを含む水溶液を、100℃程度の温度で、0.5ないし4時間程度撹拌、混合すればよい。この際の、カチオン化含硫黄ポルフィリン化合物(IIb)と金属塩は、それらのモル比で1:1〜1:10程度とすればよい。
【0016】
上記のようにして得られる含硫黄ポルフィリン金属錯体(I)は、必要により更に精製し、種々の目的に使用することができる。この精製手段としては、再結晶、カラム分離等の方法を挙げることができる。
【0017】
かくして得られる本発明の含硫黄ポルフィリン金属錯体(I)は、後記試験例で示すように、従来のポルフィリン金属錯体と比べ、優れた活性酸素消去作用を有し、しかも細胞毒性がないものである。従って、抗酸化剤や抗癌剤等の医薬として利用可能性のあるものである。
【0018】
また、このものは、カチオン性が高いため、電極上へある程度の厚みで電着させることが可能であり、活性酸素種用センサーにおいても利用できるものである。
【実施例】
【0019】
以下実施例およびを挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。
【0020】
実 施 例 1
(1)5,10,15,20−テトラキス(4−メチルチオフェニル)ポルフィリン
(H4MeSPhP)の合成:
1lビーカー内で、4−メチルチオベンズアルデヒド25g(0.164mol)およびピロール14ml(0.202mol)をプロピオン酸500ml中に溶解させ、攪拌しながら約90℃で1時間反応させた。この後、エバポレーターにて溶媒を留去した。次に分液(水/クロロホルム)を行ない、クロロホルム層を得た。さらに、得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム、充填剤:シリカゲル)で展開(上層を回収)して精製した。得られた溶液をエバポレーターにて溶媒留去し、再結晶(良溶媒:クロロホルム、貧溶媒:ヘキサン)を行なった。その後、減圧乾燥(60℃、12時間)を経て、5,10,15,20−テトラキス(4−メチルチオフェニル)ポルフィリン(HMeSPhP)4.57g(収率13.9%)を得た。
【0021】
H−NMR(CDCl, 500MHz, ppm,δ):
−2.8(s,1H), 2.8(s,12H), 7.62(d,8H), 8.1(d,
8H), 8.9(s,8H).
MS(FAB,m/z) :
計算値 M799 ; 実測値 799.
UV−vis.(λmax, nm, CDCl):
425, 514, 553, 590, 649。
【0022】
(2)5,10,15,20−テトラキス(4−ジメチルスルホニオフェニル)ポル
フィリン(H4Me2+SPhP)の合成:
100mlナスフラスコ内にて、上記(1)で得たH4MeSPhP 100mとトリフルオロメタンスルホン酸メチル(FMS−methyl)3mlをトリフルオロメタンスルホン酸中、80℃で、8時間反応させた。氷冷した後にジエチルエーテル中に滴下し、沈殿物を吸引ろ過により回収した。さらにろ紙についた沈殿物を水にて流し、回収後にエバポレーターにて溶媒を留去した。その後に減圧乾燥(室温、24時間)を行ない、5,10,15,20−テトラキス(4−ジメチルスルホニオフェニル)ポルフィリン(H4MeSPhP)200mg(収率91.2%)を得た。
【0023】
H−NMR(DO,500MHz,ppm,δ):
3.4(s,24H),8.5(d,8H),8.8(d,8H),8.9(s,
8H).
UV−vis.(λmax,nm,CDCl):
418,510,555,580,633。
【0024】
(3)Mn〔5,10,15,20−テトラキス(4−ジメチルスルホニオフェニル)〕
ポルフィリン(Mn4MeSPhP)の合成:
300mlナスフラスコ内に、上記(2)H4MeSPhP 200mg(1.38×10−4mol)と酢酸マンガン四水和物300mgを取り、水中にて100℃で6時間還流し反応させた。その後エバポレーターにて溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(充填剤:塩基性アルミナ、展開溶媒:メタノール)にて精製した。その後、減圧乾燥(室温、24時間)し、Mn〔5,10,15,20−テトラキス(4−ジメチルスルホニオフェニル)〕ポルフィリン(Mn4MeSPhP)220mg(収率80%)を得た。
【0025】
UV−vis.(λmax,nm,CDCl):
465,560,591。
【0026】
実 施 例 2
(1)5,10,15,20−テトラキス(2−メチルチオフェニル)ポルフィリン
(H2MeSPhP)の合成:
1lビーカー内で、2−メチルチオベンズアルデヒド10g(0.0592mol)およびピロール4.1ml(0.0592mol)をプロピオン酸500ml中に溶解させ、攪拌しながら約90℃で1時間反応させた。この後、エバポレーターにて溶媒を留去した。次に分液(水/クロロホルム)を行ない、クロロホルム層を得た。さらに、得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム、充填剤:シリカゲル)で展開(上層を回収)して精製した。得られた溶液をエバポレーターにて溶媒留去し、再結晶(良溶媒:クロロホルム、貧溶媒:ヘキサン)を行なった。その後、減圧乾燥(60℃、12時間)を経て、5,10,15,20−テトラキス(2−メチルチオフェニル)ポルフィリン(HMeSPhP)230mg(収率2.0%)を得た。
【0027】
H−NMR(CDCl,500MHz,ppm,δ):
−2.5(s,2H),2.2(s,12H),7.3(m,4H),7.5(m,4H
),7.7(m,4H),7.9(m,4H),8.6(s,8H).
MS(FAB,m/z):
計算値 M800 ; 実測値800.
UV−vis.(λmax,nm,CDCl):
425,514,553,590,649。
【0028】
(2)5,10,15,20−テトラキス(2−ジメチルスルホニオフェニル)ポル
フィリン(H2MeSPhP)の合成:
100mlナスフラスコ内に、上記(1)で得たH2MeSPhPを100mgとトリフルオロメタンスルホン酸メチル(FMS−methyl)3mlを取り、トリフルオロメタンスルホン酸中、80℃で、8時間反応させた。氷冷した後にジエチルエーテル中に滴下し、沈殿物を吸引ろ過により回収した。さらにろ紙についた沈殿物を水にて流し、回収後にエバポレーターにて溶媒を留去した。その後に減圧乾燥(室温、24時間)を行ない、5,10,15,20−テトラキス(2−ジメチルスルホニオフェニル)ポルフィリン(H2MeSPhP)200mg(収率93.2%)を得た。
【0029】
H−NMR(DO,500MHz,ppm,δ):
2.8(s,24H),8.1(m,4H),8.3(m,4H),8.4(m,8H),
8.9(s,8H).
UV−vis.(λmax,nm,CDCl):
420,519,545,585,640。
【0030】
(3)Mn〔5,10,15,20−テトラキス(2−ジメチルスルホニオフェニル)〕
ポルフィリン(Mn2MeSPhP)の合成:
300mlナスフラスコ内に、上記(2)で得たH2MeSPhP 200mg(1.38×10−4mol)と酢酸マンガン四水和物100mgを取り、これを水中にて100℃で6時間還流し、反応させた。その後エバポレーターにて溶媒留去しカラムクロマトグラフィー(充填剤:塩基性アルミナ、展開溶媒:メタノール)にて精製した。その後、減圧乾燥(室温、24時間)し、Mn〔5,10,15,20−テトラキス(2−ジメチルスルホニオフェニル)〕ポルフィリン(Mn2MeSPhP)213mg(収率78%)を得た。
【0031】
UV−vis.(λmax,nm,CDCl):
463,564,595。
【0032】
試 験 例 1
スーパーオキシドアニオンラジカルの消去試験:
スーパーオキシドアニオンラジカルと、ポルフィリン金属錯体を同時に光学セル内に送出することのできるストップフロー装置を用い、実施例1および2で製造した含硫黄ポルフィリン金属錯体について、スーパーオキシドアニオンラジカルの消去速度を測定した。
【0033】
この測定は、37℃、測定波長270nm、光路長2mmで行い、各検体を溶解する緩衝液として、HEPES/HEPES−Na(pH8.1)を用いた。また、含硫黄ポルフィリン金属錯体とスーパーオキシドアニオンラジカルの混合比は、モル比で20:1とした。更に、比較としてマンガンテトラキス(N−メチルピリジニウム−4−イル)ポルフィリン(Mn4MePyP)およびマンガンテトラキス(N−メチルピリジニウム−2−イル)ポルフィリン(Mn2MePyP)を用いた。この結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
試 験 例 2
細胞毒性試験:
実施例1および2で製造した含硫黄ポルフィリン金属錯体(Mn4MeSPhPおよびMn2MeSPhP)について、ルイス肺癌細胞(LLC)を用い、アラマーブルー(Alamar Blue)法によりその細胞毒性を調べた。この結果、Mn4MeSPhPについては、濃度が100μMまで、Mn2MeSPhPについては、濃度が120μMまで、細胞の生存率は80%を超えていた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の含硫黄ポルフィリン金属錯体(I)は、従来のポルフィリン金属錯体と比べ、優れた活性酸素消去作用を有し、しかも細胞毒性がないものであるため、抗酸化剤や抗癌剤等の医薬として利用可能性のあるものである。
【0037】
また、このものは、カチオン性が高いため、電極上へある程度の厚みで電着させることが可能であり、活性酸素種用センサーにおいても利用できるものである。
【0038】
更に、この含硫黄ポルフィリン金属錯体(I)をリポソームに包埋させることにより、リポソームの血中滞留時間の延長、脂質2分子膜の構造の安定化、リポソーム粒子の均一化等が期待される。
以 上


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(I)
【化1】

(式中、Rは、ジアルキルスルホニオフェニル基を示し、Mは、鉄、マンガン、コバルト、クロム、イリジウムから選ばれる金属原子を示す)
で表される含硫黄ポルフィリン金属錯体。
【請求項2】
次の式(II)
【化2】

(式中、R'は、アルキルチオフェニル基またはジアルキルスルホニオフェニル基を示す)
で表される含硫黄ポルフィリン化合物。


【公開番号】特開2006−290828(P2006−290828A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115724(P2005−115724)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(501490818)
【Fターム(参考)】