説明

含窒素縮合複素環化合物の製造方法

【課題】低触媒量、高収率で得られる含窒素縮合複素環化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式[1]で表される化合物と下記一般式[2]で表される化合物とを銅、または銅イオン及び配位子の存在下で反応させ、下記一般式[3]で表される含窒素縮合複素環化合物を製造することを特徴とする含窒素縮合複素環化合物の製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成化合物の中間体、及び有機エレクトロルミネッセンス用材料として有用な含窒素縮合複素環化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリールハライドとアミン化合物からC−N結合を形成する合成法として、Pd触媒存在下で行う方法が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。また、配位子として高活性なP(tBu)を用いる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、Pd触媒を被毒してしまうような化合物、例えば、含窒素縮合複素環化合物を用いた場合、反応が進行しなかったり、過剰に触媒が必要であったりという問題点があった。また、C−N結合を形成する別の方法として、銅、または銅イオン及び配位子の存在下で反応を行う方法が記載されている(例えば、特許文献3、4参照)が、本発明のような含窒素縮合複素環化合物を反応基質として用いた記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,576,460号明細書
【特許文献2】特許3161360号公報
【特許文献3】米国特許第6,759,554号明細書
【特許文献4】米国特許第6,867,298号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、低触媒量、高収率で得られる含窒素縮合複素環化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の構成により解決することができた。
【0007】
1.下記一般式[1]で表される化合物と下記一般式[2]で表される化合物とを銅、または銅イオン及び配位子の存在下で反応させ、下記一般式[3]で表される含窒素縮合複素環化合物を製造することを特徴とする含窒素縮合複素環化合物の製造方法。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Aは芳香族炭化水素環基、芳香族複素環またはアルケニル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。Zは芳香族複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、Zは芳香族炭化水素環または芳香族複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。Zは単なる結合手または2価の連結基を表す。nは1〜4の整数を表す。)
2.前記配位子がアリールアルコール類、アルキルアミン類、脂環式アミン類、ジアミン類、ジオール類、イミダゾリウムカルベン類、ピリジン類またはフェナントロリン類であることを特徴とする前記1に記載の含窒素縮合複素環化合物の製造方法。
【0010】
3.前記Zが単なる結合手であることを特徴とする前記1または2に記載の含窒素縮合複素環化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により、有機合成化合物の中間体、及び有機エレクトロルミネッセンス用材料として有用な含窒素縮合複素環化合物を、低触媒量、高収率で得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を更に詳細に述べる。
【0013】
一般式[1]及び一般式[3]において、Z及びZは芳香族複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、芳香族複素環として、例えば、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環等が挙げられる。これらの内で好ましいものはピリジン環である。
【0014】
一般式[1]及び一般式[3]において、Zは芳香族炭化水素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、芳香族炭化水素環として、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾジオフェン環、カルバゾール環らが挙げられる。これらの内で好ましいものはベンゼン環である。
【0015】
が表す2価の連結基としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンなどの炭化水素基の他、ヘテロ原子を含むものであってもよく、またチオフェン−2,5−ジイル基やピラジン−2,3−ジイル基のような芳香族複素環を有する化合物(ヘテロ芳香族化合物ともいう)に由来する2価の連結基であってもよいし、酸素や硫黄などのカルコゲン原子であってもよい。また、アルキルイミノ基、ジアルキルシランジイル基やジアリールゲルマンジイル基のようなヘテロ原子を会して連結する基でもよい。単なる結合手とは、連結する置換基同士を直接結合する単なる結合手である。これらの内で好ましいものは単なる結合手である。
【0016】
一般式[2]及び一般式[3]において、Aで表される芳香族炭化水素環としては、上記Z及びZで記載された基と同様の基を表す。これらの内で好ましいものはベンゼン環基である。
【0017】
一般式[2]及び一般式[3]において、Aで表される芳香族複素環基としては、上記Z及びZで記載された基と同様の基を表す。これらの内で好ましいものはジベンゾフラン環、ジベンゾジオフェン環、カルバゾール環の各基である。
【0018】
一般式[2]及び一般式[3]において、Aで表されるアルケニル基として、例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基等が挙げられる。
【0019】
Xで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。Xで表される基の内、好ましいものはヨウ素原子である。nは1または2が好ましい。
【0020】
上記の基はいずれも更に置換基によって置換されていてもよく、置換基として、例えば、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、アシルアミノ、スルホンアミド、アルキルチオ、アリールチオ、ハロゲン原子、複素環、スルホニル、スルフィニル、ホスホニル、アシル、カルバモイル、スルファモイル、シアノ、アルコキシ、アリールオキシ、複素環オキシ、シロキシ、アシルオキシ、カルバモイルオキシ、アミノ、アルキルアミノ、イミド、ウレイド、スルファモイルアミノ、アルコキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボニルアミノ、アリールオキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、カルボキシル、2−(2−ピリジル)フェニル等の各基が挙げられる。
【0021】
上記Z及びZは置換基によって置換されている場合、置換基として好ましいものは2−(2−ピリジル)フェニル基である。
【0022】
前記銅イオンとなる銅化合物として特に限定はないが、CuCl、CuCl、CuBr、CuBr、CuI、CuI、CuO、CuO、CuSO、CuSO、CuOCOCH、Cu(OCOCH等が挙げられる。これらの内で好ましいのは、CuI及びCuOである。
【0023】
前記配位子はアリールアルコール類(例えば、2−フェニルフェノール、1−ナフトール、2,6−ジメチルフェノール、サリチルアルドキシム、N,N−ジエチルサリチルアミド、8−ヒドロキシキノリン等)、アルキルアミン類(例えば、2−(ジメチルアミノ)エタノール、2−(ジメチルアミノ)グリシン等)、脂環式アミン類(例えば、L−プロリン、DBU等)、ジアミン類(例えば、1,2−シクロヘキサンジアミン、N,N′−ジメチルエチレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン等)、グリコール類(例えば、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル等)、イミダゾリウムカルベン類(例えば、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾリウムテロラフルオロボレート、1,3−ビス(2,6−ジメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾリウムテロラフルオロボレート等)、ピリジン類(例えば、ピコリン酸、3−メチルピコリン酸、3−ヒドロキシピコリンアミド、6−メチルピコリン酸、2−アミノメチルピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等)またはフェナントロリン類(例えば、1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、4,7−ジメチル−1,10−フェナントロリン、3,4,7,8−テトラメチル−1,10−フェナントロリン等)より少なくとも一種選択される。
【0024】
これらの内で好ましいのは、L−プロリン、3−メチルピコリン酸、6−メチルピコリン酸、3−ヒドロキシピコリンアミド及び3,4,7,8−テトラメチル−1,10−フェナントロリンであり、更に好ましくは6−メチルピコリン酸、3,4,7,8−テトラメチル−1,10−フェナントロリンである。
【0025】
以下に、本発明の一般式[1]で表される化合物の代表的具体例を示すが、本発明はこれらに限定されものではない。
【0026】
【化2】

【0027】
以下に、本発明の一般式[2]で表される化合物の代表的具体例を示すが、本発明はこれらに限定されものではない。
【0028】
【化3】

【0029】
以下に、本発明の一般式[3]で表される化合物の代表的具体例を示すが、本発明はこれらに限定されものではない。
【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
上記反応には塩基を併用するのが好ましい。塩基としては、例えば、アルカリ金属塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸セシウム、フッ化セシウム、燐酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムt−ブトキサイド等)、アミン誘導体(トリエチルアミン、テトラメチルグアニジン等)等が挙げられる。これらの内で好ましいのは、炭酸カリウム、燐酸カリウムであり、更に好ましくは燐酸カリウムである。
【0033】
上記銅または銅イオンは、一般式[2]で表される化合物1molに対して0.01〜1molの範囲で用いることが好ましいが、0.03〜0.5molの範囲で用いることが特に好ましい。
【0034】
上記配位子は一般式[2]で表される化合物1molに対して0.02〜1molの範囲で用いることが好ましいが、0.05〜0.5molの範囲で用いることが特に好ましい。
【0035】
用いられる反応溶媒としては、非プロトン性溶媒(例えば、DMF、DMAc、DMSO、NMP等)、芳香族炭化水素系溶媒(例えば、キシレン、ジクロロベンゼン等)、エーテル系溶媒(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル等)が挙げられる。これらの内で好ましいのは、DMSOである。
【0036】
反応温度は通常80〜160℃で行われるのが好ましく、120〜150℃で行われるのが特に好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0038】
実施例1(比較例)
《例示化合物3−3の合成》
【0039】
【化6】

【0040】
次に、窒素気流下、Pd(OAc)0.19g(×0.6mol)、50%P(tBu)0.67g(×1.2mol)、脱水キシレン20mlを40℃で10分攪拌した。例示化合物1−13、0.90g(×2mol)、例示化合物2−1(1,3−ジヨードベンゼン)0.46g(0.0014mol)、NaOBu(t)0.40g(×3mol)を投入し、8時間還流した。反応液を、水洗後、減圧濾過した。得られた粗結晶をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、トルエン/ヘキサン)にて精製し、例示化合物3−3、0.45g(収率45%)を得た。
【0041】
実施例2(本発明)
《例示化合物3−3の合成》
【0042】
【化7】

【0043】
(化合物Bの合成)
窒素気流下、ヨードベンゼン220.3g(×1.2mol)、キシレン1.15L、化合物A、115.7g(0.90mol)、NaOBu(t)、112.4g(×1.3mol)を投入し、攪拌した。更に、Pd(dba)10.5g(×0.02mol)、DPPF10.0g(×0.02mol)を加え130〜140℃で2時間攪拌した。次に、水200ml、酢酸エチル650mlを投入し、不溶物を除去した後、有機層を減圧濃縮した。次にカラム精製を行い、得られた褐色アメ状物をn−ヘプタンで再結し化合物B、155.5g(収率84.4%)を得た。
【0044】
(例示化合物1−1の合成)
窒素気流下、Pd(OAc)1.44g(×0.08mol)、トリフェニルホスフィン4.23g(×0.2mol)、化合物B、16.38g(0.08mol)、酢酸カリウム11.5g(×1.46mol)、DMF100mlを投入し、144〜146℃で2時間攪拌した。氷水950ml、ソーダ灰8.8g(×1.04mol)中に前記反応液を投入した。析出した結晶をろ過した。得られた粗製物をカラム精製し、酢酸エチルで再結晶し例示化合物1−1、9.93g(収率73.7%)を得た。
【0045】
(化合物Cの合成)
例示化合物1−1、10g(0.0595mol)をDMF60mlに溶解し、NBS11.1g(×1.05mol)を20分で加えた。55℃付近で2時間攪拌した。水冷下、水20mlを加え、1時間攪拌した。析出した結晶を濾過し、化合物C、12.7g(収率86.4%)を得た。
【0046】
(例示化合物1−13の合成)
窒素気流下、化合物C、10g(0.0405mol)、2−フェニルピリジン18.8g(×3mol)、KCO11.2g(×2mol)、1−メチルピロリジン−2−オン50mlを20分間攪拌した。トリフェニルホスフィン1.1g(×0.1mol)、Ru触媒0.61g(×0.03mol)を加え、85〜90℃で3時間攪拌した。THF、250ml、NaCl水溶液250mlを加え、減圧濾過で不要分を除去後、有機層を分離し、減圧留去した。得られた留分をカラム精製し、アセトニトリルで再結晶し、例示化合物1−13、9.19g(収率70.7%)を得た。
【0047】
(例示化合物3−3の合成)
窒素気流下、例示化合物2−1(1,3−ジヨードベンゼン)1.46g(0.0014mol)、例示化合物1−13、0.90g(×2mol)、DMSO、15ml、燐酸カリウム0.89g(×3mol)を加え、10分攪拌した。CuI、53mg(×0.2mol)、6−メチルピコリン酸(×0.4mol)を加え、125℃付近で7時間加熱した。水冷下、水5mlを加え、1時間攪拌した。析出した粗成物を濾過し、更にカラム精製し、o−ジクロロベンゼン/アセトニトリルで再結晶し、例示化合物3−3、0.85g(収率85%)を得た。
【0048】
H−NMR(400MHz、CDCl):δ=8.61〜8.66(m,4H),8.48(d,2H),7.90〜7.45(m,14H),7.40〜7.25(m,6H),7.16(dd,2H),7.04(m,2H),6.96(d,2H)。
【0049】
上記のように、例示化合物1−13から例示化合物3−3への収率から、本発明の製造方法が優れていることは明らかである。
【0050】
実施例3(本発明)
《例示化合物3−4の合成》
【0051】
【化8】

【0052】
窒素気流下、例示化合物2−8、0.82g(0.0028mol)、例示化合物1−13、0.90g(×1mol)、DMSO、10ml、燐酸カリウム0.89g(×1.5mol)を加え、10分攪拌した。CuO、20mg(×0.05mol)、3,4,7,8−テトラメチルチル−1,10−フェナントロリン66mg(×0.1mol)を加え、145℃付近で10時間加熱した。水冷下、水5mlを加え、1時間攪拌した。析出した粗成物を濾過し、更にカラム精製し、メタノールで懸濁精製し、例示化合物3−4、1.0g(収率73%)を得た。
【0053】
H−NMR(400MHz、CDCl):δ=8.64(d,2H),8.50(d,1H),8.07(d,1H),7.94(dd,1H),7.80〜7.45(m,9H),7.43〜7.30(m,3H),7.22(d,1H),7.15〜7.12(m,1H),7.08〜7.03(m,1H),6.97(d,1H)。
【0054】
実施例中の各化合物の同定はMASS及びNMRスペクトルで行い、それぞれ目的化合物であることを確認した。その他の例示化合物も上記の方法に準じて合成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で表される化合物と下記一般式[2]で表される化合物とを銅、または銅イオン及び配位子の存在下で反応させ、下記一般式[3]で表される含窒素縮合複素環化合物を製造することを特徴とする含窒素縮合複素環化合物の製造方法。
【化1】

(式中、Aは芳香族炭化水素環基、芳香族複素環またはアルケニル基を表す。Xはハロゲン原子を表す。Zは芳香族複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、Zは芳香族炭化水素環または芳香族複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。Zは単なる結合手または2価の連結基を表す。nは1〜4の整数を表す。)
【請求項2】
前記配位子がアリールアルコール類、アルキルアミン類、脂環式アミン類、ジアミン類、ジオール類、イミダゾリウムカルベン類、ピリジン類またはフェナントロリン類であることを特徴とする請求項1に記載の含窒素縮合複素環化合物の製造方法。
【請求項3】
前記Zが単なる結合手であることを特徴とする請求項1または2に記載の含窒素縮合複素環化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−235575(P2010−235575A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124065(P2009−124065)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】