説明

含銅硫化物からの銀の回収方法

【課題】簡便で、低コストで、かつ安全環境面で特別な配慮を必要としない黄銅鉱を主体とする含銅硫化物からの銀の浸出方法の提供を課題とする。
【解決手段】含銅硫化物と、鉄を30〜50g/L、銅を10g/L以下、そして解膠剤を0.2〜1.0g/L含む硫酸溶液とからなるスラリーを加圧容器内に装入し、スラリーの温度を120〜180℃とし、加圧容器内の気相部の圧力が平衡状態よりも0.5〜2.0MPaだけ高くなるように該気相部に供給する酸素及び/又は空気の量を調整してスラリーの酸化還元電位を調整して銅と銀とを浸出し、銀を銀鉄明礬として沈殿させ、該銀鉄明礬含む銅浸出残渣をチオ硫酸ナトリウム溶液で処理して銀を浸出し、浸出終液中の銀を活性炭に吸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含銅硫化物からの銀の回収方法に関し、より詳細には、黄銅鉱を主体とする含銅硫化物から銀を回収するに際して、毒物であるシアン化ナトリウムを用いず、簡便、低コスト、安全環境面で特別な配慮を必要としない含銅硫化物からの銀の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、黄銅鉱(キャルコパイライト:CuFeS)、輝銅鉱(キャルコサイト:CuS)、斑銅鉱(ボーナイト:CuFeS)、そして銅藍(コベライト:CuS)などの硫化銅鉱物を含む銅鉱石は、通常、粉砕し、選鉱して銅精鉱とし、これ処理原料としている。この銅精鉱中には銀を始めとする貴金属が含まれており、銅と共に回収対象とされている。
【0003】
こうした銅精鉱から銀を回収するには、銅精鉱を熔錬炉に装入し、高温下で熔融して不純物元素をスラグとして分離してマットを得、得たマットを更に転炉で吹錬して粗銅を得、得られた粗銅をアノードとして用いて電解精製して銀を電解スライム中に濃縮し、これを分銀工程にて処理して回収するのが一般的である。
この乾式製錬法では、銅精鉱中に含まれるイオウは亜硫酸ガスとなるため、これを硫酸製造設備にて硫酸として回収しなければならないが、硫酸は液体であるため、保管する際には大きなタンク設備も必要となり、広い敷地が必要とされるという問題がある。さらに高温の熔体を取扱うため、環境や作業に関して高度な配慮が必要となる。そのため、こうした問題点を軽減できる湿式銅製錬法が検討されている。
【0004】
湿式銅精錬法としては、浸出液として塩化物イオンを含むものを用いるものと、硫酸塩を含む硫酸水溶液と酸化剤とを用いて浸出するものとに大別されるが、共に浸出した液から溶媒抽出法により銅を抽出分離し、逆抽出して銅溶液を得、これを電解液として用いて銅を電解採取している。このため、乾式製錬法と異なり、精鉱中の硫黄を亜硫酸ガスとせず、また高温の熔体を取扱わないことから昨今、注目されている。
【0005】
ここで、塩化物イオンを含む浸出液を用いる方法では、相対的にではあるが、高い浸出率が得られるという利点がある反面、塩素による装置腐食を防ぐため設備投資、設備保全に多額の費用がかかるという問題がある。また、この方法では、浸出された銀は塩化物錯イオンとして浸出液中に溶解するため、銀は浸出液の塩素濃度を調整して塩化銀として沈殿させて回収する。したがって、系内の水バランスを取ることが難しく、排水処理の負担を増加する。
【0006】
これに対して、硫酸塩を含む硫酸水溶液と酸化剤とを用いる方法では、相対的に浸出率が低いという問題点はあるものの、設備投資、設備保全にかかる費用が安価であるという利点がある。また、銀は、浸出液中の鉄と結合して銀鉄明礬を形成し、沈殿し、銅浸出残渣に分配される。銅浸出残渣より銀を回収するには、銅浸出残渣を熔錬炉に装入し、前記したようにアノードスライム中に濃縮し、分銀工程で処理して回収するのが一般的である。しかし、この方法では銀を回収するために時間がかかり、仕掛かり金利が高くなる。また、工程が長くなるため、ロスが増え、実質回収率が低くなる等の課題がある。
【0007】
銀鉄明礬を含む銅浸出残渣より銀を回収する別の方法として、銅浸出残渣を水酸化カルシウム水溶液に入れ、沸騰近くまで加熱して残渣中に含まれる銀鉄明礬石を分解して銀を酸化銀とし、生成した酸化銀を、シアン化ナトリウムを含む溶液中で浸出して回収する方法(非特許文献1 参照)が知られている。
この方法では、添加した水酸化カルシウムは最終的にすべて硫酸カルシウムとせざるを得ず、発生澱物量が多くなる。さらに、多量の薬剤が必要となるなどコストを上昇させることになる。加えて、毒物であるシアン化ナトリウムを用いるため、安全と環境の両面から取り扱いや廃液の処理に特別な配慮を講ずる必要があるなど実操業への適用には多くの課題がある。
いずれにしろ、含銅硫化物より湿式製錬法で銀を分離回収するためには、まず、低コストで高い浸出率が得られる方法で含銅硫化物から銀を浸出することが重要となる。
【0008】
こうした状況下、含銅硫化物より高浸出率で銅を浸出する方法として、硫酸溶液中で硫酸第1鉄と硫酸第2鉄との酸化還元反応を利用して含銅硫化物より銅を浸出する方法が提案されている。
例えば、150μm以下に粉砕した含銅硫化物を原料とし、オートクレーブ内で、鉄イオン濃度を10〜40g/Lとし、硫酸濃度を10〜60g/Lとし、かつ3価の鉄イオンと2価の鉄イオンの割合が、[Fe3+/Fe2+]の濃度比で2以上となる浸出始液を用いて、酸素分圧を0.2〜0.7MPaとし、温度を50〜105℃として原料中の銅を浸出する方法が提案されている(特許文献1 参照)。
しかしながら、この方法は、浸出温度が低いために浸出速度が遅く、特に、浸出温度が80℃未満になると、浸出液中の鉄濃度が充分にあっても浸出速度が極端に低下し、高い浸出率を得ようとすると、長時間を要するという課題がある。
【0009】
また、例えば、加圧容器内において、銅鉱石を原料とし、これと鉄イオンを含有する水溶液又は鉄イオンを含有する硫酸溶液とを混合してスラリーとし、220〜275℃、好ましくは235℃以上の温度を維持しつつ、酸素及び/又は空気中で銅鉱石から銅を浸出する方法が提案されている(特許文献2 参照)。
この方法に従えば、高い温度で銅鉱石全体を強力に酸化させるため、早い浸出速度と、高い浸出率とが得られる。
しかしながら、この方法では、200℃を超える高温高圧下での浸出となるので、用いる加圧容器及びポンプなどの設備には圧力、温度、さらには腐食に耐えうる材質の使用や構造が必要となり、多額の設備投資、多額の補修費用、及び多くの手間を要しコストが増加するという課題がある。
また、この温度領域では、銅鉱石に含有されるイオウはほとんどすべて酸化されて硫酸イオンとなり浸出液に分配するため、浸出液中の過剰の硫酸イオン分を石膏等にして系外に分離除去することが必要となるという問題がある。
【0010】
また、別の方法として、圧力容器中において、銅精鉱と触媒として銅精鉱1t当たり3〜50kgの特定組成の石炭を共存させつつ、圧力容器内の温度を90〜220℃、好ましくは120〜180℃、より好ましくは135〜175℃の範囲に維持しながら、容器内の気相部分の圧力を0.1〜3MPa相当に維持するように酸素ガスを送入して浸出する方法が提案されている(特許文献3 参照)。
この方法は、上記した特許文献1記載の方法と特許文献2記載の浸出方法との中間となる温度領域で銅を浸出するものであり、特許文献1記載の方法よりも早く、効率よく銅が浸出できると共に特許文献2記載の方法よりも設備投資、補修費用、及び手間が低減できるというメリットがある。
【0011】
しかしながら、上述の特許文献3記載の方法では、対象となる含銅硫化物中の硫化銅鉱物が斑銅鉱、輝銅鉱、あるいは銅藍等の二次硫化鉱物である場合には、これら鉱物と硫酸及び酸素とが良好に反応し、銅を高効率で浸出できるものの、対象が最も一般的で、存在割合の大きい黄銅鉱になると、反応効率が低くなり、低い銅の浸出効率しか得られず、したがって含銅硫化物中の銀も十分銀鉄明礬に転換されないという課題がある。
以上説明したことから分かるように、一般的で、かつ存在割合の大きい黄銅鉱を主体とする含銅硫化物から銀を回収するに際して、毒物であるシアン化ナトリウムを用いず、簡便、低コスト、安全環境面で特別な配慮を必要としない含銅硫化物からの銀の回収方法については、未だ提案されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6537440号公報
【特許文献2】米国特許第6497745号公報
【特許文献3】米国特許第5730776号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】D.Dreisinger, P.Taggart, R.Banner, D.Copeland, D.Jennings,“The Hydrometallurgical Treatment of Farallon Resources’ Campo Morado Bulk Zn−Pb−Cu−Ag−Au Sulfide Concentrate”, Zinc and Lead 2005 Kyoto.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、黄銅鉱を主体とする含銅硫化物から銀を回収するに際して、毒物であるシアン化ナトリウムを用いず、簡便、低コスト、安全環境面で特別な配慮を必要としない含銅硫化物からの銀の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討した結果、特定の条件の下に含銅硫化物を加圧浸出すれば、低コストで銀が銀鉄明礬として濃縮された銅浸出残渣を効率よく得ることができること、また特定の化合物を含む水溶液を用いると該銀鉄明礬より銀を容易に浸出分離し、回収できることを見出して本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1の発明によれば、黄銅鉱を主成分とする含銅硫化物から銀を回収する方法において、下記(1)〜(5)の処理を順次行うことを特徴とする含銅硫化物からの銀の回収方法が提供される。
(1)鉄を30〜50g/L、リグニンスルホン酸及び/またはその塩からなる解膠剤を0.2〜1.0g/Lの割合で含む硫酸溶液と、前記含銅硫化物とを混合し、スラリーを得る
(2)前記スラリーを加圧容器内に装入した後、スラリーの温度を120〜180℃に維持しながら、加圧容器内の気相部の圧力が平衡状態よりも0.5〜2.0MPaだけ高くなるのに十分な量の酸素及び/又は空気を気相部に供給して、スラリーの酸化還元電位を調整する
(3)固液分離して銅を含む浸出液と、銅浸出残渣とに得る
(4)前記銅浸出残渣と、チオ硫酸ナトリウムを無水物換算で5〜20g/Lの割合で含むチオ硫酸ナトリウム溶液(銀浸出液)とを混合して、銅浸出残渣スラリーを得た後、固液分離して銀浸出終液と、銀浸出残渣とを得る
(5)銀浸出液と活性炭とを接触させて銀を活性炭に吸着させ、回収する
【0016】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記(1)における前記スラリーは、150〜300g/Lのスラリー濃度を有することを特徴とする含銅硫化物からの銀の回収方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記(1)における前記硫酸溶液は、10g/L以下の銅を含むことを特徴とする含銅硫化物からの銀の回収方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記(1)における前記硫酸溶液は、15〜45g/Lの遊離硫酸を含むことを特徴とする含銅硫化物からの銀の回収方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記(2)における前記酸化還元電位は、銀/塩化銀電極基準で、530〜620mVであること特徴とする含銅硫化物からの銀の回収方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、前記(4)における前記銅浸出残渣スラリーは、50〜100g/Lのスラリー濃度であることを特徴とする含銅硫化物からの銀の回収方法が提供される。
【0021】
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、前記(4)における前記チオ硫酸ナトリウム溶液は、活性炭を5〜20g/Lの割合で添加されたチオ硫酸ナトリウム溶液であることを特徴とする含銅硫化物からの銀の浸出方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、上記の構成を取ることにより、銅と共に浸出された鉄の過剰分を、銀鉄明礬を含む鉄明礬(以下、銀鉄明礬と鉄明礬とを合わせて単に「含銀鉄明礬」と示すこともある。)として沈殿させるが、この際、浸出に伴って生成し、解膠剤により液滴状となったイオウ粒子表面に含銀鉄明礬を付着・堆積させ、イオウ粒子表面を該含銀鉄明礬にて覆う。これによりイオウ粒子が未反応や反応途中の含銅硫化物粒子の表面を覆うことを防止でき、含銅硫化物より銀を高浸出率で浸出できる。また、イオウ粒子表面を含銀鉄明礬が覆うことによりイオウの酸化が防止でき、系内の硫酸バランスも容易に制御できる。
【0023】
また、本発明では、銀鉄明礬中の銀をチオ硫酸ナトリウム溶液で浸出するため、水酸化カルシウムのような強アルカリを含む溶液を沸騰近くまで加熱するという操作も不要であり、同操作により生成する酸化銀を溶解するために毒物であるシアン化ナトリウムを用いなくてもよい。その結果、排水処理での前記水酸化カルシウムによる発生澱物量はなく、シアン化ナトリウムを用いることによる安全環境面での特別な配慮も不要となる。
また、チオ硫酸ナトリウム溶液中の銀イオンを活性炭に吸着させ、得られた活性炭を燃焼することにより簡単、効率よく、且つ低コストで金属銀を得ることができる。
【0024】
さらに、本発明では、含銅硫化物より銀を浸出し、銀鉄明礬として得る際、塩化物を含まない浸出液を用いて浸出し、かつ浸出時のスラリー温度を120〜180℃とするため、特別高価な材質で装置を構成する必要もなく、一般的な耐熱性、耐食性を有するSUS304、SUS316等のステンレスを用いることができるので、設備コストも低く抑えられる。
したがって、本発明の方法は、簡便で、低コストで、かつ安全環境面で特別な配慮を必要としない含銅硫化物からの銀の回収方法であり、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明では、含銅硫化物と、鉄及び解膠剤、好ましくは更に銅を含む硫酸溶液とでスラリーを形成し、これを加圧容器内に供給し、スラリーの温度を120〜180℃とし、気相部の圧力がスラリー温度と平衡状態となる圧よりも0.5〜2.0MPaだけ高くなるように、気相部に酸素及び/又は空気を連続的に供給し、もってスラリーの酸化還元電位を、銀/塩化銀電極基準で、530〜620mVに調整し、含銅硫化物から銅と銀とを浸出し、銀を銀鉄明礬として沈殿させ、得られた銀鉄明礬を含む銅浸出残渣とチオ硫酸ナトリウム溶液とを混合攪拌して銀を浸出し、銀を活性炭に吸着させて回収する。
【0026】
本発明において特に重要な点は、含銅硫化物から銅と銀とを浸出する際に、(イ)浸出液として、鉄及び解膠剤、好ましくは更に銅を含む硫酸溶液を用いること、(ロ)浸出時のスラリーの酸化還元電位を前記範囲に調整すること、及び(ハ)含銀鉄明礬より銀を浸出する際に浸出液としてチオ硫酸ナトリウム溶液を用いることである。
(イ)に関しては、こうすることにより、浸出に伴って生成したイオウを解膠剤により液滴状粒子とするためである。
そして、(ロ)に関しては、浸出液中の鉄イオンを三価にし、浸出された銀と該三価の鉄イオンとを反応させて、銀を銀鉄明礬として沈殿させると共に、過剰となった鉄イオンを鉄明礬として沈殿させ、前記液滴状のイオウ粒子の表面に付着・堆積させてイオウ粒子表面を覆い、イオウ粒子が未反応あるいは反応途中の含銅硫化物の表面に付着し、含銅硫化物の表面を覆うことができなくなるようにするためである。これにより銅と銀との良好な浸出反応が確保され、高い浸出率が得られる。
また、(ハ)に関しては、こうすることにより、銀鉄明礬からの銀の浸出に、安価で、取り扱いの容易なチオ硫酸ナトリウムを用いるため、銀鉄明礬から酸化銀を得るために使用する水酸化カルシウムによる多量の硫酸カルシウムの発生や、酸化銀を溶解するための毒物であるシアン化ナトリウムの使用の必要がなくなる。
【0027】
以下、本発明の含銅硫化物からの銀の浸出方法について、含銅硫化物、硫酸溶液、酸素及び/又は空気、銅浸出液、銅浸出残渣、銀浸出液、銀浸出残渣、活性炭、及び浸出・回収方法等に項分けして詳細に説明する。
【0028】
1)含銅硫化物
前記したように、一般に、硫化銅鉱石などの含銅硫化物には様々な成分が同時に含まれている。例えば、銅鉱石では黄銅鉱、輝銅鉱、斑銅鉱、そして銅藍などの硫化銅鉱物と共に黄鉄鉱やその他の脈石成分が共存している。これらの内で黄銅鉱は、一次硫化鉱物であり、銅と鉄、イオウからなり、CuFeS2で表される。微量の金、銀、錫、亜鉛などを含む。また、少量のニッケルやセレンを含むものもある。硫化銅鉱物中で最も重要で、最も一般的なものであり、酸に対する耐浸出性がある。そして、輝銅鉱、斑銅鉱、銅藍などは一次硫化鉱物である黄銅鉱が自然酸化することにより生じた二次硫化鉱物であり、黄銅鉱と比較してイオウ品位が低く、酸に対する溶解性は良好である。
なお、銀を初めとする貴金属はこれらの銅鉱物や、例えば硅石等の脈石成分に存在している。
工業的には、これらの鉱物をそれぞれ単独で採掘することは困難であり、通常、黄銅鉱を主成分とし、他の鉱物が混ざった状態で採掘された銅鉱石を磨鉱し、選鉱して銅精鉱を得、これを銅や銀の回収に供している。なお、銅鉱石中の黄銅鉱の比率は銅鉱石が採掘される鉱山によってそれぞれ異なる。
本発明の含銅硫化物は黄銅鉱を主体とするものであり、その形状としては、スラリー化できる程度に粉砕されておれば良く、銅精鉱程度に細かくなっていることが好ましい。
【0029】
2)硫酸溶液
本発明で含銅硫化物から銅と銀とを浸出し、かつ銀を銀鉄明礬に転換するために用いる硫酸溶液は、鉄、銅及びリグニンスルホン酸及び/またはその塩からなる解膠剤をそれぞれ30〜50g/L、10g/L以下、0.2〜1.0g/Lの割合で含み、遊離硫酸を15〜45g/Lの割合で含ものとすることが好ましい。以下、鉄濃度、解膠剤濃度、及び遊離硫酸濃度に項分けして硫酸溶液について説明する。
【0030】
2)−1 鉄濃度
硫酸溶液中の鉄濃度を30〜50g/Lとするのは、30g/Lを下回ると、浸出に関与する鉄量が不足し、かつ含銀鉄明礬として析出する鉄量が十分でなく、浸出に伴って生成するイオウによる浸出阻害を十分防止できなくなる虞があるからである。一方、50g/Lを上回る場合、浸出液中の銅の溶解度が低下し浸出液中に銅が溶けなくなる。さらに、後述する浸出液から銅を抽出分離する工程で鉄の分離性が悪くなり好ましくない。また、高生産効率、低コスト化のために、後述する浸出液から銅を抽出分離して得た抽出残液を硫酸溶液として繰り返し用いることが好ましいが、こうした場合、硫酸溶液中の銅は概ね10g/L以下となる。なお、10g/Lを上回ると銅の回収効率が低下するので好ましくない。
【0031】
2)−2 解膠剤濃度
また、解膠剤としてリグニンスルホン酸又はその塩を用いるが、こうした界面活性剤はスラリー内の含銅硫化物粒子や生成したイオウの凝集を防止し、分散性を向上させる他、これらが存在することにより生成したイオウが球状化現象を起こすからである。球状化したイオウの表面に含銀鉄明礬が沈積・堆積してイオウ粒子表面を覆うことにより、イオウによる浸出阻害をより良く防止できる。
解膠剤の添加量を0.2〜1.0g/Lとするのは、この範囲を下回ると上記効果が十分得られず、この範囲を超えても更なる効果の向上は得られないからである。
【0032】
2)−3 遊離硫酸濃度
また、遊離硫酸を15〜45g/Lとするのは、15g/Lを下回ると、浸出初期に消費される遊離硫酸が不足し浸出不良になり好ましくない。一方、45g/Lを上回ると、鉄明礬が溶解しやすく、イオウの被覆効果がなくなり浸出不良となるので好ましくない。また、前記抽出残液を硫酸溶液として浸出に繰り返し用いた場合、通常、遊離硫酸濃度はこうした範囲となるが、もし、硫酸濃度が不足している場合には硫酸を添加し、硫酸が過剰になっている場合には、消石灰、生石灰、そして炭酸カルシウム等を加えて硫酸を石膏として固定し、系外に払い出して硫酸濃度を調整すればよい。
【0033】
3)酸素及び/又は空気
本発明において、酸素源として用いうるものは、酸素及び/又は空気である。但し、空気を用いた場合には、排気される空気の持ち去り熱が大きくなり、反応温度を維持するために加える熱量が多くなる虞があるので、酸素、例えばボンベ入りの工業用酸素や酸素プラントで製造される酸素を用いることが好ましい。
本発明において、酸素は浸出されたFe2+をFe3+とすることにより、一つは銅と銀との浸出反応に寄与させ、一つは過剰のFe3+を含銀鉄明礬として沈殿させる役割を持つ。また、直接含銅硫化物を酸化して銅や鉄を浸出するとも考えられる。
なお、加圧容器の気相部への酸素供給は連続的に供給することが好ましい。酸素流速が低い場合や間欠的に酸素を供給した場合は、浸出液中の鉄明礬の生成が進まず、イオウによる浸出阻害が生じやすくなる。
また、加圧容器への酸素の供給は、スラリー中に吹き込むのではなく、加圧容器の気相部におこなうことが肝要である。これは、スラリー中に酸素を吹き込んだ場合、スラリー中に形成した気泡が黄銅鉱を液面付近に運んでしまう現象が発生し、均一に分散しなくなり浸出率の低下を招くからである。
【0034】
4) 銅浸出液
本発明の方法で得られた銅浸出液は、一般に酸性抽出剤が用いられる溶媒抽出工程において銅が抽出分離されて微量の銅と鉄と硫酸とを主成分とする抽出残液が得られ、抽出された銅は逆抽出されて銅が濃縮された逆抽出液として回収される。そして、逆抽出液は、電解液として不溶性電極を使用した銅電解工程に供給され、銅は電気銅として回収される。なお、前記抽出残液は組成調整された後、前記浸出用の硫酸溶液として繰り返し使用される。
【0035】
5) 銅浸出残渣
得られる銅浸出残渣中には、脈石成分、未反応の黄銅鉱、イオウ、及び含銀鉄明礬とが存在する。銀は、前記したように、含銀鉄明礬は無論、未反応の黄銅鉱と脈石成分とにも含まれている。本発明の回収対象は含銀鉄明礬である。
なお、イオウに関しては、以下の銀の浸出に先立ち蒸留分離してもよいが、その際には、残渣を粉砕して銀の浸出を行うことが好ましい。
【0036】
6) 銀浸出残渣
銀鉄明礬から銀を浸出た後の銀浸出残渣には硫黄、未溶解の含銅硫化物、及び脈石成分が存在し、これらに含まれる貴金属も存在する。したがって、通常、銀浸出残渣中の硫黄を、例えば、揮発分離した後、従来の熔錬炉に供し、貴金属を回収する。なお、含まれるイオウの量により分銀工程に供することも可能である。
【0037】
7) 銀出液(チオ硫酸ナトリウム溶液)
本発明で銀を浸出するために用いる銀浸出液としては、チオ硫酸ナトリウム溶液を用いるが、含銀鉄明礬を十分溶解するためである。
また、チオ硫酸ナトリウム濃度は、5〜20g/Lとする。この範囲を下回ると溶解した銀を浸出液中に[Ag(S3−の形態で確実に保持できないからである。
本発明において、チオ硫酸ナトリウム溶液で浸出できる理由について、本発明者らは、銅浸出残渣中に含まれる銀鉄明礬はAg(Fe)(SO(OH)の分子式で示されるが、これが硫酸により溶解され、銀が溶解度の低い硫酸銀(溶解度 0.85g/水100g)として飽和になる前に、チオ硫酸ナトリウムと反応して溶解度の高い[Ag(S3−を形成し、浸出液中に錯イオンとして銀浸出液中に確保されることにより浸出が進行するものと推定している。
【0038】
8) 活性炭
本発明に用いる活性炭は、特に限定されるものでもなく、一般的なものでよい。形状も、粉状、塊状、棒状等、各種の形態があるが、採用する回収方法に合わせて選択すればよい。例えば、銀の浸出と活性炭への吸着を同時に行うのであれば、粉状の活性炭の所定量を浸出槽に供給すればよい。また、カラム方式で活性炭に吸着させて回収するならば、粒状の活性炭を用いることが好ましい。
また、銀を吸着した活性炭より銀を回収するには、該活性炭を電気炉や管状炉で燃焼させればよい。あるいは、電解採取された電気銀を鋳込む際の溶解工程に補助燃料として供してもよい。
【0039】
9)浸出・回収方法
本発明では、前記含銅硫化物と前記硫酸水溶液からなるスラリーを形成し、これを加圧容器内に装入し、該加圧容器内の温度を120〜180℃の値に維持しながら、該加圧容器内の気相部の圧力がその温度での平衡気相圧よりも0.5〜2MPa高い圧力になるように、該容器内の気相部に酸素を供給し、もってスラリーの酸化還元電位を530mV以上620mV以下、望ましくは550mV以上620mV以下に保持して含銅硫化物から銅と銀とを浸出する。そして、含銀鉄明礬を含む銅浸出残渣と銅浸出液とを得る。銅浸出液は、上記したように処理されるが、含銀鉄明礬を含む銅浸出残渣は、後述するようにチオ硫酸ナトリウム溶液で処理して、銀を浸出し、活性炭に吸着させて回収する。
以下、銅の浸出条件と銀の浸出・回収条件等について項分けして説明する。
【0040】
9)−1 銅の浸出条件
銅の浸出条件をスラリー濃度、温度、酸素及び/又は空気の供給方法、及び酸化還元電位に項分けして説明する。
【0041】
9)−1−1 スラリー濃度
前記したように、本発明では、含銅硫化物と前記2)に記載した硫酸溶液とを混合してスラリーを形成し、これを加圧容器内に供給し、含銅硫化物より銅を浸出する。この際、スラリー濃度が低いと生産効率が低くなり、一方、高すぎると、反応に必要とされる時間が長くなりすぎて生産効率の低下を招く。そのため、本発明では、スラリー濃度は150〜300g/Lとすることが好ましい。
【0042】
9)−1−2 温度
本発明では、浸出時のスラリー温度を120〜180℃とする。こうするのは、主として十分な浸出速度を得ると同時に、浸出に伴って生成するイオウが酸化されて硫酸となるのを防止するためである。120℃未満では十分な浸出速度が得られず、所定の浸出率を得るために長時間かかり生産性に劣る。一方、180℃を超えると、浸出反応により生成するイオウの多くが酸化され、硫酸となり、前記抽出残液を繰り返し使用する際の硫酸バランスが取りづらくなる。
【0043】
ところで、イオウの融点は107〜113℃程度であることから、前記浸出時のスラリー温度で生成する単体イオウは溶融状態であり、未反応、あるいは反応中の含銅硫化物粒子表面に付着し、そのまま放置すれば含銅硫化物粒子表面全面がイオウで覆われ、浸出反応が阻害される。従来、この温度領域での黄銅鉱の浸出効率が低い理由は、浸出反応に伴い生成するイオウ量が他の銅鉱物の場合よりも多く、生成したイオウが早期に未反応、あるいは反応中の含銅硫化物粒子表面を覆い浸出反応を阻害するためと思われる。
本発明では、リグニンスルホン酸等の表面活性剤を解膠剤として用いることによりこの温度範囲で生成するイオウを球状の液滴状態とし、浸出されて過剰となったFe3+から生成した含銀鉄明礬をこの液滴状態のイオウ表面に沈積・堆積させてイオウが未反応、あるいは反応途中の含銅硫化物粒子表面に付着し、覆うのを効果的に防止する。
【0044】
9)−1−3 酸素及び/又は空気の供給方法
本発明では、酸化剤として酸素を用いるが、加圧容器内のスラリー中に酸素を直接吹き込むことはしない。これは、スラリー中に酸素を吹き込んだ場合、スラリー中に形成した気泡が上昇とともに黄銅鉱を液面付近に運ぶ現象が発生し、分散不均一による浸出率の低下を招くからである。したがって、加圧容器内の気相部に酸素を供給する。具体的には、加圧容器内のスラリーを120〜180℃に維持しながら、加圧容器内の気相圧を、その温度での平衡気相圧に0.5〜2MPaを上乗せした圧力となるように酸素及び/又は空気の供給量を調整する。
加圧容器内の気相部に供給された酸素は、スラリー中に溶解して酸化剤として働き、含銅硫化物中の銅、銀、及び鉄等を浸出し、あるいは浸出されたFe2+をFe3+とし、Fe3+を銅の浸出反応に寄与させ、また過剰のFe3+を含銀鉄明礬として沈殿させる。なお、反応により消費された酸素は加圧容器内の気相圧を一定とすることにより気相からスラリー内に補充される。
本発明において、加圧容器内の気相部への上乗せ圧力分が0.5MPa未満となると、スラリーの酸化還元電位が530mVより低下し、浸出速度が極端に低下するので好ましくない。一方、2MPaを越えて圧を上乗せすると、酸化還元電位が620mVを超え、銅の浸出速度の更なる向上は得られずにイオウの酸化が増加する。また、供給する酸素及び/又は空気の量が多くなり、排気の持ち去り熱量が増加して加圧容器内の温度を所定の範囲内に安定制御しづらくなるという問題も発生してくる。
【0045】
本発明の条件下では、加圧容器内の気相部の上乗せ圧力分とスラリーの酸化還元電位に正の相関が見られる。本発明では、この正の相関を用いることによりスラリーの酸化還元電位を制御し、含銅硫化物の浸出反応と含銀鉄明礬の生成反応とを制御する。
なお、酸素及び/又は空気の供給は、一定流量でおこなうことが好ましい。供給量がばらつくと、送入量が過剰になった場合には、送入された酸素ガスが酸化に使われずに無駄に排気されるなどして酸素の利用効率やエネルギー効率が悪くなる。一方、送入量が不足すると、単位体積あたりに導入する酸素ガスの量が減りスラリーの酸化還元電位の上昇が図れなくなる。
本発明では、加圧容器内の気相部の上乗せ圧力分とスラリーの酸化還元電位との正の相関を用いるために、加圧容器内のスラリーの酸化還元電位を簡単、かつ連続的に制御できる。
【0046】
9)−1−4 酸化還元電位
本発明では、含銅硫化物より銅、銀、及び鉄等を浸出する。そして、硫酸溶液中に浸出された銀と、鉄の過剰分を含銀鉄明礬として沈殿させ、前記液滴状態のイオウの表面に付着・堆積させる。これによりあたかもイオウの表面を含銀鉄明礬でコーティングしたような状態を生じさせてイオウが未反応、あるいは反応中の硫化銅粒子表面に付着し、覆うのを防止する。また、これによりイオウが酸化されるのを防止する。そのため、浸出反応を行う際に、加圧容器内のスラリーの酸化還元電位を530〜620mV、好ましくは550〜620mVに調整する。
酸化還元電位が530mV未満では、含銅硫化物から銅等を浸出する速度が著しく低下し、実用的な浸出速度が得られず、一方620mVを越えると浸出速度は速くなるものの、イオウが過剰に酸化され硫酸イオンとして浸出液に分配され、浸出液より銅を抽出分離した後の抽出残液を前記硫酸溶液として用いる場合に、系内の硫酸バランスが取り難くなる。
なお、系内の硫酸が過多になった場合には、前記したように、過多分の遊離硫酸分を消石灰、生石灰、そして炭酸カルシウム等により石膏として沈殿させて系外に払い出さなければならず、コスト上昇の要因となる。
【0047】
9)−2 銀の浸出・回収方法
本発明では、含銀鉄明礬を含む銅浸出残渣をチオ硫酸ナトリウム溶液で処理して銀を浸出し、銀を活性炭に吸着させて回収する。
以下、銀の浸出・回収方法を、スラリー濃度及び浸出時間と銀の回収方法とに項分けして説明する。
【0048】
9)−2−1 スラリー濃度及び浸出時間
銀の浸出時のスラリー濃度は、50〜100g/Lとすることが好ましい。この範囲より低いスラリー濃度とすると浸出効率が悪く、高いスラリー濃度とすると浸出が不十分となる虞があるからである。
また、浸出時の温度は特に限定されるものではなく、室温以上であれば十分浸出できる。また、浸出時間については、特に限定されないが、2〜3時間とすることが好ましい。これより短いと十分に浸出されず、これより長くても、更なる浸出率の増加は期待できないからである。
【0049】
9)−2−2 銀の回収方法
銀浸出液より銀を回収する手段としては、活性炭に銀を吸着させる方法が最も簡便であり、安価である。というのは、銀を吸着した活性炭を電気炉や管状炉等で簡単に焙焼して銀を回収することができる。さらに、電着金を鋳込む際に使用する溶解炉に補助燃料として用いてもよい。こうすることにより銀の仕掛かり金利の圧縮が可能となる。
活性炭への銀の吸着は、活性炭と銀を浸出した銀浸出終液とを接触させても良く、銀の浸出時に、チオ硫酸ナトリウム溶液、活性炭、及び銅浸出残渣を浸出槽内に同時に添加して攪拌しても良い。攪拌を停止すると、活性炭は比重差により浸出槽の液面近傍に集まり、銀浸出残渣は浸出槽底部に沈むため、簡単に活性炭を分離回収することができる。
本発明で用いうる活性炭としては、前記したように、特に種類や形状は問わないが、粉状の方が浸出と吸着とを同時にできるため好ましい。用いる活性炭量としては、銀浸出液1L当たり、5〜20g/Lとする。
この範囲を下回ると、銀鉄明礬石と活性炭の接触が不十分となり、十分な浸出効果が得られず、一方、上回ると、活性炭の量が過剰になり、経済的に好ましくない。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた原料、処理条件、物性測定等は、以下の通りである。
【0051】
<原料、処理条件等>
含銅硫化物:黄銅鉱と黄鉄鋼とが主鉱物となっている銅精鉱で、Cuが20.6質量%、Feが25.7質量%、及びSが24.6質量%のものである。
銅浸出用反応容器:内容積3Lのステンレス製オートクレーブを使用した。
銅浸出用ビーカー:内容積2.5Lのステンレス製円筒状容器を使用した。
酸素ガス:岩谷瓦斯株式会社製の酸素ボンベを使用した。なお、純度は99.5%である。
<測定法等>
気相圧の測定:オートクレーブに設けられている圧力計を用いた。
酸化還元電位の測定:東亜ディーケーケー株式会社製の銀/塩化銀電極を用いて測定した。
金属成分の分析:ICPを用いておこなった。
【0052】
(実施例1)
含銅硫化物を、浅田鉄工(株)製商品名NANO MILL NM−G2M型湿式ビーズミルを用いてスラリー濃度を1000g/l、流量を8L/minとし、パス回数を5回として粉砕し、10μm以下の粒子が80質量%以上を占める粒度分布になるようにした。次に、粉砕した含銅硫化物を乾燥重量に換算して200g分取し、組成がCu:0.88g/L、Fe:43.0g/L、及び遊離硫酸濃度が30g/Lの硫酸水溶液1Lと混合し、スラリーを作製した。このスラリーに解膠剤として、リグニンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製 製品名:リグニンスルホン酸ナトリウム)0.5g/Lを添加し混合した。
続いて、スラリー全量を銅浸出用ビーカーに入れ、該ビーカーを銅浸出用反応容器に装入し、密栓して攪拌しながら昇温し、165℃に維持した。165℃における平衡気相圧力は、約0.7MPaであった。その後、温度を165℃一定に維持しながら、酸素ボンベから圧力容器内の気相部に酸素を吹き込み、気相部の圧力を1.7MPa(上乗せ分 1.0 MPa)になるようにし、気相部の圧力が略1.7MPaを維持するように酸素流量を自動流量制御装置で調整して7時間反応させた。なお、酸素吹き込み中も温度はほぼ一定であり、酸素の流量も0.5L/minとほぼ一定であった。
その後、加熱を止めて室温まで冷却し、次いで加圧容器を開けてスラリーを取り出し、スラリーを濾過して濾液と浸出残渣とに分離し、得た濾液の酸化還元電位とpHとを測定し、濾液の金属イオン濃度と、洗浄し乾燥して得た浸出残渣の金属成分を分析した。
銅硫化物中に含有された銅の物量の内、浸出により濾液中に分配した物量の割合を求め銅浸出率とした。得られた結果と、浸出条件とを合わせて表1に示した。
次に、乾燥した銅浸出残渣50gと、チオ硫酸ナトリウム濃度が、無水和物として10g/lの銀浸出液1Lと、活性炭10gとを、2Lのビーカーに入れ、3時間攪拌した。
攪拌機を停止し、しばらく静置して活性炭をビーカー内の銀浸出終液上部に浮かせ、網ですくって回収した。その後、濾過して銀浸出終液と銀浸出残渣とを得た。
銅浸出残渣、銀浸出残渣、活性炭、及び銀浸出終液中の銀量を求め、表2に示した。
【0053】
(実施例2)
圧力容器内の気相部に掛ける上乗せ分を2.0MPaとした以外は、実施例1と同様にして含銅硫化物からの銅等の浸出を行い、得られた銅浸出残渣を用いて実施例1と同様にして銀の浸出・回収を行った。得られた結果と、浸出条件とを表1、及び表2に示した。なお、酸素吹き込み中の温度はほぼ一定であり、酸素の流量もほぼ一定であった。
【0054】
(実施例3)
反応温度を180℃とした以外は、実施例1と同様にして含銅硫化物から銅等を浸出し、得られた銅浸出残渣を用いて実施例1と同様にして銀を浸出・回収した。得られた結果と、浸出条件とを表1、及び表2に示した。なお、酸素吹き込み中も温度はほぼ一定であり、酸素の流量もほぼ一定であった。
【0055】
(実施例4、5)
用いる硫酸溶液中の鉄濃度を30.0(実施例4)、50.0g/L(実施例5)とした以外は、実施例1と同様にして含銅硫化物から銅等を浸出し、得られた銅浸出残渣を用いて実施例1と同様にして銀を浸出・回収した。得られた結果と、浸出条件とを表1、及び表2に示した。なお、銅浸出中、吹き込み中も温度はほぼ一定であり、酸素の流量もほぼ一定であった。
【0056】
(実施例6、7)
実施例1で得られた乾燥銅浸出残渣50gと、チオ硫酸ナトリウム五水和物を無水和物に換算して5g/L(実施例6)、20g/L(実施例7)になるように溶解した銀浸出液1Lと、活性炭10gとを、2Lのビーカーに入れ、3時間攪拌した。
攪拌機を停止し、しばらく静置して活性炭をビーカーの上部に浮かせ、網ですくって回収した。その後、濾過して浸出液と銀浸出残渣とを得た。
銅浸出残渣、銀浸出残渣、活性炭、及び銀浸出液中の銀量を求め、表2に示した。
【0057】
(実施例8)
実施例1で得られた乾燥銅浸出残渣100gと、チオ硫酸ナトリウム五水和物を無水和物に換算して10g/lになるようにした銀浸出液1Lと、活性炭10gとを、2Lのビーカーに入れ、3時間攪拌した。
攪拌機を停止し、しばらく静置して活性炭をビーカーの上部に浮かせ、網ですくって回収した。その後、濾過して銀浸出終液と銀浸出残渣とを得た。
銅浸出残渣、銀浸出残渣、活性炭、及び銀浸出終液中の銀量を求め、表2に示した。
【0058】
(比較例1、2)
圧力容器内の気相部に掛ける上乗せ分を0.4(比較例1)、2.2MPa(比較例2)とした以外は、実施例1と同様にして含銅硫化物からの銅等の浸出を行った。得られた結果と、浸出条件とを合わせて表1に示した。なお、酸素吹き込み中も温度はほぼ一定であり、酸素の流量もほぼ一定であった。
【0059】
(比較例3、4)
反応温度を110(比較例3)、200℃(比較例4)とした以外は、実施例1と同様にして含銅硫化物から銅等を浸出した。得られた結果と、浸出条件とを合わせて表1に示した。なお、酸素吹き込み中も温度はほぼ一定であり、酸素の流量もほぼ一定であった。
【0060】
(比較例5、6)
用いる硫酸溶液中の鉄濃度を15(比較例5)、60.0g/L(比較例6)とした以外は、実施例1と同様にして含銅硫化物から銅等を浸出した。得られた結果と、浸出条件とを合わせて表1に示した。なお、酸素吹き込み中も温度はほぼ一定であり、酸素の流量もほぼ一定であった。
【0061】
(比較例7)
酸素ガスの吹き込み流量を一定流量とせず温度の変動を見ながら、上乗せするガス圧を手動で、任意の時間間隔で0.5〜2MPaに変動させた以外は、実施例1と同様にして含銅硫化物から銅等を浸出した。得られた結果と、浸出条件とを合わせて表1に示した。
【0062】
(比較例8〜10)
銀浸出液としてpHを11(比較例8)、12(比較例9)、13(比較例10)とした水酸化ナトリウム溶液を用いた以外は、実施例6と同様にして銅浸出残渣より銀を浸出した。得られた結果を表2に示した。
【0063】
(比較例11)
銀浸出液として濃度10g/Lに調節した亜硫酸ナトリウム溶液を用いた以外は、実施例6と同様にして銅浸出残渣より銀を浸出した。得られた結果を表2に示した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1の結果より、本発明の条件に従う実施例では、浸出率も85%以上と良好な結果が得られている。一方、イオウ酸化率は、120〜180℃の温度、加圧条件下の中で浸出したにもかかわらず、いずれも65%以下と低く収まっていることがわかる。これに対して、本発明の範囲を外れた比較例では、銅の浸出率が85%未満と低かったり、イオウの酸化率が65%を超えていたりして十分な浸出結果が得られているとはいえないことが分かる。
また、表1より、加圧容器中の気相部に、スラリー温度と平衡となる気相圧より0.5〜2MPa高くなるように酸素及び/又は空気を供給する本発明の方法で、反応スラリーの酸化還元電位を十分制御できることが明らかであり、かつ酸素供給速度もできるだけ一定にすることが好ましいということが分かる。
【0067】
また、表2の結果より、本発明の条件に従う実施例では、銅浸出残渣中の含銀鉄明礬は十分に浸出され、その結果、銀浸出残渣中の品位が97〜99ppmに減少していることがわかる。また活性炭中には銀が3〜5ppm含まれ、最終的に分離して得た銀浸出終了後の銀浸出液中の銀濃度は1ppm以下となっていることから、銅浸出残渣中の銀鉄明礬は浸出され、浸出液中に移行した銀は、全て活性炭に吸着されていることが分かる。なお、銀浸出残渣中の銀は、銀浸出残渣中のガング成分と未反応の硫化銅鉱物中に存在しているものと思われる。
これに対し、チオ硫酸ナトリウムの代わりに水酸化ナトリウムと亜硫酸ナトリウムとを用いた比較例8〜11では、銀鉄明礬石中の銀品位は変化しなかった。また、これを裏付けるように、活性炭中にも、最終的に分離して得た銀浸出液中にも銀は検出されていない。
なお、本実施例では、銀の浸出と活性炭への銀の吸着とを同時に行うために、銀浸出時に活性炭を銅浸出残渣スラリーに共存させたが、活性炭を共存させることなく銀の浸出を行い、得られた銀浸出終液と活性炭とを接触させて、銀浸出終液中の銀を活性炭に吸着させても支障はない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明では、含銅硫化物より銀を浸出するに際して、浸出された銀を浸出液中の三価の鉄と反応させて銀鉄明礬を形成させる。また、浸出されて浸出液中で過剰分となった鉄を鉄明礬とする。そして、銀鉄明礬と鉄明礬を、浸出に伴って生成し、解膠剤により液滴状となったイオウ粒子表面に付着・堆積させて、イオウ粒子表面を覆うことによりイオウ粒子が未反応や反応途中の含銅硫化物粒子の表面を覆うことを防止する。これにより、含銅硫化物より銀を高浸出率で浸出できる。そして、銀鉄明礬より銀を浸出するに際してシアン化ナトリウムを用いることのなく、チオ硫酸ナトリウム溶液を用いる。したがって、本発明の方法は、低コストで、安全環境面で特別な配慮を必要としない方法であり、その産業的価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄銅鉱を主成分とする含銅硫化物から銀を回収する方法において、下記(1)〜(5)の処理を順次行うことを特徴とする含銅硫化物からの銀の回収方法。
(1)鉄を30〜50g/L、リグニンスルホン酸及び/またはその塩からなる解膠剤を0.2〜1.0g/Lの割合で含む硫酸溶液と、前記含銅硫化物とを混合し、スラリーを得る
(2)前記スラリーを加圧容器内に装入した後、スラリーの温度を120〜180℃に維持しながら、加圧容器内の気相部の圧力が平衡状態よりも0.5〜2.0MPaだけ高くなるのに十分な量の酸素及び/又は空気を気相部に供給して、スラリーの酸化還元電位を調整する
(3)固液分離して銅を含む浸出液と、銅浸出残渣とに得る
(4)前記銅浸出残渣と、チオ硫酸ナトリウムを無水物換算で5〜20g/Lの割合で含むチオ硫酸ナトリウム溶液(銀浸出液)とを混合して、銅浸出残渣スラリーを得た後、固液分離して銀浸出終液と、銀浸出残渣とを得る
(5)銀浸出液と活性炭とを接触させて銀を活性炭に吸着させ、回収する
【請求項2】
前記(1)における前記スラリーは、150〜300g/Lのスラリー濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の含銅硫化物からの銀の回収方法。
【請求項3】
前記(1)における前記硫酸溶液は、10g/L以下の銅を含むことを特徴とする請求項1に記載の含銅硫化物からの銀の回収方法。
【請求項4】
前記(1)における前記硫酸溶液は、15〜45g/Lの遊離硫酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の含銅硫化物からの銀の回収方法。
【請求項5】
前記(2)における前記酸化還元電位は、銀/塩化銀電極基準で、530〜620mVであること特徴とする請求項1に記載の含銅硫化物からの銀の回収方法。
【請求項6】
前記(4)における前記銅浸出残渣スラリーは、50〜100g/Lのスラリー濃度であることを特徴とする請求項1に記載の含銅硫化物からの銀の回収方法。
【請求項7】
前記(4)における前記チオ硫酸ナトリウム溶液は、活性炭を5〜20g/Lの割合で添加されたチオ硫酸ナトリウム溶液であることを特徴とする請求項1に記載の含銅硫化物からの銀の浸出方法。

【公開番号】特開2011−105969(P2011−105969A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259941(P2009−259941)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】