説明

吸入ノイズを特性化し、その特性化に基づきパラメータを算出する方法と装置

加圧空気供給システム内の吸入ノイズを特性化する方法。当該方法は、吸入ノイズに基づいて吸入ノイズモデル(912,1012)を生成すること、少なくとも1つの吸入ノイズバーストを有する吸入ノイズを含む入力信号(802)を受信すること、前記入力信号を前記吸入ノイズモデルと比較(810)して類似性尺度を得ること、前記類似性尺度を少なくとも1つの閾値(832,834)と比較して前記少なくとも1つの吸入ノイズバーストを検出すること、および前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストを特性化すること、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に通信システムに連結される加圧空気供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
消火のような危険な環境下での活動に従事する人員間の適切かつ確実な通信は、彼ら自身の健康と安全を維持しつつ職務を達成するために不可欠である。作業状況によっては、たとえば自給式呼吸器(SCBA)マスクと空気供給システム、自給式潜水呼吸器(SCUBA)マスクと空気供給システム、または航空機酸素マスクシステムなどの加圧空気供給システムの使用を要する場合がある。しかしながら、人員が上記加圧空気供給システムを使用している間でも、適切かつ確実な通信が維持され、人員の健康と安全が有効に監視されることが望ましい。
【0003】
図1は、通信システム130に連結される加圧空気供給システム110を含む従来技術システム100の概略ブロック図である。加圧空気供給システムは従来、SCBAマスクなどの呼吸マスク112、エアシリンダ(図示せず)、レギュレータ118、レギュレータ118をエアシリンダに接続する高圧ホース120を有する。使用される空気供給システム110の種類に応じて、システム110はたとえば、清潔な呼吸空気を使用者に提供したり、使用者の肺に有害毒素が届かないようにしたり、燃焼する構造物内の過熱空気によって使用者の肺が焼けるのを防いだり、使用者の肺を水から守ったり、顔や呼吸器官の火傷から使用者を守ったりすることによって、使用者を保護する。さらに、概して、空気はマスクの着用者が吸入するときにだけ通常供給されるため、マスクはプレッシャーデマンド型呼吸システムとみなされる。
【0004】
通信システム130は通常、マスク着用者の音声を記録するように設計され、マスクの内部に搭載されるか、マスクの外部に装着されるか、あるいはマスク112のボイスミッターポート上で手で保持し得る従来のマイクロフォン132を有する。さらに、通信システム130は、マスク着用者が音声をたとえば他の通信部に伝えるために使用可能な双方向無線機などの通信部134も有する。マスクマイクロフォン装置132は、無線機134に直接、あるいは仲介電子処理装置138を介して接続される。この接続は従来のワイヤケーブル(たとえば136)を通じて行うことも、従来のRF、赤外線、または超音波短距離送受信システムを用いて無線で行うこともできる。仲介電子処理装置138はたとえば、デジタル信号処理装置として実装され、インタフェース電子装置、オーディオアンプ、および仲介電子処理装置用ならびにマスクマイクロフォン用のバッテリー電源を含んでもよい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
システム100などのシステムの使用に付随する欠点がいくつかある。説明の簡易化のために、図1に示されるシステム100のマスク−無線機音声経路を示す図2のブロック図を参照し、これらの制限を説明する。唇からの音声入力210(たとえば、S(f))が、音響共鳴およびヌルを特徴とする音響伝達関数220(たとえば、MSK(f))を有するマスク(たとえば、SCBAマスク)に入る。これらの共鳴とヌルは、マスクの空洞体積とマスク内表面からの音の反響による。伝達関数MSK(f)を特徴とするこれらの効果は、入力された音声波形S(f)を歪ませ、そのスペクトル成分を変化させる。もう1つの音源は呼吸器具から生成されたノイズ230(たとえば、レギュレータ吸入ノイズ)で、マスクにも入り、MSK(f)の影響を受ける。もう1つの伝達関数240(たとえば、NP(f))は、ノイズが音声の位置とわずかに異なるマスク内の位置から生成されるという事実の説明となる。音声とノイズS(f)は、固有の伝達関数250(たとえば、MIC(f))を有するマイクロフォンにより音響エネルギーから電気信号に変換される。その後、マイクロフォン信号は通常、オーディオアンプ、および伝達関数260(たとえば、MAA(f))を有するその他の回路を通過する。次に、MAA(f)からの出力信号270(たとえば、S(f))は、さらなる処理と伝送のために無線機に入力される。
【0006】
システム100のようなシステムの欠点に戻ると、このような欠点の例は、動作の1部として大きな音響ノイズがこうしたシステムにより生成されることに関連する。より具体的には、これらのノイズは、特に無線機などの電子システムとともに使用されるとき、通信の質を大幅に低下させる可能性がある。SCBAシステムのような加圧空気供給システムによって生じる顕著な音響的アーティファクトであるノイズは、図2で枠230として示されるレギュレータ吸入ノイズである。
【0007】
レギュレータ吸入ノイズは、マスク着用者が吸入する度に生じる広帯域ノイズバーストとして発生する。マスク内が負圧になると、エアレギュレータバルブが開放され、高圧空気がマスクに入り、大きなヒス音を引き起こす。このノイズがその後に続く音声と共にマスク通信システムのマイクロフォンに補捉され、音声とはほぼ同じエネルギーを有する。吸入ノイズは通常吸入後にのみ発生するので、ふつうは音声にはかぶらない。しかしながら、この吸入ノイズが問題を引き起こすこともあり、その例を以下に示す。たとえば、吸入ノイズはVOX(音声動作スイッチ)回路を始動させることにより、無線チャンネルを開放し占有して、同じ無線チャンネル上の他の話し手を妨害する可能性がある。さらに、デジタル無線機を使用する通信システムでは、吸入ノイズがVAD(音声活動検出器)アルゴリズムを始動させて、無線信号処理チェーンのさらに下流でノイズ抑制アルゴリズムにおいてノイズ推定に混乱をきたす場合がある。また、概して吸入ノイズは聞き手を困らせる。
【0008】
システム100などのシステムの第2の欠点を以下に述べる。これらのシステムは通常、鼻、口、または顔全体を覆うマスクを使用する。空気システムのマスクは、マスクの体積と内反射面の形状寸法の関数である特定の音響共鳴および反共振(ヌル)のセットを呈示し、マスク内で生成される音声のスペクトル特性を変える固定形状寸法の閉鎖された空気腔を形成する。より具体的には、空気マスク音声経路(図2)を特性化する際、システムの最も難しい部分は、話し手の唇からマスクマイクロフォンへの音響伝達関数(220)である。これらのスペクトル歪は、装着される音声通信システム、特に劣化した音声を処理するように最適化されていないパラメータデジタル符復号器を用いるシステムの性能を大幅に低下させかねない。音響マスク歪は、特にパラメータデジタル符復号器が含まれる場合、通信システムの質と了解度に影響を及ぼすことが証明されている。一般的には、吸入ノイズだけでなく、空気システムはマスクの不十分な音響により、発生する音声の質を最大限悪化させる。
【0009】
図3は、マスク内(320)およびマスクマイクロフォン出力(310)で測定されたスペクトル振幅反応と、マスク、マイクロフォン、およびマイクロフォン増幅器に関して算出された総合伝達関数(330)の例を示す。これらの具体的なデータは、頭と胴のシミュレータに搭載されたSCBAマスクを用いて得られた。音響の励起は人工マウスシミュレータを駆動する3Hz〜10KHzの掃引正弦波からなる。図3に示されるように、スペクトルは主にマイクロフォン内のプリアンプ帯域通過フィルタのために、500Hz未満および4.0KHz超の周波数で大幅に減衰され、50〜4.0KHzの有意の音声通過帯域領域に多数の顕著なスペクトルの山と谷を含む。これらのスペクトルの山と谷は通常、くし型フィルタ(comb filtering)を生じるマスク内部の反射と空洞共振状態とによって引き起こされる。有意なスペクトルの山と谷は、通過帯域を前後に移動しつつ、音声ピッチの成分とフォルマントを変調し、結果的に質の悪化と音声の歪みを招く。このようなシステムを特性化する1つまたは複数の伝達関数を決定することが望ましい。その伝達関数は音声歪を低減する均等化システムを定義するために使用される。
【0010】
システムの伝達関数を適切に決定し伝送チャンネルを均等化するためには、実績ある手法が多数存在する。システムの伝達関数を決定する有効な方法の1つが、システムを励起し、システムパラメータを決定する広帯域基準信号の使用である。多くの音声伝達環境の伝達関数を推定する際の問題は、適切な広帯域励起信号が容易に利用可能でないことである。一般的なアプローチの1つは、基準として長期平均音声スペクトルを使用することである。しかしながら、特に音声入力がまばらであるとき、この基準を使用する順応時間が長くなる可能性がある。また、長期音声スペクトルは、音声スペクトルをかなり変えるおそれのある叫び声や感情的ストレスを含むことの多い公共サービス活動においては、個人間で相当な変動がある。
【0011】
システム100などのシステムに付随する別の欠点は、たとえば、生体計測パラメータを含むマスク着用者の特定のパラメータを測定するより有効な方法と装置がないことである。危険な環境で働き、システム100のようなシステムを使用しているかもしれない個人の上記パラメータの測定は、彼らの安全と動作を監視するために重要である。たとえば、個人の呼吸数と空気消費量の測定は、その個人の作業量、生理的適合性、ストレスレベル、および保管された供給空気の消費量(すなわち、有効作業時間)を特徴付ける重要なパラメータである。呼吸を測定する従来の方法には、胸部インピーダンスプレチスモグラフ法の使用または熱感度器を使用する気流温度測定などがある。しかしながら、消火活動などの肉体的に厳しい環境で作業する個人から、これらの従来の方法を用いて確実な測定値を得ることは、通常測定のために使用される身体装着センサおよびアーティファクトのずれを引き起こす可能性のある激しい肉体運動のためにより困難である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって、吸入ノイズを有効に検出および減衰し、音声を均等化し(すなわち、歪み効果を除去し)、通信システムに連結される加圧空気供給システムを含むシステムの使用者に関連するパラメータを測定するための方法と装置が必要とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。本発明は多くの様々な形を取る実施形態の代表的なものであり、図面で示し、本明細書で特定の実施形態を詳細に説明する。本記載は本発明の原則の例としてみなされ、図示され説明される特定の実施形態に本発明を制限することを意図していないことを理解し得る。さらに、本明細書で使用される用語および単語は限定的ではなく、単に説明的なものとみなされるべきである。説明の簡潔性と明瞭性のために、図面に示される構成要素は必ずしも一律の縮尺に従って描かれているとは限らない。たとえば、一部の構成要素の寸法は互いに誇大に描かれている。また、適切と考えられる場合、対応する要素を示すために、各図面間で参照符号が繰り返される。
【0014】
本発明の様々な側面を詳細に説明する前に、先に略述したエアレギュレータ吸入ノイズをより詳細に説明することが本発明を理解する上で有益である。吸入ノイズは、人が息を吸い込み、レギュレータバルブが開放されるときにSCBAまたはその他の加圧空気供給システムマスクに入る高圧空気の結果である。バルブでの乱流は、SCBAマスクに直接結合される非常に大きな広帯域ヒス雑音を引き起こし、それは音声信号を有するマイクロフォンでの振幅に匹敵する。SCBAマスクおよびその広帯域スペクトグラム500内に記録される典型的な吸入ノイズ400の例をそれぞれ図4および5に示す。
【0015】
図5に示されるように、ノイズスペクトルは、およそ500、1700、2700、および6000Hzで発生するスペクトルの顕著な山を有する広帯域である。山はマスク内の共振と、マスク内部の反射によるくし型フィルタから起こり、各種マスクモデル、サイズ、および構造に応じて周波数や大きさが変動する場合がある。いったんマスクが顔に装着されると、内部の全体的な幾何学的配置はほぼ一定であるため、ノイズスペクトルの配色は、マスク/着用者の特定の組み合わせに関して通常固定される。このことは、所与のSCBAマスクを着用する同一の話し手に関して、SCBAマスクのマイクロフォンから生じる3つの別々の吸入ノイズ(610、620および630)が重畳して示される図6に実証される。この一致は、異なる話し手および異なるメーカー製のマスクに関しても観察された。さらに、同一のマスクを着用する、異なる話し手から生じるエアレギュレータノイズのスペクトルの高い類似性も観察された。
【0016】
最後に、図7はSCBAシステムから記録される音声710の例を示す。図7が実証するように、人は通常息を吸い込む間、話そうとはしないため、吸入ノイズ720の影響は音声自体には及ぼされない。しかしながら、ノイズは、音声検出器と無線機におけるノイズ抑制回路とに関わる問題を引き起こし、聴音しづらくするのに十分なエネルギーとスペクトルとを有する。
【0017】
本発明の第1の態様は、図1に示されるシステム100のような通信システムに連結される加圧空気供給システムにおける吸入ノイズを検出し除去する方法と装置である。本発明のこの実施形態による方法は、本明細書ではARINA(エアレギュレータ吸入ノイズ減衰器)とも称される。エアレギュレータの吸入ノイズを特定し除去するARINA法の根拠は、音声や、たとえば様々な環境ノイズなどのその他の種類のノイズと比べた場合の相対的定常性である。ARINA法800のブロック図は図8に示され、4つの部分、ノイズモデルマッチング部810、ノイズ検出部830、ノイズ減衰部850、およびノイズモデル更新部870に分割することができる。
【0018】
ARINA法800の基本的な方法論は以下のように要約される。方法800は、好ましくはデジタルフィルタ(たとえば、全極型線形予測符号化(LPC)デジタルフィルタ)を用いて吸入ノイズをシミュレーションする。次に、方法800は、ノイズモデルフィルタの逆関数を用いる音声入力信号(すなわち、マスクマイクロフォンにより補捉される音声およびノイズ)を濾波し、逆ノイズモデルフィルタの出力エネルギーと、入力信号またはその他のエネルギー基準のエネルギーとを比較する。接近したスペクトル一致が入力信号とモデルとの間で生じる信号期間中、入力信号を備えるレギュレータ吸入ノイズは所望レベルに減衰させることができる。
【0019】
図8に示されるARINA法800の特性に移ると、処理の第1ステップは、方法800のノイズモデルマッチング部810を介して入力信号802を基準ノイズモデルと継続的に比較することにより吸入ノイズの発生を検出することである。これは、許容可能な実行の複雑さに応じて図9または図10に従い好適な実施形態において実行することができる。しかしながら、当業者であれば、代替のスペクトルマッチング方法を利用可能なことを認識し得る。図9および図10に示される2つの好適なマッチング方法は、本明細書では正規化モデル誤差(Normalized Model Error、すなわちNME)法およびイタクラ−サイトウ(Itakura−Saito、すなわちI−S)歪み法と称される。両方法では、基準ノイズモデルが、吸入ノイズのスペクトル特徴を概算するデジタルフィルタ(912、1012)により表される。好適な実施形態では、このモデルは、LPC係数のセットにより特定される全極型(自己回帰)フィルタとして表される。しかしながら、当業者であれば、たとえば、既知のARMA(自己回帰移動平均)モデルなどの全極型モデルの代わりに代替のフィルタモデルが利用可能なことを認識し得る。
【0020】
基準ノイズモデルフィルタ係数は、吸入ノイズの少なくとも1つのデジタルサンプル(digitized sample)から導いた自己相関係数のセットから得られる。最初のノイズサンプルとそれに対応する最初の自己相関係数(872)は、任意数の前もって取られたノイズ録音からオフラインで取得することができ、本発明の実施に必須ではない。さらに、実験が示すように、あるSCBAマスクからの最初のノイズサンプルは、たとえば同じ設計の他のマスクに関しても、また場合によっては異なる設計のマスクに関しても適切に働く。自己相関係数は、未処理のサンプルノイズデータから直接算出することもできるし、あるいは当業者にとって十分既知な共通の方法を用いてLPCまたはその他の反射係数などのその他一般的に使用されるスペクトルパラメータ表示から導き出すこともできる。
【0021】
好適な実施形態では、ノイズモデルの自己相関係数は、以下の標準式に従い算出される。
【0022】
【数1】

ただし、Rは最大p個の自己相関係数のi次の係数、xは最大N個のサンプルがある標準的な吸入ノイズ信号サンプルセグメントのn次のサンプル、Rはセグメント全体のエネルギーを表す。自己相関係数pの次数は通常10〜20で、好適な実施形態での値は14である。さらに、理想的には、N個の信号サンプルは、スペクトル推定を円滑化するために自己相関が実行される前に、ハミング窓(Hamming window)を用いてウィンドウ化される。ハミング窓は下式で表される。
【0023】
【数2】

当業者であれば、その他のウィンドウ化方法も利用できることを認識し得る。
【0024】
次に、ノイズモデル自己相関係数を使用して、以下のz−領域表示伝達関数を有する全極型線形予測モデルフィルタを表す、10次のノイズモデルLPC係数a、a、...、aのセットが決定される。
【0025】
【数3】

ただし、z=e−jnωTはz変換変数である。この例では、10次のLPC係数が決定された。しかしながら、特定の実施に基づき、別の次数のLPC係数を選択することもできる。自己相関−LPCパラメータ変換(ステップ912、1012)は、当業者にとって既知な任意数のパラメータ変換手法を用いて実行することができる。好適な実施形態では、LPCパラメータは、当業者にとって十分既知なダービン(Durbin)方法を用いて自己相関パラメータから導かれる。
【0026】
次に、図9に示されるNMEスペクトルマッチング方法の詳細に移ると、導出された全極型LPCノイズフィルタモデルは、逆LPCフィルタ(ステップ914)を形成するように逆転される。
【0027】
【数4】

理想的には、マスクマイクロフォンから得られ且つ音声および吸入ノイズを含む、低域濾波されサンプリングされた音声入力信号802、S(z)が逆フィルタH(z)を通過することにより(ステップ914)、出力信号が得られる。
【0028】
【数5】

次に、逆フィルタの入力および出力信号のエネルギーEin、Eoutが(それぞれステップ918および916で)算出され、歪み尺度Dはステップ920で算出される。歪み尺度Dは、ノイズモデルと入力信号との間の類似性尺度として機能する。Dの理論上の下限は無限次元ではゼロだが、実質上、下限は、入力信号とそれが有限次元のノイズモデルにどのくらい適切にマッチするかとによって決定される。この実施では、歪み尺度は正規化モデル誤差(NME)と称され、Einに対するEoutの比により定義され、ステップ920で次式のように算出される。
【0029】
【数6】

次に入力信号のエネルギーは、それがノイズモデルにどのくらい適切にマッチするかに従い除去される。好適な実施形態では、上述の信号フィルタリングは、先行する式で示されるように周波数領域で行うこともできるが、時間領域における畳み込みを介して行われる。
【0030】
ARINA法800の信号処理は通常、セグメント化フレーム毎に行われる。好適な実施形態では、入力信号802は低域濾波され、8.0KHzでサンプリングされ、80サンプルのブロックにバッファされ(10msec)、逆ノイズモデルフィルタを通過する(式5)。よって、すべてのフィルタリングは理想的には、入力信号802の連続80サンプルセグメントで行われる。次に、逆ノイズモデルフィルタの正規化モデル誤差(NME)が、フィルタ出力フレームエネルギーを入力信号フレームエネルギーで割ることにより算出される(式6)。しかしながら、この計算は、時間分解能を向上させるため理想的には、サブクレーム毎に行われる。したがって、各80ポイントフレームがたとえば4つの20ポイントサブフレームに分割されるが、代替のサブフレームへの分割は必要とされる精度に応じて利用することができる。次に、最後の16のサブフレームの出力フィルタエネルギーEoutの平均を取り、その量を対応するタイムアラインされた16のサブフレームの入力フィルタエネルギーEinの平均で割ることにより、正規化モデル誤差信号(NME)全体を均等化することができる。これは分析を遅延させず、レギュレータノイズスペクトルを変質させる場合のあるその他の大きな背景ノイズの一時的なドロップアウトや影響を除去するのに役立つ。それによって、本発明の本実施では、平均NME値は、入力信号スペクトルの類似性に対するノイズモデルの尺度として使用される。
【0031】
好適な実施形態では、図10に示される第2の、より複雑だがより正確なノイズモデルマッチング方法810は、イタクラ−サイトウ歪み法の変形である。2つの信号間のスペクトル類似性を判定するI−S法は、当業者にとって周知である。この方法では、残りのノイズモデル逆フィルタエネルギーが、前述のNME法のように入力信号エネルギーとではなく、「最適な」信号フィルタの残留エネルギーと比較される。フィルタは、現在の信号セグメントのスペクトルと最もよくマッチするという意味において「最適」である。
【0032】
最適に濾波された信号に対応する残留エネルギーは、ステップ1018〜1024を用いて算出される。I−S法では、ステップ1018で、理想的には2つの連続する入力信号802の80のサンプルバッファが、単独の160のサンプルセグメントに結合される。160のサンプルセグメントは、好ましくは次式により与えられる160ポイントのハミング窓を用いてウィンドウ化される。
【0033】
【数7】

ウィンドウ化された信号データは次に、式1に記載される方法を用いて自己相関させられる。ステップ1018で生成される自己相関係数は、R、i=0、1、2、...、pとして指定される。LPC係数の対応セットは、好ましくはステップ1012で基準ノイズモデルパラメータを生成するために使用されたのと同じように、ステップ1020でダービンアルゴリズムを用いて自己相関係数から導かれる。ステップ1020で生成される信号モデルLPC係数は、ai=1、2、...、pとして指定される。ステップ1022では、これらのLPC係数(ステップ1020)が、bを導き出す下記式9に従い自己相関させられる。これらのパラメータを用いて、このフィルタを通過する信号Eの残留エネルギーが次式によりステップ1024で算出される。
【0034】
【数8】

【0035】
【数9】

ノイズモデルを通過する入力信号のエネルギーは、ステップ1012〜1016を用いて算出される。ステップ1012では、ノイズモデルLPC係数が上述するようにノイズモデル自己相関係数(874)から算出される。ステップ1012で生成されるこれらのLPC係数は、ai=1、2、...、pとして指定される。ステップ1014では、LPC係数(ステップ1012から)が、bを導き出す下記式11により自己相関させられる。これらのパラメータとステップ1018で算出される自己相関シーケンス、Rを用いて、基準ノイズモデルを通過する信号のエネルギーは式10により与えられるようにステップ1016で算出される。
【0036】
【数10】

【0037】
【数11】

基準ノイズモデルに対する「最適」信号モデルのスペクトル歪の尺度Dは、次式で定義されるようにステップ1028で算出される。
【0038】
【数12】

信号モデルが基準ノイズモデルに類似するほど、歪み尺度は下限の1.0に近づいていく。この歪み尺度は、吸入ノイズの存在を判定するために、ARINA法800のノイズ検出部830によって使用される。I−Sの歪み尺度は、好適な実施形態では160のサンプルを用いて算出される。I−Sの歪み尺度によって判定されるような吸入ノイズの分類は、160サンプルセグメントの各80サンプルフレームに関連付けられる。さらに、ステップ1012および1014は、最初のノイズモデル(たとえば、最初の自己相関係数872に基づき)を生成する、あるいは上述され、以下詳述されるノイズモデル更新部870に従いノイズモデルを更新するために行うだけでよい。
【0039】
ARINA法800のノイズ検出部830では、スペクトルマッチ810から導かれる値(すなわち、入力信号とノイズモデル間の類似性尺度を表すNMEまたはI−Sの歪み尺度)は次に、実験的に導かれる閾値(たとえば、Dmin1)と比較される。この検出閾値は、音声や他の種類のノイズを誤って吸入ノイズと分類せずに吸入ノイズの存在を検出するために選択される。
【0040】
さらに、ノイズフィルタモデルの特定性、吸入ノイズのスペクトル変動、および音声とノイズモデルの類似性に応じて、たとえば、誤検出が起こる可能性がある。したがって、実際のエアレギュレータ吸入ノイズの継続時間が音声アーティファクトと比べてかなり長いため、ノイズ継続時間閾値テストも理想的には適用される(ステップ834)。よって、検出閾値は、検出が有効と確認される前に、所定数の連続フレーム「K」(たとえば、4フレーム)に対して満たされねばならない。相対的な信号エネルギー、波形のゼロ交差、およびその他の特徴的なパラメータ情報を、音声/吸入ノイズの区別を向上させるために検出スキームに含めてもよい。よって、両方の閾値基準が満たされる場合(ステップ832および834)、スペクトルマッチは許容可能に近似しているとみなされ、吸入ノイズが現在存在すると推定される。
【0041】
ARINA法800のノイズ減衰部850では、ノイズ検出部830の出力が、出力信号乗算器(852)をゲートするために使用され、この出力信号乗算器(852)を入力信号802が通過する。吸入ノイズが検出されれば、乗算器ゲインGがステップ854で所望の減衰値「Gmin」に設定される。この減衰ゲイン値は完全にノイズを除去するため0.0であってもよいし、ノイズを完全には除去しないが抑制するためにより高い値に設定してもよい。エアレギュレータが機能していることを聞き手に納得させるために、完全な抑制は望ましくないかもしれない。好適な実施形態では、Gminは0.05の値を有する。そうでなく、吸入ノイズが検出されない場合、ゲインGは音声信号を減衰しないように理想的には1.0に設定される。このゲーティング/乗算スキームは種々に変形することができる。たとえば、ゲーティングのアタック減衰が突然に起こらないように、吸入ノイズの前後に直接生じる場合がある音声を減衰する可能性を減少させることによって、感知する音声の質を向上させるような変形を採用することができる。さらに、方法800から容易に分かるように、本発明の重要な利点は、レギュレータノイズが検出されるときを除き、従来の継続的なノイズフィルタリング方法と異なり、元の信号が変質させられないことである。
【0042】
ARINA法800の重要な要素は、検出のためにノイズモデルを定期的に更新可能なことである。たとえば、時間が経過すると、顔の上の空気マスクの移動によって、空気マスクが音響伝達関数に及ぼす影響に変化が生じる場合がある。また、様々な人々による空気マスクの着用または異なるマスクの使用は、最初の基準ノイズモデルのスペクトルが実際の吸入ノイズスペクトルから逸脱する場合があることを意味する。元の基準ノイズモデルを定期的に更新することにより、正確な現在の基準ノイズモデルを維持できる。したがって、ARINA法800のノイズモデル更新部870はノイズモデルの更新に使用される。
【0043】
ノイズモデル更新部870は、レギュレータ吸入ノイズの基準LPCフィルタモデルを更新すべき時を判定するためにノイズ検出部830の出力を使用する。たとえば、ノイズ検出部830からの出力は、ノイズモデルを更新するかどうか判定するステップ876で、第2の実験的に決定される閾値(たとえば、Dmin2)と比べることができる。閾値が満たされると、吸入ノイズとして検出される連続サブフレームの数がカウントされて(ステップ878)、各サブフレーム内の信号サンプルがバッファに記憶される。連続するノイズサブフレームの数が閾値「K」(たとえば、好適な実施形態では、8サブフレーム、160サンプル)を超えると、ステップ880でノイズモデルを更新する決定がなされる。非ノイズサブフレームが検出されると(たとえば、ステップ832、834および876のいずれかで)、ノイズフレームのカウント値がステップ884でゼロにリセットされ、ステップ878で更新される。次に、現在検出されている吸入ノイズを表す「K」個の連続信号サブフレームの自己相関係数は、前述の式1および式2を用いてステップ882で算出することができる。
【0044】
これらの新たな自己相関係数は、ステップ874でノイズモデル自己相関係数を更新するために使用される。理想的には、ステップ882で算出される自己相関係数は、たとえば次式のような単純な重み付け式を用いてステップ874で、先のノイズモデル自己相関係数で平均を取る。
【0045】
【数13】

ただし、RREFは現在の基準ノイズモデルの自己相関係数で、RNEWは現在検出されている吸入ノイズサンプルの自己相関係数で、αは最初の基準モデルがどのくらい速く更新されるかを決定する1.0〜0.0の重み係数である。この重み係数は、吸入ノイズのスペクトル特性の変動の速さに応じて調節することができ、前述したようにその速さは通常遅い。次に、ノイズモデル逆フィルタのLPC係数の新しいセットは、ステップ912および1012で更新されたモデル自己相関から算出することができる。ノイズモデルからの大きなずれが誤検出により生じないように、ノイズモデルの調節に制限を課すことができる。また、必要に応じてシステムが初期モデル状態にリセット可能なように最初の基準ノイズモデル係数(872)が記憶される。ノイズモデル更新部870を参照することにより、上述の方法800の調整性能で、システムは特定のマスクおよびレギュレータの特性を調整し、最適な検出性能を実現することができる。
【0046】
ARINA法800の利点として、従来の継続的フィルタリングを採用するアルゴリズムの場合のように、アルゴリズムを処理することによって音声信号自体が不可逆的に影響を及ぼされることがない。別の利点としては、ここで使用されるLPCモデリングは、簡単で、リアルタイムで容易に調整可能であり、単純でコンピュータでの計算が効率的である。当業者であれば、上記の利点が本発明のARINAの実施形態に関連するすべての利点を包含することを意味するのではなく、その代表的なものとしての機能を果たすことを意味しているにすぎないことを認識し得る。
【0047】
本発明の第2の態様は、図1に示されるシステム100のような通信システムに連結される加圧空気供給システムで音声信号を均等化する方法と装置である。本発明の本実施形態による方法は、本明細書ではAMSE(空気マスク音声イコライザ)法とも称する。均等化のAMSE法の根拠は、音声やたとえば様々な環境ノイズなどの他の種類のノイズと比べた場合のノイズの相対的定常性である。同じマスクの共鳴状況がレギュレータノイズと音声信号の両方に影響を及ぼすため、音響反射によるピークとヌルは音声とノイズとの間のソース位置の違いによりノイズと音声との間でわずかに異なるが、ノイズを均等化することは、音声信号の均等化に適したイコライザをもたらすことにもなるはずである。
【0048】
AMSE法は、マスクの空洞と構造により生成される音響共鳴スペクトルのピークとヌル(すなわち、スペクトル規模音響伝達関数)を推定するため、すべてのマスク式加圧空気呼吸システム(たとえば、SCBA)に存在する広帯域エアレギュレータ吸入ノイズを利用する。次に、このスペクトル情報が、リアルタイムでデジタル逆フィルタの補正を構成するために使用される。デジタル逆フィルタはスペクトル面で歪んだ音声信号を均等化し、マスクなしに生成される非歪み音声を概算する出力信号を生成するのに適用される。この動作によって、マスクマイクロフォンから得られる音声の質が向上し、通信の了解度を向上させることができる。
【0049】
AMSE法の詳細に移ると、方法1100のブロック図を図11に示す。その方法はノイズモデルマッチング部1110、ノイズ検出部1130、マスク音声均等化部1150、およびノイズモデル更新部1170の4つの部分に分割することができる。AMSE法のノイズモデルマッチング部、ノイズ検出部、およびノイズモデル更新部は理想的には、先に詳述したARINA法の対応部分と同一である。したがって、簡潔さのため、これら3つの部分の詳細な説明はここでは繰り返さない。しかしながら、以下、AMSE法1100のマスク音声均等化部1150(点線領域)を詳述する。
【0050】
AMSE法1100のマスク音声均等化部1150を用いて、上述の式3を用いるステップ1152でノイズのn次LPCモデルを生成するため、吸入ノイズ基準自己相関係数が使用される。ステップ1152で生成されるLPCモデルはマスクの伝達関数、たとえば、図2のMSK(f)を特性化し、吸入ノイズに関してはノイズ経路伝達関数NP(f)も含む。好ましくは、14次モデルが適切だが、任意の次数を使用することができる。当業者であれば、たとえば、既知のARMA(自己回帰移動平均)モデルなどの全極型モデルの代わりに代替のフィルタモデルを使用してもよいことを認識し得る。さらに、本発明の好適な実施形態に関して上述した時間領域のフィルタリング作業とは全く異なり、周波数領域でフィルタリング作業を実行してもよい。
【0051】
次に、LPCモデル係数は好ましくは(式4に従い)逆フィルタ内で使用され、音声信号はステップ1156で逆フィルタを通過する。音声信号が逆フィルタを通過することで入力信号が有効に均等化され、それによって図2のマスク伝達関数MSK(f)で生じたスペクトル歪(山と谷)が除去される。適切な固定化後フィルタを用いる、ステップ1158でのポストフィルタリングは理想的には、吸入ノイズの非白色度を補正し、以下の特定の符復号器または無線機の要件に最適に一致する規定の音調の質を音声信号に与えるために、均等化された信号上で実行される。このポストフィルタリングは、図2のノイズ経路伝達関数NP(f)を補正するためにも使用することができる。
【0052】
AMSE法800のイコライザがエアレギュレータノイズに及ぼす影響を、2つの異なる次数の均等化フィルタに関して図12に示す。具体的には、図12は、均等化前の吸入ノイズバーストのスペクトル表示1210を示す。さらに、14次の均等化フィルタ(1220)および20次の均等化フィルタ(1230)を用いて、均等化後の吸入ノイズのスペクトルも示される。図示されるように、スペクトルの山は、20次の均等化フィルタにより極めて十分に、且つ14次均等化フィルタによりもある程度は十分に平坦化される。さらに、これらのフィルタにより均等化されるマスク音声に関する調音テストが示すように、音質は均等化されていない音声と比べ、均等化フィルタの使用により大幅に向上される。加えて、知覚された音質は2つのフィルタの次数間ではほとんど差が見られない。
【0053】
AMSEアルゴリズムアプローチの利点は、1)マスク音響共鳴特性を判定するための励起源として空気−マスクシステムに固有の定期的な、スペクトル上安定した、広帯域レギュレータノイズを使用すること、2)システム伝達関数モデリングが、簡単で定着した有効な手法を用いてリアルタイムで達成されること、3)均等化が同じ有効な手法を用いてリアルタイムで達成されること、および4)システム伝達関数モデルが変動し続ける状況に対してリアルタイムで継続的に順応可能なことである。当業者であれば、上記の利点が本発明のAMSEの実施形態に関連するすべての利点を包含することを意味するのではなく、その代表的なものとしての機能を果たすことを意味しているにすぎないことを認識し得る。
【0054】
本発明の第3の態様は、図1に示されるシステム100のような通信システムに連結される加圧空気供給システムにおいて、継続時間と吸入ノイズの周波数とを判定し、呼吸数と空気使用量を判定する方法と装置である。本発明の本実施形態による方法は、ここではINRRA(吸入ノイズ呼吸数分析器)法とも称する。INRRA法は、人からの呼吸音を測定する代わりに、エアレギュレータにより生成される音を監視することにより呼吸を測定する実質上非間接的な方法である。INRRA法の根拠は、SCBAなどの加圧空気呼吸システムが一方向の気流を有することである。空気は空気源とレギュレータを通じてのみシステム内に入ることができ、排気バルブを通じてのみシステム外に出ることができる。吸込および排気バルブは同時に開放不能である。よって、レギュレータ吸込バルブの動作は、使用者の呼吸サイクルに直接関連する。
【0055】
レギュレータ吸込バルブの開放の1つの指標はレギュレータ吸入ノイズである。吸入ノイズは、SCBAまたはその他の加圧空気供給システムマスクには入る高圧空気の産物である。人が息を吸い込むとき、レギュレータバルブを開放させ、圧縮タンク空気を導入させる、マスク内のわずかな負圧を生成するように、マスクは気密にされる。バルブを横断する乱気流は、SCBAマスクに直接連結され、マイクロフォンに捕捉され、吸入毎に生じる大きな広帯域ヒス雑音を引き起こす。上述したように、ノイズは突然生じ、吸入の継続時間中に渡って一定の振幅を有し、非常に優れた開始および終了時間分解能を提供する。所与のマスクの種類と着用者に関しては、吸入ノイズのスペクトル特性は、開口サイズ、声道状況、および肺の気流などの要因に応じて相当変動する直接的な人間の呼吸音とは対照的に極めて安定している。INRRAは、呼吸数の尺度としてエアレギュレータ吸入ノイズの安定性を利用する。
【0056】
INRRAは、全体のスペクトル特性により吸入ノイズの存在を特定する適合フィルタリングスキームを使用する。加えて、INRRAは、万一生じた場合の、ノイズのスペクトル特性の変動に対して順応することにより、吸入ノイズとその他の音声との間の最適な識別を提供することができる。各吸入の開始を算出することによって、瞬間的な呼吸数とその時間平均を吸入ノイズの発生から容易に算出することができる。さらに、各吸入ノイズの終点を測定し、継続時間を算出し、予測可能なマスクレギュレータ流速についての情報を提供することにより、システムは空気流量を推定することができる。これは、吸入ノイズを録音するマイクロフォンからの信号のみを用いて達成可能である。
【0057】
INRRA法1300のブロック図を図13に示す。INRRA法は、ノイズモデルマッチング部1310、ノイズ検出部1330、吸入息定義部1350、パラメータ推定部1370、およびノイズモデル更新部1390の5つの部分に分割可能である。INRRA法のノイズモデルマッチング部、ノイズ検出部、およびノイズモデル更新部は理想的には、先に詳述したARINA法の対応部分と同一である。したがって、簡潔にするため、これらの3つの部分の詳細な説明はここでは繰り返さない。しかしながら、INRRA法1300の吸入息定義部1350およびパラメータ推定部1370を以下に詳細に説明する。
【0058】
まず、吸入息定義部1350を説明する。INRRA法1300の吸入息定義部1350の目的は、少なくとも1つの要因、たとえば、この場合、吸入息に対応する1つかまたはそれ以上の吸入ノイズバーストの終点と継続時間のセットに基づき吸入ノイズを特性化することである。吸入ノイズ検出部1330の決定は、1および0の値を用いる時係数mの関数として吸入ノイズの有無を表すステップ1352で、好ましくは二値信号、INM、m=0、1、2、...、M−1を生成するために使用される。この二値信号は、M個のサンプルの長さの回転バッファに記憶され、Mは少なくとも2つの吸入ノイズバースト、または最も遅い予測呼吸速度での呼吸の期間を包含するのに十分な二値信号のサンプルを記憶できるほど大きい。好適な実施形態では、これは結局およそ15秒になる。この二値信号の時間分解能とMの値とは、上述したように吸入ノイズモデルマッチング部に依存する、吸入ノイズ検出部1330で使用される最も短いサブフレーム時間によって決定され、どのスペクトルマッチング方法をステップ1310で使用するかに応じて、20サンプル(2.5msec)または80サンプル(10msec)のいずれかである。
【0059】
1330からの吸入ノイズ検出器の出力は必ずしも完全であるとは限らないため、吸入ノイズの検出中に誤検出が発生して、ノイズの実際の開始と継続時間に関して曖昧さを招く可能性がある。よって、ステップ1352により生成される二値吸入ノイズ信号は、ステップ1354で周知の移動平均型またはその他の適切なフィルタを用いて統合される。このフィルタによって、短い継続時間の誤検出が除去され、呼吸に対応する完全な吸入ノイズバーストを定義する、より正確な信号が生成される。ステップ1354で生成されるこの信号から、各ノイズバーストの正確な開始時間S、終了時間E、および呼吸継続時間Dのうち少なくとも1つの要因を、ステップ1356において処理フレーム継続時間精度内で判定することができる。二値信号INMによって表されるような吸入ノイズバーストの開始時間および終了時間は、信号バッファ内の相対指数に着目することにより得られる。継続時間Dは次式のように単独の吸入ノイズバーストに対して定義される。
【0060】
【数14】

ただし、iは、長さMおよび期間T秒の二値信号バッファに存在するI吸入ノイズバーストのi番目を指定する。これらの吸入ノイズバースト係数値は理想的には、回転する有限長バッファ、ノイズバースト/呼吸ごとの1セットのパラメータに記憶される。INRRAアルゴリズム部1310、1330、1352、および1354により処理されるSCBAマスクマイクロフォン音声の結果は図14〜17に示され、SCBAを着用する男性の話し手の、静かな部屋で録音された音声に基づく。図14は、ノイズバースト1410の混在する入力音声1420を示す。図15は、吸入ノイズモデルマッチング部1310の出力のスペクトル歪尺度Dの時間−振幅表示1500を示す。図16は、吸入ノイズ検出器1330の二値出力時間−振幅表示1600を示す。図17は、未処理の検出器出力を組み込み、各吸入の継続時間を正確に定義する呼吸定義アルゴリズム1350の移動平均フィルタ成分1354の出力の時間−振幅表示1700を示す。
【0061】
パラメータ推定部1370は、吸入息定義部1350による吸入ノイズの特性係数に基づき推定可能なパラメータの例を示す。判定することのできる2つの上記パラメータの例は、使用者の呼吸数と概算吸入空気流量である。呼吸数は、吸入息定義部で判定可能な連続吸入ノイズバーストの順次的な開始時間Sを用いて容易に判定することができる。たとえば、分毎の「瞬時的」呼吸数は次式に従い算出できる。
【0062】
【数15】

ただし、Sは秒単位の2つの連続するノイズバースト(吸入息)開始時間である。従って、平均呼吸数は次式より算出できる。
【0063】
【数16】

ただし、Iは、規定時間Tにおける、検出された連続する呼吸(吸入ノイズバースト)数である。
【0064】
吸入中の概算空気流量は、吸入息定義部によって判定可能な呼吸の継続時間、および、たとえば、オフラインで判定可能な初期空気タンク充填圧力とレギュレータの平均流速とに関する追加情報から推定することができる。吸込バルブが開放されるとき、空気供給タンク圧がエアレギュレータの最低入力圧レベルを超えている限り、エアレギュレータはマスクにほぼ一定の圧力で(周囲空気/水圧の関数)空気量を送る。さらに、マスクに入る空気流速は、マスクレギュレータ吸込バルブが開放されている間、ほぼ一定である。よって、タンクから出されて、呼吸する人に運ばれる空気量は、吸込バルブが開放されている時間に比例する。バルブが開放されている時間は、各吸入ノイズの継続時間により測定可能である。
【0065】
充填される際の供給タンク内の初期空気量は、タンク体積V、充填圧力P、ガス温度T、一般ガス定数R、ガスのモル質量Nの関数であり、周知の理想的なガス式PV=NRTにより算出することができる。初期充填圧力とタンクシリンダー体積は知ることができるので、タンクガスとマスクガスの温度が同一だと仮定すると、マスク圧力での呼吸に利用可能な空気量は次式により与えられる。
【0066】
【数17】

吸入事象i中に使用者に供給される空気の概算量は次式のようになる。
【0067】
【数18】

ただし、IVは空気量、Dは吸入ノイズから判定される吸入事象の継続時間、Kは特定のエアレギュレータの気流速度に関連する校正係数である。Kは個々のシステムについて実験的に導き出すこともできるし、あるいはメーカーのデータから判定することもできる。個々の吸入量IVより、時間Tまでに使用される空気の概算総量Vは次式に従い定義することができる。
【0068】
【数19】

ただし、Iは時間Tまでの吸入総数である。残りのタンク供給空気はしたがって次式のようになる。
【0069】
【数20】

INRRA法の利点は、最小限の音声帯域で呼吸ノイズを捕捉するマイクロフォン信号を使用できることと、特別なセンサが不要なことである。別の利点は、呼吸検出器が、特徴が可変である人間の呼吸ノイズではなく、安定したスペクトル特性を有するエアレギュレータにより生成されるノイズを検出することに基づく。さらに別の利点は、他の種類の音響呼吸分析器のように特定周波数を調べることに固定されないことである。さらに、システムは、環境や異なる使用者および加圧空気呼吸マスクシステムの変動に自動的に順応する。よって、INRRA法は、システム100の外部に、たとえば、監視するための無線データチャネルを介して自動的に送ることのできる貴重な情報である瞬時的または平均呼吸数および概算空気使用量のデータを継続的に提供することができる。当業者であれば、上記の利点が本発明のINRRAの実施形態に関連するすべての利点を包含することを意味するのではなく、その代表的なものとしての機能を果たすことを意味しているにすぎないことを認識し得る。
【0070】
本発明による3つの方法(ARINA、AMSE、およびINRRA)はすべて、好ましくは記憶装置に記憶されるソフトウェアアルゴリズム(上述のシステム100によるシステムに含まれる)として実行され、そのステップはシステム100のDSP138のような適切な処置装置において実行される。本発明の自己相関とLPCフィルタリング法に相当するアルゴリズムは処理時間の半数を占め得る。しかしながら、ARINA、AMSE、およびINRRA法に相当する、これらのアルゴリズムまたはアルゴリズムの全体は、小さなハードウェア占有場所で有効に実行することができる。さらに、本発明の別の実施形態では、AMSE法はARINA法のように多くの方法を利用するため、有効に組み合わせることができる。
【0071】
本発明を特定の実施形態と組み合わせて説明してきたが、当業者は追加の利点と変形を容易に想到し得る。したがって、本発明はより広い側面では、図示され記載されるような特定の詳細、代表的な装置、および図示される例には限定されない。様々な変更、変形、および置換は、上述の説明に鑑み当業者にとっては自明である。たとえば、吸入ノイズを特定し減衰する方法を上述したが、本発明に関して説明した方法は、呼気ノイズ、または上述の方法を用いる有効な検出に役立つ擬似固定的スペクトル特性を有するその他の種類のノイズに適用させることもできる。よって、本発明は上述の説明に限定されず、添付の特許請求の範囲の思想と範囲に従うすべての変更、変形、および変種を包含するものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】通信システムに連結される呼吸用の加圧空気供給システムを含む従来技術システムの概略ブロック図である。
【図2】図1に示されるシステムのマスク−無線機音声経路を示す。
【図3】マスク内でおよびマスクマイクロフォン出力で測定されたスペクトル振幅反応と、マスク、マイクロフォン、およびマイクロフォン増幅器に関して算出された総合伝達関数の例を示す。
【図4】SCBAエアレギュレータによって生じる吸入ノイズの例を示す。
【図5】図4に示される吸入ノイズの長期のスペクトルの大きさを示す。
【図6】所与のSCBAマスクを着用する単独の話し手から生じる吸入ノイズの4つの重複スペクトルを示す。
【図7】音声と混在する吸入ノイズバーストを示す、SCBAマイクロフォンからの音声出力を示す。
【図8】本発明の一実施形態による吸入ノイズを検出し除去する方法の概略ブロック図である。
【図9】図8の方法で使用されるスペクトル照合回路の一実施形態の概略ブロック図である。
【図10】図8の方法で使用されるスペクトル照合回路の別の実施形態の概略ブロック図である。
【図11】本発明の別の実施形態による音声信号を均等化する方法の概略ブロック図である。
【図12】本発明による14次および20次のLPC逆フィルタ均等化後のスペクトルと比べた場合の均等化前の吸入ノイズスペクトルを示す。
【図13】生体計測パラメータの測定に使用される本発明の別の実施形態による、吸入ノイズの周波数の継続時間を判定し、呼吸数および空気使用量を判定するための方法の概略ブロック図である。
【図14】音声およびエアレギュレーションの吸入ノイズを含む、マイクロフォン入力からの信号を示す。
【図15】図13に示される方法により判定される図14に示される信号の平均正規化モデル誤差を示す。
【図16】図13に示される方法により生成される吸入ノイズ検出器の出力信号を示す。
【図17】図13に示される方法により生成される総合吸入検出器出力を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧空気供給システム内の吸入ノイズを特性化する方法であって、当該方法は、
加圧空気供給システムにより生成された吸入ノイズに基づき吸入ノイズモデルを生成することであって、吸入ノイズの少なくとも1つのデジタルサンプルから導出された少なくとも1つの自己相関シーケンスに基づき決定性デジタルフィルタとして表される前記吸入ノイズモデルを生成すること、
少なくとも1つの吸入ノイズバーストを有する吸入ノイズを含む入力信号を受け取ること、
前記入力信号を前記吸入ノイズモデルと比較して類似性尺度を得ること、
前記類似性尺度を少なくとも1つの閾値と比較して前記少なくとも1つの吸入ノイズバーストを検出すること、
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストを特性化すること、
を備える、方法。
【請求項2】
前記特性化に基づく少なくとも1つのパラメータを判定することをさらに備える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのパラメータは、使用者の呼吸数と吸入空気流量のうちの少なくとも1つを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記検出された吸入ノイズバーストは、二値信号として特性化される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記検出された吸入ノイズバーストは、
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストの開始時間と、
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストの終了時間と、
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストの継続時間と、
を含む少なくとも1つの要因により特性化され、
前記少なくとも1つのパラメータは、前記特性化の要因のうちの少なくとも1つの関数である、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記決定性デジタルフィルタは、自己相関係数のセットから生成される線形予測符号化(LPC)係数のセットに基づくLPCフィルタであり、
前記吸入ノイズモデルを生成することは、
吸入ノイズをサンプリングして、前記吸入ノイズの前記少なくとも1つのデジタルサンプルを生成すること、
前記少なくとも1つのデジタルサンプルをウィンドウ化すること、
前記ウィンドウ化された少なくとも1つのデジタルサンプルから自己相関係数のセットを判定すること、
前記自己相関係数のセットに基づき前記LPC係数のセットを生成すること、
LPC係数のセットから前記LPCフィルタを生成すること
を備える、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストに基づき前記吸入ノイズモデルを更新することをさらに備える、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記決定性デジタルフィルタは、第1の自己相関係数のセットに基づき生成される線形予測符号化(LPC)係数のセットに基づくLPCフィルタであり、
前記吸入ノイズモデルを更新することがさらに、
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストをサンプリングして、該検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストの少なくとも1つのデジタルサンプルを生成すること、
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストの前記少なくとも1つのデジタルサンプルから第2の自己相関係数のセットを判定すること、
前記第1及び前記第2の自己相関係数のセットの関数として前記第1の自己相関係数のセットを更新すること、
前記更新された自己相関係数のセットに基づいて前記LPC係数のセットを更新すること、
前記更新されたLPC係数のセットに基づいて前記LPCフィルタを更新すること、
を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
加圧空気供給システム内の吸入ノイズを特性化する装置であって、
処理素子と、
前記処理素子に接続された記憶素子であって、以下のステップ:
加圧空気供給システムにより生成された吸入ノイズに基づき吸入ノイズモデルを生成するステップであって、吸入ノイズの少なくとも1つのデジタルサンプルから導出された少なくとも1つの自己相関シーケンスに基づき決定性デジタルフィルタとして表される前記吸入ノイズモデルを生成するステップと、
少なくとも1つの吸入ノイズバーストを有する吸入ノイズを含む入力信号を受け取るステップと、
前記入力信号を前記吸入ノイズモデルと比較して類似性尺度を得るステップと、
前記類似性尺度を少なくとも1つの閾値と比較して前記少なくとも1つの吸入ノイズバーストを検出するステップと、
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストを特性化するステップと、
を実行するように処理装置に指示するためのコンピュータプログラムを記憶する、前記記憶素子と、
を備える装置。
【請求項10】
吸入ノイズを特性化するシステムであって、
加圧空気供給システムと、
前記加圧空気供給システムに接続された通信システムであって、当該通信システムが、
前記加圧空気供給システムにより生成された吸入ノイズに基づき吸入ノイズモデルを生成することであって、吸入ノイズの少なくとも1つのデジタルサンプルから導出された少なくとも1つの自己相関シーケンスに基づき決定性デジタルフィルタとして表される前記吸入ノイズモデルを生成すること、
少なくとも1つの吸入ノイズバーストを有する吸入ノイズを含む入力信号を受け取ること、
前記入力信号を前記吸入ノイズモデルと比較して類似性尺度を得ること、
前記類似性尺度を少なくとも1つの閾値と比較して前記少なくとも1つの吸入ノイズバーストを検出すること、
前記検出された少なくとも1つの吸入ノイズバーストを特性化すること、
を含む、通信システムと、
を備えることを特徴とするシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2008−504587(P2008−504587A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519242(P2007−519242)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/020299
【国際公開番号】WO2006/007342
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(390009597)モトローラ・インコーポレイテッド (649)
【氏名又は名称原語表記】MOTOROLA INCORPORATED