説明

吸収性物品

【課題】幅方向にわたって容易に折れ曲がりやすく、また表面シートから吸収体への液の移行性が良好な吸収性物品を提供すること。
【解決手段】吸収性物品1は、その長手方向にそれぞれ延びる畝部20と溝部30を交互に有する表面シート10を備える。畝部30には、物品1の長手方向に沿って間欠的に、物品1の幅方向に延びる窪み部22が多数形成されている。 窪み部22のシート厚み方向の畝部頂部からの深さ(D2)は、畝部20における表面シート10の厚み(D1)の半分以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理用ナプキンや使い捨ておむつなどの吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の長手方向に延びる凹凸部を、物品の幅方向に交互に配した表面シートを備えた吸収性物品が知られている。例えば特許文献1には、受液側に向く谷部と山部とが、長手方向に延び、かつ長手方向と直交する方向である幅方向へ波状に形成されている表面シートを備えた吸収性物品が記載されている。山部には、表面シートを構成する繊維の密度が低い粗部と、密度が高い密部とが長手方向に向かって交互に形成されている。この吸収性物品によれば、表面シートが、山部に形成された各粗部で湾曲変形し、粗部以外の密部において無理に折れ曲がることが防止されると、同文献には記載されている。
【0003】
しかし特許文献1に記載の吸収性物品においては、表面シートはその幅方向断面が実質的に同じ厚みを有する波形をしているので、該表面シートは、密度が高く剛性が高められている密部ではなく、粗部において可撓するものである。したがって該表面シートは、その下に位置する吸収体と谷部でしか接触していない。この接触状態に起因して、表面にシートに排泄された液の吸収体への移行、特に肌と直接接する波形状の頂部からの液の移行が速やかに行われにくい場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−137284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前述した従来技術の吸収性物品よりも更に性能が向上した吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、肌当接面側に表面シート、非肌当接面側に裏面シート、該両シート間に吸収体を備えた縦長の吸収性物品であって、
前記表面シートは、前記物品の長手方向に延びる縦長の畝部と溝部を交互に有し、
前記畝部には、シート厚み方向に窪んだ窪み部が、物品の長手方向に沿って間欠的に形成されており、
前記窪み部のシート厚み方向の畝部頂部からの深さ(D2)は、前記畝部における表面シートの厚み(D1)の半分以上である吸収性物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面シートが畝溝構造を有しているため、畝溝の延びる方向の湾曲が起こりにくいが、表面シートの畝部に形成された窪み部が折曲の起点となり、吸収性物品がその長手方向に容易に折れ曲がるようになる。さらに、表面シートにおける畝部の厚みが溝部の厚みより大きい場合、その効果がより顕著となる。その結果、吸収性物品と着用者の身体との間が離間しづらくなり、また表面シートと吸収体との間も離間しづらくなる。また、畝部においてはその下面が吸収体と接触しているので、排泄された液の移行性が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の吸収性物品の一実施形態である生理用ナプキンをその表面シート側からみた平面図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】図1に示すナプキンに用いられる表面シートの要部を拡大して示す模式図である。
【図4】図3におけるIV−IV線断面図である。
【図5】図1に示すナプキンに用いられる表面シートにおける前方溝又は後方溝付近の要部を拡大して示す模式図である。
【図6】図3に示す表面シートを製造する装置の一例を示す模式図である。
【図7】図6における流体透過性支持体を示す斜視図である。
【図8】図6に示す装置を用いた表面シートの製造過程を示す模式図である。
【図9】図3に示す表面シートの製造に好適に用いられる刃溝ロール
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の吸収性物品の一実施形態である生理用ナプキンをその表面シート側からみた平面図が示されている。図2は、図1におけるII−II線断面図である。
【0010】
ナプキン1は平面視して縦長の形状のものである。ナプキン1は、肌対向面側に位置する表面シート10、下着対向面側に位置する裏面シート11及び両シート間に介在配置された吸収体12を備えている。吸収体12は平面視して縦長の形状をしている。表面シート10及び裏面シート11は、吸収体12の前後端縁及び左右側縁から外方にそれぞれ延出している。吸収体12の左右側縁から外方に延出した表面シート10は、吸収体12の下面側に巻き込まれている。ナプキン1の左右の側部域における表面シート上には、防漏カバーシート14が、ナプキン1の長手方向に延びるように配されている。各防漏カバーシート14におけるナプキン1の幅方向内側寄りの側縁部は表面シート10上に位置しており、かつ表面シート10から離間している自由縁になっている。図示していないが、この自由縁には、ナプキン1の長手方向に沿って弾性部材が伸長状態で配置されていてもよい。これによって、防漏カバーシート14の内側寄りの側縁部が表面シート10から一層離間しやすくなり、該シート14による防漏効果が一層高まる。
【0011】
吸収体12の左右側縁から外方に延出した防漏カバーシート14は、同じく吸収体12の左右側縁から外方に延出した裏面シート11と接合している。上述したウイング部13は、これら防漏カバーシート14と裏面シート11との接合体から構成されている。ナプキン1の幅方向中央域における下着対向面、すなわち裏面シート11の表面には、ナプキン1を下着に固定するための粘着部15aが、ナプキン1の長手方向に延びるように形成されている。また、ウイング部13の下着対向面には、ウイング部13を下着に固定するための粘着部15bが形成されている。
【0012】
ナプキン1は、着用時に着用者の排泄部に対向配置される排泄部対向部位Aを有している。更に排泄部対向部位Aから前後方向に延びる前方部B及び後方部Cを有している。前方部Bは、排泄部対向部位Aよりも着用者の腹側(前方)に配される。後方部Cは、排泄部対向部位Aよりも着用者の背側(後方)に配される。
【0013】
本明細書において、「肌対向面」は、ナプキン着用時に着用者の肌側に向けられる面であり、「下着対向面」は、ナプキン着用時に下着側(着用者の肌側とは反対側)に向けられる面である。また、「長手方向」は、ナプキン又は各種部材の長手方向に沿う方向であり、「幅方向」は、長手方向と直交する方向である。
【0014】
ナプキン1には、表面シート10及び吸収体12を一体的に圧縮してなる側方溝60が、ナプキン1の長手方向に延びるように、ナプキン1の幅方向の左右の側部域に形成されている。側方溝60は、前方部Bから後方部Cまでにわたり延在している。側方溝60は、吸収体12の側縁からやや内側に位置している。また、ナプキン1には、表面シート10及び吸収体12を一体的に圧縮してなる前方溝71及び後方溝72が、ナプキン1の幅方向に延びるように、排泄部対向部位Aの前後の部位、すなわち前方部B及び後方部Cにそれぞれ形成されている。側方溝60並びに前方溝71及び後方溝72は、表面シート10及び吸収体12を、熱を伴うか又は伴わずに肌対向面側から圧縮することによって形成されている。
【0015】
側方溝60は、連続した一条の溝になっている。同様に、前方溝71及び後方溝72も、連続した一条の溝になっている。前方部Bにおける各側方溝60の端部と、前方溝71の左右の端部とは連結している。同様に、後方部Cにおける各側方溝60の端部と、後方溝72の左右の端部とは連結している。それによって、これらの溝は全体として閉じた形状をなしている。
【0016】
図3には、表面シート10の要部拡大図が示されている。図4は、図3におけるIV−IV線断面図である。図3中、Yで示す方向がナプキン1の長手方向であり、Xで示す方向がナプキン1の幅方向である。図3及び図4に示す表面シート10は、第1の面10aと、これに対向する第2の面10bとを有する。第1の面10aは、表面シート10が、生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の吸収性物品に組み込まれたときに、着用者の肌側を向く面である。第2の面10bは、吸収性物品の吸収体側を向く面である。表面シート10は、それぞれ長手方向Yに延びる畝部20及び溝部30を有する。畝部20及び溝部30は、それらの延びる方向Yと直交する方向Xにわたって交互に配列されている。
【0017】
畝部20は、表面シート10の構成繊維で満たされている。つまり畝部20内には空洞は存在していない。同様に、溝部30のうち、後述する開孔31が形成されていない部位は、表面シート10の構成繊維で満たされている。畝部20は、表面シート10における相対的に厚みの大きな部位から構成されており、溝部30は、表面シート10における相対的に厚みの小さな部位から構成されている。その結果、畝部20の実質厚みは、溝部30の厚みよりも大きい。ここで実質厚みとは、表面シート10の裏面から各々の最上部までの長さ(見掛け厚み)ではなく、表面シート10の繊維が存在する部分の長さを意味する。
【0018】
図4に示すように、畝部20は、その延びる方向と直交する方向(図中、Xで示す方向)での断面において、第1の面10aの側は、上に凸の滑らかな曲線を描く輪郭となっている。畝部20における第1の面10aの側は、第2の面10bの側よりも高く盛り上がっており、これが周期的に連続している。これによって第1の面10aの側は、X方向に沿って波形形状になっている。したがって、表面シート10の第1の面10a側が着用者の肌と接する場合には、畝部20の頂部及びその近傍の領域が部分的に接触することになり、全面接触に起因する蒸れによるべたつき感や、こすれに起因する刺激感が低減される。また、着用者から排泄された液が、着用者の肌に付着しづらくなる。
【0019】
一方、第2の面10bの側は、下に凸の滑らかでかつ緩やかな曲線を描く輪郭となっている。したがって表面シート10の吸収体対向面のうち、畝部20に位置する部位は、表面シート10の下側に配される吸収体12と、面で以て接触するようになる。これによって、表面シート10に排泄された液は、該表面シート10における畝部20を透過して、円滑に吸収体12へと移行することが可能になる。その結果、表面シート10の第1の面10aは、さらっとしたドライ感の高いものとなる。
【0020】
図4に示すように、畝部20は、X方向での断面において、第1の面10a側に頂部21を有し、この部位において実質厚みが最も大きくなっている。そして、X方向に関し、頂部21から離れるに連れ実質厚みが漸減している。したがって、表面シート10は、そのX方向に沿ってみたときに(ただし、後述する窪み部22に沿ってみたときは除く。)、実質厚みが周期的に変化したものとなっている。図には示していないが、畝部20は、その延びる方向(図4中、紙面と直交する方向)において、頂部21における実質厚みがいずれの位置においてもほぼ同じになっている(ただし、後述する窪み部22に沿ってみたときは除く。)。本実施形態の表面シート10において、畝部20と溝部30との間に明確な境界部は存在せず、一般に、X方向に関して隣り合う2つの頂部21間に位置する最も実質厚みの小さい部位及びその近傍の部位が溝部30となる。畝部20と溝部30との境界を明確に定義する場合には、畝部20の頂部21における見掛け厚みの1/2の厚みの位置を、畝部20と溝部30との境界部とする。
【0021】
畝部20における表面シート10の厚みD1(図4参照)は、表面シート10のクッション性及び通気性を高め、更に液の拡散を制御する観点から、0.1〜3mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましい。厚みD1は、マイクロスコープVH‐8000(キーエンス製)を用い、表面シート10の断面を50倍〜200倍に拡大観察して測定する。断面は、フェザー剃刀(品番FAS−10、フェザー安全剃刀(株)製)を用い、表面シート10を切断して得る。なお、同様の方法で測定された溝部30の厚みは、0.1〜1mmである。
【0022】
表面シート10のX方向における畝部20の幅は、肌触りと吸収性の観点から、1〜10mmが好ましく、2〜5mmがより好ましい。同様の観点から、表面シート10のX方向における溝部30の幅は、0.5〜7mmが好ましく、1〜3mmが好ましい。本実施形態においては、畝部20と溝部30は同じ幅で形成されているが、これに限られず例えば表面シート10のX方向の中央域における畝部20の幅を、側部域における畝部20の幅よりも広くしてもよい。あるいは、畝部20及び溝部30の幅をランダムにするなど、所望の形態とすることができる。
【0023】
図3に示すように、畝部20においては、ナプキン1の長手方向、すなわち同図中、Yで示す方向に沿って間欠的に、ナプキン1の幅方向、すなわち同図中、Xで示す方向に延びる窪み部22が多数形成されている。窪み部22は、表面シート10の厚み方向に窪んで形成されている。窪み部22は、ナプキン1の幅方向に沿ってみたときに該窪み部22が直線状に連なって窪み部列22Aが形成され、かつ該窪み部列22Aがナプキン1の長手方向に沿って所定間隔をおいて形成されるように配置されている。窪み部22は、畝部20を圧縮してその厚みを減じることで、場合によっては更に吸収体側へ突出させることで形成されている。図4に示すように、窪み部22は、畝部20の頂部から深さD2が、畝部20における表面シート10の厚みD1の半分以上となっており、好ましくはD1の60〜150%となっている。D2がD1の100%超になっている場合には、窪み部22は、吸収体側へ突出している。
【0024】
ナプキン1の長手方向に沿う窪み部22の長さL(図3参照)は、0.5〜5mm、特に1〜3mmであることが、畝部20の最頂部高さを維持することでクッション性や柔軟性を保ちながら、窪み部22による接触面積の低下によるべたつき感低減の効果を高める点、及び畝部20が圧縮された結果形成された繊維密度の高い窪み部22による液の移行性(畝部20の頂部から窪み部22への毛管勾配形成)向上の点、さらには表面シート10の第1の面10a側における平面方向の通気性を高める点から好ましい。また、ナプキン1の長手方向に沿う窪み部列22AのピッチPは一定になっており、1〜10mm、特に2〜5mmであることが、装着時の圧力による表面シート10の厚みの減少量(畝部20の潰れ量)を一定とし、クッション性や柔軟性、さらには吸収性を安定化させる観点、及び製造制御の容易さの観点から好ましい。
【0025】
このような畝部20が形成されていることで、ナプキン1においては、窪み部列22Aを可撓軸として変形し、ナプキン1をその側面からみたときに、ナプキン1が長手方向にわたって表面シート10の側へ向けて容易に凹状に湾曲する(折れ曲がる)ようになる。その結果、表面シートに不規則に発生する皺による違和感や液流れの発生が抑制され、ナプキン1と着用者の身体がフィットし易くなり、表面シート10と吸収体12との間も離間しづらくなる。それによって、排泄された液の透過性や、表面シート10から吸収体12への液の移行性が良好になる。また、ナプキン1が着用者の身体の湾曲形状に適合するときに、表面シート10の肌対向面側に窪み部22が形成され、該窪み部22が可撓軸として働くことによって、窪み部22でナプキン1が屈曲し窪み部22を挟んでナプキン1の長手方向両側に形成される畝部20の頂部同士が近接する。その結果、窪み部22の隙間が埋められるようになるので、液をより取り込み易くなる。一方、排泄部対向部位Aでは、個人差はあるが窪み部22による隙間が維持又は若干広がるように湾曲するため、通気性を高い状態で保つことができる。なお、ナプキン1の前方部B及び後方部Cにおいて、身体の湾曲形状に沿った場合でも、表面シート10の移動量は畝部20の頂部に近い部分ほど大きいため、窪み部22に近い部分は空間が残されており、幅方向の通気性が無くなる訳ではない。
【0026】
ナプキン1の幅方向に沿ってみたときに、窪み部22は、畝部20をその幅方向全域にわたって横切るように形成されている。しかし、窪み部22は、該窪み部22が形成されている畝部20の左右に隣り合って位置する溝部30にまでは達していない。その結果、表面シート10のうち、窪み部22が形成されている部位における該表面シート10の厚みD3と、溝部30の厚みD4とは相違している。本実施形態においては、D3の方がD4よりも若干大きくなっている。窪み部22が溝部30にまで達していないことによって、畝部20が高く維持され易く、表面シート10のクッション性や柔軟性が良好となる。また、本実施形態の場合には、窪み部22の繊維密度と、溝部30の繊維密度との差による毛管勾配が形成されるため、溝部30から窪み部22へ液が移動し易くなり、吸収体12と接している畝部20の吸収体対向面から、又は窪み部22の吸収体対向面から吸収体12へ液が導かれるという有利な効果が奏される。この効果をより高めるため、窪み部22は、下着対向面側に位置している吸収体12の少なくとも表面、又は表面シート10と吸収体12との間に中間シートが配されている場合には、少なくとも該中間シートと接合されていることが好ましい。
【0027】
本実施形態においては、表面シート10のうち、窪み部22が形成されている部位における該表面シート10の厚みD3はほぼ一定であるが、これに代えて、当該部位が、厚みの異なる2以上の部位から形成されていてもよい。例えば、当該部位が、厚みの小さい高圧搾部位と、厚みの大きな低圧搾部位とから形成されていてもよい。高圧搾部位においては、表面シート10の構成繊維が相対的に密に圧縮されている。低圧搾部位においては、表面シート10の構成繊維が高圧搾部位よりも相対的に疎に圧搾されている。このような厚みの相違する部位を形成することで、窪み部22の毛管力の相違に起因する勾配が生じ、排泄された液の引き込み性が良好になり、窪み部22を通じての吸収体12への液の移行が促進されるという有利な効果が奏される。また、窪み部22が形成されている部位における該表面シート10の厚みD3と溝部30の厚みD4とを、本実施形態のようにD3の方をD4よりも大きくする構成とすることが容易となる。
【0028】
上述の高圧搾部位及び低圧搾部位のうち、最薄部である高圧搾部位の厚みは、畝部20における表面シート10の厚みの3〜20%、特に5〜15%であることが好ましい。高圧搾部位の厚みは、無荷重状態の表面シート10の縦断面を顕微鏡観察することで測定できる。
【0029】
図3に示すように、溝部30には開孔31が多数形成されている。開孔31はナプキン1の長手方向に沿って一定の間隔をおいて規則的に、かつ間欠的に形成されている。したがって、表面シート10には、そのY方向に沿って一定の間隔をおいて配置された多数の開孔31からなる開孔列が、表面シート10のX方向にわたって多列に形成された状態になっている。すべての開孔列における開孔31の配置のピッチは同じになっている。隣り合う2つの開孔列においては、表面シート10のX方向に関して開孔31が同位置に位置している。そして、シート10のX方向に沿ってシート全域を見たときに、必ず開孔31が形成されていない部位が存在するように該開孔31は配置されている。さらに、表面シート10全体で見ると、開孔31は、シート10のX方向において多列の列をなし、かつY方向においても多列の列をなすように分散配置されている。開孔31がこのように配置されていることで、開孔31が例えば千鳥格子状に配置されている場合に比較して、繊維の寄り分けによる開孔31の形成を効率的に行うことができる。
【0030】
開孔31は、表面シート10の構成繊維が寄り分けられて形成されている。そして、開孔31の端部付近においては、繊維の熱変形に起因する膜状構造が形成されていない。これに起因して、開孔31の端部付近は、剛性が低く、変形に対する柔軟性及び形状復元性に優れている。また、液が通過する構造になっているので、開孔31の端部付近に液が溜まることがない。なお、表面シート全体として見ると、その構成繊維は、基本的に繊維どうしが交絡しているか、又は繊維どうしが融着している。これによって不織布の形態が維持されている。
【0031】
開孔31は、表面シート10の平面視において種々の形状をとり得る。例えば円形、長円形、楕円形、三角形、四角形、六角形等の形状、又はこれらの組み合わせの形状が挙げられる。開孔31の形状や大きさは、吸収性物品の具体的な用途に応じて適宜決定すればよい。一例として、開孔31の大きさは、表面シート10の平面視における投影面積で表して、0.5〜5mm2程度であることが、液の透過性及び表面シート10の強度維持の
観点から好ましい。開孔31の大きさは、画像解析システムを使用して計測する。具体的には、光源〔サンライト SL−230K2;LPL(株)社製〕、スタンド〔コピースタンドCS−5;LPL(株)社製〕、レンズ〔24mm/F2.8Dニッコールレンズ〕、CCDカメラ〔(HV−37;日立電子(株)社製)Fマウントによるレンズとの接続〕及びビデオボード〔スペクトラ3200;カノープス(株)社製〕を用いて、表面シート10の裏面1B側の画像を取り込む。取り込まれた画像をNEXUS社製の画像解析ソフトNEW QUBE(ver.4.20)によって開孔31の部分を二値化処理する。二値化処理された画像から得られる個々の面積の平均値を開孔の大きさとする。
【0032】
開孔31はその端部が、表面シート10の第2の面10b側に突出して、突出部からなる導液管を形成していてもよい。上述のとおり、開孔31の端部は剛性が低いので、かかる突出部を形成することで、表面シート10のクッション性が一層高くなる。また、突出部を形成することで、表面シート10の下側に位置する吸収体12の構造によらず、表面シート10と吸収体12との接触を維持できることから、着用者から排泄された液が、表面シート10から吸収体12へ効率よく伝達される。
【0033】
なお、図4に示されている畝部20において、最も下着対向面側に突出する本実施形態に前記の導液管を開孔31に形成した場合では、様々な装着圧力(0〜20cN/cm2
)下で、安定した吸収性や装着感が実現できるようになる。一方、断面形状で下着対向面側から見て平面的に形成された畝部や若干窪みのある畝部の場合であっても、本発明における導液管は剛性が低くなされているため、少なくとも立位による通常の装着圧力(5〜15cN/cm2程度)条件下では、畝部の下着対向面側が吸収体(あるいは中間層)と
直接接するため、同様の効果が奏される。
【0034】
開孔31と、上述した畝部20に形成された窪み部22との位置関係に関して、ナプキン1の幅方向に沿ってみたときに、図3に示すように、窪み部22は、ナプキン1の長手方向において前後隣り合う開孔31の間に位置している。換言すれば、ナプキン1の物品の幅方向に沿ってみたときに、開孔31は、畝部20における窪み部22が形成されていない部位と隣接し、かつ溝部30における開孔31が形成されていない部位は、畝部20の窪み部22と隣接している。開孔31と窪み部22とがこのような位置関係になっていることで、本実施形態のナプキン1によれば、窪み部22と溝部30の非開孔部とがナプキン1の幅方向において隣り合うことになる。その結果、窪み部22から溝部30の非開孔部にかけて形成される毛管力の勾配によって、窪み部22から溝部30への液移行が促進されるという有利な効果が奏される。また、畝部20と開孔31が隣り合うことで、開孔31が着用者の肌に直接接触することが防止されるという有利な効果も奏される。
【0035】
上述の構造を有する表面シート10を備えたナプキン1においては、側方溝60並びに前方溝71及び後方溝72によって表面シート10が吸収体12と一体化されているので、上述した窪み部22が畝部20に形成されていることと相まって、ナプキン1の着用中に表面シート10と吸収体12とが離間することが防止される。また、側方溝60は、表面シート10の畝部20と略平行な位置関係になっており、かつ畝部20の幅と側方溝60の幅とが略等しくなっている。さらに、畝部20に形成された窪み部22の幅が、側方溝60の幅よりも小さくなっている。これによって、畝部20の3本以上にわたって側方溝60がまたがることがなくなり、表面シート10の畝溝構造の特徴が損なわれにくくなる。また、畝部20及び溝部30は、表面シート10の位置ずれや圧力による変形を受けても元の形状に戻り易く、柔軟性があるので肌触りがよい。これらの利点は、側方溝60が、畝部20の1本と略重なる位置に形成されていることによって一層顕著なものとなる。
【0036】
表面シート10の畝部20の幅にもよるが、側方溝60の幅は2〜7mmが好ましい。この幅は、上述のとおり、畝部20の幅と略等しいことが好ましく、あるいはそれよりも狭いことが好ましい。これによって、側方溝60を形成することに起因して畝部20を潰すことの影響を極力少なくすることができる。また、表面シート10の溝部30に側方溝60の中心部が配置されていることは、側方溝60の形成時に畝部20が潰されにくくなる点から好ましい。また、このような配置によって、側方溝60による液防漏性が高まり、更に肌触りも良好になる。
【0037】
図1に示すように、側方溝内並びに前方溝及び側方溝内には、これらの溝の延びる方向に沿って、高圧搾部81及び低圧搾部82が交互に形成されている。高圧搾部81は、表面シート10及び吸収体12が強く圧縮されて形成された部位である。低圧搾部82は、高圧搾部81よりも相対的に弱く圧縮されて形成された部位である。高圧搾部81におけるナプキン1の厚みは、低圧搾部82におけるナプキン1の厚みよりも小さくなっている。これらの圧搾部は、当該技術分野において公知のエンボス装置を用いて形成することができる。同図に示すように、側方溝60においては、高圧搾部81及び低圧搾部82が、該側方溝60の延びる方向に対して傾斜するように形成されている。これにより排泄部対向部位Aに排泄された体液が、ナプキン1の長手方向へ適度に拡散しやすくなり、それによってナプキン1の幅方向からの漏れが防止され、吸収体12を有効に活用できるという効果が奏される。すなわち、側方溝60に高圧搾部と低圧搾部が形成されていることによって、側方溝60の周辺もナプキン1の長手方向に沿って密度が高められているので、排泄された液が側方溝60に沿って拡散し易くされている。また、側方溝60は、高圧搾部81と低圧搾部82を有するので、側方溝60内において、液が長手方向へ過度に拡散するが抑制されている。したがって、前述した側方溝60の周辺における液の拡散が過度になることがない。
【0038】
側方溝60における高圧搾部81及び低圧搾部82が傾斜して形成されていると、傾斜せずに形成されている場合と比べ、側方溝60による拡散制御効果が発現しやすいという利点もある。なぜならば、畝部20の実質厚みが溝部30よりも大きい構造である本実施形態の表面シート10では、繊維が畝部20に多く存在するので、表面シート10の畝溝構造と同じ方向に延びる側方溝60は、畝部20を圧搾固定しにくく、低圧搾部も形成されにくい。その点、側方溝60と傾斜して(すなわち表面シート10の畝溝構造と傾斜して)高圧搾部が形成されると、液の拡散効果を良好にする側方溝構造を形成しやすい。側方溝60の高圧搾部81の一部が隣の高圧搾部81と重なる部分を有すると、より安定した低圧搾部82を形成できるので、一層好ましい。
【0039】
これに対して、前方溝71及び後方溝72では、図5に示すように、圧接部である高圧搾部81及び低圧搾部82が、表面シート10の畝部20及び溝部30と同方向に延びるように形成され、その長手方向の長さは窪み部の長手方向の長さよりも長くなされている。高圧搾部81及び低圧搾部82がこのように形成されることで、高圧搾部81によって表面シート10の畝部20が部分的に圧縮され、吸収体12へ液を導きやすい構造を形成することができる。それによってナプキン1の前後方向へ向かって拡散してきた液、あるいは表面シート上を流れてきた液が吸収される。これに加え、表面シート12の畝溝構造と、高圧搾部81及び低圧搾部82とが同じ方向に形成されていることから、前方溝71及び後方溝72に位置する表面シート10は柔軟性を喪失しにくく、良好な肌触りやクッション感が維持される。また、前方溝71及び後方溝72の可撓性も良好となり、肌あたりやフィット性が良い溝の形成が可能となる。前方溝71及び後方溝72と同様の圧接部が、ナプキン1の前後端部に形成された場合も、吸収体12と近接する部位で、同様に液を導きやすい構造となり、また柔軟性等の肌触りも良好とすることができる。
【0040】
側方溝60並びに前方溝71及び後方溝72における高圧搾部81に関し、前方溝71及び後方溝72内に形成された高圧搾部81の高さが、側方溝60内に形成された高圧搾部81の高さよりも高くなっていることが好ましい。これにより、側方溝60での幅方向への液の拡散に起因する漏れを極力防ぎながら、前方溝71及び後方溝72による表面シート10の畝溝構造の変形を最小限に抑えることができ、肌触りやクッション性が良好で、かつ良好な可撓性によるフィット性の向上が期待できるという有利な効果が奏される。高圧搾部がこのように形成された結果、前方溝71及び後方溝72は線状に連なる溝ではなく、破線状の形状と見える場合があるが、高圧搾部の間隔が表面シートの畝2本を跨がない程度であれば、上述した効果が奏される。
【0041】
本発明の別の実施形態によれば、表面シート10に形成されている窪み部22は、千鳥格子状に配されている。窪み部22の配置状態がこのようになっている場合には、液の拡散抑制効果を、図3に示す実施形態より高められるという利点がある。また、ナプキン1の身体形状への適合性に関しても、長手方向に延びる畝部20と畝部20との間にある溝部30及び開孔31が、可撓領域として働く窪み部22と窪み部22との間の歪みを緩和する効果を有するため、皺の形成が防止される。窪み部22の長手方向に沿う長さや、ナプキン1の長手方向に沿う窪み部22のピッチは、先に述べた実施形態と同様とすることができる。また、本実施形態では、下着当接面側に配置されている中間シート及び/又は吸収体と窪み部22とが固定されているため、可撓性等の必要程度に応じてナプキン1の各部分で窪み部22の形成の程度を変えることができる。窪み部22の形成部位は開孔31の側部であっても良い。
【0042】
次に、本実施形態のナプキン1の構成材料等について説明する。吸収体12は、好適には木材フラッフパルプと超吸収性ヒドロゲル粒子との混合物からなる。この混合物はその全体がティッシュペーパによって被覆され、所要の厚みに圧縮されていてもよい。また、この構成の吸収体の中央部に、パルプ又はパルプとヒドロゲル粒子との混合物を更に重ね、中高部を形成しても良い。この場合、中高部は側方溝60並びに前方溝71及び後方溝72を越えない位置に形成されることが好ましい。また、表面シートと吸収体の間には、中間シートとして繊維表面が界面活性剤によって親水化された合成繊維によるエアスルー不織布やスパンボンド不織布を用いることもできる。
【0043】
裏面シート11としては、液不透過性ないし撥水性の材料、例えば熱可塑性樹脂製のフィルムや、これに不織布をラミネートしたものを用いることができる。またスパンボンド−メルトブローン−スパンボンド(SMS)不織布や、スパンボンド−メルトブローン−メルトブローン−スパンボンド(SMMS)不織布を用いることもできる。裏面シート11は透湿性を有していてもよい。透湿性を有する裏面シートとしては、熱可塑性樹脂及びそれと相溶性のない微粒子を含む樹脂組成物をフィルム状に押し出し、一軸又は二軸延伸して得られる多孔性フィルムや、上述のSMS不織布が挙げられる。
【0044】
表面シート10を構成する繊維としては、天然繊維、半天然繊維、合成繊維等、当該技術分野において従来用いられている繊維を特に制限なく用いることができる。繊維間の詰まりすぎを起こさず、表面シート10に柔軟性を付与する観点から、合成繊維を用いることが好ましい。合成繊維の配合量は、表面シート全体の50重量%以上が好ましく、70%重量以上がより好ましい。もちろん、合成繊維100%から表面シート10を構成してもよい。表面シート10が合成繊維100%からなる場合、着用者の体圧が加わった状態下でも畝溝構造が潰れ難くなるので、溝部30に沿った通気性が良好となる。
【0045】
使用する合成繊維としては、例えば自己融着性繊維である芯鞘構造繊維やサイドバイサイド型繊維が挙げられる。この他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の単繊維や複合繊維を用いることができる。畝溝構造及び開孔形状の成形性の観点から、ポリエチレンを鞘成分に有する芯鞘構造繊維や、ポリエチレン部分を有するサイドバイサイド型繊維を用いることが好ましい。繊維の(平均)繊度は、1〜6dtexの範囲が好ましい。
【0046】
合成繊維として捲縮繊維を用いると、表面シート10のクッション性が一層向上するので好ましい。捲縮繊維としては、二次元に捲縮した繊維及びコイル状の三次元に捲縮した繊維のいずれも用いることができる。特に熱の付与によってコイル状に三次元捲縮した繊維を表面シート10に含まれていることが好ましい。このような繊維は、潜在捲縮繊維を原料として用いることで、表面シート10に含ませることができる。潜在捲縮繊維は、例えば収縮率の異なる2種類の熱可塑性樹脂を成分とする偏心芯鞘型複合繊維又はサイドバイサイド型複合繊維からなる。その例としては、特開平9−296325号公報や特許2759331号明細書に記載のものが挙げられる。
【0047】
合成繊維として、熱の付与によって伸長する繊維を用いても表面シート10のクッション性が一層高まるので好ましい。この理由は、表面シート10の製造中に付与された熱に起因する繊維間の詰まりが防止されるからである。そのような繊維としては、例えば本出願人の先の出願に係るWO2007/66599が挙げられる。
【0048】
上述の捲縮繊維及び熱伸長性繊維のいずれを用いる場合にも、それらの繊維は、表面シート10中に合計で30〜70重量%配合されていることが好ましい。
【0049】
表面シート10は親水化されていることが好ましい。親水化の方法としては、例えば疎水性不織布を親水化剤で処理する方法が挙げられる。また、親水化剤を練り込んだ繊維から不織布を製造する方法が挙げられる。さらに、本来的に親水性を有する繊維、例えば天然系や半天然系の繊維を使用する方法が挙げられる。不織布の製造後に、界面活性剤を塗工することでも親水化を行うことができる。
【0050】
次に、本実施形態のナプキン1の好適な製造方法について説明する。先ず、図3に示す表面シート10の製造方法について説明する。表面シート10は、図6に示す装置を用い、流体交絡法によって製造される。この装置を用いた製造方法は、(イ)繊維集合体を供給し、該繊維集合体の供給方向と直交する方向に波状構造を形成するための流体透過性支持体上に該繊維集合体を導く工程、(ロ)該支持体上に位置する該繊維集合体に流体を吹き付けて、その構成繊維を寄り分け畝溝構造と開孔を形成する工程、及び(ハ)引き続き該支持体上に位置する該繊維集合体に再び流体を吹き付けて、畝溝構造と開孔が形成された該繊維集合体を不織布化する工程を有する。
【0051】
図6に示す装置40は、流体透過性支持体50及び第1噴射ノズル51及び第2噴射ノズル52を備えている。図7に示すように、流体透過性支持体50はロール状のものであり、その周面はメッシュ等の流体透過性材料で構成されている。支持体50の周面には、ロールの回転方向に沿って延びる凸部と凹部とが、ロールの軸方向に交互に形成されている。これによって、表面シート10の原料である繊維集合体53に、その供給方向と直交する方向に波状構造を形成することができる。凸部の頂部には、ロールの回転方向に沿って断続的に形成された突起部54が位置している。突起部54は、ロールの回転方向に沿って一定間隔をおいて配置されている。かつロールの軸方向に沿ってみたときに、突起部54は一直線上に位置するように配置されている。
【0052】
第1噴射ノズル51及び第2噴射ノズル52は、支持体50の周面に対向するように配置されている。各ノズル51,52は、支持体50の全幅にわたり流体を噴射できるような構造になっている。ノズル51,52は、表面シート10の原料である繊維集合体53の供給方向に関し、第1噴射ノズル51が上流側に位置し、第2噴射ノズル52が下流側に位置している。
【0053】
(イ)の工程においては、繊維集合体53は、図6中、矢印の方向に回転している流体透過性支持体50へ供給され、該支持体50の周面に抱かれた状態で搬送される。次いで(ロ)の工程において、支持体50の周面上で、第1噴射ノズルから噴射された流体が繊維集合体53に吹き付けられる。この流体の吹き付けによる圧力で、繊維集合体53は、図8(a)及び(b)に示すように、支持体50の周面に形成されている凸部55の位置において、構成繊維の寄り分けが生じる。この寄り分けによって、構成繊維は、凸部55間に位置する凹部56内へ移動していく。つまり、繊維の分配が起こる。
【0054】
また、凸部55の頂部に突起部54が形成されている場合には、図8(c)に示すように、構成繊維の寄り分けが一層促進され、突起部55上に位置する繊維集合体54に孔が生じる。この孔が、表面シート10における開孔31となる。
【0055】
繊維集合体としては、カードウエブ等の繊維の結合や絡合が生じていないか、又はその程度が低いものや、不織布等の繊維の結合や絡合が生じているものを用いることができる。特に、不織布としては、繊維長が30mm以下であり、かつバインダー成分をそれ自体が有しない繊維を含む不織布、具体的には、パルプ繊維の繊維間がバインダー(接着成分)によって固定されている乾式パルプシートを用いることが好ましい。
【0056】
この工程で用いられる流体としては、水等の液体及び空気等の気体を使用することが可能である。流体の種類は、支持体50上に導く繊維集合体によって選択する。例えば、カードウエブのように結合又は交絡のない繊維集合体を用いる場合には、空気流又は水蒸気流(スチームジェット)を使用することが好ましい。エアスルー不織布のように、繊維交点で結合を有する繊維集合体を用いる場合には、水流又は水蒸気流(スチームジェット)を使用することが好ましい。後者の場合、繊維交点での結合を部分的に剥離し、繊維交絡の程度を低く抑えつつ、繊維の移動によって畝溝構造及び開孔を形成することができる。また、繊維間を詰まらせすぎないようにすることができる。このように、本工程は、繊維の移動による畝溝構造及び開孔の形成が主たるものであり、繊維の交絡の程度は低く抑えられている。
【0057】
上述の水流とは、水等の完全な液体流を意味する。水蒸気流(スチームジェット)とは、液体状態でない水の流体流をいう。液体水流又は水蒸気流(スチームジェット)を使用した場合、繊維交絡は突起部55の近傍に位置する繊維ほど進行し、その部分の繊維密度が高める傾向にある。特に、繊維集合体として不織布を用いた場合(すなわち再不織布化)、凸部55では繊維交絡がほとんど行われないので、不織布が本来的に有するクッション感が維持される。一方、凹部56及び突起部55の近傍に位置する繊維には交絡が生じ、凸部55に位置する繊維に対して相対的に毛管勾配(密度勾配)が大きくなる。
【0058】
(ロ)の工程である第1噴射ノズル51からの流体の吹き付けによって畝溝構造及び開孔が形成されたら、次いで(ハ)の工程である第2噴射ノズル52からの流体の吹き付けによって繊維交絡が生じ、繊維集合体が不織布化(繊維集合体として不織布を用いた場合には再不織布化)される。この場合に使用する流体としては、液体水流又は水蒸気流を用いることが好ましい。これらの流体を用いることで、繊維交絡を効率的に行うことができる。なお、上述の再不織布化とは、繊維集合体として不織布を用いた場合に、前工程である畝溝構造及び開孔の形成工程において、繊維の切断又は融着部分が剥離した繊維を再度融着又は再度交絡させて不織布としての形態を維持させることを言う。
【0059】
(ロ)の工程及び(ハ)の工程で繊維集合体53に吹き付ける流体を、支持体50の凸部55に集中すると、支持体50の凹部56に比べて凸部55の流体圧を高めることができるので、開孔性が良好となるので好ましい。また開孔の端部付近の繊維密度をより高くすることができる点で好ましい。
【0060】
(ハ)の工程において流体として水蒸気流を使用した場合、第2噴射ノズル52からの水蒸気流を比較的低い温度である100〜150℃(ウエブ上で繊維融着温度よりも低い温度)とすることで、繊維交絡のみが行われる。水蒸気流は液体水流に比べるとエネルギー(噴射圧)が低い(流体流の分散が大きい)ので、繊維集合体として不織布を用いる場合よりも、ウエブへ吹き付けるときに用いることが好ましい。ウエブの方が不織布よりも繊維の移動が容易だからである。しかしながら、繊維集合体として不織布を用いた場合であっても、(ロ)の工程によって形成された畝溝構造及び開孔の形状が回復しない程度の弱い繊維交絡状態となる噴射圧を水蒸気流によって与えることができる。さらに、水蒸気流の温度が、ウエブ上で繊維融着温度よりも高くなる160〜200℃程度の場合、仮に繊維融着温度より20℃以上高い温度であっても、繊維集合体中の繊維に加わる熱量は、繊維を構成する樹脂が溶融して甚だしく流動するほどではなく、またすべての繊維の交点で樹脂の流動がおこり融着が生じるとは限らない程度であるので、繊維集合体全体を固化させるものではない。したがって水蒸気流の噴射圧が高い状態にあり、繊維同士がかなり接近した状態であっても、繊維の目詰まりを起こさせずに、繊維交点で融着を行うことができる。
【0061】
この融着は、第2噴射ノズル52から吹き付けられた水蒸気流によって行われるので、公知の不織布製造技術であるエアスルー法に比べると、短時間で強い圧力が繊維集合体に加わっている。そのため、繊維交点での融着が安定する前、すなわち互いの繊維の表面で広がって強固な融着点となる繊維鞘成分樹脂の流れ出しが固定化する前に圧力が取り除かれる。その結果、繊維が離間して、先に説明した図7に示すような橋渡し構造Bが形成される。このような橋渡し構造は、2本の繊維のうち一方の繊維の鞘成分樹脂が伸ばされて起こっていると推定される。なぜならば、この融着工程は、繊維融着を起こす状態ではあっても、熱の付与は比較的短時間で終了するので、繊維融着を起こす各繊維を構成する樹脂どうしが融合して樹脂間の界面が消失する状態ではなく、繊維融着を起こす各繊維を構成する樹脂の界面が存在する状態と考えられるからである。また、繊維融着を起こした融着部分である樹脂間の界面近くで伸長が起こると、該界面が引っ張られて融着部分が減少して、該界面で樹脂どうしが剥離してしまうと考えられるからである。このため、橋渡し構造は接合部分の面積は大きいものの、樹脂が伸ばされて細くなった部分を有している。その結果、得られた表面シート10は、その構成繊維の自由度が向上し、柔軟性及びクッション性が良好になる。一方、エアスルー法よりも強い圧力を受けて製造されるので、2本より多い繊維の多交点が一層作られやすくなっている。このような構造によって、表面シート10の強度が向上する。
【0062】
(ロ)の工程及び/又は(ハ)の工程で、液体水流を用いる場合には、親水性を付与するために用いられる界面活性剤が繊維表面から流れ落ちるおそれがあるので、繊維内へ界面活性剤を練り込んだものや、天然系/半天然系の親水性繊維を使用することが好ましい。あるいは、後工程において界面活性剤を塗布することが好ましい。これに対して、水蒸気流を用いると、繊維表面の界面活性剤が流れ落ちにくく、繊維の密度が高い部位に一部界面活性剤を集まりやすくすることができるという利点がある。その結果、水蒸気流を用いると、繊維集合体53における支持体50の凹部56及び突起部54に位置する部位の繊維密度が高められるので、必然的にこれら部位の親水度を高めることができる。この効果の応用例として、繊維表面に塗布する界面活性剤又は繊維に練り込む界面活性剤として2種以上のものを使用し、その界面活性剤の耐水性を異ならせる手法が挙げられる。この手法によれば、親水勾配を一層容易に設計できるので有利である。
【0063】
得られた表面シート10の繊維密度を一層制御するため、(ハ)の工程の後の不織布を、熱風処理工程に付すことも好ましい。熱風処理には、不織布化の促進(繊維集合体の繊維間を結合)及び/又は繊維間の目詰まり解消の効果がある。すなわち、(ハ)の工程において、目詰まり防止の観点から、流体の吹き付け条件を弱くすることがあるところ、それに起因する繊維交絡又は繊維融着の不足を補うために熱風処理工程に付すことが好ましい。また、(ハ)の工程において目詰まりが生じた不織布の嵩を回復させ、あるいは繊維変形(捲縮又は伸長)を発現させるために熱風処理工程に付すことが好ましい。特に、(ハ)の工程で水蒸気流を用いた場合には第2噴射ノズル52を使用するので、エアスルー法に比べて短時間で熱付与工程が完了してしまう。そこで、熱融着状態の安定化の観点から、(ハ)の工程の後工程として、80〜120℃程度の熱風処理工程を行うことが望ましい。あるいは(ハ)の工程の後工程として、急激な温度低下を起こさないようにする安定化工程を行うことが好ましい。また、熱風処理は1段階で行ってもよいし、不織布化の促進のための熱風処理と不織布の嵩回復のための熱風処理とを複数段階以上に分けて行ってもよい。
【0064】
本製造方法における繊維集合体としてウエブのみを用いる場合には、(ロ)の工程では、空気流又は水蒸気流を用い、(ハ)の工程では、水蒸気流を用いることが好ましい。この理由は、繊維間の目詰まりを防ぎ、繊維交点の融着による不織布化による柔軟な構造ができること、さらに、開孔31の周辺部の繊維密度を高くしやすくできるからである。更に(ロ)の工程で空気流を用いると、開孔31に導液管を形成しやすくなる。一方、(ロ)の工程で水蒸気流を用いると、繊維の飛散等が抑えられ流体圧を空気流より高くすることが容易なため、繊維の寄り分けをしやすく、図4の断面形状を得やすくなり、クッション性等の柔軟性を高め易くなる。なお、(ロ)の工程で水蒸気流を用いても、開孔31では流体圧を調整することで、導液管構造と図4の断面形状を両立することが可能である。
【0065】
本製造方法においては、(ロ)及び(ハ)の工程で水流を使用する場合には、繊維交点に融着点を有する不織布を用いることが好ましい。この理由は、繊維交点の剥離部分による繊維の移動(密度向上部分の形成)と残存する融着点によって繊維の目詰まりを防ぐことができるからである。この場合、(ロ)の工程では、不織布の全体に略均一となるように水流を施して支持体形状に不織布を適合させ、(ハ)の工程では、開孔31を含む溝部30に、畝部20よりも強い水流を吹き付けることで交絡を行い易くし、(ロ)よりも(ハ)の工程の水圧を高めることが、融着点の剥離を促し再交絡を行い易くする観点から好ましい。また、繊維集合体53として、ウエブと不織布との積層体を用いるか、又はウエブと不織布とを供給しつつ両者を積層して繊維集合体53を供給する方法を採用すると、(ロ)及び(ハ)の工程で両者の一体化を進めることができる。このようにして製造された不織布は、畝部20の頂部21から開孔31の端部まで液を導きやすい構造(一体化構造)となる。この場合、ウエブと不織布のうち、水流が直接吹き付けられるのは、ウエブでの繊維の目詰まりを防ぐ観点から、不織布とすることが好ましい。
【0066】
繊維集合体53として不織布を用い、該不織布が(ロ)の工程の前で別途支持体上に導かれる場合には、得られる不織布の柔軟性及びクッション性を高めることができる。また、繊維集合体53として不織布を用いる場合、該不織布における繊維間の結合や交絡が強いと、(ロ)の工程における繊維移動が起こりにくいことがあるので、(ロ)の工程の前に、不織布における支持体50の凹部56に位置すべき部位にスリット処理を施すことも好ましい。
【0067】
このようにして得られたシートを、吸収体12の上に載置し、エンボス装置等の圧搾装置を用いて、両者が接合一体化されてなる側方溝60並びに前方溝71及び後方溝72を形成する。これらの溝の形成においては、熱を付与してもよく、あるいは付与しなくてもよい。これらの溝が形成されたら、次に表面シート10を押し込む装置を用い、表面シート10の幅方向にわたり、該表面シート10を押し込み、窪み部22を形成する。表面シート10の押し込みにおいては、(I)該表面シート10のみを押し込んで、吸収体12は押し込まない方式と、(II)該表面シート10の押し込みとともに吸収体12も押し込んで、両者を接合一体化させる方式のいずれかを採用することができる。
【0068】
(I)及び(II)の方式のいずれの場合においても、表面シート10と吸収体12との間に中間シートを配置する場合には、側方溝60並びに前方溝71及び後方溝72を形成する前に窪み部22を形成することができる。また、(I)の方式においては、表面シート10と吸収体12との間にホットメルト型接着剤が部分的に(通液性を損なわない程度)塗工されていると、吸収体12と離間し易い窪み部22を、吸収体12に接近させやすくなり、液の移行性を安定化させることができるので好ましい。
【0069】
(I)の方式を採用する場合には、押し込み装置として、ピンエンボス装置等のピンポイントでの押し込みが可能な装置を用いる。この方式で表面シート10の窪み部22を形成すると、該表面シート10の液透過性が良好になるという利点がある。(II)の方式を採用する場合には、押し込み装置として、上述した側方溝60等を形成するために用いたエンボス装置と同様のロール式のエンボス装置を用いる。また、この装置を用いることで、表面シート10のうち、窪み部22が形成されている部位に、厚みの異なる2以上の部位を容易に形成することができる。(II)の方式で表面シート10の窪み部22を形成すると、該表面シート10から吸収体12への液の移行性が良好になるという利点がある。
【0070】
このようにして、表面シート10と吸収体12に対して加工が施されたら、次に、これら表面シート等を、裏面シート11や防漏カバーシート14とともに常法に従い加工して、目的とするナプキン1を得る。
【0071】
以上の製造方法においては、図6及び図7に示す装置を用いて製造されたシートを吸収体12と組み合わせた後に、畝部20に窪み部22を形成したが、これに代えて、吸収体12と組み合わせる前に、畝部20に窪み部22を形成し、次いで吸収体12と組み合わせてもよい。この場合には、例えば図9に示す一対の刃溝ロールを用い、両ロール間に図6及び図7に示す装置を用いて製造されたシートを通して、畝部20に窪み部22を形成すればよい。この場合、該シートに形成された畝部及び溝部が、ロールの軸方向と直交するように該シートをロール間に通す。図9に示す刃溝ロールは、ロールの軸方向に延びる凸部(刃)及び凹部(溝)が、ロールの回転方向に沿って交互に配置された形状をしている。一対の刃溝ロールは互いに噛み合い形状になっていて、両ロールの噛み合い部分にシートが挿入される。
【0072】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態における表面シート10における畝部20の形状は、図4に示す形状に限られず、例えば第2の面10bの側が、上に凸の滑らかでかつ緩やかな曲線を描く輪郭となっている場合や、第2の面10bの側が平坦である場合もある。このような形状の相違は、主として表面シート10の製造条件に依存する。
【0073】
また、前記の各実施形態は、本発明を生理用ナプキンに適用した例であるが、本発明はこれ以外の吸収性物品にも同様に適用できる。そのような吸収性物品としては、例えば吸血パッド、失禁パッド、使い捨ておむつ等が挙げられる。を示す模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1 生理用ナプキン(吸収性物品)
10 表面シート
11 裏面シート
12 吸収体
13 ウイング部
20 畝部
22 窪み部
30 溝部
31 開孔
60 側方溝
81 高圧搾部
82 低圧搾部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌当接面側に表面シート、非肌当接面側に裏面シート、該両シート間に吸収体を備えた縦長の吸収性物品であって、
前記表面シートは、前記物品の長手方向に延びる縦長の畝部と溝部を交互に有し、
前記畝部には、シート厚み方向に窪んだ窪み部が、物品の長手方向に沿って間欠的に形成されており、
前記窪み部のシート厚み方向の畝部頂部からの深さ(D2)は、前記畝部における表面シートの厚み(D1)の半分以上である吸収性物品。
【請求項2】
物品の幅方向に沿ってみたときに前記窪み部が直線状に連なって窪み部列が形成され、かつ該窪み部列が物品の長手方向に沿って所定間隔をおいて形成されるように、前記窪み部が配置され
前記溝部には、物品の長手方向に沿って間欠的に、多数の開孔が形成されており、
物品の幅方向に沿ってみたときに、前記開孔は、畝部における窪み部が形成されていない部位と隣接し、かつ前記溝部における開孔が形成されていない部位は、前記畝部の窪み部と隣接している請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記表面シートのうち、前記窪み部が形成されている部位の厚みが、前記畝部における表面シートの厚みの3〜20%である請求項1又は2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記吸収性物品の長手方向の前後端領域に、前記表面シート及び前記吸収体を一体的に圧縮してなる前方溝及び後方溝が、物品の幅方向に延びるように、それぞれ形成されており、
前記前方溝及び前記側方溝内に、これらの溝の延びる方向に沿って、高圧搾部及び低圧搾部が交互に形成されており、
前記高圧搾部及び前記低圧搾部は、前記窪み部の長手方向長さよりも長い長手方向長さを有する請求項1ないし3のいずれかに記載の吸収性物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−94535(P2010−94535A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294917(P2009−294917)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【分割の表示】特願2007−331772(P2007−331772)の分割
【原出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】