説明

吸気ダクト

【課題】吸気ダクト内の圧力損失を低減し通風性能を向上させる吸気ダクトを提供する。
【解決手段】筒状ダクト本体(2)の途中に、気柱共鳴周波数を変化させる消音用通孔(5)が設けられ、且つ、ダクト壁の厚み(t)方向に貫通する該通孔(5)の中心軸(C)が、その通孔周囲のダクト筒部(3)に係る中心軸(C)に対し、該ダクト筒部(3)の壁外面(31)から壁内面(35)へと進むにしたがい、ダクト吸気口(20)からダクト本体(2)内に導入された空気(AR)が流れる下流側へ向かうように傾斜形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両エンジンの燃焼室へ空気を導入する吸気ダクトに関し、特にエ
アクリーナの上流側の設置に好適な吸気ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に対する低騒音化ニーズが高まってきており、エンジンの吸気口音もその対象になっている。
エンジンの吸気口音を下げる対策には、レゾネータ等の消音器を用いる方法が一般的であるが、これに対し、エンジン騒音のなかでもダクト管内で発生する気柱共鳴を減衰させるのが有効であるとして消音用通孔(チューニングホール)を穿設した吸気ダクトが提案されている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−95566号公報
【特許文献2】実開平5−10775号公報
【0004】
気柱共鳴はエンジンノイズ音を増幅させてしまう不良因子であり、ダクト管の所定位置に設けられたチューニングホールは管内圧力脈動が発生しない環境をつくっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸気ダクトには吸気ダクト口から吸込んだ空気がダクト内を流れるが、特許文献1、2等の従来型チューニングホール5は、図9のようにダクト表面からダクト半径垂直方向に設けられている。しかるに、そのような構造であると、チューニングホール5からダクト内に空気(実際はエンジンルーム内のホットエア)が量的に多く流入することによって乱れを生じさせ、吸気ダクト内の圧力損失が上昇してしまう問題を、本発明者等は突き止めた。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するもので、吸気ダクト内の圧力損失を低減し通風性能を向上させる吸気ダクトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、筒状ダクト本体(2)の途中に、気柱共鳴周波数を変化させる消音用通孔(5)が設けられ、且つ、ダクト壁の厚み(t)方向に貫通する該通孔(5)の中心軸(C)が、その通孔周囲のダクト筒部(3)に係る中心軸(C)に対し、該ダクト筒部(3)の壁外面(31)から壁内面(35)へと進むにしたがい、ダクト吸気口(20)からダクト本体(2)内に導入された空気(AR)が流れる下流側へ向かうように傾斜形成されることを特徴とする吸気ダクトにある。
ここで、本発明でいう「筒状ダクト本体」に係る筒状には、円筒状のみならず四角筒状等の多角筒状を含む。「ダクト筒部(3)」に係る筒部も、円筒部のみならず四角筒部等の多角筒部を含む。筒状ダクト本体に通孔が設けられるが、ダクト本体のなかで、該通孔周囲を形成するダクト部分をダクト筒部とする。通孔周囲のダクト筒部のダクト壁の厚みを符号tで表す。
請求項2の発明たる吸気ダクトは、請求項1で、壁外面(31)側の前記通孔(5)に係る開孔口(50)に、基端口(60a)を一致させ、さらに前記開孔口(50)側への前記通孔(5)の延長先がそのままノズル孔(60)となるノズル(6)が、その壁外面(31)からダクト本体(2)の上流側へ傾倒して突出形成されることを特徴とする。請求項3の発明たる吸気ダクトは、請求項1又は2で、通孔(5)が複数設けられ、且つ、各通孔(5)の中心軸(C)が互いに平行に配設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸気ダクトは、所望の騒音減衰性能を確保しながら、吸気ダクト内の通風性能を向上させて吸気ダクトにおける圧力損失を低くし、さらに通孔から吸気ダクト内へ吸込まれるエンジンルーム内のホットエア量も少なくできるなど優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る吸気ダクトの概略斜視図である。
【図2】図1で、ノズルを通るダクト軸方向の断面図である。
【図3】図2に代わる他態様の吸気ダクトの断面図である。
【図4】図3の吸気ダクトと従来型吸気ダクトとの性能比較図である。
【図5】図3の通孔を有する吸気ダクトと、通孔なし又は他形式の通孔断面形状を有する吸気ダクトとの圧損性能比較図である。
【図6】図3のダクト厚みを有する吸気ダクトと、厚み又は通孔断面形状を異にする他形式の通気ダクトとの圧損性能比較図である。
【図7】音響解析結果のグラフである。
【図8】断面流速分布を表す説明画像図である。
【図9】従来技術の説明断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る吸気ダクトについて詳述する。図1〜図8は本発明の吸気ダクトの一形態で、図1がその概略斜視図、図2が図1の縦断面図、図3が他態様の吸気ダクトの縦断面図、図4が図3の吸気ダクトと従来型吸気ダクトとの性能比較図、図5,図6が図3の吸気ダクトと他様式の吸気ダクトとの圧損性能比較図、図7が音響解析結果を表すグラフ、図8が断面流速分布を表す説明画像図である。尚、図2〜図4の吸気ダクトは、図面を分かり易くするため、ダクト本体を一直線状のストレート管で且つその全長を短くして簡略図示し、また各通孔間の間隔Lや、ノズル6,通孔5やダクト壁の厚みtを大きく描く。
【0011】
吸気ダクト1は、合成樹脂からなるブロー成形品で、筒状のダクト本体2と通孔5とを備える。
ダクト本体2は空気を取り入れる気体流路を形成する円筒状の導管で、ここでのダクト本体2は吸気口20からエアクリーナまでのエアクリーナ上流側ダクトとする。符号211は空気を導入する吸入部で、図1のごとく円筒形主部21から吸気口20へ向けてラッパ状に広がる。符号29はダクト本体2に導入された空気の下流側出口で、エアクリーナ側に接続される。符号Dは図2の吸気ダクト1ではダクト本体2の内径、下流側出口29の口径になっている。ダクト本体2をストレート管で簡略図示するため、通孔5周囲のダクト筒部3に係る中心軸Cとダクト本体2の中心軸Cとが一致する。符号tはダクト筒部3に係るダクト壁の厚み(肉厚)である。通常、ダクト本体2はエンジンルーム内で屈曲配設されるが、ここでは便宜的に一直線状のストレート管で図示する。ダクト本体2には、その長手方向途中のダクト筒部3にチューニングホールたる通孔5が設けられる。
【0012】
通孔5は、気柱共鳴周波数を変化させる消音用透孔である。ダクト本体2のブロー成形後、ダクト途中に通孔5が穿設される。通孔5は閉鎖管内にて位相が一致する音圧最大領域(ダクト長さ方向の中央部分)のダクト筒部3に貫通形成される。吸気口20から、ダクト本体2の全長Lの1/2となる長さLの領域に、通孔5が設けられる(図2)。
通孔5が所定位置に設けられると、実開平1−95566号公報に記載のごとく、圧力振幅の腹とする次数モードの共鳴音が低減せしめられ、広い周波数範囲に亘り共鳴音の発生が防止される。通孔5は一種の共鳴型消音器であり、バネマスモデルで示せば、通孔5のダクト筒部3の板厚分がマス、ダクト筒部外側の空気がばねとして作用すると考えられる。音圧の腹、見方を変えれば粒子(音を伝える媒質の微小部分)の動きの最も小さい部分にチューニングホールたる通孔5を、吸気ダクト1に形成することによって、バネマスでダクト内の粒子を動かし、音響モードを変更し吸気音を下げる作用をする。
5mmφ〜10mmφの範囲にある小さな孔径の通孔5が、ダクト筒部3に係るダクト壁の厚みt方向に貫通するよう複数設けられる。通孔5の最大径を10mmφとするのは、エンジンルーム内のホットエアの吸込み量を抑えるためである。通孔5の径を5mmφ以上とするのは、それ未満だと気柱共鳴を崩す圧力の抜けが悪くなるからである。本実施形態は、図2のごとく吸気口20から全長Lの1/2にあたる長さLの地点にまず通孔5が形成される。さらに、該通孔5付近のダクト筒部3に係るダクト上流側の軸方向及びダクト下流側の軸方向に向けて、小幅Lのピッチ間隔でそれぞれ2つずつ、合計5つの横断面円形の通孔5が設けられる(図2)。気柱共鳴音の発生防止には、ダクト本体全長Lの中間点だけでなくその地点から多少ずれても効果がある。複数の通孔5を設けるのは、通孔5の大きさを最大10mmφと小さくしてホットエアの吸込み量を抑制しながら気柱共鳴を効果的に崩すためである。各通孔5はそれらの各中心軸Cが互いに平行に配設されるのが好ましい。吸気口20から吸気ダクト1内に導入される空気ARの気流線を乱す度合いがより少なくなるからである。
【0013】
そして、中空円柱状の各通孔5は、該通孔周囲のダクト筒部3に係る壁外面31から壁内面35へと進むにしたがい、ダクト吸気口(20)からダクト本体2内に吸込まれる空気ARが流れる下流側へ向かうように傾斜形成される。ダクト筒部3のダクト壁厚みt方向に貫通する通孔5は、その中心軸Cが通孔5周りのダクト筒部3に係る中心軸Cに対し、該ダクト筒部3の壁外面31から壁内面35へと進むにしたがい、ダクト吸気口20からダクト本体2に導入された空気ARが流れる下流側へ傾斜角度θで向かうよう形成される。
【0014】
従来の吸気ダクト1では、通孔5が在るその周囲のダクト筒部3に係る中心軸Cに対し、該通孔5の中心軸Cが図9のごとくほぼ直交する。一方、本吸気ダクト1に係る通孔5はその中心軸Cが、壁外面31から壁内面35へと進むにしたがいダクト本体2の下流方向に進んで、図2のダクト筒部3に係る水平中心軸Cに対し傾斜しており、例えば図2のように45°の傾斜角度θで傾く。
通孔5が壁外面31から壁内面35に進むにつれ、ダクト吸気口20からダクト本体2に導入された空気ARが流れる下流側へと進んで、通孔5の中心軸Cを傾斜させることで、吸気口20から所要空気量を吸い込む際の吸気ダクト1の圧力損失を低くできる。と同時に、通孔5からのエンジンルーム内のホットエア吸込み量を減らすことができる(詳細後述)。
【0015】
さらに、本実施形態は、通孔5の筒外面31側に現れる開孔口50に、ノズル6の基端口60aを合わせるようにして、該ノズル6がダクト上流側に傾倒して突出形成される。具体的には、壁外面31側の通孔5に係る開孔口50に、基端口60aを一致させ、さらに開孔口50側への通孔5の延長先がそのままノズル孔60となるノズル6が、その壁外面31からダクト本体2(詳しくはダクト筒部3)の上流側へ傾倒して突出形成される。開孔口50にノズル6の基端口60aを一致させ、さらに開孔口50側への通孔5がつくる孔壁53の延長先がそのままノズル孔壁63となるノズル6が、壁外面31からダクト上流側へ傾倒する。通孔5の傾きθを保って、ダクト筒部3の壁外面31にノズル6を突設する。ノズル6は、その基端口60aから、吸気口20からダクト本体2内に導入される空気ARの上流側に向けて上方傾斜する姿態を保つようにして、吸気ダクト1のブロー成形で一体成形される。ここでの傾斜角度θは、通孔5の傾斜角度に一致する角度45°になっている。ノズル6なしでも、勿論、通孔5を傾斜形成することで吸気ダクト1の圧力損失を低くできるが、通孔5周りのダクト筒部3のダクト壁の厚みtが同じなら、ノズル6を設けることによって、所要空気量を吸い込む際の吸気ダクト1での圧力損失(通気抵抗)をさらに低くできる。通孔5を通ってダクト2内へ入り込むエンジンルーム内ホットエアの吸込み量もさらに減らすことができる。図中、符号59は通孔5の筒内面側開孔口、符号60bはノズル先端口、符号61はノズル管本体を示す。
【0016】
図3に、図1,図2の吸気ダクト1からノズル6をなくした吸気ダクト1の他態様図を示す。図2と同じく、通孔5の中心軸Cが、その通孔周囲のダクト筒部3に係る中心軸Cに対し、ダクト筒部3の壁外面31から壁内面35へと進むにしたがい、ダクト吸気口(20)からダクト本体2内に導入された空気ARが流れる下流側へ向かうように傾斜形成されている。その傾斜角度θは45°である。該通孔5の孔径が最大10mmφで、且つダクト筒部3のダクト壁の厚みが2.5mm以上確保されると、通孔5の傾斜形成のみでも、騒音減衰性能を確保しながら、吸気ダクト1の圧損が低減し性能向上させる効果を発揮する。ノズル6なし以外の他の構成は図1,図2と同様で、その説明を省く。図1,図2と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0017】
ここで、通孔5周りのダクト筒部3に係る中心軸Cに対し、通孔中心軸Cが、筒外面31から筒内面35へと進むにしたがい、ダクト本体2の下流方向に進んで傾斜するその傾斜角度θは、吸気ダクト1内を流れる空気ARの通気抵抗を減らす観点からすると、0°を越えた値で且つ60°以下の範囲が好ましい。実用視点を加味すれば、より好ましくは30°〜50°の範囲にある。傾斜角度θが30°未満になると、ダクト本体2への通孔5の形成そのものが難しくなる。一方、傾斜角度が50°を越えると、吸気ダクト1の通風抵抗を減らす効果がさほど期待できず、また通孔5から吸気ダクト1内へのホットエア流入量が増える傾向にあるからである。
【0018】
(1)実施例
(1−1)吸気ダクトの通風性能比較試験
次に、数値流体力学(CFD,Computational Fluid Dynamics)の数値解析,シミュレーション手法を用いて、前記吸気ダクト1の性能比較試験を行った結果を図4に示す。
各吸気ダクト1は、その円筒形ダクト本体2が内径D76[mmφ],ダクト壁の厚みtが10[mm]で、全長400[mm]とした。通孔5は孔径10[mmφ]で、ダクト本体2の中心軸方向に沿って、その中央付近にそれぞれ5個設けた。
【0019】
対比される吸気ダクト1は、図3のような本発明の吸気ダクト1と、従来型ダクト(比較例1)と、傾斜方向が本発明とは逆方向に向かう通孔5を有する吸気ダクト1(比較例2)とである。比較例1の従来型ダクトは、図9のごとく通孔5の中心軸Cが、その通孔周囲のダクト筒部3に係る中心軸Cと直交するよう設けられている。比較例2の吸気ダクト1は、図4のごとく、通孔5の中心軸が、その通孔周囲のダクト筒部3に係る中心軸に対し、該ダクト筒部3の壁外面から壁内面へと進むにしたがい、ダクト吸気口20からダクト本体2に導入される空気ARの上流側へ向かうよう傾斜している。その傾斜角度は45°とする。そして、各吸気ダクト1の設定流量を9.0[m/min]として、圧損測定と通孔5からのダクト本体2への吸入量を解析した。
図4に示すように、吸気ダクト1内の圧力損失は、本発明品が97.1[Pa]と最も低く、さらに通孔5からダクト本体2内へ流入する空気ARの割合が比較例1,2に比べて少ない結果が得られた。本吸気ダクト1は、エンジンルーム内のホットエアの吸い込みを減らすこともできる構造になっている。
【0020】
ところで、図4の本発明品はダクト筒部3のダクト壁の厚みtを10mmにした通孔5だけの吸気ダクト1のデータであるが、ダクト筒部3(ここではダクト本体2でもある。)のダクト壁厚みtを薄くして、その薄くした分だけ、図2のごとくダクト上流側に傾倒するノズル6を設けた吸気ダクト1でも、図4の本発明品から得られた各数値とほぼ同じ結果になる。各通孔5の開孔口50に基端口60aを一致させ、さらに開孔口50側への通孔5の延長先がそのままノズル孔60となるノズル6が、図2のごとくダクト本体2の上流側へ傾倒して突出形成されれば、そのダクト筒部3のダクト壁の厚みtにノズル6の高さhを加えた値が、図4のダクト筒部3のダクト壁の厚みに匹敵する吸気ダクトの通風性能と同じになるのが判った。
例えば、ダクト筒部3のダクト壁の厚みを2mmにして、開孔口50側への通孔5の延長先がそのままノズル孔60となるノズル6が、ダクト筒部3の壁外面31からダクト本体2の上流側へ傾斜角度45°で傾倒して、ノズル高さhが8mmとなるよう突出形成した吸気ダクト1は、図4のダクト筒部3のダクト壁の厚みを10mmとした本発明品とほぼ同じ結果が得られた。また、ダクト筒部3のダクト壁の厚みを2mmにして、筒外面に高さ8mmで垂直起立するノズル6を設けた吸気ダクト1は、比較例1とほぼ同じ結果が得られた(後述)。
【0021】
(1−2)通孔形状が及ぼす影響
通孔5の形状を種々変化させて、吸気ダクト1の性能比較を行ったCFD結果を図5に示す。図5に示すCASE−1からCASE−7に図示した各種断面形状の通孔と、通孔なしの場合とをそれぞれ比較した。吸気ダクト1の形状、通孔5の孔径、個数、さらに設定流量が9.0[m/min]等は、前記(1−1)吸気ダクトの通風性能比較試験と同じにした。
吸気ダクト1での圧力損失(通気抵抗)は、図5に示すごとく本発明品のCASE−1が97.1[Pa]と、最も低い値となった。本発明品の圧損は、孔なしの圧損94.0[Pa]と殆ど変わらず、理想状態に近づいている。
【0022】
(1−3)ダクト壁の厚みと通孔形状が及ぼす影響
図5のCASE−1とCASE−4と、図5のCASE−1でダクト筒部3のダクト壁の厚みtを2[mm]にしたCASE−8と、図5のCASE−4でダクト壁の厚みtを2[mm]にしたCASE−9と、について、性能比較したCFD結果を図6に示す。
吸気ダクト1での圧力損失(通気抵抗)は、図6に示すごとくダクト壁の厚みtが薄くなっても、通孔5を図3のごとく傾斜形成することで、従来型吸気ダクト1に比べれば低い値が得られる。さらに、本吸気ダクト1の圧力損失は、ダクト壁の厚みtが増すにしたがって大きく改善されていく。
【0023】
(1−4)音響解析試験
また、図5で用いた孔なしの吸気ダクトと、CASE−1の本発明品と、CASE−4の従来型吸気ダクトと、の音響解析試験を行った結果を図7に示す。
図7に示すごとく、CASE−1の本発明品とCASE−4の従来型吸気ダクトとで、騒音減衰性能に違いが認められないことが判明した。本吸気ダクト1は従来型吸気ダクトと同じように騒音低減に威力を発揮した。
【0024】
(1−5)流速分布の対比試験
図8に、図4で用いた吸気ダクトの断面流速分布を示す。図8で、CASE−2は図4の比較例1に相当し、CASE−3は図4の比較例2に相当し、CASE−4が図4の本発明品に相当する。図8のCASE−1は、図4の比較例1の吸気ダクト1で、ダクト筒部3のダクト壁の厚みを2mmにして、通孔5が設けられたダクト筒部3の外面に高さ8mmで垂直起立するノズル6を設けた吸気ダクトの場合を表す。
CASE−4の本吸気ダクト1は剥離が小さく、最も圧力損失が低い形状になっている。また、ダクト本体2内への通孔5の流入影響が小さいため、吸気口20からダクト本体2内への空気経路が殆ど曲げられずに流れており、吸気口20からの流入量が多くなった。一方、CASE−3の吸気ダクトは、剥離する部分が大きくなって圧力損失(通気抵抗)が悪化している。通孔5からのダクト内への流入が、ダクト内の流れ方向とは反対方向を向いていることに起因すると考えられる。また、既述のごとく、CASE−2の吸気ダクトと、ダクト筒部3のダクト壁の厚みtを薄くし、且つ各通孔5の箇所に薄くした分の高さhを有するノズル6を設けたCASE−1ごとくの吸気ダクトとは、ほぼ同じ断面流速分布になった。
【0025】
(2)効果
このように構成した吸気ダクト1は、(1−4)音響解析試験結果のごとく、従来型吸気ダクトとのあいだで騒音減衰性能に特段の差異が見られず、従来型吸気ダクトと同様、騒音低減に優れた効果を発揮する。
本発明の吸気ダクト1は所望の減衰性能を確保しながら、その一方で、従来型吸気ダクトと比較すると、吸気ダクトでの圧力損失が低くなり、吸気ダクトの通風性能を向上させる。本吸気ダクト1はエンジンルーム内ホットエアの吸込みを抑え、吸気口20からの冷たい空気(外気)ARの吸引量を増やすことができる。通孔5の中心軸Cが、該ダクト筒部3の壁外面31から壁内面35へと進むにしたがい、ダクト吸気口(20)からダクト本体2に導入された空気ARが流れる下流側へ向かう傾斜構成によって、吸気ダクトの通気抵抗を減らす優れた効果を生む。
【0026】
また、チューニングホールたる通孔5を設けた場合はエンジンルーム内のホットエアの吸い込みの問題があるが、本吸気ダクト1は、通孔5からダクト本体2内へ流入する空気量が減ることにもつながっており、ホットエアの吸い込み量を減らす更なる効果をも発揮する。本吸気ダクト1は、通孔5からのダクト内への空気流入が少ないことが、吸気口20からダクト本体2内へ流入する空気ARの乱れを抑え、吸気ダクトの通気抵抗を減らす優れた効果にも結びついている。
【0027】
さらに、通孔5が複数設けられると、騒音低減性能が向上する。そして、各通孔5の中心軸Cが互いに平行配設されると、吸気口20から吸い込む空気ARの気流線に対する乱れを少なくし、吸気ダクトの圧損上昇を抑制できる。
【0028】
そして、上述した種々の優れた効果は、ダクト筒部3のダクト壁の厚みt方向に貫通する該通孔5の形成にあたって、各通孔5の中心軸Cが、その通孔周囲のダクト筒部3に係る中心軸Cに対し、該ダクト筒部3の壁外面31から壁内面35へと進むにしたがい、ダクト吸気口(20)からダクト本体2内に導入された空気ARが流れる下流側へ向かうように傾斜形成するだけの構成に基づく。低コストで、通気抵抗が低く、さらにホットエアの吸い込み量を減らす品質的に優れた吸気ダクト1を提供でき有益となる。
【0029】
加えて、ダクト筒部3のダクト壁の厚みtが2.0mm〜2.5mm前後の薄い吸気ダクト1にあっては、開孔口50に基端口60aを一致させ、さらに開孔口50側への通孔5の延長先がノズル孔60となるノズル6を、ダクト本体2(詳しくはダクト筒部3)の上流側へ傾倒して突出形成することによって、吸気ダクト1のより効果的な通気抵抗の低減、さらに通孔5からのホットエアの吸込みも一段と低下させ、吸気ダクト1の品質向上を果たすことができる。簡便構成にして、傾斜ノズル6を付加するだけで効き目があり、実用的価値が極めて高い。ダクト筒部3のダクト壁厚みtに、傾斜ノズル6の高さhが加わることで、吸気ダクト1の通気抵抗の低下、さらに通孔5からのホットエアの吸込み量を低下させる相乗効果が生まれる。ダクト壁厚みtとノズル6の高さhをバランス調整でき、設計の自由度も生まれる。通常、吸気ダクト1を樹脂から成形する場合、製品重量や成型時の冷却時間等を考慮すると、ダクト壁の厚みtをあまり大きくすることはしない。樹脂からブロー成形や射出成形された吸気ダクト1に前記ノズル6を設けることによって、ダクト壁の厚みtを増したものと同じ効果を得ることができる。
【0030】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。ダクト本体2,ダクト筒部3,通孔5,ノズル6等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。例えば、吸気ダクト1は射出成形品でもよい。実施形態は、ダクト本体長さLの中間点領域に通孔5を設けて一次気柱共鳴を防いだが、さらに、長さLの中間点領域に通孔5を設けて二次気柱共鳴を防ぐ構造を採用することもできる。
【符号の説明】
【0031】
1 吸気ダクト
2 ダクト本体(ダクト)
3 ダクト筒部
31 壁外面(筒外面)
35 壁内面(筒内面)
5 通孔(チューニングホール)
50 開孔口
6 ノズル
60 ノズル孔
60a 基端口
ダクト筒部の中心軸
通孔の中心軸
ダクト壁の厚み
AR 空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ダクト本体(2)の途中に、気柱共鳴周波数を変化させる消音用通孔(5)が設けられ、且つ、ダクト壁の厚み(t)方向に貫通する該通孔(5)の中心軸(C)が、その通孔周囲のダクト筒部(3)に係る中心軸(C)に対し、該ダクト筒部(3)の壁外面(31)から壁内面(35)へと進むにしたがい、ダクト吸気口(20)からダクト本体(2)内に導入された空気(AR)が流れる下流側へ向かうように傾斜形成されることを特徴とする吸気ダクト。
【請求項2】
前記壁外面(31)側の前記通孔(5)に係る開孔口(50)に、基端口(60a)を一致させ、さらに前記開孔口(50)側への前記通孔(5)の延長先がそのままノズル孔(60)となるノズル(6)が、その壁外面(31)からダクト本体(2)の上流側へ傾倒して突出形成される請求項1記載の吸気ダクト。
【請求項3】
前記通孔(5)が複数設けられ、且つ、各通孔(5)の中心軸(C)が互いに平行に配設される請求項1又は2に記載の吸気ダクト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−247104(P2011−247104A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118502(P2010−118502)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)