説明

吸気消音装置

【課題】 消音特性を容易に調整でき、また、通気性を悪化することがない、レイアウト性に優れた、溶着などの接着工程やコストを削減できる自動車や発電機などの内燃機関に使用される吸気消音装置を提供する。
【解決手段】 多孔質材3はリブ21a,21a間に形成された挿設部23に挿設される。上ケース21と下ケース22を接合することによって、連通孔41に多孔質材3が非接着状態で封止され、挿設部23が多孔質材3を連通孔41に押圧し、密着固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や発電機などの内燃機関に使用される吸気消音装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の吸気消音装置には、吸気騒音を低減するためにヘルムホルツ型消音器などが設けられている。特に、低周波を対策するための吸気消音装置には大きな体積が必要となるが、エンジンルーム内のスペースの制約などにより、その設置が非常に困難な問題があった。特許文献1には、ダクト内周表面にスポンジ層を設け、そのスポンジ層とダクト本体の間に密閉空気層を設けることで、吸気抵抗の増大を抑え、吸気音や脈動音などの騒音を低減することができ、また、エンジンルームのスペースに制約されない吸気ホースが記載されている。
【特許文献1】特開平7−293372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されている吸気ホースは、スポンジの剛性や耐久性などの制約により、得られる透気度の調整幅に限度があり、要求される消音特性が出せない場合がある。また、消音効果は比較的高周波側に片寄り、低周波対策には大型のレゾネータが必要となる。また、スポンジ層がダクト全周に亘っているため、基本断面に対して一律に拡張した形状にする必要があり、複雑なエンジンルーム内のスペースに対応することが困難となる。さらには、ダクト内側にスポンジ層を保持するためのコイルが必要となるため、通気抵抗が悪化するなど様々な問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記問題に鑑み、空気流路と空気層を連通する連通孔に板状の多孔質材を非接着状態で封止すると共に、固定部材により押圧し、密着固定することで、通気性を悪化させないなどの特性面、レイアウト性に優れる構造面、さらに、溶着などの接着工程やコストを削減できる経済面といった様々な優れた面を持ち合わせた効果を知見し、本発明を完成するに至ったものである。
【0005】
すなわち、本発明は、空気流通路となるダクト、空気層を形成するケース体、前記空気流通路と前記空気層を連通する連通孔で構成された吸気消音装置であって、前記連通孔に板状の多孔質材が非接着状態で封止されると共に、前記ケース体の一部で押圧され、密着固定された吸気消音装置である。
【0006】
本発明の吸気消音装置は、従来考えられていなかった空気流路と空気層を連通する連通孔に板状の多孔質材を非接着状態で封止し、さらに、固定部材で押圧し、密着固定することで、確実かつ容易に連通孔と多孔質材の合せ面からの空気漏れを抑えることができ、消音性能を向上することができる。
【0007】
板状の多孔質材は封止場所の様々な形状に対応することができ、たとえ連通孔の表面形状が悪くても、安定した状態で容易に固定することができる。
【0008】
多孔質材が連通孔に封止されることで、特許文献1に記載されているような通気性を悪化させる原因となる空気流路内に形成された保形用コイル等が不要であり、空気流路内の通気性の悪化を防ぐことができる。
【0009】
多孔質材が連通孔へ非接着状態で固定されることで、溶着といった接着手段が必要なく、工数やコストの削減できるほか、連通孔には通気性の悪化の原因となる多孔質材を溶着する際に必要となる平面部等の溶着部を特別設ける必要がないため、通気性の悪化を防ぐことができる。
【0010】
また、多孔質材が連通孔へ非接着状態で固定されることで、連通孔の開口面積を容易に変更でき、多孔質材の材料、構成、厚みなどを変えることなく、通気度が変更でき、消音性が容易に調整できる。例えば、連通孔の開口面積を小さくすれば、低周波にも効果を発揮し、低周波レゾネータ等の小型化に貢献し、連通孔の開口面積を大きくすれば、高周波に寄った消音特性を得る事も可能になる。また、連通孔の開口面積を変更できない場合は、多孔質材自体の密度や厚みを変更して透気度を調整することもできる。
【0011】
多孔質材は連通孔のみを封止しているので、多孔質材が占める部分以外はすべて空気層として利用することができ、さらには、空気層を囲むケース体は空気流路となるダクト全体を覆う必要がなく形状にかなりの自由度があるため、複雑なエンジンルームのスペースに柔軟に対応することできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多孔質材を封止する場所の形状に左右されることなく容易に連通孔に固定することができる。また、消音特性を容易に調整することができるとともに、通気性を向上することができる。また、エンジンルーム内へのレイアウト性に優れ、さらには、溶着などの接着工程やコストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の吸気消音装置について実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の吸気消音装置の実施例1の構成図であり、吸気消音装置1はポリプロピレン(PP)製の上ケース21、ウレタンスポンジ製の板状の多孔質材3、スリット状の連通孔41を設けたPP製のダクト4、PP製の下ケース22で構成されている。図2は実施例1の断面図であり、図示しないエンジンルーム内において、吸気消音装置1を設置する際、ケース体2の下部A(点線部)にスペースが無い場合に適用したものである。ケース体2はリブ21a,21aを形成した上ケース21と水抜孔22bを形成した下ケース22で構成されている。ケース体2の内部は空気層5によって包囲されたダクト4が設置されている。ダクト4には空気層5と空気流通路6を連通する連通孔41が形成されている。連通孔41には多孔質材3が密着固定されている。多孔質材3はリブ21a,21a間に形成された挿設部23に挿設され、上ケース21と下ケース22を接合することによって、連通孔41に多孔質材3が非接着状態で封止され、さらに、挿設部23が多孔質材3を連通孔41に押圧し、密着固定される。多孔質材3はリブ21a,21aが壁となり、自由に動くことが制限されている。図示しないが挿設部23の壁面にピン状の突起物を形成することで、多孔質材3を挿設部23内に貫設でき、より強固に固定することができる。
【0015】
上記実施例1、特許文献1(以下「従来技術」という。)、ダクトのみの各吸気消音装置について、特性試験を行った。
【0016】
[音響減衰量特性試験]ダクト開口部の片側に音源を設け、消音装置の上流及び下流の音圧レベル差(音響減衰量)を測定し、実施例1、従来技術、ダクトのみに対する消音性能の比較を行った。結果を図3に示す。
【0017】
図3から実施例1は、従来技術及びダクトのみよりも低周波から高い消音効果を得られる事がわかる。
【0018】
[圧力損失特性]一定の空気流量における、消音装置の上流及び下流の圧力差(消音装置部の圧力損失)を測定し、実施例1、従来技術、ダクトのみに対する通気性能の比較を行った。結果を図4に示す。
【0019】
図4からダクトのみに対して、従来技術ではダクト内側に設けられたコイルにより圧力損失が増大しているが、実施例1では圧力損失がほとんど増大せず、通気性能への影響は極めて小さくなっていることがわかる。
【0020】
本発明の吸気消音装置は実施例1に限定されるものではなく、エンジンルーム内のレイアウトに柔軟に対応することができ、例えば、図5や図6のように形成してもよい。
【実施例2】
【0021】
図5は本発明の実施例2の断面図であり、図示しないエンジンルーム内において吸気消音装置1の下部及び両側面部B(点線部)にスペースが無い場合に適用したものである。PP製のケース体2はスリット状の連通孔41に向かって延びたリブ21a,21aを形成したPP製の上ケース21とPP製の下ケース22で構成されている。ケース体2の内部は上側に領域を広く形成した空気層5によって包囲されたPP製のダクト4が設置されている。空気層5と空気流通路6を連通する連通孔41にはウレタンスポンジ製の板状の多孔質材3が密着固定されている。多孔質材3は連通孔41に非接着状態で封止され、上ケース21と下ケース22を接合することによって、リブ21a,21aが多孔質材3を連通孔41に押圧し、密着固定される。図示しないがリブ21a,21aの先端をピン形状にすることで、多孔質材3を連通孔41に貫設でき、さらに強固に固定することができる。
【実施例3】
【0022】
図6は本発明の実施例3の斜視図であり、図示しないエンジンルーム内で吸気消音装置1のPP製のケース体2の厚みを確保できない場合に適用したものである。図7は図6のX―X矢視断面図であり、吸気消音装置1のケース体2の内部に形成された空気流通路6、空気層5、スリット状の連通孔41はPP製の上ケース21とPP製の下ケース22によって包囲されている。連通孔41を形成する上ケース21、下ケース22には、挿設部23,23が形成されている。挿設部23,23にはウレタンスポンジ製の多孔質材3が挿設されている。上ケース21と下ケース22を接合することにより、ダクト4が形成されると共に、多孔質材3が連通孔41に非接着状態で封止され、さらに、一方の挿設部23が他方の挿設部23へ多孔質材3を押圧し、密着固定される。
【0023】
本発明で使用される多孔質材3はウレタンスポンジに限定されるものではなく、通気性のある材料全般を指し、例えば、綿状吸音材、グラスウール、不織布などであってもよい。
【0024】
また、本発明の連通孔41の形状は、スリット状に限定されるものではなく、図8に示すように、例えば、小孔42の列、メッシュ孔43などであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の吸気消音装置の実施例1の構成図である。
【図2】実施例1の断面図である。
【図3】実施例1、従来技術、ダクトのみに対する消音性能の比較した図である。
【図4】実施例1、従来技術、ダクトのみに対する通気性能の比較した図である。
【図5】本発明の実施例2の断面図である。
【図6】本発明の実施例3の斜視図である。
【図7】図6のX‐X矢視断面図である。
【図8】本発明に使用されるダクトの代表例である。
【符号の説明】
【0026】
1 吸気消音装置
2 ケース体
3 多孔質材
4 ダクト
5 空気層
6 空気流路
21 上ケース
21a リブ
22 下ケース
22b 水抜孔
23 挿設部
41 連通孔
42 小孔
43 メッシュ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気流通路となるダクト、空気層を形成するケース体、前記空気流通路と前記空気層を連通する連通孔で構成された吸気消音装置であって、前記連通孔に板状の多孔質材が非接着状態で封止されると共に、前記ケース体の一部で押圧され、密着固定された吸気消音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−307755(P2006−307755A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132186(P2005−132186)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)