説明

吸水保水性を有する生分解性成形体および該成形体からなるフラワーアレンジメント用台座

【課題】 生分解性を有し、吸水・保水性能を持ったフラワーアレンジメント用台座として好適に使用しうる成形体を提供すること。
【解決手段】 椰子ガラ、ケナフ、バガス、おが屑、コーヒーかす、麦芽かす、大麦・小麦の脱穀かす、漢方薬かす、澱粉かす、くるみ外殻、ペカン外殻などの天然有機物系廃材を、水性ゲルを構成しうる生分解性材料をバインダーとして固化してなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水保水性を有する生分解性成形体および該成形体からなるフラワーアレンジメント用台座に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、伝統的に切り花、植物等を用いた生け花が盛んに行われており、これらは家庭の中は勿論、例えば、冠婚葬祭等の会場内を飾るため、飲食店等の商業用店舗の店頭、近代建設ビルの玄関等を飾るために用いられている。最近では、この様な伝統的な生け花のほかに、西洋フラワーアレンジメント、近代フラワーアート等も盛んに行われるようになっている。
【0003】
上記した切り花や他の植物等を美的に配置する種々の行為を、本明細書ではフラワーアレンジメントと呼ぶことにするが、このフラワーアレンジメントにおいて切り花や他の植物等を支持、固定する台座として、日本古来の華道では伝統的に金属製の剣山が使用されており、現在でも剣山が主流である。
【0004】
しかし、剣山は花の支持・固定できる角度や高さが限定されており、表現の自由が制限され、利便性に優れるものではなかった。そこで、より手軽に、アーティフィカルに、かつ広範囲の用途に使用できる台座として、例えば、特許文献1にはフェノール樹脂の発泡体、いわゆるフェノールフォーム製の台座が開示されており、軽量で加工や表現の自由度が高く、水に浮かべて吸水させることで手軽に使用できるため、欧米だけではなく日本でも広く使用されている。
【0005】
このようなフェノールフォーム製の台座は、手軽に使用できるものであったが、フェノールフォームは熱硬化性樹脂であるため再生(リサイクル)使用ができず、また、廃棄された際、内分泌かく乱物質として疑いがあるビスフェノールが発生する恐れがある。
【0006】
また、特許文献2には、フェノールフォーム成分に生分解性成分を副成分として添加し、生物学的に分解可能としたフォームが開示されている。しかし、このような生物学的に分解可能なフォームであっても、フェノール成分を含有する限り、内分泌かく乱物質の問題は解決されず、逆に、分解することにより、フェノール成分は土中への拡散が促進される。
【0007】
以上のような理由から、フラワーアレンジメント用台座についても、環境に優しい天然物由来や生分解性素材からなり、手軽に使用できるものが望まれている。
【0008】
特許文献3は、吸水率、吸水速度および保水性に優れたポリウレタンフォーム複合体に関するもので、吸水・保水性不足の改善を目的として、ポリオールとイソシアネートを混合して発泡固化させる際に、植物性物質の紛体およびゲル形成型吸水性ポリマー(いわゆる高吸水性高分子)を共存させることによってポリウレタン製フラワーアレンジメント用台座に吸水・保水性を付与できることを開示している。しかし、開示されている技術は、植物性物質やゲル形成型吸水性ポリマーを、ポリウレタンのマトリックスに保持したものであり、環境に優しい素材から成り立っているとは言いがたい。さらに、添加する植物性物質やゲル形成型吸水性ポリマーのサイズを100μm以下の微紛を使用していることから、ポリウレタンマトリックス中に埋没してしまい、本来の親水性や吸水性が発揮されず十分な吸水量を確保できない恐れがある。
【0009】
特許文献4には、寒天を主剤とするゲル状組成物からなる植物の給水保持材が開示されている。しかし、当該文献に開示されているものは、給水保持材であって、植物の茎を垂直に挿すことは可能でも、斜めに茎を挿した場合、植物の挿した状態を保持するのは難しい。
【0010】
また、特許文献5には主原料として木材チップに高級水性樹脂を加え粘着接合材によってブロック状に構成して成る人工土壌が開示されている。しかし、当該文献に開示されている技術は、人工土壌であるため、フラワーアレンジメント用台座に求められる花保持性や花もちについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−75193号公報
【特許文献2】特開平8−53564号公報
【特許文献3】特開2007−186657号公報
【特許文献4】特開平11−35402号公報
【特許文献5】特開平8−266148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、生分解性を有し、吸水・保水性能を持ったフラワーアレンジメント用台座として好適に使用しうる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、椰子ガラ、ケナフ、バガス、おが屑、コーヒーかす、麦芽かす、大麦・小麦の脱穀かす、漢方薬かす、澱粉かす、くるみ外殻、ペカン外殻などの天然有機物系廃材に、バインダーとして水性ゲルを構成しうる生分解性材料を添加して固化してなる成形体が、生分解性を有し、吸水保水性能を持った、フラワーアレンジメント用台座として好適に使用しうる、花挿し性と花保持性を有していることを見出し本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち本発明は以下の構成よりなる。
〔1〕 天然有機物系廃材を、水性ゲルを構成しうる生分解性材料をバインダーとして固化してなる成形体。
〔2〕 水性ゲルを構成しうる生分解性材料が、水溶性多糖類、ゼラチン、ゼラチン誘導体から選ばれる1以上である〔1〕記載の成形体。
〔3〕 水性ゲルを構成しうる生分解性材料が成形体100重量部中、10重量部以上60重量部以下である〔1〕または〔2〕何れかに記載の成形体。
〔4〕 〔1〕〜〔3〕何れかに記載の成形体からなるフラワーアレンジメント用台座。
【発明の効果】
【0015】
本発明の成形体は、生分解性であり、かつ吸水・保水性能している。また花挿し性、花保持性を有しているため、フラワーアレンジメント用台座として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の成形体は、天然有機物系廃材を、水性ゲルを構成しうる生分解性材料をバインダーとして固化してなる。
【0017】
本発明の成形体は、良好な花挿し性と良好な花保持性を示す。本発明にいう花挿し性とは、花の茎を該成形体に挿した時に茎を挿した箇所が破壊することで花を挿せることをいい、花保持性とは、挿した花が倒れずにそのまま固定出来ることを言う。
【0018】
本発明の天然有機物系廃材とは、農林産物などの天然に存在する有機物を使用した後の廃材、もしくは農林産物などの天然に存在する有機物を使用した製造過程で出る廃材のことをいい、具体的には、ケナフ、バガス等の農林産物精製後の残渣;椰子ガラ、コーヒーかす、麦芽かす、籾殻、大麦・小麦の脱穀かす、くるみ外殻、ペカン外殻等の植物種子外皮由来の屑;おが屑、漢方薬かす、澱粉かす、等の農林産物加工時の加工屑等が扱い易さ、安価であるため好適である。
【0019】
天然有機物系廃材の形状は、特に限定はないが、例えば、長さ10mm以下の繊維状や不定形の粉末等が例示できる。単一の天然有機物系廃材で、異なる形状を有した複数の天然有機物系廃材を使用してもよいし、異なる天然有機物系廃材でそれぞれが異なる形状を有していてもよい。
【0020】
長さ10mm以下の繊維とは、太さが0.01mm〜1.0mm程度のものを言い、具体的には椰子ガラ、ケナフ、バガスなどが例示できる。不定形の粉末とは、目開き4mm(5メッシュ;USA)を通過するものが好適である。具体的には、おが屑、コーヒーかす、籾殻、麦芽かす、大麦・小麦の脱穀かす、漢方薬かす、澱粉かす、くるみ外殻、ペカン外殻の乾燥物などが例示できる。
【0021】
天然有機物系廃材は、成形体100重量部中、40重量部以上90重量部以下であることが好ましく、50重量部以上80重量部以下であることがより好ましい。該当範囲内であると、茎を斜めに挿した場合でも良好な花保持性を発現し易く、さらに生分解性や吸水・保水性能を有したフラワーアレンジメント用台座となる傾向がある。ただし、前記成形体重量は、水分を含まない乾燥重量である。
【0022】
本発明の水性ゲルを構成しうる生分解性材料は、その水溶液が冷却、イオン架橋、pH変化、化学反応などによってゲル状態となる生分解性材料をいい、具体的には、水溶性多糖類、ゼラチン、ゼラチン誘導体などが挙げられる。これらの1以上を好適に使用することが出来る。中でも。水溶性多糖類から選ばれる1以上であることが比較的安価に入手でき、ゲル化も容易であるため好ましい。
【0023】
水溶性多糖類は何らかの要因によってゲル化させることが可能なものであれば特に限定されないが、単独またはその他の水溶性多糖類との混合水溶液を冷却したり、特定の金属カチオンと接触させたり、pHを変化させたりした場合にゲル化するものが取扱いの容易さから好ましく用いられる。具体的には、アガロース(寒天)、κ―カラギーナン、アルギン酸とその塩、ジェランガム、グルコマンナン(コンニャクマンナン)、カードランやこれらの誘導体が挙げられ、これら単独または混合して用いることができる。その中でも特に入手のしやすさや取扱いの容易さから、アガロースが好ましく、さらに、平均分子量200000以上1000000以下のアガロースであることが好ましい。
【0024】
ゼラチン、およびゼラチン誘導体とは、コラーゲン等を出発物質として得られるゼラチンあるいは化学的に変化したゼラチン誘導体のうち、加温溶解した水溶液を冷却あるいは冷却と同時にpHを調整することなどによってゲル化するものをいうが、入手のしやすさ、取扱いの容易さからゼラチンが好ましく用いられる。
【0025】
これら水性ゲルを構成しうる生分解性材料には、ゲル化性能を損なわない範囲で他の水溶性成分を混合することでゲルの特性や強度を改善することができる。他の水溶性成分としては特に限定されないが、ローカストビーンガム、グアーガム、カシアガム、アラビアガム、ウェランガム、イヌリン、デキストラン、プルラン、デンプン、ショ糖、およびそれらの誘導体等を用いることが出来る。
【0026】
これら水性ゲルを構成しうる生分解性材料は、成形体100重量部中、10重量部以上60重量部以下であることが好ましく、20重量部以上50重量部以下であることがより好ましい。該当範囲内であると、生分解性、吸水・保水性能、花挿し性、花保持性を有した成形体となる。ただし前記成形体、および水性ゲルを構成しうる生分解性材料の重量は、水分を含まない乾燥重量である。
【0027】
本発明の成形体は、天然有機物系廃剤を、水性ゲルを構成しうる生分解性材料をバインダーとして固化してなる。具体的には、まず、水性ゲルを構成しうる生分解性材料を水に溶解させ、水溶液とする。水性ゲルを構成しうる生分解性材料の水溶液濃度は1.0重量%以上10重量%以下が好ましく、1.5重量%以上5.0重量%以下がより好ましく、2.0重量%以上5.0重量%以下がさらに好ましい。次に、天然有機物系廃材を前記水溶液中に均一に分散させ、系全体をゲル化条件(温度調製、pH調整、あるいは金属塩の添加攪拌など)に調製し、系全体をゲル化させた後、ゲルが再溶解しない条件で真空乾燥、液中乾燥、凍結乾燥等により乾燥させる。乾燥した後の該成形体の嵩密度は0.02g/cm3以上であることが好ましい。上限値は特に限定はないが、0.8g/cm3以下であることが好ましく、0.6g/cm3以下であることがより好ましく、0.4g/cm3以下がさらに好ましい。成形体の嵩密度が当該範囲内にあると、軽量であるため、使用者に負担がかからない点で好ましい。
【0028】
本発明の成形体は、フラワーアレンジメント用台座として好適に使用することができる。フラワーアレンジメント用台座として使用する場合、本発明の成形物を水に浸し、吸水させた状態で使用することができる。
【0029】
吸水させた状態で使用する際の吸水量としては、成形体単位体積当たりの吸水分量として0.5g/cm3以上1.0g/cm3以下が好ましく、0.6g/cm3以上1.0g/cm3以下がより好ましい。当該範囲の吸水量であると、植物に対して水を与え、一定期間維持することが出来る。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
<吸水性試験評価>
十分に乾燥した半径4cm厚み2cmの成形体を水の上に静置させ、3分間吸水させた。吸水前後の重量変化から水分量を算出し、単位体積当たりの吸水量(g/cm3)を求めた。
【0032】
<フラワーアレンジメント用台座としての評価>
フラワーアレンジメントの講師5名をパネラーとし、茎の直径3〜4mmのガーベラを用いて評価した。評価項目として、花挿し性、花保持性、花もち(かれない)を挙げ、以下に記載する基準で評価し、最大評価最小評価各々一人を除いた3名の平均を求めた。花もちについては通常のフラワーアレンジメント用台座は3日後に加水するため、3日後加水前の花の状態で評価した。
評価基準:市販品(スミザーズ・オアシス社製)を3として、1:かなり劣る、2:やや劣る、4:やや優れる、5:かなり優れる
【0033】
(実施例1)
90℃に加熱した純水480gにアガロース(寒天)20gを攪拌しながら加え溶解させ、水溶液を得た。この水溶液におが屑40gを加え均一に攪拌し、円柱の型に注型した後、室温下で静置させてゲル化させた後、60℃で真空乾燥40時間行い成形体を得た。得られた成形体の構造を調べたところ、嵩密度0.11g/cm3で成形体全体積の内、おが屑の体積は10%であった。この成形体を水面に静置し、吸水させてフラワーアレンジメント用台座とした。吸水量とフラワーアレンジメント用台座としての評価結果を表に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
(実施例2)
実施例1の水溶液にショ糖13gを加えて製作した以外は実施例1と同様に行い、フラワーアレンジメント用台座とした。吸水量とフラワーアレンジメント用台座としての評価結果を表に示した。
【0036】
(実施例3)
90℃に加熱した純水480gにアガロース(寒天)10g、カラギーナンとカシアガムの混合物(CC−50、成分比:カラギーナン50%、カシアガム50%、マリン・サイエンス株式会社)10gを攪拌しながら加え溶解させ、水溶液とした。この溶液におが屑40gと塩化カリウム0.25gを加え攪拌し、円柱の型に注型した後、室温下で静置させてゲル化させた後、60℃で真空乾燥40時間行い成形体を得た。得られた成形体の構造を調べたところ、嵩密度0.11g/cm3で成形体全体積の内、おが屑の体積は10%であった。この成形体を水面に静置し、吸水させてフラワーアレンジメント用台座とした。吸水量とフラワーアレンジメント用台座としての評価結果を表に示した。
【0037】
(比較例1)
おが屑を加えないこと以外は実施例1と同様に行い、成形体とした。吸水量とフラワーアレンジメント用台座としての評価結果を表に示した。
【0038】
(比較例2)
ポリ乳酸発泡成形体(株式会社カネカ カネパールPLAフォーム(登録商標)・嵩倍率35倍)をそのままフラワーアレンジメント用台座とした。吸水量とフラワーアレンジメント用台座としての評価結果を表に示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然有機物系廃材を、水性ゲルを構成しうる生分解性材料をバインダーとして固化してなる成形体。
【請求項2】
水性ゲルを構成しうる生分解性材料が、水溶性多糖類、ゼラチン、ゼラチン誘導体から選ばれる1以上である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
水性ゲルを構成しうる生分解性材料が成形体100重量部中、10重量部以上60重量部以下である請求項1または2何れか一項に記載の成形体。
【請求項4】
請求項1〜3何れか一項に記載の成形体からなるフラワーアレンジメント用台座。

【公開番号】特開2011−79938(P2011−79938A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232702(P2009−232702)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】