説明

吸汗性シートおよび使い捨ておむつ

【課題】抗菌性薬剤成分を含み、汗を吸い易い吸汗性シートとその吸汗性シートを使用した使い捨ておむつ。
【解決手段】吸汗性シート21が、基材シート21aと、基材シート21aに含まれる薬剤成分とからなる。薬剤成分は、第4級アンモニウム塩であって、セルロース繊維を含む基材シート21aは、それに第4級アンモニウム塩の溶液を浸漬させた後に乾燥させて、第4級アンモニウム塩と一体になっている。吸汗性シート21は、使い捨ておむつに取り付けて使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は吸汗性シート、より詳しくは抗菌性の薬剤成分を含む吸汗性シートに関し、その吸汗性シートを使用した使い捨ておむつにも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使い捨ておむつや使い捨てトレーニングパンツ、使い捨てガウン等の使い捨て着用物品に使用される吸汗性シートは、公知である。例えば、特開2000−189454号公報(特許文献1)に開示された使い捨ておむつでは、エンドフラップの内面に通気性吸汗性シートが使用されている。また、特開2004−358099号公報(特許文献2)に開示された吸収性物品では、エンドフラップの肌当接面に親水性かつ通気性の吸汗性シートが使用されている。これらの吸汗性シートは、使い捨ておむつ等の着用中に生じやすいあせもやかぶれ等の防止を目的に使用されている。また、特開2001−299811号公報(特許文献3)や特開2002−153507号公報(特許文献4)に開示された吸収性物品では、かぶれ等を防止するために、肌に接触する部位に薬剤効果を有する成分、例えばアロエ抽出成分等が塗布されている。
【特許文献1】特開2000−189454号公報
【特許文献2】特開2004−358099号公報
【特許文献3】特開2001−299811号公報
【特許文献4】特開2002−153507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1,2における吸汗性シートは、汗を吸い取ることによってあせもを防止しようとするもので、吸汗量が多くなるにつれて、その効果が低くなる。また、特許文献3,4における吸収性物品は、薬剤成分を複合繊維からなるエアスルー不織布に塗布したり(特許文献3)、長繊維からなる不織布に塗布したりするもので、あせもやかぶれの発生を抑えることができても、不織布は吸汗性のものではないから、多量の汗をかいたときには肌に清涼感を与えることができない。
この発明は、肌に当てて使用しているときに、汗をかいた肌に対して清涼感を与えると同時に、あせもの発症に関係すると考えられる菌の増殖を抑制することが可能な吸汗性シートの提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためのこの発明は、吸汗性シートに係る第1発明と、その吸汗性シートを使用した使い捨ておむつに係る第2発明とを含んでいる。
【0005】
前記第1発明は、吸水性繊維を含む繊維集合体で形成された基材シートと、前記基材シートに含まれる薬剤成分とからなる吸汗性シートを対象にしている。
【0006】
かかる吸汗性シートにおいて第1発明が特徴とするところは、前記吸水性繊維が少なくともセルロース繊維を含み、前記薬剤成分が第4級アンモニウム塩であり、前記基材シートが、それに前記第4級アンモニウム塩の溶液を浸漬させた後に乾燥させて、前記第4級アンモニウム塩と一体になっていること、にある。
【0007】
第1発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記第4級アンモニウム塩が、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムのいずれかである。
【0008】
第1発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記基材シートと一体の前記第4級アンモニウム塩の量が0.012〜0.176重量%である。
【0009】
第1発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記基材シートと一体の前記第4級アンモニウム塩の量が0.029〜0.088重量%である。
【0010】
第1発明の好ましい実施態様の他の一つにおいて、前記基材シートが前記セルロース繊維としてパルプ繊維を使用して形成されたティシューペーパである。
【0011】
前記第2発明は、前胴周り域と後胴周り域とこれら両域間に介在する股下域とを有し、内面が肌当接側となり外面が着衣当接側となる使い捨てのおむつを対象にしている。
【0012】
かかる使い捨ておむつにおいて、第2発明が特徴とするところは、前記前胴周り域と前記後胴周り域と前記股下域とのうちの少なくとも前記後胴周り域における前記内面に前記第1発明に係る吸汗性シートが取り付けられていること、にある。
【発明の効果】
【0013】
この発明の第1発明に係る吸汗性シートは、セルロース繊維とそれと一体の第4級アンモニウム塩とを含むことによって、親水性のセルロース繊維が汗を吸って肌に清涼感を与えることができるとともに、セルロース繊維をキャリヤとする第4級アンモニウム塩が汗に濡れたセルロース繊維からその汗の中に簡単に溶出して、汗をかいた肌での表皮ブドウ球菌の増殖を抑え、あせも発症の防止が可能になる。
【0014】
第4級アンモニウム塩が塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムである態様の第1発明によれば、薬剤成分として抗菌性のものを簡単に入手することができる。
【0015】
第4級アンモニウム塩の量が0.012〜0.176重量%である態様の第1発明によれば、肌に当てたときにあせもの防止が可能であって、肌を刺激することのない吸汗性シートを入手することができる。その量が0.029〜0.088重量%であるときには、あせもの防止が一層確実になる。
【0016】
繊維集合体で形成された基材シートがパルプ繊維で形成されたティシューペーパである態様の第1発明では、そのティシューペーパを形成しているパルプ繊維が第4級アンモニウム塩に対する優れたキャリヤとなる。
【0017】
第1発明に係る吸汗性シートが後胴周り域の内面に取り付けられている態様の第2発明に係る使い捨ておむつによれば、おむつを着用した乳幼児の腰部におけるあせもの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
添付の図面を参照して、この発明に係る吸汗性シートの詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0019】
図1は、使い捨ておむつ1の部分破断平面図である。おむつ1は、透液性表面シート2と、不透液性裏面シート3と、これら両シート2,3間に介在する吸液性コア4とによって形成されており、おむつ着用者の身体を覆う前胴周り域6と、後胴周り域7と、股下域8とを有する。後胴周り域7の両側部には前後胴周り域6,7を連結するためのファスナ9が取り付けられている。表面シート2は、おむつ着用者(図示せず)の肌に当接する内面を形成しており、裏面シート3は、おむつ着用者の着衣に当接する外面を形成している。
【0020】
かようなおむつ1の後胴周り域7における表面シート2の一部分に対しては、吸汗性シート21と補強シート22(図2参照)とが接着または溶着により取り付けられている。おむつ着用者は、腰部における汗を吸汗性シート21に吸収させることによって、清涼感を得たり、あせもに対する防止効果を得たりすることができる。
【0021】
図2は、図1における吸汗性シート21と補強シート22との部分断面図であって、両シート21,22は吸汗性シート21がおむつ着用者の肌に当接するようにして積層一体化されている。吸汗性シート21は基材シート21aとそれをキャリヤとする薬剤成分(図示せず)とを含むもので、基材シート21aは吸水性繊維としてセルロース系繊維、より好ましくはパルプ繊維を5〜20g/mの割合で含む他に、ポリプロピレンを芯成分としポリエチレンを鞘成分とする複合繊維やポリエステル繊維等の熱可塑性合成繊維をセルロース系繊維の重量に対して0〜90重量%含むことができる繊維集合体である。図示例では、パルプ繊維23のみからなり坪量17g/mを有するティシューペーパが基材シート21aとして使用されている。かような吸汗性シート21は、基材シート21aに所要濃度の第4級アンモニウム塩の水溶液やアルコール溶液等の薬剤溶液を浸漬させた後、その基材シート21aを乾燥させることによって得られるもので、第4級アンモニウム塩がキャリヤであるパルプ繊維23に染み込んでその表面や内部に付着または化学的に結合して一体化している。第4級アンモニウム塩は、抗菌剤として使用されるもので、例えば塩化セチルピリジニウムや塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、アルキルピリジニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、デシルイソノニルジメチルアンモニウムフロライド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、4,4’−(テトラメチレンジカルボニウムアミノ)ビス(1−デシルピリジニウムブロマイド)、N,N’−ヘキサメチレンビス(4−カルバモイル−1−デシルピリジニウムブロマイド)等が使用される。基材シート21aに薬剤溶液を浸漬させる方法には、基材シート21aを薬剤溶液の中に放置したり、基材シート21aに薬剤溶液をスプレーしたりする方法がある。補強シート22は、おむつ1が着用状態にあるときに、吸汗性シート21の組織を維持するために使用されているもので、エアスルー不織布やスパンボンド不織布等の熱可塑性合成繊維の不織布で形成されることが好ましい。また、その熱可塑性合成繊維24が熱捲縮した複合繊維であって、補強シート22を柔軟で通気性のよいものにできることがより好ましい。補強シート22は、接着や溶着等の接合手段、高圧柱状水流の噴射やニードルパンチの使用等による繊維交絡手段等によって吸汗性シート21と一体化される。補強シート22はまた、表面シート2に対して接着や溶着等の接合手段によって取り付けられる。
【0022】
従来、あせもの発生原因の一つは、多量の汗の発生に伴って汗孔が詰まり、その後に汗が汗管より表皮や真皮に滲出したときに炎症を起こすことにあるといわれていた。しかるに、本発明者が知見したところによれば、汗をかいたときに増殖する表皮ブドウ球菌の生産物が汗管を塞いであせも発症の原因になることがあり、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩を一例とするカチオン系抗菌剤やポリリジンを一例とするポリカチオン系抗菌剤の適量を表皮ブドウ球菌と共存させることによって、肌を徒に刺激することなく表皮ブドウ球菌の増殖を抑制することが可能であるとの見通しを得た。図1,2の吸汗性シート21は、そのような知見に基づいて作られたものであって、吸水性に優れており第4級アンモニウム塩と強く結合することが可能なセルロース繊維の一例であるパルプ繊維23によって汗を速やかに吸収して、肌に清涼感をもたらすとともに、その汗によってパルプ繊維と一体になっている第4級アンモニウム塩を汗の中に徐々に溶出させて、表皮ブドウ球菌の増殖を抑制しようとするものである。
【0023】
表1は、試作した各種の試験用吸汗性シートを蒸留水(DW)と0.5%食塩水(NaClaq)との中に4時間放置したときに溶出した薬剤成分の量を示している。基材シート21aには、坪量17g/mを有する3.4gのティシュペーパを使用した。この基材シート21aからは、それを薬剤成分の種類と濃度とが異なる各水溶液の中に放置して各水溶液を浸漬させた後に乾燥することによって、薬剤成分の含有量の異なる複数の試験用吸汗性シートを得た。次に、試験用吸汗性シートを35mlの蒸留水と0.5%の食塩水との中に20℃で4時間放置して薬剤成分を溶出させた。それらの蒸留水と0.5%食塩水とについて、CrestPak C18SカラムによるHPLCによって、各薬剤成分の溶出量をg/lの単位で測定した。蒸留水と0.5%食塩水とにおける各薬剤成分の溶出量は、ほぼ同じであった。
【0024】
【表1】

【0025】
表2は、第4級アンモニウム塩である各種薬剤成分について、その含有量が異なる試験用吸汗性シートを用意し、その試験用吸汗性シートについての性能評価結果を示している。表2における「4時間後溶出量」は、表1における試験と同様な試験においての試験用吸汗性シートからの薬剤成分の溶出量を示している。表2における「上腕皮膚試験」は、5×5cmの大きさの各試験用吸汗性シートを健常男性成人10人の上腕部に密着させて24時間後の皮膚の状態を観察した結果を示している。「あせも防止効果」の観察結果において、効果が「有」とは10人中8人以上に効果が確認できた場合をいい、「やや有」とは10人中6人以上に効果が確認できた場合をいう。効果が「無」とは10人中5人以上に効果が認められなかった場合をいう。また、「肌の異常」とは、吸汗性シートを密着させた部位とその部位の周辺部位とを比較観察した結果であって、異常が「無」とは吸汗性シートを密着させた部位について10人中10人に異常がなかった場合をいい、「やや有」とは10人中8〜9人には異常がなかった場合をいう。肌の異常についての観察結果からすると、第4級アンモニウム塩の含有量は、0.176重量%以下であることが好ましく、0.088重量%以下であることがより好ましい。また、あせも防止効果からすると、0.012重量%以上であることが好ましく、0.029重量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
【表2】

【0027】
この発明において、吸汗性シート21が湿潤時の引張強度の高いもので、汗を吸収しても簡単には組織がばらばらになることのない場合には、補強シート22の使用は必ずしも必要ではない。また、吸汗性シート21は、図示例の使い捨ておむつの他に、トレーニングパンツや失禁患者用のパンツ、その他各種の着用物品と組み合わせて使用することができる。吸汗性シート21は、そのように組み合わせて使用するものであることに限らず、単独で使用してもよいものであることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明によれば、あせも防止効果を奏することが可能な吸汗性シートおよびその吸汗性シートを使用した使い捨ておむつの製造が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】使い捨ておむつの部分破断図。
【図2】吸汗性シートの部分断面図。
【符号の説明】
【0030】
1 おむつ
2 内面(内面シート)
3 外面(外面シート)
6 前胴周り域
7 後胴周り域
8 股下域
21 吸汗性シート
21a 基材シート
23 吸水性繊維(パルプ繊維)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性繊維を含む繊維集合体で形成された基材シートと、前記基材シートに含まれる薬剤成分とからなる吸汗性シートであって、
前記吸水性繊維が少なくともセルロース繊維を含み、前記薬剤成分が第4級アンモニウム塩であり、前記基材シートが、それに前記第4級アンモニウム塩の溶液を浸漬させた後に乾燥させて、前記第4級アンモニウム塩と一体になっていることを特徴とする前記吸汗性シート。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム塩が、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムのいずれかである請求項1記載の吸汗性シート。
【請求項3】
前記基材シートと一体の前記第4級アンモニウム塩の量が0.012〜0.176重量%である請求項1または2記載の吸汗性シート。
【請求項4】
前記基材シートと一体の前記第4級アンモニウム塩の量が0.029〜0.088重量%である請求項1または2記載の吸汗性シート。
【請求項5】
前記基材シートが前記セルロース繊維としてパルプ繊維を使用して形成されたティシューペーパである請求項1〜4のいずれかに記載の吸汗性シート。
【請求項6】
前胴周り域と後胴周り域とこれら両域間に介在する股下域とを有し、内面が肌当接側となり外面が着衣当接側となる使い捨てのおむつであって、
前記前胴周り域と前記後胴周り域と前記股下域とのうちの少なくとも前記後胴周り域における前記内面に請求項1〜5のいずれかに記載の吸汗性シートが取り付けられていることを特徴とする前記おむつ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−325915(P2007−325915A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107531(P2007−107531)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】