説明

吸湿・撥水性芯鞘型複合繊維

【課題】耐久性のある優れた吸湿性能と撥水性能とが両立した繊維を提供すること。
【解決手段】芯成分として吸湿ポリマーを配し、鞘成分として撥水ポリマーを配する芯鞘型複合繊維であって、35℃、95%RHでの飽和吸湿率が3〜10重量%、25℃、65%RHの雰囲気下から35℃、95%RHの雰囲気下に10分間放置したとき水分率の上昇が1重量%以上であり、かつJIS L−1092によるスプレー法での撥水度が80点以上である吸湿撥水性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放湿性と撥水性を有する繊維に関する。さらに詳しくは、撥水性を有しながら、優れた吸湿性を有し、ムレ感、べとつき感のないインナー、裏地、外衣、スポーツ衣料などに最適な、吸湿・撥水性芯鞘型複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然繊維、特に動物繊維のもつ優れた特徴の一つに、適度の吸湿性と撥水性を兼備することが挙げられる。合成繊維にも、このような性能を付与すべく多くの試みがなされてきた。しかしながら、性能が十分でなかったり、永久性に欠けたりする欠点などがあった。例えば、吸湿性と撥水性を両立させるべく、水溶性ポリアミドとポリシロキサンを溶融紡糸することにより、吸湿および撥水性を得るという吸湿撥水性繊維が、特許文献1(特開昭57−121618号公報)に提案されている。しかし、この方法では吸湿性・撥水性ともに十分な効果は得られていない。
【0003】
また、特許文献2(特開平7−97718号公報)には、撥水ポリマーと吸湿ポリマーを複合紡糸することにより、撥水性と吸湿性を併せ持つ繊維が提案されている。しかし、この方法によると、吸湿成分が繊維表面に露出しており、吸湿ポリマーの脱落を防ぐことができないばかりか、十分な撥水性能も得られない。
【特許文献1】特開昭57−121618号公報
【特許文献2】特開平7−97718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、このような現状に鑑み、耐久性のある優れた吸湿性能と撥水性能とが両立した繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、芯成分として吸湿ポリマーを配し、鞘成分として撥水ポリマーを配する芯鞘型複合繊維であって、35℃、95%RHでの飽和吸湿率が3〜10重量%、25℃、65%RHの雰囲気下から35℃、95%RHの雰囲気下に10分間放置したとき水分率の上昇が1重量%以上であり、かつJIS L−1092によるスプレー法での撥水度が80点以上であることを特徴とする吸湿撥水性繊維に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の吸水・撥水性芯鞘型複合繊維は、優れた吸湿性および撥水性を有し、これから得られる繊維製品は、ムレ感、べとつき感がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の吸湿・撥水性芯鞘型複合繊維ついて詳述する。
本発明において芯成分として使用する吸湿性ポリマーとは、吸湿性熱可塑性ポリマーであれば特に限定されるものではなく、ポリエーテルエステルブロック共重合体、もしくは平均分子量が1,000〜500,000のポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドンなどの吸湿剤を、繊維形成性ポリマーであるナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミドや、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルにブレンドしたものなどを挙げることができる。
上記吸湿剤の配合量は、芯成分を構成する吸湿性ポリマー(繊維形成性ポリマー+吸湿剤)中に、好ましくは2〜30重量%、さらに好ましくは5〜20重量%程度である。
2重量%未満では、得られる複合繊維が吸湿性に劣り、一方、30重量%を超えると製糸性が悪くなる傾向にあり好ましくない。
【0008】
また、本発明において、鞘成分として使用される撥水ポリマーとは、4フッ化エチレン重合体、3フッ化塩化エチレン重合体、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン重合体、エチレン・4フッ化エチレン共重合体などのフッ素系樹脂を、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの繊維形成性ポリエステルにブレンドしたものが挙げられる。
上記フッ素系樹脂の配合量は、鞘成分を構成する撥水ポリマー(繊維形成性ポリエステル+フッ素系樹脂)中に、好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは20〜50重量%程度である。10重量%未満では、得られる複合繊維が撥水性に劣り、一方、50重量%を超えると製糸性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0009】
また、上記鞘成分として用いられる撥水ポリマーは、該ポリマーのフィルムでの接触角が、好ましくは90゜以上、さらに好ましくは90〜120゜である。
ここで、フィルムの接触角は、本発明に用いられる撥水ポリマーを常法に従ってフィルムに成膜し、ゴニオメーターを使用して測定した値である。
接触角が90°未満では、本発明の目的とする十分な撥水性が得られない。なお、フィルムでの接触角が90°以上であれば、表面に凹凸をつけることにより、さらに接触角を向上させることが可能である。すなわち、表面に撥水ポリマーを用いた繊維に微細孔を設けるなどして、繊維の表面積を上げることにより撥水性を向上させることができる。
この接触角は、撥水ポリマー中のフッ素系樹脂を10〜50重量%の範囲にすることにより調整することができる。
【0010】
本発明の繊維は、35℃、95%RHでの環境下に24時間放置した後の水分率が3〜10重量%、25℃、65%RHの雰囲気下から35℃、95%RHの雰囲気下に10分間放置したとき水分率の上昇が1重量%以上であって、かつJIS L−1092によるスプレー法での撥水度が80点以上の撥水性を有する繊維であることを特徴とする。
【0011】
本発明の繊維は、35℃、95%RHでの環境下に24時間放置した後の水分率が3〜10重量%、好ましくは5〜10重量%である。一般に、吸湿性繊維は、35℃、95%RHでの吸湿率は高い方が好ましいが、吸湿率が高い場合には、吸水率も高くなる傾向があり、洗濯時での鞘割れなどが起こってしまう。本発明者らの検討では、35℃、95%RHでの吸湿率が10%を超える場合は、沸水吸水による膨潤のために鞘割れが起こり、芯成分である吸湿ポリマーが繊維表面に露出してしまい、長期の使用における十分な撥水性が得られないとともに繰り返しの使用にて、吸湿ポリマーの脱落が起こるために、吸水性も低下してしまう。一方、3重量%未満では、発汗作用によって生じた皮膚と衣料の間の水蒸気などの吸収が不十分である。
上記飽和吸湿率を上記範囲内にするには、本発明の複合繊維における芯成分の体積比や芯成分中に含まれる吸湿剤の割合を調整することができる。
【0012】
また、衣料の快適性には、数分単位での吸湿量が大きく影響しており、本発明者らの検討によると、25℃、65%RHの雰囲気下から35℃、95%RHの雰囲気下に10分間放置したとき水分率の上昇が1重量%以上とすることにより、ムレ感やベトツキ感のない繊維が得られる。一方、あまり水分率の上昇が大きすぎると鞘割れがおこりやすくなる傾向にあり、上記の水分率の上昇は好ましくは、1〜5重量%である。
上記水分率の上昇を1重量%以上に調整するには、本発明の複合繊維における芯成分の体積比や、芯成分中に含まれる吸湿剤の割合などにより調整することができる。
【0013】
さらに、本発明の繊維は、JIS L−1092によるスプレー法での撥水度が80点以上の撥水性を有する。撥水度は、好ましくは90点以上である。本発明の繊維における撥水性が80点未満では、繊維を衣料などとした場合に雨などの水滴の浸透を防ぐ目的が十分達成できない。
上記撥水性は、鞘成分の面積比や、鞘成分を構成するフッ素樹脂の使用量などによって調整することができる。
【0014】
なお、本発明の複合繊維は、繊維表面に上記吸水ポリマーが露出していないことが好ましい。繊維表面に吸水ポリマーが露出することは、芯成分が鞘成分から突き出して繊維表面に露出することを意味し、十分な撥水性が得られないばかりか、吸水ポリマーも脱落しやすくなって吸水性低下の原因となる。繊維表面に吸水ポリマーが露出しないようにするには、芯成分と鞘成分の面積割合を下記の範囲内にすることにより、達成することができる。
【0015】
本発明において、上記吸湿ポリマーと撥水ポリマーを用いる芯鞘型複合繊維は、以下に示すような従来公知の方法で製造することができる。
すなわち、吸湿ポリマーと撥水ポリマーをそれぞれ別々に溶融し、紡糸パックに導き口金装置内で芯鞘型の複合流を形成し、吐出孔から紡出する。
紡出した複合繊維を500〜3,000m/minで巻き取り、未延伸糸を得る。得られた未延伸糸を通常の延伸機にて延伸する。また、この紡糸−延伸の工程は一旦巻き取ることなく連続して行ってもよい。
得られる本発明の芯鞘型複合繊維の総繊度、フィラメント数は、通常、1〜15dtex、好ましくは1〜5dtex、5〜150フィラメント、好ましくは10〜50フィラメントである。
【0016】
なお、芯成分が複合繊維断面の全断面積に占める割合は、芯成分と鞘成分の各ポリマーの供給量比によって決定される。
ここで、芯成分と鞘成分の面積比は、芯成分/鞘成分で、通常、40/60〜80/20、好ましくは50/50〜70/30である。芯成分が40重量%未満では吸湿性が低下する傾向にある。一方、80%を超えると、鞘成分の面積比が相対的に小さくなり、撥水性に劣り、また鞘割れが発生しやすくなるので好ましくない。
【0017】
また、本発明の芯鞘型複合繊維の芯部分および鞘部分の形状は、必ずしも丸断面である必要はなく、本発明の目的を損なわない範囲で三角、扁平、多葉型などの異型断面であってもよい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、実施例における各種の測定項目は次のようにして求めた。
【0019】
(A) 吸湿率
試料を35℃、95%RHの条件で恒温恒湿室中に24時間調湿し、絶乾試料の重量と調湿試料の重量から次式により吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=(調湿後の重量−絶乾時の重量)×100/絶乾時の重量
(B)初期吸湿率
試料を25℃、65%RHの条件で恒温恒湿室中に24時間調湿した時の吸湿率を測定した後、35℃、95%RHの恒温恒湿室中に放置し、10分後の吸湿率を測定し、吸湿率の変化から求めた。
初期吸湿率(%)=(35℃、95%RH下、10分後の吸湿率)−(25℃、65%RH下の調湿後の吸湿率)
【0020】
(C) 接触角
鞘成分として用いたポリマーによりフィルムを作成し、このフィルム上に1μLの蒸留水を滴下したときのフィルムと水滴とのなす角をERMA社製のゴニオメーターにより測定した。
(D) 撥水性
JIS L−1092スプレー試験法による点数表示である。
(50点:表面全体が湿潤したもの、70点:表面の半分が湿潤したもの、80点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤があるもの、90点:表面に湿潤しないが、小さな水滴が付着しているもの、100点:表面に湿潤や水滴が付着していないもの)
【0021】
(E) 鞘割れ
沸水処理後の繊維断面を顕微鏡で観察し、全く鞘割れの無いものを○、24フィラメント中2〜3フィラメントで鞘割れが見られたものを△、24フィラメント中4フィラメント以上で鞘割れが見られたものを×とした。
【0022】
実施例1
芯成分ポリマーとして平均分子量20,000のポリエチレングリコールを5重量%ブレンドしたナイロン−6を用い、鞘成分ポリマーとしてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体を20重量%ブレンドしたポリエチレンテレフタレートを用いて、それぞれを260℃、285℃で溶融し芯鞘型複合繊維用口金(0.3mmφ×0.6mmL−24ホール)により、芯成分の面積比率が70%となるように設定し、トータル吐出量36g/minで押し出し、1,500m/minで巻き取った。巻き取った未延伸糸を延伸・熱処理することにより、80dtex/24フィラメントの芯鞘型複合繊維を得た。結果を表1に示す。
【0023】
実施例2
実施例1において、鞘成分ポリマーとしてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体を50重量%ブレンドしたポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0024】
実施例3
実施例1において、芯成分ポリマーとして平均分子量20,000のポリエチレングリコールを10重量%ブレンドしたナイロン−6を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0025】
実施例4
実施例1において、芯成分ポリマーとして平均分子量20,000のポリエチレングリコールを10重量%ブレンドしたナイロン−6を用い、鞘成分ポリマーとしてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体を50重量%ブレンドしたポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0026】
実施例5
実施例1において芯成分の比率を50重量%としたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0027】
比較例1
実施例1において、芯成分ポリマーとして平均分子量20,000のポリエチレングリコールを15重量%ブレンドしたナイロン−6を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0028】
比較例2
実施例1において芯成分ポリマーとして平均分子量20,000のポリエチレングリコールを20重量%ブレンドしたナイロン−6を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0029】
比較例3
実施例1において、鞘成分としてポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0030】
比較例4
実施例1において、芯成分の面積比率を30%としたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0031】
比較例5
実施例1において、芯成分ポリマーとしてポリエーテルエステルエラストマーを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0032】
比較例6
実施例1において平均分子量20,000のポリエチレングリコールを10重量%ブレンドしたナイロン−6のみを用いたとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0033】
比較例7
実施例1において、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体を20重量%ブレンドしたポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で芯鞘型複合
繊維を製造した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の芯鞘型複合繊維は、優れた吸湿性および撥水性を有する繊維を提供するものであり、ムレ感、べとつき感のないインナー、裏地、外衣、スポーツ衣料などに最適である。また、本発明の芯鞘型複合繊維は、従来の熱可塑性繊維と同様に、仮撚加工や精錬・染色加工を施すことによって、インナー、裏地、外衣、スポーツ衣料などの広範囲の用途に使用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分として吸湿ポリマーを配し、鞘成分として撥水ポリマーを配する芯鞘型複合繊維であって、35℃、95%RHでの飽和吸湿率が3〜10重量%、25℃、65%RHの雰囲気下から35℃、95%RHの雰囲気下に10分間放置したときの吸湿率の上昇が1重量%以上であり、かつJIS L−1092によるスプレー法での撥水度が80点以上であることを特徴とする吸湿・撥水性芯鞘型複合繊維。
【請求項2】
鞘成分を構成するポリマーがフッ素系樹脂を10〜50重量%含有するポリエステルであって、該ポリマーのフィルムでの接触角が90°以上である請求項1記載の吸湿・撥水性芯鞘型複合繊維。
【請求項3】
繊維表面に吸湿ポリマーが露出していない請求項1または2記載の吸湿・撥水性芯鞘型複合繊維。

【公開番号】特開2007−270401(P2007−270401A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99038(P2006−99038)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】