説明

吸熱、発熱性複合繊維

【構成】 融点又は軟化点が110℃以上の熱可塑性重合体A、例えば、ポリエチレンテレフタレート、融点が15〜50℃、融解熱が10mJ/mg以上の熱可塑性重合体B、例えば、ポリテトラメチレングルタレート及び/又は降温結晶化温度が40℃以下、結晶化熱が10mJ/mg以上の熱可塑性重合体C、例えば、ポリテトラメチレンアジペートからなり、重合体Aが繊維表面を覆っている吸熱、発熱性複合繊維。
【効果】 体温や外気温の変化により吸熱又は発熱する吸熱、発熱性繊維が提供される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、衣料用に適した吸熱、発熱性複合繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエステル、ナイロン、アクリル繊維を初めとする合成繊維は、衣料用として広く使用されているが、近年、特殊な機能を持った衣料用繊維が要望されるようになってきた。その一つとして、吸熱、発熱性繊維がある。
【0003】従来、畜熱保温性繊維として、遠赤外線放射能力を有する物質を含有又は付着させたものが提案され、実用化されている。しかし、この繊維は太陽光線を吸収して初めて保温効果を示すもので、外気温の変化に対応して発熱したり、吸熱したりするものではなかった。また、この繊維は含有又は付着させる物質によっては、黒色となるため、用途が制限されるという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、体温や外気温の変化により吸熱又は発熱する吸熱、発熱性繊維を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、高融点又は高軟化点の熱可塑性重合体を繊維の表面に用い、特定の融点と結晶化特性を有する熱可塑性重合体を繊維の内部に用いた複合繊維とすると、衣料用繊維として必要な特性を保持し、かつ、吸熱及び/又は発熱能を有する繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0006】すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。融点又は軟化点が110℃以上の熱可塑性重合体Aと、融点が15〜50℃、融解熱が10mJ/mg以上の熱可塑性重合体B及び/又は降温結晶化温度が40℃以下、結晶化熱が10mJ/mg以上の熱可塑性重合体Cとからなり、重合体Aが繊維表面を覆っていることを特徴とする吸熱、発熱性複合繊維。
【0007】本発明において、融点及び結晶化特性は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−2型を用い、次の条件で測定する。すなわち、窒素気流中において、−30℃から昇温速度10℃/分で、280℃まで昇温し、5分間保持した後、降温速度10℃/分で−30℃まで降温して3分間保持し、再び昇温速度10℃/分で280℃まで昇温して測定する。
【0008】再昇温時の融解温度のピークを融点Tm、その時の融解ピーク面積を融解熱ΔHf 、降温時の結晶化温度のピークを降温結晶化温度Tc 、結晶化ピーク面積を結晶化熱ΔHc とする。
【0009】また、軟化点は、柳本製作所製AMP−1型自動軟化点測定装置を用い、30℃から昇温速度10℃/分で昇温して測定する。
【0010】本発明の繊維は、重合体Bが融解するときに吸収する融解熱により吸熱性を、重合体Cが結晶化するときに発する結晶化熱により発熱性を示すものである。そしてこの吸熱能を有する重合体B及び/又は発熱能を有する重合体Cは繊維表面に露出せず、繊維表面は高融点又は高軟化点の重合体Aで覆われているため、衣料用繊維として必要な特性を保持し、かつ、吸熱及び/又は発熱能を示すものである。
【0011】本発明における重合体Bは、融点が15〜50℃のものであることが必要であり、好ましくは20〜45℃、最適には30〜40℃のものがよい。融点があまり低いと室温で融解状態となり、逆にあまり高いと体温や外気温度では融解しないため、本発明の目的を達成することができない。
【0012】また、重合体Bは、融解熱が10mJ/mg以上のものであることが必要であり、好ましくは30mJ/mg以上、最適には50mJ/mg以上のものがよい。融解熱が10mJ/mg未満のものでは、実質上吸熱効果が得られない。
【0013】一方、重合体Cは、降温結晶化温度が40℃以下のものであることが必要であり、好ましくは35℃以下、最適には30℃以下のものがよい。当然のことながら、結晶化は融点より低い温度で起こるのであるが、外気の温度が高い所から低い所へ移動したときに繊維が結晶化により発熱する必要があるため、降温結晶化温度が40℃以下でなければならない。
【0014】さらに、重合体Cは、結晶化熱が10mJ/mg以上のものであることが必要であり、好ましくは30mJ/mg以上、最適には50mJ/mg以上のものがよい。結晶化熱が10mJ/mg未満のものでは、実質上発熱効果が得られない。
【0015】ただし、重合体B及び重合体Cを併用し、吸熱及び発熱能を発揮させるためには、重合体Bの融解熱と重合体Cの結晶化熱あるいは重合体Bの結晶化熱と重合体Cの融解熱が相互に打ち消しあわない熱量域であることが必要である。
【0016】重合体Bとしては、直鎖脂肪族ジカルボン酸成分と直鎖脂肪族ジオール成分とから得られるものがあり、具体的には、ポリエチレンアジペート、ポリペンタメチレンアジペート、ポリテトラメチレングルタレート、ポリトリメチレンスベラート、ポリエチレンピメラート等が挙げられる。
【0017】重合体Cとしては、直鎖脂肪族ジカルボン酸成分と直鎖脂肪族ジオール成分とから得られるものがあり、具体的には、ポリテトラメチレンアジペート、ポリペンタメチレンセバケート、ポリノナメチレングルタレート、ポリペンタメチレンドデカンジカルボキシレート、ポリペンタメチレンピメラート等が挙げられる。
【0018】また、重合体B及び重合体Cにおけるジカルボン酸成分及びジオール成分は各々2種以上併用してもよく、本発明の吸熱、発熱効果を損なわない範囲でテレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、コハク酸、トリメリット酸、ヒドロキシ安息香酸、デカン−1,10−ジカルボン酸、オクタデカン−1,18−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を共重合成分として併用したり、艶消剤、安定剤、着色剤等の添加剤を添加してもよい。
【0019】このような直鎖脂肪族ポリエステルは、常法により製造することができる。すなわち、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化又はエステル交換反応させた後、重縮合反応を行うことによって製造することができる。
【0020】重合体Cの降温時の結晶化温度は、結晶核剤を含有させることによりコントロールすることもできる。
【0021】結晶核剤としては、タルク、シリカ、ガラスチョップドストランド、二酸化チタン、珪酸カルシウム、三酸化アンチモンのような無機化合物の微粒子、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウムのような有機酸塩の微粒子、ジナトリウムスルホビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、弗素樹脂、有機シリコーン、ポリアクリル酸架橋体、ポリスチレン架橋体、ポリアリレートのような有機化合物の微粒子等を用いることができ、2種以上併用してもよい。
【0022】結晶核剤を含有させる場合、0.01〜3.0重量%含有させるのが適当である。この含有量があまり少なければ結晶化促進剤としての効果が乏しく、逆にあまり多いと紡糸あるいは延伸時に繊維の切断等が起こりやすく、また、紡糸口金パックフィルターの寿命が短くなる等の問題が起こり、安定して繊維を製造することができない。
【0023】結晶核剤はエステル化又はエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。
【0024】次に、重合体Aは、融点又は軟化点が110℃以上のものであることが必要であり、好ましくは170℃以上、最適には210℃以上のもがよい。融点又は軟化点が110℃未満のものでは、繊維が熱湯に耐えられなかったり、アイロンがかけられないといった問題があり、実用上不適当である。
【0025】重合体Aとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられるが、最も好ましいものは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びこれらを主体とするポリエステルである。
【0026】本発明の複合繊維は、重合体A、重合体B及び/又は重合体Cを、重合体Aが繊維表面を覆うように常法によって複合紡糸することにより製造することができる。紡糸に際しては、用いる重合体の融点や溶融粘度を考慮して、最適な条件を採用することが必要であるが、通常、紡糸温度180〜300℃、好ましくは200〜280℃で紡糸される。
【0027】複合の形態としては、重合体Aが海、重合体B及び/又は重合体Cが島となった海島型、重合体Aの中に重合体B及び/又は重合体Cが層状に配列された多層型等が挙げられるが、海島型が最も好ましい。繊維の断面形状は、円形に限られるものではなく、三角形、四角形等の異形断面でもよい。
【0028】また、重合体Aと重合体B及び/又は重合体Cとの複合比は、重量比で1:4〜4:1が適当である。重合体Aの割合があまり少ないと重合体B及び/又は重合体Cが繊維表面に露出したり、繊維の強度が低くなったりして好ましくなく、逆に重合体B及び/又は重合体Cの割合があまり少ないと吸熱、発熱能が劣ったものとなる。
【0029】重合体Bと重合体Cとを併用する場合、両者の割合は、重量比で1:2〜2:1が適当であり、吸熱を重視する場合は、重合体Bを多くし、発熱を重視する場合は、重合体Cを多くする。
【0030】なお、本発明の繊維には、必要に応じて、吸湿剤、湿潤剤、着色剤、安定剤、難燃剤、制電剤等を含有させることができる。
【0031】
【実施例】次に、実施例により本発明を具体例に説明する。なお、例中の測定及び評価法は、次のとおりである。
(a) 極限粘度フェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒として、温度20℃で測定。
(b) 吸熱、発熱能試料繊維の平織物とポリエチレンテレフタレート繊維の平織物とを金属板に貼り、常温から昇温し、40℃に保持したものと、60℃で30分間保持した後、5℃に降温したものについて、織物の表面温度を赤外線映像装置(日本電子社製サーモビュアJTG−IB/IBT型)で観察し、両織物の表面温度差を求めて評価した。
【0032】実施例1グルタル酸とその1.6倍モルの1,4−ブタンンジオールとを常法によってエステル化反応させ、エステル化反応生成物にグルタル酸1モルに対して3×10-4モルのテトラブチルチタネートを触媒として加え、270℃、1トルで3時間重縮合反応を行い、ポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル(B)は、極限粘度0.60、Tm 32℃、Tc10℃、△Hf50mJ/mg、△Hc 48mJ/mgであった。また、アジピン酸とその1.6倍モルの1,4−ブタンンジオールとを常法によってエステル化反応させ、エステル化反応生成物にアジピン酸1モルに対して3×10-4モルのテトラブチルチタネートを触媒として加え、270℃、1トルで3時間重縮合反応を行い、ポリエステル(C)を得た。得られたポリエステル(C)は、極限粘度0.61、Tm 58℃、Tc 27℃、△Hf58mJ/mg、△Hc 60mJ/mgであった。これらのポリエステルを島成分、極限粘度が0.68のポリエチレンテレフタレート(A)を海成分とし、通常の海島型複合繊維用溶融紡糸装置を使用して紡糸し、延伸し、(A):(B):(C)の重量比が1:1:1で、75d/36fのフイラメント糸を得た。得られたフイラメント糸を用いて平織物を製織し、吸熱、発熱能を評価した。
【0033】実施例2〜14島成分のポリエステル(重合体B及び重合体C)として、表1に示した組成及び特性値を有するものを、表1に示した複合比で用い、実施例1と同様な試験を行った。(ただし、実施例14では、三角断面繊維とした。)
【0034】実施例の結果をまとめて表1に示す。
【0035】
【表1】


【0036】比較例1〜7島成分のポリエステル(重合体B及び重合体C)として、表1に示した組成及び特性値を有するものを、表1に示した複合比で用い、実施例1と同様な試験を行った。
【0037】比較例の結果をまとめて表2に示す。
【0038】
【表2】


【0039】なお、表1及び表2において、酸成分及びジオール成分の記号は、次のものを示す。
GA:グルタル酸 PA:ピメリン酸 EG:エチレングリコール AA:アジピン酸 TA:テレフタル酸 PD:1,3−プロパンジオール SUA:スベリン酸 IA:イソフタル酸 BD:1,4−ブタンジオール SEA:セバシン酸 PTD:1,5−ペンタンジオール DDA:ドデカン二酸 HD:1,6−ヘキサンジオール ND:1,9−ノナンジオール
【0040】
【発明の効果】本発明によれば、衣料用繊維として適した、体温や外気温の変化により吸熱又は発熱する吸発熱性繊維が提供される。そして、重合体の組み合わせを変えることにより、吸熱及び/又は発熱性繊維を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 融点又は軟化点が110℃以上の熱可塑性重合体Aと、融点が15〜50℃、融解熱が10mJ/mg以上の熱可塑性重合体B及び/又は降温結晶化温度が40℃以下、結晶化熱が10mJ/mg以上の熱可塑性重合体Cとからなり、重合体Aが繊維表面を覆っていることを特徴とする吸熱、発熱性複合繊維。
【請求項2】 重合体Aがポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート又はこれらを主体とするポリエステルであり、重合体Bが融点30〜40℃、融解熱50mJ/mg以上の直鎖脂肪族ポリエステル、重合体Cが降温結晶化温度30℃以下、結晶化熱50mJ/mg以上の直鎖脂肪族ポリエステルである請求項1記載の吸熱、発熱性複合繊維。