説明

吸熱性材料

【課題】本発明は、耐水性、耐火性に優れた吸熱性材料を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明の吸熱性材料は、含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物であって、脱水または分解温度以上の雰囲気における水分蒸発率が減少するように改質された前記金属水和物が、基体内部に分散していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な吸熱性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構築物等の構造物が火災によって高温に晒された場合には、これら構造物の基材(鉄骨、鋼材等)の物理的強度が急激に低下するという問題がある。これに対し、無機結合材と金属硫酸塩を混合し硬化させた耐火被覆材、または金属硫酸塩を水に溶解させスラリー化した耐火被覆材を基材に塗付し金属塩の再結晶により硬化させた耐火被覆材等が知られている。このような耐火被覆材は、基材の耐火性を向上させ火災時に有効な断熱層を形成し、結晶水の蒸発潜熱を利用し、火災時における鋼材等の温度上昇を遅延させ、物理的強度の低下を抑制するものである。
具体的に特許文献1には、無機繊維と無機結合材とを主成分とし、硫酸アルミニウム水和物、水を混合した耐火被覆材組成物が記載されている。また、特許文献2には硫酸アルミニウム水和物、アクリル繊維、増粘材、粉末樹脂、水を混合した組成物等が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−09662号公報
【特許文献2】特開2006−143875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような耐火被覆材は、表面の破損、剥離、及び剥落下などを防止する耐久性、被膜の養生時間短縮等の問題に応える必要がある。
しかしながら、前記のような従来の耐火被覆材では、乾燥工程で内部まで均一な強度を持つ被覆材が得られず、また被覆材表面に露出した金属硫酸塩が水に容易に溶解するため耐久性、耐水性に劣っていた。また、金属硫酸塩を水に溶解し結合材として使用する場合、強酸性を示すため塗装、養生中に基材が腐食される恐れがあった。
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、耐久性、耐水性に優れるとともに、火災時には十分な強度を有し、脱水に伴う吸熱作用を利用して基材自体の温度上昇を効果的に抑制できる吸熱性材料を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の構成からなる吸熱性材料が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の吸熱性材料に係る。
【0006】
1.含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物であって、脱水または分解温度以上の雰囲気における水分蒸発率が減少するように改質された前記金属水和物が、基体内部に分散していることを特徴とする吸熱性材料。
2.前記基体が、可とう性を有する成型体及び/またはシートであることを特徴とする請求項1記載の吸熱性材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸熱性材料は、含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物であって、脱水または分解温度以上の雰囲気における水分蒸発率が減少するように改質された前記金属水和物が、基体内部に分散しているものであり、耐久性、耐水性、耐火性に優れたものである。本発明では、例えば、鉄骨構造体等の基材が火災時等に燃焼熱にさらされると、組成物中の金属水和物の結晶水が脱水、蒸発し、その蒸発潜熱により、基材の温度上昇が抑制され、優れた耐火性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をその実施の形態に基づき詳細に説明する。
本発明の吸熱性材料は、含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物であって、脱水または分解温度以上の雰囲気における水分蒸発率が減少するように改質された前記金属水和物が、基体内部に分散しているものであり、耐久性、耐水性、耐火性に優れたものである。本発明では、このように粉体改質された金属水和物を使用することにより耐火性能等に優れる吸熱性材料を得ることが可能となる。
【0009】
本発明における、金属水和物は含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物であり一般式MX・nHO 等で表される無機化合物の水和物である。このような化合物MX・nHOは、Mが少なくとも1種以上の金属陽イオンを含む陽イオン、Xが1種または2種以上の陰イオンからなる化合物である。これらの金属水和物の含水量は、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは30〜50重量%である。その含水量は、示差熱分析(TG-DTA)によって求めることができる。含水量が6重量%未満の場合、火災時等に必要な吸熱性を発揮することができない。また、含水量が70重量%を超える場合、耐久性、耐水性が低下するおそれがある。また、本発明における金属水和物としては、該金属水和物の脱水または分解温度が、50〜200℃、さらには80〜150℃である水和物が好ましい。脱水または分解温度が50℃未満の場合、常温において脱水する恐れがあり、200℃を超える場合、火災初期の吸熱性が発揮できない。なお、脱水または分解温度は、「化学便覧 基礎編 改訂5版」(日本化学会編)等の記載によるものである。
本発明では、金属水和物の含水量が30〜50重量%範囲であり、脱水または分解温度が80〜150℃である場合、火災時、金属水和物の吸熱作用により100℃付近における基材温度の上昇を効果的に抑制することができる。
【0010】
このような金属水和物としては、例えば、硫酸アンモニウムアルミニウム12水和物、硫酸ナトリウムアルミニウム12水和物、硫酸アルミニウム27水和物、硫酸アルミニウム18水和物、硫酸アルミニウム16水和物、硫酸アルミニウム10水和物、硫酸アルミニウム6水和物、硫酸カリウムアルミニウム12水和物、硫酸鉄7水和物、硫酸鉄9水和物、硫酸カリウム鉄12水和物、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸ナトリウム10水和物、硫酸ニッケル6水和物、硫酸亜鉛7水和物、硫酸ベリリウム4水和物、硫酸ジルコニウム4水和物等の硫酸塩、亜硫酸亜鉛2水和物、亜硫酸ナトリウム7水和物等の亜硫酸塩、リン酸アルミニウム2水和物、リン酸コバルト8水和物、リン酸マグネシウム8水和物、リン酸マグネシウムアンモニウム6水和物、リン酸水素マグネシウム3水和物、リン酸水素マグネシウム7水和物、リン酸亜鉛4水和物、リン酸二水素亜鉛2水和物等のリン酸塩、硝酸アルミニウム9水和物、硝酸亜鉛6水和物、硝酸カルシウム4水和物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ビスマス5水和物、硝酸ジルコニウム5水和物、硝酸セリウム6水和物、硝酸鉄6水和物、硝酸鉄9水和物、硝酸ニッケル6水和物、硝酸マグネシウム6水和物等の硝酸塩、酢酸亜鉛2水和物、酢酸コバルト4水和物等の酢酸塩、塩化コバルト6水和物、塩化鉄4水和物等の塩化物塩等の、金属水和塩等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0011】
上記の金属水和物において、さらには硫酸塩であることが好ましい。中でも、硫酸アルミニウムの水和物がもっとも好ましい。詳細な作用機構は明らかでないが硫酸アルミニウムである場合、脱水または分解反応と同時に硫酸アルミニウムは中空粒子を形成、さらに高温になると、粒子同士が融着し断熱層を形成するため、高温での温度上昇を抑制することができると推察される。
【0012】
本発明では、上記の金属水和物を、その脱水または分解温度(T℃)以上の雰囲気において、改質前の水分蒸発率(R)と改質後の水分蒸発率(R)が、R>Rとなるように上記の金属水和物を改質することにより、耐水性を向上させ、常温下における水分の気散を抑制し、火災時の基材の温度上昇を効果的に抑制することが可能となる。前記脱水または分解温度以上の雰囲気とは、使用する上記の金属水和物それぞれの脱水または分解温度(T℃)より10〜50℃(α℃)高い温度雰囲気のことである。なお、本発明における水分蒸発率(R、R)は、改質前後の金属水和物をそれぞれ特定の雰囲気((T+α)℃)下に一定時間(X:10〜60分)保持した後、重量を測定し、その減少量から水分蒸発量を算出したものである。なお、通常はα=23(℃)、X=30(分)程度とすればよい。
改質前の水分蒸発率(R)、改質後の水分蒸発率(R)は下記式により算出される。
水分蒸発率(R)(%)={(A−A)/A}×100
:金属水和物の初期重量(改質材なし)(g)
:(T+α)℃、X分保持後の重量(改質材なし)(g)

水分蒸発率(R)(%)={(B−B)/B}×100
:初期重量(改質材を含む)(g)
:(T+α)℃、X分保持後の重量(改質材を含む)(g)
B :金属水和物の初期重量(改質材を除く)(g)
【0013】
改質には、上記条件を満足するような改質材を用いればよい。このような改質材としては、特に限定されず、有機樹脂及び/または無機質結合材が使用できる。また、これらの改質は、基体への分散前ないし分散後に、公知の方法によって行えば良い。具体的な方法は、改質材にもよるが、例えば、界面重合法、In situ重合法、液中硬化法、相分離法、液中乾燥法、融解分散冷却法、スプレードライング法、粉床法、沈着法、浸漬法、充填法等により改質することができる。通常、改質は基体への分散前に行うことが好ましい。
【0014】
具体的に、有機樹脂としては、熱硬化性樹脂及び/または熱可塑性樹脂が使用でき、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、改質時に液状であればよく、常温で液状のものが好ましい。本発明では、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂が好適に用いられ、特にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂が好適である。また、これらの樹脂の付加物や改質樹脂も使用することができる。
【0015】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリン等の縮合反応により得られるエピ−ビス型のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂が一般的に用いられる。また、その他にフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。その他、特殊なものとして、β−メチルエピクロ型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、ポリグリコールエーテル型、グリコールエーテル型、ウレタン変性エポキシ樹脂等の各エポキシ樹脂も使用できる。また、稀釈剤としてn−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド、ジグリシジルエーテル等のものを適宜使用することができる。エポキシ樹脂の分子量としては、このましくは100〜2000、さらに好ましくは200〜1000である。
【0016】
上記エポキシ樹脂は、硬化剤と組み合わせて使用することができる。このような硬化剤としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン(ジプロピレントリアミン)、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、アミノエチルエタノールアミン等の脂肪族アミン類、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、N−アミノエチルピペラジン、メタキシリレンジアミン等の脂環族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼン等の芳香族アミン、ポリアミンエポキシ樹脂アダクト、ポリアミン−エチレンオキシドアダクト、ポリアミン−プロピレンオキシドアダクト、シアノエチル化ポリアミン、ケチミン、芳香族酸無水物、環状脂肪族酸無水物、脂肪族酸無水物、ハロゲン化酸無水物、ダイマー酸とポリアミンの縮合によって生成するポリアミド樹脂が挙げられる。
【0017】
ウレタン樹脂としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等のポリオール類と、イソシアネート類とを組み合わせたものが挙げられる。
【0018】
ポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、グルコース、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコールの1種又は2種以上にプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等の1種又は2種以上を付加して得られるポリオール類、および、前記多価アルコールにテトラヒドロフランを開環重合により付加して得られるポリオキシテトラメチレンポリオールが挙げられる。
【0019】
ポリエステルポリオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパンあるいはその他の低分子ポリオールの1種又は2種以上とグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸あるいはその他の低分子ジカルボン酸やオリゴマー酸の1種又は2種以上との縮合重合体及びプロピオラクトン、カプロラクトン、バレロラクトン等の環状エステル類の開環重合体等のポリオール類が挙げられる。また、複数のエポキシ基を含有するエポキシ化合物によって、ポリオールを変性したエポキシ変性ポリオールも使用できる。
【0020】
上記ウレタン樹脂のうち、ポリオール類としては、ポリエステルポリオールが好ましく、活性水素原子を有する官能基が2つ以上のポリエステルポリオール類が好ましい。さらには、活性水素原子を有する官能基が3つ以上のポリエステルポリオール類が好ましい。例えば、活性水素原子を有する官能基としては水酸基が挙げられる。このようなポリエステルポリオールの分子量としては、好ましくは500〜10000、さらに好ましくは1000〜5000である。
【0021】
上記ポリオールは、硬化剤と組み合わせて使用することができる。このような硬化剤としては、イソシアネート類が挙げられ、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、1,3-キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、及び1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)等、これらポリイソシアネートを水や低級1価ないし多価アルコールで変性したもの、これらポリイソシアネートと各種ポリオールとを反応させた末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー、これら末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水や低級1価ないし多価アルコールで変性したもの、並びに、これら末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーと各種ポリイソシアネートの一種又は二種以上の混合物が使用可能である。
【0022】
また、ウレタン樹脂では、硬化触媒を併用することができる。硬化触媒とはイソシアネート基が反応して硬化するのを促進させる作用を有する物質である。硬化触媒としては、アミン系触媒、有機金属系触媒、及び無機系触媒等各種が挙げられる。例えば、アミン系触媒としては、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、及び、ヘキサメチレンジアミンもしくはこれらの誘導体または溶剤との混合物等が挙げられる。有機金属系触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、及び酢酸カリウム等が挙げられる。無機系触媒としては、塩化スズ等が挙げられる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。
【0024】
さらに具体的には、ビニルトルエン−ブタジエン共重合体、ビニルトルエン−アクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、あるいはこれらの共重合体を構成する2種のモノマーとアクリル酸モノマー、メタクリル酸モノマー等との三元共重合体等の樹脂が挙げられる。この場合において、アクリル酸エステル成分又はメタクリル酸エステル成分を含む共重合体中のアクリル酸モノマー又はメタクリル酸モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。これらの有機樹脂は、単独で又は2種以上で使用することができる。
【0025】
無機質結合材としては、セメント、水ガラス、アルコキシシラン、カップリング剤等が挙げられる。
【0026】
セメントとしては、水硬性石灰、ポルトランドセメント、アルミナセメント、石灰混合セメント、混合ポルトランドセメント、高硫酸塩スクラブセメント等の水硬性セメントや石膏、ドロマイト、マグネシアセメント等の気硬性セメントが挙げられる。
【0027】
前記アルコキシシランとしては、一般式;Si(OR)4又はSiX(OR)3、SiR(OR)3で表され、式中のRはアルキル基を示し、Xはビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的な化合物として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等、あるいはこれらの縮合物等が挙げられる。この他、上記シリケート化合物以外のアルコキシシラン化合物であってもよい。
【0028】
前記カップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートや、テトラオクチルビス(ジドデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタン系カップリング剤
、アルミニウム系カップリング剤 、ジルコニウム系カップリング剤等が挙げられる。
【0029】
本発明では、上記の金属水和物を、さらに基体に分散させて成型及び/またはシート化することにより、耐水性を向上させ、常温下における水分の気散を抑制し、火災時等の基材の温度上昇をより効果的に抑制することが可能となる。このような基体としては、特に限定されないが、可とう性を有する成型体であることが好ましい。例えば、有機及び/または無機バインダー等の樹脂成型体、フェルト材等の繊維質シート等、これらの積層体等が挙げられる。
【0030】
このような基体中への分散方法は、特に限定されないが、基体中にある程度均一に分散できることが好ましい。基体にもよるが、例えば、有機及び/または無機バインダー等の樹脂成型体としては、前記の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、無機質結合材等のバインダーが使用でき、バインダーと改質後の金属水和物の混合物を型枠内に流し込み、乾燥後に脱型する方法、加温塗工機によって離型紙に塗付した後に巻き取る方法、ニーダーによって混練後に押し出し成型機でシート状に加工する方法、ニーダーによって混練後に対ロールの間に供給してシート状に圧延加工する方法、ペレット状にした後に押し出し成型機によってシート状に加工する方法、バンバリーミキサー、ミキシングロール等で混練後に複数の熱ロールからなるカレンダによって圧延してシート状に加工する方法等が適宜採用できる。フェルト材等の繊維質シートとしては、直接上記の金属水和物をまぶす方法、上記の金属水和物を分散または溶解させた溶液を作製し塗装する方法、またはシートを溶液に浸漬させる方法等が適宜採用できる。
【0031】
本発明では、上記の金属水和物を基体に分散させるとき、ないし分散させた後に、110℃における水分蒸発率が減少するように金属水和物を改質することもできる。改質には、前述の改質材を用いればよい。改質は、公知の方法によれば良く、基体及び改質材にもよるが、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等による塗装法、沈着法、浸漬法、充填法等などが挙げられる。
【0032】
本発明の成型体及び/またはシート中には、上記の改質された金属水和物以外にも、必要に応じて、例えば、可塑剤、繊維材料、着色用顔料、骨材、難燃剤、充填材、分散剤等を適宜配合、分散することができる。以上のような各成分は、それぞれ1種または2種以上で使用することができる。
【0033】
可塑剤としては、具体的には、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジオクチル、コハク酸ジイソデシル、セバシン酸ジブチル、オレイン酸ブチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、ペンタエリスリトールエステル等のアルコールエステル類、リン酸トリオクチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類、パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上で使用することができる。有機樹脂成分に可塑剤を含むことにより、上記のようにバインダーと改質後の金属水和物を混合する際、バインダーの粘度を最適化することができるため、金属水和物と混練が容易となり、金属水和物を均一に分散させることができる。
【0034】
繊維材料としては、ロックウール、ガラス繊維、アルミニウム繊維、ステンレス繊維、シリカ−アルミナ繊維、カーボン繊維等の無機繊維、あるいはパルプ繊維、ポリプロピレン繊維、ビニル繊維、アラミド繊維等の有機繊維が挙げられる。このような繊維材料を配合することにより、成型体を補強するとともに、柔軟性を向上することができる。
着色顔料としては、一般の塗料顔料(有機顔料・無機顔料)が使用できる。本発明では、特に、二酸化チタン、炭化ケイ素、アルミナ、ベンガラ、黄色酸化鉄、チタンイエロー、クロムグリーン、群青、コバルトブルー等の無機顔料が好ましい。さらに、耐火性能をより高めるために膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等を配合しても良い。
【0035】
難燃剤は、一般に、火災時に脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、バインダー炭化促進効果等の少なくとも1つの効果を発揮し、バインダーの燃焼を防止ないし抑制するものである。本発明において、難燃剤としては、公知の耐火塗料及び/またはシートにおける難燃剤と同様のものが使用できる。
また、分散剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、高分子タイプのものを適宜使用できる。
【0036】
充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、粘土、クレー、シラス、珪砂、珪石粉、石英粉、アルミナ、ホウ酸亜鉛、硫酸バリウム、マイカガラス粉末、等が挙げられる。
骨材としては、天然または人工を問わず使用でき、着色されたものを使用することもできる。また、骨材として、例えばパーライト、膨張頁岩、膨張バーミキュライト、軽石、シラスバルーン、ガラスバルーン、中空樹脂ビーズ、ALC粉砕物、アルミノシリケート発泡体等の軽量骨材を使用した場合、成型体の柔軟性を向上させることができる。
【0037】
本発明では、成型体及び/またはシートに、必要に応じ、例えば、織布、不織布、ガラス不織布、セラミックペーパー、合成紙、ガラスクロス、メッシュ等の補強層、アルミニウム箔、アルミニウム箔・合成樹脂積層シート、アルミニウム箔・クラフト紙積層シート、アルミニウム箔・ガラス織布積層シート、アルミニウム箔・メッシュ積層シート、アルミニウム板、カラー鋼板、ステンレス鋼板等の熱反射層を積層することができる。積層形態としては、吸熱作用による温度上昇抑制効果を目的とする、建物物の梁、柱、壁、天井、床、等の基材と接する面を、「成型体及び/またはシート裏面」(以下、単に「裏面」ともいう。)、その反対側を「成型体及び/またはシート表面」(以下、単に「表面」ともいう。)とすると、
1.裏面に補強層を積層する
2.裏面及び、成型体の内部に補強層を複数積層する
3.表面に熱反射層を積層する
4.上記1.または2.と上記3.を適宜組み合わせ積層する
等が挙げられる。本発明では特に、上記4.の積層形態が好ましく、裏面に、ガラス不織布、ガラスメッシュ等の補強層を積層することにより、有機樹脂等の接着剤を介して建築物鋼材等の基材に該成型体及び/またはシートを貼り付けた際、基材との密着性が向上し、成型体及び/またはシートがズレ落ちるのを防止することができ、火災時の耐火性が向上する。さらに、表面にアルミニウム箔、アルミニウム箔・ガラス織布積層シート、アルミニウム箔・メッシュ積層シート、アルミニウム箔・合成樹脂積層シート等の熱反射層を積層することにより、火災時、金属水和物の脱水速度を制御することができ、基材温度の上昇を抑制することができる。
上記の積層体を形成する場合、例えば、成型体及び/またはシートを加工する際に同時に積層させたり、加工後に有機樹脂等の接着剤を使用して積層させたりすることができる。
【0038】
本発明では、吸熱性材料表面または熱反射層に必要に応じ上塗層を積層することもできる。このような上塗層は、公知の水性型あるいは溶剤型塗料の塗付、または、化粧部材等によるラミネートによって形成することができる。上塗層は、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の塗料を塗付することによって形成することができる。これらの塗装は、公知の塗装方法によれば良く、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。
【0039】
本発明の吸熱性材料は、建築物の柱や壁、天井等の耐火、断熱、防炎用材料、電線やケーブル等の各種基材への被覆材等として使用することができ、例えば、火災時に燃焼熱にさらされると、組成物中の金属水和物の結晶水が脱水、その蒸発潜熱により、温度上昇が抑制され、優れた耐火性能を発揮することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0041】
(試験例1)
含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)100重量部と、エポキシ樹脂/変性脂肪族アミン混合液20重量部、キシレン30重量部を混合し、攪拌後、乾燥、粉砕(0.5mm
>)(処理回数1回)し改質試料1を得た。
(水分蒸発率の評価)
改質試料1を1.0重量部秤量し、110℃に保持し30分後の重量を測定し、水分蒸発率を算出した。その結果、水分蒸発率は約15.1重量%であった。
(耐水性試験)
改質試料1を120重量部、アクリル樹脂(不揮発分:50%、溶剤:キシレン)80重量部、キシレン100重量部を混合したスラリーを型に流し込み、硬化後に脱型し、厚さ4mmの試験体1を作製した。試験体1を室温下において、水に24時間浸漬させ、浸漬前後の外観を目視で評価した。その結果、試験体1はわずかに膨潤したが、形状は維持されていた。
【0042】
(試験例2)
含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)100重量部と、エポキシ樹脂/変性脂肪族アミン混合液40重量部、キシレン15重量部を混合し、攪拌後、乾燥、粉砕(0.5mm
>)(処理回数1回)し改質試料2を得た。
(水分蒸発率の評価)
改質試料2を試験例1と同様に評価した。その結果、水分蒸発率は約13.5重量%であった。
(耐水性試験)
改質試料2を140重量部、アクリル樹脂(不揮発分:50%、溶剤:キシレン)60重量部、キシレン100重量部を混合し、試験体2を作製した。試験例1と同様に耐水性を評価した。その結果、試験体2の形状は維持されていた。
【0043】
(試験例3)
含水量約48重量%の硫酸アルミニウム18水和物(分解温度:86.5℃)を試料3とした。
(水分蒸発率の評価)
試料3を試験例1と同様に評価した。その結果、水分蒸発率は約17.2重量%であった。
(耐水性試験)
試料3を100重量部、アクリル樹脂(不揮発分:50%、溶剤:キシレン)100重量部、キシレン100重量部を混合し、試験体3を作製した。試験例1と同様に耐水性を評価した。その結果、試験体3は著しく膨潤した。
【0044】
試験例1〜3において耐水性試験に用いた試験体の耐火性能を評価した。
(耐火性能評価)
試験体1〜3をそれぞれ鋼板(150mm×150mm×6mm)に有機系接着剤で貼り付け、耐火炉で60分の加熱試験を行い、試験後の鋼材裏面温度を測定した。その結果、耐火性能は、試験体2>試験体1>試験体3となり、改質された硫酸アルミニウム18水和物を含む試験体で良い結果を示した。
【0045】
次いで、吸熱性を有する成型体の積層体を評価した。
(試験例4)
試験体2の裏面にガラスメッシュ(太さ0.18mm、網目の間隔10mm×10mm)、その反対側試験体1表面にアルミニウム箔・メッシュ積層シートを有機系接着剤で積層させ、試験体4を作製した。試験例1と同様の耐火性能評価を実施した。
その結果、耐火性能は、試験体4>試験体2となり、良好な結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水量が6重量%以上、脱水または分解温度が50〜200℃の範囲である金属水和物であって、脱水または分解温度以上の雰囲気における水分蒸発率が減少するように改質された前記金属水和物が、基体内部に分散していることを特徴とする吸熱性材料。
【請求項2】
前記基体が、可とう性を有する成型体及び/またはシートであることを特徴とする請求項1記載の吸熱性材料。