説明

吸着剤の再生システム

【課題】使用済み吸着剤の再生に使用するシステムを提供する。
【解決手段】このシステムは、内部に使用済み吸着剤108が充填された少なくとも1つの吸着装置106と、この吸着装置に連通して連結されたフラッシュ装置118および溶剤組成物貯蔵タンク110からなる溶媒回収装置を有する。この溶媒回収装置は、少なくとも1つの極性化合物と少なくとも1つの非極性化合物からなる溶媒組成物が吸着装置内を通過した後に、溶媒組成物を収容するよう構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して吸着剤の再生に関し、より詳細には、使用済み吸着剤から油と汚染物質を除去する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一部の周知の産業施設には、燃料流を吸気流で燃焼させることによって作動する構成要素がある。そのような燃料を得るために、少なくとも一部の周知の産業施設では、原油等の炭化水素油を利用する。しかしながら、周知のように、重油等の炭化水素油は、硫黄、バナジウムおよび/またはニッケル化合物等の少なくとも少量の汚染有害物質を含有している。そのような汚染物質もその他の汚染物質によって、原油や重油の燃料としての直接利用が制限されている。そのため、少なくとも一部の周知の産業施設は、原油や重油を燃料として利用する前に、精製工程によって原油や重油から汚染物質を除去する。
【0003】
少なくとも一部の周知の油精製工程では、重油に、硫黄、バナジウムおよびニッケル化合物に対して強い親和性を有する吸着剤が充填された吸着塔内を通過させる。油が吸着剤に接触すると、汚染物質と少なくとも一部の油が塔内の吸着剤に吸着されるため、燃料供給流として有用な精製油が生成される。しかしながら、吸着剤が油、金属化合物およびその他の不純物で飽和すると、吸着剤を新しい吸着剤と交換するか、あるいは吸着塔に再充填する前に取り出して洗浄しなければならない。一部の周知の吸着剤再生方法は、有機物質を除去するために高温の熱再生を利用する。しかしながら、そのような再生方法に必要とされるエネルギー量と休止時間により、産業施設の運転および維持費が増加するとともに、システムの全体効率が低下することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用済み吸着剤の再生に使用する、費用効率および操作効率の高いシステムを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様において、吸着剤の再生方法を提供する。該方法は、使用済み吸着剤を準備するステップと、該使用済み吸着剤からの油と不純物の除去を促進するために、該吸着剤を溶媒組成物に接触させるステップとを含む。
【0006】
本発明の別の態様において提供される吸着剤の再生方法は、吸着剤を吸着装置に挿入するステップと、油および油/石油エーテル溶液の少なくとも1つに該吸着装置内を通過させるステップとを含む。該方法は、該吸着装置に残っている油の少なくとも一部の回収を促進するために、第1溶媒に該吸着装置内を通過させるステップをさらに含む。さらに、該方法は、第2溶媒に該吸着装置内を通過させるステップと、該吸着装置に残っている該第2溶媒の少なくとも一部の除去を促進するために、該第1溶媒に該吸着装置内を通過させるステップとを含む。
【0007】
本発明のさらなる態様において、使用済み吸着剤の再生システムを提供する。該システムは、内部に使用済み吸着剤が充填された少なくとも1つの吸着装置を含む。該システムは、該吸着装置に連通して連結された溶媒回収装置をさらに含む。該溶媒回収装置は、溶媒組成物が該吸着装置を通過した後に、該溶媒組成物を収容するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明にかかる例示的な再生システムの概略図である。
【図2】実施例1において例示したような酢酸エチル/シクロヘキサン溶媒組成物による洗浄後にBritesorb(登録商標)固体から除去された吸着油の量を示す例示的なグラフである。
【図3】実施例1において例示したようなエタノール/シクロヘキサン溶媒組成物による洗浄後にBritesorb(登録商標)固体から除去された吸着油の量を示す例示的なグラフである。
【図4】実施例4において例示したような複数の再生ステップの概算破過時間を示す例示的なグラフである。
【図5】図4で分析したサイクルに対するTGA分析を示す例示的なグラフである。
【図6】実施例5で説明した実験を行なうために使用することのできる装置の例示的概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明にかかる例示的な再生システム100の概略図である。例示的実施形態において、再生システム100は少なくとも1つの吸着塔102を含む。吸着塔102は供給端104および出口端106を有しており、内部に吸着剤108が充填されている。例示的実施形態では、任意のジャケット107が吸着塔102を囲んでいる。代替実施形態では、システム100は、固定吸着層、バッチ攪拌槽または連続攪拌槽型反応器を含むがこれらに限定されない任意の吸着層を含み得る。
【0010】
吸着剤108は、バナジウム、ニッケルおよび硫黄化合物に対する必要な吸着能を有するあらゆる種類の材料であってよい。例えば、一実施形態では、吸着剤108は無機シリカ吸着剤であり、通常は粒子形状である。本明細書で用いられている用語「シリカ」は、シリカゲル、ヒュームドシリカまたは沈降シリカを指すことができ、表面処理またはその他の化学修飾を受けたものを含む。シリカは、ヒドロゲルまたはキセロゲル形態であってよい。適当な吸着剤の例としては、これらに限定されないが、PQ社から入手可能なBritesorb(登録商標)C930、C935、D350EL、D300CE、A100およびR100等の吸着剤が挙げられる。例示的実施形態では、吸着剤108はBritesorb(登録商標)D350ELである。代替実施形態では、吸着剤108は、例えば粘土および/またはアルミナ材料だがこれらに限らない任意の極性吸着剤であってもよい。
【0011】
さらに、例示的実施形態において、システム100は、溶媒組成物112の貯蔵に使用する溶媒組成物貯蔵タンク110を含む。タンク110は、吸着塔102の上流で吸着塔102に連通している。例示的実施形態において、溶媒組成物112は、少なくとも1つの極性化合物と少なくとも1つの非極性化合物を含有する混合物である。例えば、極性化合物は、アセトン、アルコール(例えば、イソプロパノール、エタノールおよびメタノール)、塩化メチレン、酢酸エチルおよび/またはそれらの組み合わせであってよいが、これらに限定されない。さらに、非極性化合物は、ヘキサン、ヘプタン、メチルシクロペンタン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサンおよび/またはそれらの組み合わせであってよいが、これらに限定されない。一実施形態では、溶媒組成物112は、約0重量%〜約100重量%酢酸エチルと約0重量%〜約100重量%シクロヘキサンを含有する。別の実施形態では、溶媒組成物112は、59重量%アセトンと41重量%ヘキサンを含有する。さらなる実施形態では、溶媒組成物112は、33重量%イソプロパノールと67重量%シクロヘキサンを含有する。さらに詳しく以下に説明するように、溶媒回収に加熱を伴う溶媒組成物112には共沸混合物もまた望ましい。例示的実施形態において、溶媒組成物112の沸点は約80℃未満であり、吸着剤108および原油116と同程度のHansenパラメータを有する。
【0012】
さらに、例示的実施形態において、システム100は、原油または重油116の貯蔵に使用する油貯蔵タンク114と、油116と混ぜ合わされる石油エーテル(図示せず)の貯蔵に使用する石油エーテル貯蔵タンク117とをさらに含む。油タンクは、吸着塔102の上流で吸着塔102と連通して連結される。油は、これらに限定されないが、サウジ・ライト、サウジ・ヘビー、アラビアン・スーパー・ライト、アラビアン・エキストラ・ライト、ガスコンデンセート、アラビアン・ライト、アラビアン・ミディアム、BANOCO、アラビアン・ヘビー、ベリ(Berri)・エキストラ・ライト、アブケイク(Abqaiq)・エキストラ・ライト、マルジャン(Marjan)のアラビアン・ミディアム、スーリフ(Sulif)のアラビアン・ミディアム、チリ原油、ブラジル原油、およびそれらの配合および/または加工によって得られる製品であってよい。例示的実施形態では、サウジアラビア重質原油を使用する。
【0013】
例示的実施形態において、システム100は、吸着塔102の下流に連通して連結されるフラッシュ装置118をさらに含む。代替実施形態では、フラッシュ装置118は、例えば蒸留塔だがこれに限らない任意の溶媒回収装置と置き換えてもよい。フラッシュ装置118は、入口部分120と、第1および第2出口部分122および124を有する。例示的実施形態において、入口部分120は吸着塔102の下流に連通して連結され、第1出口部分122は溶媒組成物貯蔵タンク110の上流に連通して連結され、第2出口部分124は廃棄物貯蔵タンク126の上流に連通して連結される。さらに、例示的実施形態において、システム100は、吸着塔102の下流で吸着塔102に連通して連結された処理油貯蔵タンク128をさらに含む。
【0014】
工程中、吸着剤108を溶媒でスラリー化して吸着剤粒子を前処理する。例示的実施形態において、溶媒は石油エーテルである。あるいは、溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびそれらの異性体の任意の組み合わせであってもよい。当業者は、一部の種類の石油エーテルが「ベンゼン」または「X4」と呼ばれ、それらを炭化水素、非極性溶媒の混合物として使用してもよいことを理解されたい。例えば、石油エーテルは、軽質ナフサと重質灯油の間の蒸留物の一部として製油所から得ることができる。石油エーテルは、通常、個々の等級によって、約0.6〜0.8の比重と約30℃〜約60℃の沸点範囲を有する。吸着剤/溶媒スラリーが吸着塔102に充填され、吸着塔102全体を溶媒が循環して、吸着塔102に存在し得るすべての気泡を排出させる。
【0015】
代替実施形態では、溶媒と接触する前に吸着剤粒子を乾燥させる。乾燥は、さまざまな技術によって行なうことができる。例えば、吸着剤を約80℃〜約250℃の温度の真空下で加熱して、表面水分の除去を促進する。
【0016】
そして、油116を溶媒で約1:1〜約10:1の溶媒対油の比率に希釈する。油116を溶媒で希釈することによって、得られた混合物の粘度は純油の粘度よりも低くなる。より詳細には、例えば、石油エーテルおよび生のサウジアラビア重油の粘度は、それぞれ約0.00024Pa・s(パスカル秒)および0.03921Pa・sである。石油エーテル対生のサウジアラビア重油を約1:1〜約10:1の比率で有する混合物の粘度は、室温でそれぞれ約0.00307Pa・sおよび0.00038Pa・sである。吸着塔102への供給原料として使用される得られた混合物の粘度を低下させることによって、吸着塔102全体の圧力が低下し、吸着の物質移動制限も減少する。さらに、油116を適宜希釈することで、所望の吸着および不純物除去が可能となることがわかった。
【0017】
一実施形態では、溶媒と油の混合物からのアスファルテンや高分子量残留物、樹脂および瀝青の除去を促進するために、溶媒と油の混合物を吸着塔102に供給する前に遠心分離する。アスファルテンの除去は、連続工程を利用して油116を処理する場合に特に有利であり、吸着塔内の圧力上昇率の低減を促進する。混合物を遠心分離し、アスファルテンを除去することによって、粒子のない供給原料流を得ることができ、塔内の圧力上昇および/または妨害流の低減を促進する。代替実施形態では、最大粒子が吸着塔102の供給端104に配置されるように、吸着剤108が吸着塔102内に充填される。最大粒子はフィルタとしての機能を果たして、油116に存在し得る少なくとも一部のアスファルテンや高分子量残留物、樹脂および瀝青の除去を促進する。
【0018】
溶媒と油の混合物は、吸着塔102の供給端104に案内される。例示的実施形態では、不純物の除去を促進するのに十分な流速で、混合物を吸着塔102内に単一路で案内する。例示的実施形態では、約10〜20分の滞留時間に対応する流速が十分である。より速い流速も可能であるが、過剰圧力によって制限される。一実施形態では、直列に連結された複数の塔を使用する。そのような実施形態では、完全に飽和するまで第1の塔の使用状態を保つことができ、その後、直列において第2の塔が第1の塔になり、新たな塔が第2の塔になる。これは、吸着能を最大限にするための一般的な方法である。別の実施形態では、平行に連結された複数の塔を使用して塔の外形寸法と圧力を管理してもよい。精製後、得られた処理油は処理油貯蔵タンク128に案内されて後で使用するために貯蔵される。一実施形態では、タンク128に貯蔵される前に、処理油はフラッシュ塔および/または蒸留装置内を通過する。フラッシュ塔および/または蒸留装置は、再利用される溶媒の除去を促進する。例示的実施形態では、溶媒の石油エーテルが吸着塔102全体を再循環して、吸着塔102に残り得る有効な、すなわち比較的バナジウムのない油を取り出す。一実施形態では、再循環させた溶媒と油の混合物にフラッシュ塔および/または蒸留装置内を通過させて、溶媒と油の分離を促進する。
【0019】
次に、溶媒組成物112は、溶媒組成物貯蔵タンク110から吸着塔102に案内されて、吸着剤108内を通過する。極性/非極性組成の溶媒組成物112は、油と、バナジウム、ニッケルおよび硫黄化合物等のその他の不純物の吸着剤108からの脱着を促進する。特定の理論と結びついてはいないが、溶媒組成物112の極性成分は、汚れた吸着剤108に存在するシロキサン基との水素結合によって吸着剤108に結合すると考えられている。シロキサン基の結合により、吸着剤108に吸着した非極性油を吸着剤108から放出することができる。放出された油は、溶媒組成物112の非極性成分に溶解する。そして、任意の適切な技術を用いて溶媒組成物112の極性成分を吸着剤108から取り出すことによって、吸着体として後で使用するために吸着剤108を元の状態に戻す。代替実施形態では、吸着剤108は吸着塔102から取り出され、別の方法で溶媒組成物112に接触する。
【0020】
例示的実施形態では、吸着塔102から余分な溶媒組成物112を洗い流すために、石油エーテルが吸着塔102内を通過する。代替実施形態では、吸着塔102から余分な溶媒組成物112を洗い流すことができる任意の溶媒を使用してもよい。例示的実施形態では、溶媒組成物112に吸着塔102内を通過させて、溶媒によって吸着塔102から余分な溶媒組成物112を洗い流す工程は、少なくともさらに2回繰り返される。代替実施形態では、これらの追加的な手段は取られない。別の実施形態では、工程は少なくとも4回以上繰り返される。
【0021】
次に、例示的実施形態では、溶媒組成物112と除去された油および不純物の混合物がフラッシュ装置118内を通過する。上述の通り、例示的実施形態において、溶媒組成物112は、油116と、バナジウム、ニッケルおよび硫黄化合物等の不純物の平均沸点範囲よりも低い約80℃未満の沸点を有する。そのため、溶媒組成物112が油と不純物から分離され、溶媒組成物112は出口部分122を介してフラッシュ装置118から出ることになる。そして、再利用された溶媒組成物は、吸着塔102において後で使用するために溶媒組成物貯蔵タンク110に送られる。残っている油と不純物は出口部分124を介してフラッシュ装置118から出て、廃棄物貯蔵タンク126に案内される。
【0022】
一実施形態において、最終ステップは、例えば窒素、空気などの適切なガスの流れによって、吸着塔102と吸着剤108を乾燥させることである。例示的実施形態では、吸着塔102のジャケット107は約80℃まで加熱され、窒素流130は約2時間にわたって約35〜約40cc/分の流速で吸着塔102内を通過する。乾燥後、例示的実施形態では、吸着剤108が石油エーテルによって再湿潤されて、次の吸着サイクルの開始準備が整う。
【実施例】
【0023】
次の実施例は単に例証であり、本願発明の範囲にいかなる制限を課すものとも解釈してはならない。
【0024】
実施例1:極性/非極性洗浄液を用いた使用済み吸着剤の再生
第1実施例において、使用済み吸着剤を準備した。より詳細には、この実施例では、約35グラムのBritesorb(登録商標)D350ELシリカ吸着剤を混合機に秤入れてから、約100gのサウジ重質原油と200gの石油エーテルを混合機に添加した。得られたスラリーを室温で約5分間混ぜ合わせてから、遠心管に注入した。各々の管を遠心分離し、得られた液体画分をデカントすることによって、汚れた、すなわち使用済みのBritesorb(登録商標)D350EL固体を残した。汚れたBritesorb(登録商標)D350EL固体は、約2時間にわたって80℃の真空下で乾燥させた。そして、乾燥した固体を、熱重量分析器(TGA)を用いて分析した。約200℃〜約650℃での脱蔵および/または分解の初期発生の重量損失割合は、吸着剤から残留有機物質(油成分)を除去したものとみなされた。この結果は、汚れたBritesorb(登録商標)固体が約34.2重量%の油成分からなることを示した。
【0025】
さまざまな量の極性および/または非極性溶媒からなる洗浄液を準備した。洗浄液を準備するために使用した例示的な溶媒と各々の溶媒の量を、下記の表1に示す。
【0026】
約0.5gの量の使用済み、すなわち汚れたBritesorb(登録商標)D350EL固体を、約13gの特定の被検洗浄液とともにバイアルに量り入れた。得られたスラリーを室温において自動振盪機で約5分間にわたって混ぜ合わせて、遠心管に注入した。各々の管を遠心分離し、得られた液体画分をデカントして、Britesorb(登録商標)固体を残した。上記のように、洗浄したBritesorb(登録商標)固体にさらに2回の洗浄サイクルを行なった。洗浄したBritesorb(登録商標)固体は、洗浄後に、Britesorb(登録商標)固体に残っている油の量を測定するためにTGAを用いて分析した。
【0027】
TGAは、約5〜10mgの汚れた吸着剤を小さな白金皿に入れることによって行なわれ、初期重量は、計器によって正確に計量かつ記録される。炉を試料近くに立ち上げて、0.04標準立方フィート/時(scfh)で空気を試料に流しながら、Britesorbの約650〜700℃の所望の設定点まで10〜20℃/分間隔で温度を上昇させる。温度が上昇するにつれて、油成分が揮発および/または分解し、吸着剤から除去されて、それに応じた重量損失が起こる。重量損失は、吸着剤に存在した油に正確に対応する。存在している出発油と洗浄後に残っている油を知ることによって、洗浄ステップの効果を定量化することができる。例示的な結果を下記の表1に示す。さまざまな比率の酢酸エチルとシクロヘキサンまたはエタノールとシクロヘキサンを含有する洗浄液による洗浄後に、汚れたBritesorb(登録商標)D350EL固体から除去された吸着油の量を示す2つの例示的なグラフを、それぞれ図2および図3に示す。
【0028】
【表1】

上記の結果からわかるように、極性および非極性溶媒の両方を含有する洗浄液は、極性溶媒のみまたは非極性溶媒のみを含有する洗浄液よりも、概して汚れたBritesorb(登録商標)固体から油を除去する際により効果的であった。特に、5:95〜90:10の比率の酢酸エチルとシクロヘキサンの混合物および10:90〜25:75の比率のエタノールとシクロヘキサンの混合物を含有する洗浄液は、汚れた吸着剤から吸着油の約80%以上を除去することができた。極性および非極性溶媒のその他の組み合わせもまた、吸着油を除去する際に効果的であった。その一方、極性および非極性溶媒の混合物を含有せず、吸着油の約80%以上を除去した唯一の洗浄液は、塩化メチレンであった。石油エーテルを使用して洗浄した時は、一部の油のみが除去され、除去された油はバナジウムおよびニッケル等の不純物が非常に少なかった。しかしながら、例えばエタノール/シクロヘキサン等の極性および非極性の組み合わせによって、洗浄が効果的であった場合、油とともに不純物も除去された。例示的な結果を下記の表2に示す。
【0029】
【表2】

実施例2:酢酸エチルとシクロヘキサンを用いたBritesorb D350EL(登録商標)の再生
まず、約3.5gのBritesorb D350EL(登録商標)キセロゲルシリカを混合機に秤入れ、約10gの原油と40gの石油エーテルを混合機に添加した。得られたスラリーを2分間にわたって混ぜ合わせてから、遠心管に注入した。各々の管を遠心分離してから、液体画分をバイアルにデカントし、液体画分のバナジウムおよびニッケル含有量を誘導結合プラズマ発光分析/質量分析(ICP/MS)によって測定した。
【0030】
そして、固体画分、すなわち汚れた吸着剤を、シクロヘキサンと酢酸エチルで抽出した。得られた固体を分析した結果、シクロヘキサンも酢酸エチルも単独ではすべての吸着油を除去しないことがわかった。次に、固体画分を、3重量%酢酸エチルと97重量%シクロヘキサンからなる二成分溶液で抽出した。得られた固体を分析した結果、二成分溶液は大半の吸着種を除去することがわかった。例示的な結果を下記の表3および表4に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

実施例3:抽出したBritesorb D350EL(登録商標)の再利用
まず、酢酸エチル/シクロヘキサンで抽出した約2.53gのBritesorb(登録商標)D350ELを混合機に秤入れ、約7.25gの原油と29gの石油エーテルを混合機に添加した。得られたスラリーを混ぜ合わせて、遠心管に注入した。各々の管を遠心分離して、液体画分をバイアルにデカントした。そして、バナジウムおよびニッケル含有量をICP/MSによって測定した。油−石油エーテル溶液のニッケルおよびバナジウム濃度は、0.1ppm未満であった。
【0033】
実施例4:再生した吸着剤の反復使用
上記の各々の工程の経済的利益の向上を促進するためには、吸着剤を複数回再利用しなければならない。一連の実験は、同じBritesorb(登録商標)D350ELを約25サイクル使用して行なった。全サイクルは、吸着ステップと再生ステップを含む。
【0034】
各々の実験は、1インチ×25インチ高さの塔であり、その層高さが約13インチである同じ塔内で行なった。Britesorb(登録商標)C935を塔に装填し、1:2の比率で石油エーテルと混ぜ合わせたサウジ重質原油を用いて吸着工程を行なった。そして、塔を石油エーテルで洗浄して、吸着剤から白油を取り出した。一般的に、一部の白油が粒子の空隙部に保持されるのに対して、「黒油」は吸着剤によってより強固に保持される。吸着剤を塔から取り出し、69重量%シクロヘキサンと31重量%エタノールの混合物で3回バッチ洗浄し、80℃で一晩真空オーブン内で乾燥させた。この手順は、各吸着サイクル中に得られたバナジウムのない試料の数からも明らかなように、吸着能に何の影響も及ぼさずに25回繰り返された。すべての塔の吸着実験がほぼ同数の白油試料を生成したことは、吸着剤が完全に再生されたことを示している。試料をICP/MSによって分析した結果、試料は規格内、すなわち油の重量で0.2ppm未満のバナジウム分であることがわかった。
【0035】
各々の吸着サイクルの効果は、図4に示すように、各吸着塔の稼働時間からも明らかになった。図4は、各吸着サイクルの破過までの例示的な時間を示す。稼働時間は45〜65分の範囲にわたっており、吸着剤が効果を失った場合に推測されるような低下傾向は見られない。しかしながら、2つの実験、すなわち実験07−022および07−036はこの範囲に達しておらず、平均の約半分の時間であった。この不足の理由が何なのかははっきりしないが、1つの原因は吸着塔内のチャネリング効果による早期破過だと考えられる。図4に示すこの一連の例示的実験は、25サイクルにわたって再生する吸着剤の性能を実証する。
【0036】
上記したように、各サイクルは吸着ステップと再生ステップを含む。各々の再生、すなわち溶媒組成物の洗浄および乾燥後に、試料をTGA分析用に取り出して、Britesorb(登録商標)に残っている油の量を測定した。先のTGA分析から、油浸漬のないBritesorb(登録商標)に関して重量損失が約4.5〜5.0%であることがわかっていた。この重量損失は、ヒドロゲルマトリックス内にある水および/またはその他の不純物によるものであった。図5は、25サイクルにわたるTGA分析を図示する。大部分のサイクルは約5%の重量損失が起こっており、このことは実質的にすべての油成分が吸着剤から無事に洗浄されたことを示している。しかしながら、1つの実験、すなわち6番目の実験結果はその他の実験よりも大幅に高い重量%を示し、吸着剤にほぼ12%の残留物質があった。
【0037】
実施例5:現場(in−situ)再生
実施例4で説明したように、25サイクルの吸着/再生は、吸着剤を塔の外部に取り出して洗浄することで無事に行なわれた。この工程が成功したことはわかっているが、この工程は時間のかかるものであった。そのため、塔から吸着剤を取り出さずに全サイクルを再生すること、すなわち「現場(in−situ)」再生の工程を提供することが好ましい。
【0038】
図6は、現場再生を実行するために使用することのできる例示的な装置を示す。Britesorb(登録商標)と石油エーテルのスラリーを吸着塔に装填してから、石油エーテルを約0.25時間にわたって塔内で再循環させて、層を平衡化する。吸着工程は、約1時間後の破過までサウジ重質原油を用いて行なわれる。そして、塔を石油エーテルで洗い流して、有効な、すなわち比較的バナジウムのない油を取り出す。シクロヘキサンとエタノールの混合物が所定時間にわたって塔内を通過して、バナジウム、ニッケルおよび硫黄化合物などの残りの油成分を除去する。
【0039】
石油エーテルは、残留シクロヘキサンおよびエタノールを除去するために、もう一度塔内を通過する。シクロヘキサンとエタノールの混合物の通過によって、1回の全洗浄ステップが完了する。例示的実施形態において、洗浄工程は少なくとも3回行なわれる。そして、吸着剤は、塔ジャケットを加熱することによって、さらに所定時間にわたって所望の流速で塔内に窒素パージを導入することによって、窒素パージで乾燥させる。乾燥後、塔を石油エーテルで再湿潤した後に、次の吸着サイクルの準備が整う。上記の手順は、少なくとも3回繰り返される。
【0040】
下記に示す表5は、現場再生で行なわれた例示的手順を各手順の経過時間とともに示す。表5に示すように、洗浄サイクルが3回行なわれる場合、再生(ステップ4〜8)は約6時間で行なわれる。洗浄サイクルが1回だけ行われる場合、再生時間は約4.5時間である。
【0041】
【表5】

本明細書に記載の方法および装置は、ガスタービン等の産業装置に使用する供給燃料すなわち油を精製するために使用される吸着剤の再生を促進する。具体的には、溶媒組成物を用いて使用済み吸着剤を再生することにより、周知の熱的方法に比べて、吸着剤を再生するために使用されるエネルギー量の最小化を促進する。また、精製および再生工程の両方に固定塔を使用することによって、燃料処理施設での燃料処理工程に伴う資本コストが低下する。さらに、そのような工程の設置面積も減少する。さらに、同じ吸着剤を繰り返し使用することができるので、産業施設の運転費を削減することができる。さらにまた、固定吸着塔の利用によって、吸着剤の処理、吸着剤の計量問題、およびその他の連続工程で一般的に直面する一般的な運転開始および運転停止問題の最小化を促進する。また、吸着塔を洗浄して塔内に残ったすべての残留油を回収することによって、油回収の最大化を促進する。さらに、溶媒組成物が蒸留および/またはフラッシュ装置内を通過することによって、溶媒組成物が吸着剤から油と不純物を除去した後に、溶媒組成物を再利用することができるため、施設の運転費の削減が促進される。上記の説明は、燃料すなわち油から不純物を除去するための一般的な工程の具体例を対象とすることを意図するものであって、説明した特定の実施形態に限定されるものとみなすべきではない。
【0042】
吸着塔と吸着塔内に充填される吸着剤の再生の例示的実施形態を上記に詳述した。該方法およびシステムは、本明細書に記載の特定の実施形態にも具体的に例証した吸着塔および再生ステップにも限定されるものではなく、むしろ、該方法のステップおよび/または該システムの構成要素は、本明細書に記載のその他のステップおよび/または構成要素とは独立して個別に利用することができる。また、説明した方法ステップおよび/またはシステム構成要素は、その他の方法および/またはシステムで定義する、あるいはそれと組み合わせて使用することもでき、本明細書に記載の方法およびシステムのみでの実施に限定されるものではない。上記の説明は、燃料すなわち油から不純物を除去し、そのために使用される吸着剤を再生するための一般的な工程の具体例を対象とすることを意図するものであって、説明した特定の実施形態に限定されるものとみなすべきではない。
【0043】
種々の特定の実施形態に関して本発明を説明してきたが、本発明には添付の特許請求の範囲の本質および精神の範疇において修正を加え得ることが、当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0044】
100 再生システム
102 吸着塔
104 供給端
106 出口端
107 ジャケット
108 吸着剤
110 溶媒組成物貯蔵タンク
112 溶媒組成物
114 油貯蔵タンク
116 油
117 石油エーテル貯蔵タンク
118 フラッシュ装置
120 入口部分
122 出口部分
124 第2出口部分
126 廃棄物貯蔵タンク
128 処理油貯蔵タンク
130 窒素流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み吸着剤の再生に使用するシステムであって、
内部に使用済み吸着剤が充填された少なくとも1つの吸着装置と、
前記吸着装置に連通して連結された溶媒回収装置であって、溶媒組成物が前記吸着装置内を通過した後に、前記溶媒組成物を収容するように構成される前記溶媒回収装置とを含む、システム。
【請求項2】
前記溶媒回収装置は、前記溶媒組成物が前記吸着装置内を通過した後に、前記溶媒組成物からの油と不純物の除去を促進する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記溶媒組成物は、前記溶媒組成物が前記吸着装置内を通過する前に80℃未満の沸点を有する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記溶媒組成物は、少なくとも1つの極性化合物と少なくとも1つの非極性化合物からなる、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの極性化合物は、アセトン;イソプロパノール、エタノールおよびメタノール等のアルコール;塩化メチレン;酢酸エチル;およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記少なくとも1つの非極性化合物は、ヘキサン、ヘプタン、メチルシクロペンタン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記溶媒組成物は、0〜100重量%酢酸エチルと0〜100重量%シクロヘキサンからなる、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記溶媒組成物は、10〜30重量%エタノールと70〜90重量%シクロヘキサンからなる、請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記溶媒回収装置は、前記溶媒組成物が前記吸着装置内を通過した後に、前記溶媒組成物からの油、バナジウム、ニッケルおよび硫黄化合物の除去を促進する、請求項3に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−297711(P2009−297711A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137781(P2009−137781)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】