吸着剤及び貴金属の回収方法
【課題】金等の貴金属を含有する溶液中から貴金属を効率的に分離・回収できる吸着剤、及び貴金属の回収方法を提供すること。
【解決手段】エーテル結合を有する炭水化物を含むことを特徴とする吸着剤。強酸を用いて脱水縮合架橋された炭水化物を含むことを特徴とする吸着剤。前記強酸としては、硫酸又は塩酸が挙げられる。前記炭水化物としてはセルロースが挙げられる。前記セルロースとしては、綿、麻、及び紙からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。溶液中に溶解した貴金属を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【解決手段】エーテル結合を有する炭水化物を含むことを特徴とする吸着剤。強酸を用いて脱水縮合架橋された炭水化物を含むことを特徴とする吸着剤。前記強酸としては、硫酸又は塩酸が挙げられる。前記炭水化物としてはセルロースが挙げられる。前記セルロースとしては、綿、麻、及び紙からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。溶液中に溶解した貴金属を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤及び貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金は宝飾品の他、メッキ材料や電気・電子材料あるいは医療材料として近年多くの分野で利用されている。金は高価なことから様々な廃棄物や廃液中からの回収が注目されている。しかし廃棄物中に含まれる金の量は僅かであり、大過剰に存在する他の金属等からの金の選択的な分離・回収は容易でない。
【0003】
様々な廃棄物の固体中に含まれる金の回収では固体を王水に溶解し、その中から金を金属置換などの方法により回収する方法が従来用いられてきた。しかし近年排水中の窒素に対する規制が大幅に強化されたことなどから、王水を用いる方法は実施困難になりつつある。
【0004】
その他の貴金属の分離・回収方法としては、以下の方法がある。
(a)溶媒抽出法やイオン交換法
銅やニッケルなどの電解製錬において生ずるアノードスライム中の貴金属の回収においては、溶媒抽出法やイオン交換法が近年採用されつつある。これらの回収プロセスにおいては塩素ガスを含む塩酸で金属分を全溶解させた後、個々の貴金属が溶媒抽出法やイオン交換法により個別に回収される。金の回収に関してはジブチルカービトールを用いる溶媒抽出法が我が国を含む各国において採用されている。本溶媒抽出法に関しては、例えば非特許文献1等に詳細が記述されている。
(b)化学修飾したセルロースを用いる方法
セルロースの化学修飾に関しては以前より多くの研究が行われてきており、分析化学や医療用のために実用化された吸着剤も多い。それらについては非特許文献2などに詳細に記載されている。
【0005】
例えば化学修飾によりジエチルアミノエチル(DEAE)基等の様々な官能基が導入されたセルロースは酵素、血漿成分その他の機能性たんぱく質等の生体成分の分離精製のために利用されている。
【0006】
また、紙などのセルロース系の材料を基体として化学修飾することにより調製される吸着剤を用いて、様々な廃液や廃棄物に含まれる貴金属の回収を考慮して行った研究例はいくつか報告されている。例えば非特許文献3には古紙の化学修飾により1級アミノ基を固定化した吸着剤が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B.F.Rimmer, "Refining of gold from precious metal concentrates by liquid−liquid extraction", Chemistry & Industry, No.2, 63−66 (1974)
【非特許文献2】セルロース学会編「セルロースの事典」、pp.131−165、“4.2セルロースの化学反応と誘導体”、およびpp.539−545,“7.5.4イオン交換材料”
【非特許文献3】川喜田英孝、井上勝利、大渡啓介、板山恭子、パラジューリ・ドゥルガ「古紙を利用したアミン型吸着剤の調製と金属イオンの吸着特性」、廃棄物学会論文誌、17巻3号、p.243−249 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ジブチルカービトールを用いる溶媒抽出(前記(a)の方法)では、条件により対象とする金以外の他の貴金属や卑金属もかなり抽出されるため、多段の抽出―逆抽出操作が必要であり、分離・精製のコストの上昇を招く。またジブチルカービトールはかなり水に可溶であり、排水処理にコストを要する。
【0009】
また、前記(b)方法のうち、非特許文献2の技術で用いる化学修飾セルロースは高価であるため、これを貴金属の分離・回収のために利用することは現実的でない。
また、非特許文献2の技術で用いる化学修飾セルロースの調製においては、有毒な有機化学薬品(エピクロロヒドリンやグルタルアルデヒド等)を多く使用するため、調製後に残留する有機薬品の安全処理にもコストを要する。
【0010】
また、前記(b)の方法のうち、非特許文献3の技術によれば、塩酸中から金、白金、パラジウムが吸着・回収されるが、卑金属の銅もかなり吸着されるため、必ずしも満足できるものではない。
【0011】
本発明は、金等の貴金属を含有する溶液(例えば、金を含有した廃棄物を溶解した王水や塩酸)中から貴金属を効率的に分離・回収できる吸着剤、及び貴金属の回収方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における第1の吸着剤は、エーテル結合を有する炭水化物を含むことを特徴とする。
本発明の吸着剤を用いれば、溶液(例えば塩酸)中に溶解している貴金属(例えば金)が高選択的、かつ効率的に分離・回収できる。特に、金、白金、パラジウム等の貴金属や銅や鉄等の卑金属を含む様々な廃棄物を溶解した溶液(例えば塩酸)中から金を高純度に回収することができる。また、本発明の吸着剤は、高価な有機薬品を使用しなくても製造できる。
【0013】
前記エーテル結合は、炭水化物(例えば純粋のセルロースゲル)を、強酸(例えば、濃硫酸、濃塩酸)を用いて高温(例えば70℃以上、好ましくは100℃)で処理し、脱水縮合架橋を生じさせることにより導入することができる。
【0014】
本発明における第2の吸着剤は、脱水縮合架橋された炭水化物を含むことを特徴とする。本発明の吸着剤を用いれば、溶液(例えば塩酸)中に溶解している貴金属(例えば金)が高選択的、かつ効率的に分離・回収できる。特に、金、白金、パラジウム等の貴金属や銅や鉄等の卑金属を含む様々な廃棄物を溶解した溶液(例えば塩酸)中から金を高純度に回収することができる。また、本発明の吸着剤は、高価な有機薬品を使用しなくても製造できる。
【0015】
前記脱水縮合架橋により、炭水化物に、エーテル結合を生じさせることができる。脱水縮合架橋の条件としては、例えば、炭水化物(例えば純粋のセルロースゲル)を、強酸(例えば、濃硫酸、濃塩酸)を用いて高温(例えば70℃以上、好ましくは100℃)で処理する方法が挙げられる。
【0016】
前記炭水化物としては、例えば、セルロースが挙げられる。セルロースとしては、例えば、綿、麻、及び紙からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
本発明の貴金属の回収方法は、溶液中に溶解した貴金属(例えば金)を、上述した吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする。
【0017】
吸着剤に吸着した貴金属を回収するには、例えば、貴金属を吸着した吸着剤を焼却して、その灰の中から所望の貴金属を回収する方法をとることができる。この場合、本発明の吸着剤は、イオン交換樹脂やキレーと樹脂等のプラスチックの樹脂とは異なり、非常に容易に焼却が進行するため、貴金属の回収は遥かに容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】濃硫酸で処理したセルロース、濃硫酸で処理したセルロースに金(III)イオンを吸着させたもの、ならびに原料物質の赤外吸収スペクトルである。
【図2】濃硫酸で処理した102330セルロースの吸着剤Aを用いた場合の金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示すグラフである。
【図3】綿を濃硫酸で処理することにより調製した吸着剤Bを用いた場合の金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示すグラフである。
【図4】無希釈のジブチルカービトールによる様々な金属の溶媒抽出における抽出百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示すグラフである。
【図5】ジメチルアミンの官能基を有する市販の弱塩基性イオン交換樹脂DIAION WA30を用いた場合の各種の金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)の関係を示すグラフである。
【図6】濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aを使用した場合の30℃における金(III)の吸着等温線を示すグラフである。
【図7】濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bを使用した場合の30℃における金(III)の吸着等温線を示すグラフである。
【図8】濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aの固液比と金の残存濃度との関係を表すグラフである。
【図9】濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bと原料の綿における固液比と金の残存濃度との関係を表すグラフである。
【図10】金を吸着した後における、濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aを光学顕微鏡で観察した写真である。
【図11】金を吸着した後における、濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bを光学顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(本発明の実施形態)
以下に本発明の実施形態を説明する。
(吸着剤の調製)
本発明の吸着剤は、純粋なセルロースゲル(セルロース系材料)を濃硫酸と共に70℃以上の温度で6時間以上加熱撹拌するという簡単な方法により調製できる。
【0020】
また、セルロースゲルの代わりに、あるいは、セルロースゲルとともに、他のセルロース系材料を上記のように処理してもよい。他のセルロース系材料としては、例えば、綿製品(例えば古着等の木綿)、麻製品(例えば麻繊維廃棄物)、紙(例えば古紙)等が挙げられる。
【0021】
薄層クロマトグラフィー用にメルク社より販売されているセルロースゲル微結晶102330セルロースに対し、上記のように濃硫酸で処理したものを吸着剤Aとする。
図1に、吸着剤A、吸着剤Aに金(III)イオンを吸着させたもの、ならびに原料物質(濃硫酸で処理されていないセルロースゲル微結晶102330セルロース)の赤外吸収スペクトルを示す。図1において、縦軸は赤外吸収スペクトルにおける吸光度であり、横軸は波数である。
【0022】
原料物質(濃硫酸で処理されていないセルロースゲル微結晶102330セルロース)における3450cm-1付近の幅広い吸収はO−Hの伸縮振動に起因し、3050cm-1の鋭い吸収はC−Hの伸縮振動に起因し、1720cm-1の鋭い吸収はC=Oの伸縮振動に起因し、1100cm-1を中心とする幅広い吸収はC−Oの伸縮振動とアルコ−ル性O−Hの偏角振動に起因する。
【0023】
濃硫酸で処理したセルロースにおいてO−HおよびC−Hの伸縮振動に起因する吸収の強度は弱まっており、これは濃硫酸による脱水縮合架橋反応によるものと考えられる。また、1200cm-1に現れた吸収は脱水縮合架橋反応により生じたC−O−Cの伸縮振動である。これらより脱水縮合架橋反応の結果水酸基がC−O−C(エーテル結合)に変化したことが考えられる。濃硫酸で処理したセルロースにおいてはさらに1780cm-1および1690cm-1に鋭い吸収が見られる。前者はピラノース環の水酸基の部分的酸化により生じたC=Oの伸縮振動によるものであり、後者はカルボキシル基のC=Oの伸縮振動によるものである。このようにセルロースの濃硫酸による処理は水酸基の部分的酸化を引き起こしたと考えられる。
【0024】
金(III)を吸着した後のスペクトルでは、酸基に起因する吸収は幅広くなっており、3410cm-1付近の低波数領域にシフトしており、水酸基も金(III)イオンの配位に関与していると考えられる。1690cm-1のC=Oに起因する吸収の強度は金(III)イオン吸着後強まっており、これは金(III)の吸着により−COOH基の生成が起こったためと考えられる。
(貴金属の吸着・回収)
先に述べた方法により調製した吸着剤Aを用いて、バッチ法により塩酸中から各種の金属イオンの吸着について評価を行った例について以下に説明する。この場合、貴金属溶液としては特級試薬の塩化金(III)酸、塩化白金(IV)酸、ならびに塩化パラジウム(II)を塩酸に溶解したものを使用した。また卑金属溶液としては銅(II)および亜鉛(II)の塩酸塩を塩酸に溶解したものを使用した。
(各種の金属イオンの吸着に対する塩酸の濃度の影響)
乾燥重量で10mgの吸着剤Aと0.1mmol/Lの濃度のそれぞれの金属イオンを含む様々な濃度の塩酸10mLとを栓付きフラスコに取り、30℃に保たれた空気恒温槽中で24時間振り混ぜることにより吸着を行った。吸着前後の水溶液中の金属イオンの濃度を島津製のICPS−8100型ICP発光分析装置により測定することにより、吸着剤Aに吸着された金属イオンの吸着百分率を求めた。ここで吸着百分率は次式により計算される。
【0025】
吸着百分率=(吸着前の水溶液中の金属濃度−吸着後の水溶液中の金属濃度)/(吸着前の水溶液中の金属濃度)X100
図2に、上記のように濃硫酸で処理した102330セルロースの吸着剤Aを用いた場合の、先に述べた金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示す。
【0026】
なお、詳細な条件は以下のとおりである。
金属イオンの初濃度:0.1mmol/L
金属溶液の体積:10mL
吸着剤Aの乾燥重量:10mg
振り混ぜ時間:48時間
温度:30℃
金は全ての塩酸の濃度範囲において70%以上吸着されているが、全ての他の金属の吸着は無視でき、金以外の貴金属も卑金属イオンも全く吸着されていない。したがってこの吸着剤Aを用いることにより、金のみを他の金属イオンから選択的に分離・回収することができる。
【0027】
図3に、Chiyoda(株)製の純粋な脱脂綿の不織布コットンシーガルを濃硫酸で処理することにより調製した吸着剤(以下、吸着剤Bとする)を用いた場合のいくつかの金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示す。なお、吸着剤Bを調製する際の濃硫酸での処理条件は、セルロースゲル微結晶102330セルロースを処理した場合と同様である。また、吸着百分率の求め方も、セルロースゲル微結晶102330セルロースを用いた場合と同様である。
【0028】
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
金属イオンの初濃度:0.2mmol/L
金属溶液の体積:10mL
吸着剤Bの乾燥重量:10mg
振り混ぜ時間:24時間
温度:30℃
パラジウム(II)や白金(IV)の僅かな吸着は見られるが鉄や銅といった卑金属の吸着は見られない。これに対して金(III)は塩酸濃度が2M以下ではほぼ定量的に吸着されている。
【0029】
図4に、比較のために無希釈のジブチルカービトールによる様々な金属の溶媒抽出における抽出百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示す。
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
【0030】
金属イオンの初濃度: 0.2mM
振り混ぜ速度:138rpm
振り混ぜ時間:98時間
温度:30℃
有機相体積:10mL
水相体積:10mL
塩酸濃度が2M以上になると鉄(III)の抽出が大きくなり金に対しての選択性の著しい低下が見られる。
【0031】
図5に、同じく比較のためにジメチルアミンの官能基を有する市販の弱塩基性イオン交換樹脂DIAION WA30を用いた場合の各種の金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)の関係を示す。
【0032】
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
金属イオンの初濃度:15mg/L
金属溶液の体積:15mL
吸着剤の乾燥重量:20mg
振り混ぜ時間:24時間
温度:30℃
先の2種類のセルロース系の吸着剤A、Bとは異なり、金(III)以外に白金(IV)やパラジウム(II)も同程度に吸着される。また卑金属の亜鉛は30%程度吸着され、鉄も塩酸の高濃度領域において40%程度吸着されている。このように本発明において開発されたセルロース系の吸着剤A、Bは市販の吸着剤よりも金に対する選択性が非常に優れていることは明らかである。
(吸着等温線)
図6に、濃硫酸で処理したセルロース(セルロースゲル微結晶102330セルロース)の吸着剤Aを使用した場合の30℃における金(III)の吸着等温線、すなわち金の吸着量(縦軸)と吸着後の金濃度(横軸)との関係を示す。
【0033】
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
塩酸濃度:0.1mol/L
塩酸の体積:10mL
吸着剤Aの重量(乾燥重量):10mg
振り混ぜ時間:150時間
温度:30℃
この場合の吸着等温線はLangmuir型の吸着を示しており、吸着量が濃度によらず一定になった領域の吸着量の値より、本吸着剤Aの金に対する飽和吸着量は8mol/kgと求められた。これは吸着剤A1kgに対して1.6kgもの金が吸着したことを意味する。
【0034】
図7に、濃硫酸で処理した綿(Chiyoda(株)製の純粋な脱脂綿の不織布コットンシーガル)の吸着剤Bを使用した場合の30℃における金(III)の吸着等温線を示す。
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
【0035】
塩酸濃度:0.1mol/L
塩酸の体積:10mL
吸着剤Bの重量(乾燥重量):10mg
振り混ぜ時間:96時間
温度:30℃
この場合も吸着等温線はLangmuir型の吸着を示しており、吸着量が濃度によらず一定になった領域の吸着量の値より、本吸着剤Bの金に対する飽和吸着量は6mol/kgと求められた。これは吸着剤B1kgに対して1.2kgもの金が吸着したことを意味する。
【0036】
濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aを、0.83mg/Lの希薄濃度の金(III)を含む0.25Mの濃度の塩酸に添加して、30℃で24時間振り混ぜて、金の残存濃度を測定した。この測定を、セルロースの吸着剤Aの量を様々に変えて行った。固液比(吸着剤と塩酸との比)と金の残存濃度との関係を図8に示す。
【0037】
その結果、1Lの液(塩酸)に対して1gの吸着剤Aを添加すれば希薄濃度の金も定量的に回収できることが分かる。
濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bを、0.2mMの濃度の金(III)を含む0.1Mの濃度の塩酸に添加して24時間振り混ぜて、金の残存濃度を測定した。この測定を、綿の吸着剤Bの量を様々に変えて行った。固液比(吸着剤と塩酸との比)と金の残存濃度との関係を図9における「cross linked cotton」に示す。
【0038】
また、綿の吸着剤Bの代わりに、原料の綿(濃硫酸で処理していない綿)を用いて、同様の測定を行った。その結果を図9における「Raw cotton」に示す。
原料の綿には金は吸着されないが、濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bを用いると1Lの液に対して1g程度添加することにより定量的に金が回収できることが分かる。
(固体の金の微粒子の生成)
濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aに、上記のようにして金を吸着し、その後、吸着剤Aを取り出して乾燥した。その状態の吸着剤Aを光学顕微鏡で観察した写真を図10に示す。
【0039】
濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bに、上記のようにして金を吸着し、その後、吸着剤Bを取り出して乾燥した。その状態の吸着剤Bを光学顕微鏡で観察した写真を図11に示す。
それぞれの吸着剤に吸着された金(III)イオンはさらに元素状の金に還元され、金粒子に成長したと考えられる。図6及び7に示した吸着剤においてみられる金に対しての非常に高い吸着容量はこのような金粒子の生成によるものと考えられる。
【0040】
また、回収した金が、金(III)イオンではなく、金粒子として得られるので、金の回収が一層容易である。
尚、本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0041】
例えば、吸着剤は、綿以外の炭水化物を用いて調製してもよい。例えば、紙を用いて調製することができる。
また、吸着剤A、Bは、硫酸以外の強酸(例えば塩酸)を用いて脱水縮合架橋することで調製してもよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤及び貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金は宝飾品の他、メッキ材料や電気・電子材料あるいは医療材料として近年多くの分野で利用されている。金は高価なことから様々な廃棄物や廃液中からの回収が注目されている。しかし廃棄物中に含まれる金の量は僅かであり、大過剰に存在する他の金属等からの金の選択的な分離・回収は容易でない。
【0003】
様々な廃棄物の固体中に含まれる金の回収では固体を王水に溶解し、その中から金を金属置換などの方法により回収する方法が従来用いられてきた。しかし近年排水中の窒素に対する規制が大幅に強化されたことなどから、王水を用いる方法は実施困難になりつつある。
【0004】
その他の貴金属の分離・回収方法としては、以下の方法がある。
(a)溶媒抽出法やイオン交換法
銅やニッケルなどの電解製錬において生ずるアノードスライム中の貴金属の回収においては、溶媒抽出法やイオン交換法が近年採用されつつある。これらの回収プロセスにおいては塩素ガスを含む塩酸で金属分を全溶解させた後、個々の貴金属が溶媒抽出法やイオン交換法により個別に回収される。金の回収に関してはジブチルカービトールを用いる溶媒抽出法が我が国を含む各国において採用されている。本溶媒抽出法に関しては、例えば非特許文献1等に詳細が記述されている。
(b)化学修飾したセルロースを用いる方法
セルロースの化学修飾に関しては以前より多くの研究が行われてきており、分析化学や医療用のために実用化された吸着剤も多い。それらについては非特許文献2などに詳細に記載されている。
【0005】
例えば化学修飾によりジエチルアミノエチル(DEAE)基等の様々な官能基が導入されたセルロースは酵素、血漿成分その他の機能性たんぱく質等の生体成分の分離精製のために利用されている。
【0006】
また、紙などのセルロース系の材料を基体として化学修飾することにより調製される吸着剤を用いて、様々な廃液や廃棄物に含まれる貴金属の回収を考慮して行った研究例はいくつか報告されている。例えば非特許文献3には古紙の化学修飾により1級アミノ基を固定化した吸着剤が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B.F.Rimmer, "Refining of gold from precious metal concentrates by liquid−liquid extraction", Chemistry & Industry, No.2, 63−66 (1974)
【非特許文献2】セルロース学会編「セルロースの事典」、pp.131−165、“4.2セルロースの化学反応と誘導体”、およびpp.539−545,“7.5.4イオン交換材料”
【非特許文献3】川喜田英孝、井上勝利、大渡啓介、板山恭子、パラジューリ・ドゥルガ「古紙を利用したアミン型吸着剤の調製と金属イオンの吸着特性」、廃棄物学会論文誌、17巻3号、p.243−249 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ジブチルカービトールを用いる溶媒抽出(前記(a)の方法)では、条件により対象とする金以外の他の貴金属や卑金属もかなり抽出されるため、多段の抽出―逆抽出操作が必要であり、分離・精製のコストの上昇を招く。またジブチルカービトールはかなり水に可溶であり、排水処理にコストを要する。
【0009】
また、前記(b)方法のうち、非特許文献2の技術で用いる化学修飾セルロースは高価であるため、これを貴金属の分離・回収のために利用することは現実的でない。
また、非特許文献2の技術で用いる化学修飾セルロースの調製においては、有毒な有機化学薬品(エピクロロヒドリンやグルタルアルデヒド等)を多く使用するため、調製後に残留する有機薬品の安全処理にもコストを要する。
【0010】
また、前記(b)の方法のうち、非特許文献3の技術によれば、塩酸中から金、白金、パラジウムが吸着・回収されるが、卑金属の銅もかなり吸着されるため、必ずしも満足できるものではない。
【0011】
本発明は、金等の貴金属を含有する溶液(例えば、金を含有した廃棄物を溶解した王水や塩酸)中から貴金属を効率的に分離・回収できる吸着剤、及び貴金属の回収方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における第1の吸着剤は、エーテル結合を有する炭水化物を含むことを特徴とする。
本発明の吸着剤を用いれば、溶液(例えば塩酸)中に溶解している貴金属(例えば金)が高選択的、かつ効率的に分離・回収できる。特に、金、白金、パラジウム等の貴金属や銅や鉄等の卑金属を含む様々な廃棄物を溶解した溶液(例えば塩酸)中から金を高純度に回収することができる。また、本発明の吸着剤は、高価な有機薬品を使用しなくても製造できる。
【0013】
前記エーテル結合は、炭水化物(例えば純粋のセルロースゲル)を、強酸(例えば、濃硫酸、濃塩酸)を用いて高温(例えば70℃以上、好ましくは100℃)で処理し、脱水縮合架橋を生じさせることにより導入することができる。
【0014】
本発明における第2の吸着剤は、脱水縮合架橋された炭水化物を含むことを特徴とする。本発明の吸着剤を用いれば、溶液(例えば塩酸)中に溶解している貴金属(例えば金)が高選択的、かつ効率的に分離・回収できる。特に、金、白金、パラジウム等の貴金属や銅や鉄等の卑金属を含む様々な廃棄物を溶解した溶液(例えば塩酸)中から金を高純度に回収することができる。また、本発明の吸着剤は、高価な有機薬品を使用しなくても製造できる。
【0015】
前記脱水縮合架橋により、炭水化物に、エーテル結合を生じさせることができる。脱水縮合架橋の条件としては、例えば、炭水化物(例えば純粋のセルロースゲル)を、強酸(例えば、濃硫酸、濃塩酸)を用いて高温(例えば70℃以上、好ましくは100℃)で処理する方法が挙げられる。
【0016】
前記炭水化物としては、例えば、セルロースが挙げられる。セルロースとしては、例えば、綿、麻、及び紙からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
本発明の貴金属の回収方法は、溶液中に溶解した貴金属(例えば金)を、上述した吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする。
【0017】
吸着剤に吸着した貴金属を回収するには、例えば、貴金属を吸着した吸着剤を焼却して、その灰の中から所望の貴金属を回収する方法をとることができる。この場合、本発明の吸着剤は、イオン交換樹脂やキレーと樹脂等のプラスチックの樹脂とは異なり、非常に容易に焼却が進行するため、貴金属の回収は遥かに容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】濃硫酸で処理したセルロース、濃硫酸で処理したセルロースに金(III)イオンを吸着させたもの、ならびに原料物質の赤外吸収スペクトルである。
【図2】濃硫酸で処理した102330セルロースの吸着剤Aを用いた場合の金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示すグラフである。
【図3】綿を濃硫酸で処理することにより調製した吸着剤Bを用いた場合の金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示すグラフである。
【図4】無希釈のジブチルカービトールによる様々な金属の溶媒抽出における抽出百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示すグラフである。
【図5】ジメチルアミンの官能基を有する市販の弱塩基性イオン交換樹脂DIAION WA30を用いた場合の各種の金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)の関係を示すグラフである。
【図6】濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aを使用した場合の30℃における金(III)の吸着等温線を示すグラフである。
【図7】濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bを使用した場合の30℃における金(III)の吸着等温線を示すグラフである。
【図8】濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aの固液比と金の残存濃度との関係を表すグラフである。
【図9】濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bと原料の綿における固液比と金の残存濃度との関係を表すグラフである。
【図10】金を吸着した後における、濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aを光学顕微鏡で観察した写真である。
【図11】金を吸着した後における、濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bを光学顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(本発明の実施形態)
以下に本発明の実施形態を説明する。
(吸着剤の調製)
本発明の吸着剤は、純粋なセルロースゲル(セルロース系材料)を濃硫酸と共に70℃以上の温度で6時間以上加熱撹拌するという簡単な方法により調製できる。
【0020】
また、セルロースゲルの代わりに、あるいは、セルロースゲルとともに、他のセルロース系材料を上記のように処理してもよい。他のセルロース系材料としては、例えば、綿製品(例えば古着等の木綿)、麻製品(例えば麻繊維廃棄物)、紙(例えば古紙)等が挙げられる。
【0021】
薄層クロマトグラフィー用にメルク社より販売されているセルロースゲル微結晶102330セルロースに対し、上記のように濃硫酸で処理したものを吸着剤Aとする。
図1に、吸着剤A、吸着剤Aに金(III)イオンを吸着させたもの、ならびに原料物質(濃硫酸で処理されていないセルロースゲル微結晶102330セルロース)の赤外吸収スペクトルを示す。図1において、縦軸は赤外吸収スペクトルにおける吸光度であり、横軸は波数である。
【0022】
原料物質(濃硫酸で処理されていないセルロースゲル微結晶102330セルロース)における3450cm-1付近の幅広い吸収はO−Hの伸縮振動に起因し、3050cm-1の鋭い吸収はC−Hの伸縮振動に起因し、1720cm-1の鋭い吸収はC=Oの伸縮振動に起因し、1100cm-1を中心とする幅広い吸収はC−Oの伸縮振動とアルコ−ル性O−Hの偏角振動に起因する。
【0023】
濃硫酸で処理したセルロースにおいてO−HおよびC−Hの伸縮振動に起因する吸収の強度は弱まっており、これは濃硫酸による脱水縮合架橋反応によるものと考えられる。また、1200cm-1に現れた吸収は脱水縮合架橋反応により生じたC−O−Cの伸縮振動である。これらより脱水縮合架橋反応の結果水酸基がC−O−C(エーテル結合)に変化したことが考えられる。濃硫酸で処理したセルロースにおいてはさらに1780cm-1および1690cm-1に鋭い吸収が見られる。前者はピラノース環の水酸基の部分的酸化により生じたC=Oの伸縮振動によるものであり、後者はカルボキシル基のC=Oの伸縮振動によるものである。このようにセルロースの濃硫酸による処理は水酸基の部分的酸化を引き起こしたと考えられる。
【0024】
金(III)を吸着した後のスペクトルでは、酸基に起因する吸収は幅広くなっており、3410cm-1付近の低波数領域にシフトしており、水酸基も金(III)イオンの配位に関与していると考えられる。1690cm-1のC=Oに起因する吸収の強度は金(III)イオン吸着後強まっており、これは金(III)の吸着により−COOH基の生成が起こったためと考えられる。
(貴金属の吸着・回収)
先に述べた方法により調製した吸着剤Aを用いて、バッチ法により塩酸中から各種の金属イオンの吸着について評価を行った例について以下に説明する。この場合、貴金属溶液としては特級試薬の塩化金(III)酸、塩化白金(IV)酸、ならびに塩化パラジウム(II)を塩酸に溶解したものを使用した。また卑金属溶液としては銅(II)および亜鉛(II)の塩酸塩を塩酸に溶解したものを使用した。
(各種の金属イオンの吸着に対する塩酸の濃度の影響)
乾燥重量で10mgの吸着剤Aと0.1mmol/Lの濃度のそれぞれの金属イオンを含む様々な濃度の塩酸10mLとを栓付きフラスコに取り、30℃に保たれた空気恒温槽中で24時間振り混ぜることにより吸着を行った。吸着前後の水溶液中の金属イオンの濃度を島津製のICPS−8100型ICP発光分析装置により測定することにより、吸着剤Aに吸着された金属イオンの吸着百分率を求めた。ここで吸着百分率は次式により計算される。
【0025】
吸着百分率=(吸着前の水溶液中の金属濃度−吸着後の水溶液中の金属濃度)/(吸着前の水溶液中の金属濃度)X100
図2に、上記のように濃硫酸で処理した102330セルロースの吸着剤Aを用いた場合の、先に述べた金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示す。
【0026】
なお、詳細な条件は以下のとおりである。
金属イオンの初濃度:0.1mmol/L
金属溶液の体積:10mL
吸着剤Aの乾燥重量:10mg
振り混ぜ時間:48時間
温度:30℃
金は全ての塩酸の濃度範囲において70%以上吸着されているが、全ての他の金属の吸着は無視でき、金以外の貴金属も卑金属イオンも全く吸着されていない。したがってこの吸着剤Aを用いることにより、金のみを他の金属イオンから選択的に分離・回収することができる。
【0027】
図3に、Chiyoda(株)製の純粋な脱脂綿の不織布コットンシーガルを濃硫酸で処理することにより調製した吸着剤(以下、吸着剤Bとする)を用いた場合のいくつかの金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示す。なお、吸着剤Bを調製する際の濃硫酸での処理条件は、セルロースゲル微結晶102330セルロースを処理した場合と同様である。また、吸着百分率の求め方も、セルロースゲル微結晶102330セルロースを用いた場合と同様である。
【0028】
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
金属イオンの初濃度:0.2mmol/L
金属溶液の体積:10mL
吸着剤Bの乾燥重量:10mg
振り混ぜ時間:24時間
温度:30℃
パラジウム(II)や白金(IV)の僅かな吸着は見られるが鉄や銅といった卑金属の吸着は見られない。これに対して金(III)は塩酸濃度が2M以下ではほぼ定量的に吸着されている。
【0029】
図4に、比較のために無希釈のジブチルカービトールによる様々な金属の溶媒抽出における抽出百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)との関係を示す。
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
【0030】
金属イオンの初濃度: 0.2mM
振り混ぜ速度:138rpm
振り混ぜ時間:98時間
温度:30℃
有機相体積:10mL
水相体積:10mL
塩酸濃度が2M以上になると鉄(III)の抽出が大きくなり金に対しての選択性の著しい低下が見られる。
【0031】
図5に、同じく比較のためにジメチルアミンの官能基を有する市販の弱塩基性イオン交換樹脂DIAION WA30を用いた場合の各種の金属イオンの吸着百分率(縦軸)と塩酸濃度(横軸)の関係を示す。
【0032】
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
金属イオンの初濃度:15mg/L
金属溶液の体積:15mL
吸着剤の乾燥重量:20mg
振り混ぜ時間:24時間
温度:30℃
先の2種類のセルロース系の吸着剤A、Bとは異なり、金(III)以外に白金(IV)やパラジウム(II)も同程度に吸着される。また卑金属の亜鉛は30%程度吸着され、鉄も塩酸の高濃度領域において40%程度吸着されている。このように本発明において開発されたセルロース系の吸着剤A、Bは市販の吸着剤よりも金に対する選択性が非常に優れていることは明らかである。
(吸着等温線)
図6に、濃硫酸で処理したセルロース(セルロースゲル微結晶102330セルロース)の吸着剤Aを使用した場合の30℃における金(III)の吸着等温線、すなわち金の吸着量(縦軸)と吸着後の金濃度(横軸)との関係を示す。
【0033】
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
塩酸濃度:0.1mol/L
塩酸の体積:10mL
吸着剤Aの重量(乾燥重量):10mg
振り混ぜ時間:150時間
温度:30℃
この場合の吸着等温線はLangmuir型の吸着を示しており、吸着量が濃度によらず一定になった領域の吸着量の値より、本吸着剤Aの金に対する飽和吸着量は8mol/kgと求められた。これは吸着剤A1kgに対して1.6kgもの金が吸着したことを意味する。
【0034】
図7に、濃硫酸で処理した綿(Chiyoda(株)製の純粋な脱脂綿の不織布コットンシーガル)の吸着剤Bを使用した場合の30℃における金(III)の吸着等温線を示す。
なお、詳細な試験条件は以下のとおりである。
【0035】
塩酸濃度:0.1mol/L
塩酸の体積:10mL
吸着剤Bの重量(乾燥重量):10mg
振り混ぜ時間:96時間
温度:30℃
この場合も吸着等温線はLangmuir型の吸着を示しており、吸着量が濃度によらず一定になった領域の吸着量の値より、本吸着剤Bの金に対する飽和吸着量は6mol/kgと求められた。これは吸着剤B1kgに対して1.2kgもの金が吸着したことを意味する。
【0036】
濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aを、0.83mg/Lの希薄濃度の金(III)を含む0.25Mの濃度の塩酸に添加して、30℃で24時間振り混ぜて、金の残存濃度を測定した。この測定を、セルロースの吸着剤Aの量を様々に変えて行った。固液比(吸着剤と塩酸との比)と金の残存濃度との関係を図8に示す。
【0037】
その結果、1Lの液(塩酸)に対して1gの吸着剤Aを添加すれば希薄濃度の金も定量的に回収できることが分かる。
濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bを、0.2mMの濃度の金(III)を含む0.1Mの濃度の塩酸に添加して24時間振り混ぜて、金の残存濃度を測定した。この測定を、綿の吸着剤Bの量を様々に変えて行った。固液比(吸着剤と塩酸との比)と金の残存濃度との関係を図9における「cross linked cotton」に示す。
【0038】
また、綿の吸着剤Bの代わりに、原料の綿(濃硫酸で処理していない綿)を用いて、同様の測定を行った。その結果を図9における「Raw cotton」に示す。
原料の綿には金は吸着されないが、濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bを用いると1Lの液に対して1g程度添加することにより定量的に金が回収できることが分かる。
(固体の金の微粒子の生成)
濃硫酸で処理したセルロースの吸着剤Aに、上記のようにして金を吸着し、その後、吸着剤Aを取り出して乾燥した。その状態の吸着剤Aを光学顕微鏡で観察した写真を図10に示す。
【0039】
濃硫酸で処理した綿の吸着剤Bに、上記のようにして金を吸着し、その後、吸着剤Bを取り出して乾燥した。その状態の吸着剤Bを光学顕微鏡で観察した写真を図11に示す。
それぞれの吸着剤に吸着された金(III)イオンはさらに元素状の金に還元され、金粒子に成長したと考えられる。図6及び7に示した吸着剤においてみられる金に対しての非常に高い吸着容量はこのような金粒子の生成によるものと考えられる。
【0040】
また、回収した金が、金(III)イオンではなく、金粒子として得られるので、金の回収が一層容易である。
尚、本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0041】
例えば、吸着剤は、綿以外の炭水化物を用いて調製してもよい。例えば、紙を用いて調製することができる。
また、吸着剤A、Bは、硫酸以外の強酸(例えば塩酸)を用いて脱水縮合架橋することで調製してもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル結合を有する炭水化物を含むことを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
強酸を用いて脱水縮合架橋された炭水化物を含むことを特徴とする吸着剤。
【請求項3】
前記強酸は硫酸又は塩酸であることを特徴とする請求項2に記載の吸着剤。
【請求項4】
前記炭水化物がセルロースであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸着剤。
【請求項5】
前記セルロースが、綿、麻、及び紙からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4記載の吸着剤。
【請求項6】
溶液中に溶解した貴金属を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項1】
エーテル結合を有する炭水化物を含むことを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
強酸を用いて脱水縮合架橋された炭水化物を含むことを特徴とする吸着剤。
【請求項3】
前記強酸は硫酸又は塩酸であることを特徴とする請求項2に記載の吸着剤。
【請求項4】
前記炭水化物がセルロースであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸着剤。
【請求項5】
前記セルロースが、綿、麻、及び紙からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4記載の吸着剤。
【請求項6】
溶液中に溶解した貴金属を、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸着剤に吸着させることで、前記貴金属を回収することを特徴とする貴金属の回収方法。
【図3】
【図4】
【図7】
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図7】
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−170950(P2012−170950A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39071(P2011−39071)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
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