説明

吸着剤組成物、吸着剤及びその施工方法

【課題】各種の汚染物質を吸着する性能が高く、取り扱い性に優れ、事後処理も容易な吸着剤組成物、及びそれを用いて得られる吸着剤を提供する。
【解決手段】紺青、ゼオライト、及び活性炭からなる群より選択される少なくとも一種の吸着成分と、0〜100℃の水に可溶な高分子化合物と、水と、を必須成分として含有する吸着剤組成物である。また、この吸着剤組成物を乾燥して、放射性物質を吸着させて処理するために用いられる粒状、繊維状、又はフィルム状の吸着剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質により汚染された土壌を浄化等するのに好適な吸着剤組成物、吸着剤、及び吸着剤の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭やゼオライトは吸着剤として優れた性能を有しており、公害関係を中心とした幅広い分野において、汚染物質の吸着や浄化に活用されている。例えば、汚染物質を含む汚染土壌や汚染水を活性炭やゼオライトで処理し、汚染物質を活性炭やゼオライトに吸着させて除去することで、清浄化された土壌や水を得ることが一般的に行われている。
【0003】
また、活性炭やゼオライトは、放射性物質を吸着する性能をも有することが知られており、原子力発電所等の施設から発生する放射性物質を含有する汚染水を浄化する材料としても有用である。例えば、活性炭を充填した濾過槽に放射性物質を含有する汚染水を通過させ、放射性物質を活性炭に吸着させる浄化方法が開示されている(特許文献1参照)。さらに、放射性物質が溶解又は懸濁した汚染水にゼオライトを含む粒子を接触させ、放射性物質を粒子に吸着させる浄化方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
また、電極材や金属吸着剤等に顔料として用いられる紺青(フェロシアン化金属化合物)は、放射性セシウムの吸着剤として知られている。例えば、フェロシアン化金属化合物を添着したゼオライトを吸着剤として用いる、放射性セシウムを含有する廃液の処理方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−232773号公報
【特許文献2】特開2005−177709号公報
【特許文献3】特公昭62−43519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
活性炭、ゼオライト、及び紺青等の吸着成分は、可能な限り吸着能力を向上させるべく、いずれも粉末状又は粒子状にして用いられることが一般的である。しかしながら、粉末状等にしたこれらの吸着成分は、粉舞いを生じ易いので、必ずしも取り扱いが容易ではない。また、土壌に含まれる汚染物質を吸着させようとして散剤したりすると、その場に留まらずに分散し易いので、回収作業等の事後処理が困難になる場合が多い。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題とするところは、各種の汚染物質を吸着する性能が高く、取り扱い性に優れ、事後処理も容易な吸着剤組成物及び吸着剤を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記吸着剤の効率的で簡易な施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、紺青、ゼオライト、及び活性炭からなる群より選択される少なくとも一種の吸着成分と、所定温度の水に可溶な高分子化合物と、水と、を必須成分として含有させることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、紺青、ゼオライト、及び活性炭からなる群より選択される少なくとも一種の吸着成分と、0〜100℃の水に可溶な高分子化合物と、水と、を必須成分として含有する吸着剤組成物が提供される。
【0010】
本発明においては、高分子化合物が、水酸基、アミノ基及びその酸塩、並びにカルボキシル基及びそのアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも一種をその分子内に有する化学修飾ポリマー又は合成ポリマーであることが好ましく;高分子化合物が、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。なお、高分子化合物が、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、並びにポリメタクリル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
(B/A)×100≧70 ・・・(1)
A:前記高分子化合物の水溶液を脱水乾燥して得られる第一の乾燥物の質量(g)
B:前記第一の乾燥物を25℃の水に1時間浸漬した後、水洗し、110℃で2時間乾燥して得られる第二の乾燥物の質量(g)
【0011】
本発明においては、界面活性剤、塩、尿素、及び糖類からなる群より選択される少なくとも一種の水溶性化合物をさらに含有することが好ましい。なお、界面活性剤が、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種であり、塩が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種のカチオン成分と、硫酸、塩酸、及びリン酸からなる群より選択される少なくとも一種のアニオン成分との塩であることが好ましい。また、本発明においては、キチン、キトサン、セルロース、及びポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも一種の、水不溶性の生分解性物質をさらに含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、放射性物質を吸着させて処理するために用いられる吸着剤であって、粒状、繊維状、又はフィルム状であるとともに、上述の吸着剤組成物を乾燥して得られる吸着剤(以下、「第一の吸着剤」とも記す)が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、放射性物質を吸着させて処理するために用いられる吸着剤であって、天然若しくは合成繊維製の織布、不織布又は紙からなる基材と、前記基材上に担持された上述の吸着剤組成物からなる吸着層と、を備えた吸着剤(以下、「第二の吸着剤」とも記す)が提供される。本発明の第一及び第二の吸着剤は、フィルム状であるとともに、一方の面から他方の面へと貫通する、開口短径0.5mm以上の複数の貫通孔が形成されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、放射性物質を吸着させて処理するために用いられる吸着剤の施工方法であって、前述の吸着剤組成物を所定の場所に配置する工程と、配置された前記吸着剤組成物を乾燥して必要量の水を除去する工程と、を有する吸着剤の施工方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の吸着剤組成物及び吸着剤は、各種の汚染物質を吸着する性能が高く、取り扱い性に優れ、事後処理も容易なものである。また、本発明の吸着剤の施工方法によれば、上記の吸着剤を、所望とする場所に効率的かつ簡易に施工することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、以降、単に「吸着剤」というときは、「第一の吸着剤」と「第二の吸着剤」のいずれをも意味する。
【0017】
1.吸着剤組成物
本発明の吸着剤組成物は、紺青、ゼオライト、及び活性炭からなる群より選択される少なくとも一種の吸着成分と、0〜100℃の水に可溶な高分子化合物と、水と、を必須成分として含有する。以下、その詳細について説明する。
【0018】
(吸着成分)
吸着成分は、紺青、ゼオライト、又は活性炭である。なお、これらの吸着成分は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。すなわち、一種のみを吸着成分として用いてもよいし、三種のすべてを組み合わせて用いてもよい。
【0019】
吸着剤組成物に含まれる吸着成分の割合は、高分子化合物100質量部に対して0.1〜500質量部であることが好ましく、50〜200質量部であることがさらに好ましい。吸着成分の割合が0.1質量部未満であると汚染物質の吸着性能が不十分となる傾向にある。一方、吸着成分の割合が500質量部超であると、吸着剤組成物中に吸着成分を良好な状態で保持することが困難となる傾向にある。
【0020】
(紺青)
紺青は、フェロシアン化第二鉄を主成分とする青色顔料である。フェロシアン化第二鉄は、下記一般式(2)で表される化合物である。なお、下記一般式(2)中、MはK、NH4、Na、又はFeを示し、nはMの価数を示す。
1/nFe[Fe(CN)6] ・・・(2)
【0021】
紺青は、工業的に量産される、極めて微細な粒子状の顔料である。紺青は、一般的にはインキ、絵の具、化粧品等に広く使用されており、安全性の高いものである。そして、紺青は、その結晶構造が立方晶形であり、1価の陽イオン、なかでもセシウムイオン(Cs+)をその格子内に選択的に取り込むことができる。また、紺青は、安定同位体であるセシウム133(133Cs)だけでなく、放射性同位体であるセシウム137(137Cs)も吸着しうる。このため、吸着成分として紺青を用いた場合には、放射性セシウムにより汚染された土壌等を浄化するための吸着剤組成物として極めて有用である。
【0022】
汚染物質の吸着性能を考慮すると、紺青の粒子径は小さいことが好ましい。粒子径が小さいほど比表面積が大きくなるからである。具体的には、紺青の数平均粒子径は0.03〜0.2μmであることが好ましく、0.05〜0.1μmであることがさらに好ましい。その数平均粒子径が上記数値範囲である紺青を用いることで、例えば土壌中の汚染物質を効率的に吸着することができる。
【0023】
(ゼオライト)
ゼオライトとしては、例えば、工業的に利用されている粒子状の一般的なゼオライトを用いることができる。ゼオライトとしては、水素型ゼオライト、ナトリウム型ゼオライト、カリウム型ゼオライト、カルシウム型ゼオライト、マグネシウム型ゼオライト、アルミニウム型ゼオライト、鉄型ゼオライト、銀型ゼオライト、及び銅型ゼオライトのいずれのゼオライトであってもよい。
【0024】
汚染物質の吸着性能を考慮すると、ゼオライトの粒子径は小さいことが好ましい。粒子径が小さいほど比表面積が大きくなるからである。具体的には、ゼオライトの数平均粒子径は10〜1000μmであることが好ましく、100〜500μmであることがさらに好ましい。その数平均粒子径が上記数値範囲であるゼオライトを用いることで、例えば土壌中の汚染物質を効率的に吸着することができる。
【0025】
(活性炭)
活性炭としては、例えば、工業的に利用されている粒子状(又は粉末状)の一般的な活性炭を用いることができる。活性炭の粒子径は小さいことが好ましい。粒子径が小さいほど比表面積が大きくなるからである。具体的には、活性炭の数平均粒子径は0.01〜500μmであることが好ましく、0.1〜50μmであることがさらに好ましい。その数平均粒子径が上記数値範囲である活性炭を用いることで、例えば土壌中の汚染物質を効率的に吸着することができる。
【0026】
(高分子化合物)
高分子化合物は、0〜100℃の水に可溶な親水性の化合物である。この高分子化合物は、吸着成分を保持するバインダーとしての機能を果たしていると考えられる。具体的には、本発明の吸着剤組成物は、高分子化合物を含んでなる連結相中に吸着成分が捕捉されることによって構成されていると推測される。
【0027】
本発明の吸着剤組成物又は吸着剤(後述)を土壌等の含水雰囲気下においた場合を想定すると、親水性の高分子化合物が水と馴染んで(又は水を吸収して)、連結相の一部溶解又は膨潤する。そして、一部溶解又は膨潤した高分子化合物からなる連結相には、水が流通しうる微細な流通路が形成される。このため、水に溶け込んだ汚染物質は、水が流通路を流通する際に、連結相中に捕捉された粒子状の吸着成分と接触し易くなるものと推測される。したがって、本発明の吸着剤組成物は、各種の汚染物質を吸着する性能が高く、土壌等の水分を含有する浄化対象物を特に効率的に浄化することができる。
【0028】
高分子化合物は、化学修飾ポリマー又は合成ポリマーであることが好ましい。化学修飾ポリマーとは、天然ポリマーの置換基を化学的に修飾したポリマーをいう。また、合成ポリマーとは、モノマーを用いて化学的に合成されたポリマーをいう。このような化学修飾ポリマーや合成ポリマーとしては、水酸基、アミノ基及びその酸塩、並びにカルボキシル基及びそのアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも一種をその分子内に有するものを挙げることができる。
【0029】
高分子化合物としては、(i)25℃前後の水(冷水)には溶解し難く、温水には溶解し易いもの、或いは(ii)水溶性ではあるが110℃前後の高温で処理することで水溶性が低下する(水不溶性になる)ものが好ましい。このような高分子化合物を用いることで、例えば汚染物質で汚染された土壌を浄化するために用いられる際に、土壌中の水分で容易に溶解して分散し難く、比較的長期間にわたって吸着性能を発揮する吸着剤を生成可能な吸着剤組成物とすることができる。なお、上記(i)及び(ii)の要件を満たす高分子化合物は、例えば、下記式(1)の関係を満たすものである。
(B/A)×100≧70 ・・・(1)
A:高分子化合物の水溶液を脱水乾燥して得られる第一の乾燥物の質量(g)
B:第一の乾燥物を25℃の水に1時間浸漬した後、水洗し、110℃で2時間乾燥して得られる第二の乾燥物の質量(g)
【0030】
高分子化合物の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、並びにポリメタクリル酸及びその塩等の親水性樹脂を挙げることができる。これらの親水性樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの親水性樹脂は、親水性、生分解性、水による膨潤性、及び価格等の観点から好ましい。なかでも、ポリビニルアルコールが好ましい。また、これらの親水性樹脂等の高分子化合物の少なくとも一部を架橋剤によって架橋し、水溶解性を適宜調整することも好ましい。
【0031】
なお、上記の親水性樹脂等の高分子化合物は、ある程度の生分解性を示すものではあるが、その分解速度はそれほど速いものではない。このため、これらの親水性樹脂を含有する吸着剤組成物からなる吸着剤を、例えば土壌等に施工した場合には、ある程度の期間(例えば、ポリビニルアルコールであれば年単位)は分解されずにその場に保持される。このため、例えば土壌に含まれる放射性セシウム137を吸着して浄化する場合を想定すると、少なくとも1〜2年の間は放射性セシウムを吸着可能であるとともに、徐々に生分解されるので、事後処理の手間がかからないといった利点がある。
【0032】
また、ポリビニルアルコールは、その「けん化度」によって膨潤性が変化する。このため、適当なけん化度を有するポリビニルアルコールを高分子化合物として用いることで、吸着剤組成物、及びこれを用いて得られる吸着剤の吸着性能を最適なものとすることができる。具体的には、ポリビニルアルコールのけん化度は50〜80mol%であることが好ましい。
【0033】
吸着剤組成物に含まれる高分子化合物の好ましい割合は、高分子化合物の分子量等にも左右されて一概にはいえないが、例えば、吸着成分100質量部に対して1〜90質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがさらに好ましい。高分子化合物の割合が上記の数値範囲外であると、吸着剤組成物中に吸着成分を良好な状態で捕捉することが困難となる傾向にある。
【0034】
(水)
本発明の吸着剤組成物には、必須成分として水が含有されている。水を含有することで、土壌等の水分を含有する浄化対象物を特に効率的に浄化することが可能な吸着剤組成物とすることができる。なお、水の含有割合は、吸着剤組成物の全体に対して1〜90質量%であることが好ましい。
【0035】
また、水の含有割合を変えることで、種々の特性を有する吸着剤組成物とすることができる。例えば、水の含有割合を1質量%以上10質量%未満とすることで、粒状、繊維状、又はフィルム状等の一定形状が維持された吸着剤組成物(吸着剤)とすることができる。このような一定形状が維持された吸着剤組成物(吸着剤)は、そのままの状態で所定の場所に施工することができる。
【0036】
また、水の含有割合を10質量%以上30質量%未満とするとともに、高分子化合物として前述の親水性樹脂(好ましくはポリビニルアルコール)を用いると、押出成形等の成形加工が可能な熱可塑性を有する吸着剤組成物とすることができる。このように熱可塑性を有する吸着剤組成物については、所望とする形状に形状加工した上で所定の場所に施工することができる。さらに、水の含有割合を30質量%以上90質量%以下とすることで、ペースト状又は液状の吸着剤組成物とすることができる。このようなペースト状又は液状の吸着剤組成物は、塗布又は散布等によって所定の場所に施工することができる。
【0037】
(添加剤)
本発明の吸着剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。添加剤としては、水溶性化合物(但し、前述の高分子化合物を除く)、及び水不溶性の生分解性物質等を挙げることができる。
【0038】
(水溶性化合物)
水溶性化合物を含有させた吸着剤組成物を用いてなる吸着剤を、例えば土壌等に施工した場合には、汚染物質の吸着性能が経時的に向上するために好ましい。このように経時的に吸着性能が向上する機構については、以下のように推測される。例えば、吸着剤組成物に含まれる水溶性化合物は土壌中の水分に溶解して徐々に流出し、水溶性化合物が存在した箇所には、微細な穴(空洞)が形成される。形成された微細な穴(空洞)が、水が流通しうる流通路として機能し、高分子化合物からなる連結相中に捕捉された粒子状の吸着成分と、汚染物質を含有する水とがより接触し易くなるためであると推測される。なお、水溶性化合物として、土壌等に対して悪影響を及ぼさないもの、又は土壌等に対して好ましい影響を与えるもの(例えば、肥料成分等)を用いることが好ましい。
【0039】
水溶性化合物としては、界面活性剤、塩、尿素、及び糖類等を用いることができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等を挙げることができる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソトリデシルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩;ジ(ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル)スルホコハク酸ナトリウム等のジポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸塩;オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム等の脂肪酸塩等を挙げることができる。
【0041】
カチオン性界面活性剤の具体例としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩;塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム塩等のアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0042】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリル酸ジエタノールアミド等のアルキロールアミド;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のポリオキシアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ジステアリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;モノカプリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、ジステアリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル;モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;グリコールエーテル等を挙げることができる。
【0043】
両性界面活性剤の具体例としては、ヤシ油アルキルベタイン等のアルキルベタイン;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルアミドベタイン;Z−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリームベタイン等のイミダゾリン類;ポリオクチルポリアミノエチルグリシン等のグリシン類等を挙げることができる。
【0044】
塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種のカチオン成分と、硫酸、塩酸、及びリン酸からなる群より選択される少なくとも一種のアニオン成分との塩等を挙げることができる。これらの塩は、例えば、融雪剤等として用いられるもの(塩化カルシウム等)、或いは肥料成分等として用いられるもの(硫安等)であるので、環境に対する悪影響が生じ難い点においても好ましい。また、尿素や糖類も、環境に対する悪影響が生じ難く、かつ、土壌等に対して好ましい影響を与えうる成分であるために好ましい。
【0045】
吸着剤組成物に含まれる水溶性化合物の割合は、吸着剤組成物の全体に対して1〜30質量%とすることが好ましく、5〜20質量%とすることがさらに好ましい。水溶性化合物の含有割合を上記の数値範囲内とすることで、吸着剤組成物の吸着性能をより効率的に発揮させることができる。
【0046】
(生分解性物質)
水不溶性の生分解性物質を含有させた吸着剤組成物を用いてなる吸着剤を、例えば土壌等に施工した場合には、汚染物質の吸着性能が経時的に向上するために好ましい。このように経時的に吸着性能が向上する機構については、以下のように推測される。例えば、吸着剤組成物に含まれる生分解性物質は土壌中の微生物により徐々に分解され、生分解性物質が存在した箇所には、微細な穴(空洞)が形成される。形成された微細な穴(空洞)が、水が流通しうる流通路として機能し、高分子化合物からなる連結相中に捕捉された粒子状の吸着成分と、汚染物質を含有する水とがより接触し易くなるためであると推測される。
【0047】
生分解性物質としては、キチン、キトサン、セルロース、でんぷん及びポリ乳酸等を挙げることができる。これらの生分解性物質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、吸着剤組成物に含まれる生分解性物質の割合は、吸着剤組成物の全体に対して1〜30質量%とすることが好ましく、5〜20質量%とすることがさらに好ましい。生分解性物質の含有割合を上記の数値範囲内とすることで、吸着剤組成物の吸着性能をより効率的に発揮させることができる。
【0048】
(その他の成分)
本発明の吸着剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて「その他の成分」を添加することができる。「その他の成分」としては、可塑剤、低級・多価アルコール、グリセリン、無機フィラー、金属石鹸、無機・有機顔料、紫外線吸収剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、香料、油分等を挙げることができる。
【0049】
2.吸着剤及びその施工方法
本発明の吸着剤は、放射性物質を吸着させて処理するために用いられる吸着剤である。そして、本発明の第一の吸着剤は、粒状、繊維状、又はフィルム状であるとともに、前述の吸着剤組成物を乾燥して得られるものである。また、本発明の第二の吸着剤は、天然若しくは合成繊維製の織布、不織布又は紙からなる基材と、この基材上に担持された前述の吸着剤組成物からなる吸着層と、を備えたものである。
【0050】
第一の吸着剤は、前述の吸着剤組成物を乾燥し、水分の一部又は全部を除去することで製造することができる。吸着剤組成物を乾燥する方法については特に限定されない。例えば、(i)吸着剤組成物を所定の形状に成形した後、乾燥機等の機器を用いて乾燥させる方法、(ii)ペースト状又は液状の吸着剤組成物を所望とする場所に塗布又は散布した後、人為的に又は自然に乾燥させる方法等によって、第一の吸着剤を得ることができる。
【0051】
第二の吸着剤の基材を構成する材料は、織布、不織布又は紙である。織布、不織布、及び紙は、天然繊維製であっても、合成繊維製であってもよい。このような基材の一方の面上又は両面上に吸着層を担持することで、第二の吸着剤を得ることができる。吸着層は、前述の吸着剤組成物を用いて形成される。例えば、吸着剤組成物がペースト状又は液状である場合には、基材の表面上に吸着剤組成物を塗工した後に乾燥することで、吸着層を形成することができる。また、吸着剤組成物が熱可塑性を有する場合には、例えば粒子状(ビーズ状)に成形した吸着剤組成物を基材の表面上に配置するとともに、熱プレス等することにより吸着層を形成することができる。
【0052】
吸着剤の全体形状はフィルム状(シート状又は板状)であることが、例えば土壌等を浄化する場合の利便性の観点から好ましい。また、吸着剤の全体形状はフィルム状である場合には、一方の面から他方の面へと貫通する複数の貫通孔が形成されていることが好ましい。貫通孔が形成されていることで、例えば土壌等を浄化する場合において、貫通孔を通じて流通する放射性物質を含む水分と、吸着剤中の吸着成分との接触機会が増加し、浄化効率が向上するために好ましい。
【0053】
フィルム状の吸着剤に形成される貫通孔の開口短径は、0.5mm以上であることが好ましく、5〜20mmであることが好ましい。貫通孔の開口短径を上記の数値範囲内とすることで、吸着剤の浄化効率をさらに向上させることができる。
【0054】
例えば、放射性物質で汚染された汚染土壌を浄化する方法として、所定の浄化装置に汚染土壌を搬送及び導入して処理するとともに、処理後の土壌を元の場所に戻す方法が考えられる。しかしながら、この方法では、一度に大量の汚染土壌を浄化するのは困難である。また、土壌から除去した放射性物質を長期間にわたって保存する必要が生ずる場合もある。このため、大量の放射性物質が生ずるような場合には、保存場所の確保や保存中の管理等、事後処理が必ずしも実用的であるとはいえない。
【0055】
これに対して、放射性物質による汚染の度合いが比較的低く、かつ、処理量が多い汚染土壌については、処理装置や施設等で浄化するのではなく、汚染表層土を除去するとともに、除去した汚染表層土と下層土とを入れ替える処理が有効であると考えられている。この処理は、実際に小学校の校庭等において試験的に行われていることがテレビ報道されている。この処理においては、入れ替えられて下側に配置された汚染表層土から、さらに深層側へと放射性物質が拡散するのを抑制することが望ましい。
【0056】
そこで、汚染表層土を配置する前に、本発明の吸着剤(又は吸着剤組成物)を配置(施工)しておき、その上に汚染表層土と下層土を順次配置すれば、更なる深層側への放射性物質の拡散を抑制することができる。また、本発明の吸着剤は親水性の高分子化合物からなる連結相を有するので、水と馴染み易く、連結相中に捕捉された粒子状の吸着成分と放射性物質が接触し易い。さらに、本発明の吸着剤は、粉末状で粉舞いし易い紺青等と異なり、取り扱いも容易であるとともに、施工後もその場に留まって分散し難い。このため、本発明の吸着剤を上記の処理に組み込むことで、汚染土壌を効率的かつ簡便に浄化することができる。
【0057】
本発明の吸着剤の施工方法は、前述の吸着剤組成物を所定の場所に配置する工程(第一の工程)と、配置された吸着剤組成物を乾燥して吸着剤とする工程(第二の工程)と、を有する。第一の工程において用いる吸着剤組成物がペースト状又は液状である場合には、例えば塗布又は散布することで吸着剤組成物を所定の場所に配置することができる。また、吸着剤組成物がフィルム状である場合には、そのままの状態で吸着剤組成物を所定の場所に配置すればよい。
【0058】
吸着剤組成物には水が含まれているので、第二の工程において乾燥して水分を除去する。これにより、所定の場所に吸着剤を施工することができる。吸着剤組成物を乾燥する方法については特に限定されない。例えば、ペースト状又は液状の吸着剤組成物を土壌に散布等した場合には、自然乾燥することによって吸着剤とすることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0060】
(実施例1)
ポリビニルアルコール(けん化度:80mol%)20部を水1000部に分散させ、100℃で加熱撹拌して溶解させた後、30℃まで放冷して、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコールの水溶液に、紺青顔料(商品名「ミロリブルー905」、前記一般式(2)中のMはNH4、大日精化工業社製)2部を撹拌分散させ、ヘンシェルミキサーで混合して吸着剤組成物を得た。得られた吸着剤組成物を硝子板上に流延乾燥した後、硝子板からはがし、厚さ50μm×幅5mm×長さ100mmに裁断して短冊状のフィルム(吸着剤)を得た。
【0061】
得られた短冊状のフィルム30gを巻き取り、内径12mmのカラムに充填した。硝酸セシウム70mg/L、及び硫酸ナトリウム200g/Lを含有する硝酸セシウム水溶液(中性)500mLを、2mL/分の速度でカラムに通過させた。
カラムから流出した流出液のセシウム濃度を原子吸光分析装置(検出限界:0.006mg/L)を使用して測定した。下記式(3)に従って算出した除染係数は「850」であった。
除染係数=硝酸セシウム水溶液のセシウム濃度/流出液のセシウム濃度
・・・(3)
【0062】
(比較例1)
紺青を添加しなかったこと以外は、前述の実施例1と同様にして短冊状のフィルムを得た。また、前述の実施例1と同様にして算出した除染係数は「0.52」であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の吸着剤組成物及び吸着剤を用いれば、放射性物質により汚染された土壌を優れた効率で簡便に浄化することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紺青、ゼオライト、及び活性炭からなる群より選択される少なくとも一種の吸着成分と、0〜100℃の水に可溶な高分子化合物と、水と、を必須成分として含有する吸着剤組成物。
【請求項2】
前記高分子化合物が、水酸基、アミノ基及びその酸塩、並びにカルボキシル基及びそのアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも一種をその分子内に有する化学修飾ポリマー又は合成ポリマーである請求項1に記載の吸着剤組成物。
【請求項3】
前記高分子化合物が、下記式(1)の関係を満たす請求項1又は2に記載の吸着剤組成物。
(B/A)×100≧70 ・・・(1)
A:前記高分子化合物の水溶液を脱水乾燥して得られる第一の乾燥物の質量(g)
B:前記第一の乾燥物を25℃の水に1時間浸漬した後、水洗し、110℃で2時間乾燥して得られる第二の乾燥物の質量(g)
【請求項4】
前記高分子化合物が、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、並びにポリメタクリル酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
【請求項5】
界面活性剤、塩、尿素、及び糖類からなる群より選択される少なくとも一種の水溶性化合物をさらに含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸着剤組成物。
【請求項6】
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記塩が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種のカチオン成分と、硫酸、塩酸、及びリン酸からなる群より選択される少なくとも一種のアニオン成分との塩である請求項5に記載の吸着剤組成物。
【請求項7】
キチン、キトサン、セルロース、及びポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも一種の、水不溶性の生分解性物質をさらに含有する請求項1に記載の吸着剤組成物。
【請求項8】
放射性物質を吸着させて処理するために用いられる吸着剤であって、
粒状、繊維状、又はフィルム状であるとともに、請求項1〜7のいずれか一項に記載の吸着剤組成物を乾燥して得られる吸着剤。
【請求項9】
放射性物質を吸着させて処理するために用いられる吸着剤であって、
天然若しくは合成繊維製の織布、不織布又は紙からなる基材と、
前記基材上に担持された請求項1〜7のいずれか一項に記載の吸着剤組成物からなる吸着層と、を備えた吸着剤。
【請求項10】
フィルム状であるとともに、
一方の面から他方の面へと貫通する、開口短径0.5mm以上の複数の貫通孔が形成されている請求項8又は9に記載の吸着剤。
【請求項11】
放射性物質を吸着させて処理するために用いられる吸着剤の施工方法であって、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の吸着剤組成物を所定の場所に配置する工程と、
配置された前記吸着剤組成物を乾燥して必要量の水を除去する工程と、を有する吸着剤の施工方法。

【公開番号】特開2012−250211(P2012−250211A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126524(P2011−126524)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】