説明

吸着剤

【課題】VOCのなかでも特にスチレンに対して有効な吸着剤を提供することを目的としている。
【解決手段】吸着剤1は、吸着作用を持つゼオライト2に過酸化物4を保持させたものである。これにより、通常のVOCはゼオライト2の吸着作用により除去され、スチレンにおいては、吸着された後、保持された過酸化物4がスチレン重合の開始剤となり、スチレンはポリマーとなっていくため、過酸化物4を保持しないものに比べスチレンの吸着容量が増大し、スチレンを排出しない有用なものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物、特に、スチレンを除去する吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅の高気密化に伴って、シックハウス症候群やシックビル症候群と呼ばれる健康被害が問題となっている。これらは、建材に含まれる揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound:以降、ホルムアルデヒドを含めてVOCと表記する)が揮発してくることが主な原因と考えられている。
【0003】
このため、従来から、VOCを除去するために換気法などが用いられているが、近年では吸着剤などを用いて積極的に除去する方法も用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平10−337440号公報
【特許文献2】特開2001−046867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、VOCの低減対策としては建材を中心に考えられてきたが、近年においては欧州規格であるブルーエンジェル規格が発動され、複写機やプリンターなどから発生するVOCにも規制がかかるものとなってきた。
【0005】
従来の吸着剤では、建材中心で考えられていたため、主にホルムアルデヒドらの除去には効果のあるものであったが、今回のように複写機やプリンターから発生するVOCとしてはスチレンが最も多く、スチレンに対しては従来の吸着剤では性能不足であった。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、VOCのなかでも特にスチレンに対して有効な吸着剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明の吸着剤は、吸着作用を持つ基材に過酸化物を保持させたものである。
【0008】
これにより、通常のVOCは基材の吸着作用により除去され、スチレンにおいては、吸着された後、保持された過酸化物がスチレン重合の開始剤となり、スチレンはポリマーとなっていくため、過酸化物を保持しないものに比べスチレンの吸着容量が増大し、スチレンを排出しない有用なものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸着剤は、VOCのなかでも特にスチレンに対して有効で、スチレンを排出しないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明は、吸着作用を持つ基材に過酸化物を保持させた吸着剤とすることにより、通常のVOCは基材の吸着作用により除去され、スチレンにおいては、吸着された後、保持された過酸化物がスチレン重合の開始剤となり、スチレンはポリマーとなっていくため、過酸化物を保持しないものに比べスチレンの吸着容量が増大し、スチレンを排出しない有用なものとすることができる。
【0011】
第2の発明は、特に、第1の発明において、過酸化物はペルオキシ化合物であることにより、スチレン重合の開始をより確実に行なうことができるものとなる。
【0012】
第3の発明は、特に、第2の発明において、ペルオキシ化合物はペルオキシ酸、ペルオキシド、ペルオキシ酸エステルのいずれかを含むことにより、具体的に吸着剤を作製することができる。
【0013】
第4の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明において、基材は細孔構造を持つ吸着材料であることにより、吸着容量を増大させることができる。
【0014】
第5の発明は、特に、第4の発明において、細孔構造を持つ吸着材料は活性炭、ゼオライト、アルミナ、シリカのいずれかを含むことにより、具体的に吸着剤を作製することができる。
【0015】
第6の発明は、特に、第5の発明において、過酸化物は吸着材料の細孔内部に保持されていることにより、VOCのなかでも特にスチレンを細孔内部まで保持し、吸着容量を増大させることができる。
【0016】
第7の発明は、特に、第1〜第6のいずれか1つの発明において、基材は通気可能な形状であることにより、VOCのなかでも特にスチレンの除去フィルタとして用いることが可能となる。
【0017】
第8の発明は、特に、第7の発明において、基材の通気可能な形状はハニカム形状であることにより、高効率で低圧損の除去フィルタとして用いることが可能となる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1〜図5は、本発明の実施の形態1における吸着剤とその性能を示すものである。
【0020】
図1(a)の構成に示すように、本実施の形態における吸着剤1は、ハニカム形状をしている。また、図1(b)において拡大して示すように、吸着作用を持つ基材を構成するゼオライト2には、細孔3が存在する。また、細孔3の壁面には過酸化物4、すなわち、ペルオキシ酸化合物である過酢酸が保持されている。
【0021】
本実施の形態では、まず、容器内で粉末状のゼオライト2を水に分散させたうえに、過酸化物4である過酢酸を入れ撹拌してスラリー状とする。ここに無機材料で構成されたハニカム形状の基材を浸漬させ、エアブローで目詰まりをなくした後、充分に時間をかけて撹拌する。そして、オーブンに入れ100℃で充分乾燥させる。これにより、表面上の過酢酸は蒸散するが、ゼオライト2の細孔3内部には過酸化物4である過酢酸が保持され、本実施の形態の吸着剤1となる。なお、ハニカム形状の基材のセル数は1平方インチあたり200個のものを用いている。
【0022】
以上のように作製された吸着剤1において、各VOCの破過性能を測定した。VOCとしてホルムアルデヒド、トルエン、ベンゼン、スチレンを評価した。測定条件は空間速度を12000/hとし、濃度を10ppmとした。結果を図2〜図5に示す。また、対照実験として無処理のゼオライトを担持したハニカムも評価した。各図において、本実施の形態における吸着剤の特性は実線で、比較であるゼオライトの特性は破線で示す。
【0023】
図2〜図4において、ホルムアルデヒド、トルエン、ベンゼンは、実線と破線はほぼ重なり、同等の性能を維持していることがわかる。これらに対し、図5において、実線は破線に対して約10倍の伸びを示しており、スチレンに関しては大幅に吸着容量が増大したことを示している。
【0024】
これは、スチレンにおいては、ゼオライト2に吸着された後、保持された過酸化物4である過酢酸がスチレン重合の開始剤となり、スチレンはポリマーとなっていくため、過酸化物4を保持しないものに比べてスチレン吸着容量が飛躍的に増大することを示している。
【0025】
なお、本実施の形態では過酸化物4としてペルオキシ酸酸化合物である過酢酸を用いたが、過酢酸に限らず、他のペルオキシ酸、ペルオキシド、ペルオキシ酸エステルのいずれかを含むものであっても、同様の効果を持つものである。
【0026】
また、本実施の形態では、吸着作用を持つ基材として細孔構造を持つゼオライト2を用いたが、細孔構造を持つ吸着材料は活性炭、ゼオライト、アルミナ、シリカのいずれかを含むものであっても、同様の効果を持つものである。
【0027】
なお、本実施の形態の吸着剤1は、複写機やプリンター内部にフィルタとして配置しておくことにより、VOCのなかでも特にスチレンを排出しない有用なものとすることができる。
【0028】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における吸着剤について説明する。
【0029】
本実施の形態における吸着剤1は、吸着作用を持つ基材としてゼオライトに代えてアルミナを用いたものである。
【0030】
実施の形態1と同様に容器内で粉末状のアルミナを水に分散させたうえに、過酸化物4である過酢酸を入れ撹拌しスラリー状とする。ここに無機材料で作製された厚さ2mmの不織布を充分に時間をかけて浸漬させ、エアブローで液垂れをなくした後、オーブンに入れ100℃で充分乾燥させる。これにより、表面上の過酢酸は蒸散するが、アルミナ内部には過酢酸が保持され、本実施の形態の吸着剤1となる。
【0031】
以上のように作製された不織布状の吸着剤1において、同様に各VOCの破過性能を測定した。VOCとしてホルムアルデヒド、トルエン、ベンゼン、スチレンを評価した。測定条件は速度を0.2m/sとし、濃度を10ppmとした。結果を図6〜図9に示す。また、対照実験として無処理のアルミナを担持した不織布も評価した。各図において、本実施の形態における吸着剤の特性は実線で、比較であるアルミナの特性は破線で示す。
【0032】
図6〜図8において、ホルムアルデヒド、トルエン、ベンゼンは、実線と破線はほぼ重なり、同等の性能を維持していることがわかる。これらに対し、図9において、実線は破線に対して約5倍の伸びを示しており、同様にスチレンに関しては大幅に吸着容量が増大したことを示している。
【0033】
これは同様に、スチレンにおいては、アルミナに吸着された後、保持された過酸化物4である過酢酸がスチレン重合の開始剤となり、スチレンはポリマーとなっていくため、過酸化物を保持しないものに比べてスチレン吸着容量が飛躍的に増大することを示している。
【0034】
また、実施の形態1のように基材は通気可能な形状、すなわち、ハニカム形状とすることにより、高効率で低圧損のフィルタとして利用することができ、また、本実施の形態のように不織布とすることによってもフィルタと緩衝材などとの併用ができるものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明にかかる吸着剤は、VOCのなかでも特にスチレンに対して有効で、スチレンを排出しないものであるので、複写機やプリンター内部にフィルタとして配置しておくことにより、VOC、特にスチレンを排出しない有用なものとすることができる。また、その他、特に、筐体にABS樹脂を用いた製品群においてはスチレンが発生してくる可能性が高いため、家電分野や産業分野にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における吸着剤の構成を示す斜視図(b)同拡大模式図
【図2】同吸着剤によるホルムアルデヒドの破過性能を示す実験特性図
【図3】同吸着剤によるトルエンの破過性能を示す実験特性図
【図4】同吸着剤によるベンゼンの破過性能を示す実験特性図
【図5】同吸着剤によるスチレンの破過性能を示す実験特性図
【図6】本発明の実施の形態2における吸着剤によるホルムアルデヒドの破過性能を示す実験特性図
【図7】同吸着剤によるトルエンの破過性能を示す実験特性図
【図8】同吸着剤によるベンゼンの破過性能を示す実験特性図
【図9】同吸着剤によるスチレンの破過性能を示す実験特性図
【符号の説明】
【0037】
1 吸着剤
2 ゼオライト
3 細孔
4 過酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着作用を持つ基材に過酸化物を保持させた吸着剤。
【請求項2】
過酸化物はペルオキシ化合物である請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
ペルオキシ化合物はペルオキシ酸、ペルオキシド、ペルオキシ酸エステルのいずれかを含む請求項2に記載の吸着剤。
【請求項4】
基材は細孔構造を持つ吸着材料である請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸着剤。
【請求項5】
細孔構造を持つ吸着材料は活性炭、ゼオライト、アルミナ、シリカのいずれかを含む請求項4に記載の吸着剤。
【請求項6】
過酸化物は吸着材料の細孔内部に保持されている請求項5に記載の吸着剤。
【請求項7】
基材は通気可能な形状である請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸着剤。
【請求項8】
基材の通気可能な形状はハニカム形状である請求項7に記載の吸着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−43526(P2006−43526A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225345(P2004−225345)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】