説明

吸着性塗料

【課題】多孔質材の吸着効率が良く、分散安定性が良好な吸着性塗料を提供し、特に高伸度の要求される用途にも使用できる吸着性塗料とすることである。
【解決手段】柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子粉を、透湿性のアクリルエマルジョン樹脂塗料に分散状態に配合してなる吸着性塗料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水蒸気や臭気成分などの気体中の微粒子を吸着可能な塗料に関し、特にヒトの生活環境で適用できる建材、家具、包装体、日用品などに適用できる吸着性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒトの居住空間において空気中に混在する可能性のある有害物質または不快物質の例として、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アンモニア、メルカプタンなどが知られている。これらは空気中に微細な粒子となって漂う場合があり、これを除去または軽減するために、活性炭などのように吸着性のある物質を利用した防臭剤が用いられている。
【0003】
また、近年では建材や塗料中に防腐剤などとして含まれるホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質が、シックハウス症候群その他ヒトの健康に悪影響を与える場合のあることが知られており、化学物質が微粒子となってヒトが生活する空間に漂う事態を防止または抑制する必要がある。
【0004】
揮発した化学物質を空気中から除去できる塗料の例として、透湿性のポリアミド樹脂塗料に備長炭などの木炭粉末を1〜50%程度配合した塗料が示されており、このものは塗膜に通気性を有して木炭粉末にホルムアルデヒドなどのガスを吸着させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、上記したように、ポリアミド樹脂塗料に木炭粉末を1〜50%程度配合した従来の塗料は、塗膜の気孔を水蒸気や有機ガスが透過する際に透過抵抗(水蒸気の場合は透湿抵抗)が大きく、そのために充分な吸着性を発揮することができないという問題がある。
【0006】
また、充分な吸着性を発揮させるためには、塗料中にできるだけ多量の木炭粉末を配合すればよいが、そのようにすると、塗料中に木炭粉末を均一分散させて経時的に安定させておくことが困難となり、また木炭粉末に対して相対的に塗膜の成分が少なくなり、塗料としての所要の高伸度性が損なわれてしまうという問題がある。
【0007】
このような、従来の吸着性塗料の問題点を解決するため、本発明者は、透湿性のアクリルエマルジョン樹脂塗料に、活性炭もしくは麦飯石または両者を併用した多孔質粒子を分散状態に配合してなる吸着性塗料を提案した(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
上記吸着性塗料は、所定の多孔質粒子を透湿性のアクリルエマルジョン樹脂塗料に分散配合した吸着性塗料としたので、水蒸気その他の微粒子が塗膜を透過して多孔質粒子に到達するときの透過抵抗(水蒸気の場合は透湿抵抗)が小さくなって、多孔質粒子の添加効率が良くなり、このため充分な吸着機能を発揮するものとなり、また塗料の用途に応じて所要量の多孔質粒子を効率よく添加できる。
【0009】
また、この吸着性塗料は、所定の多孔質粒子を所定の透湿性アクリルエマルジョン樹脂塗料に分散配合することによって、分散安定性が良好となり、また均質な強度の塗膜が形成されるので、高伸度の要求される用途にも使用できるものになるという効果を発揮することができる。
【特許文献1】特開平11−29742号公報
【特許文献2】特開2002−302635公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、一般的に用いられている木炭や麦飯石による粉末の吸着性については知られているが、本発明者は、上記吸着性塗料の吸着性能の更なる向上を図るため、新たな吸着材の研究開発を繰り返すなかで、柑橘類の果実に着目し、この果実を炭化させてこれを粉末にすれば、木炭や麦飯石の粉末よりも吸着性の優れた吸着材が得られることが判明し、この発明の完成に至ったものである。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決するため、吸着材に全く新しい材料を用い、木炭や麦飯石の粉末を使用した塗料に比べて吸着性に優れた吸着性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、透湿性のアクリルエマルジョン樹脂塗料に、柑橘類の果実を炭化してこれを粉砕した粒子を分散状態に配合してなる吸着性塗料としたのである。
【0013】
このような吸着性塗料において、アクリルエマルジョン樹脂塗料が、親水性官能基を有するモノマーの重合体からなる親水性分散粒子と、この分散粒子より大径で疎水性のモノマーの重合体からなる疎水性分散粒子とを混在させた混合分散系の水性アクリルエマルジョン樹脂塗料を配合することができる。
【0014】
上記透湿性のアクリルエマルジョン樹脂塗料は、親水性分散粒子と疎水性分散粒子を混在させた混合分散系であり、これを硬化して形成された塗膜には、その厚さ方向に親水性の分散粒子が連結した透湿路が多数均等に分布して形成され、水蒸気分子や同程度の分子径のホルムアルデヒドなどは、透湿路に拡散浸透することによって速やかに塗膜を透過できる。
【0015】
また、親水性分散粒子と疎水性分散粒子の混在した塗料は、柑橘類の果実を用いた多孔質粒子との親和性がよく、これらを均一に分散できる分散媒となり、ディスパージョンは、経時的に安定したものとなる。
【0016】
このように、この発明の吸着性塗料は、多孔質粒子の添加効率が良く、しかも水蒸気その他の気体状の微粒子が透過するときの透過抵抗(水蒸気の場合は透湿抵抗)が小さいので、空気中に浮遊する水蒸気や有害物質の微粒子や気体分子が、透湿性のアクリルエマルジョン樹脂塗料を速やかに透過して柑橘類の果実を用いた多孔質粒子に吸着される。
【0017】
ここで、多孔質粒子に用いる柑橘類の果実としては、みかん、夏みかん、オレンジ等を挙げることができ、これら果実を皮付きのまま高温で焼成して炭化させたものを粉砕することによって、多孔質粒子になる。
【発明の効果】
【0018】
柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子を透湿性のアクリルエマルジョン樹脂塗料に分散配合した吸着性塗料としたので、多孔質粒子の吸着機能が大幅に向上し、有害物質や湿気を効果的に吸着することができる吸着性塗料となる。
【0019】
また、柑橘類の果実を用いることにより、みかん等の余剰果実の有効利用が図れて経済的であり、コスト的にも廉価な多孔質粒子の提供が行える。
【0020】
更に、水蒸気その他の微粒子が塗膜を透過して多孔質粒子に到達するときの透過抵抗(水蒸気の場合は透湿抵抗)が小さくなって、多孔質粒子の添加効率が良くなり、このため充分な吸着機能を発揮するものとなり、かつ、塗料の用途に応じて所要量の多孔質粒子を効率よく添加できる。
【0021】
また、この発明の吸着性塗料は、柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子を所定の透湿性アクリルエマルジョン樹脂塗料に分散配合することによって、分散安定性が良好となり、また均質な強度の塗膜が形成されるので、高伸度の要求される用途にも使用できるものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明に用いるアクリルエマルジョン樹脂塗料は、透湿性を有するアクリルエマルジョン樹脂塗料であり、親水性官能基を有するモノマーを共重合成分として含有する水系ディスパージョンか、または親水性官能基を有するモノマーの重合体からなる親水性分散粒子と、この分散粒子より大径で疎水性、好ましくは耐水性のモノマーの重合体からなる疎水性分散粒子とを混在させた混合分散系の水性アクリルエマルジョン樹脂塗料であることが好ましい。
【0023】
親水性官能基を有するモノマーは、水酸基またはカルボキシル基などのように親水性または水溶性の官能基を含有する単量体であり、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルなどが挙げられる。
【0024】
疎水性のモノマーとしては、スチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0025】
親水性分散粒子および疎水性分散粒子は、水中において保護コロイドの存在下で乳化重合して得られる。これらのディスパージョンの粒径は、0.1〜2μm程度であるが、親水性分散粒子の平均粒径より疎水性分散粒子の平均粒径の方が大粒径となるように重合度を適宜に調整する。
【0026】
このように異なる粒径の親水性分散粒子と疎水性分散粒子を混在させた混合分散系の水性アクリルエマルジョン樹脂塗料で塗膜を形成することにより、塗膜の厚さ方向に、孔径1.6Å程度の親水性の透湿路が多数形成され、水蒸気分子や同程度の分子径のホルムアルデヒドなどは、透湿路に拡散浸透することによって速やかに塗膜を透過し、多孔質粒子に効率よく吸着する。一方、数ミクロンの粒径である水分子や4.2Å程度の粒径の二酸化炭素分子は、このような狭い孔径の透湿路を浸透して通過することはできず、多孔質粒子に吸着されない。
【0027】
そして、開放された状態の気孔よりも親水性の透湿の方が水分子等が速やかに通過し、透過抵抗(水蒸気の場合は透湿抵抗)は小さい。
【0028】
親水性官能基を有するモノマーの重合体からなる親水性分散粒子と、この分散粒子より大径で疎水性、好ましくは耐水性のモノマーの重合体からなる疎水性分散粒子とを混在させた混合分散系の水性アクリルエマルジョン樹脂塗料としては、市販のアクリルエマルジョン樹脂塗料を使用することができ、例えば日本エヌエスシー社製:ヨドゾールAD75C、ヨドゾールAD71などを用いることができる。
【0029】
多孔質粒子は、柑橘類の果実、例えば、みかん、夏みかん、オレンジ等を用い、これら果実を皮付きのまま高温で焼成して炭化させたものを粉砕することによって形成され、この多孔質粒子を前記塗料に配合する。
【0030】
この発明に用いる多孔質粒子の内部比表面積は、400〜3000m2/gであり、好ましくは1000〜3000m2/gである。
【0031】
多孔質粒子は、塗料の用途に応じて適宜にその粒径を選択して設ければよいため、その粒径を限定する必要性はあまりない。
【0032】
しかしながら、120メッシュ(すなわち、120μm以下、)、より好ましくは80〜120メッシュのものを用いて添加効率がよいという結果を確認している。
【実施例】
【0033】
以下の実施例1〜3の組成となるように材料を一括混合し、均一に分散させた状態のエマルジョンを吸着性塗料とし、実施例1で得られた吸着性塗料については、下記の試験を行ない、その結果を図1〜3に示した。
〔実施例1〕
【0034】
(1)透湿性アクリルエマルジョン樹脂塗料(日本エヌエスシー社製:ヨドゾールAD75C) 70 重量部
(2)柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子粉(粒径:50メッシュ以下)30 重量部
(3)ウレタン系会合性増粘剤 0.5重量部
(4)分散剤 0.2重量部
(5)消泡剤 0.1重量部
(6)防腐剤 0.2重量部
(7)イオン交換水 30 重量部
〔実施例2〕
【0035】
(1)透湿性アクリルエマルジョン樹脂塗料(日本エヌエスシー社製:ヨドゾールAD75C) 52.0重量部
(2)柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子粉(粒径:80メッシュ以下) 35重量部
(3)ウレタン系会合性増粘剤 2.0重量部
(4)分散・湿潤剤 2.0重量部
(5)ヒドロキシメチルセルローズ4%水溶液 4.0重量部
(6)イオン交換水 5.0重量部
〔実施例3〕
【0036】
(1)透湿性アクリルエマルジョン樹脂塗料(日本エヌエスシー社製:ヨドゾールAD75C) 52.0重量部
(2)柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子粉(粒径:80〜120メッシュ)15重量部
(3)ウレタン系会合性増粘剤 2.0重量部
(4)分散・湿潤剤 2.0重量部
(5)ヒドロキシメチルセルローズ4%水溶液 4.0重量部
(6)酸化チタン(ルチル型) 25.0重量部
(7)炭酸カルシウム(粒径:300μm) 10.0重量部
(8)イオン交換水 5.0重量部 〔実施例4〕
【0037】
(1)透湿性アクリルエマルジョン樹脂塗料(日本エヌエスシー社製:ヨドゾールAD75C) 70 重量部
(2)柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子粉(粒径:120メッシュ以下)30 重量部
(3)ウレタン系会合性増粘剤 0.5重量部
(4)分散剤 0.2重量部
(5)消泡剤 0.1重量部
(6)防腐剤 0.2重量部
(7)イオン交換水 30 重量部
<吸着性塗料のエチレンガス吸着試験>
【0038】
吸着性塗料(実施例1)を紙の表面に塗布し、乾燥後、10cm×10cmの方形状試験片を作製し、この試験片10枚を無臭性の袋に入れ、さらに袋に約0.3ppmのエチレンガスを封入した。このときを試験の開始とし、ガスクロマトグラフにより、経時的にエチレンガス濃度を追跡した。
【0039】
また、ブランクテストとして無臭性の袋にエチレンガスだけを封入し、同様にエチレンガス濃度を追跡した。
【0040】
使用装置 ガスクロマトグラフ:shimadzu GC−14B(FID)
【0041】
その結果を図1(a)と(b)に示し、吸着性塗料を塗着した試験片は経時的にエチレンガスを吸着することが確認された。
<ホルムアルデヒド吸着試験による脱臭効果の確認>
【0042】
吸着性塗料(実施例1)を紙の表面に塗布し、乾燥後、10cm×10cmの方形状試験片を作製し、この試験片12枚を無臭性の袋に入れ、さらに袋に約10ppmのホルムアルデヒドガスを封入した。このときを試験の開始とし、ガス検知管により、経時的にホルムアルデヒド濃度を追跡した。
【0043】
また、ブランクテストとして無臭性の袋にホルムアルデヒドガスだけを封入し、同様にホルムアルデヒド濃度を追跡した。
使用装置 (株)ガステック製 No.91L
【0044】
図2(a)と(b)の結果からも明らかなように、ホルムアルデヒド濃度は、試験開始直後から直ぐにきわめて低い濃度となり、柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子粉を含有する吸着性塗料(実施例1)によって、ホルムアルデヒドは効率よく吸着除去されたことがわかり脱臭効果が優れていることが確認できる。
【0045】
また、図示等を省略したが、アンモニアガス(濃度2.5ppm)について、上記同様の吸着試験を実施した結果、柑橘類の果実を用いて形成した多孔質粒子粉を含有する吸着性塗料は、上述したホルムアルデヒドに対する吸着性と略同様の吸着性があると認められた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)は吸着性塗料のエチレンガス吸着試験の結果を示す図表、(d)は同グラフ図
【図2】(a)はホルムアルデヒド吸着試験の結果を示す図表、(d)は同グラフ図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透湿性のアクリルエマルジョン樹脂塗料に、柑橘類の果実を炭化してこれを粉砕した粒子を分散状態に配合してなる吸着性塗料。
【請求項2】
アクリルエマルジョン樹脂塗料が、親水性官能基を有するモノマーの重合体からなる親水性分散粒子と、この分散粒子より大径で疎水性のモノマーの重合体からなる疎水性分散粒子との水性分散系アクリルエマルジョン樹脂塗料である請求項1記載の吸着性塗料。
【請求項3】
上記柑橘類の果実がみかんである請求項1又は2に記載の吸着性塗料。

【図1】
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【図2】
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