説明

吸着材とその製造方法

【課題】血液中に存在するカルシウムイオンを吸着して除去する。
【解決手段】多孔質体2の表面にカルシウムキレート能力のある高分子3をコーティングしてなる吸着材1を提供する。
高分子3は、アルギン酸ナトリウムであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、血液透析用に利用可能な吸着材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液透析用に使用される吸着材としては、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。
この吸着材は、再生セルロースにより構成された中空糸膜であり、血液透析で除去しなければならない尿素、クレアチニン等の低分子量の尿毒性蓄積物質を拡散によって高い効率で除去できる。また、分子量20000〜50000程度の溶質であるプレアルブミン、α1−アシドグルコプロテイン、ミオグロビンおよびβ2−ミクログロブリンに対するふるい係数も大きいので、透析患者の合併症の1つである骨・関節痛の骨痛因子を効率よく除去することができる。
【0003】
【特許文献1】特許第3130331号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示された吸着材は、カルシウムイオンやリン酸イオンを除去することができず、これらのイオン濃度の高い血液を体内に戻すと、他の対策を施さなければ、異所性骨化症等の合併症を引き起こすことも考えられるという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、血液中に存在するカルシウムイオンを吸着して除去することができる吸着材とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、多孔質体の表面にカルシウムキレート能力のある高分子をコーティングしてなる吸着材を提供する。
本発明によれば、吸着材を構成する多孔質体の気孔を通過する際に分子の大きさによって気孔を通過できずに捕捉される物質を吸着除去できるとともに、多孔質体の表面にコーティングされたカルシウムキレート能力のある高分子の作用により、カルシウムイオンが捕捉される。したがって、血液透析等に際して、血液内に含まれる低分子の尿毒性蓄積物質や骨痛因子物質を除去できるとともに、カルシウムイオンを吸着除去することができ、異所性骨化症の発症等の問題の発生を未然に防止することが可能となる。
【0007】
上記発明においては、前記高分子が、アルギン酸ナトリウムであることとしてもよい。
アルギン酸ナトリウムは、高いカルシウムキレート能力を有するので、カルシウムイオンを容易に吸着除去することができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記多孔質体が、リン酸カルシウム多孔体であることとしてもよい。このようにすることで、リン酸カルシウム多孔体の気孔により尿毒性蓄積物質や骨痛因子物質を簡易に除去することができるとともに、表面にコーティングされた高分子によりカルシウムイオンを簡易に吸着除去することが可能となる。特に、高分子としてアルギン酸を用いる場合には、リン酸カルシウム多孔体表面のカルシウムと結合するので簡易にコーティングすることができ製造容易である。
【0009】
また、本発明は、アルギン酸ナトリウムの酸性水溶液内に、リン酸カルシウム多孔体を浸漬させる吸着材の製造方法を提供する。
本発明によれば、酸性溶液内に溶解したアルギン酸イオンがリン酸カルシウム多孔体の表面のカルシウムと容易に結合して、リン酸カルシウム多孔体の表面に容易にコーティングされる。リン酸カルシウム多孔体の表面にコーティングされたアルギン酸ナトリウムのナトリウムイオンは、血液中のカルシウムイオンと容易に置換され、カルシウムイオンを効率的に吸着することができる。したがって、血液中のカルシウムイオンを吸着除去する吸着材を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、血液中に存在するカルシウムイオンを吸着して除去することができ、またそのような吸着材を簡易に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る吸着材1とその製造方法について、図1および図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る吸着材1は、図1に示されるように、ブロック状のリン酸カルシウム多孔体(多孔質体)2と、その表面にコーティングされたアルギン酸ナトリウム(高分子)3とにより構成されている。
【0012】
ブロック状のリン酸カルシウム多孔体2は、それ自体に血液を通過させると、多孔体に備えられている無数の気孔により、血液中の尿毒性蓄積物質や骨痛因子物質が吸着されるので、血液透析用の吸着材1として使用することができる。
さらに、本実施形態に係る吸着材1は、リン酸カルシウム多孔体2の表面に設けられたカルシウムキレート能力の高いアルギン酸ナトリウム3のコーティングを備えているので、血液中のカルシウムイオンとアルギン酸ナトリウム3のナトリウムイオンとの置換を生じやすく、カルシウムイオンが捕捉されることになる。なお、置換されたナトリウムイオンは体内に留まり難く、体外に放出される。
【0013】
すなわち、本実施形態に係る吸着材1によれば、通常の血液透析で除去しなければならない低分子量の尿毒症蓄積物質を拡散によって高い効率で除去でき、さらに高分子量の骨痛因子も効率よく除去することができる。さらに、血液中のカルシウムイオンを高い効率で除去することができ、異所性骨化症などの合併症の発生を未然に防止することができるという利点がある。
【0014】
このような本実施形態に係る吸着材1の製造方法について以下に説明する。
本実施形態に係る吸着材1の製造方法は、図2に示されるように、アルギン酸ナトリウムを酸性水溶液、例えば、アスコルビン酸水溶液に溶解させ、アルギン酸ナトリウム水溶液を得る(ステップS1)。そして、湿式メカノケミカル法等の公知の方法により得られたβリン酸三カルシウム多孔体2をアルギン酸ナトリウム水溶液内に浸漬する(ステップS2)。
【0015】
これにより、アルギン酸ナトリウムイオンがリン酸カルシウム多孔体の表面に存在するカルシウムイオンに結合し、βリン酸三カルシウム多孔体の表面全体にアルギン酸ナトリウム3のコーティングが施される。これを蒸留水でリンス(ステップS4)した後、凍結乾燥する(ステップS4)ことにより、表面をアルギン酸ナトリウム3でコーティングされたブロック状のβリン酸三カルシウム2からなる吸着材を製造することができる。
【0016】
なお、本実施形態においては、基材としてβリン酸三カルシウム多孔体を用いたが、これに限定されるものではなく、他のリン酸カルシウム多孔体を採用してもよい。また、基材としてブロック状のリン酸カルシウム多孔体を用いたが、顆粒状のリン酸カルシウム多孔体を採用してもよい。
【0017】
また、アルギン酸ナトリウムの酸性水溶液を調製するためにアスコルビン酸を用いたが、これに限定されるものではなく、クエン酸または乳酸等の生体適合性を有する物質の水溶液を使用することとしてもよい。
また、カルシウムキレート能力のある高分子としてアルギン酸ナトリウムを採用したが、これに代えて、他の高分子、例えば、ペクチン、ポリガラクツロン酸、ペクチン誘導体、ポリガラクツロン酸誘導体またはポリガラクツロン酸を含む高分子を採用してもよい。
【実施例】
【0018】
次に、本実施形態に係る吸着材1とその製造方法の実施例について説明する。
0.5重量%のアスコルビン酸水溶液(pH=2.85)100mLにアルギン酸ナトリウム100mgを溶解させることにより、0.1重量%のアルギン酸ナトリウムの酸性水溶液を得た。
次いで、湿式メカノケミカル法等の公知の方法により得られた顆粒状のβリン酸三カルシウム多孔体500mgを上記により調製されたアルギン酸ナトリウムの酸性水溶液内に浸漬し、3時間放置した。その後、顆粒を蒸留水でリンスした後凍結乾燥することにより、アルギン酸ナトリウムにより表面をコーティングされた吸着材1が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る吸着材を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0020】
1 吸着材
2 βリン酸三カルシウム多孔体(多孔質体)
3 アルギン酸ナトリウム(高分子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体の表面にカルシウムキレート能力のある高分子をコーティングしてなる吸着材。
【請求項2】
前記高分子が、アルギン酸ナトリウムである請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
前記多孔質体が、リン酸カルシウム多孔体である請求項1または請求項2に記載の吸着材。
【請求項4】
アルギン酸ナトリウムの酸性水溶液内に、リン酸カルシウム多孔体を浸漬させる吸着材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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