説明

吸着材の充填方法および充填装置

【課題】簡便で且つ血液浄化器内の気泡の残存を抑制する吸着材の充填方法および充填装置を提供する。
【解決手段】充填装置は、第1の開口部14、第2の開口部16及び第3の開口部18を有し第1の開口部14の近傍にメッシュ12aが設けられた容器10と、容器10を傾け可能に保持する保持具60と、容器10を鉛直方向と平行な位置から傾けた時に、第1の開口部14の開口端の最上部の点Aと第1の開口部14の近傍のメッシュ12aの外周端の最上部の点Cとを結ぶ直線が水平になる傾度を最大傾度θとし、容器10を最大傾度θ以下の傾度に傾け保持した後、第2の開口部16から液体を容器10に供給する液体供給手段と、容器10を略垂直位置に戻した後、第1の開口部14から排液しながら第3の開口部18から吸着材を液体に分散してなる懸濁液を容器10に導入する懸濁液供給手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材の充填方法および充填装置に関し、特に、血液を直接吸着材に接触させて血液を浄化する血液浄化器の容器への吸着材の充填方法および充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、「アフェレシス」と呼ばれる血液浄化技術が進歩しており、中でも特に直接血液灌流療法(DHP:Direct Hemo Perfusion)と呼ばれる、患者の血液を直接吸着材に接触させて血液を浄化する方法が急速に普及している。直接血液灌流療法は、従来のアフェレシス技術である、血漿分離膜を用いて分離した血漿を吸着材に接触させる血漿吸着法(PA:Plasma Adsorption)や、血漿分離膜を用いて血液から血漿を分離し、分離された血漿から二次膜を用いてグロブリンやその他の病因(関連)物質を含む分子量の大きな物質を分離除去し、アルブミンを中心とする病因(関連)物質と同等以下の分子量を有する物質を回収する二重膜濾過血漿交換法(DFPP:Double Filtration Plasmapheresis)等に比べ、簡便に使用することができる。
【0003】
アフェレシス技術による血液からの除去対象物質は、疾患により様々であり、例えば、高コレステロール血症の治療に用いられるLDL吸着器の場合では、LDL(低密度リポ蛋白質)が除去対象物質であり、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)の場合では、白血球や血小板といった炎症性細胞が除去対象物質となる。
【0004】
直接血液灌流療法(DHP)に用いられる吸着材の形態として、ビーズ状、不織布状、織物状と色々考案されているが、中でもビーズ状や短繊維状の吸着材は、不織布や織物等の布帛状の吸着材と比較して、製造が容易であり、また血液浄化器用容器への充填も行いやすく、吸着材が充填された血液浄化器へ血液を通過させたときの圧損が少なく、体外循環血液回路や血液浄化カラム内での血液の凝固のリスクが少ないという特徴を有する。
【0005】
また、上述した吸着材が充填された血液浄化器には、ドライタイプのものとウェットタイプのものとが存在し、ドライタイプのものは、使用時に生理食塩水等を用いて、血液浄化器内に残存気泡が生じないように、プライミングを行う必要がある。一方、ウェットタイプのものは、初めから血液浄化器内に液体が充填されていることから、使用時に、ドライタイプに比べ比較的簡単に生理食塩水等を用いてプライミングを行うことができるという利点を有する。
【0006】
しかしながら、製造工程で気泡が混入したウェットタイプの血液浄化器に対しプライミングを行っても、十分に気泡が血液浄化器から排出されない場合がある。一般に、アフェレシス治療や血液を対外循環させる透析治療では、これらの治療に使用される血液浄化器内に気泡が残存してしまうと、血液浄化器内を循環している血液に刺激が与えられ、血液浄化器内にて残血や凝固などが生じる場合がある。そこで、製造工程において、ウェットタイプの血液浄化器内への気泡の混入を抑制する必要がある。
【0007】
血液浄化器用容器に気泡が混入しないように吸着材を充填する方法として、例えば、特許文献1には吸着材を充填する前に、血液浄化器用容器内に水蒸気を混入させて容器内の空気を水蒸気に置換した後、水蒸気を水に置換して、その後に吸着材をスラリー状にした液を血液浄化器用容器に充填する方法が提案されている。また、特許文献2には、血液浄化器の一態様である人工臓器内を予め減圧状態にした後、所定容積の液体を充填し、液体中に存在する気泡や内部に溶解した空気を除去した後、さらに減圧状態で、吸着材と液体とからなる相溶体を充填することにより、充填時の空気の巻き込みを抑制するとともに、相溶体中の気泡を除去し、血液浄化器において許容される残留気泡量まで気泡量を減少させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−160668号公報
【特許文献2】特開昭64−40063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では水蒸気を使用しなければならず、また、特許文献2に記載の方法では減圧処理を行う必要があり、処理操作及び装置構成が煩雑になるという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような状況を鑑みてなされたものであり、簡便で且つ血液浄化器内の気泡の残存を抑制する吸着材の充填方法および充填装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す本発明を完成するに至った。本願発明は、以下の特徴を有する。
【0012】
(I)筒状の両端に第1の開口部及び第2の開口部がそれぞれ設けられ、さらに側壁に第3の開口部が設けられ、少なくとも第1の開口部の近傍に網目状のフィルタが設けられている血液浄化器用容器に、吸着材を液体に分散してなる懸濁液を充填する方法であって、前記血液浄化器用容器を鉛直方向と平行な位置から傾けた時に、上部に配置された第1の開口部の開口端の最上部と、前記血液浄化器用容器の内壁に隣接する前記フィルタの外周端の最上部とを結ぶ直線が水平になる傾度を最大傾度とし、血液浄化器用容器を最大傾度以下の傾度に傾ける工程と、最大傾度以下の傾度で血液浄化器用容器を傾け保持した後、血液浄化器用容器の下部に設けられた第2の開口部から液体を血液浄化器用容器に供給する工程と、を有する吸着材の充填方法である。
【0013】
(II)血液浄化器用容器を略垂直位置に戻した後、第1の開口部から排液しながら、第3の開口部から前記懸濁液を血液浄化器用容器に導入する工程をさらに有する上記(I)に記載の吸着材の充填方法である。
【0014】
(III)血液浄化器用容器を傾けた状態で振動を与える工程を有する上記(I)または(II)に記載の吸着材の充填方法である。
【0015】
(IV)血液浄化器用容器に振動を与える間、血液浄化器用容器を最大傾度以下で交互に傾ける上記(III)に記載の吸着材の充填方法である。
【0016】
(V)第2の開口部から供給される液体の液面が第3の開口部の開口端に達する前に、懸濁液の一部を第3の開口部から血液浄化器用容器に導入する工程をさらに有する上記(I)から(IV)のいずれか1つに記載の吸着材の充填方法である。
【0017】
(VI)筒状の両端に第1の開口部及び第2の開口部がそれぞれ設けられ、さらに側壁に第3の開口部が設けられ、少なくとも第1の開口部の近傍に網目状のフィルタが設けられている血液浄化器用容器を傾け可能に保持する保持具と、前記血液浄化器用容器を鉛直方向と平行な位置から傾けた時に、上部に配置された第1の開口部の開口端の最上部と、前記血液浄化器用容器の内壁に隣接する前記フィルタの外周端の最上部とを結ぶ直線が水平になる傾度を最大傾度とし、血液浄化器用容器を最大傾度以下の傾度に傾けられたことを検出する傾度検出手段と、最大傾度以下の傾度で血液浄化器用容器を傾け保持した後、血液浄化器用容器の下部に設けられた第2の開口部から液体を血液浄化器用容器に供給する液体供給手段と、血液浄化器用容器を略垂直位置に戻した後、第1の開口部から排液しながら、第3の開口部から吸着材を液体に分散してなる懸濁液を血液浄化器用容器に導入する懸濁液供給手段と、を備えた吸着材の充填装置である。
【0018】
(VII)血液浄化器用容器を略垂直位置に戻した後、第1の開口部から排液しながら、第3の開口部から吸着材を液体に分散してなる懸濁液を血液浄化器用容器に導入する懸濁液供給手段をさらに備えた上記(VI)に記載の吸着材の充填装置である。
【0019】
(VIII)血液浄化器用容器に振動を与える振動発生器を備えた上記(VI)または(VII)に記載の吸着材の充填装置である。
【0020】
(IX)前記保持具は、前記振動発生器により振動を与える間、血液浄化器用容器を最大傾度以下で交互に傾ける上記(VIII)に記載の吸着材の充填装置である。
【0021】
(X)前記懸濁液供給手段は、液体供給手段により供給される液体の液面が第3の開口部の開口端に達する前に、懸濁液の一部を第3の開口部から血液浄化器用容器に導入する上記(VI)から(IX)のいずれか1つに記載の吸着材の充填装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の吸着材の充填方法および充填装置によれば、従来に比べ、簡便な方法または装置により、血液浄化器内の気泡の残存が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】血液浄化器内に気泡が残存するメカニズムを説明する図である。
【図2】血液浄化器用容器を鉛直方向に対して最大傾度θより大きい傾度θに傾けた場合の気泡溜まりが発生してしまう状態を説明する図である。
【図3】血液浄化器用容器を鉛直方向に対して最大傾度θに傾けた場合の気泡溜まりが発生しない状態を説明する図である。
【図4】血液浄化器用容器を鉛直方向に対して最大傾度θより小さい傾度θに傾けた場合の気泡溜まりが発生しない状態を説明する図である。
【図5】本実施の形態における吸着材の充填装置の一例を示す概略構成図である。
【図6】本実施の形態における吸着材の充填方法の一例の一部を説明するフロー図である。
【図7】本実施の形態における吸着材の充填方法の一例の一部を説明するフロー図である。
【図8】本実施の形態における吸着材の充填方法の一例の一部を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態における吸着材の充填方法および充填装置について、以下に説明する。但し、本発明は、以下に説明する充填方法及び充填装置に限定されるものではない。また、以下、本発明の実施の形態における「血液浄化器用容器」という記載を『容器』と略し、「吸着材の充填方法」という記載を『充填方法』と略し、同「吸着材の充填装置」という記載を『充填装置』と略す場合がある。
【0025】
図1に示すように、円筒状の血液浄化器用容器10(以下「容器10」という)の両端には、第1の開口部14と第2の開口部16がそれぞれ設けられ、側壁には第3の開口部18が設けられている。また、少なくとも第1の開口部14および第2の開口部16の近傍には、網目状のフィルタであるメッシュ12a,12bがそれぞれ設けられている。ここで、容器10を垂直に起立させた状態で液体30を充填した場合、メッシュ12aの凹凸状態によって、不均一にメッシュ12aが濡れるために、メッシュ12aの内側、すなわち起立状態の容器10においてメッシュ12aの下方に気泡20が残存してしまう。ここで、液体30は、例えば、水であり、必要に応じて精製水が用いられる。以下同様である。
【0026】
メッシュ12aを傾斜させた状態で下方から順次濡らすことで、凹凸部での気泡残存を防ぐことができる。
【0027】
しかし、傾け過ぎると以下の問題が生じる。図2に示すように、容器10を鉛直方向と平行な位置から傾ける際に、点A(開口端の最上部)を通る水平線が、点Cよりも下方の側壁の点B’’と交わるように容器10を角度θに傾けて保持し液体30を充填した場合、エア部分がメッシュ12aの下部に残った状態で第1の開口部14から液体30が溢れ出す。このため、この状態で液体30の充填を停止して容器10を垂直状態に戻した場合には、メッシュ12aの下方に気泡20が残存してしまう。また、容器10を垂直に戻した後に液体30の充填を停止した場合にも同様の問題が発生する。すなわち、後述する最大傾度θより大きい傾度θまで容器10を傾けると、メッシュ12aの下方に気泡20が残存してしまう。
【0028】
そこで、本実施の形態では、図3に示すように、容器10を鉛直方向と平行な位置から傾ける際に、容器10の上部に配置された第1の開口部14の開口端の最上部の点Aと容器10の内壁に隣接するメッシュ12aの外周端の最上部の点Cとを結ぶ直線(図3の点A−Cを結ぶ一点破線)が水平になる傾度を最大傾度θとし、血液浄化器用容器を最大傾度θ以下の傾度に傾けた状態で容器10を保持したまま、液体30を充填することにする。図3には、血液浄化器用容器を最大傾度θの傾度で傾けた状態が示され、容器10の内壁に隣接するメッシュ12aの外周端の最上部の点Cと容器10の側壁の点Bが同位置になっている。これにより、液体30が容器10に充填されていき、第1の開口部14から液体30が溢れ出した時点でも、エア部分はメッシュ12aの上部に形成されるため、液体30の充填を停止して容器10を垂直状態に戻しても、メッシュ12aの下方に気泡20が残存しない。
【0029】
特に、図4に示すように、点A(開口端の最上部)を通る水平線が、点Cよりも上方の側壁の点B’と交わるように容器10を角度θ(すなわち、最大傾度θより小さい傾度)に傾けて保持し液体30を充填した場合、メッシュ12aの外周端の最上部の点Cに液体30が達するまで、メッシュ12aの一部は濡れない(すなわち、メッシュ12aの一部に水膜が形成されていない)。したがって、メッシュ12aの下方から液面が上昇するにつれ、容器10内のエアがメッシュ12aから効率よく抜け第1の開口部14より排出されていき、さらに第1の開口部14から液体30が溢れ出す時点で、液面はメッシュ12aの外周端の最上部の点Cの位置より上方に位置することになるため、メッシュ12aより下方における気泡の残存が大幅に抑制される。
【0030】
次に、本実施の形態における吸着材の充填装置の構成の一例について、図5を用いて説明する。
【0031】
図5に示すように、吸着材の充填装置の一例は、円筒状の両端に第1の開口部14及び第2の開口部16がそれぞれ設けられ、さらに側壁に第3の開口部18が設けられ、少なくとも第1の開口部14の近傍にメッシュ12aが設けられている容器10と、容器10を傾け可能に保持する保持具60と、容器10を鉛直方向と平行な位置から傾けた時に、容器10の上部に配置された第1の開口部14の開口端の最上部の点A(図3)と第1の開口部14の近傍のメッシュ12aの外周端の最上部の点C(図3)とを結ぶ直線(図3の点A−Cを結ぶ一点破線)が水平になる傾度を最大傾度θ(図3)とし、容器10が最大傾度θ以下の傾度に傾けられたことを検出する傾度検出手段(図示せず)と、最大傾度θ以下の傾度で容器10を傾け保持した後、容器10の下部に設けられた第2の開口部16から液体30(図3)を容器10に供給する液体供給手段と、容器10を略垂直位置に戻した後、第1の開口部14から排液しながら、第3の開口部18から吸着材を液体に分散してなる懸濁液(スラリーともいう)を容器10に導入する懸濁液供給手段と、を備える。
【0032】
また、本実施の形態における吸着材の充填装置の他の構成の一例では、さらに、血液浄化器用容器を略垂直位置に戻す前に、容器10に振動を与える振動発生器40を備える。
【0033】
ここで、本実施の形態における保持具60として、例えば、マニピュレータが用いられ、容器10の側面を保持しつつ、マニピュレータ自体が垂直方向に対して自在に傾き(図5に示す白抜き矢印のように傾け可能であり)、さらに、ある傾度で傾き保持可能に構成されている。また、保持具60は、容器10を最大傾度θ以下で交互に傾け、または交互に傾け保持するように構成されている。また、本実施の形態における吸着材の充填装置の他の構成の一例では、保持具60は、振動発生器40により振動を与える場合も同様に、振動を与える間、容器10を最大傾度θ以下で交互に傾け、または交互に傾け保持するように構成されている。
【0034】
また、本実施の形態における吸着材の充填装置では、最大傾度θ以下の所定角度が予め設定されており、傾度検出手段である制御装置(図示せず)は、保持具60と連動しているサーボモーターによって容器10が所定角度まで回転されたことを検出すると、サーボモーターの動作を停止させて、容器10が所定角度に傾けられた状態で保持される。
【0035】
上記液体供給手段は、第2の開口部16に設けられた弁36と、弁36を介して第2の開口部16に液体を供給する液体供給ラインと、液体供給ラインに液体を供給するポンプ(図示せず)とを備える。
【0036】
振動発生器40は、後述するメッシュ12aより上方に存在する気泡を容器10から排出可能な程度の振動を発生できるものであれば、如何なるものでもよい。
【0037】
上記懸濁液供給手段は、第3の開口部18に設けられた弁38と、弁38を介して第3の開口部18に懸濁液を供給する懸濁液供給ラインと、懸濁液供給ラインに懸濁液を供給する加圧装置(図示せず)とを備える。また、上記懸濁液供給手段を用いて、液体供給手段により供給される液体の液面が第1の開口部14の開口端の最上部の点A(図3)に達する前に、懸濁液の一部を容器10に導入してもよい。これにより、懸濁液供給手段における第3の開口部18、弁38、懸濁液供給ライン等のいずれかに存在する気泡を、懸濁液の本充填までに容器10内に押し出すことができ、液体の気泡と合わせて、最終的に振動等により、容器10外に排出させることができるので、さらに血液浄化器における気泡の残存が抑制される。
【0038】
さらに、吸着材の充填装置は、排液手段を有し、排液手段は、第1の開口部14と、第1の開口部14に設けられた弁34と、弁34を介して第1の開口部14から液体を排出可能な排液ラインとを備え、必要に応じて、排液を吸引するポンプ(図示せず)が設けられていてもよい。
【0039】
次に、本実施の形態における吸着材の充填方法の一例について、図6から図8を用いて説明する。
【0040】
図6から図8に示す吸着材の充填方法の一例は、筒状の両端に第1の開口部14及び第2の開口部16がそれぞれ設けられ、さらに側壁に第3の開口部18が設けられ、少なくとも第1の開口部14の近傍にメッシュ12aが設けられている容器10に、吸着材を液体に分散してなる懸濁液を充填する方法である。まず、図6に示すように、容器10を鉛直方向と平行な位置から傾けた時に、容器10の上部に配置された第1の開口部14の開口端の最上部の点A(図3)と第1の開口部14の近傍のメッシュ12aの外周端の最上部Cの点(図3)とを結ぶ直線(図3のA−Cを結ぶ一点破線)が水平になる傾度を最大傾度θとし、容器10を最大傾度θ以下の傾度に傾ける(図6のS100)。ここで、例えば、図4に示す傾度θを10°から40°として容器10を傾け保持する。次に、最大傾度θ以下の傾度で容器10を傾け保持した後、排液ポート24(図6)の弁34を開け、液体充填ポート26の弁36を開けて、容器10の下部に設けられた第2の開口部16から液体30を容器10内に供給する(図6のS102)。このときの液体の充填は、例えば、図6の点Dから点Eの範囲内に液体30が充填された時点で、弁36を閉じて液体30の導入を一旦停止させる。ここで、点Dは、容器10の傾け時にメッシュ12bの接続端の中で最上部に位置する点を指す。
【0041】
次に、図7に示すように、吸着材充填ポート28の弁38を開けて、第3の開口部18から懸濁液の一部を容器10内に導入する(図7のS104)。ここで、懸濁液の一部は、図7の点Fから点Cの範囲内で導入される。これにより、第3の開口部18、弁38、懸濁液供給ライン等のいずれかに存在する気泡を、懸濁液の本充填までに容器10内に押し出すことができ、液体30の気泡と合わせて、後述するように容器10外に排出させることができる。ここで、点Cは、容器10の傾け時にメッシュ12aの接続端のなかで最上部に位置する点を指す。なお、懸濁液の一部導入方法は、これに限るものではなく、第2の開口部16から供給される液体30の液面が第1の開口部14の開口端の最上部の点A(図3)に達する前に、懸濁液の一部が容器10内に導入されればよく、また、この時点で、第3の開口部18、弁38、懸濁液供給ライン等のいずれかに存在する気泡が容器10内に放出されれば、懸濁液の一部導入は少量でもよい。
【0042】
次に、弁38を閉めて、懸濁液の導入を停止し、次いで、弁36を開けて液体30の充填を再開させ、第1の開口部14から液体30が排液されるまで、液体30の充填を行う(図7のS106)。この点で、容器10の上部に気泡20が残る。
【0043】
そこで、図8に示すように、気泡20を第1の開口部14から抜くため、弁34,36を開けた状態で、液体30を通液しながら、振動発生器40を用い、容器10を傾けた状態で容器10に振動を与える(図8のS108)。傾けた状態にすることで、気泡20をほぼ一個所に纏めることができ、さらに振動を与えることによって、第1の開口部14からの気泡抜けが促進される。ここで、図8のS108に示すように、保持具60を用いて、容器10に振動を与える間、容器10を上述した最大傾度θ以下で交互に傾けることが好ましい。容器10に振動を与えながら交互に傾けることにより、気泡20がメッシュ12aの上方を移動して第1の開口部14から抜けやすくなる。また、最大傾度以下で交互に傾けることで、メッシュ12aの下方に気泡20が進入せず、血液浄化器内の気泡残存が抑制される。
【0044】
気泡が排出された後、容器10を略垂直位置に戻し、弁36を閉じ、弁34を開けたまま、弁38を開けて、第1の開口部14から排液しながら、第3の開口部18から懸濁液50を容器10内に導入する(図8のS110)。懸濁液50による吸着材の充填が完了した後、弁34,38を閉め、液体充填ポート26、吸着材充填ポート28及び排液ポート24に栓を取り付け、血液浄化器用容器への吸着材の充填が完了し、血液浄化器が製造される。ここで、懸濁液は、吸着材を液体に分散させてなるが、分散させるための液体として、例えば、水(例えば、精製水)が用いられている。しかし、これに限るものではなく、吸着材を溶解することなく分散可能な液体であれば如何なる液体を用いてもよい。
【0045】
なお、本実施の形態では、図7のS104の工程において、懸濁液の一部を容器10内に導入したが、懸濁液供給手段の第3の開口部18、弁38、懸濁液供給ライン等において予め気泡抜きを行う場合、及び懸濁液供給手段において気泡を有しない場合には、図7のS104の工程は不要である。また、上記実施形態の説明において、容器10に振動を与えて気泡20を抜く場合について説明したが、振動の効果はこれに限るものではなく、懸濁液を容器内に導入する際に、容器に振動を与えることによって、吸着材を密に充填することが可能であるという効果も有する。
【0046】
また、本実施の形態における血液浄化器に用いられる吸着材は、疎水性を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリスルホン樹脂(PSF)からなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。
【0047】
また、本実施の形態における血液浄化器用容器に充填されるビーズ状の吸着材の直径は、0.1mm以上、3.0mm以下である。ここで、粒径が0.1mm未満の場合、粒径が小さすぎて、仮に血液浄化器に充填しても、血液の流れが悪くなるため、治療中の回路内圧上昇等の原因になるおそれがある。一方、ビーズ状吸着材の粒径が3.0mmを超える場合は、血液中の血球成分(特に、白血球、血小板)を除去するための表面積が低下してしまうという問題がある。また、本実施の形態における製造方法の一形態である相転換法での製造を選択した場合、製造方法で使用する溶剤を吸着材から取り除くことが困難になるという問題も生じる。
【0048】
また、本実施の形態における短繊維状の中空糸及び中実糸からなる吸着材の外径は、0.2mm以上で0.4mm以下であり、本実施の形態における短繊維状の中空糸及び中実糸からなる吸着材の長さは、1.0mm以上で20.0mm以下である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、血液浄化用途に好適である。
【符号の説明】
【0050】
10 血液浄化器用容器(または容器)、12a,12b メッシュ、14 第1の開口部、16 第2の開口部、18 第3の開口部、20 気泡、24 排液ポート、26 液体充填ポート、28 吸着材充填ポート、30 液体、34,36,38 弁、40 振動発生器、50 懸濁液、60 保持具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の両端に第1の開口部及び第2の開口部がそれぞれ設けられ、さらに側壁に第3の開口部が設けられ、少なくとも第1の開口部の近傍に網目状のフィルタが設けられている血液浄化器用容器に、吸着材を液体に分散してなる懸濁液を充填する方法であって、
前記血液浄化器用容器を鉛直方向と平行な位置から傾けた時に、上部に配置された第1の開口部の開口端の最上部と、前記血液浄化器用容器の内壁に隣接する前記フィルタの外周端の最上部とを結ぶ直線が水平になる傾度を最大傾度とし、血液浄化器用容器を最大傾度以下の傾度に傾ける工程と、
最大傾度以下の傾度で血液浄化器用容器を傾け保持した後、血液浄化器用容器の下部に設けられた第2の開口部から液体を血液浄化器用容器に供給する工程と、
を有することを特徴とする吸着材の充填方法。
【請求項2】
血液浄化器用容器を略垂直位置に戻した後、第1の開口部から排液しながら、第3の開口部から前記懸濁液を血液浄化器用容器に導入する工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の吸着材の充填方法。
【請求項3】
血液浄化器用容器を傾けた状態で振動を与える工程を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸着材の充填方法。
【請求項4】
血液浄化器用容器に振動を与える間、血液浄化器用容器を最大傾度以下で交互に傾けることを特徴とする請求項3に記載の吸着材の充填方法。
【請求項5】
第2の開口部から供給される液体の液面が第3の開口部の開口端に達する前に、懸濁液の一部を第3の開口部から血液浄化器用容器に導入する工程をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の吸着材の充填方法。
【請求項6】
筒状の両端に第1の開口部及び第2の開口部がそれぞれ設けられ、さらに側壁に第3の開口部が設けられ、少なくとも第1の開口部の近傍に網目状のフィルタが設けられている血液浄化器用容器を傾け可能に保持する保持具と、
前記血液浄化器用容器を鉛直方向と平行な位置から傾けた時に、上部に配置された第1の開口部の開口端の最上部と、前記血液浄化器用容器の内壁に隣接する前記フィルタの外周端の最上部とを結ぶ直線が水平になる傾度を最大傾度とし、血液浄化器用容器を最大傾度以下の傾度に傾けられたことを検出する傾度検出手段と、
最大傾度以下の傾度で血液浄化器用容器を傾け保持した後、血液浄化器用容器の下部に設けられた第2の開口部から液体を血液浄化器用容器に供給する液体供給手段と、
血液浄化器用容器を略垂直位置に戻した後、第1の開口部から排液しながら、第3の開口部から吸着材を液体に分散してなる懸濁液を血液浄化器用容器に導入する懸濁液供給手段と、
を備えたことを特徴とする吸着材の充填装置。
【請求項7】
血液浄化器用容器を略垂直位置に戻した後、第1の開口部から排液しながら、第3の開口部から吸着材を液体に分散してなる懸濁液を血液浄化器用容器に導入する懸濁液供給手段をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載の吸着材の充填装置。
【請求項8】
血液浄化器用容器に振動を与える振動発生器を備えたことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の吸着材の充填装置。
【請求項9】
前記保持具は、前記振動発生器により振動を与える間、血液浄化器用容器を最大傾度以下で交互に傾けることを特徴とする請求項8に記載の吸着材の充填装置。
【請求項10】
前記懸濁液供給手段は、液体供給手段により供給される液体の液面が第3の開口部の開口端に達する前に、懸濁液の一部を第3の開口部から血液浄化器用容器に導入することを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の吸着材の充填装置。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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