説明

吸着材焼成用原料粘土及び吸着材

【課題】 酸性〜中性〜塩基性の各種有害/悪臭成分を良好に吸着することができる吸着材を提供する。
【解決手段】 自然界の採取粘土を、水飛処理して、その懸濁液の上下方向中間高さの水位部分を中心とする80容量%以下(更に好ましくは50容量%以下)の水位部分を回収してなる吸着材焼成用原料粘土。この吸着材焼成用原料粘土と活性炭等を所定の組成比で含む焼成生地を、嫌気条件下、600〜900°Cで焼成して得られる吸着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着材焼成用原料粘土及び吸着材に関する。
【0002】
更に詳しくは、本発明は、自然界より得た採取粘土を特定された条件下に水飛処理することによって得られる吸着材焼成用原料粘土に関する。水飛処理とは、一般的には、自然界より得た採取粘土を水中で攪拌してコロイド状に懸濁させた後、その懸濁液における表面部の浮遊層と底面部の沈殿層を除いた懸濁相を回収する処理を言う。しかし、本発明においては、「自然界より得た採取粘土を水中で攪拌してコロイド状に懸濁させた後、その懸濁液における表面部の浮遊層と底面部の沈殿層を除いた懸濁相の内から、上下方向の中央の水位部分を中心とする特定された容量%部分を回収する処理を言う。
【0003】
更に、本発明は、このような吸着材焼成用原料粘土に対し、一定の組成比で、少なくとも活性炭を配合し、あるいは更にセピオライト、ゼオライト、陶石粉末、石灰石粉末の1種以上を配合したもとで、特定された条件下での嫌気的焼成を行うことにより得られる吸着材に関する。この吸着材は、後述するように、塩基性、酸性あるいは中性の悪臭/有毒なガスに対して優れた吸着・除去性能を発揮することができる。
【背景技術】
【0004】
近年、例えば自動車排ガスに起因するNOx等の大気汚染物質や、トイレ又は冷蔵庫等におけるアミン性の悪臭物質(アンモニアを含む)、あるいはシックハウス症候群との関係で問題視されているアルデヒド類等の有害成分や悪臭成分の除去対策が注目され、そのための各種吸着材が提案されている。そして、このような吸着材の原料物質として粘土が注目されている。
【0005】
粘土には、カオリナイト、モンモリロナイト等のいわゆる層状粘土鉱物や、セピオライト等のいわゆる繊維状粘土鉱物その他のカテゴリーがある。これらのカテゴリーは顕微鏡的なレベルで粘土を観察した場合の構造形態に基づくものであるが、これらの各カテゴリーの粘土が、それぞれの構造形態に起因して、粘土固有の毛細管孔隙を豊富に備えることが知られている。
【0006】
近年、この毛細管孔隙が前記した大気中NOxその他の有害成分や悪臭成分の吸着・除去に有効であるとの理解が広がり、粘土を用いた有害成分や悪臭成分の吸着材が数多く提案されるに到っている。例えば、下記の特許文献1に記載された結晶質チタニア微粒子/粘土複合体の発明を参照されたい。
【0007】
【特許文献1】特開平10−245226号公報 上記の特許文献1には、結晶質チタニア微粒子/粘土複合体およびその製造方法の発明が開示されている。その概要は、チタニア微粒子と粘土との複合体に水熱処理を施すことにより結晶質チタニア微粒子/粘土複合体を製造するものであって、この複合体は、粘土粒子に基づく多孔性構造を保ち、かつ結晶質チタニア微粒子による光触媒作用(有害成分や悪臭成分の分解作用)も期待できる、とするものである。この特許文献1の発明以外にも、粘土固有の微細な毛細管孔隙を利用して高い吸着性能を期待した粘土焼成吸着材が多数提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の各種の粘土焼成吸着材においては、第1の問題点として、その原料たる「粘土」としては、専ら市販の精製粘土を用いなければならないことが挙げられる。例えば上記特許文献1に記載の発明でも、焼成原料を調製するには、市販の精製結晶質チタニア微粒子と粘土とを準備する必要があり、かつ、その「粘土」とは、実際には例えばセピオライト、カオリナイト、モンモリロナイト等の精製粘土鉱物を意味している。
【0009】
このような工業的精製過程を経た粘土鉱物は、自然界より採取される例えば木節粘土や蛙目粘土等に比べて、当然ながら非常に高価であり、場合によっては、入手困難である。従って、優れた吸着材を構成できる原料粘土であって、安価かつ容易に入手できるものが求められている。
【0010】
しかも、本願発明者の研究によれば、これらの精製粘土は、専らセピオライト、モンモリロナイト等の特定の種類の粘土鉱物の純度を高めているだけであって、吸着材において真の意味で有効に働く、粘土鉱物構造が完成した微細な粘土鉱物粒子だけを含むか否かについては疑問がある。即ち、極めて微細な粘土鉱物粒子であって、セピオライト、モンモリロナイト等に特有の粘土鉱物構造(結晶構造等)が十分に完成していない粘土鉱物粒子、あるいは、一旦は自然に生成した粘土鉱物構造が種々の自然界の作用により破壊を受けた粘土鉱物粒子が多く混入している可能性がある。本願発明者は、このような未完成な粘土鉱物構造を伴う極めて微細な粘土鉱物粒子の混入は、吸着材の性能等にとって必ずしも有利ではない、と考えている。
【0011】
従来の各種の粘土焼成吸着材における第2の問題点として、各種の有害成分や悪臭成分を満遍なく吸着することができる吸着材が余り見られないことが挙げられる。空気中の有害成分や悪臭成分は、一つの考え方として、酸性成分、中性成分及び塩基性成分に分けることができる。アルデヒド類は酸性成分であり、トルエン等は中性成分であり、アミン類は塩基性成分である。従って、これらの酸性〜塩基性にわたる各種の有害成分や悪臭成分を満遍なく吸着する吸着材が求められている。
【0012】
そこで本発明は、粘土焼成吸着材における上記の第1の問題点と第2の問題点を同時に解決することを目的とする。
【0013】
本願発明者は、これらの問題点の解決手段を研究する過程で、従来より自然界の粘土に対して行われている水飛処理に注目した。そして多くの試行錯誤の結果、特定された条件下での水飛処理によって、非常に優れた吸着材焼成用原料粘土が得られることを見出した。
【0014】
更に本願発明者は、この吸着材焼成用原料粘土を主成分として、これに活性炭等の特定の組成分を配合して所定の嫌気的条件で焼成すると、酸性〜塩基性にわたる各種の有害成分や悪臭成分を満遍なく吸着することができる吸着材を得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、自然界の土壌中より得た採取粘土を、特定の条件下に水中で攪拌してコロイド状に懸濁させ、攪拌終了直後の懸濁液における表面部の浮遊層と底面部の沈殿層を除く懸濁相100容量%の内から、その上下方向中間高さの水位部分を中心とする上下方向の水位部分の中央部80容量%以下を回収し、その回収懸濁相から水分を分離することにより得られる、吸着材焼成用原料粘土である。
【0016】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る回収懸濁相が、前記懸濁相の上下方向の中央部50容量%以下に相当する水位部分の懸濁相である、吸着材焼成用原料粘土である。
【0017】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る採取粘土の水中での攪拌を、円筒形容器中での攪拌羽根による100〜150回転/分の攪拌を100分間以上継続することにより行う、吸着材焼成用原料粘土である。
【0018】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明のいずれかに係る採取粘土が木節粘土、蛙目粘土又はカオリンである、吸着材焼成用原料粘土である。
【0019】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、少なくとも第1発明に係る吸着材焼成用原料粘土を乾重量で30〜60重量%含み、かつ活性炭を10〜50重量%含む焼成生地を調製し、これを嫌気条件下、600〜900°Cで60〜600分間焼成して得られる、吸着材である。
【0020】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第5発明に係る焼成生地が、更に鹿沼土、セピオライト、ゼオライト、陶石粉末、石灰石粉末から選ばれる1種以上を合計20〜40重量%含む、吸着材である。
【0021】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、前記第5発明又は第6発明に係る嫌気条件下の焼成が、真空〜減圧下での焼成、あるいは少なくとも窒素ガス又はアルゴンガスを包含するガス群から選ばれる不活性ガスの雰囲気下での焼成である、吸着材である。
【発明の効果】
【0022】
(第1発明の効果)
第1発明に係る吸着材焼成用原料粘土は、自然界の土壌中より得た採取粘土を、特定の条件下に水中で攪拌してコロイド状に懸濁させ、攪拌終了直後の懸濁液における表面部の浮遊層と底面部の沈殿層を除く懸濁相100容量%の内から、その上下方向中間高さの水位部分を中心とする上下方向の水位部分80容量%以下を回収し、その回収した懸濁相から水分を分離することにより得られるものである点に特徴がある。
【0023】
即ち、表面部の植物組織片や腐食等を除外すること、あるいは場合によって、底面部の沈殿層を構成する砂利粒等を除外することは通常の水飛において行われているが、攪拌条件を特定したもとで、その攪拌の終了直後に懸濁相の中央部分の80容量%を回収すると言う水飛処理は、余り例がない。
【0024】
水飛処理は、基本的には水中での比重選別であると理解することができるが、より正確には、同一比重の粒子でも粒子の直径や形状(例えばアスペクト比)によって沈降定数が異なるし、攪拌の速度によっても差異が出る。従って第1発明の水飛処理によって採取粘土中の如何なる構成部分が回収されるかを正確に規定することは困難である。
【0025】
しかしながら、第1発明の水飛処理において懸濁相の上下方向中央部分を回収することにより、懸濁相中の上端部分の画分と、懸濁相中の下端部分の画分とが除外される。
【0026】
懸濁相中の上端部分として除外される画分(特に沈降し難い画分)には、完成された粘土鉱物構造を持つ微細な粘土鉱物粒子よりも更に微細な画分、即ち粘土鉱物構造が完成途上にあり、あるいは一旦構成された粘土鉱物構造が破壊されたような、非常に微細な粘土粒子が含まれていると考えられる。これらの粘土鉱物構造が未完成な極めて微細な画分が排除される点が、優れた吸着材焼成用原料粘土を得る一因であると考えられる。
【0027】
懸濁相中の下端部分として除外される画分(特に沈降し易い画分)には、いわゆる「砂利」に近いような大粒の非粘土質無機物粒子が含まれていると考えられる。これらの非粘土質無機物粒子は吸着材焼成後の吸着機能には貢献しない画分であって、これらの大粒の非粘土質無機物粒子画分が排除される点も、優れた吸着材焼成用原料粘土を得る一因であると考えられる。
【0028】
こうして、粒径及び又は沈降定数において中間的な粘土粒子(有効な粘土鉱物構造を持つ微細粘土粒子)のみが回収される。その意味で「粒揃い」の粘土であると言うことができる。又、市販のモンモリロナイト、カオリナイト、セピオライト等の各種の精製粘土とは異なり、種々の種類の粘土鉱物が混在している点に特徴がある。
【0029】
いずれにせよ、本願発明者は、第1発明の水飛処理によって回収された粘土が、吸着材焼成用原料粘土として非常に優れた性能を持つことを見出した。しかも、この吸着材焼成用原料粘土は、自然界の土壌中より得た採取粘土を単に水飛処理するだけで得られるから、前記の従来技術のように特段に精製粘土を購入して使用する場合に比較して、非常に安価であり、かつ入手容易である。なお、これらの自然界より得た採取粘土として、原状において工業的に利用されずに廃棄されている粘土も利用できる。その場合には、リサイクル(土壌資源の有効利用)と言う点でも有利である。
【0030】
しかも、この吸着材焼成用原料粘土を主成分する焼成生地を所定の方式で焼成すると、(恐らくは後述する理由から)酸性〜塩基性にわたる各種の有害成分や悪臭成分を満遍なく吸着する吸着材を製造することができる。
【0031】
(第2発明の効果)
上記した第1発明の効果は、上記の水飛処理において、攪拌の終了直後に懸濁相の中央部分の50容量%を回収すると言う限定的な扱いにより、とりわけ著しく発揮される。
【0032】
(第3発明の効果)
上記した第1発明の水飛処理においては、乱流を生じ難い円筒形容器中での攪拌が特に好ましく、又、攪拌条件としては、攪拌羽根による100〜150回転/分の攪拌を100分間以上継続することが特に好ましい。このような攪拌を、180分あるいはそれ以上継続することが、とりわけ好ましい。
【0033】
(第4発明の効果)
以上の水飛処理に供する採取粘土の種類は特段に限定されないが、例えば木節粘土、蛙目粘土又はカオリン等を好ましく例示することができる。理由は明確ではないが、とりわけ木節粘土が好ましい。
【0034】
(第5発明の効果)
第5発明は、上記の第1発明〜第4発明により得られた吸着材焼成用原料粘土を主成分として、これを乾重量で30〜60重量%含み、かつ、少なくとも活性炭を10〜50重量%含む焼成生地を調製し、これを嫌気条件下において、600〜900°Cで60〜600分間焼成して得られる吸着材である。
【0035】
この吸着材は、驚いたことに、例えばアルデヒド類のような酸性の有害/悪臭成分から、トルエンのような中性の有害/悪臭成分、アンモニアのような塩基性の有害/悪臭成分にいたるまで、高い効率で満遍なく吸着する。その理由は明確ではないが、恐らくは次のようなことであろうと推定している。
【0036】
即ち、上記の吸着材焼成用原料粘土は、上記の水飛処理によって、ある特定された比重及び沈降係数に係る粘土鉱物区画を含んでいる。そして、その粘土鉱物は、例えばカオリナイト系であれ、その他のモンモリロナイト系等であれ、その粘土鉱物に固有の微細な毛細管孔隙を備えている。又、同時に、粘土鉱物粒子間には比較的大径の粒子間孔隙が形成される。このような毛細管孔隙と粒子間孔隙との組み合わせが、第1に上記の特定の比重及び沈降係数に係る粘土鉱物区画に限定されることにより、第2に活性炭と混合されることにより、絶妙のバランスを実現していると考えられる。
【0037】
従って、吸着材は、良好にバランスされた小径の毛細管孔隙と大径の粒子間孔隙とを豊富に持つので、ホルムアルデヒドやアンモニア等の分子サイズの小さい有害物質や悪臭物質に対する吸着性能が非常に高く、かつ、分子サイズの大きいトルエン等の芳香族分子や長大な又は分岐状の炭素骨格構造を持つ脂肪族分子等に対しても、十分な吸着性能を示すのである。即ち、主として大小多様な孔隙による物理的吸着を行うので、酸性〜塩基性にわたる多様な有害/悪臭成分を高い効率で満遍なく吸着することができるのである。
【0038】
なお、焼成生地における吸着材焼成用原料粘土の組成比が30重量%未満である場合には、絶対量の不足から、必ずしも十分な吸着性能が得られ難い。又、焼成生地における吸着材焼成用原料粘土の組成比が60重量%を超えても、効果が飽和してしまい、又、活性炭その他の組成分を十分に含むことができないため、やはり十分な吸着性能が得られ難い。
【0039】
更に、焼成生地を好気条件下で焼成した場合も、好ましい結果は得られない。嫌気条件下の焼成であっても、その焼成を600°C未満及び/又は60分間未満で行うと、吸着に適した結晶構造への温度変化が見られないと言う理由から、又、その焼成を900°Cを超える温度及び/又は600分間を超える条件で行うと、吸着に適した結晶構造が破壊されると言う理由から、それぞれ良好な吸着材が得られ難い。
【0040】
(第6発明の効果)
本発明の吸着材は、不可欠な条件ではないが、焼成生地に更に鹿沼土、セピオライト、ゼオライト、陶石粉末、石灰石粉末から選ばれる1種以上を合計20〜40重量%含むことにより、更に優れた吸着性能を発揮することができる。
【0041】
セピオライトやゼオライトの吸着性能は良く知られているし、焼成生地に陶石粉末を添加した場合には吸着材の機械的強度が増すと言う付加的効果を期待でき、焼成生地に石灰石粉末を添加した場合には石灰石特有の化学吸着と、イグロスの増加による細孔の増加と言う付加的効果を期待できる。
【0042】
(第7発明の効果)
前記した嫌気条件下での焼成は、要するに酸素を忌避する条件であれば良いが、例えば真空〜減圧下での焼成、あるいは少なくとも窒素ガス又はアルゴンガスを包含するガス群から選ばれる不活性ガスの雰囲気下での焼成を好ましく例示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
次に、本願の第1発明〜第7発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。以下において、単に「本発明」と言う時は、該当する各発明を一括して指している。
【0044】
〔採取粘土〕
本発明に係る吸着材焼成用原料粘土は、自然界の土壌中より得た採取粘土を、特定の条件下に水飛処理し、攪拌後の特定の区画の懸濁相部分から回収される。この採取粘土としては、「木節粘土」、「蛙目粘土」、「カオリン」等のように、当業者によって特定の名称を与えられた所定の粘土を用いることが好ましく、とりわけ、木節粘土が好ましいが、当業者によって特定の名称を与えられていない任意の採取粘土も用いることができる。
【0045】
これらの自然界の粘土は、その種類により、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、イライト、スメクタイト、バーミキュライト、セピオライト等の多様な粘土鉱物を含んでいる。又、上記各種粘土の粉末状市販品(純品)とは異なり、腐食質等の不純物を多く含むので、例えば窯業原料として用いる際には予め水飛処理を行うことが多いが、本願発明はこの水飛処理において特殊な工夫を凝らすのである。
【0046】
〔水飛処理〕
本発明における水飛処理は、単なる一般的な水飛処理ではなく、自然界からの採取粘土を特定の条件下に水中で攪拌してコロイド状に懸濁させ、攪拌終了直後の懸濁液における表面部の浮遊層と底面部の沈殿層を除く懸濁相100容量%の内から、その上下方向中間高さの水位部分を中心とする上下方向の中央の水位部分80容量%以下(より好ましくは、50容量%以下)を回収し、その回収懸濁相から水分を分離することにより、吸着材焼成用原料粘土を得る処理である。
【0047】
水飛処理の前処理として、採取粘土中の植物組織片等の粗大挟雑物を予め除外する処理を行っても構わない。水飛処理に用いる水としては、純水を用いても良いが、水道水を用いても構わない。水飛処理用の水には、通常の水飛処理で用いることがある適宜な添加剤を加えても良いが、懸濁粒子の沈降速度に大きな影響を与える添加剤(例えば、アルカリ)を用いると、回収される粘土鉱物の内容が異なってくるので、注意を要する。
【0048】
水飛処理時の水温は、例えば10〜30°C程度の通常の温度であれば、特にこだわる必要はない。好ましくは、常温〜25°C程度の水温とする。
【0049】
〔攪拌〕
水飛処理における攪拌の手段、攪拌方法、攪拌条件等は特段に限定されないが、例えば、回転式の攪拌羽根を用いて、あるいはマグナチック・スターラー等を用いて、100〜150回転/分の割合で100分間以上継続することが好ましい。攪拌時間や攪拌速度等の条件が不足すると、採取粘土の分散・懸濁が不十分となる恐れがある。
【0050】
水飛処理に用いる容器の形状は任意に選択できるが、回転式の攪拌装置を用いる場合には、円筒形容器中での攪拌が好ましい。後述する中央水位部分の回収を考慮したとき、特に透明な材質からなる容器が好ましく、その器壁に目盛りを付されたものがとりわけ好ましい。又、水飛処理に供する採取粘土の量に対する水の用量は任意に決定すれば良いが、例えば10Kgの採取粘土に対しては15キロリットル程度の水を用いるのが好ましい。
【0051】
〔中央水位部分の回収〕
本発明においては、上記のような攪拌を終了した後、その懸濁液における表面部の浮遊層と底面部の沈殿層を除く懸濁相100容量%の内から、その上下方向中間高さの水位部分を中心とする上下方向の水位部分80容量%以下を回収することが好ましい。
【0052】
但し、懸濁相100容量%の内から、その上下方向中間高さの水位部分を中心とする上下方向の水位部分50容量%以下を回収することが、更に好ましい。この場合、吸着材焼成用原料粘土の収率は低下するが、焼成用原料としての独特の品質は一層向上する。
【0053】
懸濁相におけるこのような中央水位部分の回収は、例えば、最初に水飛処理容器から浮遊相と回収しない表層の懸濁相(高水位部分の懸濁相)とを適宜な方法で静かに取り除いて捨て、次に、回収すべき中央水位部分を慎重かつ正確に回収する。これらの回収操作においては、懸濁相に攪拌や乱流を生じないように注意する必要がある。例えば、容器の上方から吸引用ホースを差し込んで、上方水位部分から順次静かに吸い上げる、と言う方法が好ましい。回収した懸濁相は例えば濾過等で水を分離して、含湿状態又は乾燥状態で、使用時まで保存することができる。
【0054】
〔焼成生地〕
本発明の吸着材を製造するための焼成生地においては、少なくとも、上記の吸着材焼成用原料粘土を主成分として乾重量で30〜60重量%含み、かつこれに対して活性炭を10〜50重量%配合する。好ましくは更に、鹿沼土、セピオライト、ゼオライト、陶石粉末、石灰石粉末から選ばれる1種以上を合計20〜40重量%配合する。
【0055】
焼成生地には、上記の組成比が許す限りにおいて、吸着材の焼結性や吸着機能を高めるのに有用な任意の補助成分を配合することができる。このような補助成分として、例えば銀系等の無機抗菌材料、酸化チタン等の光触媒材料等を例示することができる。抗菌材料の配合によって吸着材に抗菌性が付与され、光触媒材料の配合によって吸着材に光触媒効果が付与される。
【0056】
〔焼成〕
上記の焼成生地の焼成においては、嫌気条件下で、600〜900°Cの温度域において60〜600分間の焼成を行う。「嫌気条件」とは、必ずしも酸素が完全に排除された条件でなくても良く、酸素が実質的に殆ど存在しない条件であれば良い。従って、空気吸引による減圧下の焼成、空気を窒素ガスやアルゴンガスで置換した不活性ガス雰囲気下での焼成、等が可能である。
【0057】
〔吸着材及びその用途〕
上記の焼成によって製造された吸着材は、酸性〜塩基性にわたる各種の有害ガスや悪臭ガス、例えば自動車排ガスに起因するNOx等の大気汚染物質、トイレ又は冷蔵庫等におけるアミン性の悪臭物質(アンモニアを含む)、シックハウス症候群との関係で問題視されているアルデヒド類、溶剤等として嫌の臭いを振りまくトルエン等を幅広く吸着することができる。その理由は、前記において推定した処である。
【0058】
吸着材の形状及び用途は、発明の効果が好ましく発揮される限りにおいて全く限定されない。吸着材の基本的な用途としては、流体(気体又は液体)中の悪臭成分や有害成分の除去が考えられる。
【0059】
吸着材の形状又は用途の具体的な例示として、粉状/粒状(家屋の室内や車両の室内脱臭用)、これらの粉粒がバインダーによって保持された塗膜状(家屋の室内や建築物の壁面材)、各種形状の焼結体の形態(例えば室内装飾品、照明器具、鑑賞用陶磁器、道路舗装用ブロック、水槽内の置物、飲料水容器に内装させる浄化材)等を挙げることができる。
【実施例】
【0060】
次に、本願発明の幾つかの実施例を説明する。これらの実施例においては採取粘土として木節粘土を用いている。これらの実施例の内容が本発明の技術的範囲を限定しないことは、もち論である。
【0061】
〔実施例1:吸着材焼成用原料粘土の調製〕
木節粘土1Kgを採取し、これを1.5キロリットルの純水を収容した円筒形ガラス容器(その器壁には、上下方向の目盛りが付されている)中に投入した。そして、この容器をマグネチック・スターラーの装置台上に載置したもとで、水温を25°Cに保って、ガラス容器中にスターラーの回転子を投入し、130回転/分の攪拌を行った。この攪拌により木節粘土がコロイド状に懸濁すると共に、木節粘土中の浮遊成分が懸濁液の表層部に浮上し、一方で細かな砂利様の粒子が懸濁液の底部に沈降している様子が確認された。
【0062】
上記の攪拌を180分間継続した後、吸引用ホースを容器の上方から水面部まで静かに差し込んで、最初に腐食質その他の物質からなる浮遊相を吸い取り、捨てた。次に、器壁の目盛りに従い、懸濁相の全水位の内の上方10容量%の部分を静かに吸い取り、捨てた。次に吸引用ホースを回収用の容器に連結し、残りの懸濁相の内の底部10容量%を残す部分を、静かに、かつ慎重に吸い取り、回収用の容器へ移動させた。回収用の容器に回収された懸濁相を濾紙で濾過し、本実施例に係る吸着材焼成用原料粘土を約600g(湿重量)得た。
【0063】
〔実施例2:吸着材の製造〕
実施例1で得た吸着材焼成用原料粘土400g(乾重量)にゼオライト(平均粒径200μm)400g及び活性炭(大平化学社製、平均粒径36μm)を加え、純水400gで混練・粘土化させ、角形板状の焼成用生地を調製した。この焼成生地を乾燥させてから焼成炉へ搬入し、アルゴンガス雰囲気(90%以上の無酸素状態)の加圧(1.1気圧)下で、800°Cにて100分間の焼成を行い、10cm×10cm×1cmの四角形板状の吸着材を得た。
【0064】
〔実施例3:吸着材の性能評価〕
(実施例3−1:ガス吸着試験)
実施例2で得た吸着材1個を50リットル容のデシケーター中に収容し、デシケーターを密封した後、デシケーターに設けたガス置換系によってデシケーター中の空気を50ppmの吸着対象ガスを含む空気と置換した。吸着対象ガスとしては、それぞれ、アンモニア、アセトアルデヒド、トルエン及びメチルメルカプタンを用いた。デシケーターの内部は常に25°Cに保たれている。
【0065】
デシケーターには細い筒状のガス検知管を気密に抜き差しできる挿入孔が設けられており、この挿入孔にガステック社製のガス検知管(デシケーター内の空気をごく少量分取して、対象ガスの濃度を検出することができる装置)を差し込み、各試験ガスの初期濃度が50ppmであることを確認した。
【0066】
次に、前記吸着対象ガスのデシケーター中への置換(導入)時点から60分後、120分後及び360分後にも、それぞれ同上のガス検知管をデシケーターに差し込んで対象ガス濃度を検出することにより、デシケーター内の対象ガス濃度の経時変化を見た。その結果を図1〜図4中の◆形のプロットによって示す。図1はアンモニア、図2はアセトアルデヒド、図3はトルエン、図4はメチルメルカプタンを、それぞれ対象ガスとする測定結果である。
【0067】
図1〜図4における▲形のプロットは、本願発明者が経験上知得した、この種の吸着材において一般的に要求される性能の基準を示す。即ち、▲形のプロットで示されるデータよりも高い吸着性能を示す吸着材は、一般的に、優れた吸着材であると評価することができる。
【0068】
(実施例3−2:ガス吸着の対比試験その1)
実施例1と同じ木節粘土を、本発明に係る水飛処理をせずにそのまま焼成用生地の原料として用いた点以外は、実施例2及び実施例3−1と全く同じ処理及び方法で行った比較例(アンモニア吸着試験)の測定データを、図5における■形のプロットで示す。図5中、◆形のプロットと▲形のプロットは、図1と同じデータである。
【0069】
(実施例3−3:ガス吸着の対比試験その2)
実施例1と同じ木節粘土を、5キロタイプ容量のポットミルに原土(選別しない粘土)2Kg、水3Kgを加え、回転速度26〜93回転/分(電源60Hz)で10時間と言う条件でミル粉砕し、その他の点は実施例2及び実施例3−1と全く同じ処理及び方法で行った比較例(アンモニア吸着試験)の測定データを、図6における■形のプロットで示す。図6中、◆形のプロットと▲形のプロットは、図1と同じデータである。図6中の比較例が図5の比較例より成績が悪いのは、ミル粉砕による粘土鉱物の構造破壊が関係しているものと思われる。
【0070】
(実施例3−4:ガス吸着の対比試験その2)
実施例2における前記の焼成を空気焼成(好気的焼成)により行った点以外は実施例1〜実施例3−1と全く同じ処理及び方法で行った比較例(トルエン吸着試験)の測定データを、図7における■形のプロットで示す。
【0071】
図7中、◆形のプロットは図3と同じデータである。■形のプロットと◆形のプロットとの対比から、嫌気的焼成を行わなければ良好な吸着材を得られないことが、明瞭に見て取れる。
【0072】
〔実施例4:吸着材の最適実施例〕
前記の実施例1においては、水飛処理における懸濁相から上下方向の中央部の80容量%を回収したが、本実施例では更に限定して、懸濁相から上下方向の中央部の50容量%を回収した。その他の点は、上記の実施例1〜実施例3−1と全く同じ処理及び方法で行ったトルエン吸着試験の測定データを、図8における●形のプロットで示す。
【0073】
図8中、▲形のプロットは、図3と同じデータであり、■形のプロットは図3における◆形のプロットと同じデータである。実施例4に係る吸着材が実施例3−1に係る吸着材よりもトルエンに対する吸着性能が更に良好であることが明瞭に見て取れる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、分子サイズの小さいホルムアルデヒドやアンモニア、分子サイズのかなり大きいトルエン、アニリン等を共に良好に吸着する吸着材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施例の測定データを示す図である。
【0076】
【図2】実施例の測定データを示す図である。
【0077】
【図3】実施例の測定データを示す図である。
【0078】
【図4】実施例の測定データを示す図である。
【0079】
【図5】比較例の測定データを示す図である。
【0080】
【図6】比較例の測定データを示す図である。
【0081】
【図7】比較例の測定データを示す図である。
【0082】
【図8】最適実施例の測定データを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然界の土壌中より得た採取粘土を、特定の条件下に水中で攪拌してコロイド状に懸濁させ、攪拌終了直後の懸濁液における表面部の浮遊層と底面部の沈殿層を除く懸濁相100容量%の内から、その上下方向中間高さの水位部分を中心とする上下方向の水位部分の中央部80容量%以下を回収し、その回収懸濁相から水分を分離することにより得られることを特徴とする吸着材焼成用原料粘土。
【請求項2】
前記回収懸濁相が、前記懸濁相の上下方向の中央部50容量%以下に相当する水位部分の懸濁相であることを特徴とする請求項1に記載の吸着材焼成用原料粘土。
【請求項3】
前記採取粘土の水中での攪拌を、円筒形容器中での攪拌羽根による100〜150回転/分の攪拌を100分間以上継続することにより行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸着材焼成用原料粘土。
【請求項4】
前記採取粘土が木節粘土、蛙目粘土又はカオリンであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の吸着材焼成用原料粘土。
【請求項5】
少なくとも請求項1に記載の吸着材焼成用原料粘土を乾重量で30〜60重量%含み、かつ活性炭を10〜50重量%含む焼成生地を調製し、これを嫌気条件下、600〜900°Cで60〜600分間焼成して得られることを特徴とする吸着材。
【請求項6】
前記焼成生地が、更に鹿沼土、セピオライト、ゼオライト、陶石粉末、石灰石粉末から選ばれる1種以上を合計20〜40重量%含むことを特徴とする請求項5に記載の吸着材。
【請求項7】
前記嫌気条件下の焼成が、真空〜減圧下での焼成、あるいは少なくとも窒素ガス又はアルゴンガスを包含するガス群から選ばれる不活性ガスの雰囲気下での焼成であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の吸着材。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−239646(P2006−239646A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62089(P2005−62089)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(392022282)日陶科学株式会社 (3)
【出願人】(598093255)三窯有限会社 (1)
【Fターム(参考)】