説明

吸着材

【課題】従来の既存吸着材よりも、気体吸着活性が高く、特に窒素に対する吸着容量の高い銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを提供することにより、常温常圧、あるいは常温減圧下でも大容量の窒素を吸着可能とする。
【解決手段】銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、少なくとも60%以上の銅サイトを、銅1価サイトとしたことにより、従来の既存の吸着材よりも、一層大容量の気体種を吸着、固定化できる。さらに、銅1価サイトのうち、少なくとも70%以上を酸素三配位の銅1価サイトとすれば、より強固な気体吸着が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体吸着材料は、真空保持、希ガス中の微量ガスの除去、蛍光灯中のガスの除去等様々な分野で用いられている。
【0003】
半導体製造工業で用いられている希ガスは、希ガス中の窒素、炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、酸素、水素、水蒸気などを除去し、高純度に精製することが望まれている。特に、その中でも安定な分子である窒素を室温付近で除去することが極めて困難である。
【0004】
例えば、希ガス中の窒素、あるいは炭化水素などを除去するものとしては、ジルコニウム、バナジウム及びタングステンからなる三元合金のゲッター材がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記三元合金は、100〜600℃の温度で、微量の不純物を含む希ガスと接触させることにより、希ガスから窒素等の不純物を除去するものである。
【0006】
また、窒素に対して高ガス吸着効率を備える無蒸発ゲッター合金としては、ジルコニウム、鉄、マンガン、イットリウム、ランタンと、希土類元素の1種の元素を含む合金ある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
上記の窒素に対して高ガス吸着効率を備える無蒸発ゲッター合金は、300〜500℃の間の温度で10〜20分間活性化処理を行うことにより、水素、炭化水素、窒素等の吸着に対して、室温でも作用することができるものである。
【0008】
また、低温で窒素を除去する合金としては、Ba−Li合金がある(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
Ba−Li合金は、乾燥材と一緒に、断熱ジャケット内の真空を維持するためのデバイスとして使用され、室温においても窒素等のガスに対して反応性を示す。
【0010】
また、精製対象ガスから窒素などの不純物ガスを除去するものとしては、銅イオン交換したZMS−5型ゼオライトからなる吸着材がある(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
これは、従来既存のイオン交換方法によって、ZMS−5型ゼオライトに銅イオンを導入し、熱処理を行うことによって、窒素吸着活性を付与するものであり、平衡圧力10Paにおける最大窒素吸着量は、0.238mol/kg(5.33cc/g)にて報告されている。
【特許文献1】特開平6−135707号公報
【特許文献2】特表2003−535218号公報
【特許文献3】特表平9−512088号公報
【特許文献4】特開2003―311148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の吸着材では、300〜500℃で加熱し続けることが必要であり、高温での加熱であるため、エネルギーコストが大きく環境にも悪く、また、低温でのガス吸着を望む場合は使用できない。
【0013】
また、特許文献2に記載の吸着材では、300〜500℃の前処理が必要であり、高温での前処理が困難な場合のガス除去、例えばプラスチック袋中のガスを常温下で除去することは困難である。
【0014】
また、特許文献3に記載の吸着材では、活性化のための熱処理を必要とせず常温で窒素吸着可能であるが、そのため、取り扱い時に空気中の水分、窒素などと反応してしまうという問題がある。そして、一旦反応すると不可逆反応であるために、必要時までいかに活性を保持するか、取り扱い性が課題である。また、窒素吸着に対するさらなる大容量化が望まれていると共に、BaはPRTR指定物質であるため、工業的に使用するには環境や人体に対して問題のないものが望まれている。
【0015】
また、特許文献4に記載の吸着材では、常温で窒素などの気体吸着が可能であるが、より大容量で気体吸着可能な吸着材が望まれている。
【0016】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、気体吸着活性が高く、特に窒素に対する吸着容量の高い銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを得ることにより、常温常圧、あるいは常温減圧下でも大容量の気体を吸着可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の吸着材は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材であって、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、少なくとも60%以上の銅サイトを、銅1価サイトとしたのである。
【0018】
好ましくは、銅1価サイトのうち、少なくとも70%以上を酸素三配位の銅1価サイトとしたのである。
【0019】
銅1価サイト、特に酸素三配位の銅1価サイトは、窒素およびその他気体の吸着活性サイトであるため、これらのサイトの占める割合が高いことが、大容量気体吸着を可能とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の吸着材は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、少なくとも60%以上の銅サイトを、銅1価サイトとしたことにより、従来の既存の吸着材よりも、一層大容量の気体種を吸着、固定化できる。さらに、銅1価サイトのうち、少なくとも70%以上を酸素三配位の銅1価サイトとすれば、より強固な気体吸着が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の請求項1に記載の吸着材の発明は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材であって、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、少なくとも60%以上の銅サイトが、銅1価サイトであることを特徴とするものである。
【0022】
従来より、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが、窒素を化学吸着可能であることは知られている。これまでに報告されている銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、塩化銅水溶液やアンミン酸銅水溶液、酢酸銅水溶液など、銅の可溶性塩の水溶液にてイオン交換され、その後、熱処理を行うことにより、銅イオンを1価へ還元し、窒素吸着活性を付与されていた。
【0023】
しかしながら、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、数種類の銅イオン交換サイトを有しており、従来の既知の方法で調製された銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトでは、銅サイト中に占める窒素吸着活性な銅1価サイトの割合の増大には限界があり、従来の最大割合は50%程度であった。
【0024】
本発明の吸着材では、少なくとも60%以上の銅サイトが、吸着活性な銅1価サイトとして存在することによって、気体の吸着容量が増大し、かつ、窒素、一酸化炭素のみならず、水素、酸素などの気体種の吸着までが可能となった。
【0025】
なお、銅イオン交換された銅サイトのうち、銅1価サイトの割合は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト中の総銅モル量に対する、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトにおける一酸化炭素吸着モル量を算出することによって求められる。
【0026】
また、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト中の総銅モル量は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを過塩素酸などで溶解し、EDTA滴定などによって求めることが可能である。
【0027】
請求項2に記載の吸着材の発明は、請求項1記載の発明において、銅1価サイトのうち、少なくとも70%以上が酸素三配位の銅1価サイトであることを特徴とするものである。
【0028】
銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトが、気体分子とより強い相互作用を生じ、気体を化学吸着可能であることが明らかとなっている。よって、銅1価サイトのうち、少なくとも70%以上を酸素三配位の銅1価サイトとすることにより、気体の吸着容量が増大すると共に、より強固に気体を吸着する化学吸着容量を増大させることが可能となり、また、窒素、一酸化炭素のみならず、水素、酸素、メタン、エタンなど低分子量の気体種の吸着までが室温領域で可能となることが確認できた。
【0029】
なお、銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトの割合は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトにおける一酸化炭素吸着モル量に対する、窒素吸着モル数を算出することによって求められる。
【0030】
銅1価サイトの酸素配位状態は、発光スペクトルによっても確認することができる。本発明による吸着材の銅1価発光スペクトルを図1に、従来手法により銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの発光スペクトルを図2に示す。
【0031】
図1においては、図2にと比較して、銅1価サイトとしての全体のピークスペクトルが大きく、かつ、酸素三配位のピーク強度が明らかに大きくなっていることが分かる。
【0032】
請求項3に記載の吸着材の発明は、請求項1または2記載の発明における銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが、少なくとも、銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液にてイオン交換されたことを特徴とするものである。
【0033】
本発明によれば、ZSM−5型ゼオライトへ銅イオンが交換される際、バッファー作用を有するイオンが、銅イオンの還元を促進する作用を有するために、銅1価サイトの割合を増大させ、その結果、気体吸着量の増大が得られるものである。
【0034】
また、ZSM−5型ゼオライトへ銅イオンが交換される際、バッファー作用を有するイオンが、銅イオンを、酸素三配位のサイトへ導入する作用をも有するため、より強固に気体を吸着する化学吸着容量の増大が得られるものである。
【0035】
ここで、バッファー作用を有するイオンとは、銅イオンを含む溶液の解離平衡を緩衝する作用を有するイオンのことを指している。
【0036】
一例を挙げて説明すると、酢酸銅水溶液中のイオン解離挙動を(化1)に示す。
【0037】
【化1】

この系へ、適切なバッファー作用を有するアニオン、たとえば、
【0038】
【化2】

が加えられると、平衡は式中央へ進行し、アセテートとの会合種を含む1価イオン
【0039】
【化3】

の生成が安定となる。これにより、銅1価サイトの割合、および、酸素三配位の銅1価サイトの割合が増大することが明らかとなった。
【0040】
この要因について詳細は不明であるが、おそらくは窒素吸着活性なイオン交換サイトの位置及び、その細孔径とイオン径の立体的な障害などの、相対関係に起因する形状選択性、その三次元構造の特異性によるものと考えられる。
【0041】
請求項4に記載の吸着材の発明は、請求項3記載の発明における銅イオンが、カルボキシラトを含む化合物から生じたものであること特徴とするものである。
【0042】
本発明によれば、銅1価サイトの割合が増大し、その結果、気体吸着量の増大が得られた。また、酸素三配位のサイトへの導入が増大し、より強固に気体を吸着する化学吸着容量の増大が得られた。
【0043】
この要因は、カルボキシラトを含む化合物は、適した配位結合性を有するため、銅1価の会合種を生成できることによるものと考えられる。
【0044】
なお、ここでのカルボキシラトを含む化合物とは、酢酸銅およびプロピオン酸銅、蟻酸銅などである。
【0045】
請求項5に記載の吸着材の発明は、請求項4記載の発明におけるカルボキシラトを含む化合物が、酢酸銅であることを特徴とするものである。
【0046】
酢酸銅は、カルボキシラトを含む化合物の中でも、そのイオンサイズが適当であることにより、イオン交換が容易であるため、交換回数に対する交換効率が優れ、生産プロセスが容易となるものである。また、工業的にも安価で生産性にも優れている。
【0047】
請求項6に記載の吸着材の発明は、請求項3から5のいずれか一項記載の発明におけるバッファー作用を有するイオンが、イオンサイズが5Å以上10Å以下の陰イオンであることを特徴とするものである。
【0048】
本発明によれば、バッファー作用を有するイオンが、効果的に、銅イオンの還元を促進する作用を有するために、銅1価サイトの割合を増大させ、その結果、気体吸着量の増大が得られることとなる。
【0049】
また、ZSM−5型ゼオライトへ銅イオンが交換される際、バッファー作用を有するイオンが、銅イオンを、酸素三配位のサイトへ導入する作用をも有するため、より強固に気体を吸着する化学吸着容量の増大が得られることとなる。
【0050】
これらの要因について詳細は不明であるが、おそらくはZSM−5の細孔径とイオン径の相対関係に起因する形状選択性、および、その三次元構造の特異性によるものと考えられる。すなわち、ZSM−5の空隙間距離は5Å×7Åであり、この空間内に存在する、特に窒素吸着活性の高いと考えられる酸素三配位サイトへ、銅イオンを導入するために適した大きさであるためと考えられる。
【0051】
請求項7に記載の吸着材の発明は、請求項3から6のいずれか一項記載の発明におけるバッファー作用を有するイオンが、酢酸イオンであることを特徴とするものである。
【0052】
本発明によれば、バッファー作用を有する酢酸イオンが、効果的に、銅イオンを、1価へ還元され易いサイトへ導入する作用を有するために、銅1価サイトの割合を増大させ、その結果、気体吸着量の増大が得られる。
【0053】
また、ZSM−5型ゼオライトへ銅イオンが交換される際、バッファー作用を有する酢酸イオンが、銅イオンを、酸素三配位のサイトへ導入する作用をも有するため、より強固に気体を吸着する化学吸着容量の増大が得られる。
【0054】
請求項8に記載の吸着材の発明は、請求項3から7のいずれか一項記載の発明におけるバッファー作用を有するイオンが、酢酸アンモニウムから生じたものであることを特徴とするものである。
【0055】
本発明によれば、バッファーとして作用する酢酸イオンの対アニオンであるアンモニウムイオンは、加熱による還元時に、アンモニアとして脱離するため、ZSM−5型ゼオライト基材に残留し、気体吸着に悪影響を及ぼすことがないのである。
【0056】
請求項9に記載の吸着材の発明は、請求項1から8のいずれか一項記載の吸着材が、還元雰囲気における熱処理を経て作製されていることを特徴とするものである。
【0057】
本発明によれば、一層銅1価サイトの形成が促進され、気体吸着量が増大するものである。ここで、還元雰囲気にするために、一酸化炭素、水素や、その他アルコールなどの有機物ガスを用いることが可能である。
【0058】
また、熱処理温度は、200℃から400℃の範囲が好ましい。400℃以上であると、金属銅まで還元されてしまう恐れがあり、また、200℃以下の場合、効果的に還元が進行しない。
【0059】
また、還元雰囲気における熱処理時間は、特に指定するものではないが、30分から2時間の間処理を行った際に、銅1価サイトの形成促進が確認できた。
【0060】
請求項10に記載の吸着材の発明は、請求項1から9のいずれか一項記載の吸着材が、窒素を吸着したことにより、前記吸着材のFT−IRスペクトルに銅1価イオンに吸着した窒素分子の3重結合伸縮振動に帰属できる2295cm-1付近のピークが現れることを特徴とするものであり、窒素を吸着した状態の請求項1から9のいずれか一項記載の吸着材(大容量の窒素を吸着、固定化が可能となった銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト)は、吸着材のFT−IRスペクトルに銅1価イオンに吸着した窒素分子の3重結合伸縮振動に帰属できる2295cm-1付近のピークが現れることで、確認できる。
【0061】
以下、本発明の吸着材の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって、この発明が限定されるものではない。
【0062】
(実施の形態1)
図3は、本発明の実施の形態1における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
【0063】
本発明の実施の形態における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材の製造は、銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液を用いたイオン交換工程(STEP1)と、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを洗浄する洗浄工程(STEP2)と、乾燥工程(STEP3)と、銅イオンを還元するための熱処理工程(STEP4)とからなるものである。
【0064】
銅イオンを交換する前の原料であるZSM−5型ゼオライトは、市販の材料を使用することができるが、シリカ対アルミナ比は、2.6以上50以下であることが望ましい。この範囲を望ましいとしたのは、シリカ対アルミナ比が50を超えると、銅イオン交換量が少なく、すなわち窒素吸着活性が減少からであり、シリカ対アルミナ比が2.6未満のZSM−5型ゼオライトは理論的に合成が不可能であるという理由からである。
【0065】
イオン交換工程(STEP1)では、銅イオンを含む溶液として、酢酸銅、プロピオン酸銅、塩化銅など、従来の既存の化合物の水溶液を利用可能であるが、気体吸着量の増大と強固な吸着の実現のためには、酢酸銅が望ましい。
【0066】
また、バッファー作用を有するイオンとしては、酢酸イオン、プロピオン酸イオンなど、銅イオンを含む溶液のイオン解離平衡を緩衝する作用を有するイオンが、利用可能である。
【0067】
銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液は、それぞれのイオンを含む溶液を予め作製した後、混合しても良く、同一の溶媒にそれぞれの溶質を溶解しても良い。
【0068】
イオン交換回数や銅イオン溶液の濃度、バッファー溶液の濃度、イオン交換時間、温度などは、特に限定するものではないが、イオン交換率としては、70%から140%の範囲において、優れた吸着性能を示す。より好ましくは、100%から130%の範囲である。
【0069】
ここで示すイオン交換率とは、2つのNa+あたりにCu2+が交換されることを前提とした計算値であり、銅がCu+として交換された場合、計算上は100%を越えて算出される。
【0070】
なお、洗浄工程(STEP2)では、蒸留水を用いて洗浄することが望ましい。また、乾燥工程(STEP3)では、100℃未満の条件で乾燥することが望ましく、室温での減圧乾燥でも良い。
【0071】
また、熱処理工程(STEP4)では、減圧下、望ましくは10-5Pa未満の条件下で、500℃以上800℃以下の温度で熱処理することが望ましい。熱処理時間は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの量によるが、銅イオンを2価から1価へ還元可能な十分な時間が必要である。なお、500℃以上800℃以下の温度での熱処理が望ましいとしたのは、500℃未満では、1価への還元が不十分になる恐れがあり、800℃を超えると、ゼオライトの構造が破壊される恐れがあるという理由からである。
【0072】
このようにして製造した銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、少なくとも60%以上の銅サイトが、銅1価サイトであり、かつ/または、銅1価サイトのうち、少なくとも70%以上が酸素三配位の銅1価サイトであることを特徴とする吸着材となり、従来の既存吸着材よりも、一層大容量の気体種を吸着、固定化できるものである。また、より強固な気体吸着を可能とするものである。
【0073】
本実施の形態による、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材において、銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液の濃度、イオン交換回数などを変えて気体吸着特性を評価した結果を、実施例1から実施例4に示す。なお、使用したZSM−5型ゼオライトのシリカアルミナ比は11.9であり、熱処理は、600℃にて行い、4時間保持とした。なお、比較対象は、従来の既存プロセスを経て作製された比較例1とした。
【0074】
(実施例1)
銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液調整するために、酢酸銅と酢酸アンモニウムを用いた。それぞれの濃度は、酢酸銅を0.03Mと、酢酸アンモニウムを0.03Mとし、それぞれを1:0.1の比で混合した溶液を用いて、常温にてイオン交換を30回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
【0075】
熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは13.0cc/g、10Paでは8.2cc/gであった。
【0076】
本実施例における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、銅1価サイトは、92%であり、銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトは、84%であった。また、イオン交換率は、130%であった。
【0077】
比較例1に比べ、窒素吸着量は、13200Paでは2.2cc/g、10Paでは3.6cc/gの増大が認められた。また、低圧領域における強固な吸着が、より増大していることがわかる。これは、銅1価サイトおよび、酸素三配位の銅1価サイトの増大に起因するものである。
【0078】
(実施例2)
銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液調整するために、酢酸銅と酢酸アンモニウムを用いた。それぞれの濃度は、酢酸銅を0.01Mと、酢酸アンモニウムを0.01Mとし、それぞれを1:0.1の比で混合した溶液を用いて、常温にてイオン交換を30回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
【0079】
熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは12.2cc/g、10Paでは8.0cc/gであった。
【0080】
本実施例における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、銅1価サイトは、73%であり、銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトは、89%であった。また、イオン交換率は、130%であった。
【0081】
比較例1に比べ、窒素吸着量は、13200Paでは1.4cc/g、10Paでは3.4cc/gの増大が認められた。また、低圧領域における強固な吸着が、より増大していることがわかる。これは、銅1価サイトおよび、酸素三配位の銅1価サイトの増大に起因するものである。
【0082】
(実施例3)
銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液調整するために、酢酸銅と酢酸アンモニウムを用いた。それぞれの濃度は、酢酸銅を0.01Mと、酢酸アンモニウムを0.01Mとし、それぞれを1:0.5の比で混合した溶液を用いて、常温にてイオン交換を30回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
【0083】
熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは11.0cc/g、10Paでは7.6cc/gであった。
【0084】
本実施例における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、銅1価サイトは、89%であり、銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトは、85%であった。また、イオン交換率は、114%であった。
【0085】
比較例1に比べ、窒素吸着量は、13200Paでは0.2cc/g、10Paでは3.0cc/gの増大が認められた。また、低圧領域における強固な吸着が、より増大していることがわかる。これは、銅1価サイトおよび、酸素三配位の銅1価サイトの増大に起因するものである。
【0086】
(実施例4)
銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液調整するために、酢酸銅と酢酸アンモニウムを用いた。それぞれの濃度は、酢酸銅を0.01Mと、酢酸アンモニウムを0.01Mとし、それぞれを1:1の比で混合した溶液を用いて、常温にてイオン交換を30回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
【0087】
熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは11.3cc/g、10Paでは6.6cc/gであった。
【0088】
本実施例における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、銅1価サイトは、88%であり、銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトは、85%であった。また、イオン交換率は、109%であった。
【0089】
比較例1に比べ、窒素吸着量は、13200Paでは0.5cc/g、10Paでは2.0cc/gの増大が認められた。また、低圧領域における強固な吸着が、より増大していることがわかる。これは、銅1価サイトおよび、酸素三配位の銅1価サイトの増大に起因するものである。
【0090】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
【0091】
本発明における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材の製造は、銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液を用いたイオン交換工程(STEP1)と、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを洗浄する洗浄工程(STEP2)と、乾燥工程(STEP3)と、銅イオンを還元するための熱処理工程(STEP4)と、1価還元促進のための還元熱処理工程(STEP5)からなるものである。
【0092】
還元熱処理工程は、還元雰囲気において熱処理を行うことにより、銅イオンの1価還元を促進し、気体吸着量の増大を得るものであり、還元雰囲気とするために、一酸化炭素や水素、その他アルコールなどの有機物ガスが利用でき、熱処理温度は200℃から400℃が適当である。
【0093】
本実施の形態による、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材における実施例を、実施例5に示す。なお、熱処理は、600℃にて行い、4時間保持とした。
【0094】
(実施例5)
銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液調整するために、酢酸銅と酢酸アンモニウムを用いた。それぞれの濃度は、酢酸銅を0.01Mと、酢酸アンモニウムを0.01Mとし、それぞれを1:0.1の比で混合した溶液を用いて、常温にてイオン交換を30回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。熱処理後、400℃にて一酸化炭素雰囲気で還元熱処理を1時間行った。
【0095】
還元熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは12.6cc/g、10Paでは8.2cc/gであった。
【0096】
本実施例における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、銅1価サイトは、82%であり、銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトは、85%であった。また、イオン交換率は、89%であった。
【0097】
比較例1に比べ、窒素吸着量は、13200Paでは1.8cc/g、10Paでは3.6cc/gの増大が認められた。
【0098】
また、同等条件で調製した実施例2と比較すると、還元熱処理により、窒素吸着量は、13200Paでは0.4cc/g、10Paでは0.2cc/gの増加が見られた。
【0099】
次に本発明の吸着材に対する比較例を示す。
【0100】
(比較例1)
従来の既存の特許文献4のプロセスにてイオン交換するために、イオン交換溶液として酢酸銅水溶液を用いた。酢酸銅水溶液の濃度は、0.01Mとし、常温にてイオン交換を30回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。熱処理は、実施例5と同等とした。
【0101】
熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは10.8cc/g、10Paでは4.6cc/gであった。
【0102】
本実施例における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、銅1価サイトは、59%であり、銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトは、64%であった。また、イオン交換率は、121%であった。
【0103】
(比較例2)
従来の既存のプロセスにてイオン交換するために、イオン交換溶液として塩化銅水溶液を用いた。塩化銅水溶液の濃度は、0.01Mとし、90℃にてイオン交換を20回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。熱処理は、実施例5と同等とした。
【0104】
熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは5.3cc/g、10Paでは2.0cc/gであった。
【0105】
本実施例における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、銅1価サイトは、55%であり、銅1価サイトのうち、酸素三配位の銅1価サイトは、65%であった。また、イオン交換率は、111%であった。
【0106】
以上の実施例1〜実施例5と比較例1、比較例2の結果を(表1)に示す。
【0107】
【表1】

(表1)から、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうちの銅1価サイトの割合が60%以上である実施例1〜実施例5は、銅1価サイトの割合が60%未満である比較例1、比較例2よりも、窒素吸着量が増大していることが分かる。
【0108】
また、銅1価サイトのうちの酸素三配位の銅1価サイトの割合が70%以上である実施例1〜実施例5は、酸素三配位の銅1価サイトの割合が70%未満である比較例1、比較例2よりも、窒素吸着量が増大していることが分かる。
【0109】
また、実施例2と実施例5とを比較すると、還元熱処理工程があることにより、窒素吸着量が増えていることが分かる。
【0110】
また、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが、カルボキシラトを含む化合物である酢酸銅から生じた銅イオンと、酢酸アンモニウムから生じた、バッファー作用を有し、イオンサイズが5Å以上10Å以下の陰イオンである、酢酸イオンとを含むイオン交換溶液にてイオン交換されたものである、実施例1〜実施例5は、そうでない比較例1、比較例2よりも、窒素吸着量が増大していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上のように、本発明にかかる吸着材は、従来の既存品よりも、より大容量の気体を吸着することが可能である。窒素、酸素、水素などを吸着することが可能であるが、特に窒素に対する吸着性能が高いため、蛍光灯中のガスの除去、希ガス中の微量ガスの除去、気体分離等様々な分野で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明による吸着材の銅1価発光スペクトルを示す特性図
【図2】従来手法により銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの発光スペクトルを示す特性図
【図3】本発明の実施の形態1の吸着材の製造方法を示すフローチャート
【図4】本発明の実施の形態2の吸着材の製造方法を示すフローチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材であって、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの銅サイトのうち、少なくとも60%以上の銅サイトが、銅1価サイトであることを特徴とする吸着材。
【請求項2】
銅1価サイトのうち、少なくとも70%以上が酸素三配位の銅1価サイトであることを特徴とする請求項1記載の吸着材。
【請求項3】
銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが、少なくとも、銅イオンと、バッファー作用を有するイオンとを含むイオン交換溶液にてイオン交換されたことを特徴とする請求項1または2記載の吸着材。
【請求項4】
銅イオンは、カルボキシラトを含む化合物から生じたものであること特徴とする請求項3記載の吸着材。
【請求項5】
カルボキシラトを含む化合物が、酢酸銅であることを特徴とする請求項4記載の吸着材。
【請求項6】
バッファー作用を有するイオンは、イオンサイズが5Å以上10Å以下の陰イオンであることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項記載の吸着材。
【請求項7】
バッファー作用を有するイオンは、酢酸イオンであることを特徴とする請求項3から6のいずれか一項記載の吸着材。
【請求項8】
バッファー作用を有するイオンは、酢酸アンモニウムから生じたものであることを特徴とする請求項3から7のいずれか一項記載の吸着材。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項記載の吸着材が、還元雰囲気における熱処理を経て作製されていることを特徴とする吸着材。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項記載の吸着材が、窒素を吸着したことにより、前記吸着材のFT−IRスペクトルに銅1価イオンに吸着した窒素分子の3重結合伸縮振動に帰属できる2295cm-1付近のピークが現れることを特徴とする吸着材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−305437(P2006−305437A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129207(P2005−129207)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】