説明

吹きだまり予測方法および装置

【課題】 高速かつ高精度で広範囲に吹きだまり量の予測を行うことができる吹きだまり予測方法および装置を提供する。
【解決手段】 吹きだまり予測装置はFTPサーバからGPVデータを取得し、各地点に吹雪が発生するかどうかを予測する。吹雪が発生しないと予測された場合はその地点の降雪量を吹きだまり量として予測する。吹雪が発生すると予測された場合は、各地点に設置してある積雪針計から雪堤の高さデータを取得する。吹きだまり予測装置には雪堤の高さ、風向、風速、および降雪量から解析した吹きだまり量データを蓄積しているデータベースが備えられており、各地点の雪堤の高さ、風向、風速、および降雪量をデータベースから検索して吹きだまり量の予測を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道線路およびその敷地内における雪の吹きだまり量を予測する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積雪の多い寒冷地では、雪の吹きだまりが鉄道線路の安全確保にとって大きな障害となっている。吹きだまりは、気象の影響のほか、風の流れを妨げる地表の凹凸の影響が大きく、形成される位置や大きさ、形状が様々である。
【0003】
鉄道網が拡大する中で、全線にわたって十分な吹雪対策施設を整備することは困難である。災害を防止するためには、吹きだまり発生を事前に予測して運転者や鉄道線路運用者への適切な情報提供が不可欠である。
【0004】
従来、吹きだまり発生を予測する方法としては、実際の斜面で観測を行い、その観測データを分析することで経験的な予測を行う方法が提示されている(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
また、風の流れを数値解析によって推定し、雪粒子が風によって運ばれる過程を微分方程式にてモデル化することで吹きだまりの発生を予測する方法が提示されている(例えば非特許文献2参照)。
【非特許文献1】Tabler,R.D.,1975,Predicting profiles of snowdrifts in topographic catchments,43rd Western snow conference Proceeding 43,87-97
【非特許文献2】Uematsu,T.,Nakata,T.,Takeuchi,K.,Arisawa,Y.,and Kaneda,Y.,1991,Three-dimensional numerical simulation of snowdrift,Cold Regions Science and Technology,20,65-73.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら非特許文献1に記載の予測方法では、限定された斜面における観測データから予測しているため、異なった斜面等では予測できない。例えば鉄道線路では除雪によって両側に雪堤ができ、この雪堤は雪の沈降や降雪によって高さが変わるので吹きだまり量の予測が困難である。
【0007】
一方で、非特許文献2に記載の予測方法では、地形、風向、風速、および降雪量のデータを基にして予測することで、精度の高い吹きだまり予測が可能となる。
【0008】
しかしながら、現在の計算機技術では、全路線についてその都度解析モデルを計算して予測するには膨大な時間を必要とし、現実的に運用できるものではなかった。
【0009】
本発明では、高速かつ高精度で広範囲に吹きだまり量の予測を行うことができる吹きだまり予測方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、鉄道線路を除雪したときに発生する雪堤の高さのデータ、および、気温、風向、風速、降雪量を含む気象予測データに基づいて吹きだまり量を予測する吹きだまり予測方法であって、雪堤の高さ、風向、風速および降雪量を含む複数のデータの各種の値に基づいて、吹きだまり量の予測値を算出して蓄積したデータベースを作成しておき、気温、風速および降雪量の気象予測データから吹雪発生の有無を予測し、吹雪発生が無いと予測された場合には降雪量の気象予測データを吹きだまり量として予測する処理、吹雪発生が有ると予測された場合には前記データベースの中から、その時の雪堤の高さ、風向、風速および降雪量の予測データに該当する吹きだまり量の予測値を読み出し、この予測値を予測結果として出力する処理、を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、鉄道線路を除雪したときに発生する雪堤の高さデータ、および、気温、風向、風速、降雪量を含む気象予測データを収集するデータ収集手段、収集したデータを解析するデータ解析手段、吹きだまり量の予測値を算出して蓄積したデータベース、を備えた吹きだまり予測装置であって、前記データベースは、雪堤の高さ、風向、風速および降雪量を含む複数のデータの各種の値に基づいて、吹きだまり量の予測値を算出して蓄積したデータベースであり、前記データ解析手段は、気温、風速および降雪量の気象予測データを解析して吹雪発生の有無を予測する処理、吹雪発生が無いと予測された場合には降雪量の気象予測データを吹きだまり量として予測する処理、吹雪発生が有ると予測された場合には前記データベースの中から、その時の雪堤の高さ、風向、風速および降雪量の予測データに該当する吹きだまり量の予測値を読み出し、この予測値を予測結果として出力する処理、を実行することを特徴とする。
【0012】
この発明では、雪堤高さ、風向、風速および降雪量に基づいて吹きだまり予測量を算出して蓄積したデータベースをあらかじめ作成しておく。実際の吹きだまり予測時には、まず気象予測データを収集し、気温、風速および降雪量データを解析し、各場所で吹雪が発生するかどうかを予測する。吹雪が発生しない場所では降雪量の気象予測データをその地点の吹きだまり量として予測する。吹雪が発生する場所では、データベースの中からその場所の雪堤の高さ、風向、風速および降雪量の予測データに該当する吹きだまり量の予測値を読み出して予測する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、吹きだまりデータベースを用いることにより、高い精度で全鉄道線路の吹きだまり予測を実現しながら、その都度解析モデルを計算する必要がないので高速に予測結果を出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はこの発明の実施形態である鉄道線路の吹きだまり予測装置のブロック図である。この吹きだまり予測装置は、気象予測データ(以下GPVデータという)を受信する通信部1、各線路の雪堤高さデータを受信する通信部3、受信したGPVデータと、各線路の雪堤高さデータを記憶しておく記憶部2、装置全体を制御し、データ解析を行う制御部4、各雪堤の高さ、風向、風速、降雪量から予測した吹きだまりデータを蓄積しているデータベース5、および各線路の吹きだまり量を予測した結果を出力する出力部6を有している。
【0015】
通信部1はインターネットに接続されており、インターネットを経由してGPVデータをダウンロードする。GPVデータは例えば、財団法人気象業務支援センターのFTPサーバから受信することができる。受信したデータは記憶部2に記憶しておく。通信部3は電話回線に接続されており、各線路上にある観測機器と接続して雪堤の高さデータを受け取る。雪堤データは記憶部2に記憶しておく。制御部4では記憶部2に記憶されているデータを解析して吹雪発生予測や吹きだまり予測を行う。
【0016】
図2は吹きだまりデータベース5を構築する処理を示したフローチャートである。この処理は本実施形態における吹きだまり予測装置以外の装置で実行する。また、この処理は降雪のない時期に長時間かけて実行すればよい。
【0017】
まず、雪堤の高さ、風向、風速、および降雪量について初期値として雪堤0m、風向北、風速0m/s、降雪量0cm/hを設定する(s1)。設定された風向、風速、雪堤高さから、微分方程式を数値解析して風の流れを予測する(s2)。その後、予測した風の流れと降雪量から、雪粒子が運ばれる過程を微分方程式でモデル化する。この微分方程式を解析することで吹きだまりの発生量を予測する(s3)。これらの予測は、Uematsu,T.,Nakata,T.,Takeuchi,K.,Arisawa,Y.,and Kaneda,Y.,1991,Three-dimensional numerical simulation of snowdrift,Cold Regions Science and Technology,20,65-73.に記載の予測方法で行うものである。予測した結果はデータベースとして蓄積する(s4)。
【0018】
解析、データ蓄積が終了した後、全方位について風向を入力しているか調べ(s5)、全方位入力していなければ1/16方位を変更し(s6)、もう一度解析を行う。全方位について解析が終了した後にいったん風向初期値を入力し(s7)、風速データを全データ入力しているかを調べる(s8)。全データ入力していなければ風速を1ステップ変更して(s9)、再び解析を行う。変更した風速についてすべての風向を入力するまで解析を行う。すべての風向を入力して解析終了した時点で、さらに風速を1ステップ変更して再び全風向について解析を行う。ここでは風速0〜30m/sについて1m/s刻みで解析する。
【0019】
すべての風速について解析が終了した後、いったん風速初期値0m/sを入力し(s10)、降雪量データについて全データ入力しているかを調べる(s11)。全データ入力していなければ降雪量を1ステップ変更して(s12)、再び解析を行う。変更した降雪量についてすべての風向、風速を入力するまで解析を行う。すべての風向、風速を入力して解析終了した時点で、さらに降雪量を1ステップ変更して再び全風向、風速について解析を行う。ここでは降雪量0〜50cm/hについて1cm/h刻みで解析する。
【0020】
すべての降雪量について解析が終了した後、いったん降雪量初期値0cm/hを入力し(s13)、雪堤高さについて全データ入力しているかを調べる(s14)。全データ入力していなければ雪堤高さを1ステップ変更して(s15)、再び解析を行う。変更した雪堤高さについてすべての風向、風速、降雪量を入力するまで解析を行う。すべての風向、風速、降雪量を入力して解析終了した時点で、さらに雪堤高さを1ステップ変更して再び全風向、風速、降雪量について解析を行う。ここでは雪堤0〜3mについて0.2m刻みで解析する。すべての雪堤高さについて解析が終了した時点で処理を終了する。
【0021】
上記のようにして作成したデータベース5を本実施形態である吹きだまり予測装置に内蔵して利用する。
【0022】
図3は吹きだまり予測装置の動作を示したフローチャートである。FTPサーバからGPVデータを受信すると予測動作が開始される。予測動作は1時間毎24時間先までの吹きだまり量の予測を行う。まず、FTPサーバからGPVデータを受信すると、記憶部2に記憶する(s16)。記憶したGPVデータの中から、予測を行う各地点のGPVデータを抽出する(s17)。各データを1kmメッシュに細分化し、各メッシュの風向、風速、降雪量、および気温の予測値を抽出する。
【0023】
その後、抽出した予測値を所定の閾値と比較して吹雪発生予測を行う(s18)。閾値は各地点によって異なるが、本実施形態では例えば、気温が0〜−5℃の時で降雪が有る場合は風速6m/s以上で吹雪発生と予測し、気温が0〜−5℃の時で降雪が無い場合は風速11m/s以上で吹雪発生と予測する。あるいは、気温が−5℃以下で降雪が有る場合は風速5m/s以上で吹雪発生と予測し、気温が−5℃以下で降雪が無い場合は風速10m/s以上で吹雪発生と予測する。
【0024】
ここで吹雪発生が有ると予測された場合と無いと予測された場合に区分し(s19)、吹雪発生が無いと予測された場合はその地点の降雪量を吹きだまり量として予測する(s20)。吹雪発生が有ると予測された場合は各地点の雪堤高さデータを取得する(s21)。雪堤高さデータは様々な取得方法があるが、本実施形態では各地点に雪の深さを計測する積雪深計を設置して自動測定する。測定したデータは電話回線によって取得する。
【0025】
その後、データベース5にアクセスし、予測を行う各地点の雪堤高さ、風向、風速、および降雪量を入力する(s22)。入力した各地点のデータに対してデータベース5内で一致する、あるいは最も類似する条件を検索し、吹きだまり予測量を取得する(s23)。吹きだまり予測量は出力部6から外部出力され、ディスプレイ等に表示する(s24)。
【0026】
以上のように本実施形態によれば、あらかじめ雪堤高さ、風向、風速、および降雪量データを用いて吹きだまり量を解析したデータベースを用意し、実際に吹きだまり予測を行う時にはそのデータベースから条件に沿った吹きだまり量データを検索することで、高速な予測結果出力を実現しながら、高い精度で全鉄道線路の吹きだまり予測を実現することができる。
【0027】
なお、本実施形態においては鉄道線路における吹きだまり予測装置について説明したが、この発明は鉄道線路に限定されず一般道路に適用することが可能であり、この場合においても上述した吹きだまり予測装置によって高速かつ高精度で吹きだまり予測を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】吹きだまり予測装置のブロック図
【図2】データベース構築処理を示したフローチャート
【図3】吹きだまり予測装置の動作を示したフローチャート
【符号の説明】
【0029】
1−GPVデータを受信する通信部
2−GPVデータと雪堤高さデータを記憶する記憶部
3−雪堤高さデータを受信する通信部
4−吹きだまり予測装置の制御部
5−吹きだまりデータベース
6−吹きだまり量予測出力部
7−吹雪予測処理
8−吹きだまり予測処理
9−結果出力処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道線路を除雪したときに発生する雪堤の高さのデータ、および、気温、風向、風速、降雪量を含む気象予測データに基づいて吹きだまり量を予測する吹きだまり予測方法であって、
雪堤の高さ、風向、風速および降雪量を含む複数のデータの各種の値に基づいて、吹きだまり量の予測値を算出して蓄積したデータベースを作成しておき、
気温、風速および降雪量の気象予測データから吹雪発生の有無を予測し、
吹雪発生が無いと予測された場合には降雪量の気象予測データを吹きだまり量として予測する処理、
吹雪発生が有ると予測された場合には前記データベースの中から、その時の雪堤の高さ、風向、風速および降雪量の予測データに該当する吹きだまり量の予測値を読み出し、この予測値を予測結果として出力する処理、
を行うことを特徴とする吹きだまり予測方法。
【請求項2】
鉄道線路を除雪したときに発生する雪堤の高さデータ、および、気温、風向、風速、降雪量を含む気象予測データを収集するデータ収集手段、収集したデータを解析するデータ解析手段、吹きだまり量の予測値を算出して蓄積したデータベース、を備えた吹きだまり予測装置であって、
前記データベースは、雪堤の高さ、風向、風速および降雪量を含む複数のデータの各種の値に基づいて、吹きだまり量の予測値を算出して蓄積したデータベースであり、
前記データ解析手段は、気温、風速および降雪量の気象予測データを解析して吹雪発生の有無を予測する処理、
吹雪発生が無いと予測された場合には降雪量の気象予測データを吹きだまり量として予測する処理、
吹雪発生が有ると予測された場合には前記データベースの中から、その時の雪堤の高さ、風向、風速および降雪量の予測データに該当する吹きだまり量の予測値を読み出し、この予測値を予測結果として出力する処理、
を実行することを特徴とする吹きだまり予測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−242585(P2006−242585A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54636(P2005−54636)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(397039919)財団法人日本気象協会 (29)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)