説明

呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの製造方法

【課題】呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの製造方法を提供する。
【解決手段】a)ジャガイモを洗浄、粉砕する工程、b)粉砕したジャガイモを搾汁する搾汁工程、c)得られた搾汁液を酸処理する酸処理工程、d)酸処理されたジャガイモエキスを酸性条件下で加熱処理する加熱工程、e)限外ろ過膜処理により低分子量物質を除去する工程、f)得られたタンパクを乾燥する乾燥工程を含む、ジャガイモタンパクの製造方法。この製造方法で製造されたジャガイモタンパクは、苦味やえぐみ、香りなどが改善されており、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの新規な製造方法に関するものである。また、前記製造方法で製造されたジャガイモタンパクを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常ジャガイモタンパクには、強い苦味やピリピリ感、えぐみやしょっぱさなどのような不快な味を呈しており、そのまま加工して飲食品とするには不向きであった。飲料、加工食品等は、素材の風味が製品に大きく反映するため、嗜好性を高めるために当業者は大変な労力を費やしてきている。従って呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの製造方法が求められていた。
【0003】
従来知られているジャガイモタンパクの呈味や香りの改善方法は、ジャガイモタンパクのマスキングのために香料や甘味量などの呈味物質を添加すること(特許文献1)や、ジャガイモタンパクを精製する方法などがあった。精製方法としては麹菌及び酵素で分解する方法(特許文献2)、ジャガイモマッシュにアミラーゼを作用させる方法(特許文献3)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO00/24273
【特許文献2】特開2006-158390号公報
【特許文献3】特開2006-158273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの新規な製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの製造方法であって、a)ジャガイモを洗浄、粉砕する工程、b)粉砕したジャガイモを搾汁する搾汁工程、c)得られた搾汁液を酸処理する酸処理工程、d)酸処理されたジャガイモエキスを酸性条件下で加熱処理する加熱工程、e)限外ろ過膜処理により低分子量物質を除去する工程、f)得られたタンパクを乾燥する乾燥工程を含む、ジャガイモタンパクの製造方法に関する。
【0008】
前記製造方法は、好ましくは前記c)の酸処理工程が塩酸、酢酸から選ばれる一種以上の酸を用いて処理される。
【0009】
また、好ましくは前記d)の加熱工程が、70℃〜90℃で5分〜50分行われる。
【0010】
また、好ましくは前記e)の限外ろ過膜処理により低分子量物質を除去する工程は、分子量1万以上の画分を得る工程である。
【0011】
また、さらに好ましくは前記f)の乾燥工程の前に、活性炭処理工程を含む。
【0012】
また、本発明は前記製造方法で製造された、ジャガイモタンパクを含む組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる製造方法でジャガイモタンパクを製造すると、苦味やえぐみなどの呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクが製造できる。本発明にかかる製造方法で製造された、ジャガイモタンパクを含む組成物は、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定して解釈すべきではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0015】
本発明で使用するジャガイモタンパクのジャガイモの品種は特に限定されず、例えば男爵薯、メークイン、キタアカリ、とうや、トヨシロ、インカのめざめ、デジマ、十勝こがねなどを用いることができる。収穫時期については得に限定されない。
【0016】
ジャガイモは、収穫後、直ちに処理されることが好ましい。処理までに時間を要する場合、変質を防ぐために低温貯蔵などの当業者が通常用いる貯蔵手段により貯蔵されてもよい。
【0017】
前記ジャガイモの洗浄工程の方法は特段の制限が無く、水などで洗浄し、泥などを洗い落とすなど通常の洗浄工程で行われる。
【0018】
ジャガイモを粉砕する工程の方法は特段の制限が無く、通常使用できる機械を用いて粉砕が行われる。
【0019】
搾汁する工程の方法は特段の制限が無く、通常使用できる機械を用いて搾汁される。
【0020】
得られた搾汁液を酸処理する工程の方法は、酸を用いる限り特段の制限がないが、好ましくは、塩酸、酢酸から選ばれる一種以上の酸を用いて処理される。酸処理されるときのpHは好ましくはpH2~5であり、最も好ましくはpH3~4である。
【0021】
加熱処理する工程の方法は、特段の制限が無く、通常使用できる機械を用いて酸性条件下で加熱される。好ましくは加熱処理は70℃〜90℃で5分〜50分加熱する工程であり、さらに好ましくは75℃〜85℃で10分〜20分加熱する工程である。酸性条件のpHは好ましくはpH2~5であり、最も好ましくはpH3~4である。好ましくは加熱後、60℃以下まで冷却される。
【0022】
限外ろ過膜処理により低分子量物質を除去する工程の方法は、特段の制限が無く、通常用いられる限外ろ過膜(UF膜)を用いて低分子量物質を除去する。好ましくは、分子量1万以上の画分を得る工程である。
【0023】
乾燥する工程の方法は、特段の制限が無く、得られたタンパクを常法により乾燥する方法である。デキストリンなどの賦型剤を添加しスプレードライなどにより乾燥する方法であってもよい。
【0024】
前記工程のみでも、ジャガイモタンパクの呈味や香りは改善されるが、好ましくは前記乾燥工程の前に、活性炭処理工程を行っても良く、さらに好ましくは前記限外ろ過膜処理工程と前記加熱工程の間、または前記加熱工程と前記乾燥工程の間に活性炭処理を行うことが好ましい。
【0025】
活性炭処理工程の方法は、特段の制限が無く、通常使用できる活性炭を用いて処理される。前記活性炭処理により、ジャガイモタンパクの呈味や香りがさらに改善される。
【0026】
前記各工程で生じる沈殿物や不純物は、必要に応じて、ろ過や遠心分離などの通常行われる方法で除去してもよい。また、ジャガイモタンパクの呈味や香りを損なわない範囲において、必要に応じて常法により搾汁液のpH調整や濃縮、殺菌、洗浄を行ってもよい。
【0027】
前記製造方法によって得られたジャガイモタンパクを含む組成物は、そのまま食してもよい。また、種々の栄養成分や、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料と混合し、用途に応じて、粉末状・粒状・顆粒状・液状・ペースト状・クリーム状・タブレット状・カプセル状・カプレット状・ソフトカプセル状・錠剤状・棒状・板状・ブロック状・丸薬状・固形状・ゲル状・ゼリー状・グミ状・ウエハース状・ビスケット状・飴状・チュアブル状・シロップ状・スティック状などの形態に成形することもできる。
【0028】
さらに、ジャガイモタンパクを含む組成物は、各種の飲食品に配合して用いることができる。例えば、水、牛乳、豆乳、果汁飲料、乳清飲料、清涼飲料、青汁、ヨーグルト、ゼリーなどに添加して使用してもよい。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明がこの実施例により制限されないことはいうまでもない。
【0030】
(実施例1)
ジャガイモを洗浄、粉砕、搾汁し、搾汁液を得た。得られた搾汁液を塩酸および酢酸を用いてpH4とし、80℃20分で酸性条件下で加熱処理した。加熱処理後、20℃まで冷却し、ろ過と遠心分離によりジャガイモエキスを得、限外ろ過膜により処理し、分子量1万以上の画分を得た。得られた画分に対し、デキストリンを添加して乾燥し、粉末状のジャガイモタンパクAを得た。
【0031】
(実施例2)
ジャガイモを洗浄、粉砕、搾汁し、搾汁液を得た。得られた搾汁液を塩酸および酢酸を用いてpH4とし、得られたエキスを80℃20分で酸性条件下で加熱処理した。加熱処理後、20℃まで冷却し、ろ過と遠心分離によりジャガイモエキスを得、限外ろ過膜により処理し、分子量1万以上の画分を得た。得られた画分に対し、活性炭処理をし、デキストリンを添加して乾燥し粉末状のジャガイモタンパクBを得た。
【0032】
(比較例)
ジャガイモを洗浄、粉砕し、搾汁液を得た。得られた搾汁液を80℃20分で加熱処理後、20℃まで冷却し、ろ過と遠心分離によりジャガイモエキスを得、限外ろ過膜により処理し、分子量1万以上の画分を得た。得られた画分にデキストリンを添加して乾燥し粉末状のジャガイモタンパクCを得た。
【0033】
(ジャガイモタンパクの評価)
前記のようにして得られた各ジャガイモタンパクの呈味および香りを、以下のように11名の被験者によって官能試験を行うことにより、評価した。
【0034】
すなわち、前記のようにして得られたジャガイモタンパクA(実施例1)、ジャガイモタンパクB(実施例2)、ジャガイモタンパクC(比較例)の粉末について、「えぐみのなさ」「苦味のなさ」「香りの良さ」を評価した。また、前記のようにして得られた各ジャガイモタンパク300mgと還元麦芽糖700mgを混合し、それぞれ水100mlに溶解して飲料とし、飲料について「えぐみのなさ」「苦味のなさ」「香りの良さ」を評価した。
【0035】
評価方法については、被験者が、A、B、Cの3つについて「えぐみのなさ」「苦味のなさ」「香りの良さ」を比較し、最も好ましいと評価したサンプル1つを選んでもらった。被験者の評価結果を表1、表2に示す。表中の数字は、最も好ましいと評価した人数であり、単位は「人」である。
【0036】
粉末のジャガイモタンパクに関する官能試験の結果は以下の通りである。
【表1】

【0037】
飲料のジャガイモタンパクに関する官能試験の結果は以下の通りである。
【表2】

【0038】
以上の結果より、本発明にかかる製造方法でジャガイモタンパクを製造すると、粉末形態、飲料形態共に、えぐみや苦味などの呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクが製造できることが明らかとなった。また、表に示されたデータ以外にも、ピリピリ感、しょっぱさ、味の濃さの項目についても大きな改善が見られた。特に、活性炭処理工程を行って得たジャガイモタンパクBの呈味、香りの改善効果は顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明者らは呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの製造方法を見出し、本発明を完成させた。前記製造方法は、a)ジャガイモを洗浄、粉砕する工程、b)粉砕したジャガイモを搾汁する搾汁工程、c)得られた搾汁液を酸処理する酸処理工程、d)酸処理されたジャガイモエキスを酸性条件下で加熱処理する加熱工程、e)限外ろ過膜処理により低分子量物質を除去する工程、f)得られたタンパクを乾燥する乾燥工程を含む、ジャガイモタンパクの製造方法に関する。ジャガイモタンパクの製造方法に関する。本発明にかかる製造方法でジャガイモタンパクを製造すると、苦味やえぐみなどの呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクが製造できる。本発明にかかる製造方法で製造された、ジャガイモタンパクを含む組成物は、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクの製造方法であって、
a)ジャガイモを洗浄、粉砕する工程;
b)粉砕したジャガイモを搾汁する搾汁工程;
c)得られた搾汁液を酸処理する酸処理工程;
d)酸処理されたジャガイモエキスを酸性条件下で加熱処理する加熱工程;
e)限外ろ過膜処理により低分子量物質を除去する工程;
およびf)得られたタンパクを乾燥する乾燥工程
を含む、ジャガイモタンパクの製造方法。
【請求項2】
前記f)の乾燥工程の前に、活性炭処理工程を含む請求項1に記載のジャガイモタンパクの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で製造された、呈味や香りが改善されたジャガイモタンパクを含む組成物



【公開番号】特開2010−252656(P2010−252656A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104455(P2009−104455)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【出願人】(393017535)コスモ食品株式会社 (18)