説明

周期信号増強システム

【課題】信号成分を強化し、信号のSNRを改善できる信号増強システムを提供する。
【解決手段】信号増強システム(100)は、会話とその他のオーディオ信号の理解可能性を向上させる。このシステムは信号の選択した部位を強化し、信号の選択した部位を減衰させて、SNRを増加させることができる。このシステムは、遅延ロジック(204)、適応フィルタ(206)、および信号強化ロジック(218)を備えている。適応フィルタは、入力信号(202)の基本周波数と調和成分を追跡して増強する。適応フィルタの出力信号は、入力信号の基本周波数周期の整数倍だけ遅延された入力信号をほぼ再生できる。強化ロジックは、入力信号とフィルタ処理された信号を組み合わせて、増強された出力信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本出願は、周期信号エンハスメントシステムと題する2004年10月26日に出願された、米国特許出願第10/973,575号の一部継続出願である。本出願は周期信号増強システムと題する( )に出願された、米国特許出願第( )号に関する。
【0002】
本発明は信号処理システムに関し、より詳しくは周期信号成分を増強できるシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
信号処理システムは多くの役割を担っている。オーディオ信号処理システムは、非常に明確に音声を捕捉(capture)し、音声を再生し、他の装置に音声を伝達する。ところが、オーディオシステムは、信号成分を破損するか、マスクするか、さもなければ信号成分に悪影響を与える可能性があるノイズ源の影響を受けやすい。
【0004】
多くのノイズ源が存在する。風、雨、エンジンノイズや電磁干渉等の背景ノイズ、およびその他のノイズ源が、捕捉、再生、または他のシステムへ伝達した信号のノイズに寄与し得る。音声のノイズレベルが増加したとき、明瞭性が低下する。
【0005】
一部の従来のシステムは、複数のマイクロフォンによりノイズの多い信号を最小化しようとする試みている。各マイクロフォンからの信号は、スマートに組み合わされてノイズを制限する。しかしながら、一部の応用においては、複数のマイクロフォンを使用することができない。
【0006】
その他のシステムは、ノイズフィルタを使用して音声信号を選択的に減衰させている。フィルタも所望の信号成分を無差別に除去または最小化する場合がある。
【0007】
信号を向上させるシステムへの需要が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(要約)
本発明は、信号成分を強化(reinforce)し、信号のSNRを改善できる信号増強(enhancement)システムを提供する。このシステムは、信号の非定常周期信号成分を検出、追跡(track)、および強化する。周期信号成分は、母音音声または他の発生音声を表すことができる。また、このシステムは、信号の準定常信号成分も検出、追跡、および減衰させることができる。
【0009】
増強システムは、信号入力、遅延ロジック、区分適応フィルタ(partitioned adaptive filter)、および信号強化ロジックを備えている。区分適応フィルタは、入力信号の遅延非定常基本周波数成分に基づいて入力信号の非定常基本周波数成分を追跡することができる。区分適応フィルタは、複数のフィルタ処理された信号を出力する。フィルタ処理された信号は信号の周波数成分をほぼ追跡し増加させる。強化ロジックは、入力信号とフィルタ処理された信号を組み合わせて増強された信号を生成する。第2の適応フィルタを使用して、入力信号の準定常信号成分を追跡して抑制することができる。
【0010】
本発明は、さらに以下の手段を提供する。
(項目1)
信号入力と、
該信号入力に結合された区分(partitioned)遅延ロジックと、
該区分遅延ロジックに結合され、複数の適応フィルタ出力を有する区分適応フィルタと、
該適応フィルタ出力に結合されたフィルタ強化(reinforcement)ロジックと、
該フィルタ強化ロジックに結合されたゲインロジックと、
該信号入力とゲインロジックに結合され、増強された信号出力を有する信号強化ロジックと、
を備える、信号増強システム。
(項目2)
上記複数のフィルタ出力が、第1のフィルタ出力と第2のフィルタ出力を有し、上記区分適応フィルタが、
第1の適応フィルタであって、
第1のフィルタ係数と、
該第1のフィルタ出力と、
第1のエラー出力とを備えた、第1の適応フィルタと、
第2の適応フィルタであって、
第2のフィルタ係数と、
該第2のフィルタ出力と、
第2のエラー出力とを備えた、第2の適応フィルタとを備え、
該第1のエラー出力に基づき該第1のフィルタ係数が調整され、該第2のエラー出力に基づいて該第2のフィルタ係数が調整される、
項目1に記載の信号増強システム。
(項目3)
上記第1のエラー出力が、上記信号入力と上記第1のフィルタ出力の間の第1の差を有し、上記第2のエラー出力が、該信号入力と上記第2のフィルタ出力の間の第2の差を有する、項目2に記載の信号増強システム。
(項目4)
遅延ロジックが上記第1の適応フィルタに結合されたM1サンプル遅延と、上記第2の適応フィルタに結合されたM2サンプル遅延を有する、
項目2に記載の信号増強システム。
(項目5)
上記M2サンプル遅延が、上記M1サンプル遅延に対し直列である、項目4に記載の信号増強システム。
(項目6)
上記第1の適応フィルタが長さM1適応フィルタであり、上記第2の適応フィルタが長さM2適応フィルタである、項目4に記載の信号増強メントシステム。
(項目7)
M1=M2またはM1=M2=1である、項目6に記載の信号増強システム。
(項目8)
上記遅延ロジックが最大適応ピッチを設定するために選択したDサンプル遅延を備える、項目1に記載の信号増強システム。
(項目9)
上記遅延ロジックが適応ピッチ範囲を設定するために選択したLサンプル遅延を備える、項目1に記載の信号増強システム。
(項目10)
上記遅延ロジックが人間の音声ピッチを含む適応ピッチ範囲を実現する、項目1に記載の信号増強システム。
(項目11)
上記遅延ロジックが約70Hzと約400Hzの間の適応ピッチ範囲を実現する、項目1に記載の信号増強システム。
(項目12)
信号を増強する方法であって、
基本周波数を含む入力信号を受信することと、
複数の異なって遅延された入力信号を得るために、複数の異なるサンプル遅延により入力信号を遅延させることと、
複数の個々の適応フィルタを備える区分適応フィルタを該複数の異なって遅延された入力信号に適用することと、
該区分適応フィルタによりフィルタ処理された出力を生成することであって、該フィルタ処理された出力が該基本周波数の整数倍だけほぼ遅延される、ことと、
該複数の個々の適応フィルタの各々に対しエラー信号を生成することと、
該個々の適応フィルタのエラー信号に基づき、該個々の適応フィルタの各々を適応することと、
該フィルタ処理された出力によって該入力信号を強化することと、
を包含する、方法。
(項目13)
上記複数の適応フィルタの出力合計を生成することと、
ゲインパラメータにより該合計を偏たせることと、
をさらに包含する、項目12に記載の方法。
(項目14)
追跡する最大ピッチを決定することをさらに包含し、
上記入力信号を遅延させることは、Dが該最大ピッチに応じて選択されるDサンプルだけ入力信号を遅延させることを包含する、項目12に記載の方法。
(項目15)
ピッチ追跡範囲を選択することをさらに包含し、
上記入力信号を遅延させることは、Lが該ピッチ追跡範囲を設定するために選択されるD+Lサンプルだけ該入力信号を遅延させることを包含する、項目14に記載の方法。
(項目16)
上記ピッチ範囲が人間の音声ピッチを含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
上記ピッチ範囲が約70Hzから約400Hzの間に広がる、項目15に記載の方法。
(項目18)
機械読み取り可能な記録媒体と、
該機械読み取り可能な記録媒体において具体化された、項目12〜17のいずれか一項に記載の方法を実行させるコンピュータ読み取り可能な命令と、
を備える、製品。
【0011】
(摘要)
信号増強システムは、会話とその他のオーディオ信号の理解可能性を向上させる。このシステムは信号の選択した部位を強化し、信号の選択した部位を減衰させて、SNRを増加させることができる。このシステムは、遅延ロジック、区分適応フィルタ、および信号強化ロジックを備えている。区分適応フィルタは、入力信号の基本周波数と調和成分を追跡して増強する。区分適応フィルタの出力信号は、入力信号の基本周波数周期の整数倍だけ遅延された入力信号をほぼ再生できる。強化ロジックは、入力信号とフィルタ処理された信号を組み合わせて、増強された出力信号を生成する。
【0012】
本発明のその他のシステム、方法、特徴、および利点は、下記の図面と詳細な説明を詳しく読めば当業者に明らかまたは明らかになるであろう。上記の全ての追加システム、方法、および特徴と利点は。本明細書、本発明の範囲に入っており、以下の請求項により保護されなければならない。
【0013】
下記の図面と詳細な説明を参照して本発明をより良く理解できる。図面中の構成要件は、本発明の原理を示すかわりに、必ずしもスケールを変更したり、強調したりする必要はない。また、図面において、異なる図面全体を通して、同一の参照符号は対応する同一の構成要件を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
増強システムは信号の中の1つ以上の基本周波数成分を検出し、追跡する。信号増強システムは追跡された周波数成分を強める。増強システムは会話(speech)信号またはほかのオーディオ信号の中の情報の明瞭さを改善し得る。強められた信号は改善された信号対ノイズ比(SNR)を有し得る。
【0015】
図1において、信号増強システム100は前処理ロジック102および後処理ロジック104とともに動作し得る。増強システム100はハードウェアおよび/またはソフトウェアにおいて実行され得る。増強システム100はデジタル信号プロセッサ(DSP)を含み得る。DSPは指示を実行することによって、入力信号を遅延させ、信号の周波数成分を追跡し、信号をフィルタし、および/または信号中のスペクトル成分を強めることが出来る。代替案として、増強システム100は、個別のロジックまたは回路、個別のロジックおよびプロセッサの混合(mix)を含み得、あるいは複数のプロセッサまたはプログラムに分散され得る。
【0016】
増強システム100は入力ソース106から入力を受け取り得る。入力ソース106はデジタル信号ソースまたはマイクロフォン108のようなアナログ信号ソースを含み得る。マイクロフォン108はサンプリングシステム110を経由して増強システム100と結合され得る。サンプリングシステム110はマイクロフォン108によって感知されたアナログ信号を、選択されたサンプリングレートでデジタル形式に変換し得る。
【0017】
サンプリングレートはいかなる所望の周波数成分をも捉えるように選択され得る。会話に対してはサンプリングレートは概ね8kHzから約22kHzであり得る。音楽に対しては、サンプリングレートは概ね22kHzから約44kHzであり得る。会話および/または音楽に対して、他のサンプリングレートが使用され得る。
【0018】
デジタル信号ソースは、通信インターフェイス112、増強システム100が実行される(implemented)システム中の他の回路またはロジック、または他の信号ソースを含み得る。入力ソースがデジタル信号ソースであるときには、増強システム100は付加的前処理をするか、またはすることなくデジタル信号サンプルを受け取り得る。
【0019】
信号増強システム100はまた、後処理ロジック104と結合し得る。後処理ロジック104はオーディオ再生システム114、デジタルおよび/またはアナログデータ伝送システム116、またはビデオ処理ロジック118を含み得る。他の後処理ロジックもまた使用され得る。
【0020】
オーディオ再生システム114はデジタル・アナログ変換器、フィルタ、増幅器、およびその他の回路またはロジックを含み得る。オーディオ再生システム114は会話および/または音楽再生システムであり得る。オーディオ再生システム114はセルラー電話機、自動車電話機、デジタル媒体プレーヤ/レコーダ、ラジオ、ステレオ、携帯ゲーム装置、または音響再生を採用するその他の装置、に実用され得る。
【0021】
ビデオ処理システム118は視覚的出力を提供する回路および/またはロジックを含み得る。視覚的出力を準備するために使用される信号は、増強システム100によって実行される処理によって増強され得る。ビデオ処理システム118はテレビジョンまたは他のエンタテイメント装置を制御し得る。代替案としては、ビデオ処理システム118はコンピュータのモニターまたは液晶ディスプレイ(LCD)を制御し得る。
【0022】
伝送システム116はネットワーク接続、デシタルまたはアナログトランスミッタ、あるいは他の伝送回路および/またはロジックを備え得る。伝送システム116は増強システム100によって生成された増強された信号を他の装置に通信し得る。例えば自動車電話においては、伝送システム116は増強された信号を自動車電話から基準局または他の受信者に、ZigBee、Mobile−Fi、Ultrawideband、Wi−fi、またはWiMaxネットワークなどの無線接続を経由して通信し得る。
【0023】
図2は増強システム100を示す。増強システム100は信号入力202を含む。信号入力202は増強システム100によって処理される入力信号を伝える。図2において、入力信号は「x」の記号で示される。入力信号は会話の時間領域サンプルであり得る。説明を容易にするために、以下では会話信号について議論する。しかしながら、増強システム100は、可聴域または非可聴域の他のあらゆる範囲の周波数内容を有する信号を増強し得る。
【0024】
増強システム100は準定常(quasi−stationary)または非定常な信号を処理し得る。非定常信号はその周波数および/または振幅の内容が、時間と共に比較的速く変化し得る。音声は非定常信号の1例である。
【0025】
ほとんどの例外なく、会話者の音声の中の基本周波数の内容さえも、会話の間を通じて変化する。基本周波数の変化は概ね100msあたり50パーセントまたはそれ以上であり得る。しかしながら人間の耳に対しては、会話者の音声は比較的一定のピッチを有し得る。
【0026】
準定常信号はその周波数および/または振幅の内容が、非定常信号よりも少ない頻度で変化し得る。非定常信号は機械の雑音、抑制された人間の音声、または他の音源から発生し得る。ゆっくり変化するエンジン雑音または交流発電機の発生音は準定常信号の例である。
【0027】
図2に示されるように、入力信号は遅延ロジック204と結合される。遅延ロジック204は入力信号に遅れを与える。遅れは増強システム100の個別の実行形態に従って大幅に変わり得る。遅れは選択された最高(maximum)ピッチの周期に対応し得る。最高ピッチは、増強システム100が増強する入力信号中の最大(greatest)ピッチと等しくあり得る。最高ピッチは入力信号の形および性質に従って大幅に変わり得る。
【0028】
会話信号は概ね70Hzから約400Hzまでの基本周波数成分を含み得る。男性の会話はしばしば、概ね70Hzと約200Hzとの間の基本周波数成分を含む。女性の会話はしばしば、概ね200Hzと約400Hzとの間の基本周波数成分を含む。子供の会話はしばしば、概ね250Hzと約400Hzとの間の基本周波数成分を含む。
【0029】
増強システム100は男性および女性の両方の音声による会話を含む入力信号を、分離してまたは同時に重複して処理し得る。これらのシステムにおいては、最高ピッチの周期は女性の音声の基本周波数の周期と概ね一致し得る。最高ピッチの周期は概略1/300Hz(概ね3.3ms)であり得、または女性の音声と関連付けられた別のピッチの周期であり得る。
【0030】
代替案としては、増強システム100は男性のみの会話を処理し得る。これらの実行形態においては、最高ピッチの周期は男性の音声の基本周波数の周期と一致し得る。最高ピッチの周期は概略1/150Hz(概ね6.6ms)であり得、または別のピッチの周期であり得る。
【0031】
遅延ロジック204は入力信号を、最高ピッチの周期に対応する信号サンプルの数だけ遅らせ得る。信号サンプルの数はつぎのように与えられる。
【0032】

NSS=MPP*f

ここに「NSS」は信号サンプルの数、「MPP」は最高ピッチの周期、「f」はサンプリングレートである。約3.3msのMPPおよび約8kHzのサンプリングレートを仮定すれば、NSS=概ね27サンプル、となる。図2において、NSSはΔF0MAXに対応する。
【0033】
遅延された入力信号はフィルタ206によって受信される。フィルタ206は、図2において「y」の記号で示されたフィルタされた出力信号を伝える、フィルタ出力208を含む。フィルタ206は遅延された入力信号に基づいて、入力信号中の1つ以上の周波数成分を追跡し得る。音声による会話の間にピッチが変化するときにも、フィルタ206は入力信号中の基本周波数を追跡し得る。
【0034】
フィルタ206は、フィルタされた出力信号中の追跡された周波数の内容を、再生し、複写し、近似し、またはさもなくば含み得る。フィルタ206は有限時間インパルス応答フィルタ(FIR)、または他の形のデジタルフィルタであり得る。フィルタ206の係数は適応され得る。フィルタ206は正規化最小二乗平均(NLMS)法または、再帰形最小二乗(RLS)または比例LMSなどの他の適応フィルタ手法によって適応され得る。他のフィルタを含む他の追跡ロジックもまた使用され得る。
【0035】
フィルタ206は入力信号中の基本周波数に収束(converge)し得る。フィルタ206が収束する基本周波数fの範囲は、つぎのように与えられる。
【0036】
【数1】

ここにΔF0MAXは最高ピッチの周期(サンプル数で表す)、fはサンプリング周波数、(Hzの単位で表す)、およびLはフィルタ206の長さ(サンプル数で表す)を示す。フィルタ206が周波数成分を追跡する周波数範囲を増加または減少させるために、フィルタの長さLは増加または減少され得る。
【0037】
前述の例においては、最高ピッチは概ね300Hzであり、遅延ロジック204は27サンプルの遅れを実行した。フィルタ長さLが64サンプルであるときは、フィルタ206は概ね88Hzから約296Hzまでの周波数範囲の基本周波数の内容を追跡する
【0038】
【数2】

フィルタ206は時間と共に適応し得る。フィルタ206は1つのサンプル毎を根拠にエラー信号「e」を評価することによって迅速に適応し得る。代替案としては、フィルタ206はサンプルの塊り(block)またはその他の根拠に基づいて適応し得る。
【0039】
適応するにあたって、フィルタ206はその1つ以上のフィルタ係数を変更し得る。フィルタ係数はフィルタ206の応答を変更し得る。フィルタ係数はフィルタ206がエラー信号「e」を最小化しようとするように、フィルタ206を適応させる。
【0040】
エラー推定器210はエラー信号「e」を生成し得る。エラー推定器210は加算器、比較器、または他の回路またはロジックであり得る。エラー推定器210は入力信号「x」をフィルタされた出力信号「y」と比較し得る。
【0041】
フィルタ206が入力シグナル中の基本周波数に収束するにつれて、エラー信号は減少する。エラー信号が減少するにつれて、フィルタされた出力信号「y」は、信号の基本周波数の整数倍だけ遅らされた入力信号「x」とより一層類似する。ゲイン制御ロジック212はエラー信号に応答する。
【0042】
選択的なゲイン制御ロジック212は乗算器214およびゲインパラメータ216を含み得る。ゲイン制御ロジック212はフィルタされた出力信号を減衰させる、増幅する、又はその他の変換を行い得る。図2はゲイン制御ロジック212がフィルタされた出力信号にゲイン「A」を適用して、ゲイン制御された信号「Ay」を生成することを示す。
【0043】
強化ロジック218は入力信号「x」中の周波数の内容を、ゲイン制御信号「Ay」によって強化し得る。強化ロジック218は加算器または他の回路および/またはロジックであり得る。強化ロジック218は増強された出力信号を生成し得る。
【0044】

s=x+Ay

エラー信号が増加するときには、ゲイン制御ロジック212はゲイン「A」を減少させ得る。ゲインが減少するときには、フィルタされた出力信号の、増強された出力信号への寄与は減少し得る。エラー信号とゲインとの間の関係は連続的、ステップ状、直線的、または非線形であり得る。
【0045】
一実行形態(implementaion)においては、増強システム100は1つ以上のエラー閾値を設定する。エラー信号が上方の閾値を超える場合には、ゲイン制御ロジック212はゲイン「A」を0(零)に減少させ得る。上方の閾値が入力信号に設定され得る場合には、e>xならばゲイン「A」は零に設定され得る。エラー信号が下方の閾値よりも小さくなる場合には、ゲイン制御ロジック212はゲイン「A」を1(いち)に増加し得る。
【0046】
エラー信号が上方の閾値を超える場合には、フィルタ制御ロジック220はフィルタ206をリセットし得る。フィルタ206がリセットされるときには、制御ロジック220はフィルタ係数を零に戻す(zero−out)、フィルタ係数を再初期化する、または他の処置をとり得る。制御ロジック220はまたフィルタの長さを動的に変更する、遅延ロジック204によって実行された遅れを変更する、または増強システム100の他の特性を変更し得る。制御ロジック220はまた、増強システム100が使用されている環境の変化に適応するように、増強システムを変更し得、増強システム100を新しい会話者、または他の目的に対して適応させ得る。
【0047】
フィルタ制御ロジック220はまた、いかに迅速にフィルタ206が適応されるか、フィルタが適応されるか、を制御し得、または他のフィルタ特性を監視または制御し得る。非定常な信号を増強するシステムの場面において、制御ロジック220は入力信号中の周波数および振幅成分を迅速に変更することを期待し得る。制御ロジック220はまた、入力信号中の特定の周波数成分が支配的であることを、時の経過とともに(over time)予測しまたは決定し得る。
【0048】
制御ロジック220はまた、入力信号はその周波数の内容、振幅、または他の特性が予測されたものまたは決定されたものから変化していることを、決定し得る。これに応答して、制御ロジック220はフィルタ206が新しい信号の内容に適応しようとすることを停止させ得、適応の速度を遅くし得、または他の処置をとり得る。制御ロジック220は、入力信号の特性が予測されたものに戻るまで、所定の時間が経過するまで、制御を解除する指令がなされるまで、または別の時間または条件が満たされるまで、フィルタ206に対する制御を実行し得る。
【0049】
遅延ロジック204は、フィルタされた出力信号が現時点の入力信号「x」の正確な複製であることを防止する。従ってフィルタされた出力信号は入力信号「x」の中の選択された周期性を近接して追跡し得る。現時点の入力信号「x」がフィルタされた出力信号「y」で強化され、出力信号「s」が生成されたとき、周期的な信号成分は増加する方向に結合されることを得、不規則なノイズ成分は減少する方向に結合され得る。従って、周期的な信号成分はノイズよりも増強され得る。
【0050】
遅延ロジック204およびフィルタ206によって導入される遅れは、概ねフィルタ206によって追跡された基本周波数成分の1サイクルであり得る。遅れは、母音などの音声に対する声門パルスの遅れに対応し得る。入力信号にフィルタされた出力信号が加えられたとき、遅れは基本周波数成分を同相で、またはほぼ同相で加え得る。
【0051】
同相で加えられたとき、増強された出力信号の中の基本周波数の内容に対して得られるゲインは概ね6dBまたはそれ以上であり得る。入力信号およびフィルタされた出力信号中のノイズは相の不一致を生じる。入力信号およびフィルタされた出力信号が加えられたとき、ノイズの増加は増強された周波数の内容の増加よりも少なく、例えば3dBまたはそれ以下であり得る。増強された出力信号は増加したSNRを有し得る。
【0052】
増強システム100が処理する入力信号は、複数の基本周波数を含み得る。例えば、2人の会話者が同時に話しているとき、入力信号は2つの非定常な基本周波数を含み得る。複数の基本周波数が存在するとき、フィルタ206は、入力信号の遅延されたバージョンであるフィルタされた信号「y」を提供するように、適応し収束を続ける。強化ロジック218は入力信号中に存在する1つ以上の基本周波数を強化し得る。
【0053】
図3において、グラフはフィルタ206に対する係数300を示す。係数は、係数の番号を水平軸上に、および大きさを垂直軸上にプロットされている。係数300は、女性の会話に対して適応されたフィルタ206を示す。
【0054】
任意の時において、係数300は分析され、入力信号における基本周波数の迅速な概算値を、優れた一時的な分解能において決定し得る。係数300は、係数304(第5フィルタ係数)、係数306(第6フィルタ係数)、係数308(第7フィルタ係数)のあたりでピークに達し始める。係数のピークまたは概ねの係数のピークを検索、および、それに対応する係数インデックス「c」を決定することによって、基本周波数fの速い概算は、以下のようになり得る。
【0055】
【数3】

図3において、係数のピークは、第6フィルタ係数306である。8kHzのサンプリングレートおよび27サンプル遅延を以下のように想定する。
【0056】
【数4】

図4において、プロットは、男性の声に適応するように、フィルタ206のために係数400を示す。係数のピークは、係数402(第34フィルタ係数)、係数404(第35フィルタ係数)、および係数406(第36フィルタ係数)の近くに現れる。基本周波数の概算は、以下のようである。
【0057】
【数5】

制御ロジック220は、時の経過によって変化するような、入力信号の基本周波数を含みつつ、入力信号の多くの特徴における履歴データを記憶し得る。制御ロジック220は、入力信号の特徴が予期せずに変化するかどうかを決定する目的として、履歴データを検査し得る。制御ロジック220は、フィルタ206を制御する適応を行使することによって、または他の行動を取ることによって、応答し得る。
【0058】
図5は、周期信号を増強するためにとられ得るアクトのフロー図を示している。最大ピッチは増強システム100(Act502)によって、処理のために選択される。遅延ロジック204は、最大ピッチ(Act504)の期間を実行するためにセットされ得る。
【0059】
増強システム100が動作する周波数の範囲はまた、選択され得る(Act506)。フィルタ205の長さは、周波数の範囲(Act508)を収容するためにセットされ得る。フィルタの長さは、フィルタ206動作の間においてダイナミックに変化され得る。
【0060】
入力信号は遅延され、フィルタ(Act510)され得る。増強システム100は、エラー信号を生成し得、個々にフィルタ206(Act512)に適応し得る。増強システム100は、フィルタされた出力信号(Act514)のゲインを制御し得る。
【0061】
増強システム100は、入力信号およびゲイン制御信号(Act516)を追加し得る。増強された出力信号が結果となり得る。増強システム100はまた、基本周波数の概算値を決定し得る(Act518)。増強システム100は、フィルタ206(Act520)を制御し、適応を行使するために周波数の概算値を利用し得る。
【0062】
図6は、複数ステージの増強システム600を示している。増強システム600は、第1フィルタステージ602および第2フィルタステージ604を含む。フィルタステージ602および604は、異なるレートにて、応答または適応し得る。
【0063】
第1フィルタステージ602は、ゆっくりと適応し得、準定常信号成分を制御し得る。準定常信号成分は、エンジンの騒音または環境の影響のような、相対的に一貫した背景の騒音、または他の理由のために、入力信号において存在し得る。
【0064】
信号入力606は、第1ステージ602に接続する。信号入力606は、遅延ロジック608に接続し得る。遅延ロジックは、第1ステージ602によって制御され得る最大の準定常周波数の期間に対応した遅延を遂行し得る。
【0065】
最大の準定常周波数は、増強システム600が利用される環境の、既知または予見される特徴にしたがって選択され得る。フィルタ制御ロジック610は、第1ステージ602をその環境へ適応するために、ダイナミックに遅延を修正し得る。フィルタ制御ロジック610はまた、準定常フィルタ612を制御し得る。
【0066】
第1ステージにおけるフィルタ612は、FIRフィルタを適応されたNLMSまたはFIRフィルタを適応されたRLSのようなロジックを追跡する信号成分を含み得る。第1ステージにおけるフィルタ612は、ゆっくり適応し得、例えば、8kHzのサンプリングレートおよび64のフィルタの長さで、0よりも大きく、概ね0.01よりも小さいNLMSステップサイズは、通常の音声信号の劣化を最小限に食い止める一方で、準定常周期信号を減衰させ得る。第1ステージのフィルタされた出力614は、入力信号における準定常信号成分を概ね再生産するフィルタされた出力信号を提供し得る。
【0067】
抑制ロジック616およびスローフィルタの適応は、非定常信号成分を、第1ステージ602を介して、第2ステージ604に通過させ得る。他方では、抑制ロジック616は、入力信号における準定常信号成分を抑制し得る。抑制ロジック616は、入力信号からフィルタされた出力信号を減じる数値ロジックとして実行され得る。
【0068】
フィルタされた出力信号において複製された準定常信号コンテンツは、入力信号から取り除かれる。第1ステージ602によって生成される出力信号は、以下のようであり得る。
【0069】
=e=x−y

「e」が第1ステージの出力信号である場合、「x」は入力信号であり、「y」が第1ステージのフィルタされた出力である。
【0070】
第1ステージ出力618は、第2ステージ604へ接続され得る。第2ステージ604は、適応フィルタ206を用いて信号「x」を処理し得る。フィルタ206は迅速に適応し得、例えば、8kHzのサンプリングレートおよび64のフィルタの長さで、概ね0.6より大きく、1.0よりも小さいNLMSステップサイズが、適応フィルタ206に、通常の会話信号における基本周波数を追跡させ得る。
【0071】
第2ステージ604は、第1ステージ出力信号における、非定常信号成分を増強し得る。非定常信号成分は、音声、音楽または他の信号ソースの結果として入力信号において存在し得る。第2ステージ604は、上記で説明されたように、第1ステージ出力信号を処理し得る。
【0072】
増強システム600は、第2増強ステージ604が後に続く第1の抑制ステージ602を利用する。増強システム600は、音声コンテンツのような、非定常信号コンテンツを強めるために利用され得る。ゆっくりと変化する信号成分を導く環境において、増強システム600は、ゆっくりと変化する信号成分を取り除き、または抑制し得る。例えば自動車電話において、第1ステージ602は、エンジンの騒音、道路の騒音、または他の騒音を取り除き、または抑制し得、その一方で、第2ステージ604は、男性または女性の声の成分のような、非定常信号成分を増強する。
【0073】
信号増強システム100は、周期信号コンテンツを増強し得、SNRを増加させ得、入力信号における騒音を減少させ得る。音声信号に応用された場合、増強システム100は、基本音声周波数を強め、母音または他の音を強め得る。増強システム100は、それらが聞き取れても、聞き取れなくても、他の信号を増強し得る。
【0074】
遅延ロジック204または608およびフィルタ206または612によって導かれた全ての遅延はまた、概ね、追跡されたピッチ期間のサイクルの整数(1またはそれ以上)であり得る。追加のサイクルによっての遅延は、入力信号を、1サイクルを待つよりも、より大きい程度に、変化させ得る。現在の入力信号により長い遅延フィルタ信号を追加することは、反響音のような出力信号に特別な効果を生み出し得、一方で、基本周波数成分を増強し得る。
【0075】
図7において、信号増強システム700は、区分された遅延ロジック704だけでなく、区分された適応フィルタ702を含む。区分された適応フィルタ702は、多数の適応フィルタを含み、「i」を介した適応フィルタ1として、図7において示されている。適応フィルタ1、2、3および「i」は、個々に、706、708、710、712とラベルされる。それぞれの適応フィルタの出力は、フィルタ出力に、固定された、または可変のゲインパラメータを適用する乗算器を含んだゲインロジック744に接続し得る。図7は、個々に、フィルタ706〜712の出力へ適用されるゲインパラメータ714,716,718、および720を示している。ゲインおよびフィルタ制御ロジック722は、ゲインパラメータ714〜720の制御を実行し得、それぞれ個々のフィルタ706〜712もためにフィルタ適応を実行し得る。
【0076】
フィルタ出力を荷重された一つ以上のゲインは、フィルタ出力「ySUM」の荷重された量を得るために強化ロジック724によって、ともに追加され得る。強化ロジック726は、出力信号「s」を創るために、荷重された量のフィルタ出力「ySUM」を、入力信号「x」に追加する。強化ロジックは、加算器であり得、または他の信号加算器(summer)であり得る。区分された遅延ロジック704は、多数の直列接続された遅延ブロックを含み、そのうちの5つは、遅延ブロック728,730,732,734および736とラベルされる。
【0077】
706〜712のそれぞれのフィルタは、区分された遅延ロジック704によって遅延され、「x」に基づくそのフィルタおよびフィルタの出力信号「y」のための単一のエラー信号「e」を決定した後、入力信号「x」を受信する。例えば、第1の適応フィルタ702のためのエラー信号「e」は、「e」=「x」−「y」である。それぞれの適応フィルタ706〜712は、その単一のエラー信号「e」を最小限にしようとするために適応する。
【0078】
区分されたフィルタ702は、多数適応フィルタ706〜712を横切ってタスクを追跡する全体の信号を分割する。それぞれの適応フィルタ706〜712は、区分されたフィルタ702の全てのインパルス応答の一部を処理および適応し得る。結果として、706〜712のそれぞれの適応フィルタは、図2で示された、より長い適応フィルタよりも短い長さ(例えば、タップよりも小さい数で)を有し得る。
【0079】
120のタップおよび6つの適応フィルタを有して遂行されるインパルス応答を与えられ、それぞれの適応フィルタは、全てのインパルス応答の20(または任意の数)のタップを処理しえる。他の遂行において、フィルタ702における適応フィルタ区分の数は、全てのインパルス応答の長さと等しく、それゆえ、それぞれの適応フィルタは1の長さを有する。区分されたフィルタ702の全ての長さは、上記で説明されたように、区分されたフィルタ702を追跡する周波数の範囲に関して、選ばれ得る。
【0080】
適応フィルタ706〜712は、入力信号における予期された基本周波数に依存した長さにおいて変化し得る。予期された基本周波数において、または予期された基本周波数の近くで、インパルス応答の一部を処理するために、適応フィルタ706〜712は、より短く区分され、さらに迅速な適応フィルタであり得る。予期された基本周波数から遠くでは、適応フィルタ706〜712は、より長く、さらにゆっくりとした適応フィルタであり得る。このように、適応フィルタ706〜712の長さは、入力信号における当該の周波数において、または当該周波数の近くで、迅速な適応が供給されるために選択され得る。
【0081】
それぞれの適応フィルタ706〜712は、個々に、フィルタ係数アップデートをほぼ利用しない。適応フィルタ706〜712は、より長い適応フィルタを利用する実行におけるフィルタよりも、さらに迅速にアップデートし得る。より迅速なフィルタアップデートは、特に高周波数で、増強された全ての追跡実行をもたらす。全ての追跡実行における増加は、それらの周波数が音声であれ、人工的に作られたものであれ、それ自体を、迅速に変化する追跡の基本周波数に与える。最小二乗平均(LMS)アルゴリズム、再帰形最小二乗(RLS)アルゴリズム、LMS、RLSの別形、または他の技術は、単一のエラー信号「e」をアップデートするために利用され得る。
【0082】
遅延ロジック704は、1つ以上のフィルタ706〜712への入力信号「x」の到達を遅延する。図7は、それぞれのフィルタ706〜712がそれぞれの遅延に関係していることを示す。それぞれの遅延ブロック728〜736は任意数の信号サンプルの遅延を実行し得る。
【0083】
一つの実行は第1の遅延ブロック728におけるDサンプルの初期遅延を用いる。それぞれのその後の遅延ロジック730〜736は各々の構成可能な遅延を有し、図7において、遅延のM1、M2,M3,Miサンプルとして示される。遅延ブロック730は第1の適応フィルタ706をフィードし、遅延ブロック732は第2の適応フィルタ708をフィードし、第3の遅延ブロック734は第3の適応フィルタ710をフィードし、このように第i番目遅延ブロック736は第i番目フィルタ712をフィードする。
【0084】
遅延D、M1、...、Miは、遅延ブロックがフィードする適応フィルタの長さ(たとえば、タップ数)に対応し得るかまたは、遅延ブロックがフィードする適応フィルタの長さとは異なることがあり得る。たとえば、適応フィルタ710の長さはM3タップであり得て、適応フィルタ706をフィードする遅延ブロック734は信号サンプルをM3サンプル分、遅延し得る。
【0085】
適応フィルタ「i」の長さがその関連する遅延Miより小さい場合、適応フィルタは初期により速く収束し得る。適応フィルタ「i」の長さがその関連する遅延Miより大きい場合、収束すると、適応フィルタはより小さい平均二乗誤差を経験し得る。フィルタ長さおよび/または遅延ロジック730〜736は、システム700が用いられる実行の実行指針にしたがって設定され得る。
【0086】
遅延Dが選択され得て、システム700が適応する基本周波数の範囲を設定する。フィルタ700が収束するまたは適応する基本周波数fまたはピッチの範囲は以下によって与えられる。
【0087】
【数6】

この場合、Lは区分された適応フィルタ702の全体の長さであって、たとえば、L=M1+M2+...+Miであり、fは、サンプリングレートである。
【0088】
ゲインおよびフィルタ制御ロジック722は、ゲイン714〜720および、各々におけるつまり各々のフィルタ706〜712に対するフィルタ適応を制御し得る。フィルタ制御220に関する上記の制御技術はまた信号増強システム700において用いられ得る。ゲイン714〜720は、入力信号「x」の信号対ノイズ比に比例し得るか、さもなければ、信号に基づいて設定され得る。SNRが低減するにつれ、1つ以上のゲイン714〜720はノイズを抑制しようとして増加し得る。SNRが増加するにつれ、1つ以上のゲイン714〜720は低減し得るかまたはゼロに設定され得る。
【0089】
ゲイン714〜720は、その対応する適応フィルタのフィルタ係数関数として決定され得る。ゲイン714〜720の一つの式は、随意的に正規化定数「k」を含み、A=f(h)/k である。
【0090】
関数f(h)は適応フィルタ係数関数であり、所望される増強次第で多くの方法に定義され得る。f(h)の例は以下に与えられる。
【0091】
【数7】

一つの実行において、式(5)は、m=2およびフィルタ長さ1で用いられる。増加する「m」によって、高調波がより大きく増大され得る。ゲイン714〜720は、フィルタ係数に加えてまたは代替として、他の情報に基づいて選択され得るかまたは決定され得る。正規化定数「k」は、
k=max(f(h))
にしたがって設定され得る。
【0092】
ゲイン714〜720は選択され得て、または修正され(たとえば、増加され)得て、入力信号の周期的成分を増加するかまたは強化する係数を備える適応フィルタの効果を増幅する。ゲイン714〜720はまた選択され得て、または修正され(たとえば、減少されるかゼロに設定され)得て、入力信号の周期的成分を低下させるかまたは弱める係数(一般的にマイナスの係数)を備える適応フィルタの効果を減少させるかまたは取り除く。しかしながら、ゲイン714〜720は、フィルタ係数の大きさに依存する他の方法に設定され得る。したがって、増強システム700はゲイン714〜720を各々に設定し得て、システム700において増強のみが起こる。
【0093】
強化ロジック726は増強した出力信号「s」を生成する:
s=x+A+A+A+...+A
図8は、増強システム700に代わるものを提供する増強システム800を示す。増強システム800は各々制御されたゲイン714〜720をゲインロジック802(たとえば、倍率器およびゲインパラメータ)に置き換える。ゲインロジック802は、ゲインパラメータ「A」804によって、適応フィルタ出力の合計をバイアスする。強化ロジック806はそれぞれの適応フィルタ出力の合計を提供し得る。
【0094】
増強システム700および800によって生成される信号「s」は、強化された基本周波数および基本周波数の高調波を含み、その結果、よりわかりやすいオーディオ信号になる。増強システムにおけるそれぞれの適応フィルタ706〜712はそのエラー信号によって、独立的にアップデートされ得て、フィルタと全体に対してより速く適応することになる。複数の適応フィルタへの区分によって、隣接高調波間のスミアリングの低下、より小さい高調波(たとえば、ノイズレベルに近い高調波)のよりよい保存、入力信号の非周期的成分のより小さな歪みにつながる。さらに、増強システム700は、ノイズに組み込まれた高調波でさえもノイズより上のレベルに増強し得て、小さな高調波をより良く保存し得る。実行間での選択の際、増強システム800は、複雑性の減少および計算要求の減少という利点を有する一方、増強システム700は、それぞれの適応フィルタ702〜708のゲインおよび出力信号へのその影響を独立的に制御するために柔軟性を提供する利点を有する。
【0095】
図9は、信号増強システム200および800の周波数パフォーマンスの比較である。プロット902は、入力信号904および出力信号906を含む信号増強システム200のパフォーマンスを示す。プロット908は、同一の入力信号904および増強した出力信号910を含む信号増強システム800のパフォーマンスを示す。プロット908は、信号増強システム200と比べて、信号増強システム800の改善された高周波数応答を含む改善された全体のトラッキング応答を示す。出力信号910は出力信号904の高周波数含量をより一層厳密にトラックする。
【0096】
プロット902および908はまた、増強システム800によって達成された高調波間の改善された分離を示す。プロット902は、入力信号904と増強した信号906との間の周波数応答ギャップ912を示す。増強システム800のパフォーマンスのプロット908は、参照数914で示されているようにギャップはずっと小さいことを示している。出力信号910は高調波間の分離を改善し、それによって出力信号910における高調波間のスミアリングが小さくなる。
【0097】
図10は、信号増強システム700および800の周波数パフォーマンスの比較である。プロット1002は、増強システム800によって生成される入力信号1004および出力信号1006を含む信号増強システム800のパフォーマンスを示す。プロット1008は、同一の入力信号1004および出力信号1006を含む信号増強システム700のパフォーマンスを示す。プロット1008は、より小さな高周波の改善された増強を含む増強システム700(各々制御されたゲイン714〜720を備える)の改善された全体のトラッキングを示す。
【0098】
増強されたより小さな高調波1012、1014、1016、1018の例は図10にラベルづけされる。増強された高調波1012および1014は、プロット1012において約3000〜3200Hzに位置し、これらは増強システム800によって強化されたものである。増強システム700は、プロット1008における増強された高調波1016および1018に示されているように、より小さな高調波の一層大きな増強を提供する。
【0099】
図11は、周期信号を増強するために用いられ得るアクト(act)のフローチャート1100を示す。増強システム700および800がトラックする最大ピッチが選択される(Act1102)。ピッチは、遭遇すると予期される信号タイプおよびそれらの特徴(男性、女性、または子供の声の特徴など)にしたがって選択され得る。遅延ブロック728〜736によって実行される全体の遅延は、最大ピッチの周期に設定され得る(Act1104)。
【0100】
増強システム700,800が動作する周波数範囲もまた選択され得る(Act1106)。適合フィルタ702〜708の全体のフィルタ長さは、周波数範囲を適応するために設定され得る(Act1108)。フィルタ長さおよび、周波数範囲および、最大ピッチは、増強システムの動作中、動的に変えられ得る。
【0101】
増強システムは、複数の適応フィルタ702〜708に渡る全体のインパルス応答を区分する(Act1110)。適応フィルタは、関係する基本周波数のインパルス応答の規模が大きい部分で、より小さなブロックに区分され得る。任意の適応フィルタ706〜712は、インパルス応答の1つ以上のポイントを処理し得る。それぞれの適応フィルタ706〜712は、インパルス応答の同じ数のポイントまたは異なる数のポイントを処理し得る。
【0102】
増強システム700および800は入力信号を受け取る(Act1112)。増強システム700および800は区分された適応フィルタを用いて入力信号をフィルタリングする(Act1114)。各々に選択されたゲインは、それぞれの適応フィルタのフィルタ処理された出力信号に適応される(Act1116)。制御された出力信号ゲインはそれから加算される。代替に、ゲインは、1つ以上のフィルタ処理された出力信号の合計に適応され得る。増強システム700、800は入力信号および制御された出力信号ゲインを加える(Act1118)。増強された出力信号の結果、基本周波数および高調波含量が強化される。
【0103】
増強システム700および800は、ピッチ推定出力「p」740を含むピッチ検出ロジック738を組み込み得る。ピッチ検出ロジック738は上記のように、入力信号の信号成分の推定の基本周波数を決定し得る(Act1120)。推定は、それぞれの適応フィルタ706〜712へのフィルタ係数の分析に基づき得て、迅速に基本周波数を推定する。周波数推定または他の情報は増強システム700および800に原理を提供し、適応率の増加および減少、フィルタ長さの変更、フィルタの付加または除去、他の適応などのような適応制御を、フィルタ702〜708およびゲインに渡って行う(Act1122)。
【0104】
増強システム700および800はまた、音声検出出力「v」744を含む音声検出ロジック742を含み得る。音声検出ロジック742は、事前に選択されたしきい値(たとえば、バックグラウンドノイズレベル)より上のフィルタ係数にピークを設置し得る。そのような係数は、入力信号における周期的周波数成分の存在を示し得る。母音サウンドは、特に強いピークであり得るバックグラウンドノイズレベルより上に係数ピークを引き上げ得る。しきい値より上のピークが示される場合、音声検出ロジック742が音声検出出力「v」をアサートし得て、入力信号は発声成分を含むことを示す。
【0105】
音声検出ロジック742が検出測定を決定し得る。検出測定は、音声が入力信号に示されているか否かの表示を提供する。検出測定はプラスのフィルタ係数の大きさの合計であり得る。合計がしきい値を超える場合、音声検出ロジックは音声検出出力「v」744をアサートし得る。
【0106】
それぞれの適応フィルタ702〜708はそのエラー信号を生成する(Act1124)。それによって、それぞれの適応フィルタ702〜708はそのエラー信号に基づいて適応する(Act1126)。増強システム700および800は入力信号の時間中、増強された出力信号を提供し続け得る(Act1128)。
【0107】
図12は、複数のステージ増強システム1202および複数のステージ増強システム1204を示す。システム1202は、信号増強システム700に結合するフィルタステージ(たとえば、ステージ602)をゆっくり適応することを含む。入力信号「x」1206はゆっくりと適応するフィルタステージ602に結合し、信号増強システム700は増強した出力信号「s」1208を生成する。複数のステージ増強システム1204は、信号増強システム800に結合しているゆっくり適応するフィルタステージ602を用いて、増強された出力信号「s」1210を生成する。
【0108】
ゆっくりと適応するフィルタステージ602は準定常信号成分を抑制し得る。準定常信号成分は、ゆっくり変化する周波数含量を備えるバックグラウンドノイズのために入力信号に示され得る。ゆっくりと適応するフィルタステージ602は、比較的ゆっくり変化する周波数特性を備えるエンジンノイズまたは環境効果または他のノイズソースを抑制し得る。音声信号に存在し、ゆっくりと適応するフィルタステージ602をパスするような周期的周波数含量を増加するために信号増強システム700および800が続く。
【0109】
信号増強システム200、600、700、800は、ハードウェアまたはソフトウェアまたはハードウェアとソフトウェアの組み合わせに実行され得る。増強システムは、ディスク、EPROM、フラッシュカード、他のメモリのような機械読み出し可能な媒体に格納される命令の形をとり得る。増強システム200、600、700、800は、通信装置または、サウンドシステムまたは、ゲーム機器または、信号処理ソフトウェアまたは、他の装置およびプログラムに組み込まれ得る。増強システム200、600、700、800はマイクロフォン入力信号を前処理し得て、後に続く処理のために母音サウンドのSNRを増加する。
【0110】
本発明のさまざまな実施形態が記載されてきたが、より多くの実施形態および実行が本発明の範囲内で可能であることが当業者に明らかとなるであろう。したがって、添付の請求項とそれに対応するものを考慮に入れずに、本発明が限定されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は前処理および後処理ロジックを有する信号増強システムを示す。
【図2】図2は単ステージの信号増強システムを示す。
【図3】図3は女性の声に適応されたフィルタのフィルタ係数のプロットを示す。
【図4】図4は男性の声に適応されたフィルタのフィルタ係数のプロットを示す。
【図5】図5は信号増強の流れ図である。
【図6】図6は複ステージの信号増強システムを示す。
【図7】図7は区分された適応フィルタを含む信号増強システムを示す。
【図8】図8は区分された適応フィルタを含む信号増強システムの代替の実行形態を示す。
【図9】図9は図2および図8に示された信号増強システムの周波数特性の比較を示す。
【図10】図10は図7および図8に示された信号増強システムの周波数特性の比較を示す
【図11】図11は信号増強の流れ図である。
【図12】図12は複ステージの信号増強システムを示す。
【符号の説明】
【0112】
100、600、700、800 信号増強システム
202 信号入力
204 遅延ロジック
206 フィルタ
210 エラー推定器
212 ゲイン制御ロジック
218 信号強化ロジック
220 制御ロジック
702 区分適応フィルタ
704 区分遅延ロジック
744 ゲインロジック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号入力と、
該信号入力に結合された区分遅延ロジックと、
該区分遅延ロジックに結合され、複数の適応フィルタ出力を有する区分適応フィルタと、
該適応フィルタ出力に結合されたフィルタ強化ロジックと、
該フィルタ強化ロジックに結合されたゲインロジックと、
該信号入力とゲインロジックに結合され、増強された信号出力を有する信号強化ロジックと、
を備える、信号増強システム。
【請求項2】
前記複数のフィルタ出力が、第1のフィルタ出力と第2のフィルタ出力を有し、前記区分適応フィルタが、
第1の適応フィルタであって、
第1のフィルタ係数と、
該第1のフィルタ出力と、
第1のエラー出力とを備えた、第1の適応フィルタと、
第2の適応フィルタであって、
第2のフィルタ係数と、
該第2のフィルタ出力と、
第2のエラー出力とを備えた、第2の適応フィルタとを備え、
該第1のエラー出力に基づき該第1のフィルタ係数が調整され、該第2のエラー出力に基づいて該第2のフィルタ係数が調整される、
請求項1に記載の信号増強システム。
【請求項3】
前記第1のエラー出力が、前記信号入力と前記第1のフィルタ出力の間の第1の差を有し、前記第2のエラー出力が、該信号入力と前記第2のフィルタ出力の間の第2の差を有する、請求項2に記載の信号増強システム。
【請求項4】
遅延ロジックが前記第1の適応フィルタに結合されたM1サンプル遅延と、前記第2の適応フィルタに結合されたM2サンプル遅延を有する、
請求項2に記載の信号増強システム。
【請求項5】
前記M2サンプル遅延が、前記M1サンプル遅延に対し直列である、請求項4に記載の信号増強システム。
【請求項6】
前記第1の適応フィルタが長さM1適応フィルタであり、前記第2の適応フィルタが長さM2適応フィルタである、請求項4に記載の信号増強ントシステム。
【請求項7】
M1=M2またはM1=M2=1である、請求項6に記載の信号増強システム。
【請求項8】
前記遅延ロジックが最大適応ピッチを設定するために選択したDサンプル遅延を備える、請求項1に記載の信号増強システム。
【請求項9】
前記遅延ロジックが適応ピッチ範囲を設定するために選択したLサンプル遅延を備える、請求項1に記載の信号増強システム。
【請求項10】
前記遅延ロジックが人間の音声ピッチを含む適応ピッチ範囲を実現する、請求項1に記載の信号増強システム。
【請求項11】
前記遅延ロジックが約70Hzと約400Hzの間の適応ピッチ範囲を実現する、請求項1に記載の信号増強システム。
【請求項12】
信号を増強する方法であって、
基本周波数を含む入力信号を受信することと、
複数の異なって遅延された入力信号を得るために、複数の異なるサンプル遅延により入力信号を遅延させることと、
複数の個々の適応フィルタを備える区分適応フィルタを該複数の異なって遅延された入力信号に適用することと、
該区分適応フィルタによりフィルタ処理された出力を生成することであって、該フィルタ処理された出力が該基本周波数の整数倍だけほぼ遅延される、ことと、
該複数の個々の適応フィルタの各々に対しエラー信号を生成することと、
該個々の適応フィルタのエラー信号に基づき、該個々の適応フィルタの各々を適応することと、
該フィルタ処理された出力によって該入力信号を強化することと、
を包含する、方法。
【請求項13】
前記複数の適応フィルタの出力合計を生成することと、
ゲインパラメータにより該合計を偏たせることと、
をさらに包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
追跡する最大ピッチを決定することをさらに包含し、
前記入力信号を遅延させることは、Dが該最大ピッチに応じて選択されるDサンプルだけ入力信号を遅延させることを包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ピッチ追跡範囲を選択することをさらに包含し、
前記入力信号を遅延させることは、Lが該ピッチ追跡範囲を設定するために選択されるD+Lサンプルだけ該入力信号を遅延させることを包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ピッチ範囲が人間の音声ピッチを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ピッチ範囲が約70Hzから約400Hzの間に広がる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
機械読み取り可能な記録媒体と、
該機械読み取り可能な記録媒体において具体化された、請求項12〜17のいずれか一項に記載の方法を実行させるコンピュータ読み取り可能な命令と、
を備える、製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−126841(P2006−126841A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311122(P2005−311122)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIGBEE
【出願人】(504064319)ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ−ウェイブメーカーズ, インコーポレイテッド (6)