説明

呼吸装置における、患者に大事な作動パラメータの手動入力及び触覚出力のための方法及び装置

本発明は、例えば麻酔装置(1)のような呼吸装置における手動入力出力装置(18)に関する。該装置(18)は、前記呼吸装置(1)の作動パラメータであって、患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを手動入力により調整できるよう構成されており、前記患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つの調整において、触覚(haptic)フィードバックを実現するようにプログラムされており、前記手動入力及び手動出力のための操作部(20)と、操作部(20)の動きを検出する検出部と、検出された動きに応じて、該操作部(20)に対して、機械的な出力をかけるように構成された触覚フィードバック部(22)と、を備える。ある実施形態では、該手動入力出力装置(18)は調節式圧制御弁の開口圧力のレベルを調整するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸装置における作動パラメータを調整するための手動入力装置の分野に関するものである。具体的には、本発明は患者に重大な作動パラメータを呼吸装置へ手動に入力する方法及び装置に関する。ある実施形態では、本発明は呼吸器を介して麻酔を配達するシステムの麻酔患者呼吸サーキットにおける、調節式圧制御弁を操作するための手動入力を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
麻酔患者呼吸サーキットは、患者の鎮静を行うために、麻酔薬蒸気を含む気体を患者に送るために使用される。麻酔機械は、気体と蒸発された麻酔薬との混合物を提供する。この混合物は、麻酔患者呼吸サーキットを介して患者に送られる。手動換気中の最大圧力を制限するために、麻酔患者呼吸サーキットには調節式圧制御(Adjustable Pressure limiting,APL)弁が使用される。APL弁は、麻酔患者呼吸サーキット内の圧力が所定のレベルに至ると、サーキットの圧力を逃す圧力逃し弁であり、その結果患者は過剰な圧力にさらされることがなくなる。APL弁はユーザによって調整可能であるため、手術中に異なる最大圧力が麻酔患者呼吸サーキット使用可能になり、その圧力はユーザによって決定できる。APL弁の開口圧力は患者の重大作動パラメータの1つである。
【0003】
手動換気中に、一般的には麻酔医である操作者は、規則として患者の近くに位置しており、片手で手動換気袋を操作する。もう一方の手では、操作者は、例えば患者のフェイス・マスクを制御し、麻酔患者呼吸サーキットの最大圧力等の麻酔機械のパラメータをAPL弁を用いて調整する。このような作業は一般的に、手術前の麻酔誘導中の、鎮痛剤の静脈内投与及び麻酔機械を用いる換気の開始の際に行われる。更に、この作業は手術後の麻酔の終了時に、患者を麻酔から目覚ませ、自発呼吸に戻すときにも行われる。これらの重大な段階では、麻酔医は手動換気袋の操作及び患者への対応で手いっぱいになっている。麻酔医は、換気袋を用いて患者の換気を手動に行うと同時に、吸入及び吸出下気体の濃度、血液酸素化、ECG,EEGなどの生理的パラメータを観察する。したがって、これらの緊迫した段階では、麻酔医には麻酔機械を視覚的に調整できる余裕があまりない。
【0004】
US5950623には、非線形バイアス手段を備えるAPL弁が開示されている。APL弁は、所定の圧力によって開口位置に移動し、閉口位置では弁座に戻る、移動可能なバルブ部を備えている。制御ノブを回すことで、ユーザは移動可能なバルブ部にかかる閉口位置向きバイアスを調整し、バルブを開く圧力を設定する。制御ノブは移動可能なバルブ部に機械的に結合されている。もっと正確にいえば、制御ノブを回すことによって、移動可能なバルブ部に対して作用するスプリングが圧縮されたり、その圧縮が解除されたりする。制御ノブの回転操作と、スプリングの圧縮又は解除との非線形関係を機械的に提供することにより、APL弁の非線形バイアスが達成される。
【0005】
しかし、機械的に操作される全てのAPL弁同様に、US5950623に記載されたAPL弁はいくつかの欠点がある。この件のような狭い許容範囲の再現性が求められる場合、機械的な解決手段は非常に高価になる。更に、機械的に構成されたバルブ操作部は劣化し、時間とともに調整メカニズムには望ましくないばらつきが生じる。又、ユーザが制御ノブを操作する時にノブを見る必要がないという理由で好まれている触覚フィードバックは、所定の回転角度に限定されている。又、このような機械的解決案によって提供される触覚フィードバックは完全に受動的である(即ち、バネ荷重を超える力によって動かされる)。又、提供される触覚フィードバックはほぼ1種の触覚フィードバックに限定され、US5950623もそのようなものであり、ねじ山のピッチの異なる2つの領域が、バルブ部に対して作用するスプリングの圧縮を制御している。追加的に、患者からの圧力はスプリング荷重に直接影響を及ぼし、制御ノブの触覚フィードバックが直接影響されるため望ましくない。最後に、US5950623に開示されたタイプのAPL弁は、患者が変わると殺菌処理をする必要があり、例えば制御ノブ及びバルブ機構は加圧滅菌器で処理される。この処理は、APL弁機構の劣化を早めることになる。
【0006】
APL弁を制御する電子的解決案の1つは、本願出願人のEP−A1−1421966に開示されている。具体的に、ユーザ・インタフェースに指示を無線送信するリモコンを備える麻酔装置が開示されており、麻酔装置は手動換気に設定されているときのみ、リモコンからの指示を実行する。ここでは、リモコンは電子的に制御されるAPL弁を介して許可される過剰圧力レベルなどの機械的なパラメータの制御を含む。ある実施形態では、制御はコンピュータのマウスホイールに類似しているホイールで実現されているが、既定の機械パラメータに関連する決定された位置を含む。これらの機械パラメータは装置に永久的にプログラムされ得、患者ごとにプログラムされ得、又は手動換気にされたときのみユーザによってプログラムされ得る。この中、最後の選択肢においては、手動換気にされるとホイールを自動的に独特な位置にさせても良い。これは、ユーザ・インタフェースからリモコンへの制御信号及びこの信号に対応する小型モータを用いて達成できる。
【0007】
EP−A1−1421966に開示された解決案は、機械式APL弁の制御部における欠点に当たっているが、ホイールをスクロールすることによってAPLの圧力範囲を調整する触覚フィードバックをユーザに提供していない。小型モータは所定の開始ポイントを規定する(例:最低圧力限度)ことだけ行い、その後ホイールを回すことによってAPL弁の開口圧力を下げたり上げたりする。しかし、操作者がホイールを前後にスクロールし始めると、調整された現在のAPL弁の圧力限度を規定するために制御表示部を持つ視覚的なフィードバックが麻酔装置において必要となる。APL弁によって規制される、調整された現在のAPL弁の圧力限度の触覚フィードバックは提供されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US5950623
【特許文献2】EP−A1−1421966
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、患者の重大な作動パラメータを調整するために、改善された方法及び装置が望まれている。患者の重大な作動パラメータとは、たとえば麻酔患者呼吸サーキットにおける、APL弁を用いて調整可能な最大圧力限度等がある。
【0010】
従って、麻酔患者呼吸サーキットのAPL弁の調整可能な圧力限度のための制御値を提供するなど、患者の重大な作動パラメータを少なくとも1つ調整する、改善された又は代わりの方法及び装置は有利であり、特に改善された柔軟性、費用効率、及び/又は使いやすさを可能とする作動方法及び装置は有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明の実施形態は、添付した特許請求項にかかる装置、方法、コンピュータ・プログラム、及び装置の使用方法を提供することによって、上記のような従来技術の欠乏、不利点、又は問題点の夫々又は如何なる組み合わせを軽減、減少、又は排除することを追求する。
【0012】
本発明の第1の態様によると、呼吸装置に配される手動入力出力装置が提供される。該手動入力出力装置は、呼吸装置の、患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを調整するための手動入力を提供するように考案され、該入力出力装置による該患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つの調整において、触覚(haptic)フィードバックを実現するようにプログラムされている。 該手動入力出力装置は、該患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つの手動入力と手動出力とを提供するように構成される操作部と、該操作部の動きを検出するように構成された検出部と、検知された動きによって、該操作部に該手動出力を機械的出力としてかける触感フィードバック部とを備える。
【0013】
本発明の異なる態様によると、呼吸装置に手動入力を提供するために考案された手動入力出力装置を用いて、呼吸装置の患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを調整する方法が提供される。該方法は、該患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つの手動入力の際、手動入力出力装置の触覚フィードバックを決定する工程と、検出装置により操作部の動きを検出する工程と、検出された動きに応じて、 触覚フィードバック部を用いて操作部へ機械的出力を提供することによる、触覚フィードバックを手動出力として提供する工程と、を含む。
【0014】
本発明の更なる態様によると、麻酔システムへの手動出力を提供するために考案された手動入力出力装置を用いて、呼吸装置の患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを調整するコンピュータ・プログラムが提供される。該コンピュータ・プログラムはコンピュータによって処理され、動作部を介して患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを調整するための手動入力の際に、触覚フィードバックを決定する第1コード・セグメントと、検出部を用いて操作部の動きを検出する第2コード・セグメントと、検出された動きによって、 触覚フィードバック部を用いて操作部へ機械的出力を提供することによる、触覚フィードバックを手動出力として提供する第3コード・セグメントを含む。
【0015】
本発明の更なる態様によると、本発明の第1の態様による手動入力出力装置の使用方法が、APL弁の開口圧力のレベルを調整するために麻酔システムにおいて提供される。
【0016】
本発明の更なる態様は、添付された従属項に定義されている。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態は、例えば回転する操作ノブなどのAPL弁操作部のプログラム可能な非接触操作モードを提供する。本発明のいくつかの実施形態はAPL弁操作部の非機械的ワイヤレス操作を提供する。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態は、APL弁の開口圧力等の患者に重大な作動パラメータの触覚フィードバックを、手動入力装置で提供し、該手動入力装置は位置、活性化力(activation force)、活力(vigor)、強度(intensity)、規模(magnitude)、操作の方向等に関してプログラムできる。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態は、例えば活性化と同時にすぐに操作でき、所定の最初位置に戻ることが必要でないAPL弁操作部を提供する。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態は、APL弁操作部が所定の操作タイミングで操作されるときの圧力の範囲で、明確に区別できる触覚フィードバックを提供する。
【0021】
いくつかの実施形態は、患者の重大な作動パラメータを調節する際に改善された安全性を提供する。
【0022】
この明細書に使用される「備える」は、記載された機能、数字、ステップ、作動、要素及び/又は部品が存在することを意味するが、他の機能、数字、ステップ、作動、要素及び/又は部品が存在すること及び追加されることを排除するものではないことを強調したい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の実施形態によって可能となるこれら及び他の態様、特徴、並びに有利点は、本願の実施形態に関する添付された図面を参照する下記の説明から明確になり、解明される。
【図1】麻酔患者呼吸サーキット及びAPL弁を備える麻酔システムの概略図である。
【図2】電子APL弁の開口圧力レベルの形態の患者の重大な作動パラメータを手動に調整するための手動入力装置の実施形態の概略図である。
【図3】手動入力出力装置の異なる回転範囲の異なる作動モードに関する概略図である。
【図4A】第1の方向における手動入力装置の回転及び対応する触覚フィードバックを示すグラフである。
【図4B】第2の方向における手動入力装置の回転及び対応する触覚フィードバックを示すグラフである。
【図5】電子APL弁の開口圧力レベルおよび他の麻酔配達システムの作動パラメータを手動に調整するための手動入力装置の更なる実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の具体的な実施形態を、添付された図面を参照しながら以下に説明する。しかし、本発明は様々な形態で実施され得るため、ここに説明された実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態はここでの開示を詳細に及び完全にするために提供されており、当業者に発明の範囲を完全に伝えるだろう。添付された図面に示された実施形態の詳細な説明に使われる術語は本発明を限定することを意図するものではない。図面では、類似する参照番号は類似する要素を示す。
【0025】
下記の説明は、麻酔装置の手動入力装置及び麻酔装置の麻酔患者呼吸サーキットのAPL弁を調整するための触覚フィードバックを提供するための手動入力装置に適応可能な本発明の実施形態に焦点を合わせている。
【0026】
ハプティックス(触覚分野)又はフォース・フィードバックは、人と機械のインタフェースに触覚を利用する技術分野を意味する。一般的に、呼吸装置のユーザ・インタフェースは入力のみである。これらは入力のための物理的な操作を追跡するが、そのような操作の結果を示す物理的なフィードバックは提供しない。実施形態による触覚入力装置は、ユーザと呼吸装置との直接やり取りを可能にする。ユーザは、触感が変わらない入力装置とやり取りするとは異なる、自分の選択が分かるインタラクティブな感覚をもらう。更に、触覚フィードバックをプログラムすることが可能であり、呼吸装置の異なる患者又は作動状況に対応することが可能である。触覚フィードバックを備える入力装置を提供することで、操作時の入力装置は出力装置にもなる。
【0027】
入力装置の、制御可能な触覚フィードバックは、たとえば現在の作動状況、患者状況、又はユーザによる入力に基づいてプログラム可能で調整可能な触覚フィードバックを意味する。
【0028】
しかし、本発明が麻酔患者呼吸サーキットのAPL弁を調整するための触覚フィードバックにおける特定応用に限られず、他の実施形態において様々な呼吸装置に適用可能であること、又は所定の呼吸終末陽圧(PEEP)、吸入圧上限、ポップ・オフ(Pop-off)圧、フレッシュガス流量、1回換気量、吸入量、酸素(O)、(NO)、(NO)等のガス濃度、気化器等によって配達される麻酔薬の濃度等を含む呼吸装置に関する他のパラメータに適用可能であることは理解されるだろう。実施形態によると、これらのパラメータは夫々の連合した触覚フィードバック・プロフィールを持ち得、このフィードバック・プロフィールは例えば換気装置又は麻酔装置の回転ノブのような、呼吸装置の手動入力装置の中にプログラムされ得る。呼吸装置の、パラメータの調整のためのフィードバックを持たない回転ノブの形をした手動入力装置は、例えば引用によってその全体が組み込まれるUS5678529、特に図2のノブ21及び第4欄、1.25〜55に開示されている。同じ手動入力装置は、例えば呼吸モード、患者名等のパラメータのような患者の重大ではないパラメータを調整するために、触覚フィードバックを用いることなく使用され得る。これらのパラメータを調整するために本発明を使用することによって、ディスプレー装置、バーリーディング等のインタフェースによる視覚的フィードバックとは異なる触覚フィードバックを提供でき、患者の安全が有利に向上され得る。
【0029】
US6834647は、換気装置及び患者に対する操作者の移動を可能とする、呼吸換気装置の遠隔制御(remote control)を開示する。特定な患者を示すパラメータ信号、又は換気装置に関する呼吸又は生理的なパラメータ(第8欄、1.36〜41)(例えば気道内圧、1回換気量、脈拍数、血圧、動脈血の酸素飽和)が、患者又は換気装置につながっているセンサから提供される(第3欄、1.20〜21)。複数の、感知された呼吸又は生理的パラメータの選択されたパラメータに関連するデータはモニタに表示され、又は端末を介して、選択された特定の呼吸又は生理的なパラメータの触覚フィードバックを提供するために、リモコンに提供される。
【0030】
リモコンに送信されるデータは常に、センサによって読み取られた現在のパラメータに関するセンサ出力に基づく。そのようなセンサは、例えば、気圧センサ、気流センサ、血圧センサ、脈拍オキシメータ等がある。複数のパラメータからどれをリモコンに送信するか選択するために、スイッチ(60)が提供される(第5欄、1.35〜40)。
【0031】
US6834647のリモコンは、操作者が手に握るための部材を備える。この部材は、操作者の指によって握られると作動する、可動トリガ(trigger)を備える。端末から受信したパラメータ信号に対応する力を操作者の指にかけるために、トリガには加力要素が結合されている。したがって、実際のパラメータの数値に関する触覚がユーザに提供される。トリガの動きは、換気装置を遠隔操作するための別の制御信号を提供し得る(第4欄、1.1〜16)。
【0032】
しかし、US6834647の遠隔制御システムは、操作者による制御信号に基づく直接な触覚フィードバックを提供しない(図2を参照、信号88は片方向である、又は第9欄、1.8〜16)。フィードバックは常に、上記のようにセンサの出力から算出される。更に、US6834647に記載された実施形態によると、一般的には、リモコンのトリガにフィードバックされるのはトリガによって制御される生理的又は換気パラメータとは異なる、別の生理的又は換気パラメータである。US6834647の好ましい実施形態は、呼吸袋のシミュレーションであり、1回換気量はトリガの手動動作によって制御され、気道内圧から提供される患者の気圧(図2の84)によって触覚フィードバックが決められる(例えば、第6欄、1.42〜57)。
【0033】
US6834647には、同じ生理的又は換気パラメータがリモコンのトリガによって調整され、同じ生理的又は換気パラメータからのフィードバックがトリガへ提供されることは明示されておらず、そのように読み取ることはできない。もし、本発明を念頭に置いてUS6834647の記載に逆らってそのような構成にしたとしても、装置の本来の機能的限界による遷移時間及び中間センサがフィードバック信号を提供することによる時間的な遅延によって発生する患者への危険性のため、このシステムは使用不可になるであろう。例えば、患者の重大な作動パラメータを、調整信号を介してある範囲内で比較的に速く調整した場合(即ち、調整のフィードバックが伝わることよりもかなり速く)、患者の安全は保障できない。患者の重大な作動パラメータは、例えばAPL弁の開口圧力、患者の最大吸入圧力などがある。例えば、患者の最大吸入圧力が制御信号によって急激に大幅上昇されると(例えば、患者の吸入圧力低い状態において、リモコンのトリガを限界まで素早く押す)、このような調整に対するフィードバックがユーザに伝わる前に、危険なほど高い吸入圧力につながる制御信号が設定され得る。このような危険なほど高い吸入圧力が設定されても、対応する圧力センサからの信号はその瞬間においては低い圧力を示すため、操作者の手に握られたトリガに低い抵抗力をフィードバックすることしか出来ず、本発明のように圧力が高くなると同時に高い抵抗力の触覚フィードバックを提供し、危険を防ぐことはできない。患者の吸入圧力が上昇してから、対応するフィードバック信号がトリガにかかる抵抗力をあげることになる。しかし、トリガは完全に(限界まで)押されているため、抵抗力をあげることは操作者に触覚フィードバックとして伝わらない。したがって操作者は、危険なほど高い吸入圧力に気づくことがない。同様に、吸出の際にリモコンを用いて患者の重大な作動パラメータを調整したとき、危険な場面が発生し得、それに続く吸入の際、ユーザはこのような調整に関する触覚フィードバックをもらうことが出来ず、極度に高い入吸流量につながり得る。したがって、操作者があるパラメータを設定する際に、そのパラメータの程度に関する直接なフィードバックは提供されず、非触覚フィードバックだけが開示されている。
【0034】
これとは対照的に、本発明の実施形態によれば患者の安全を危険にさらすことなく患者の重大な作動パラメータを調整できる。
【0035】
実施形態をみると、麻酔システム1の概略が示されている。麻酔装置1は、例えば麻酔機械であり、麻酔を受ける患者2につながっている。亜酸化窒素のための第1ガス連結部4と、酸素のための第2ガス連結部5と、及び圧縮空気のための第3ガス連結部6とを備えるフレッシュガス部3からフレッシュガス流量Fが提供される。フレッシュガス部3は、亜酸化窒素と酸素との選択された混合物の混合、又は空気と酸素との選択された混合物の混合を提供する。混合されたものはフレッシュガス流量Fとして患者呼吸サーキット7に提供される。ガス流の方向は図1の矢印で示されている。フレッシュガスの調合のための他の手段は周知であり、ここでは説明を省略する。最初に、フレッシュガスは患者呼吸サーキット7を介して吸入チューブ9を通り、患者の口及び鼻に配置されるフェイス・マスク8に送られる。フレッシュガスは麻酔薬を含んで提供され得る。代わりに、麻酔薬は気化器10によって患者呼吸サーキット7に提供され得る。患者呼吸サーキット7は、異なる様々な作動モードで作動され得、例えば再呼吸のないオープン・システム、ベイン―メイプルソンのような、部分的再呼吸が行われる半オープン・システム、又はかなりの再呼吸が行われるクローズド・システムなどとして作動され得る。フェイス・マスク8は様々なデザインが知られており、更にはフェイス・マスク8の代わりに気管カニューレを使用することも可能である。吸出したガスは吸出チューブ16を介して患者サーキット7を通るように搬送される。吸出ガスは、再呼吸が行われないオープン・システムでは排気口15を介して麻酔機械1から排除されるか(例えば、「ポップ・オフ」弁を介して排気システムへ)、又は半オープン・システム及びクローズド・システムではその少なくとも一部が患者に戻される。「ポップ・オフ」弁は、機械的換気中に患者呼吸サーキットにおける最大圧力を調整する、過剰圧逃し弁である。
【0036】
患者呼吸サーキット7は、患者サーキットの再循環されるガスから二酸化炭素を除き、二酸化炭素の増加を防ぐための吸収部材(不図示)、患者呼吸サーキット内のガスの流れが正しい方向であることを確実にする様々なチェック弁、及びサーキット内の圧力が一定値を超えた場合患者が過剰な圧力にさらされないように患者呼吸サーキットを通気させる圧力逃し弁を含み得る。圧力逃し弁はAPL弁17と称され、作動中に異なる最大圧力を患者呼吸サーキット7において利用できるようにユーザによって調整、設定可能である。APL弁17は、呼吸サーキット7からAPL弁17を介する排気ガスを管理するために、排除システムに結合されている。
【0037】
多くの従来の機械式呼吸装置には、APL弁及びポップ・オフ弁の両方が備えられている。しかし、電子式システムでは、電子的に制御される最大圧力制御弁に入力装置が機械的に連結されていないため、1つの弁でAPL弁及びポップ・オフ弁の両方の役割を提供し得る。例えば、非公開の特許出願PCT/EP2006/070068は、ポップ・オフ弁及びAPL弁を備える、手動で機械式の換気として構成された換気システムを記載している。更に、非公開の特許出願PCT/EP2006/070068の図1及び図4、並びに対応する説明には、電子的に制御されるAPL弁を備えた換気システムを記載している。
【0038】
本発明の実施形態は、ここに説明されている他の換気システム(例えばPCT/EP2006/070068に開示されたもの)とともに実行され得る。
【0039】
図1に戻り、APL弁17の開口圧力を調整する入力は、手動入力出力装置18を用いて行われる。手動入力出力装置18はAPL弁から遠隔である。更に、手動入力出力装置18は触覚フィードバックを実現するようにプログラムでき、手動入力及び出力を提供する操作部材20と、操作部材20の動きを検出する検出部と、及び検出された動きによって操作部材20に機械的な出力を加える触覚フィードバック部22とを備える。手動入力出力装置18は、図2、3、4A及び4Bを参照しながら以下に詳細に説明される。
【0040】
ユーザはユーザ・インタフェース11を用いて麻酔装置1の作動モード及びパラメータの値を設定し得る。ユーザ・インタフェース11は、本例においては、所定の形の入力部12を持つ。ユーザ・インタフェース11は物理的な入力部、インタラクティブ画面などのソフトウェアに基づく入力部、又はそれらの組み合わせに基づき得る。
【0041】
麻酔装置1は、手動換気モード及び機械換気モードの両方において操作され得、そのため手動換気袋13及び機械換気装置を持つ。これらの、患者サーキット7に対する接続は、周知の様々な方法で行われ得、詳細に説明する必要はない。
【0042】
機械的換気中には、連続的なフレッシュガスの流れはビンの中の袋装置(bag−in−bottle device)、又は直接換気によって提供される。逆流止め弁(non−return valve)は呼吸サーキット内の流れの方向を制御し、余分のガスはポップ・オフ弁を介して排気口から放出される。
【0043】
手動換気の際には、フレッシュガスは自発呼吸をする患者に提供される。患者の呼吸は、手動換気袋を用いて補助され得る。余分なガスはAPL弁17を介して排気口から放出される。放出される余分のガス量を決定する開口圧力は、APL弁17によって決定される。
【0044】
患者2の手動換気中に操作者は、上述したように、規則として患者2及び手動換気袋13を厳密に監視する必要がある。
【0045】
手動入力装置18は電子APL弁17から機械的に完全に切断されており、その結果患者呼吸サーキット7の圧力は手動入力装置18には直接フィードバックされない。一方では、これは開口圧力の正しい調整を促進する有利な点である。他方では、明細書のはじめに説明したように、ユーザに触覚フィードバックを提供することがまだ望まれている。このニーズを更に説明するために、手動換気袋13の充てんの度合は、患者呼吸サーキット7内の圧力に直結フィードバックを必ずしも提供するわけではないことを以下に説明する。
【0046】
操作者は手動換気袋を介して患者の肺を“感じ取り”、触覚フィードバックをもらう。しかし、APL弁17が低い開口圧力に調整された場合又は完全に開いた場合、実質的に全てのガスが余分のガスとしてAPL弁17を介して排出され得る。この場合、患者の換気は確保されず、手動換気袋13は空になる(即ち、操作者は患者への触覚フィードバックを全て失う)。そのように、手動換気袋から触覚フィードバックが得られない場合、ユーザは一般的に、APL弁17を介する余分なガスの排出を減らして患者呼吸サーキット内の圧力を上げるために、APL弁をより高い開口圧力に調整する。同時に、ユーザは患者呼吸サーキットを素早く充てんさせるために、患者呼吸サーキットにOガスをフラッシュ(flush)する。
【0047】
しかし、例えばAPL弁がとても高い開口圧力に調整されたり、又は完全に閉ざされた場合、余分なガスは実質的に完全に排出できなくなり、手動換気袋13はそのサイズが大きくなり続ける。ゴムの手動換気袋13は、大きくなればなるほどその反応性が上がる。即ち、手動換気袋13にボリュームを加えても、本来の容量まで到達するまでは圧力はほぼ変わらない。このようなところで更なるボリュームを加えると、圧力はすぐに上昇する。患者の安全を改善させるためには、手動換気袋13の操作者には、手動換気袋13が充てんされる度合いによって提供される触覚フィードバックとは異なる、別の方法で提供される追加的なフィードバックが必要となる。これは、US5950623に開示されている、より高い開口圧力レベルにおいて作動抵抗力を上げるようなAPL弁によって提供され得る。ここに説明された実施形態によると、ユーザがAPL弁17の開口圧力を調整するために手動入力装置18を操作する際、このフィードバックは触覚フィードバックとしてユーザに提供される。
【0048】
図2は、麻酔装置の少なくとも1つの作動パラメータを手動に調整するための手動入力装置18の実施形態の概略図であり、本実施形態における作動パラメータは電子APL弁17の開口圧力レベルである。APL弁17の開口圧力の調整は手動入力装置18を用いて行い、手動入力装置18はその機械的位置に依存する電子信号を生成する。電子信号は処理され、開口圧力の調整のために電子APL弁17に提供される。電子APL弁17は、患者呼吸サーキット7と空気接続されるような場所に位置付けられている。麻酔装置又は患者呼吸サーキットのデザインによって、ある作動モードにおいては患者呼吸サーキット7は手動換気の際にのみAPL弁17に接続され得る。これは、袋(bag)又は手動換気モードに設定される麻酔装置1の選択ノブ又はモードスイッチによって提供され得る。選択ノブが機械的換気モード又は制御された換気モードに設定されると、APL弁は患者呼吸サーキットの一部でなくなり得る。このモードにおいて、APL弁が開きっぱなしであっても、APL弁17を介して患者呼吸サーキット7からガスが逃れることは不可能である。
【0049】
例えば、電子的に調整可能なスプリング圧縮力はAPL弁17の開口圧力を調整する。もっと正確に言えば、APL弁が開くためには、呼吸サーキット7内の圧力はスプリング圧縮力より大きい力を生成しなければならない。代わりに、APL弁の開口圧力の制御をより改善させるために、周知の吸出弁に類似した圧力調整弁などが、電子APL弁の他のデザインとして提供される。代わりの電子APL弁は、PCT/EP2006/070068に説明されている。
【0050】
いずれにせよ、フレッシュガスの流れ及び呼吸袋の手動圧縮の組み合わせによって圧力が上昇し続けると、APL弁17の開口圧力は越され、余分なガスは排除システムへ排出される。
【0051】
更に、手動入力装置18は触覚フィードバックをプログラムできるようになっており、手動入力を提供する操作部材20と、操作部材20の動きを検出する検出部と、検出された動きによって操作部材20に機械的な出力を加える触覚フィードバック部22とを備える。
【0052】
触覚フィードバック部22は、エネルギ、振動及び/又は動きなどの機械的な出力を操作者に提供し、触覚を介して操作者と接触する麻酔装置のインタフェースを提供する。即ち、触覚フィードバックは、操作者による操作部材20の物理的操作に基づいており、操作部材20が手動に操作されると操作者に物理的なフィードバックを提供する。手動入力出力装置18の実際のフィードバックは、例えば動きの範囲、減衰及び硬さ特性、及び戻り止め(detent)の間隔、数、形などに関してプログラムできる。プログラム可能なフィードバックは、患者の分類などの、麻酔装置1の他の設定に依存し得る。触覚フィードバックは、手動入力出力装置18の位置、活性化力、活力、強度、規模、動作の方向等に関してプログラムできる。
【0053】
詳細には、触覚フィードバック入力装置18の実施形態は、手動に回転されるノブ20を備える。エンコーダ23は、ノブ20の回転角度を検出するように構成されている。モータ22は、シャフト21を介してノブ20にトルクを加えるように構成されている。制御部25は、エンコーダ信号26を介して制御部25に提供されるエンコーダ23によって検出される回転角度αに応じて、制御信号27を用いてモータ22を制御するように構成されている。ノブ20の手動回転は、回転角度αが検出されるシャフト21を介してエンコーダ23に伝えられる。例えば、APL弁17の開口圧力を上げ、患者呼吸サーキット7内の最大圧力を上げるためには、ノブ20は時計回りに回転される。制御部25は、別装置である電子APL弁17の回転角度αに対して作動信号28を出力する。回転ノブ20の現在の調整された回転角度αに応じて、電子APL弁17の開口圧力が調整される。電気モータ22によってシャフト21にトルクがかけられ得る。モータ22のトルクはその強度及びタイミングがプログラムできる。例えば、より高い開口圧力を選択するノブ20の回転方向とは反対方向に、モータ22からノブ20へ徐々に高くなるトルクをかけ得る。こうすると、ノブの抵抗力を徐々に上げていき、操作者に弁が用いる現在の開口圧力の範囲を直接フィードバックすることが可能である。
【0054】
触覚力フィードバック(haptic force feedback)の代わりとして、触覚フィードバックはノブ20の回転方向と同じ方向にトルクをかけ、加速された触覚を提供することも可能であり、又はノブ20の回転角度が所定の回転角度を超えた場合、ノブ20にかかるトルクを逆転させてカチッとする感触(click feeling)を与えることもできる。
【0055】
麻酔装置1の作動モードが機械換気から手動換気に変えられ、APL弁17及び入力部18が活性化されるような操作開始では、回転ノブ20の位置は任意の開始位置に置かれている。しかし、活性化の際のノブ20の位置は重要ではない。ノブ20は両方向に限度なく回転可能であるため、現在の位置が開始位置としてとらえられる。代わりに、希望であれば、所定の設定された位置をノブ20に提供することも可能であり、例えばノブの回転のエンド・ポイントを決め、手動換気モードに変える時、又は手動換気モードから他のモードに変える時にノブ20をそのエンド・ポイントまで回しておく。ノブをこのように開始位置に戻すことは、モータ22を用いて実現され得る。
【0056】
本実施形態では、操作者が感じ取る実際のエンド・ポイントは、モータ22によって提供される触覚フィードバックによって実現される。エンコーダ23はノブ20のこの最初の開始位置に対する相対的な位置を提供し得、又は絶対的な角度位置を提供し得る。APL弁17の最初の開口圧力は、制御部25を用いて信号28を介して調整される。最初の開口圧力は、所定の値にプログラムされ得、又は具体的なユーザの設定で構成され得る。例えば、最初の開口圧力は、手動換気袋13に一定の流れを提供すると同時に、患者呼吸サーキット7内において生じる高圧力によるけがから患者を守るために、10cmHOのように低い範囲に設定され得る。代わりに、ノブを現在の位置から所定の位置に回転させる必要なく、開口圧力を調整するようにしてもよい。APL弁17の最初の開口圧力は、0cmHOに設定し得る。即ち、APL弁は完全に開かれており、患者呼吸サーキット7は換気されている。このような場合、図3に示され、下記に更に説明されるように、ノブは回転位置31にあるように初期設定されている。ある実施形態では、手動入力装置18の最初の開口圧力並びに全ての触覚フィードバックの特性は、麻酔装置1に設定された患者の分類に依存して選択され得る。例えば、新生児の患者は、大人の患者に比べ、低圧力においてもけがをし得る。したがって、新生児の患者の場合は最初の圧力を非常に低く、又はゼロに選択し得るが、大人の患者の場合は最初の開口圧力をもっと高く設定することが可能である。
【0057】
図3、4A及び4Bを参照しながら、手動入力装置18の異なる回転範囲における異なる作動モードの実施形態について詳細に説明する。図示された実施形態では、エンコーダ23によって検出される回転角度は、ノブ20の1回転分の全域に渡る360度である。異なる実施形態では、回転角度の範囲は360度以上または以下の異なる値であり得る。本実施形態のように回転の全域又は異なる回転角度αの範囲は、様々な隣接した区域又は下位範囲(以下範囲と呼ぶ)に更に分割され得る。図3、4A及び4Bでは、R,R,R,R及びRが図示されている。
【0058】
の範囲は、線30のゼロ度であるバーチュアル位置から第1の回転角度α1までである。Rの範囲は第2の回転角度αの線31から第2の回転角度α2までである。Rの範囲は第2の回転角度α2の位置から第3の回転角度α3までである。Rの範囲は第3の回転角度α3の位置から、線32にある第4の回転角度α4までである。Rの範囲は第4の回転角度α4の位置から、ライン30のゼロ度のバーチュアル位置までであり、これでノブ20の1回転が完成する。
【0059】
実施形態において線31は、APL弁17の開口圧力を調整するための開始位置を示すエンド・ラインである。したがって、Rの範囲は手動入力装置18が逆時計周りの回転に対して高い抵抗力を提供し、時計回りの回転に対しては低い抵抗力を提供する範囲を示している。これは図4A及び4Bに図示されている。図4Aは、矢印41で示されているように操作者がノブ20を時計回りに回した際にモータ22からノブ20に加えられるトルクTを示す。図4Bは矢印42で示されているように操作者がノブ20を反対方向の逆時計回りに回した際にモータ22からノブ20に加えられるトルクTを示す。
【0060】
図示されている実施形態のRの範囲は、APL弁17の低い開口圧力の範囲を示している。Rの範囲では、モータ22からアクスル21及びノブにかけられるトルクによって提供されるフィードバックはゼロであり得る。即ち、ノブは両方向に簡単に回転し、摩擦による抵抗力だけがかかる。代わりに、矢印41で示しているようにノブ20を時計回りに回す際に、Rの範囲においては徐々に増えるトルクTをかけることもできる。Rの範囲においてノブ20を矢印42で示された反対方向の逆時計周りに回すときは、異なるトルク、又は加速を加え得る。したがって操作者は、回転ノブ41を逆時計周りに第1の回転角度α1へ向って回すとき、エンド・ポイント31に近付いていることに気づくことになる。
【0061】
図示された実施形態におけるRの範囲は、APL弁17の中間的な開口圧力を示している。Rの範囲では、モータ22からノブ20にかけられるトルクTによって提供される触覚フィードバックは、時計回りの方向では上昇し得、又は図4Aに示されているように一定値にとどまり得る。しかし、ノブは反対方向の逆時計周りには簡単に回転する。従って操作者は、APL弁17の開口圧力の中間的な圧力範囲Rが調整されたことを感じ取る。
【0062】
実施形態のRの範囲はAPL弁17の高い開口圧力の範囲を示している。Rの範囲では、モータ22からノブ20にかけられるトルクTによって提供される触覚フィードバックは、時計回りの方向においては図4Aに示された最大トルク・レベルの「最大」まで上昇し得る。しかし、ノブは反対方向の逆時計回りの方向には簡単に回転する。したがって操作者はAPL弁17の開口圧力の高い圧力範囲Rが調整されたことを感じ取る。
【0063】
の範囲は第4の回転角度α4から、線30のゼロ度であるバーチュアル位置までであり、ノブ20の1回転を完成させる。Rの範囲では、モータ22からノブ20にかけられるトルクTによって提供される、時計回りの回転に対する触覚フィードバックは最大トルク・レベルである「最大」になっている。しかし、ノブは反対方向の逆時計回りの方向42には簡単に回転する。
【0064】
図4に示されているように、R,R,R,R及びRの間の転移点では、デテント(detent)でユーザにフィードバックし、カチッとする感覚を操作者に提供してもよい。そのように触覚フィードバックとして提供されるデテントは、所定の圧力レベルをマークするためにも使用され得る。
【0065】
従って、触覚フィードバックは、R,R,R及びRの各範囲において異なり、ノブ20の作動方向に依存する。
【0066】
図示されている実施形態では、逆時計回りの回転における抵抗力は時計回り方向における抵抗力に比べかなり低いが、図示されていない他の実施形態では、より高い抵抗力を逆時計回りの回転において提供し得る。更に、異なる範囲における触覚プロフィールは両方向において実質的に同じであり、異なる抵抗力のレベルであり得る。例えば、図4Aの「時計回り」曲線40は、T軸と平行するように移動させられ、図4Bに該当する「逆時計回り」曲線を形成し得、ヒステレシスのように閉ざされた触覚フィードバック・プロフィールを形成し得る。これは、触覚の分かりやすさ又は現在の入力装置が作動している範囲の区別しやすさを改善させる。
【0067】
実施形態では、「時計回り」の触覚フィードバックは、「逆時計周り」触覚フィードバックとは有意に異なる。
【0068】
ある実施形態では、下位範囲の数は上記の実施形態に関連する記載及び図面に示されたものとは異なり得る。例えば、1つの範囲又は複数の下位範囲は、特定の患者の分類に対して第1の触覚フィードバック・プロフィールがプログラムされ、異なる患者の分類に対して第2の触覚フィードバック・プロフィールがプログラムされ得る。いくつかの実施形態の触覚フィードバックは、触覚フィードバックを用いて入力装置を振動させることによって緊急状態を知らせることを含み得る。
【0069】
図5は、APL弁17の開口圧力のレベル及び麻酔配達システムの他の作動パラメータを手動に調整するための手動入力装置50の更なる実施形態の概略図である。APL弁17の開口圧力は上記及び図2〜4のように調整できる。手動入力装置50の実施形態はいくつかの自由度を持つ多機能回転ノブとして提供されている。例えば、Oのフラッシュ(flush)を活性化するために、ノブを押下し得る。ミキサ3から患者呼吸サーキット7に供給されるフレッシュガスの量はノブを所定の方向に傾けることで調整され得る。更なる作動パラメータは、ノブを異なる方向に傾けることで調整できる。触覚フィードバックは、いかなる作動パラメータを調整するときにでも提供され得る。例えば、カチッとする感覚、振動、又は上下にくすぐるようなノブの動きを用いて活性化又Oフラッシュ機能の際に触覚フィードバックを提供し得る。代わりに、入力の方向の反対方向に向けられたフィードバックの力を、活性化の時間と共に上昇させ、最初のノブの位置に戻すようにする。
【0070】
代わりに、別個のOフラッシュボタンを、回転ノブに内在された又は埋め込まれたボタンとして提供し得る。この機能は、意図しないOフラッシュを防ぐため、患者の安全を改善する。ユーザによるOフラッシュの活性化を示す触覚フィードバックを用いることによって、安全性はさらに改善され得る。
【0071】
更に、入力装置50には追加的な機能が盛り込まれ得る。例えば、最初に位置からノブを上に持ち上げるときは、圧力逃しなどの機能が活性化され得る。このような場合でも、圧力逃し機能の活性化と同時に触覚フィードバックを提供することが可能である。圧力を逃すことは、APL弁のような圧力を制限する弁の影響が及ばない呼吸装置内の部分において圧力が上昇する際に活性化することが希望され得る。例えば、呼吸装置の呼吸サーキットは、過剰圧力によってロックされ得、手動換気袋の弾力がなくなり、その圧縮ができなくなることがあり得る。これは結果として患者に呼吸のためのガスを供給することを不可能にし得る。このような場合は、患者と呼吸装置とをつなぐチューブをいきなり外すことによって圧力を逃す。そのようにすることによって、呼吸サーキット及び手動換気袋の中のガスが逃れることができ、呼吸装置は正常な作動に戻る。しかし、患者のチューブを外すことによって呼吸サーキットを切断すると、麻酔剤を含み得る呼吸ガスが放出され、操作者はその呼吸ガスにさらされる。
【0072】
ノブを持ち上げて圧力を逃すと、呼吸装置内の問題の個所からの圧力の逃しは、呼吸装置の圧力逃し部によって適切に行われる。ノブを放すと、例えば適切なバネ力または触覚フィードバックなどによって、自然に元の位置に戻り得る。操作者が麻酔を含み得る呼吸ガスにさらされるという望ましくないことは、圧力逃しボタンによって回避でき、逃れたガスは適切な圧力逃し部(例えば、排出ラインに流体接続された圧力弁)によって呼吸装置から制御された方法で排出され得る。
【0073】
入力装置50に複数の機能を終結させることによって、1つの入力装置を用いて複数の機能を行い得、単純な握り方が可能となる。これは、操作者がチューブを外したりすることを不要とし、作業負担が減るため、改善された機能性につながり得るとともに、操作者にとってストレスの少ない状況を可能とするため、患者の安全も改善される。更に、入力装置50は、呼吸装置における限られた面積を取らないため、場所を節約することができる。
【0074】
代わりに、圧力逃し機能は、触覚フィードバックと共に提供される別個の入力装置によって制御され得る。
【0075】
このような背景のAPL弁は、麻酔装置1の手動又は自発換気モード中にのみ使用される。しかし、APL弁は、選択ノブが機械的な換気モードに設定されていても患者呼吸サーキットと通気ができるように連結されているモードにおいても作動できる。この場合にも、手動入力装置は、望ましければ、調整された開口圧力に関する触覚フィードバックを提供し得る。
【0076】
本発明は具体的な実施形態を用いて上記に説明されている。しかし、上記実施形態以外の他の実施形態も、発明の範囲内で可能である。ハードウェア又はソフトウェアを用いて行われる、上記とは異なる方法ステップも、添付の特許請求項で定義された発明の範囲内において提供され得る。実施形態の異なる機能及びステップは、上記とは異なる組み合わせで組み合わせてもよい。
【0077】
本明細書に使用される「含む」及び「備える」は、記載された機能、数字、ステップ、作動、要素及び/又は部品が存在することを意味するが、他の機能、数字、ステップ、作動、要素及び/又は部品が存在すること及び追加されることを排除するものではない。ある要素が他の要素に「つながっている」、「連結されている」又は「結合されている」ことは、直接であってもよく、中間的要素を介してもよい。更に、ワイヤレスでもよい。ここで使用される「及び/又は」は関連する要素の如何なる組み合わせを全て含む。特に別の指定がなければ、全ての用語(技術的及び科学的な用語を含む)は、本発明の属する技術分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を持つ。更に、一般事典に定義されるような用語は、関連する分野における意味と一致する意味に解釈されるべきであり、特に別の定義がない限り理想化又は正式化された意味にされるべきではない。
【0078】
更に、本発明はコンピュータで使用可能な記憶媒体に記憶された、コンピュータで使用可能なプログラムコードを持つコンピュータ・プログラム商品の形をし得る。コンピュータで読み取りができる如何なる媒体が使用され得、例えばハードディスク、CD−ROM,光学式記憶装置、インターネット又はイントラネットを支持するような伝送媒体であり得る。コンピュータ・プログラムはコンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理装置に所定の機能を与えるようにできる、コンピュータで読み取り可能なメモリに保存され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸装置(1)に配される手動入力出力装置(18)であって、前記手動入力出力装置(18)は、前記呼吸装置(1)の作動パラメータであって、患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを手動入力により調整できるよう構成されており、前記患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つの調整において、触覚(haptic)フィードバックを実現するようにプログラムされており、
前記患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つについて、前記手動入力と、手動出力とを提供する操作部(20)と、
前記手動入力の際に前記操作部(20)の動きを検出する検出部と、
前記検出された動きに応じて、前記操作部(20)に対して、機械的な出力である前記手動出力を行うように構成された触覚フィードバック部(22)と、
を備えることを特徴とする、手動入力出力装置(18)。
【請求項2】
操作中の前記操作部(20)の抵抗力は、操作方向によって異なることを特徴とする、請求項1に記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項3】
前記操作部(20)は回転ノブであり、前記機械的な出力は前記回転ノブが操作された場合に前記回転ノブにかけられるトルクであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項4】
前記検出部は電磁気エンコーダであり、前記触覚フィードバック部(22)は電気モータであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項5】
前記触覚フィードバック部(22)は、前記患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つの現在値の範囲に関する情報を、前記操作部(20)に対する前記機械的な出力により操作者に提供するよう構成されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項6】
前記触覚フィードバック部(22)は、異なる範囲に移る際に、特定の触覚フィードバックを提供するように構成されていることを特徴とする、請求項5に記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項7】
前記患者に重大な作動パラメータは、前記呼吸装置(1)の麻酔呼吸サーキット(7)における調節式圧制御弁(17)の開口圧力であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項8】
前記患者に重大な作動パラメータは、呼吸終末陽圧(PEEP)、吸入圧力の上限、1回換気量、ポップ・オフ圧力、フレッシュガスの流れ、酸素(O)濃度、亜酸化窒素(NO)濃度のようなガス濃度、又は麻酔薬の濃度のリストに格納されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項9】
前記手動入力出力装置は、更に前記患者に重大な作動パラメータ以外のパラメータに関しては触覚フィードバックを用いることなく作動するように構成されていることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項10】
前記手動入力出力装置は、位置、活性化力、活力、強度、規模、操作の方向等に関する触覚フィードバックのプロフィールを、前記患者に重大なパラメータの各々に提供することにより前記触覚フィードバックを実現するようにプログラムされていることを特徴とする、請求項1乃至9に記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項11】
前記プログラムされる触覚フィードバックは、異なる患者の分類に応じて調節可能であることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれかに記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項12】
前記手動入力出力装置は、複数の自由度を持つ多機能回転ノブであり、各自由度は前記患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを調整するように構成されており、かつ、前記複数の自由度の少なくとも1つの自由度において前記触覚フィードバックを提供するように構成されていることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれかに記載の手動入力出力装置(18)。
【請求項13】
呼吸装置(1)に手動入力するための手動入力出力装置(18)を用いて、前記呼吸装置(1)における患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを調整する方法であって、
操作部(20)を介して前記患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つが手動入力されると、前記手動入力出力装置(18)の触覚フィードバックを決定する工程と、
検出部が前記操作部(20)の動きを検出する工程と、
前記検出された動きに応じて、触覚フィードバック部(22)が前記操作部(20)に対して機械的な出力を提供することによって、前記操作部(20)を介して前記触覚フィードバックを手動出力として提供する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記触覚フィードバックは、前記手動入力出力装置(18)の操作中の操作方向によって異なることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つは、前記呼吸装置(1)の麻酔呼吸サーキット(7)における調節式圧制御弁(17)の開口圧力、呼吸終末陽圧(PEEP)、吸入圧力の上限、ポップ・オフ圧力、1回換気量、フレッシュガスの流れ、酸素(O)濃度、亜酸化窒素(NO)濃度のようなガス濃度、又は麻酔薬の濃度であることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記操作部(20)は回転ノブであり、前記機械的な出力の提供には前記回転ノブが操作された場合に前記回転ノブにトルクをかけることを含むことを特徴とする、請求項13乃至15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記触覚フィードバックを用いて前記操作部を介して情報を提供する工程を含み、前記情報は、前記機械的な出力により前記操作部(20)に対して提供される、前記作動パラメータの少なくとも1つの現在値の範囲に関する情報であることを特徴とする、請求項13乃至16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
異なる範囲間を通る際に、特定の触覚フィードバックを提供するように構成されていることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
呼吸装置(1)に手動入力するための手動入力出力装置(18)を用いて、前記呼吸装置(1)における患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを調整するための、コンピュータ・プログラムであって、コンピュータによって処理される該コンピュータ・プログラムは、
前記患者に重大な作動パラメータの少なくとも1つを操作部(20)を介する手動入力により調整する際に、前記手動入力出力装置(18)の触覚フィードバックを決定するための第1のコード・セグメントと、
検出部を用いて前記操作部(20)の動きを検出するための第2のコード・セグメントと、
前記検出された動きに応じて、触覚フィードバック部(22)を用いて前記操作部(20)に対して機械的な出力を提供することによって、前記操作部(20)を介して前記触覚フィードバックを手動出力として提供するための第3のコード・セグメントと、
を含むことを特徴とするコンピュータ・プログラム。
【請求項20】
コンピュータによって読み取り可能な媒体に保存されたことを特徴とする、請求項19に記載のコンピュータ・プログラム。
【請求項21】
前記呼吸装置は麻酔システム(1)であることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれかに記載の、調節式圧制御(APL)弁の開口圧力のレベルを調整するための手動入力出力装置(18)の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−521254(P2010−521254A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553924(P2009−553924)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052583
【国際公開番号】WO2008/113410
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(509261902)マクエット クリティカル ケア エービー (1)
【氏名又は名称原語表記】MAQUET CRITICAL CARE AB
【住所又は居所原語表記】Rontgenvagen 2, S−171 95 Solna SWEDEN