説明

咀嚼・嚥下困難者用ゲル化剤

【課題】50〜60℃といったゲル化剤の溶解温度としては比較的低温の液状食品に良好に分散、溶解して液状食品をゲル化させることができ、再加温を行った場合であってもゲル状食品が溶解することなく良好な保形性を保つことのできるゲル化剤を提供する。更には、果汁飲料、牛乳、味噌汁(スープ)や濃厚流動食や牛乳といった、ミネラルや脂肪含有の高い液状食品に添加した場合であっても、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品となる、汎用性の高いゲル化剤を提供する。また、手撹拌のような緩い撹拌条件でもダマになることなく分散し、取り扱いに優れたゲル化剤を提供する。
【解決手段】易溶性寒天及び重量平均分子量が1.5×10g/mol以上のグァーガムを含有し、易溶性寒天に対して前記グァーガムを60〜700質量%含有する。更にキサンタンガム及び/又はネイティブ型ジェランガムを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製するためのゲル化剤に関する。詳細には、50〜60℃といった比較的低温の液状の食品組成物(液状食品)に良好に分散、溶解して液状食品をゲル化させることができ、再加温を行った場合であってもゲル状食品が溶解することなく良好な保形性を保つことのできるゲル化剤に関する。液状食品は水やお茶だけでなく、果汁飲料、味噌汁(スープ)、牛乳、濃厚流動食など、ミネラル、脂肪、及びタンパク質の含有量が高い液状食品を含み、更には、手攪拌のような緩い攪拌条件でもダマになることなく良好に分散し、咀嚼・嚥下用に適したゲル状食品を提供することができるゲル化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者の増加に伴い、食物を噛み砕き飲み込むという一連の動作に障害をもつ、いわゆる咀嚼・嚥下困難者が増加する傾向がある。咀嚼・嚥下困難者向けに種々のゲル化剤が開発されており、近年では、嗜好性(味・外観に与える影響が少ない)や機能性(少ない添加量で効果を発揮する)の面から、増粘多糖類を主剤にしたゲル化剤が好んで使用される。咀嚼・嚥下障害者に適した食品として、1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)に優れること、3)口腔及び咽頭への付着性が小さいこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)などが挙げられ、このようなテクスチャー条件を満たす食品、あるいは既存食品にかかる性質を付与するためのゲル化剤の開発が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゲル化剤及び増粘剤を含むゲル状組成物であって、予め別個に加熱された溶液を混合し、冷却してなることを特徴とするゲル状組成物が記載されている。そして、ゲル化剤として寒天、カラギナン、ファーセルラン、ジェランガム、ゼラチン等が、増粘剤としてグァーガム、キサンタンガム、ネイティブ型ジェランガム等が開示されている。また、特許文献2にはキサンタンガム、グァーガム、アルギン酸塩、カルボキシルメチルセルロース塩及びα化澱粉から選ばれた増粘剤(A)と寒天、カラギナン、ローカストビーンガム、ゼラチン、ペクチン及びカードランから選ばれたゲル化剤(B)を含有してなる食用増粘・ゲル化組成物が記載されている。同様にして特許文献3には寒天、グァーガムを始めとした1種以上の糊料と葛澱粉を含有する咀嚼・嚥下困難者用食品が、特許文献4には嚥下補助飲料に用いる糊料として、寒天、グァーガム等の糊料が開示されている。
【0004】
一方、特許文献5、6には溶解温度が通常の寒天よりも低い易溶性寒天を用いた組成物として、インスタントゼリーミックスや、嚥下困難者用ゼリーが開示されているが、特許文献5、6には易溶性寒天に対して特定の配合量、特定の分子特性のグァーガムを用いることについて一切記載されていない。
【0005】
以上のように、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製する目的で、従来からゲル化剤として寒天が用いられている。しかし、寒天を用いてゲル状食品を調製する場合は、寒天を液状食品に溶解するために通常90℃以上といった高温での加熱が必要であり、更には、プロペラ撹拌機等による機械的な混合を必要とする。しかし、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製するためのゲル化剤は、患者やその看護者が障害の程度や患者のその日の体調に合わせてベットサイドや家庭の台所で用いられる場合がある。ポットのお湯のような比較的低温の温度条件、更には、手撹拌のような緩い撹拌条件でも良好に溶解するという性質が求められるため、寒天が必ずしも万能なわけではない。更に、寒天は脆い食感のゲルを形成し、一度破砕したゲルは再結着しにくいといった問題を有し、一方で、脆さを低減するために低濃度で使用すると離水が多くなるという問題があるなど、寒天単独では咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性を付与することは難しい。
【0006】
また、寒天として易溶性寒天を用いた場合、通常の寒天に比べて溶解性は改善できるが、食感や離水はほとんど変わらず、単独では咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性を付与することは難しい。易溶性寒天に、例えばローカストビーンガムやゼラチンを併用することにより、食感や離水をある程度改善することができる。しかし、ローカストビーンガムを併用する場合は、ローカストビーンガムを溶解させるために80〜90℃以上といった高温での加熱が必要であり、また、ゼラチンを併用する場合は、再加温したときにゲル状食品の食感や力学的特性が大きく変化するという問題がある。
【0007】
更に、従来の咀嚼・嚥下困難者用のゲル化剤組成物は水やお茶等の液状食品をゲル化させて食することを主としており、果汁飲料、味噌汁(スープ)、牛乳、濃厚流動食など、低pHの液状食品、ミネラル、脂肪、及びタンパク質の含有量が高い液状食品まで含めた汎用性の改善が求められている。また、例えば味噌汁など、本来温かい状態で喫食される食品では、再加温しても咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性を維持することができるゲル化剤が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−300854号公報
【特許文献2】特開2001−346527号公報
【特許文献3】特開2005−253347号公報
【特許文献4】特開平11−124342号公報
【特許文献5】特開平03−262446号公報
【特許文献6】特開2005−245308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、50〜60℃といったゲル化剤の溶解温度としては比較的低温の液状食品に良好に分散、溶解して液状食品をゲル化させることができ、再加温を行った場合であってもゲル状食品が溶解することなく良好な保形性を保つことのできるゲル化剤を提供することを目的とする。そして、水やお茶だけでなく、果汁飲料、味噌汁(スープ)、牛乳、濃厚流動食など、低pHの液状食品やミネラル、脂肪、及びタンパク質の含有量が高い液状食品にも適応可能なゲル化剤であって、更には、手攪拌のような緩い攪拌条件でもダマになることなく良好に分散し、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を提供することができるゲル化剤を提供することを目的とする。更には、咀嚼・嚥下困難者自身だけでなく、その看護者の利便性も改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、ゲル化剤として易溶性寒天及び重量平均分子量が1.5×10g/mol以上のグァーガムを含み、前記易溶性寒天に対して、前記グァーガムの含有量を60〜700質量%とすることにより、50〜60℃といったゲル化剤の溶解温度としては比較的低温の液状食品でも良好に分散、溶解して液状食品をゲル化させることができ、再加温を行った場合であってもゲル状食品が溶解することなく良好な保形性を保つことができることを見出して本発明に至った。更に、本発明者らは、上記寒天及びグァーガムに加え、キサンタンガムを含有することにより、寒天に由来する食感的な脆さが解消され、より適度な弾力性が付与されること、及びネイティブ型ジェランガムを含有することによりゲル化時間が短縮され、より短時間で咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を提供できることを見出して本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下の態様を有する咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製するためのゲル化剤に関する;
項1.咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製するためのゲル化剤であって、易溶性寒天及び重量平均分子量が1.5×10g/mol以上のグァーガムを含み、前記易溶性寒天に対して、前記グァーガムの含有量が60〜700質量%であることを特徴とするゲル化剤。
項2.更に、キサンタンガム及び/又はネイティブ型ジェランガムを含む、項1に記載のゲル化剤。
項3.更に、デキストリン、澱粉及び糖類から選択される少なくとも1種のバインダーを含む項1又は2に記載のゲル化剤。
項4.造粒されていることを特徴とする項1〜3のいずれかに記載のゲル化剤。
【0012】
更に、本発明は以下の態様を有する咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品に関する;
項5.液状食品に、項1〜4のいずれかに記載のゲル化剤を添加することにより調製された、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品。
項6.液状食品が、下記(1)〜(4)のうち少なくとも1種の条件を満たすものである、項5に記載の咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品;
(1)pHが2〜5の範囲である。
(2)ミネラル分の含有量が液状食品全量に対して0.01〜10質量%である。
(3)脂肪分の含有量が液状食品全量に対して0.1〜50質量%である。
(4)タンパク質の含有量が液状食品全量に対して0.1〜20質量%である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゲル化剤を使用することにより、ゲル化剤の溶解温度としては比較的低温である50〜60℃の液状食品でも良好に分散・溶解し、室温で静置して冷却するのみで、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を調製できる。更に、本発明により、再加温した場合であっても、ゲル状食品が溶解することなく良好な保形性を保つことができるため、味噌汁(スープ)など温かい状態のままで提供できる。また本発明のゲル化剤は、一般的に増粘させたり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性に調整することが難しいとされる低pHの液状食品や、食塩などのミネラル、脂肪、及びタンパク質の含有量が高い液状食品にも適応できる。
【0014】
また、本発明のゲル化剤は、手撹拌のような緩い撹拌でもダマになることなく、液状食品に良好に分散、溶解させることができ、品質が安定したゲル状食品を調製できる。更に、ゲル化時間を短縮することができるため、ベットサイドや家庭で、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を短時間で簡単に調製できる。しかも本発明のゲル化剤は添加量を調節することにより、障害の程度や体調に合わせてゲルの物性を調整できる。係る点からしても本発明のゲル化剤は、いわゆる即席ゲル化剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のゲル化剤は、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製するためのゲル化剤であって、易溶性寒天及び重量平均分子量が1.5×10g/mol以上のグァーガムを含み、前記易溶性寒天に対して、前記グァーガムの含有量が60〜700質量%であることを特徴とする。
【0016】
本発明でいう咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品とは、食物を噛み砕き飲み込むという一連の動作に障害をもつ、いわゆる咀嚼・嚥下困難者向けに調製されるゲル状食品をいう。なお、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品に適した物性として、1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)に優れること、3)口腔及び咽頭への付着性が小さいこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)などが挙げられる。そして、本発明のゲル化剤を用いることにより、上記の要件を満たす咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を調製することが可能となった。また、本発明のゲル化剤は、高温での加熱溶解を必要とせず、50〜60℃といったゲル化剤の溶解温度としては比較的低温の液状食品に添加しても分散・溶解し、室温で静置して冷却するのみゲル化させることができるため、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を簡便、なおかつ短時間で調製することが可能となった。係る点において、本発明のゲル化剤はいわゆる即席ゲル化剤として有用性が高い。
【0017】
本発明のゲル化剤で用いる易溶性寒天とは、次に掲げる性質をもつ寒天をいう。
(A)溶解率が60〜100%、好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%である。なお、本発明における溶解率とは、寒天1%を90℃の水に溶解してゲルを調製したときのゲル強度に対し、寒天1%を50℃の水に溶解してゲルを調製したときのゲル強度の相対値を示し、溶解率(%)=ゲル強度(50℃溶解)/ゲル強度(90℃溶解)×100によって求められる(以下、本発明では、本計算式によって求められる数値を「溶解率」という)。また、本発明で用いる易溶性寒天は、通常の寒天と同じくガラクトースを主成分とする海藻由来の中性多糖類で、D−ガラクトースと3,6−アンヒドロ−L−ガラクトースの繰り返し単位をもつ。
【0018】
一方、従来の寒天は50℃における溶解率は0%であり、係る寒天を用いてゲル状食品を調製する場合は、90〜100℃といった高温での加熱溶解を必要とするため、調製時にお湯で火傷する恐れがあるなど、特に高齢者等にとって使用しづらいという問題点があった。更に、寒天は脆い食感のゲルを形成し、一度破砕したゲルは再結着しにくいという性質を有し、一方で脆さを低減するために低濃度で使用すると離水が多くなるという問題があり、寒天単独では咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性を付与することは困難であった。
【0019】
本発明では、易溶性寒天と併用して、重量平均分子量が1.5×10g/mol以上、好ましくは1.5×10〜3.5×10g/molであるグァーガムを用いることを特徴とする。ここで、グァーガムは、β−1,4−D−マンナンの主鎖骨格に側鎖としてα−D−ガラクトースが1,6結合した、マメ科植物由来の中性多糖類であり、食品産業界では増粘剤として、ソース類、麺類、アイスクリーム類等に使用されている。グァーガム中のマンノースとガラクトースの比率は約2:1で、工業的に生産されている他のガラクトマンナン類(タラガム、ローカストビーンガム)に比べて側鎖基含量が高く、水への溶解性も高い。なお、グァーガムには精製タイプ、未精製タイプのいずれもが適応可能である。
【0020】
そして本発明は、グァーガムの中でも特に、重量平均分子量が1.5×10g/mol以上といった、上記特定分子量を有するグァーガムと易溶性寒天を併用することにより、下記効果を奏することを見出して至った発明である。そして本発明のゲル化剤において、グァーガムは寒天のゲル構造を補強(分子的な相互作用を含む)し、寒天に由来する食感的なもろさを解消して、適度な粘弾性を付与し、更に保水性を高めるという効果がある。また、寒天のゲル化温度を上昇させるという効果があり、ゲル形成に要する時間を短縮する。寒天及びグァーガムとも酸性あるいは塩基性の官能基を含まず、従って、ミネラル、脂肪、タンパク質などの共存物質によらず、安定して、同等の食感及び力学的性質を有するゲル状食品を調製することができる。なお、本発明において上記重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー−多角度光散乱法にて求めた。上述の特定重量平均分子量を有するグァーガムは商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のビストップ[商標]D−2029を挙げることができる。
【0021】
なお、本発明のゲル化剤は、易溶性寒天に対し、重量平均分子量が1.5×10g/mol以上であるグァーガムを60〜700質量%、より好ましくは80〜500質量%、更に好ましくは100〜300質量%含有することを特徴とする。易溶性寒天とグァーガムを上記特定量で配合することにより、50〜60℃といった飲食に適した温度に直接溶解することが可能であり、その後、特別な冷却工程を経ることなく、室温で静置して冷却するのみで、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を簡便に調製することができる。更に、本発明のゲル化剤は、いったんゲル状食品を調製した後に、60℃程度まで再加温してもゲル状食品が溶解することなく良好な保形性を有し、更には咀嚼・嚥下困難者用ゲル状組成物として適した物性を維持することができるため、例えばゲル状味噌汁など、温かい状態で喫食することのできる咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を提供できる。また、事前にゲル状食品を調製しておき、喫食する際に加熱して即座に温かい咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を提供することもできる。
【0022】
本発明のゲル化剤は、更に、キサンタンガム及び/又はネイティブ型ジェランガムを含むことが好ましい。ここで、キサンタンガムとは、Xanthomonas campesrtisが産生する発酵多糖類である。キサンタンガムは、β−1,4−D−グルカンを主鎖骨格とし、主鎖中のグルコース1分子おきにα−D−マンノース、β−D−グルクロン酸、β−D−マンノースからなる側鎖が結合した酸性多糖類であり、主鎖に結合したマンノースはC6位がアセチル化され、末端のマンノースはピルビン酸とアセタール結合している場合がある。本発明では、アセチル基含量が通常よりも低いあるいはアセチル基を含まないキサンタンガム、及びピルビン酸含量が通常よりも低いあるいはピルビン酸を含まないキサンタンガムも使用することができる。易溶性寒天とグァーガムに加え、キサンタンガムを含有することにより、ゲル化剤を用いて調製したゲル状食品の食感及び力学的性質を改良することができる。具体的には、寒天に由来する食感的な脆さを解消し、適度な粘弾性を付与する。寒天のゲル構造を補強する効果は小さく、むしろグァーガムとの分子的相互作用により、粘性を増加させる効果がある。なお、上述のキサンタンガムは商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のビストップ[商標]D−3000−C(キサンタンガム標準タイプ)を挙げることができる。
【0023】
本発明のゲル化剤におけるキサンタンガムの添加量は、適用する液状食品や必要とされる物性によって適宜調節することが可能であるが、具体的には、前記易溶性寒天とグァーガムの合計量に対して1〜200質量%、好ましくは5〜100質量%、更に好ましくは20〜80質量%含むことが好ましい。
【0024】
一方、ネイティブ型ジェランガム(高アシル型ジェランガム)とは、Sphingomonas elodeaが産生する発酵多糖類である。1−3結合したグルコース、1−4結合したグルクロン酸、1−4結合したグルコース及び1−4結合したラムノースの4分子を構成単位とする直鎖状の酸性多糖類であり、1−3結合したグルコースに1構成単位当たりグリセリル基1残基とアセチル基が平均1/2残基結合している。ネイティブ型ジェランガムを含有させることにより、本発明のゲル化剤を用いてゲル状食品を調製した際のゲル化時間を短縮することができる。具体的には、1−3結合したグルコース残基に結合したグリセリル基がヘリックス構造の形成に寄与するため、高い温度でゲル化する効果がある。なお、上述のネイティブ型ジェランガムは商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のケルコゲルHTを挙げることができる。
【0025】
ネイティブ型ジェランガムの添加量は、適用する液状食品や必要とされる物性によって適宜調節することが可能であるが、具体的には、前記易溶性寒天とグァーガムの合計量に対して1〜200質量%、好ましくは5〜100質量%、更に好ましくは10〜50質量%含むことが好ましい。
【0026】
上記易溶性寒天と特定重量平均分子量のグァーガムを含有したゲル化剤の調製方法としては、最終的にゲル化剤に易溶性寒天とグァーガムが含有されていれば特に限定されず各種方法を用いることができ、またゲル化剤の形態も特に限定されず、液状、半固体状、固体状、粉末状など各種形態をとることができる。なお、ゲル化剤の調製方法の具体例としては、(1)リボンミキサーやVブレンダーを用いて粉体で混合する方法、(2)水中で加熱することによって溶解、均一分散させ液状とする方法、(3)別々に溶液を調製し、使用時に混合する方法、(4)混合溶液にアルコールなどの貧溶媒を加えて、寒天とグァーガムを共沈処理(コプロセス処理)する方法、(5)混合溶液をスプレードライ等により分散粉末化する方法、(6)粉体で混合し、プレス機で圧縮することにより打錠し、錠剤状にする方法、及び(7)粉体で混合し、造粒、顆粒化して使用する方法等などが挙げられ、中でも(7)に係る方法を用いて調製することが好ましい。
【0027】
なお、前記ゲル化剤は、バインダー(倍散剤)を含むことにより、液状食品への分散性、溶解性を向上させることができ、このようなバインダーとして、デキストリン、澱粉及び糖類から選択される少なくとも1種以上のバインダーを添加することができる。具体的には、デキストリン類として、デキストリン、アミロデキストリン、エリトロデキストリン、アクロデキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、澱粉類として、トウモロコシ、モチトウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、小麦、米、餅米、タピオカ、サゴヤシ等由来の生澱粉や、当該澱粉に物理的又は、化学的処理を施した加工澱粉(酸分解澱粉、酸化澱粉、α化澱粉、グラフト化澱粉、カルボキシメチル基、ヒドロキシアルキル基等を導入したエーテル化澱粉、アセチル基等を導入したエステル化澱粉、澱粉の2カ所以上の水酸基を官能基を介して結合させた架橋澱粉、オクテニルコハク酸基のような疎水基を導入した乳化性澱粉、湿熱・乾熱処理澱粉等)が挙げられる。糖類としては、ショ糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、澱粉糖化物、還元澱粉水飴、トレハロース等が挙げられる。中でも、DEが1〜50程度のデキストリンを好適に使用することができる。そして、前述のバインダーを、粉体混合等の混合によってゲル化剤に含有させることにより、ゲル化剤の液状食品への分散性、溶解性を向上させることができる。
【0028】
なお、バインダーの配合割合については用いるゲル化剤の種類や形態によって適宜調節することが可能であるが、易溶性寒天及びグァーガム、必要に応じてキサンタンガム及び/又はネイティブ型ジェランガムの合計量に対して、10〜1000質量%、好ましくは50〜900質量%、更に好ましくは100〜400質量%添加することができる。
【0029】
なお、粉末の形態にて本発明のゲル化剤を用いる場合は、液状食品への分散性、溶解性の観点より、ゲル化剤は造粒(顆粒化)されていることが好ましい。造粒することにより、液状食品への分散性、溶解性が一段と向上し、例えば手攪拌のような緩い攪拌条件でもダマを生じることなくゲル化剤を溶解させることができる。つまり、高齢者や介護者が簡便に取り扱うことができるようになり、また該ゲル化剤を用いて調製されたゲル状食品の物性も安定したものとなる。造粒は常法にて行うことができ、例えば、回転式滴下型造粒装置、流動層造粒装置、転動造粒装置等の公知の装置によって造粒する方法などが挙げられる。中でも、流動層造粒装置によって造粒する方法が好ましい。なお、造粒する際のバインダー(倍散剤)としては特に限定されず、前述のバインダーを用いることができる。
【0030】
本発明のゲル化剤を液状食品に添加することにより、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性を持つゲル状食品を調製することができるが、ゲル化させる液状食品としては特に限定されず、水分を有し、流動性のある各種液状食品を用いることができる。液状食品の具体例として、水、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料、ドリンクヨーグルト、果汁入り清涼飲料、オレンジジュース等の果汁飲料、菜汁飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ココア飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、イオン飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、赤ワイン等の果実酒、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープ等の各種スープ、味噌汁、清汁、シチュウ、カレー、グラタンなどの液状の最終食品や、蛋白質・リン・カリウム調整食品、塩分調整食品、油脂調整食品、整腸作用食品、カルシウム・鉄・ビタミン強化食品、低アレルギー食品、濃厚流動食、ミキサー食、及びキザミ食等の特殊食品や治療食の液状食品(ペースト状食品も含む)、醤油、ソース、ドレッシング等の液状調味料等を挙げることができ、これらの液状食品に直接、本発明のゲル化剤を添加してゲル状食品を調製することができる。あるいは、本発明のゲル化剤に粉末状の調味料や色素、香料を混合し、更にそれを造粒(顆粒化)して用いることもできる。この場合、一定量のお湯に上記粉末混合物あるいは顆粒を添加して、分散・溶解後、冷却してゲル状食品を調製することができる。
【0031】
本発明のゲル化剤は、上述のとおり、種々の液状食品に適用することが可能であるが、特に低pHの液状食品や、ミネラル、脂肪、及びタンパク質を含有量が高い液状食品など、安定的にゲルを形成しにくい液状食品に用いた場合であっても、他のゲル化剤に比べて優れた適性を示す。安定的にゲルを形成しにくい液状食品としては、下記(1)〜(4)のうち少なくとも1種の条件を満たす液状食品を挙げることができる。
【0032】
(1)pHが2〜5の範囲である液状食品
これら液状食品(ペースト状食品を含む)の一例として、オレンジジュース等の果汁飲料、清涼飲料、酸性乳飲料、ドリンクヨーグルト、酸性濃厚流動食などを挙げることができる。
【0033】
(2)ミネラルの含有量が0.01〜10質量%である液状食品
ミネラルとしては、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、鉄、銅、クロム、モリブデン、マンガン、亜鉛、リン、セレニウム、リチウム、パナジウム、コバルト、ニッケル、ホウ素、ゲルマニウム、臭素、ヨウ素などが含まれる。これら一定量のミネラルを含有する液状食品(ペースト状食品を含む)の一例として、食塩水、味噌汁、スープ、醤油、ソース、ドレッシング、イオン飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、濃厚流動食などを挙げることができる。
【0034】
(3)脂肪の含有量が0.1〜50質量%である液状食品
これら液状食品(ペースト状食品を含む)の一例として、牛乳等の乳飲料、乳酸菌飲料、ミルク入りコーヒー、ミルク入り茶類、ミルクココア、ミルクセーキ、酸乳入り飲料、フルーツ牛乳、濃厚流動食などを挙げることができる。
【0035】
(4)タンパク質の含有量が0.1〜20質量%である液状食品
これら液状食品(ペースト状食品を含む)の一例として、濃厚流動食や豆乳等の植物性タンパク含有飲料、プロテイン飲料等の栄養ドリンクなどを挙げることができる。
【0036】
更に、本発明のゲル化剤は、前記(1)〜(4)の条件を複合的に満たす液状食品(ペースト状食品を含む)にも好適に使用できる。このような液状食品の一例として、ドリンクヨーグルト、スープ、濃厚流動食などを挙げることができる。
【0037】
また、本発明のゲル化剤を用いて調製したゲル状の濃厚流動食は、液状の濃厚流動食を経管的に経胃・経腸投与する場合に比べ、胃食道逆流が少ない、瘻孔からの液漏れが少ない、投与時間を短縮することができるなどの特長がある。また、付着性が低いため、チューブ内での流動性がよく、チューブ内残渣が少ないため、物性及び衛生性の両面から経腸・経管投与用の濃厚流動食として優れている。
【0038】
ここで濃厚流動食とは、カロリー値が1 kcal/mL以上であり、栄養成分は少なくとも、タンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなどを含み、下痢などの副作用を最小限に抑え、ヒトの生体浸透圧よりも高く、細いチューブでも通過する流動性を有し、風味が良好で、数ヶ月常温で保存可能な乳化安定性を有するものを挙げることができる。
【0039】
本発明のゲル化剤を用いることにより、上記のような安定的にゲルを形成しにくいような液状食品であっても、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を簡便に調製することができる。ゲル状食品に対するゲル化剤の添加量としては、ゲル状の対象とする液状食品の種類や、必要とされるゲル強度(かたさ)等によっても適宜調節することが可能であるが、具体的には、易溶性寒天とグァーガムが前述の配合割合であって、ゲル状食品に対し易溶性寒天が0.05〜0.9質量%、好ましくは0.05〜0.8質量%、更に好ましくは0.05〜0.7質量%、ゲル状食品に対しグァーガムが0.03〜3.0質量%、好ましくは0.035〜2.0質量%、更に好ましくは0.04〜1.5質量%となるように添加することができる。
【0040】
なお、本発明に係るゲル化剤を用いることで、50〜60℃といったゲル化剤の溶解温度としては比較的低温でゲル状食品を調製することが可能であるが、ゲル状食品を調製する際の温度は特にこれに限定されず、必要に応じて60℃より高い温度での加熱溶解工程を経て咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を調製することもできる。また、本発明では特に冷却装置を用いることなく、室温静置で冷却することによりゲル状食品を調製することができるため、ベットサイドや家庭の台所で簡便に咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製することができる。
【0041】
咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品に適した物性として、前述のとおり、1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)に優れること、3)口腔及び咽頭への付着性が小さいこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)などが挙げられる。また、ゲル状食品のゲル強度としては、20℃におけるゲル強度が5×10〜5×10N/m、好ましくは5×10〜5×10N/m、更に好ましくは5×10〜1×10N/mであることが挙げられる。この場合、ゲル強度とは、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」のかたさの測定方法で測定したときの圧縮応力をいう。なお、本発明においてゲル強度の測定は、テクスチャーアナライザー(TA−XT2i,Stable Micro Systems社)を用い、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。本発明のゲル化剤は、低pHの液状食品や、ミネラル、脂肪、及びタンパク質の含有量が高い液状食品など、安定的にゲルを形成しにくい液状食品においても良好に分散、溶解し、ゲル化を形成するため、品質の安定化が図れる。
【0042】
本発明のゲル化剤には、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限度で、カラギナン(カッパ、イオタ、ラムダ、あるいはそれらのハイブリッド型など共重合物)、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、ガラクトマンナン(フェヌグリークガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、タマリンドシードガム(ガラクトース側鎖を除去したものも含む)、カシアガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、大豆多糖類、ペクチン(ローメトキシル型、ハイメトキシル型、ローメトキシアミド型、シュガービード由来のペクチンなど)、アラビアガム、ガティガム、トラガントガム、カラヤガム、脱アシル型ジェランガム、プルラン、カードラン、マクロホモプシスガム、ゼラチン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、水溶性ヘミセルロース、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)、デキストリンなどから選ばれる1種又は2種以上のゲル化剤、増粘剤等を併用することができる。
【0043】
また、本発明のゲル化剤には、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)、レシチン、ステアロイル乳酸塩(ナトリウムもしくはカルシウム)、ユッカ抽出物等の乳化剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、フィチン酸等の有機酸、無機酸やその塩類を添加することができる。更には、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール等の糖アルコール類、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリン等の高甘味度甘味料類、カテキン、カルニチン、グルコサミン、コンドロイチン、イソフラボン、リグナン、プロポリス、コラーゲン等の機能性素材等を添加することができる。更に、天然香料、合成香料等の香料類、カラメル色素等の着色料、調味料を添加することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「質量部」、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0045】
実験例1 ゲル化剤の調製
表1に示す処方に従って実施例1〜3及び比較例1〜5のゲル化剤を調製した。詳細には、表1に示す各種粉末原料を混合し、流動層造粒機を用い、粉体混合物500gに対してバインダー液として脱イオン水250gを噴霧して造粒し、各種ゲル化剤(顆粒品)を調製した。また、比較例6として、キサンタンガムとローカストビーンガムを含有した市販品を用いた。
【0046】
【表1】

【0047】
注1)50℃における溶解率が98%である寒天を用いた。
注2)50℃における溶解率が0%である寒天を用いた。
注3)サイズ排除クロマトグラフィー−多角度光散乱法から求めた重量平均分子量注5)が約2.0×10g/molであるグァーガムを用いた。
注4)サイズ排除クロマトグラフィー−多角度光散乱法から求めた重量平均分子量が約0.5×10g/molであるグァーガムを用いた。
【0048】
注5)グァーガムの重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーと連結した多角度光散乱法(SEC−MALLS)により決定した。詳細には、サイズ排除クロマトグラフィー用カラムとして排除体積2,000万DaのOHpak SB−806M HQを、移動相として0.05M 硝酸ナトリウム/0.02% アジ化ナトリウムを使用し、流速0.5mL/minで分画を行った。次に、静的光散乱測定装置DAWN−DSPにより、分画した試料の散乱強度(散乱角26−132度)を、温度25℃、波長633nmで測定した。また、RI検出器(Shodex RI−101)により、各画分のグァーガム濃度を測定した。測定試料のグァーガム濃度は0.01%(w/v)とし、ポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターでろ過した後、測定に供した。各画分において、散乱強度と散乱角の関係をZimm Plotし、重量平均分子量を算出した。
【0049】
実験例2 ゲル状食品の調製1
実験例1の各ゲル化剤(顆粒品)(実施例1〜3、及び比較例1〜5)を用いてゲル状食品を調製し、食感及び物性を検討した。詳細には、60℃に調整したイオン交換水を200mlビーカーに100ml量りとり、スパーテルで撹拌しながら、各ゲル化剤(実施例1〜3、及び比較例1〜5)を2.5g添加した。ただし、キサンタンガム及びローカストビーンガムを含有した市販品である比較例6のゲル化剤は、実施例1〜3と同程度のゲル強度を示すゲル状食品とするため、その添加量を1.2gとした。スパーテルで30秒間撹拌(約4回転/秒)した後、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に充填し、20℃で2時間冷却してゲル状食品(実施例1−a〜3−a、及び比較例1−a〜6−a)を調製した。調製したゲル状食品について、1)かたさ(ゲル強度)を測定し、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)、3)口腔及び咽頭への付着性、及び4)保水性を評価した。また、ゲル化剤(顆粒品)を溶解した際の5)ダマの発生、6)溶解性について評価した。かたさ(ゲル強度)の測定は、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」の測定法に準じ、テクスチャーアナライザーを用いて、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。
【0050】
結果を表2に示す。各項目の評価基準は以下の通りである。
1)かたさ(ゲル強度の実測値)
2)食塊形成性(5:非常に良い、4:良い、3:やや良い、2:やや悪い、1:悪い)
3)付着性(5:非常に良い(付着性が非常に小さい)、4:良い(小さい)、3:やや良い(やや小さい)、2:やや悪い(やや大きい)、1:悪い(大きい))
4)保水性(5:離水が非常に少ない、4:少ない、3:やや少ない、2:やや多い、1:多い)
5)ダマの発生(5:非常に少ない、4:少ない、3:やや少ない、2:やや多い、1:多い)
6)溶解性(5:非常に良い、4:良い、3:やや良い、2:やや悪い、1:悪い)
【0051】
【表2】

【0052】
実施例1のゲル化剤(易溶性寒天及びグァーガム:重量平均分子量約2×10g/molを含有)を用いて調製したゲル状食品(実施例1−a)は、適度なかたさと食塊形成性を有し、付着性が小さく、更に離水の少ないものであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。易溶性寒天、重量平均分子量が約2.0×10g/molのグァーガムに加え、キサンタンガムを含有した実施例2のゲル化剤を用いて調製したゲル状食品(実施例2−a)は、実施例1−aと同様の食感、物性であったが、実施例1−aよりも粘弾性があり、更に食塊形成性に優れていた。一方、易溶性寒天、重量平均分子量が約2.0×10g/molのグァーガムに加え、ネイティブ型ジェランガムを含有した実施例3のゲル化剤を用いて調製したゲル状食品(実施例3−a)は、実施例1−aと同様の食感、物性であったが、実施例1−aよりもわずかに付着性が強かった。しかし、全体としては咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。また、実施例1−aより高温でゲルが形成されるため、ゲル調製に要する時間を短縮することができた。なお、実施例1−a〜3−aのいずれのゲル状食品も、かたさ(ゲル強度)は、「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準(上記「高齢者用食品」の測定法による測定値が10,000N/m以下)を満足した。
【0053】
一方、通常の寒天を用いて調製した比較例1のゲル化剤(通常の寒天及びグァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/molを含有)は、60℃では溶解せず、ゲルを形成せず、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品自体を調製することができなかった(比較例1−a)。また、易溶性寒天を用いたものの、重量平均分子量が約0.5×10g/molである、低分子量のグァーガムを含有した比較例2のゲル化剤を用いて調製したゲル状食品(比較例2−a)は、凝集物を含む、不均一で弱いゲルであり、離水も多く、咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。更には、比較例3のゲル化剤(易溶性寒天及びグァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/molを含有)を用いて調製したゲル状食品(比較例3−a)は、易溶性寒天及び重量平均分子量が1.5×10g/molであるグァーガムを用いたものの、グァーガムの添加量が寒天に対して60質量%より少なく、もろい食感で、食塊形成性が悪く、咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。更には、比較例3−aのゲル状食品のかたさ(ゲル強度)は、「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準を満足しなかった。同様にして、易溶性寒天及び重量平均分子量が1.5×10g/molであるグァーガムを用いたものの、グァーガムの添加量が寒天に対して700質量%より多い比較例4のゲル化剤を用いて調製したゲル状食品(比較例4−a)は、付着性が大きく、重い食感であり、咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。
【0054】
一方、嚥下・介護食の基材として従来から用いられてきたゼラチンを含有した比較例5のゲル化剤を用いて調製したゲル状食品(比較例5−a)は、20℃、2時間の冷却では十分にゲルを形成せず、かたさの測定で明確な破断点がみられず、ゲルを形成させるためには更に低温(例えば5℃)で長時間(例えば、24時間)の静置が必要であった。同様にして、キサンタンガムとローカストビーンガムを含有する、従来の市販の介護食用ゲル化剤である比較例6のゲル化剤を用いて調製したゲル状食品(比較例6−a)は、60℃で完全に溶解せず、溶け残りを生じ、付着性が大きく、離水もみられ、咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。
【0055】
以上より、50〜60℃といったゲル化剤の溶解温度としては比較的低温の液状食品に良好に分散、溶解し、適度なかたさと食塊形成性を有し、付着性が小さく、更に離水の少ない、咀嚼・嚥下困難者用の喫食に適したゲル状食品を調製するためには、易溶性寒天(50℃における溶解率が60〜100%)及び重量平均分子量が1.5×10g/mol以上のグァーガムの併用が必須であることが分かった。上記易溶性寒天及び特定分子量のグァーガムに加え、更にキサンタンガムを添加することにより、食塊形成性及び温度安定性(再加温したときの食感及び物性の変化を抑制する作用:後記実験例8)を改善することができ、また、ネイティブ型ジェランガムを添加することにより、ゲル状食品がゲル形成に要する時間を短縮することが可能となった。ただし、上記易溶性寒天と特定分子量のグァーガムを用いた場合であっても、易溶性寒天が過剰になるとゲル状食品の食感が脆くなり、食塊形成性が低下してしまった。また、グァーガムが過剰になった場合も、調製されたゲル状食品は食感が重く、付着性が大きくなり、いずれも咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さないゲル状食品となってしまった。一方、50℃における溶解率が60%未満の通常の寒天をゲル化剤として用いた場合は、重量平均分子量が1.5×10g/mol以上のグァーガムと併用した場合であっても、60℃程度の溶解ではゲルの形成が不十分となってしまった。また、易溶性寒天とグァーガムを用いた場合であっても、グァーガムの重量平均分子量が1.5×10g/mol未満のグァーガムを用いた場合は、均一なゲルとならず、いずれも本発明のゲル化剤の基材として適さなかった。
【0056】
また、現在、嚥下・介護食の基材としてゼラチンが汎用されているが、ゼラチンを用いて咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製する場合は、ゲルを形成させるために長時間(例えば24時間)の冷蔵保存(静置)が必要である。また、市販の介護食用ゲル化剤はキサンタンガムとローカストビーンガムを主剤とする場合が多いが、ゲルの調製には80〜90℃以上の高温加熱が必要である。しかし、咀嚼・嚥下困難者に供する食品を調製するためのゲル化剤は、設備の整った調理施設だけでなく、患者やその介護者がベットサイドや家庭の台所で用いることがある。従って、60℃程度の温度で溶解し、室温でゲルを調製できる本発明のゲル化剤は、咀嚼・嚥下困難者のQOLの向上に貢献するだけでなく、食事を調製する介護者にとっての利便性にも優れる。
【0057】
実験例3 ゲル状食品の調製2
溶解温度がゲル状食品の食感及び物性に及ぼす影響について検討するため、実験例1の各ゲル化剤(顆粒品)(実施例1及び比較例1、2、6)を用いてゲル状食品を調製した。詳細には、60℃あるいは80℃に調整したイオン交換水を200mlビーカーに100ml量りとり、スパーテルで撹拌しながら、実験例1で調製した各ゲル化剤(実施例1及び比較例1、2)を2.5gずつ添加した。ただし、比較例6のゲル化剤のみ添加量は1.2gとした。スパーテルで30秒間撹拌(約4回転/秒)したのち、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に充填し、20℃で2時間冷却し、ゲル状食品(実施例1−b〜c及び比較例1−b〜c、比較例2−b〜c、及び比較例6−b〜c)を調製した。調製したゲル状食品について、1)かたさ(ゲル強度)を測定し、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)、3)口腔及び咽頭への付着性、及び4)保水性を評価した。また、ゲル化剤(顆粒品)を溶解した際の5)ダマの発生、6)溶解性について評価した。かたさ(ゲル強度)の測定は、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」の測定法に準じ、テクスチャーアナライザーを用いて、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。結果を表3に示す。各項目の評価基準は実験例2に準じた。
【0058】
【表3】

【0059】
実施例1のゲル化剤(易溶性寒天及びグァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/molを含有)を用いて調製したゲル状食品(実施例1−b及び1−c)は、溶解温度によらず、適度なかたさと食塊形成性を有し、付着性が小さく、更に離水の少ないものであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。また、かたさ(ゲル強度)は溶解温度の影響を受けにくく、いずれの溶解温度でも「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準を満足した。
【0060】
一方、比較例1のゲル化剤(通常の寒天及びグァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/molを含有)は、60℃溶解ではゲルを形成せず(比較例1−b)、80℃溶解では弱いゲル(ゲル強度が測定できる程度の明確な破断点をもたない)を形成した(比較例1−c)が、咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。比較例2のゲル化剤(易溶性寒天及び低分子グァーガム:重量平均分子量約0.5×10g/molを含有)を用いて調製したゲル状食品(比較例2−b、c)は、60℃、80℃のいずれの溶解温度でも、凝集物を含む、不均一で弱いゲルであり、離水も多く、咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。一方、キサンタンガム及びローカストビーンガムを含有する市販の介護食用ゲル化剤(比較例6)を用いて調製されたゲル状食品は、80℃で溶解して調製することにより、若干かたいものの、適度な食塊形成性を有し、付着性が小さく、離水の少ないゲル状食品を調製できた(比較例6−c)。しかし、60℃の溶解温度では、ゲル化剤が完全に溶解せず、溶け残りを生じてしまい、また調製されたゲル状食品(比較例6−b)は付着性が大きく、離水もみられ、咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。このように、比較例6のゲル化剤を用いた場合は、溶解温度が変化することによって調製されるゲル状食品の物性や食感が大きく変化してしまい、溶解温度に関わらず一定して咀嚼・嚥下困難者の喫食に適したゲル状食品を提供することができなかった。
【0061】
一方、易溶性寒天と、重量平均分子量が1.5×10g/mol以上のグァーガムを
特定割合にて含有した本発明のゲル化剤は、60℃以上の加熱温度が確保されていれば、
溶解温度によらず咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性を有するゲル状食品を調製
することができ、更に溶解温度によってゲル状食品の食感や物性がほとんど変化しない。
従って、咀嚼・嚥下困難者が摂食しやすいというだけでなく、食事を調製する介護者にと
っての利便性にも優れる。
【0062】
実験例4 ゲル状食品の調製3
液状食品の違いによるゲル状食品の食感、物性の変化から、ゲル化剤の汎用性を評価した。実験例1のゲル化剤(顆粒品)(実施例1、比較例3、6)を用いてゲル状食品を調製した。詳細には、80℃に調整した液状食品(イオン交換水、牛乳、味噌汁)を200mlビーカーに100ml量りとり、スパーテルで撹拌しながら、実験例1で調製した各ゲル化剤(実施例1、比較例3)を2.5gずつ添加した。ただし、比較例6のみ添加量は1.2gとした。スパーテルで30秒間撹拌(約4回転/秒)したのち、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に充填し、5℃で2時間冷却し、ゲル状食品を調製した(実施例1−d〜f、及び比較例3−d〜f、比較例6−d〜f)。調製したゲル状食品について、1)かたさ(ゲル強度)を測定し、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)、3)口腔及び咽頭への付着性、及び4)保水性を評価した。また、ゲル化剤(顆粒品)を溶解した際の5)ダマの発生、6)溶解性について評価した。かたさ(ゲル強度)の測定は、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」の測定法に準じ、テクスチャーアナライザーを用いて、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。結果を表4に示す。各項目の評価基準は実験例2に準じた。
【0063】
【表4】

【0064】
実施例1のゲル化剤(易溶性寒天及びグァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/molを含有)を用いて調製したゲル状食品は、イオン交換水(実施例1−d)、牛乳(実施例1−e)、及び味噌汁(実施例1−f)等、ゲル化の対象とする液状食品によらず、適度なかたさと食塊形成性を有し、付着性が小さく、更に離水の少ないものであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。また、かたさ(ゲル強度)は液状食品の違いによってほとんど変化せず、いずれの液状食品でも「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準を満足した。
【0065】
一方、易溶性寒天及び重量平均分子量が1.5×10g/molを含有した場合であっても、易溶性寒天に対するグァーガムの添加量が60質量%より少ない比較例3のゲル化剤を用いて調製したゲル状食品は、イオン交換水(比較例3−d)、牛乳(比較例3−e)、味噌汁(比較例3−f)のいずれの液状食品に用いた場合であっても、もろい食感で、食塊形成性が悪く、咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。また、かたさ(ゲル強度)は、「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準を満足せず、ゲル化の対象とする液状食品によってゲル状食品のかたさは大きく変化した。一方、市販の介護食用ゲル化剤(比較例6、キサンタンガムとローカストビーンガムを含有)は、イオン交換水に溶解した場合(比較例6−d)は、若干かたいものの、適度な食塊形成性を有し、付着性が小さく、離水の少ないゲルであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性となり、またそのかたさ(ゲル強度)も「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準を満足したが、牛乳や味噌汁といった脂肪やミネラルを含有する液状食品に用いた場合は、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として適切な物性を付与することができなかった。詳細には、牛乳(比較例6−e)に溶解した場合は凝集物が形成され、不均一で弱いゲルとなり、また、味噌汁(比較例6−f)に溶解したときには完全に溶解せず、不均一なゲルとなり、いずれも咀嚼・嚥下困難者の喫食には適さない食感と物性であった。
【0066】
一方、本発明のゲル化剤は、ゲル化の対象とする液状食品によらず、安定して咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性を有するゲル状食品を調製することができる。つまり、ゲル化の対象とする液状食品の種類を選ばないため汎用性が高く、食事を調製する介護者にとっての利便性に優れる。
【0067】
実験例5 ゲル状食品の調製4
液状食品の違いによるゲル状食品の食感、物性の変化からゲル化剤の汎用性を検討した。実験例1のゲル化剤(顆粒品)(実施例2)を用いてゲル状食品を調製した。詳細には、80℃に調整した液状食品(イオン交換水、緑茶、牛乳、味噌汁、オレンジジュース)を200mlビーカーに100ml量りとり、スパーテルで撹拌しながら、実験例1で調製したゲル化剤(実施例2)を2.5gずつ添加した。スパーテルで30秒間撹拌(約4回転/秒)したのち、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に充填し、5℃で2時間冷却し、ゲル状食品を調製した(実施例2−b〜f)。調製したゲル状食品について、1)かたさ(ゲル強度)を測定し、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)、3)口腔及び咽頭への付着性、及び4)保水性を評価した。また、ゲル化剤(顆粒品)を溶解した際の5)ダマの発生、6)溶解性について評価した。かたさ(ゲル強度)の測定は、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」の測定法に準じ、テクスチャーアナライザーを用いて、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。結果を表5に示す。各項目の評価基準は実験例2に準じた。
【0068】
【表5】

【0069】
実施例2のゲル化剤(易溶性寒天、グァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/mol、及びキサンタンガムを含有)を用いて調製したゲル状食品は、ゲル化の対象とする液状食品(イオン交換水(実施例2−b)、緑茶(実施例2−c)、牛乳(実施例2−d)、味噌汁(実施例2−e)、オレンジジュース(実施例2−f)によらず、適度なかたさと食塊形成性を有し、付着性が小さく、更に離水の少ないものであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。また、かたさ(ゲル強度)は液状食品の違いによってほとんど変化せず、いずれの液状食品でも「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準を満足した。
【0070】
本発明のゲル化剤は、ゲル化の対象とする液状食品によらず、安定して咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性を付与することができる。つまり、ゲル化の対象とする液状食品の種類を選ばないため汎用性が高く、食事を調製する介護者にとっての利便性に優れることが示された。
【0071】
実験例6 ゲル状食品の調製5(濃厚流動食)
本発明のゲル化剤について、濃厚流動食への適用性を検討した。実験例1のゲル化剤(顆粒品)(実施例2)を用いてゲル状の濃厚流動食を調製した。詳細には、60℃に調整した市販の濃厚流動食A(1.6kcal/mL、タンパク質含量1.6g/100mL、脂肪含量4.5g/100mL、ミネラル含有量180mg/100mL)濃厚流動食B(1kcal/mL、タンパク質含量4.0g/100mL、脂肪含量2.8g/100mL、ミネラル含有量410mg/100mL)を200mlビーカーに100ml量りとり、スパーテルで撹拌しながら、実験例1で調製したゲル化剤(実施例2)を2.5gずつ添加した。スパーテルで30秒間撹拌(約4回転/秒)したのち、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に充填し、5℃で2時間冷却し、ゲル状の濃厚流動食品を調製した(実施例2−g〜h)。調製したゲル状食品について、1)かたさ(ゲル強度)を測定し、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)、3)口腔及び咽頭への付着性、及び4)保水性を評価した。また、ゲル化剤(顆粒品)を溶解した際の5)ダマの発生、6)溶解性について評価した。かたさ(ゲル強度)の測定は、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」の測定法に準じ、テクスチャーアナライザーを用いて、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。結果を表6に示す。各項目の評価基準は実験例2に準じた。
【0072】
【表6】

【0073】
実施例2のゲル化剤(易溶性寒天、グァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/mol、及びキサンタンガムを含有)を用いて調製したゲル状の濃厚流動食(実施例2−g、h)は、適度なかたさと食塊形成性を有し、付着性が小さく、更に離水の少ないものであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。また、かたさ(ゲル強度)は濃厚流動食の種類によってほとんど変化せず、いずれの濃厚流動食でも「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準を満足した。
【0074】
本発明のゲル化剤は、ゲル化が困難とされている濃厚流動食においても、安定して咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性を付与することができる。
【0075】
実験例7 ゲル状食品の調製6(濃厚流動食)
本発明のゲル化剤について、濃厚流動食への適用性を検討した。実験例1のゲル化剤(顆粒品)(実施例2)を用いてゲル状の濃厚流動食を調製した。詳細には、80℃に調整したイオン交換水50mlを200mlビーカーに量り取り、プロペラ攪拌機を用いて1000rpmで攪拌しながら実験例1で調製したゲル化剤(実施例2)を2.5g添加した。このゲル化剤溶液に、市販の濃厚流動食C(2kcal/ml、タンパク質含量7.2g/100ml、脂肪含量7.5g/100ml、ミネラル含有量380mg/100ml)、濃厚流動食D(2kcal/ml、タンパク質含量8.0g/100ml、脂肪含量7.5g/100ml、ミネラル含有量230mg/100ml)、あるいは濃厚流動食E(2kcal/ml、タンパク質含量7.3g/100ml、脂肪含量5.6g/100ml、ミネラル含有量410mg/100ml)を80℃に調整した後、それぞれ50mL加え、プロペラ攪拌機を用いて1000rpmで3分間撹拌したのち、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に充填し、5℃で2時間冷却してから、レトルト殺菌(121℃、20分間)してゲル状の濃厚流動食を調製した(実施例2−i〜k)。調製したゲル状食品について、1)かたさ(ゲル強度)を測定し、2)食塊形成性(口中での食品のまとまりやすさ)、3)口腔及び咽頭への付着性、及び4)保水性を評価した。また、ゲル化剤(顆粒品)を溶解した際の5)ダマの発生、6)溶解性について評価した。かたさ(ゲル強度)の測定は、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」の測定法に準じ、テクスチャーアナライザーを用いて、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。結果を表7に示す。各項目の評価基準は実験例2に準じた。
【0076】
【表7】

【0077】
実施例2のゲル化剤(易溶性寒天、グァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/mol、及びキサンタンガムを含有)を用いて調製したゲル状の濃厚流動食(実施例2−i〜k)は、適度なかたさと食塊形成性を有し、付着性が小さく、更に離水の少ないものであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。また、かたさ(ゲル強度)は濃厚流動食の種類によってほとんど変化せず、いずれの濃厚流動食でも「高齢者用食品」の「そしゃく・えん下困難者用食品」の規格基準を満足した。
【0078】
本発明のゲル化剤は、ゲル化が困難とされている濃厚流動食においても、安定して咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性を付与することができる。また、本発明のゲル化剤を使用したゲル状の濃厚流動食においては、通常、濃厚流動食をレトルト殺菌する際に生じる、タンパク質の凝集に起因するあれがみられず、外観上の嗜好性も高い。
【0079】
実験例8 ゲル状食品の再加温
再加温がゲル状食品の食感及び物性に及ぼす影響について検討するため、実験例1で調製したゲル化剤(顆粒品)(実施例2及び比較例5、6)を用いてゲル状食品を調製した。詳細には、60℃に調整したイオン交換水を200mlビーカーに100ml量りとり、スパーテルで撹拌しながら、実験例1で調製したゲル化剤(実施例2及び比較例5)を2.5gずつ添加した。ただし、比較例6のみ添加量は1.2gとした。スパーテルで30秒間撹拌(約4回転/秒)したのち、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に充填し、5℃で24時間冷却し、ゲル状食品を調製した(実施例2−l及び比較例5−b、比較例6−g)。調製したゲル状食品を60℃の恒温器中にて30分間加温し、再加温前後でかたさ(ゲル強度)を測定した。かたさ(ゲル強度)の測定は、厚生労働省特別用途食品「高齢者用食品」の測定法に準じ、テクスチャーアナライザーを用いて、プランジャー:直径20mmの円柱形、圧縮速度:10mm/秒、クリアランス:5mmで行った。結果を表8に示す。
【0080】
【表8】

【0081】
実施例2のゲル化剤(易溶性寒天、グァーガム:重量平均分子量約2.0×10g/mol、及びキサンタンガムを含有)を用いて調製したゲル状食品(実施例2−l)は、再加温によってゲルが融解せず、咀嚼・嚥下困難の喫食に適した食感(適度なかたさと食塊形成性)を維持した。また、再加温によるかたさ(ゲル強度)の低下は約25%であり、優れた温度安定性を示した。
【0082】
一方、ゼラチンを含有する比較例5のゲル化剤を用いて調製したゲル状食品(比較例5−b)は、再加温によってゲルが融解し、液状となってしまった。また、キサンタンガムとローカストビーンガムを含有する市販の介護食用ゲル化剤(比較例6)を用いて調製したゲル状食品(比較例6−g)は、実施例2−lと同様に、再加温によってゲルは融解しなかったが、再加温によるかたさ(ゲル強度)の低下は約60%であり、実施例2−lに比べて温度安定性に劣っていた。
【0083】
本発明のゲル化剤を用いることにより、再加温による食感及び物性の変化が小さいゲル状食品を調製することができ、再加温しても咀嚼・嚥下困難者に適した食感と物性を維持することができる。本来温かい状態で喫食すべき食品を温かい状態のままで提供することができるため、咀嚼・嚥下困難者が摂食しやすい食品のバリエーション化とQOLの向上に貢献する。
【0084】
実験例9 ゲル状食品の調製7(緑茶ゼリー)
実験例1で調製したゲル化剤(実施例2)を緑茶パウダー及びL−アスコルビン酸ナトリウムと粉体混合して粉末ゼリーミックスを調製した。スパーテルで攪拌(約4回転/秒)しながら、60℃のお湯に上記粉末ゼリーミックスを添加した。更に30秒間撹拌したのち、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に入れて充填し、5℃で2時間冷却して緑茶ゼリーを調製した。得られた緑茶ゼリーは、付着性が小さく、更に離水の少ないものであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。また、調製した際に、ダマ等を生じることがなく、食した際もざらつき等を感じることがなかった。
【0085】
処方 部
実施例2のゲル化剤 1.80
緑茶パウダー(SD緑茶エキスパウダーNo.17141*) 0.18
L―アスコルビン酸ナトリウム 0.02
お湯(60℃)にて全量を100とする。
【0086】
実施例10 ゲル状食品の調製8(チョコレート風味プリン)
実施例1で調製したゲル化剤(実施例2)をグラニュー糖、乳タンパク濃縮物、粉末油脂、ココアパウダー、デキストリン及びチョコレート香料と粉体混合して粉末ゼリーミックスを調製した。スパーテルで攪拌(約4回転/秒)しながら、60℃の牛乳に上記粉末ゼリーミックスを添加した。更に30秒間撹拌したのち、容器(プリンカップ、直径約6cm、高さ約4cm、容量90ml)に入れて充填し、5℃で2時間冷却してチョコレート風味プリンを調製した。得られたチョコレート風味プリンは、付着性が小さく、更に離水の少ないものであり、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性であった。また、調製した際に、ダマ等を生じることがなく、食した際もざらつき等を感じることがなかった。
【0087】
処方 部
実施例2のゲル化剤 2.0
グラニュー糖 10.0
乳タンパク濃縮物(シンプレス100*) 5.7
粉末油脂(Nネオパウダー) 5.0
ココアパウダー(ココアパウダーF−23−T) 1.5
デキストリン 0.7
チョコレート香料 0.1
(サンフィックス※チョコレートNO.2027F*)
牛乳(60℃)にて全量を100とする。
【0088】
実施例11 チューブ流動性の評価
経管投与の際のチューブ流動性及び付着性について、本発明のゲル化剤を用いて調製し
たゲル状濃厚流動食(実施例2−i)と市販のゾル状濃厚流動食(1.5kcal/g、
タンパク質含量6.0/100g、脂肪含量3.3g/100g、ミネラル含有量660
mg/100ml)を比較した。詳細には、実施例2−iと市販品をシリコンチューブ(
口径8mm)に注入し、水平状態にチューブをセットし、5mlのイオン交換水で試料を
押し出し、チューブ内の残存状態を評価した。結果を図1(実施例2−i)及び図2(市
販品)に示す。
【0089】
図1及び図2より、本発明のゲル化剤を用いて調製したゲル状濃厚流動食(図1)は、市販のゾル状濃厚流動食(図2)に比べて残存物が少なく、チューブ流動性及び付着性(付着防止)に優れていた。本発明のゲル化剤を用いることにより、操作性(注入しやすい)及び衛生性に優れた経管投与用の濃厚流動食を調製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のゲル化剤を用いることにより、50〜60℃といったゲル化剤の溶解温度としては比較的低温であるが、直接飲食することができる温度で溶解可能であり、その後、特別な冷却工程を経ることなく、室温で静置して冷却するのみで、簡便に咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感と物性をもつゲル状食品を調製することができる。更に造粒(顆粒化)することで、手撹拌のような緩い撹拌でも容易に分散、溶解することができる。調製されたゲル状食品は、60℃程度まで再加温しても溶解することなく良好な保形性を有するため、温かい状態で食すことのできる咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を提供できる。また、種々の液状食品に適応可能であり、汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例2−iのゲル化剤を用いて調製したゲル状濃厚流動食を、シリコンチューブ(口径8mm)に注入し、水平状態にチューブをセットし、5mlのイオン交換水で試料を押し出した後のチューブの様子である。
【図2】市販のゾル状濃厚流動食を、シリコンチューブ(口径8mm)に注入し、水平状態にチューブをセットし、5mlのイオン交換水で試料を押し出した後のチューブの様子である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品を調製するためのゲル化剤であって、易溶性寒天及び重量平均分子量が1.5×10g/mol以上のグァーガムを含み、前記易溶性寒天に対して、前記グァーガムの含有量が60〜700質量%であることを特徴とするゲル化剤。
【請求項2】
更に、キサンタンガム及び/又はネイティブ型ジェランガムを含む、請求項1に記載のゲル化剤。
【請求項3】
更に、デキストリン、澱粉及び糖類から選択される少なくとも1種のバインダーを含む請求項1又は2に記載のゲル化剤。
【請求項4】
造粒されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゲル化剤。
【請求項5】
液状食品に、請求項1〜4のいずれかに記載のゲル化剤を添加することにより調製された、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品。
【請求項6】
液状食品が、下記(1)〜(4)のうち少なくとも1種の条件を満たすものである、請求項5に記載の咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品;
(1)pHが2〜5の範囲である。
(2)ミネラル分の含有量が液状食品全量に対して0.01〜10質量%である。
(3)脂肪分の含有量が液状食品全量に対して0.1〜50質量%である。
(4)タンパク質の含有量が液状食品全量に対して0.1〜20質量%である。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−157370(P2012−157370A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−121337(P2012−121337)
【出願日】平成24年5月28日(2012.5.28)
【分割の表示】特願2007−236731(P2007−236731)の分割
【原出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】