説明

咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤

【課題】キサンタンガムをはじめとする増粘多糖類について、対象食品への増粘効果や食塊形成性は保持しつつも、食感的な付着性を低減し、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食品を調製することが可能な増粘化剤を提供する。更に、キサンタンガム特有の付着性を低減させる方法を提供する。
【解決手段】キサンタンガム1質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部未満のプルランを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサンタンガムに対し特定量のプルランを含有することを特徴とする咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤に関する。詳細には、対象食品への増粘効果や食塊形成性は保持しつつも、キサンタンガムをはじめとする増粘多糖類特有の付着性が低減され、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食品を提供することが可能な、咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤として極めて優れた増粘化剤に関する。更に、本発明はキサンタンガム特有の付着性を低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者の増加に伴い、食物を噛み砕き飲み込むという一連の動作に障害をもつ、いわゆる咀嚼・嚥下困難者が増加する傾向がある。これに伴い、咀嚼・嚥下困難者が喫食しやすい食塊形成性などの物性を液状食品に付与するために、種々の増粘化剤が開発されており、近年では、嗜好性(味・外観に与える影響が少ない)や機能性(少ない添加量で効果を発揮する)の面から、増粘多糖類を主剤にした増粘化剤が好んで使用される。
【0003】
嚥下補助に使用される増粘化剤に求められる要件として、手攪拌のような緩い攪拌状態で液状食品に添加した場合、(1)ダマにならず、良好に分散すること、(2)短時間で所定の物性値(例えば、粘度)に達し、その経時変化が小さいこと、(3)食品の種類によらず、安定した物性値を示すこと、(4)低濃度で所定の物性値を示し、味・外観を劣化させないこと、(5)口腔内で食塊を形成(食塊形成性)しやすく、咽頭での付着性が小さいこと等が挙げられ、このような要件を満たすように、キサンタンガムやカラギナン、グァーガム等の各種増粘多糖類が用いられた咀嚼・嚥下困難者用補助剤が各種開発されてきた。しかし、これら増粘多糖類は短時間で粘度が発現する点では咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤として優れるものの、増粘多糖類特有の粘りが生じ、かかる増粘多糖類を用いて調製された咀嚼・嚥下困難者用食品は咽頭に付着しやすく、対象食品の種類によっては保形性が不十分であり食塊を飲み込みにくい等の課題を抱えていた。
【0004】
一方、医薬品や医薬部外品、および食品に好適なゲル組成物を調製するための糊料であって、カラギーナン、ゼラチン、寒天、ペクチン、キサンタンガム、マンナン等の増粘多糖類にプルランを含有することを特徴とする糊料が特許文献1に開示されている。プルランを併用することにより、離水率の減少した保存安定性に優れたゲルを調製できること及びゲル化剤である多糖類とプルランの配合比は通常1:0.5〜1:3が好ましいことが記載されている。
【0005】
特許文献2には経口固形製剤の易服用性コーティング用組成物として、ゲル化剤、結合剤及び糖アルコールを組み合わせることにより、服用する際にスムーズに嚥下できるようにし得るコーティング用組成物および該組成物でコーティングされた固形製剤が開示されている。ゲル化剤として、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、ジェランガムおよび寒天からなる群の中から一種又は二種以上選択され、結合剤として、プルラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびメチルセルロースからなる群の中から一種又は二種以上選択できる旨が記載されている。そして実施例1にはキサンタンガム1質量部に対し1質量部のプルランを含有した組成物を素錠にコーティングしてコーティング錠を得た旨が記載されている。
【0006】
特許文献3には、糊料を貧溶媒、低粘性多糖類及び低分子の糖質のいずれかと併用して水に溶解させて糊料の粘性発現を抑制することにより流動性のある液体として調製され、水分を含む目的物に添加してその粘性又はゲル化を発現させることにしたことを特徴とする増粘用添加液が開示されている。低粘性多糖類として、アラビアガム、アラビノガラクタン、プルラン、大豆多糖類が挙げられ、糊料の一種としてキサンタンガムが開示されている。低粘性多糖類多糖類が効果を示す濃度として、アラビアガムの場合で3〜50%といった高濃度溶解が開示されているが、キサンタンガムに対し特定量のプルランを使用することについては一切開示されていない。
【0007】
以上のように、特許文献1は、ゲル組成物に関する技術であって、プルランの使用は多価カチオンによる沈殿やゲルが硬くなることの防止、及び離水防止を目的としており、食品を増粘させた際に発生する付着性について一切検討されていない。同様にして、特許文献2においても、ゲル化剤及びプルランの使用は固形物のコーティング層中での使用に留まり、増粘化剤としての使用については一切記載されていない。更に、特許文献2はゲル化剤、プルラン及び糖アルコールを併用して固形物をコーティングすることにより固形物の滑りを良好とする発明であって、食品を増粘させることにより発生する付着性について一切検討されていない。特許文献3は、糊料とプルランをはじめとした低粘性多糖類を併用して水に溶解することで、糊料の溶解に必要な自由水を減少させ、糊料の粘度発現を抑制することを特徴とする。したがって、特許文献3の技術は低粘性多糖類を高濃度で使用することによって初めてなし得る発明である。また特許文献1、2と同様に付着性の低減効果については一切記載されていない。
【0008】
このように従来は、食品を増粘させた際に生じる付着性の低減を目的として、特定量のプルランを使用することについて一切検討されていない。むしろ、増粘多糖類に従来用いられてきた添加量のプルランを使用した際はキサンタンガムが有する付着性に加え、プルランの有する付着性までもが影響を与え、咀嚼・嚥下困難者用食品として適した食品を調製することはできなかった。
【0009】
【特許文献1】国際公開第02/74100号パンフレット
【特許文献2】特開2002−275054号公報
【特許文献3】特許第3798913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、対象食品への増粘効果や食塊形成性は保持しつつも、キサンタンガムをはじめとした増粘多糖類特有の付着性が低減され、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食品を提供することが可能な、咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を提供することを目的とする。また、本発明は咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤として本来保有する増粘効果や食塊形成性に影響を与えることなく、キサンタンガム特有の付着性を低減させる方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、キサンタンガム1質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部未満といった極めて低添加量のプルランを添加することにより、対象食品への増粘効果や食塊形成性は保持しつつも、キサンタンガム特有の付着性が低減され、咀嚼・嚥下困難者の喫食に極めて優れた食品を調製できることを見出して本発明を完成した。
【0012】
本発明は、以下の態様を有する咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤及び咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤の付着性低減方法に関する;
項1.キサンタンガム1質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部未満のプルランを含有することを特徴とする咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤。
項2.項1に記載の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を用いて調製された咀嚼・嚥下困難者用食品。
項3.キサンタンガム1質量部に対し、プルランを0.001質量部以上0.5質量部未満添加することを特徴とする、キサンタンガムの付着性低減方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、優れた増粘効果や食塊形成性を保持しつつも、キサンタンガムをはじめとした増粘多糖類特有の付着性が低減され、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食品を調製することが可能な、咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を提供することが可能となる。これにより、手撹拌といった弱い攪拌条件にも関わらず、短時間で求められる粘度を付与し、更には付着性が小さく、食塊形成性に優れた咀嚼・嚥下困難者用食品を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤は、キサンタンガム1質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部未満、好ましくは0.01〜0.4質量部、更に好ましくは0.03〜0.2質量部といった極めて低添加量のプルランを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明で用いるキサンタンガムは、Xanthomonas campesrtisが産生する発酵多糖類である。キサンタンガムは、β−1,4−D−グルカンを主鎖骨格とし、主鎖中のグルコース1分子おきにα−D−マンノース、β−D−グルクロン酸、β−D−マンノースからなる側鎖が結合した酸性多糖類であり、主鎖に結合したマンノースはC6位がアセチル化され、末端のマンノースはピルビン酸とアセタール結合している場合がある。本発明では、アセチル基含量が通常よりも低いあるいはアセチル基を含まないキサンタンガム、及びピルビン酸含量が通常よりも低いあるいはピルビン酸を含まないキサンタンガムも使用することができる。商業的に入手可能なキサンタンガム製品として、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ビストップ[商標]D−3000−C」などを挙げることができる。
【0016】
キサンタンガムは、他の増粘多糖類に比べて、耐熱性、耐酸性、耐塩性、耐酵素性に優れており、低濃度での粘度も高く、また常温の水に容易に水和・膨潤し、短時間で粘度を発現する点で、咀嚼・嚥下困難者用食品用増粘剤として優れているが、一方で咽頭に付着しやすいため、付着性の低減が課題とされていた。
【0017】
プルランは、黒酵母の一種であるAureobasidium pullulasによって生産されるα−グルカンであり、マルトトリオース(グルコース3分子がα−1,4結合)が規則正しくα−1,6−グルコシド結合を繰り返した直鎖状の中性多糖である。該プルランは、付着性、接着性が強いことから、とろろ昆布の接着や糖衣のバインダーなどに使用されており、プルランの特徴である付着性、接着性は、咀嚼・嚥下困難者用の増粘化剤としては優れた適性とはいえない。
【0018】
本発明は、かかる付着性、接着性の高いプルランをキサンタンガム1質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部未満といった極めて低添加量用いることにより、食品への増粘効果や食塊形成性に影響を与えることなくキサンタンガムの付着性を軽減できることを見出して至った発明である。このように本発明は、例えば水に添加した際には水の物性にほとんど影響を与えない程度の低添加量のプルランをキサンタンガムと併用することによって得られる特有の効果に着目した発明である。
【0019】
本発明では、上記低添加量のプルランをキサンタンガムと併用することを特徴とする。キサンタンガム1質量部に対するプルランの添加量が0.001質量部未満であるとキサンタンガム特有の付着性を低減させることができない。一方、プルランの添加量が0.5質量部以上となると、キサンタンガムが有する付着性を低減できないばかりか、プルラン特有の付着性が増粘対象の食品に強く影響を及ぼしてしまう。
【0020】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤はキサンタンガムおよびプルランに加え、他の増粘多糖類、好ましくはカラギナン、グァーガム、タラガムよりなる群から選ばれる1種以上を含有することができる。これらの増粘多糖類を併用することにより咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤としての機能性(力価、汎用性)を高めることができる。本発明の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤は、キサンタンガム1質量部に対して0.001質量部以上0.5質量部未満のプルランを含有することを特徴とするが、該プルランによって上記カラギナン、グァーガム及びタラガムよりなる群から選ばれる1種以上の増粘多糖類を併用した場合であっても付着性を低減させることが可能である。上記キサンタンガムに対するプルランの添加量の範囲内において、プルランの添加量が、キサンタンガムを除く他の増粘多糖類の総量1質量部に対し、0.01〜0.75質量部となるように調整することが好ましい。
【0021】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤は、キサンタンガム及びプルランを含有していればその製法は特に限定されず、その形態も粉状、顆粒状、溶液状、ペースト状など、求められる用途や対象食品によって適宜形態をとることが可能である。好ましくは、キサンタンガム及びプルランを粉体混合したもの、もしくは粉体混合後、流動層造粒機等を用いて顆粒状にしたものが好適に使用できる。なお、顆粒にする際には、キサンタンガム及びプルランの一部、またはプルランの一部又は全量をバインダー液に溶解して利用することもできる。さらに、本発明の増粘化剤は、デキストリン、澱粉、糖類等の賦形剤や無機塩、有機酸塩などの塩類、乳化剤を含むことにより、増粘化剤の液状食品への分散性、溶解性を向上させることができる。
【0022】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤は、液状食品をはじめとした各種食品に添加することにより、対象食品を速やかに増粘させ、食塊形成性に優れた咀嚼・嚥下困難者用食品を提供することが可能である。更に、調製された咀嚼・嚥下困難者用食品は付着性が小さいことを特徴とする。特に、嚥下しやすい食品は、咀嚼したときに口腔中で食塊がばらばらにならず、まとまり感がある(食塊形成性が高い)こと、更に嚥下したときに咽頭に食塊がへばりつかず(付着性が小さい)、スムースに咽頭相を通過することが必要であり、食塊形成性及び付着性が咀嚼・嚥下困難者用食品として適した食品を提供するための重要な要因となっている。しかし咀嚼・嚥下困難者用食品として適した物性の一つである粘度を付与し、食塊形成性に優れた食品を調製するために増粘多糖類を添加すると、口腔及び咽頭にまとわりつくような粘りある食感(付着性が大きい)となりやすい。しかし付着性は食塊形成性に寄与する一要因ともなりうるため、付着性の低減を試みると、一方で食塊形成性が低下しやすいといった課題を抱えていた。本発明の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤はかかる課題を解決できる増粘化剤であり、食品への増粘効果や食塊形成性を保持しつつも、付着性が低減された咀嚼・嚥下困難者用食品を調製することが可能である。この点、本発明の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤は極めて有用性が高い。
【0023】
本発明の増粘化剤を使用して増粘化させる液状食品は、水分を含有し、流動性のある液状の食品であれば特に限定されず種々の食品が挙げられる。具体例として、水、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料、ドリンクヨーグルト、果汁入り清涼飲料、オレンジジュース等の果汁飲料、菜汁飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ココア飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、イオン飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、日本酒、ビール、発泡酒、ビールテイスト風アルコール飲料、焼酎、ウィスキー、ブランデー、ワイン、スピリッツ類(ラム、ウォッカ、ジン、テキーラ等)、リキュール類、エタノール等それぞれ単独の飲料、および前記飲料用アルコール類を配合した各種カクテル類、あるいは果汁を醸造して得た赤ワイン等の果実酒、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープ等の各種スープ、味噌汁、清汁、シチュウ、カレー、グラタンなどの液状の加工食品や、蛋白質・リン・カリウム調整食品、塩分調整食品、油脂調整食品、整腸作用食品、カルシウム・鉄・ビタミン強化食品、低アレルギー食品、濃厚流動食、ミキサー食、及びキザミ食等の特殊食品や治療食の液状食品、醤油、ソース、ドレッシング等の液状調味料等を挙げることができる。これらに直接、本発明の増粘化剤を添加して咀嚼・嚥下困難者用食品として適した粘度や物性を付与することが可能である。
【0024】
本発明の咀嚼・嚥下困難者増粘化剤の液状食品への添加量は、求められる粘度や液状食品の成分によって適宜調整することが可能であるが、通常、液状食品に対して、キサンタンガム及びプルランの添加量が、0.3〜1.5質量%、好ましくは0.5〜1.2質量%となるように添加するか、もしくは液状食品の粘度が1500mPa・s以上となるように増粘化剤の添加量を調整して添加することができる(粘度測定条件:B型回転粘度計、20℃、12rpm、ローターNo.3)。
【0025】
本発明は、更にキサンタンガム1質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部未満、好ましくは0.01〜0.4質量部、更に好ましくは0.03〜0.2質量部のプルランを添加することを特徴とするキサンタンガムの付着性低減方法に関する。なお、プルランの添加方法としては特に限定されず、キサンタンガムを含有した溶液にプルランを添加する方法、粉末状態のキサンタンガムにプルランを粉体混合する方法、粉末状態のキサンタンガムにプルラン含有溶液を噴霧、コーティングする方法等、求められる形態や用途に応じて各種方法を用いることが可能である。上記範囲の添加量のプルランを添加することにより、キサンタンガムの増粘効果や食塊形成性に影響を与えることなく、キサンタンガム特有の付着性が低減された各種食品を提供することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「質量部」、「%」は「質量%」を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0027】
実験例1 咀嚼・嚥下困難者用食品の調製(1)
表1の処方に従って咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を調製した。咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤は、キサンタンガム、プルラン及びデキストリンを表1の配合に従って粉体混合し、流動層造粒機を用いて造粒した。得られた咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤2.5gを20℃のイオン交換水100gに添加し、スパーテルを用いて室温で30秒間混合し、咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例1〜5、比較例1〜4)を調製した。
【0028】
【表1】

【0029】
得られた各咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例1〜5、比較例1〜4)につき、増粘化剤を添加後10分後に粘度を測定し、付着性を官能評価した(粘度測定条件:B型回転粘度計、20℃、12rpm、ローターNo.3)。
(付着性):喉へのへばりつき(付着性)の小さいものから順に、◎>○>△>×>××の5段階で評価した。
【0030】
【表2】

【0031】
キサンタンガム1質量部に対し、0.004〜0.45質量部の範囲内でプルランを添加することにより、キサンタンガムの増粘効果や食塊形成性に影響を与えることなく、付着性が低減された咀嚼・嚥下困難者用食品を調製することができた(実施例1〜5)。かかる範囲内のプルランは、比較例2からも分かるとおり、粘度を発現しない添加量である。更に、一般的には付着性を低減させることにより、食塊形成性も下がる傾向があるが、実施例1〜5の咀嚼・嚥下困難者食品は、付着性は低減されつつも、食塊形成性が良く、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感であった。一方、プルランの添加量がキサンタンガム1質量部に対し0.0006質量部ではキサンタンガム特有の付着性を低減させることはできなかった(比較例3)。更に、粘度を発現しない添加量のプルランであっても、キサンタンガム1質量部に対し0.6質量部のプルランを使用した場合は、付着性が増大し、咀嚼・嚥下困難者用食品として適した物性を付与することはできなかった(比較例4)。
【0032】
実験例2 咀嚼・嚥下困難者用食品の調製(2)
表3の処方に従って咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤(実施例6、比較例5)を調製した。詳細には、キサンタンガム、プルラン、カラギナン、グァーガム、デキストリンを表3の処方に従って粉体混合し、流動層造粒機を用いて造粒した。得られた咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤(実施例6、比較例5)を使用して2.5gをイオン交換水100gに添加し、スパーテルを用いて室温で30秒間混合し、咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例7、比較例6)を調製した。
【0033】
【表3】

【0034】
キサンタンガム1質量部に対し、0.1質量部のプルランを用いた増粘化剤(実施例6)を使用した咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例7)は、プルラン不使用の増粘化剤(比較例5)を用いた咀嚼・嚥下困難者用食品(比較例6)と比較して、キサンタンガムに加え、カラギナン及びグァーガム特有の付着性までもが低減されたものであった。また、プルランの添加は、粘度発現性に全く影響を与えず、本発明の増粘化剤(実施例6)は手撹拌で30秒間といった弱い攪拌条件でも極めて短時間で増粘できた。更に、実施例6の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を用いて調製された食品(実施例7)は、食塊形成性にも優れ、咀嚼・嚥下困難者用食品として極めて優れた物性を有するものであった。
【0035】
実験例3 咀嚼・嚥下困難者用食品(緑茶)の調製(3)
実験例2で調製した実施例6、比較例5の増粘化剤を用いて咀嚼・嚥下困難者用食品(緑茶)を調製した。詳細には実施例6、比較例5の増粘化剤2.5gを各々緑茶100gに添加し、スパーテルを用いて室温で30秒間混合し、咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例8、比較例7)を調製した。
【0036】
キサンタンガム1質量部に対し、0.1質量部のプルランを用いた増粘化剤(実施例6)を用いて調製した咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例8)は、プルラン不使用の増粘化剤(比較例5)を用いた咀嚼・嚥下困難者用食品(比較例7)と比較して、キサンタンガムに加え、カラギナン及びグァーガム特有の付着性までもが低減されたものであった。また、プルランの添加は、緑茶の粘度発現性に全く影響を与えず、本発明の増粘化剤(実施例6)は手撹拌で30秒間といった弱い攪拌条件でも極めて短時間で増粘できた。更に、実施例6の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を用いて調製された食品(実施例8)は、食塊形成性にも優れ、咀嚼・嚥下困難者用食品として極めて優れた物性を有するものであった。
【0037】
実験例4 咀嚼・嚥下困難者用食品(オレンジジュース)の調製(4)
実験例2で調製した実施例6、比較例5の増粘化剤を用いて咀嚼・嚥下困難者用食品(オレンジジュース)を調製した。詳細には実施例6、比較例5の増粘化剤2.5gを各々オレンジジュース100gに添加し、スパーテルを用いて室温で30秒間混合し、咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例9、比較例8)を調製した。
【0038】
キサンタンガム1質量部に対し、0.1質量部のプルランを用いた増粘化剤(実施例6)を用いて調製した咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例9)は、プルラン不使用の増粘化剤(比較例5)を用いた咀嚼・嚥下困難者用食品(比較例8)と比較して、キサンタンガムに加え、カラギナン及びグァーガム特有の付着性までもが低減されたものであった。また、プルランの添加は、オレンジジュースの粘度発現性に全く影響を与えず、本発明の増粘化剤(実施例6)は手撹拌で30秒間といった弱い攪拌条件でも極めて短時間で増粘できた。更に、実施例6の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を用いて調製された食品(実施例9)は、食塊形成性にも優れ、咀嚼・嚥下困難者用食品として極めて優れた物性を有するものであった。
【0039】
実験例5 咀嚼・嚥下困難者用食品(牛乳)の調製
実験例2で調製した実施例6、比較例5の増粘化剤を用いて咀嚼・嚥下困難者用食品(牛乳)を調製した。詳細には実施例6、比較例5の増粘化剤2.5gを各々牛乳100gに添加し、スパーテルを用いて室温で30秒間混合し、咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例10、比較例9)を調製した。
【0040】
キサンタンガム1質量部に対し、0.1質量部のプルランを用いた増粘化剤(実施例6)を使用した咀嚼・嚥下困難者用食品(実施例10)は、プルラン不使用の増粘化剤(比較例5)を用いた咀嚼・嚥下困難者用食品(比較例9)と比較して、キサンタンガムに加え、カラギナン及びグァーガム特有の付着性までもが低減されたものであった。また、プルランの添加は、牛乳の粘度発現性に全く影響を与えず、本発明の増粘化剤(実施例6)は手撹拌で30秒間といった弱い攪拌条件でも極めて短時間で増粘できた。更に、実施例6の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を用いて調製された食品(実施例10)は、食塊形成性にも優れ、咀嚼・嚥下困難者用食品として極めて優れた物性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
キサンタンガムが有する優れた増粘効果や食塊形成性を保持しつつも、キサンタンガム特有の付着性を低減することができ、ひいては咀嚼・嚥下困難者用食品として極めて優れた物性を有する食品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンタンガム1質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部未満のプルランを含有することを特徴とする咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の咀嚼・嚥下困難者用増粘化剤を用いて調製された咀嚼・嚥下困難者用食品。
【請求項3】
キサンタンガム1質量部に対し、プルランを0.001質量部以上0.5質量部未満添加することを特徴とする、キサンタンガムの付着性低減方法。

【公開番号】特開2009−291176(P2009−291176A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151128(P2008−151128)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】