説明

咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料、咀嚼・嚥下困難者用食品、及び咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法

【課題】酸味のある食品を、咀嚼・嚥下困難者にむせを誘発せずに、風味や食感、外観が通常食に近い状態で供する。
【解決手段】カラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有し、酢酸及びクエン酸の含有比が2:8〜8:2であることを特徴とする咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料、咀嚼・嚥下困難者用食品、及び咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法に関する。
【背景技術】
【0002】
咀嚼(食物をよくかみくだすこと)や嚥下(食物を飲み込むこと)機能が低下した高齢者や、何らかの疾病から回復し、経管栄養摂取から経口栄養摂取へのリハビリが必要な人にとって、通常の食事をするのは困難であり、食事をすること自体も大変な労力である。特に、飲み込むときにむせてしまい、誤嚥を起こす心配があるような人は、食事として提供できる素材や味付け、調理方法が制限されるため、食事を十分に楽しむことは難しい。
【0003】
特に酸刺激は、むせて誤嚥や窒息を起こす危険を高めるため、これらの人への食事に酸味のある味付けは避けられてきた。一方、酸味のある味付けは、さっぱりとしながら印象的な風味を呈し、食の細い高齢者にも人気がある。また酸味が食欲を刺激する点でも高齢者に適した味付けといえる。
【0004】
また野菜類や海藻類等の水分量の多い素材を、外観や風味を生かそうとして生のまま、あるいは塩揉みや茹でる程度の下処理後に裁断して料理に用いると、咀嚼・嚥下機能低下者は嚥下できなかったり、経時的に生じる離水によってむせたりして誤嚥や窒息を起こす危険がある。よって、咀嚼・嚥下機能低下者へのこれらの素材の提供は、ミキサー等でペースト状に潰し、固体状に再形成して行われる。
【0005】
前記の理由から、咀嚼・嚥下機能低下者に提供する食事は、酸味のある味付けを行わず、均一な食感と外観を有する食材からなり、季節感や素材感が感じられない単調なものである。そこで、酸味があり、食事に多様性を与えるような食品を、咀嚼・嚥下機能低下者にむせを起こさずに提供する方法が求められている。
【0006】
特許文献1には、むせにくく食事を楽しむことができて食欲増進効果が高い咀嚼・嚥下機能低下者用酸性調味料として、油脂含有量が製品に対して5%以下であり、魚介類エキス及び/又はきのこ類エキスを含有し、粘度が1〜30Pa・sである咀嚼・嚥下機能低下者用酸性調味料が記載されている。前記の調味料はむせを誘発することはなかったが、酸味がマスキングされて感じにくく、酸味のある食品を求める消費者の要望を十分に満足するものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2006−174830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、酸味があるにも関わらず咀嚼・嚥下困難者にむせを誘発せずに、風味や食感、外観が通常食に近い酸味のある食品を製することが出来る咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料、前記酸性調味料を用いた咀嚼・嚥下困難者用食品、及び前記酸性調味料を用いた咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸性調味料にカラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有させ、酢酸及びクエン酸の含有比を2:8〜8:2とすることにより、意外にも、酸味のある食品を咀嚼・嚥下困難者にむせを誘発せずに、風味や食感、外観が通常食に近い状態で提供できる咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)カラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有し、酢酸及びクエン酸の含有比が2:8〜8:2である咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料、
(2)粘度が1〜30Pa・sである(1)の咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料、
(3)可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類に、(1)又は(2)の酸性調味料が接触している咀嚼・嚥下困難者用食品、
(4)可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類に、(1)又は(2)の酸性調味料を接触させる咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、咀嚼・嚥下困難者に風味や食感、外観が通常食に近い酸味のある食品を提供することができる。これにより、咀嚼・嚥下困難者用食品の市場や、咀嚼・嚥下困難者向けの食事提供ビジネスが更に拡大することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を表す。「部」は「質量部」を表す。
【0013】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料は、カラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有し、酢酸及びクエン酸の含有比が2:8〜8:2のものである。
【0014】
本発明において酸性調味料とは、pH4.6以下の調味料をいう。pHを前記範囲とする方法は、特に限定されないが、例えば、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、あるいはこれらの有機酸を含有した食酢、レモン汁などのような酸性原料などを適宜配合するとよい。
【0015】
本発明の酸性調味料は、酢酸及びクエン酸の含有比が2:8〜8:2である。酢酸の含有比が前記範囲よりも少なく、クエン酸の含有比が前記範囲よりも多いと、好ましい酸味が得られず、酢酸の含有比が前記範囲よりも多く、クエン酸の含有比が前記範囲よりも少ないと、むせを十分に抑えることができない。風味が良く、むせをより抑えやすいことから、4:6〜7:3の含有比であることが好ましい。なお酢酸及びクエン酸の含有比は質量比である。上記含有比は、酸性調味料を高速液体クロマトグラフィーに供した結果を、酢酸及びクエン酸標準液を供した結果と比較することで求められる。
【0016】
本発明の酸性調味料が含有する酢酸量は、特に限定されないが、好ましい酸味が得られやすいことから、0.3〜3%が好ましく、0.5〜2.5%がより好ましい。
【0017】
本発明の酸性調味料が含有するクエン酸量は、特に限定されないが、好ましい酸味が得られやすいことから、0.3〜3%が好ましく、0.5〜3%がより好ましい。
【0018】
本発明に用いる酢酸及びクエン酸は、食用のものであれば特に限定されず、由来や濃度がいずれのものも用いることができる。例えば、氷酢酸やクエン酸1水和物等の高純度品、あるいはこれらを含有した醸造酢、果実酢、柑橘果汁等が挙げられる。
【0019】
本発明の酸性調味料の総酸(酢酸換算)は特に限定されないが、1.5〜4.0%であることが好ましい。総酸が前記範囲であると、好ましい酸味が得られやすい。なお総酸(酢酸換算)は、酸性調味料を必要に応じて希釈した後、常法の中和滴定を行い、中和に要した水酸化ナトリウムのモル数に等しいモル数の酢酸の質量として算出される。
【0020】
本発明に用いる酸性調味料は、カラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有し、中でもカラギナンを用いることが好ましい。本発明に用いるカラギナン及び/又はサイリウムシードガムは、食用のものであれば特に限定されない。カラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有しない場合、むせを抑制することができない。カラギナン及び/又はサイリウムシードガムの含有量は特に限定されないが、各々酸性調味料の0.05〜1%を占める量であると使用量に応じた効果が得られやすいことから好ましい。
【0021】
本発明に用いる酸性調味料は、カラギナン及びサイリウムシードガム以外に、さらに増粘剤を含有することが好ましい。本発明に用いるカラギナン及びサイリウムシードガム以外の増粘剤は、食用のものであれば特に限定されない。例えば、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、グアガム等が挙げられる。むせがより抑制されることから、キサンタンガムを用いることが好ましい。カラギナン及びサイリウムシードガム以外の増粘剤の含有量は特に限定されないが、各々酸性調味料の0.05〜1%を占める量であると使用量に応じた効果が得られやすいことから好ましい。
【0022】
本発明の酸性調味料は、むせがより効果的に抑制されることから果糖を含有することが好ましい。本発明に用いる果糖は、食用のものであれば特に限定されず、精製された果糖、あるいは果糖を含有する転化糖、果汁などを適宜含有させるとよい。果糖の含有量は特に限定されないが、酸性調味料の1〜20%を占める量が好ましい。
【0023】
本発明の酸性調味料は、前記の酸性原料、及び増粘剤の他、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、砂糖、食塩、醤油、みりん、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、ゴマペースト、梅肉等の風味原料、酒類、エキス類、油脂類等が挙げられる。油脂類を含有すると酸味を感じにくくなる場合があるため、含有したとしても含有量は5%以下であることが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0024】
本発明の酸性調味料の粘度は、特に限定されず、ゲル状であってもよいが、むせがより効果的に抑制されることから、粘度が1〜30Pa・sの液状であることがより好ましく、1〜10Pa・sの液状であることがさらに好ましい。
【0025】
ここで、酸性調味料の粘度は、当該酸性調味料300mlを300ml容量のトールビーカーに入れて、東機産業(株)製のBL型粘度計で、品温20℃、回転数6rpmの条件で、粘度が20Pa・s未満の場合はローターNo.3、20Pa・s以上の場合はローターNo.4を用い、回転開始から3分経過した時の示度により求めた値である。なお、本発明の酸性調味料が具材等を含有する調味料、あるいは水相の上に油脂を積層する分離タイプの調味料の場合には、当該調味料を容器ごと振って均一にした後に粘度を測定する。
【0026】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用食品は、可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類に、前記酸性調味料が接触しているものである。
【0027】
本発明に用いる、可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類は、特に限定されず、水戻しして用いるものであれば、水戻し後の可食部の水分量が80%以上であれば良く、茹でる等の下処理をして用いるものであれば、下処理後の可食部の水分量が80%以上であれば良い。例えば、野菜類としてはきゅうり、キャベツ、大根、たまねぎ、白菜、トマト、なす、ねぎ、ピーマン、もやし、ニンジン、長いも、おかひじき等及びその調理・加工品、海藻類としては、わかめ、もずく、昆布、ひじき等及びその調理・加工品が挙げられる。水分量が高い食品ほどむせを起こしやすく、本発明の効果を発揮しやすいことから、水分量85%以上であることが好ましく、水分量90%以上であることがより好ましい。
【0028】
本発明に用いる、可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類は、再形成物ではないものがより好ましい。再形成物でない食品は、食品本来の風味や食感、外観を呈するため、酸味のある食品をより好ましい状態で提供できる。また、再形成物でない水分量の高い食品は、むせを起こしやすいため、本発明の効果を発揮しやすい。
【0029】
本発明において、再形成物である食品とは、すり下ろし、すり潰し、粉末化、液化等により均一化処理された後に、寒天、カラギナン等のゲル化剤やゼラチン、卵白等の蛋白質、澱粉等により固体状としたものをいう。例えば、ニンジンゼリーや豆腐、はんぺん、ソーセージ、ハンバーグ、茶碗蒸し、ケーキ、餅等が挙げられる。一方、再形成物ではない食品とは、千切りや微塵切り等の裁断処理又は前記の均一化を施された食品であって、前記裁断処理時又は均一化時以上の大きさの固体となっていないもの、若しくは裁断処理等を施されていない丸ごとの食品をいう。例えば、ニンジンの微塵切り、大根おろし、おにぎり、粥等が挙げられる。
【0030】
本発明に用いる可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類の大きさは、特に限定されないが、具材感や素材が持つ食感を感じやすいことから3mm以上が好ましく、咀嚼・嚥下がより容易になることから15mm以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用食品における、可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類の含有量は、特に限定されないが30〜99%であることが好ましく、更に好ましくは40〜90%である。含有量が前記の範囲であると、むせを抑えながら、具材感や素材が持つ食感を感じやすい。
【0032】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用食品における、前記酸性調味料の含有量は、特に限定されないが1〜30%であることが好ましく、更に好ましくは5〜20%である。含有量が前記の範囲であると、むせを抑えながら、好ましい酸味や外観を呈しやすい。
【0033】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用食品において、前記の野菜類、海藻類、及び酸性調味料の他、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、砂糖、食塩、醤油、みりん、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、大豆油、菜種油等の油脂類、穀類、果物類、きのこ類、魚介類、畜肉類、卵類等の食品、枝豆等の可食部の水分量80%未満の野菜類や海藻類等が挙げられる。
【0034】
本発明の咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法は、可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類に、前記酸性調味料を接触させ、咀嚼・嚥下困難者に食事として提供するものである。
【0035】
本発明において、可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類を前記酸性調味料に接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、前記野菜類及び/又は海藻類と前記酸性調味料とを略均一に混合する方法、皿に盛り付けた前記野菜類及び/又は海藻類の上に前記酸性調味料をかけて接触させる方法、前記野菜類及び/又は海藻類の周囲に添えられた前記酸性調味料を、スプーン等で前記野菜類及び/又は海藻類に接触させながら提供する方法等が挙げられる。前記野菜類及び/又は海藻類と前記酸性調味料とを略均一に混合すると、両者の接触面が広いために本発明の効果が高く発揮されて好ましい。
【0036】
本発明の、咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料の製造方法は、カラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有させ、酢酸及びクエン酸の含有比を2:8〜8:2とする以外は、酸性調味料を常法に則り製造すればよい。
【0037】
本発明の、咀嚼・嚥下困難者用食品の製造方法は、野菜類及び/又は海藻類を、常法に則り下処理及び/又は調理・加工して可食部の水分量80%以上とし、前記酸性調味料と混合する、掛ける等の接触をさせて製造すれば良い。
【実施例】
【0038】
以下に本発明について実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0039】
[実施例1]
原料として、醸造酢(酸度4.5%)15部、クエン酸(一水和物)1.2部、醤油10部、食塩2部、砂糖7部、果糖7部、グルタミン酸ナトリウム0.5部、キサンタンガム0.4部、カラギナン0.1部及び清水56.8部を撹拌しながら80℃まで加熱して溶解し、本発明の咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料1を得た。酸性調味料1の酢酸及びクエン酸の含有比は4:6、総酸(酢酸換算)は1.7%、粘度は1.8Pa・sだった。
【0040】
[試験例1]
大根1000gをおろし金ですり、目開き3.35mmのストレーナーに載せて水気を切り700gの大根おろし(水分量93%)を得た。
大根おろし100gに対して酸性調味料1を20g混合して略均一とし、本発明の咀嚼・嚥下困難者用食品であるおろし和え1を製した。おろし和え1は大根おろしらしい外観を呈し、調製から1時間後も離水は見られなかった。おろし和え1を咀嚼・嚥下困難者用食事として提供すると、非常に好ましい酸味を呈し、むせることなく嚥下された。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、クエン酸(一水和物)1.2部及び清水56.8部を、乳酸(50%水溶液)3.1部及び清水54.9部に変更した以外は、実施例1に準じて酸性調味料2を得た。酸性調味料2の酢酸及び乳酸の含有比は3:7、総酸(酢酸換算)は1.7%、粘度は1.8Pa・sだった。試験例1において、酸性調味料1を酸性調味料2に変更した以外は、試験例1に準じておろし和えを製した。おろし和えを咀嚼・嚥下困難者用食事として提供すると、強い酸味を呈し、むせて嚥下することができなかった。
【0042】
[試験例2]
試験例1の咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法において、酸性調味料の酢酸及びクエン酸の含有比による影響を調査した。実施例1において、醸造酢、クエン酸(一水和物)及び清水の配合量を表1の配合量に変更した以外は、実施例1に準じて酸性調味料を得た。試験例1において、酸性調味料1を試験例2で得られた酸性調味料に変更した以外は、試験例1に準じておろし和えを製した。おろし和えを咀嚼・嚥下困難者用食事として提供した際の評価結果を、実施例1及び試験例1の結果と共に表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、酸性調味料の酢酸及びクエン酸の含有比が2:8〜8:2の範囲の場合、むせることがなく好ましかった(実施例1〜5)。酢酸及びクエン酸の含有比が4:6〜7:3の範囲の場合、非常に好ましい酸味を呈しながら、刺激を感じることもなく非常に好ましい評価結果だった(実施例1、3)。
【0045】
[試験例3]
試験例1の咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法において、酸性調味料が含有する増粘剤の種類及び粘度による影響を調査した。実施例1において、カラギナン及び清水を表2の増粘剤及び配合量に変更した以外は、実施例1に準じて酸性調味料を得た。試験例1において、酸性調味料1を試験例3で得られた酸性調味料に変更した以外は、試験例1に準じておろし和えを製した。おろし和えを咀嚼・嚥下困難者用食事として提供した際の評価結果を、実施例1及び試験例1の結果と共に表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より、カラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有する酸性調味料を用いた場合、むせることがなく好ましかった(実施例1、6〜9)。一方、カラギナン及びサイリウムシードガムのいずれも含有しない場合、むせて好ましくなかった(比較例2)。また、カラギナンを含有する酸性調味料を用いた咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法は、咽への刺激も少なく非常に好ましかった(実施例1、7〜9)。カラギナンを含有し、さらに粘度1〜30Pa・sの範囲である酸性調味料を用いた咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法は、咽への刺激がなくむせることもなく非常に好ましく(実施例1、7〜8)、粘度1〜10Pa・sの範囲の場合、非常に好ましい酸味を呈した(実施例1、6〜7)。
【0048】
[実施例10]
原料として、醸造酢(酸度4.5%)23部、クエン酸(一水和物)0.5部、醤油10部、食塩2部、砂糖14部、グルタミン酸ナトリウム0.5部、カラギナン1.5部及び清水48.5部を撹拌しながら80℃まで加熱して溶解し、本発明の咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料3を得た。酸性調味料3の酢酸及びクエン酸の含有比は7:3、総酸(酢酸換算)は1.5%であり、ゲル状だった。洗って水を切った生もずく200g(水分量96%)を5mmの長さに切り、酸性調味料3を65g混合し、本発明の咀嚼・嚥下困難者用食品であるもずく酢を製した。もずく酢はもずくの存在感ある外観を呈し、調製から30分後も離水は見られなかった。もずく酢を咀嚼・嚥下困難者用食事として提供すると、やや弱いが好ましい酸味を呈し、やや咽に刺激を感じるもののむせることなく嚥下された。
【0049】
[実施例11]
茹でたニンジン61.4部をだし汁31部と共にミキサーにかけた後、ゼラチン1.1部と混合してニンジンゼリーを製した。3cm角にサイコロ切りしたニンジンゼリーに、実施例1で得られた酸性調味料1を6.5部加えて混合して本発明の咀嚼・嚥下困難者用食品であるニンジンの酢の物を得た。ニンジンの酢の物はニンジンらしい外観を呈し、調製から3時間後も離水は見られなかった。ニンジンの酢の物を咀嚼・嚥下困難者用食事として提供すると、ニンジン本来の食感はないものの、非常に好ましい酸味を呈し、むせることなく嚥下された。
【0050】
[実施例12]
1cm幅の輪切りにしたきゅうり(水分量95%)40部と、1.5cm角、0.5cm厚の色紙切りにしたはんぺんとを、実施例1で得られた酸性調味料1を40部加えて混合して本発明の咀嚼・嚥下困難者用食品であるきゅうりの酢の物を得た。きゅうりの酢の物はきゅうりの酢の物らしい外観を呈し、調製から3時間後も離水は見られなかった。きゅうりの酢の物を咀嚼・嚥下困難者用食事として提供すると、非常に好ましい酸味を呈し、むせることなく嚥下された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラギナン及び/又はサイリウムシードガムを含有し、酢酸及びクエン酸の含有比が2:8〜8:2であることを特徴とする咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料。
【請求項2】
粘度が1〜30Pa・sである請求項1記載の咀嚼・嚥下困難者用酸性調味料。
【請求項3】
可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類に、請求項1又は2記載の酸性調味料を接触させた咀嚼・嚥下困難者用食品。
【請求項4】
可食部の水分量80%以上の野菜類及び/又は海藻類に、請求項1又は2記載の酸性調味料を接触させる咀嚼・嚥下困難者用食事の提供方法。


【公開番号】特開2012−34632(P2012−34632A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177977(P2010−177977)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【出願人】(591112371)キユーピー醸造株式会社 (17)
【出願人】(591116036)アヲハタ株式会社 (35)
【Fターム(参考)】